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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6.5章 地底都市アンバーガーデン 〜ヘレンと愉快な仲間達と極寒の地と地底の神秘
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13 見えぬ陰謀

 

「ったく、人ひとり連れて来んのにどれだけ時間かかってんだ」


 待ちくたびれたとばかりに不機嫌そうに話すこの人が、ヴァートが怯えている人だろうかと見てみると、ブルブルとサドラの後ろで震えている。


「久しぶりにあったと思えば、相変わらずだな!」


「お、お久しぶりです……」


 高圧的な態度のサルドリアが苦手な様子。


 まあ対照的なのは見て取れる。相性が悪そうだ。


「何でそんなに怖がってんだよぉ、ああっ!!」


「――ひいっ!?」


「まあまあ……」


 ヴァートの怯えた態度に苛立ちを隠せないサルドリア。


 まあ会って早々、そんな態度取られれば苛立ちもするよね。


 でもそんなに怯えるほど、怖い人には見えないが……。


 ひそっとサドラさんに尋ねる。


「あの……そんなに怖がるような人には見えないんですけど……」


 ガミガミとヴァートに当たり散らす姿を見ながら問うのはアレかと思ったが、嫌悪感を持って怒鳴る感じではなかった。


「ああ……ここまで旅を同伴してきたならわかると思うけど、彼、臆病だし、人見知りだし、卑屈な性格でしょ?」


「まあ、はい……」


 それを肯定するのは如何程(いかほど)とも考えたが、フォローできるほど勇敢なところもなかったので頷いた。


「純粋に苦手なんですよ、サルドリアのこと。ヴァートは昔から圧の強い人にはね」


「でも、あそこまで怯えなくても……」


「ああー……酒が入った時にちょっとね……」


 サドラは気不味そうに頬をかいた。


 その発言にある程度、察しがついた一同はこれ以上の追求をやめた。


 何かしらの心の傷(トラウマ)を植え付けられたのだろう。


 そんなに怖がられると世間話もできないと、仕事の話ならできるだろうと切り出す。


「ったく……。それで? 例の奴は……?」


 ちらっと視線を向けたのは、違和感のある行動をしている騎士達。


 何かを二人で持っているような仕草だ。


「それ、隠してるように見えないぞ」


「ごもっともな意見ではあるが、彼女を運び出すためにはやむを得ぬのだ」


 テテュラは魔道具の布を被せられ、透明な状態で運ばれたのだ。


 できる限り違和感のないように運んだつもりだが、どうにも上手くいかなかったよう。


「テテュラさんの身体は繊細ですからね」


「あのさ、そろそろ教えてくれない?」


 ニナが小首を傾げて尋ねると、


「とりあえず中な。入りな」


 サルドリアは事情を察して、中へと通された。


 部屋の中は、研究機関に所属する人間というだけあって、至る所に書類や物が散乱しているが、テテュラの事情を事前に軽く知っていたのか、人ひとり分の寝かせるスペースがあった。


