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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6.5章 地底都市アンバーガーデン 〜ヘレンと愉快な仲間達と極寒の地と地底の神秘
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15 懐かしき我が家と故郷

 

「はい! ここが私の実家です!」


「お、おお……」


 お屋敷とまでは行かないが、割と大きな家に驚いているニナ以外の一同。


「もしかしなくてもお金持ちのお嬢様?」


「そんなんじゃないよ。確かにお父さんは治癒魔法術師でまとめ役の役職だけど、大したことないよ」


「いや! それ絶対大したことあるヤツ!」


 実際、こうして幼い頃に過ごした家を目の前にすると、帰ってきたって強く実感する。


 凄い高揚感と共に、ちょっと緊張している自分がいる。


 説得して家を出たとはいえ、まだ一、二年しか修行を積んでいない。


 自分の中で納得できるものができるまでは戻るつもりはなかったのだが、リリアの頼みやあのような悲劇を見ていると、自分のそんなプライドがちっぽけに思えてくる。


 私はこれをバネにもっと飛躍できるように、あえて帰ってきたんたと考えることにした。


「お母さんはいるよね」


 そう呟きながら、玄関をノックする。


「ただいま! お母さん、ヘレンだよ」


 するとドタドタと急足の音が聴こえてくる。


 玄関の扉が開くとそこには、


「あれ? お父さん!?」


「へ、ヘレンか? ヘレンじゃないか!?」


 そこにはくすんだ金髪の細身の男性、ヘレンの父の姿があった。


「お父さん、仕事は?」


「今日は休みを貰っていてね。家でくつろいでいたところだ」


 少し動揺が見られるヘレン父の服装は、確かに普段着のようなラフな格好をしていた。


「そっか。お母さんがいるかと思ってたのに……」


 私はお父さんにハグをした。


「ただいま、お父さん」


「ああ……ああ。おかえり、ヘレン」


 スッと私から離れると、アルビオ君達を不思議そうに見る。


 馴染みのない人達が揃っているからだろう。


 その中で唯一わかっているのが、


「お久しぶりです、おじさん」


「ニナさんだったか、久しぶりだね。えっと……」


「他はみんな初対面だよ」


 もしかしたら紹介されていたかもと目を凝らしたお父さんをクスッと笑った。


「みんな、紹介するね。私のお父さん!」


「ヴェイク・キャナルといいます。娘がお世話になっています」


「い、いえ。こちらこそお世話になってます」


 アルビオ達のヴェイクの初めての印象は、落ち着いた大人な雰囲気の男性。


「お父さんにも紹介するね――」


 そう言って私はアルビオ君達を紹介した。


「――わざわざ東から。長旅だったでしょうに。中で休んでいくといいよ」


「休暇中に申し訳ありません、お邪魔して……」


「いやいや。構わないさ」


 アルビオのしっかりとした対応を先頭に、ヘレンの実家へと招かれた。


 家の中はゆったりとした雰囲気のお部屋。


 技術大陸とまで言われるだけあって、東では見かけないような家具もちらほらと見かける。


「おおっ! 凄いっスね、ヘレンパパ!」


「私達の実家はもっと普通なのに……」


「そんな大したことはないさ」


 そう言いながら、紅茶の用意を進めるヴェイク。


 それを見たユニファーニやルイスは、


「おおっ! 家事もやられるんですね!?」


「あたしの親父はあんなことしないよ。オシャレだねぇ」


「そう? お父さんは割とするよ。ね?」


「ああ、そうだね」


「「ほえー……」」


 これも北大陸の温厚な人柄が為せるものなのかと、感心させられた。


 この世界では、男性が家事をすることはやはり珍しい。


 テーブルを囲む皆に紅茶を運ぶヴェイクに尋ねた。


「お母さんは?」


「今、夕食の買い出しに……あっ」


 しまったとアルビオ達をキョロキョロと見た。


「ヘレン。こんなに客人を連れてくるつもりなら、もう少し早く連絡をくれないと……」


「ごめんなさい。ちょっと色々あって忘れてた」


「ああ、いえ。突然、訪問したこちらが悪いんです」


 するとヴェイクは軽く外出支度を済ませると、


「ちょっと母さんと合流してくる。ヘレン、皆さんにはしっかり休んでいてもらいなさい」


「あ……」


 アルビオの止める間もなく、足早に去っていった。


「しっかりした優しいお父さんですね」


「うん、そうだよ。自慢のお父さんなんだ〜」


「そうだよね。おじさんのだらしないところとか見たことないよ」


「そうなんですか。ほえー……」


 そんな噂をされているヘレン父、ヴェイクだが――、


(――ヘレンが帰って来たぁーーっ!!!!)


