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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6.5章 地底都市アンバーガーデン 〜ヘレンと愉快な仲間達と極寒の地と地底の神秘
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12 地底都市アンバーガーデン

 

「無事に到着して良かったです……」


 心からの安堵の声を漏らす。


 アルビオ達がそう考えるのも無理はない。


 あれだけの大きな船が大きく波に揺さぶられながら、最終的には滝から放り出されているのだ。


 普通の船であれば、沈没必至。


 だが、魔船は魔法樹で作られた北大陸の技術の結晶。


 そう易々とは壊れはしない。


 そんな意気消沈する一同を、相変わらずの卑屈な態度でご登場。


「皆さん、お疲れ様です……」


「お疲れ様じゃないっ! わかってたんなら教えなさい!」


「そうですぞ! ヴァート殿!」


「い、いやぁ……皆さんは派手なこととか好きそうだなぁと……」


「ヴァート殿……」

「ヴァートさん……」


「は、はは……」


 苦笑いを浮かべながら追い詰められるヴァートに、救いの手が差し伸べる。


「えっと、テテュラさんは大丈夫でしたか?」


「へ? あ、ああ、うん! だ、大丈夫だよ!」


「まあそうじゃないと困るけど……」


 本当に大丈夫だったんだと、あの揺れから信じられないと顔を引きつらせるアルビオ達。


 その荷物置き場からテテュラを乗せた馬車が降りてきて、私達はアンバーガーデンの入国口まで移動する。


 その同中、初めて訪れる者達は近付くにつれて、ポカーンと口が開いていく。


「おお……」


「本当にここは地底ですか?」


 その頭上から降り注ぐ光は、普段から浴びる太陽の光とほぼ変わりない光が包む。


 見上げた頭上には、びっしりとこびりついた魔石が輝きを放つ。


 だが不思議とジッと見つめられることにも驚いた。


「そうだよ。私はここで十三、四年、過ごしてきたんだから……」


 この作られた光を浴びるのも懐かしい。


 やはり本物には劣るが、これはこれで(おもむ)きがあると、深く息を吸い込んだ。


 地底ならではの冷んやりとした空気が肺を巡り、中々に爽やかである。


「あれは魔石なんですよね?」


「そうだよ。太陽と月(サンライトムーン)って名前の人工魔石で、外との経過時間に合わせて太陽の光と月の光と入れ替わるの」


「ほえー……」


「それも凄いですが、この街並みも凄いですね」


 そう話す視線の先には、王都にも負けない街並みが広がる。


 地底というだけあってか、石造りの家が多く立ち並ぶ。


 その街の中を黒い鋼鉄の物体が轟音を鳴らしながら駆け抜ける。


 ――ボッボオーッ!!


「あれは!? あれは何でしょう!?」


 ルイスはぴょんぴょんと飛び跳ねながら、アルビオの袖を引っ張る。


 落ち着いて欲しいと顔に書かれているアルビオの代わりに、落ち着いてもらえるよう説明する。


「あれは汽車。行く途中で話したよね? あれが鉄道だよ」


「あれが……」


「そ。ほら見て」


 ニナの指差すところを真剣に見るのは、あの物体を初めてみる一同。


「あの汽車の下にレールが敷かれてるでしょ? あれが線路っていって、あの上を走るの。それが他の区画にも繋がっててね、移動が可能なの」


「凄いですね……」


「でも、あれを考えたのは勇者様だって話だよ?」


「そ、そうなんだよね……」


 アルビオはそんなことは実家で伝えられなかったと考える。


 勇者の日記もリリアが読めるが、色んな事件が重なったせいか、まだわからないことの方が多い。


 もしかしたらあの日記にも記載されているのかもしれないが、自分が知るところではなかった。


「それにしても煙が出てるけど大丈夫なの、あれ?」


「ああいうものなんだよ。蒸気機関車っていうものらしくてね。魔石を燃料にしてるんだ」


「魔石を燃料に? ほうほう」


「燃やしてね」


「も、燃やす!? そ、そんなこと危険ではありませんか!?」


「まあ驚くよね」


 ヴァートも初めて聞いた時、アライス達のような慌てた反応をして驚いた。


 魔石は下手に刺激を与えると、内包された魔力が爆発するように溢れ出る。


 加熱し、燃やすことなんてすれば、それこそ大惨事である。


「そもそも蒸気機関車っていうのは、蒸気機関を動力に動かす汽車らしいんだけど、その燃料には本来、石炭が使われるんだけど、この地底では環境に悪くなることから、魔石を燃料にする機関を考案したものがあれだよ」