 サルドリアはその机をポンポンと叩き、騎士達はそっとテテュラを置いた。


「不便をかけて申し訳ない、テテュラ殿」


 そう言ってアライスは、ふぁさっと布を取った。


「いえ。こちらこそ……」


「「「!?」」」


 テテュラの姿を初めてみた一同は、驚愕の表情を浮かべる。


 明らかに人肌ではない色合いに、所々にはヒビが入っている。特に目元や口元といった動かすところに関して特に酷い。


 サルドリアとサドラは、観察するようにジッと見るが、ニナに関しては後退りを始めた。


「ヘ、ヘレン……これは?」


「……私も最初見た時は、同じ反応をしたよ。人がこんな姿になるなんてって……」


「驚かせてごめんなさいね」


「い、いえ……」


 ニナはことの重大さを改めて痛感した。エルフ、獣人といった亜人種とかではない。


 その見た目から見れば、何かの病気にしか見えない。


 だが不思議と生気や魔力を感じるあたり、これは人なんだとしっかり伝わってくる。


「おい、ヴァート」


「は、はい!」


「お前の資料は見せてもらったよ。確かにこれは私達の専門でありながら、生物学の連中にも話を通しておけってのは納得だ」


 そう言いながら、サルドリアはテテュラの目や口などの動向の差異や反応を見ているようだ。


 医学の心得もあるようで、優秀さが(うかが)える。


「しかし驚きです。肌質は人間のものではなく、ざらついた感じではありますが、体温はほんのりと感じますね」


「う、うん。少しずつだけど体温も上がってるのを確認してるよ。ただ常人ほどではないけど……」


「だろうな。おい、サドラ」


「わかってる。今、用意するよ」


「ヴァートはラミアを呼んでこい」


「ぼ、僕にお使いさせる気――」


「行ってこい!」


「――は、はいぃ!?」


 一人を除き、サルドリアとサドラはテテュラの状態に怯むことなく、テキパキと調査の準備を進める。


「あ、あの、私達は……」


「ある程度、事情は聞いてるがもう少し詳しく知りたい。誰か知ってるか? この女がこんな風になった経緯を知ってる奴」


 テテュラがこんな状態になったのを一部始終確認しているのは、西大陸に向かったリリア達だ。


 本来であれば、ここでリリアが詳しい情報を提供できたはずだが、その当人はいない。


 なので、


「途中からでいいなら、お話できます」


「黒髪……あんたか、勇者の御子息様ってのは……」


「へえ。君、勇者様の血筋の方なんです?」


「は、はい」


「まあいい。とりあえず説明してくれ」


「僕が起きた時は既にテテュラさんは魔物化していました。リリアさんのアイデアでテテュラを引っ張りだしたら、そんな姿に……」


「うーん。それだけだとわからんな」


「だけど魔物化?」


 するとテテュラが口を開く。


「ドクターという男が作った人工魔石による副作用で魔物化したのよ。どんな魔物になるかはわからず、私の場合はヴェノムの変異種になったわ」


「ま、魔物化……?」


 ニナは信じられないと、酷く困惑した表情を見せる。


「ちょっとさ、ニナちゃん具合悪そうだし、外の空気吸ってきてもいい?」


「無論だ。大丈夫か? 見てあげてくれ」


 アライスは付き添うよう部下に指示を出すが、


「私達は例の遺跡の研究室に行ってきてもいいかな? ここにいてもわからないことだらけみたいだし……」


「そうだな。場所はわかるのかね、ニナ殿」


 こくりとゆっくり頷いた。事前にもらった案内状の中に、場所も記されていた。


「一応、僕が案内しようか?」


「いえ、サドラさんはお忙しくなりそうですので、お構いなく。とはいえ、大勢で押しかけるのもアレですし、テテュラさんを見ている人も必要でしょう」


「……私は別に構わないわよ」


 ルイスの意見に少し照れ臭さを感じたテテュラは、嬉しそうに否定した。


「なら、僕が残りましょう。テテュラさんを引っ張り上げたところは確認してますし……」


「アルビオさんが残るなら、私も残ります!」


「何でそうなんのよ! あんたはあの事件の時、寝てただけでしょうが! 資料探しなんて面倒臭いこと、人数がいるんだから来なさい!」