 内心、大はしゃぎであったりする。


 やはり可愛い娘が帰ってくるのは、飛び跳ねたいほど嬉しいのだが、穏やかで頼れる大人で通してきたヴェイクは、簡単にはその喜びを身体で表現することはない。


 そんなヴェイクは妻と合流。


「ミレン!」


「! あなた!? どうしたの?」


 ヴェイクは確かに軽い家事は行なうものの、買い出しについてくることはまず無い。


「ヘレンが帰ってきたんだ! 沢山、お友達も連れてさ! 今日は豪勢に頼むよ!」


「……どおりであなたが珍しくはしゃいでいると思った」


 ヴェイクはその一言にハッとなり、コホンと咳き込む。


「ぼ、僕も一緒に見ていこうかな?」


「別にいいわよ。ヘレンが帰って来たなら、今すぐにでも帰りたいくせに……」


 ミレンは、ヴェイクが娘に溺愛していることは知っている。


 赤ん坊の頃なんて、抱っこの仕方を学んでは、離さなかったくらい可愛がっていたのを鮮明に覚えている。


「い、いや。友人達もいると言っただろ? ほら、そういう時間も必要だろ? だから……」


 しどろもどろとソワソワしながら話す姿に、可愛いと思いながら、買い物を進めていくのだった。


 ***


「じゃあ私も帰るわ。さすがにご相伴に預かるわけにはいかないし。また明日ね!」


「うん! バイバーイ!」


 ニナはさすがに家が近いからと帰っていった。


「ヘレンさん、すみません。泊めさせてもらっても大丈夫なんです?」


「大丈夫大丈夫! 何人かは一緒になってもらうけど、平気でしょ?」


「問題なーし!」


「いやぁ、友人の家での外泊は不思議とワクワクしますね」


 そんな空き部屋探索をしていると、玄関の扉が開いた音が聴こえ、


「ただいまー」


「帰ったわよ、ヘレン」


「――おかえり! お母さん!」


 私は階段を駆け降り、そのままお母さんに抱きついた。


「こーら! 危ないじゃない」


「へへ……」


 アルビオ達も二階からそろりと出てきてご挨拶。


「すみません。お邪魔してます」


「あらどうも。この子達がお友達?」


「うん」


「でも、どうして二階から?」


 私はお父さんとお母さんに事情を説明した――。


「――そんなことが……」


 トントンと小気味の良い包丁の音が鳴る中、雰囲気はちょっと落ち込んでいる。


「とりあえず無事で良かった。ニナさんがここに来てたのもそのためか……」


「うん。本当は心配かけたくないから黙ってようとも思ったけど、話しておこうって……」


 遺跡が破壊されたこと、テテュラが魔石化したこと、それらのことを暗躍している組織がいること。


 父と母ならば他言はしないだろうと語った。


 それに父ヴェイクの場合は、協力者にもなりうる。


「そうか。話してくれてありがとうな、ヘレン。そういうことなら、是非うちに泊まっていくといい」


「ありがとうございます」


「それでヘレン? 劇団の方はどうなの?」


 料理を作りながら落ち着いた様子で尋ねるミレンに、ヘレンは嬉しそうに語る。


「凄いんだよ! お母さん! 色んなところに行っちゃったんだ、私! あのね――」


 私は旅先での話は勿論、役者として色んな役を演じて、感じたこと、学んだことを両親に話した。


 その楽しそうに話す娘を見て、両親もまた楽しそうに娘を眺めている。


 そして――、


「――だからさ、改めて……送り出してくれてありがとう。今こうしていられるのもお父さんとお母さんのおかげだと思ってる。これからもいっぱいわがまま言うし、心配もかけるけど、見守ってて欲しいな」