 何のこっちゃと頭の上にハテナマークが見えるが、説明しても理解が難しそうなので省くことに。


「えっとね、魔石を燃料にすることで循環能力を向上させたんだよ」


「どういうこと?」


「あの汽車で魔石を燃やし、動力とすることで汽車は走る。燃やされた魔石は小さな魔力の煙となって太陽と月(サンライトムーン)に吸収される。これで持続的に朝、昼、夜を照らすことになると同時に、吸収されなかった魔力はこの地底に吸収されると、新しい魔石が散り積もって魔石になるの」


 私達の話にもう驚くばかりのアルビオ達は、改めて感心する。


「北大陸の魔石の質がいいのは、魔石をそもそも人工的に循環させているからなんだね?」


「そう。魔石が出来るパターンは基本的には二つ。魔物か自然にできるか。でも、こちらの研究機関が人工的に自然の環境を利用して作り上げることに成功し、財政が成り立つってわけ」


 自然に出来る魔石は、迷宮(ダンジョン)や魔脈のような魔力濃度の高いところで、時間をかけてじっくりと蓄積させていくもの。


 魔物の魔石のように、膜のように固まる粗悪なものとは違う、質の良いものが確実に仕上がる。


 ただデメリットはあまりに時間がかかること、かなり掘った先にあるなど、労力をかなり消費する。


 だが、北大陸ではそのデメリットをほぼ回避できる。


 汽車が走ることで満遍なくこの地底の表面、地脈が流れる地層に塵状の魔力が付着する。


 表面に付着することから採掘も難しくなく、しかも走れば走るほど魔石の種をばら撒くようなものだから、魔脈の影響もあって、増え続けるのだ。


「はー……大したもんですねぇ」


「これも勇者が?」


「うーん、そこまでは。でもあれの提案をしたんだから、そんな考えもあったんじゃないかな?」


 こちらの文献では、勇者が汽車について提案したとしか記実されていないそうだ。


「さあ、あれに乗って移動だよ!」


 そう言って、私達は駅へと向かった。


「はあー、懐かしい……」


「だろうね。汽車の時間は……」


 慣れた様子で時刻表を見るニナだが、初めて目にするアルビオ達は言葉を失う。


 堂々とした振る舞いを魅せる全身が漆黒の鋼鉄の物体が、存在感をヒシヒシと伝えるエンジン音。所々から聴こえる蒸気音はまるで(たくま)しい唸り声。吹き出る蒸気は、オーラのようにまとわりつく。