 ユニファーニが、アルビオにしがみつくルイスを剥がそうと引っ張る。


「いーやーだぁ!! そんなところに行くくらいなら、アルビオさんといたいですぅ!!」


「遊びじゃないんだから、ルイスは向こうに行ってくれないかな?」


「ガーン!」


 アルビオの方から、パッと離されてしまったルイスは、そのままユニファーニに引きずられる。


「やだやだやだやだやぁだあーっ!!」


「ガキか!? あんたは……」


「お、お騒がせしました……」


「し、失礼しまーす」


 シドニエとミルアが申し訳なさそうに謝り、パタンと扉が閉じられた。


「賑やかでしたね」


「うるせぇだけだったよ。それより準備は?」


「あーはいはい」


 そんな賑やかにサルドリアの研究室を後にしたヘレン達は、ルブルスの案内状にある研究室に向かう。


 その道すがら、とぼとぼと歩くニナが尋ねる。


「あんなことが……あっていいの?」


「良いわけありませんよ。だから、僕達はここに来たんです」


「正確にはリリアとアルビオ君だけのはずだったんだけどね」


「そ、そりゃあそうだけど、それを言ったらヘレンちゃんだって……」


 予定外にシドニエ達までテテュラの事情を知ることになった。


「どうしたらあんなことに……」


 テテュラを見てしまったニナに、知りうることだけを説明した――。


「――そんなことが……」


「うん。これがリリアから訊いた全容。訊いただけだから実感は湧きづらかったけど、テテュラさんを見てどれだけ大変なことなのか……伝わってきた」


 私も初めてテテュラさんに会った時、酷く動揺した。だけど、


「リリアは……ううん。西大陸に向かったみんなは、テテュラさんみたいな被害者がこれ以上出ないようにするために、クルシアって奴の悪事を止めに向かったの」


 リュッカちゃん達も守りたいし、テテュラさんみたいな人間も出さない。


 側にいて力になりたいと、望んだリリアの背中を押したのはその強い意志を感じたから。


 だから私はここにいる。


「そしてあの雪原に現れた殺人鬼さんはその彼の仲間……」


「!?」


「テテュラさんをあんな風にした奴だよ。きっと悪いことをしようとしてるに違いない」


 するとシドニエ達もクルシアに対し、意見を述べる。


「あの人は本当に危険だと思います……」


「うん。アイツはヤバかったね」


「あれは本当に恐ろしい人です」


「はい。ハセンさんというギルドマスターさんのお話ですと――」


 ルイスは本来黙ってなくてはいけない情報を二人に話した――。


「「……」」


「ま、まあそんな反応になりますよね」


「いいのルイス? 話しちゃっても……」


「皆さんが黙っていれば問題ありません! それにあのバザガジールという男と接触したんです。知っておいた方が後々のためでしょう」


 リリアの覚悟を見たヘレンですら驚きを隠せないでいた。


「魔人事件に、国を揺るがすほどの事件って……ヘレン!」


「な、なに!?」


「そんなのと関わって大丈夫なの? あのバザガジールって人を見ても、とんでもないことに巻き込まれてるって思ってたけど……ねえ?」


 心配になる気持ちは痛いほどわかる。


 テテュラのあの姿と今の話を訊けば、不安にならない方がおかしいだろう。


「大丈夫だよ。だからリリア……黒炎の魔術師が向かったんだよ。今頃、けちょんけちょんだよ!」


 根拠のない発言ではあったが、ヘレンらしい励ましだと笑ってくれた。


「まあ、倒しててくれれば、今から向かう場所での情報も徒労に終わるんだけどね……」


「行こう。原初の魔人について調べてる手掛かりを探しに!」


 簡単に不安は取り除かれないが、できることをして行こうと、さっきとは違うしっかりとした足取りで向かった。


 ***


 サルドリア達の部屋が用意されていた別棟まで移動しているヘレン一行。


 ここ第七区は、学校から研究機関まで様々なことに取り組んでいる。


 ジャンル分けがされており、サルドリア達の魔法学専門棟から離れた、歴史学を専門とする区域を歩く。