 その言葉を聞いたヴェイクは、これまた落ち着いたため息を吐くと、


「我が子のわがままに向き合うのが、親の務めみたいなものだ。後悔のないようにやりなさい」


「――うん! ありがとう、お父さん!」


 そのヴェイクの様子にミレンはクスッと笑うと、こう思ったという。


(本当なら号泣したいでしょうに……)


 その予感が的中したのか、ヴェイクはスクッと素早く立ち上がる。


「お父さん?」


「ちょっと手洗いに言ってくるよ」


 そう言うと部屋を後にした。


「フフ……」


「? どうしたの? お母さん?」


「なんでもないわよ。ほら、もうすぐ出来るから、持っていって……」


「?」


「まあまあ。可愛い娘の成長を喜ぶパピーをそっとしておこうよ」


「パ、パピーって……」


 ユニファーニは勘づいたようで、不思議そうにしているヘレンの肩に手を回した。


「ははは……」


 ヘレン以外はほとんど勘づいていた。


 そしてその豪勢な食事を囲みながら、ヘレンは自分の実家を拠点とした滞在計画を話す。


「私の人脈を利用して、色々アンバーガーデンを案内しながら、探していこう。当てもそこそこあるからね」


「しかし、君は勇者の御子息だったとは、これは失礼したね」


「いえいえ! 僕ではなく、勇者が凄いのであって……」


「精霊のことを研究している機関があるはずだよ。私の紹介状を書いておけば、通るだろう」


「あ、ありがとうございます!」


 ここで行われている精霊の研究というものが、何かまではわからないが、行く価値はあるだろう。


 だがそれを見越されたのか、


「とはいえ、精霊に関しては君の方が詳しいだろうね」


「そんなことはありません。それにここでも勇者の話はあるんですよね?」


「そうだね」


「だったら、精霊達ともっと通じ合う方法があるかもしれない。僕にとっては大切なことなんです」


 ここは東の実家と同じくらい、勇者の伝承を残している大陸。


 あの汽車がその証拠だ。


 得られるものはあると考えるには、十分な状況証拠だろう。


「君達も。私にできることがあるなら、なんでも訊いてくれ」


「ふおおっ!! 本当にいいお父さんですね!」


「まあね!」


 ふふんと誇らしげなヘレンを見て、ヴェイクも内心、大喜び。


 するとミレンの悪戯心が発動。


「こう見えても結構、必死なのよ。娘の前では格好もつけたいからね」


「こ、こら。ミレン!?」


「そうなんです?」


「そうよ。ヘレンが旅立った頃なんか――」


「ああーーっ!! よ、余計なことを話すな!? ミレン!?」


 珍しく取り乱す父を見て、キョトンとするヘレン。


 ハッとなったヴェイクは、コホンと平静を保つように、スススと席に座った。


「フフ……」


 ヘレンは思わずその様子に笑うと、ヴェイクはショックを受ける。


(ガーン!! わ、笑われた! ダメな父だと思われたか!?)


 内心、酷く動揺するヴェイクだが、


「なんか安心した」


「へ?」


「お父さんにもそんなところがあるんだって、嬉しくなっちゃった」


 嫌われてないどころか好感触な様子に、安堵するヴェイクだった。


「そりゃあそうだよ。さすがにリリアちゃんのお父さんみたいだと、ドン引きだけど……」


「あはは……あれはね」


 北大陸に向かう前の船着場で遭遇したリリアのご両親。


 確かにあそこまで溺愛されるとと苦笑いを浮かべるヘレンに、ヴェイクは考える。


(ど、どこまで心配しても引かれないんだ? なあ? どこまでだ?)