 この石造りの駅がまた良い味を出して蒸気機関車を演出する。


「凄い迫力ですね」


「ほえー……まるでドラゴンですね」


「その例えは面白いね。でも、これを観にくるためだけに北大陸に観光に来る人もいるよ」


「でしょうね……」


 シドニエは圧倒されるように感心の言葉を漏らした。


 自分の憧れの人が提案した技術が形となり、目の前にある光景、この存在感に目頭を熱くさせないということはなかった。


「嬉しそうだね」


「うん。どうなることかと思ったけど、来たかいがあったよ」


「よし! 早くこのドラゴンに乗りましょう!」


「汽車ね! あと引っ張らないで、ルイスさん」


 みんなが興奮している中、ヴァートは粛々と馬車を荷台に乗せたりしていた。


「皆さんは楽しそうでいいですねー……」


「ヴァート殿も久しぶりに知人と会われるのだろう? 楽しみではありませんか」


 フォローのつもりで言ったアライスだったが、


「行きたくないなぁ……帰りたいなぁ……」


 荷台の隅っこでうずくまり、しくしくと涙を流している。


「ヴァート殿!?」


 そんな賑やかな声が外から訊こえてくると、小さくため息を吐き、テテュラは呟く。


「楽しそうで何よりだわ」


 大きな汽笛を上げて、ヘレン達が乗り込んだ蒸気機関車が出発する。


 地底に広がる街々を走り抜ける機関車。


 窓を開けると強い風が吹き込み、髪をかき上げる。


「わひゃあーっ!! すっごいね!」


「こんなの馬どころか、召喚魔に乗るより楽しいよ!」


「……ユファが乗ったのって確か――」


「トラウマを呼び込むな! バカシド!!」


 大盛り上がりなのだが、コホンとさすがのヴァートも話がしたそうに咳き込む。


「皆さん、そろそろ宜しいですか?」


「ん? 何が?」


「目的を忘れるんじゃありません! テテュラさんのことで来てることをお忘れなく!」


「「あ」」


 ルイスとユニファーニは本当に忘れていたようで、あっけからんとした表情をする。


「しっかりして下さい……」


「いやだって、海の上であの騒動でしたし、雪原の遺跡では最凶の殺人鬼と遭遇、極めつけはこのドラゴンです! 観光としては中々スリリングかと……」


「――遊びに来たのではありませーん!!」


 周りにもしっかりと聞こえる声で叫ぶヴァートだが、ルイスは相変わらずの平常心。


「まあ今思い出したし、良いではないですか」


「あ、貴女ねぇ……」


「それでヴァートさん。お話は?」


「ああ、はい。そうでした」


 ヴァートは気を取り直し、今後の予定を話す。


 今現在、アンバーガーデン第三区の汽車に乗り、第七区へと移動中。


 第七区へ着き次第、テテュラを速やかにヴァートの知人のところまで移動。その後、ニナの案内を元にあの雪原の遺跡の研究資料の閲覧となる。


 その後は状況次第となるが、アルビオやリリアを返すため、滞在期間を一週間前後としている。


「一週間でテテュラさんが元に戻る手段が見つかりますかね?」


「多分、見つかりません。いくら僕の師匠が優秀でも、一週間は不可能だと思います。なので今回は状況を診てもらうのと、テテュラさんを置いておくべきなのかを尋ねに来たんです」


