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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6.5章 地底都市アンバーガーデン 〜ヘレンと愉快な仲間達と極寒の地と地底の神秘
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07 マリアドール

 

「どうですか? 久しぶりの故郷へ帰る気分は?」


「素直に嬉しいよ」


 ヘレンは特に喧嘩別れをしたわけでも、一人前になるまで帰らないなどとも思ってないのだ。


 カーチェル劇団が北大陸に向かう際にも、喜んで講演するつもりだった。


 ただその成果を見せるために向かうわけではないのが、ちょっと残念。


「ヘレンさんのご両親ってどんな方なんです?」


「あっ! 確かに気になるかも」


「別に普通だよ。優しいお父さんとお母さんだよ」


 船のデッキの上で楽しげな会話をする女性陣を遠く眺めながら、ヴァートは不貞腐れるように縮こまる。


「はあ〜〜……皆さんは楽しそうでいいですね。僕は行くも地獄、帰るも地獄なのに……」


「ま、まあまあ。ここまで振り回されて落とされれば、後は上がるだけです。きっといいことありますよ」


「そーですかねー……」


 完全に不貞腐れてしまったヴァートの対応に困っていると、空からふわっと白い雪が降ってきた。


「あ……雪」


 向こうの女性陣も初めて見る雪に興奮。


「おおっ! 雪だよ、雪」


「わあ……綺麗」


 ルイスは曇天(どんてん)の空から降り注ぐ雪を見上げていると、何かを思い立ったようで走り出す。


「アルビオさーん!」


 ガシッと腕を掴み、グッと引っ張る。


「少しだけ雪でも観ませんか?」


「いや、この後嫌でも見るんだし……」


「そんな風情のないこと言わない! ほら行きましょう」


 ぷくっと膨れてそう言うと、無理やり連れて行かれる。


「おめぇも大変だな」


「見てないで止めてよ」


「私はルイスさんの言葉にも一理あるかと……」


 精霊達ともそんな会話をする中、船員が海の中から何か見つけたように、指を差しながら叫ぶ。


「おい! 何かいるぞ!」


 他の船員達もその海の中に潜む影を確認した。


「おい……アレって!」


 その影は水面からジャンプして見せたのは、巨大なイルカのような生き物だった。


 軽々と船を飛び越えられるほどのジャンプ力を見せたせいか、ヘレン達からでも確認できた。


「えっ? 何?」


「アレは……」


「ちょっと、ヘレンちゃん!」


 ヘレンはその船員達が群がっている場所に向かうと、その生き物が並走するように船についてきている。


「な、何? あの生き物?」


「アレはマリアドールっていう魔物だよ。あの背中に付いてる女神像が印象的なことからつけられた魔物」


 マリアドールの背中には、立派に彫刻された女神像がくっついている。


 しかし海の中を移動し、水圧などのせいか一部欠けている。


「魔物ってマズくない!?」


「あんな魔物、初めて見ました」


 アルビオ達もその事態に駆けつけたが、船員の一人がこう叫ぶ。


「皆さん! 船内へと避難をお願いします! マリアドールの対処は我々が致します!」


 そう言うと船員達はその服装に似合わず、杖を取り出すと、魔法攻撃を開始した。


 ここは任せても良いのだろうと、言われた通りに船内へ移動する。


「あの魔物、しょっちゅう来るの?」


「ううん。稀に群れとはぐれてくる奴がいるの」


「集団行動するのか……」


 移動しながら私とヴァートさんはマリアドールについて解説。


 マリアドールはイルカの姿をした海洋生物型の魔物。


 普段は集団で行動しており、水深三百メートルくらいに生息している魔物で、滅多に姿を見せない魔物の一人である。


 特徴的なのは背中にしている女神像だが、何故そうなっているのかは、謎のままであるが、諸説では深海に沈んでしまった女神の呪いやマリアドールは使いではないかなど、憶測が飛んでいる。