 正直、このお父さんもリリア父、ガルヴァに負けず劣らずの溺愛っぷり。


 旅立った娘をカッコ良く見送ったヴェイクは、しばらくの間、枕を涙で濡らし続け、不眠の日々が続いたり、職場では娘自慢が娘の心配の小言に変わったりと、ヘレンの知らぬ間に結構なダメダメお父さんだったりする。


 それを一番理解しているミレンは、


「はいはい、お話はそこまで。ヘレン、食べ終わったら折角だし、あそこへ行ってきたらどう?」


 ヴェイクの内心の動揺を抑えると同時に、ある提案をする。


「いいね! 行こうか!」


「「「「「?」」」」」


 私達は食事を終えると、どこに行くつもりなのかわからないみんなを連れて、とっておきの場所へと向かった。


 そこは――、


「こ、これは……」


 ここ居住区に建てられている周りの景観をぶち壊す和風な建物が目の前に存在している。


 そんな異文化の建物を前に呆然としている一同に、私は宣言する。


「ここは温泉だよ! あの勇者様も愛してやまないというお風呂だよ!」


「お、お風呂!? ここが……」


「ていうか温泉って何?」


 お風呂はわかるが、温泉の浸透率はない世界。


「この地中から湯が湧き出る場所があってね。その湯に浸かると色々と効能があるんだよ」


「ここに効能が書かれてますね。何々……」


 アルビオはその入り口前にある大きな看板を見た。


「すり傷回復、疲労回復、肩こり解消、美肌効果、血圧改善……色々と効果があるんですね」


「アルビオさん」


 アルビオの真後ろに立ち、真剣な眼差しで尋ねる。


「うおっ!? 何かな? ルイス……」


「美肌効果があると?」


「か、書かれてますね……」


 女性陣は、一気に活気づいた。


「これは入らねばいけませんね!」


「そうだね。行こう!!」


「おおーっ!!」


「「……」」


 女性陣の勢いに押されて、呆然とする二人。


「じゃあ、あっちが男湯だから。また後で合流ってことで……」


「えっ!? ちょっと……」


 私はテンションが高い彼女らを追いかけていった。


「と、とりあえず行ってみますか? タナカさん」


「そ、そうですね」


 勝手もわからないが、行けばわかるだろうと、ヘレンに言われた男湯の暖簾(のれん)をくぐっていった。


 ***


「おおっ! 広いですねぇ」


 基本、石造りの建物が多いアンバーガーデンだが、ここは和風という造りというだけあって、木が使われている。


 脱衣所も走り回れるほどの広さを誇るが、結構人がいる。


「それにしてもこんな施設があるなんてね」


「アンバーガーデンならあちらこちらにあるよ、この大浴場。勇者様が温泉好きでね、色んなところで楽しめるようにって建設されたらしいの」


「「へえー……」」


「ではあちらこちらから湯が噴き出ると?」


「そうでもないみたい。大精霊様に作ってもらった温泉もあるらしいよ」


 ちなみにここは天然温泉である。


「精霊が作った温泉かぁ。凄い効果が期待できそう!」


「そうだね」


「…………」


「えっ? なに?」


 ルイスはヘレンの裸を見て、ジッと目を細めて睨む。


「すべすべお肌にお胸も大きいですね。ヘレンさんはこの温泉には良く?」


「まあ、お家から近いしね。よく通った――」


「こうしちゃ要られません! すぐにでも湯に浸かりましょう!」


「「おおーーっ!!」」


「えっ!? ちょっと待って!」


 子供みたいにはしゃぐ三人はガラッと扉を開くと、モクモクと湯気が立ち上っている。


「「「おおーーっ!!」」」


「もう! 待ってってばっ!」


 三人はこの物珍しい光景を眺める。


 バッと広がるように、転々と濁ったお湯に浸かる客で溢れている。


 中には滝のように湯が落ちていたり、大壺の中に湯が溜め込まれていたり、ブクブクと気泡を出すお風呂など、色んな湯が楽しめるようになっている。


「これ、全部お風呂ですか!?」


「そうだけど、入る前にマナーがあるから!」


「決まりがあるんですか?」


 私は用意されているかけ湯スペースへと足を運び、かけ湯をした。


「先ずはここでかけ湯をするの」


「こう……ですか?」


 ルイスは手桶でお湯を(すく)い、身体にかける。


「――熱っ!?」


「そうだね。ちょっと熱くない?」


「こんなもんだよ。しっかりかけ湯して身体の汚れを落としてから湯船に浸かるの」


「でも何でそんなこと知ってるの?」


「うーん。私はお母さんに教えてもらったけど、観光で来てる人には、さっきの受付でマナー本をもらえるよ。勇者様監修のヤツらしい」


「そういえばなんか貰ったね」


 番台の受付から薄い本を手渡されたが、この独自の世界観に興奮して、完全に飛んでいた。


「ちなみにかけ湯をする理由としては、温泉を汚さないためだって。他にも泳がない、浴槽の中で身体を洗わない、タオルや髪を湯に浸けないとか……」


「うう……面倒くさいですね」


 早く入りたいとむすっとした顔をするが、


「ダーメ! ここは見てわかる通り、公共の場だよ。他の人に迷惑になる行為は基本、禁止。貴女達だって安全安心に温泉を楽しみたいでしょ? そのためには必要なマナーだよ」