「そうですか……」


 事態がまだ理解できていないニナだが、元に戻るなどの言葉から深刻な状況なのだけは理解できた。


 余計なことは訊かずに、黙っていることに。


「まあ本人も簡単には戻らないことを自覚しているのですよね? だったら気長にやっていけばいいんじゃないです?」


「そういうわけにもいかないよ。リリアさんのデーモンをいつまでも取り憑かせたままというわけには……」


「そういえばそうでしたね」


「それに今の状況がずっと続くかも保証があるわけじゃない。元に戻れるなら早い方がいい」


 インフェルがテテュラの身体の管理維持を務めているとはいえ、元々特殊な状況に他ならない。


 異変など、いつ起きてもおかしくない状況だ。


「そうですよ、早い方がいい。そうじゃないとテテュラさん、可哀想だよ……」


「ミルア……」


「早期解決を急ごうと言う理由もわかりますが、テテュラさんの状況だからこそ、慎重に確実に取り組むべきなんです」


 少し重苦しくなった空気を、こほんと軽く咳き込み、区切りをつける。


「とにかく第七区に着き次第、彼女のところへ向かいます。皆さんは余計な行動は(つつし)むように。特にルイスさん!」


「何で私だけ名指しなんですぅ?」


「……自分の胸に手を当てて考えたらどうでしょう」


 わなわなと震えながらそう言うと、意外なしっぺ返し。


「セクハラですか!?」


「――何でそうなるんです!? 自分の行いを考えなさいと言ったんですーっ!!」


 ぎゃいぎゃいと騒ぐこの二人のおかげか、場が和んでいった。


 いくら機関車とはいえ、第七区までは時間がかかるが、駆け抜けて過ぎ去る景色を、相変わらず地下の風景とは思えぬその光景に目を奪われる。


 第五区あたりに入ったところで、


「アンバーガーデンって何区まであるの?」


 素朴な疑問がぶつけられた。


「アンバーガーデンは全部で七区――」


 第一区は採掘地。


 ここでは採掘師が仕事場とし、人によっては居住地にしているものもいる。


 採掘と聞くと限度がありそうだが、北大陸での魔石生成ループが成り立っているかぎりは、尽きることがないため、人気が高い。


 だがそれだけの価値がある場所というだけあって、土地費が高かったり、周りのいざこざがあったりなど、北大陸では一番ギスギスした場所とも捉えられる。


 第二区は政治関連の密集地。


 この国のお偉いさん方が仕事や居住地にしている場所。


 この国は他の国より貴族が極端に少ないこともあったり、研究や資源を目的に来る人も多いため、第一区のところを除いて、平和的な環境である。


 ただそのため、危機感の欠如が他の国よりあることはしょうがない話だったりする。


 だが、技術や新資源の流失などの抑え方などは熟知した政策は作られているところを見ると、一枚岩ではないことがわかる。


 第三区、第四区は商業区。


 ここでは色んな物資が取引されていたり、販売されたりしている。


 擬似太陽である太陽と月(サンライトムーン)では作物の成長には未だ難題が残り続けている影響上、食料に関しては輸入に頼ることが必須。


 幸い、北大陸は魔石という豊富な資源や技術提供などを取引の材料にあてがうことが多い。


 そのため経済が回り回っている関係が保てている。


 第五区、第六区は居住区となっている。


 そのままの通りで北大陸に住む人達の場所が提供される区域になる。


 学校、病院などの公共の施設などもここを中心に建てられている。


 そして――、


「今から向かう第七区はあらゆる技術研究を行なってる場所だよ。私もあんまり行ったことがないかな? ニナはどう?」


「私も一、二回しか行ったことないよ。一般の人は行く理由がないからね」


「ヴァート殿はこちらで?」


「はい。色々学びましたよ」


 そこに関しては(よど)みない返事を返した。


 どうやら苦手なのは本当に今から会いに行く知人のようだ。


「この第七区の良いところは、色んな技術を学び、自由に研究できることが魅力です。僕も魔石の知識のみならず、色んなところに顔を出したものです」


 人付き合いが苦手そうなヴァートの発言とは思えず、驚く。


「凄い行動力ですね」


「そんなことはないよ。知らないことを知っていくのが楽しかっただけさ」


「それ、わかります」


 私はその意見に賛同する。


「私は特に役者なので、この人はこんな考えだろうかとか、この脚本家はどんな考えでこんなシーンをとか、そういうのを台本を読んで探究していくのは楽しいです」


「そういう意味では似ているね」


 自由に探究する楽しさを共感する二人だが、ルイスが要らぬことを尋ねる。


「では何故、ハーメルトに? 性格を考えれば、わざわざ王都の重役になろうとは考えてませんでしたよね」


 ヴァートはビタッと止まると、席の隅っこにうずくまり、ぶつぶつと呟き始める。


「そうなんですよ。僕は別に魔術師団のリーダーの一人になんてなるつもりなかったのに、殿下や周りがあれやこれやと担ぎ上げられ、いつの間にやらこんなことに……。毎日毎日、重圧の日々に加えて、こんな任務に当てられて……しかもこんなお守りをさせられた挙句、肝心の任務の対象であるリリアさんは西大陸に向かったとのこと。ああ……そういえばこの任務が終わったら、僕は死ぬんだったな。は、はは……ここでの勉学の日々だけが至福の時だったなぁ。あの頃に帰りたい……」


「あんたはまた余計なことを……」


「素朴な疑問をぶつけただけではないですか」


 悪気がないのは、余計にタチが悪い。


「まあまあヴァート殿。その経験が貴方を強くしますぞ」


「僕は貴方みたいに前向きに物事を考えられない根暗野郎なんです……」


 すっかりいじけモードになってしまったヴァートだが、その元凶は無視して窓から外を覗く。


「おっ。そろそろ着くんじゃないですか?」


 居住区の建物とは違う景色へと変わったことから、指差して尋ねる。


「そうみたいだね」


 蒸気機関車での旅路は楽しい(?)ものとなった。


「到着! 凄かったですよ、ドラゴン君!」


「いや、だからドラゴンじゃありません」


「まあ、あながちドラゴンがモチーフかもよ。先頭部分は唸り声を上げるし、長いしさ」


「ああ、身体が長いタイプのドラゴンだね。言われてみれば……」


「ほら、アルビオさん。何事も決めつけることや思い込みではダメですよ。勇者様の発想の元かもしれないのに……」


「そ、そうですね……」


 そんな発想力は自分にはなかったと、反省していると、それをぶち壊す発言をフィンがする。


「こんなものなくても転移魔法とか空飛びゃあ、一発じゃねえか」


「「そんなことはありません!」」


「!」


 思わず反論したのはルイスと、意外にもシドニエだった。


「おや? 珍しいですね」


「い、いやぁ。た、確かに精霊様の言うことも尤もですが、みんながそれをできるわけではありません。ですがこれは、どんな人でも利用ができる素晴らしい技術です。それを否定するのは早慶だと思います」