「ここら辺は綺麗ですね」


「そうだね。サルドリアさん達のところ、何か壁が破損とかしてたしね……」


 そう怖がって話すシドニエの言う通り、魔法に関して総合的に研究を行うだけあって、実験跡が建物に様々な傷跡が残っていた。


「まあ考古学者と魔法学の研究者って、どっちがまともそうって訊かれると、こっちの方がまともに思えない?」


 私が考古学棟(ここ)を指差して尋ねると、一同も同意した様子で苦笑いを浮かべた。


「あっ、ここだね」


 ニナがメモを確認し、扉をノックする。


「ごめんください。ルブルス調査隊のニナです」


 奥からパタパタと小走りする足音が聴こえると、静かに扉が開いた。


「はい」


「えっと、ルブルス調査隊のニナですけど、ユークさんはこちらですか?」


「あ、はい。私がユークですよ」


 艶のある栗色の丸っとした髪型が特徴の学者を思わせる落ち着いた服装の青年が迎えいれてくれた。


「ルブルスさんにはお世話になってますが……」


 ユークは目の前にいるヘレン達から、視線を後ろの方へ向けて軽く確認する。


「えっと、他の調査隊の方は?」


 顔見知りがあまりいないと尋ねる。


 ルブルス調査隊の……なんて言うから使いなのはわかるが、それでも大人ひとりも姿を見かけないのは変だと思ったのだろう。


「事情がありまして……これを」


 渡したのは案内状。裏面にはルブルス直筆のサインもあった。


 ユークはそれを開いて、中にある書状を確認すると、


「!」


 ショックを受けた様子で青ざめていくと、ちらっとニナ達を見る。


 詳しい事情は彼女らから聞けと言われているようで、


「詳しい話は中でしようか?」


 そう言うと私達を中へ通し、事情を知ることとなる。


「――そうか。そんなことが……」


 遺跡が破壊されてしまったことに、強くショックを受けたユークは髪をかき回す。


 私達はバザガジールの名を伏せて、ほとんどその通りに事情を説明した。


「それでなんですけど、その殺人鬼を差し向けていた黒幕がなんでも原初の魔人について調べていたようで……」


「……なるほど。だから私のところに……しかし、ここの碑文から読み解く内容は、原初の魔人と人が交流があったことが記実されているだけで、居場所がわかるような内容ではないよ」


 そう言って一部の資料をテーブルに広げて見せてくれた。


 覗き込むように見る私達からすれば、ちんぷんかんぷん。


 眉間にシワを寄せて、頭を悩ませて唸るだけであった。


「あのその殺人鬼さんには連れがいたんです」


「連れ?」


「はい。獣人の連れがいたとか……彼女が調べている手伝いだとか……」


 断片的な内容であるにも関わらず、ユークが考えていると、ふと思い立つことがあった。


「その獣人……碑文や遺物からインスピレーションをキャッチできる能力でもあるんじゃないだろうか……」


「そんな都合の良い魔法があるんですか?」


「いや、魔法じゃない。所謂(いわゆる)第六感みたいな能力だ。おそらくその獣人は歴史的遺産から感覚的に情報を得る能力に特化してるんだと思う」


「才能ってやつですか……」


「そうなるね。私達、考古学者でもそういう直感力を持ってはいるが、獣人となると話が変わってくる。元々獣人は気配などに敏感だ。下手をすればこの碑文を見ただけで、当時の情景が頭の中に映し出されるのではないだろうか」


「ほえー……」


 ユークの話が本当ならば、姿を消したバザガジールとリュエルは既に原初の魔人の情報を得たことになる。


「感心してる場合じゃないよ! その話が本当なら、原初の魔人を見つけてるかも……」


 するとユークが軽く首を横に振り、否定する。


「その可能性は低いんじゃないかな?」


「何故、そう言い切れるんです?」


「仮にこの碑文や遺物から原初の魔人の情景が浮かんだとしても、それはその魔人が好きな情景が浮かぶだけで、場所には直結しないんじゃないかな? それにそもそもの話をすると、原初の魔人の生存は確認されていない。居たとしても、今まで見つからなかったものが、急に見つかるとも考えづらい」