 ヘレンは聞かん坊の娘を説得する母親みたいになっている。


「でもそうだね。ちゃんと守ろ」


 三人はヘレンと同じように、しっかりと身体に湯を浴びせ、いざ濁り湯の中へ。


「あの……これ、入って大丈夫なんです?」


 ちらりと他の人を見ても、気持ち良さそうに入ってはいるのだが、こんな濁ったお湯に入るのは些か抵抗がある。


 ルイスは足のつま先をツンと水面につける。


「大丈夫だよ」


 私はそんなルイス達に気にすることなく、湯船に浸かり始める。


 ゆっくりと腰を下ろし、じっくりとこの熱に身体を馴染ませていく。


「はあ〜〜……」


 思わず、幸せのため息が漏れ出る。


 この硫黄の香り、身体の芯から温まっていく感覚、そして空を見上げると、太陽と月(サンライト・ムーン)が儚く輝きを放つ風景が広がる。


 時間的にも夜のため、すっかり暮れた姿を見せるアンバーガーデンの擬似月光。


 正に月見風呂――いや、擬似月見風呂とでも言うべきか。


 そんな幸せそうなヘレンを見て、三人も意を決して入っていくと、


「はわあ〜!」


「おおっ!?」


「凄いですね! 普通のお風呂とはなんかこう……違う気がします!」


 三人とも満足なご様子にほっこり。


「ああっ! 気持ちいいーっ! ちょっと熱めなのも、またいいね」


「そうだね。シド君達も楽しんでるかな?」


「どうでしょうね? 存外、このお湯にビビっているかも」


「それはアンタでしょうが」


「ユニファーニさんだって、最初は……」


 賑やかに揉め合う二人を眺めながら、ミルアはすすっとヘレンの元へ。


「ありがとう。こんな素敵なところを紹介してくれて……」


「ふふ。そうでしょ? ゆっくりと温泉に浸かりながら、この景色を眺めて疲れを癒す。最高でしょ?」


 揉みあっていた二人もその天井に輝く太陽と月(サンライト・ムーン)を見ると、何かに気付いたのか、焦った様子で忠告する。


「あれ!? これ、外から覗かれるじゃないですか!?」


「「えっ!?」」


 思わずユニファーニとミルアも身体を隠して立ち上がる。


「大丈夫だよ。この上はこっちから透けて見えるだげで、外からは見えなくなってるんだよ」


 所謂(いわゆる)、マジックミラーである。


「そ、そうなの?」


「そうだよ。それに覗きや盗撮対策はちゃんとされてるよ」


 三人は周りの様子も判断材料にし、もう一度浸かり直した。


「もう! びっくりした」


「仕方ないじゃないですか。アルビオさん以外の殿方に裸は見られたくありません」


「アルビオ君はいいんだ……」


「悩殺できる身体じゃないんだから諦めな。ヘレンちゃんくらい、セクシーでないとね」


 ニヒッと悪戯心を見せる笑みを浮かべたが、本人はあまり自覚がない。


「そう? 普通じゃない?」


「「「普通じゃない!!」」」


 あまり女性としての発育に遅れのある三人は、あどけなさが残る童顔、月光が輝きを与える銀髪、低身長からのバランスの取れたプロポーション、絹のように透き通る肌の所有者のヘレンにツッコむ。