「そうだね。転移魔法は魔力消費や制限もあるし、空を飛べるのは、風属性持ちか飛べる召喚魔持ちくらいだしね」


 すると地の精霊であるアルヴィが姿を見せた。


「この子らの言う通りさぁ。フィンみたいにせっかちじゃないのさ!」


「んだとぉ!?」


 二人の小人がアルビオの周りで追いかけっこ。


「二人とも……」


 そんな賑やかな中、テテュラを乗せた馬車が降りてきた。


「いよいよだね」


「旅の目的地だっけ?」


「うん! ほら、ヴァートさんも観念して下さい!」


「ああああっ!! やっぱり行きたくなぁい!!」


 ここまで来て駄々をこね始めたヴァートを、引きずりながら案内させた。


 石造りな街並みは変わらないが、どうにも建物一つひとつが大きい造りになっている。


 資料や実験などのためだろうか。


 しばらく馬を走らせると、ヴァートがよろよろと指を差した。


「こ、ここです……」


「ここですか……」


 ハーメルトのお城を丈夫にしたような造りの建物が目の前にある。


 それを囲うように鉄格子付きの柵が周りにある。


「中々厳重ですね」


「ここは魔法学の研究機関ですから、情報漏洩を避けるために、警備が厳重なんです。……ちょっと待ってて下さいね」


 そう言うと、門近くに設置されている魔法陣の上に立ち、ぶつぶつと呟いている。


 まるで誰かと話をしているようだ。


 しばらくすると、


「おっ! 開きましたよ」


「それでは皆さん、行きましょうか」


 門が開き、入ることが許されたようだ。


 行く気が湧かないヴァートに呼びかけられ、中へと入っていく。


 建物の玄関口まで来ると、騎士達とヴァートが一度、馬車の中へ。


 すると何かを担いでいるような仕草の騎士達が出てきた。


「あっ、もしかしてテテュラさん?」


「そうだよ。極力見られることは避けたいからね」


「お待ちしておりました」


 爽やかな声で呼びかけられる。


 眼鏡が良く似合う好青年がニコッと笑っている。


「あ、サドラさん」


「やあ、ヴァート。久しぶりだね」


「この御仁は?」


「今回のテテュラさんの件での協力者の一人。サドラさんです」


「サドラ・クウィンティです。よろしく」


 ヴァートとは対照的な爽やかイケメンのご登場に、女性陣はドキッとときめく。


「はっ! わ、私はアルビオさん一筋ですよぉ〜」


「おおっ! 凄いイケメンさんですね。是非劇団に入団しませんか?」


「……ヘレンは通常通りだね」


 困った様子で照れるサドラに、ヴァートは恐る恐る尋ねる。


「あの……サドラさん?」


「何? ヴァート」


「あの人は……?」


「いるよ。奥で待ち侘びてるから、早く行こうか」


 するとヴァートは怖気付いたらのか、この後に及んで後退りをする。


「や、やっぱり僕はここらで失礼するよ。宿屋で待って――」


「ほら。馬鹿言ってないで行くぞ」


 ヴァートの行動がわかっていたのか、さらりと捕まえたサドラは、引きずりながら中を案内する。


「いやぁあっ!! 離してっ!! わかった。逃げない! 逃げないから、離して!!」


 絶対逃げるとわかっているのか、話を聞かずにズルズルと連れていく。


 私達はそんな哀れなヴァートを見ながら、案内される。


「皆さん、長旅ご苦労様でした。大変だったでしょう?」


「ええ、まあ。海の魔物に襲われたり、雪原では殺人鬼と戦ったり、それはもう……」


「は? は、はあ……」


 サドラは思わぬ返事を受けて、困ったように返事をする。


「あの海域で魔物が暴れるなんて、珍しいですね。それと殺人鬼ですか? というか皆さん、どこかの拠点地にいたのですか?」


「はいはーい。私んとこの拠点地です」


 最早、どこからツッコめばいいのかわからずに、困惑するサドラだが、


「着きましたよ」


 答えに困っているうちにたどり着いてしまった。


 サドラは逃げようとするヴァートを掴みながら、扉をノックする。


「サルドリア! ヴァートが来たよ」


「待って! 心の準備が……」


 ヴァートの心境など、なんのその。


 気にせずに呼びかけた声に、サルドリアと呼ばれた奴が出てくる。


「やっとか。待ちくたびれたぞ」


 そこにはボサッとした赤紫色の長髪眼鏡のお姉様が姿を見せた。

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