「た、確かにそうかもだけど……」


 ヘレンは歯切れの悪い返事をする。


 その理由としては、テテュラのあの姿やバザガジールの強さを垣間見ることで、そのあたりの悪条件も簡単に跳ね除けるのではないかという不安が付き(まと)う。


 その不安そうな表情を見たユークは、


「そうだね、軽率な判断かもしれない。私はあの遺跡を破壊した現場を目撃していない。強い危機感が君達を不安に駆り立てているのだろうね」


 こう言うと、隣の部屋にいる数名の学者に声をかけた。


「今、あの遺跡の資料の全てを君達に見せるよ。存分に調べていくといい」


「ほ、本当ですか!? ありがとうございます!」


 ニナは別の意味でも嬉しかったようで、スッキリとした笑顔でお礼を言うが、その傍らでは、


「やっぱりか……」


「沢山あるんでしょうね。憂鬱(ゆううつ)です」


「こ、こら。二人とも……」


 このテーブルに並んだ資料だけでも、興味なんて微塵も湧かないのにと、文句を垂れ流すユニファーニとルイスの意見に対して提案する。


「まあそうですね。資料は多いので、口外や下手に資料を広めないのでしたら、コピーを取っていかれても大丈夫ですよ」


「コ、コピーだなんて、悪いですよ」


 魔法陣に術式を刻んで使ってやれば、一気にコピーしてくれるだろうが、貴重な資料をそんな扱いをするのはと否定する。


 だがユークは案内状を見せながら、微笑んだ。


「いや、実は案内状に書かれていてね。書き殴った文字で極力協力してやってほしいとのことだよ」


 ルブルスの悔しそうな顔が目に浮かぶよと苦笑い。


 だが悔しいのはユークも同じはず。だから協力してくれるのだろう。


「……ありがとうございます」


 さっそくその準備に取り掛かるユークに、せっかくなので質問してみることに。


「ユークさんはどこまで原初の魔人について知っていますか?」


 今から貰う資料は原初の魔人に関する情報だ。


 少なくとも一般的な知識よりは長けているだろう。


「そうだね。原初の魔人は全員で三人。龍神王、獣神王、妖精王とされている。ここまではわかるだろ?」


「はい。後は普通の魔人とは違い、長い年月をかけて魔力を蓄積し、ほぼ人間に近い知性と理性を身につけたとか……」


「おっ! その通りだよ。よく調べてるね」


「まあこれくらいなら……」


 テヘヘと照れるニナの一方で、そもそもの質問を投げかけるユニファーニ。


「あのさ、普通の魔人と原初の魔人ってどう違うの? 長生きしてるだけの差じゃないの?」


 その質問にはちょっと困った表情を見せたユーク。


「その通りではあるけど、大きく違うのは体内にある魔力と魔石の質だよ。それによって能力の振り幅が桁違いなんだよ」


 汚れている魔力よりは(よど)みのない魔力の方が浸透率は高いだろう。


「ですが、魔人の生存は確認されていないのですよね? なのにわかるんですか?」


 ルイスの意見に言われてみればと納得する。


 そう言われているから納得していたが、そもそも発見例がないのに、そこがわかっているのは違和感でしかない。


 通常の魔人なら、マンドラゴラでなくても確認例はあるのだが……。


「今現在、確認できないのであって、大昔に確認されていたそうだよ。それにさっきも言ったけど、この碑文からは人との接触の記録がある。これだけでも理性があると推測も可能だ。遺跡として残されているのであれば、人間とも温厚な関係にあったはずだ」


 読み解けた部分だけの話ではあるがと補足をつけられたが、言われてみればと納得できる。


「そこからユークさんの考える、黒幕さんは原初の魔人を見つけて何をするつもりだと思います?」


「うーん……」


 考えてみるが、検討もつかない様子。


 仮に原初の魔人が諸説にある通りだと仮定する。


 そんな強い力を持ち、理性的で知性的な魔人を相手に言いくるめたり、対等に戦うことは難しいのではないか。


 そもそも利用しようと企んでも、原初の魔人は推定ではあるが、数千年は生きているだろう。


 たかだか十数年生きている人間にどうこうされるものなのだろうか? それとも頭が固くなり過ぎて、逆に利用される?


 だが、具体的な利用方法はやはり思い付かなかった。


「……魔石を取り出して、兵器に運用するくらいだろうか」


 せいぜい出た答えが、殺して魔石を取り出すくらいだと言う。


「そ、それはそれで一大事ですよ!?」


「うーん……私はそう思わないかな? それだったらテテュラちゃんをあんな風にした魔石加工師に、そういう魔石を作ってもらうんじゃない?」


「そうだね……」


「でも、自然物と人工物だとモノが違うんじゃないかなぁ?」


「「「「「うーん……」」」」」


 色んな意見が飛び交うが、友好的なことを求めているように感じないのだけは共通した。


「考えていても仕方ないですね。今はこの資料を元に、クルシアと接点のあるアルビオさん達に相談するのが一番でしょうね」


「そうですね。お願いします」


 私達はあの遺跡を無念のままで終わらせないために、その資料を受け取った――。


「ではユークさん。近々、ルブルスさんから連絡が来ると思います。その時はよろしくお願いします!」


「こちらこそ。おそらく崩れた遺跡の断片はこちらで保存することになると思います。その(むね)をお伝え下さい」


「あー……はい!」


 予定とは少しズレそうだが、伝言を伝えてからでも次の現場へ向かえばいいと考え、返事をした。


「少しは落ち着いた?」


「……うん。ありがと」


「それでは戻りましょうか? 難しいお話もひと段落ついたでしょうし……」


「た、多分ね……」


 原初の魔人を見つけて、何を企んでいるのかはアルビオや精霊達と話し合って結論を出そうと、ユークの研究室を後にした。

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