「ええっ!? 普通だよ。劇団にはもっとスラっとした綺麗で美人の人なんて大勢いたよ!」


「あー……そりゃあ、基準が違えばねぇ……」


 ヘレンは決して美に対し、無頓着ではない。むしろかなり気を使っているのだろうと納得する。


「それにしても、やっぱり凄い技術ですね」


「ホントだね。太陽みたいに明るいかと思ったら、今度は月みたいに淡い光を放ってくれる」


「でも技術の凄さで言ったら、ここもそうだよ。こんなレジャースポットは初めて」


「改めて勇者って何者なんですかね?」


 汽車の件やこの温泉のことを考えれば、発想力があり、博識な人物像が浮かぶが、色々暴れていた逸話が残されているため、しっくりこない。


「さあね」


「そもそもの話をしていいですか?」


「何? ルイスちゃん」


「どうして東と北で、こんなに差が出るわけ?」


 その疑問はごもっとも。


 勇者は両大陸に限らず、色んなところに顔を出していた。


 その中で異世界の知識が存分に振るえるというものだが、その知識には偏りを感じる。


「多分、資源、環境、お金の問題かな? 北大陸は魔脈の影響もあってか、資源とお金には困らない環境が作られてるからだと思うよ」


 お陰で北大陸は、豊かな観光スポットとなっていたりする。


 ユニファーニはそれを羨むように、ため息を吐く。


「そっかぁ。そりゃあこれだけ平和に幸せに暮らせれば最高だよね」


 みんな、太陽と月(サンライト・ムーン)を見てそう語るが、


「それでも、外の世界には憧れたよ」


 私はニッと嬉しそうに笑った。


 人工魔石である太陽と月(サンライト・ムーン)の慣れ親しんだ光も好きだが、外の本物にも感動した。


「憧れるかなぁ?」


「憧れるよ。誰もが一度は窮屈に感じるもの」


 いくら人に必要な光を作り出せたとしても、本物には勝てなかった。


 でもそれぞれの良し悪しがわかる。


 だからヘレンはこの故郷を好きでいられる。


「まあわからなくはないですよ、私は。地底の雰囲気は出てますからね」


「まあそれでも好きだよ。やっぱり生まれ故郷だから! 明日からいーっぱい案内するからね!」


 三人は嬉しそうに微笑むが、ミルアは少し表情を落とした。


「できれば、テテュラさんも一緒だったら良かったんだけど……」


「あの状態なら仕方ないよ。だからさ、テテュラさんが元に戻ったら、リリア達も一緒に……今度はしっかり観光しよ!」


「うん。そうだね」


 リリアの話が出てきたのでルイスが尋ねる。


「そういえば西大陸(あっち)はどうなんでしょう?」


「どうなんだろうね。クルシアって人の陰謀を止めるために向かったんでしょ? 少なくとも、私達みたいにのんびりした旅路ではないでしょうね」


「なんだか悪い気がしてきた……」


 罪悪感に駆られると少し落ち込むミルアだが、ポンッと肩を叩く。


「私達には私達のできることがあるよ。さっきも言ったでしょ?」


「そうですよ! ミルアさん! 我々はこの北大陸を探検もとい観光することで、強くなるんです!」


「……あんた、楽しむ気満々じゃない。色んな技術や知識を身につけようって魂胆でしょうが!」


「だから観光なんですよ」


 不純だなと笑い合う。


「……私達がどこまで力になれるかはわからないよ」


 そう黄昏て思うのは、バザガジールとの死闘。


 いくら自分が努力しても到達し得ない領域を目の当たりにしている。


「だけど、自分達で限界を決めちゃダメなんだよ。力になりたい人達を想うなら……」


「そうですね! 私は光属性ですし、やれることはやれるはずです!」


「わ、私も! テテュラさんを救える何かを見つけたい!」


「まあ、あたしはそこそこに頑張るよ」


「ユファ!」

「ユニファーニさん!」


「は、ははは……」


 協調性がないなと詰め寄る二人だが、


「それでもいいんじゃない?」


「「え?」」


「頑張り方なんて人それぞれだよ。強要するものじゃないって……」


「ほらね! そんなもんだよ……」


「ただ、差は開くだろうけどね」


 悪戯心を込めた一言にウインクを添えると、ユニファーニはギョッとした。


 すると開き直ったのか、ふいっとそっぽを向いた。


「ふーんだ。あたしはあたしだもーん」


 こんな楽しい夜を今度はみんなで楽しむために、今は英気を養うのであった。

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