 しかし、性格は魔物であるせいか凶暴。


 しかも女神像を背中にしているせいか、いやに身体能力も高い。


 女神像の重さで身体が沈まないようにしているうちに、鍛え上げられたという説が濃厚。


 対処方法としては、背中の女神像を傷付けずに身体を素直に狙うと良い。


 女神像を傷付けると更に凶暴化し、今のようにはぐれてきた奴一匹で船が数隻沈められたなんて事例が記録されている。


「見た目あんな可愛いのに、怖っ!」


「まあ一匹だけなら何とかなりますよ。船員さんも手慣れた様子ですし……」


 そんな話を訊いている最中、アルビオはフィン達の様子を気にかける。


 顕現(けんげん)していないため、自分にしか見えないが、何かを察知したように表情が険しくなる。


「どうしたの、フィン」


「……向こうからなんだか覚えのある魔力を感じるぞ」


 そう言って睨みを効かす先は北大陸。


「覚えって――」


 ズガァン!!


「おわあっ!?」


「「きゃあっ!?」」


 船に何かがぶつかったような音と衝撃が走る。


 船員達は目の前にいるマリアドールの仕業ではないと、他の原因を探すため船を走り回ると、異常事態が発生していたことに気付く。


「な、なんじゃこりゃ!?」


 その船員が見たものは、船の周りにマリアドールほどの大きさの影に囲まれていた。


「メルリア! 調べられる?」


「調べられるもありません。……マリアドールの群れです」


「なっ!?」


「ええっ!?」


 メルリアはすぐに魔力を感知し、正体はマリアドールだと断言した。


 そしてマリアドールの群れは船への攻撃を開始する。


「お、おわわっ!?」


 激しく揺さぶられる船。マリアドールに何が起きているかはわからないが、このままでは沈没してしまう。


 船はマリアドールの群れから離れるように、航路とは違う方角へ移動を開始するが、


「やばいやばいって! 追っかけてきてるよ」


 ユニファーニが身を乗り出して、マリアドールが追いかけてくるのを確認していると、ヴァートが船員に声をかけていた。


「あれほどのマリアドールの群れは前例にないのですか?」


「は、はい。無いかと……」


「わかりました。我々ハーメルト魔術師団も迎撃に協力します」


「ほ、本当ですか!? 助かります」


 ヴァートは魔術師団を招集。船員はこの状況と協力者の報告へと向かった。


 ここまでの旅の中で一番頼りになる雰囲気を見せるヴァートに、思わず感心した。


「アルビオさん達は中の方へ避難を。我々が何とかします」


「だって! 行こっ」


「アルビオさん?」


「……ヴァートさん。あれだけのマリアドールを何とかできますか?」


「やらなきゃ沈められる。何とか……」


「勝算はあるのかと尋ねてるんです」


 そう聞かれると、唇を噛んで厳しそうな表情をする。


 マリアドールを含め、海洋生物類の魔物は調査がいまいち進んでいない。


 理由としては基本的に人前に姿を見せず、海の中で生活圏を成立させているからだ。


 人間側からしてもわざわざ不利な環境の中を調査する必要はなく、縄張りに飛び込む理由はない。


 今回の件はそれが裏目に出た。


 調査が行われていないわけではないが、情報が少ないのが現状。


 マリアドールに関しては、背中の女神像を傷付けるとより凶暴になるくらい。


 勝算を聞かれても困るのだ。


「それにヴァートさんは地属性。海の魔物相手ではやれることにも限度があるのでは?」


「で、ですから、この船内にいる冒険者達にも協力を(あお)いでいるところです」


「それでも――おわぁっ!?」


 マリアドールの激しい体当たりに再び船が揺れる。


「あわわ……」


「そ、そういえばアルビオさん! テテュラさん達の方は!?」


「そ、そちらは騎士達が何名か向かわせました」


 さすがにヴァートはちゃんと対策していたことに安堵すると、


「ヴァートさん、僕が出ます」


「はあっ!? いや、ダメですよ! 何言って……」


「このままだとみんな海の藻屑(もくず)です。それに僕なら上手くやれます」


 そう言うとアルビオは海の方へ走り出すと、そのまま飛び降りた。


「ア、アルビオさん!?」


「アルビオさーん!?」


 みんながアルビオの飛び降りた先を見ると、彼はそこにはいなかった。


 だが海の中に着水した形跡もなかった。


 すると、


「あっ! アレ!」


 私は指差してみんなの視線を誘導する。


 そこには海面ギリギリを飛ぶアルビオの姿があった。


 まるで水上スキーでもしているかのように、海面を滑る。


 そのカッコイイ姿にルイスは興奮。


「おおっ!! 凄いです! アルビオさーん!」


 アルビオは集中しているせいか、聞こえていないようだ。


「考えたな、アル」


「まあね。これならマリアドールを誘導しつつ、対処できる」


 アルビオは風魔法で海面を揺らすことでマリアドールを誘う作戦に出たのだ。


 風のボードに乗り、さながらサーフィンでもするかのようにマリアドールの頭上を滑る。


 海面ギリギリを滑ることで、マリアドールは触発されたのか、船ではなくアルビオを追いかけるように迫る。


「頼むよ、二人とも」


「おう!」

「はい!」


 するとアルビオは旋回し、マリアドールを刺激、誘導する。


「メルリア!」


 その旋回したことで、身体のバランスを崩したマリアドールをメルリアの水魔法で海中から引きずり出す。


「飛びますよ!」


 するとマリアドールが数匹、海中から空中へ投げ出された。


「逝っちまいな!」


 そこをアルビオとフィンで魔石があるところを感知して攻撃。キャインっと悲鳴を上げて、力なく海面に叩きつけられる。


「――しゃおらっ!!」


「口が悪いよ、フィン」


「なんだかおもしれえなと思ってよ。だが……」


 今のに触発されてか、興奮した様子のマリアドール達は、フォーメーションで組むかのようにアルビオに迫る。


「来るよ!」


「あいあい!」


 アルビオはフィンの風魔法によって素早く水上を移動し、翻弄する。


「ついて来れるか?」


「僕は何とか。でも……」


 マリアドールの一部はついて行けないと割り切ったのか、再び船へと向かおうとする。


「行かせるか!」


 アルビオがその群れを止めようとした時、目の前をマリアドールが横切る。


「――うおっ!?」

「――ぐっ!?」


 目の前で大きな水しぶきを浴びるアルビオ達。


「二手に分かれたようです」


「だろうな。あのクソイルカ共が!」


「言ってないで……なっ!?」


 マリアドールはアルビオを足止めするように、連続で水中から飛び出しては、尾鰭(おひれ)で払い攻撃を繰り出す。


「このままじゃ……」


 悪戦苦闘するアルビオを見るヘレン達は、こちらにも群れが近付いてくるのを確認する。


「放てっ!」


 ヴァートの合図の元、マリアドールを攻撃するも、水中を自在に動き回られては当たらない。


「ヴァート様、当たりません。何か動きを止める方法を……」


「わかってる!」


 うーんと悩む隣でヘレンも考える。


 マリアドールは海洋生物類の中でも群れで行動を行うことから、連携が取れてるみたい。


 もう船とアルビオ君が狙いを定められている以上、倒すか沈められるかでないと決着が付かない。


 問題はフィールドアドバンテージがあちらに優位なこと。


 そのアドバンテージをアルビオ君は精霊との連携魔法で補っているけど……。


 アルビオを見てヘレンは思い付く。


 悔しがるみんなに、ヘレンは大手を振って提案。


「みんなー! 聞いてー!」


「ヘレンさん?」


「ヴァートさん。私達でマリアドールを誘導するので、狙って下さい」


「ゆ、誘導って、どうやってですか?」


「ああするの!」


 ビッと指差す方向には、連携されたマリアドールと水上格闘を繰り広げるアルビオを差した。


「いやいやいや、ヘレンちゃん。アレはアルビオ君だからできるのであって……」


「何言ってるかな。私達だって……召喚魔がいるでしょ!」


 さらに胃が痛くなりそうだと、ヴァートは真っ青な表情へと変わる。


「ちょっ、ちょっと待って下さい! そ、そんなこと……」


「みんなっ! このままじゃ沈められるしか未来がないよ。死にたくなかったらついて来い!」


 そう言うと、真っ青なヴァートを振り切って海に向かってジャンプ。


「――召喚(サモン)! ルドルフ!」


 空中で魔法陣が展開すると、回転しながら甲羅が飛んできて、首と手足をにゅっと素早く出すと、ヘレンの着地点に背中を向ける。


「ガア……」


「ありがとう、ルドルフ」


「ちょっとそれ、ウィンドタートルじゃない!?」


「おお! 珍しいですね」


 ウィンドタートルとはマリアドール同様、海洋生物系の魔物。


 名の通り、風属性も持つ希少種。


 水の中は勿論、浮遊能力も持つため、水陸対応型の魔物である。


「ありがと。自慢の子なんだ」


 そう言うと、アルビオのように立って、


「行くよ、ルドルフ。せいぜいマリアドールを困惑させよう! ヴァートさん、指示よろしく!」


「えっ!? 待って……」


 それだけ言い残すと、ギュンと行ってしまった。


 するとヘレンに触発された船員や冒険者達は、


「彼女のように召喚魔がいる奴は彼女に続け! 海上を飛べる者達もだ! 行くぞ!」


「「「「「おおおおーーっ!!」」」」」


 次々と海上へ飛び込んでいく。


 その様子にヴァートは頭をガシガシとかき乱すと、半ばヤケクソで指示する。


「ああ……もう! 皆さん! 出来る限りマリアドールをばらして下さい。君達は一個体になったもの達を攻撃。いい?」


「「「はい!」」」


「あの……」


 ルイスがひょこっと尋ねる。


「私達にもすることは――」


「お願いだからこれ以上、余計なことしないで。僕のことを思うなら、ジッとしてて!」


「りょ、了解……」


 というわけでルイスはしぶしぶ、ユニファーニは任せればいいよと安心して船内に入ろうとするが、


「そういえばユニファーニさん……」


「ユファでいいよ。で、何?」


「確かユニファーニさんの召喚魔も水上で役に立つ魔物でしたよね?」


「ああ、召喚(サモン)


 すると一角アザラシが姿を見せた。


「シュワゴンっていうアザラシ系の魔物だね」


「ふーん……てい!」


 何を思ったか、ルイスはユニファーニを海へと突き落とした。


「へ? ええええーーっ!?」


「ほら、シュワゴンさん。ご主人様が落ちますよ」


「カウッ!」


 ご主人に忠実なシュワゴンはそのまま海へとダイブすると、ユニファーニを背中で受け止めた。


「ぷあっ!? あ、あんた!! 何やって……」


「来ますよー」


「へ?」


 ユニファーニとシュワゴンに向かって数匹のマリアドールが接近。


「――ぎぃやああああーーーーっ!! ほら、シュワゴン!! 急いでぇっ!!」


 シュワゴンは指示に従い、ギュンと泳ぐ。


 あまりの速さにユニファーニは水しぶきを浴びながら、溺れかけている。


「ちょっ! シュ……ぷあっ!? は、速……」


 シュワゴンはご主人を守るためか、ユニファーニを背中に乗せたまま水中に潜ると、マリアドールへ急接近。


(○%ヴァ&ラギ……)


 ユニファーニの混乱の最中、シュワゴンはマリアドールの懐に入ると、そのツノで攻撃。


 ザパーンッと勢いよくマリアドールは跳ね上がられ、勢い余ってシュワゴンとユニファーニも大ジャンプ。


「おおー……」


 シュワゴンをけしかけた張本人(ルイス)は、呑気な声をあげて感心する。


「あれは戦力になりますね」


「――貴女は何をしてるんですか!? お友達でしょ!?」


「そうですけど、ご迷惑をかけた分、貢献――」


「余計なことはしないで下さいと言ったでしょ!? 人の話、聞いてましたっ!? 僕の心臓、握り潰すつもりですかぁ!?」


 ルイスのとんでもない行動に、温和で根暗なヴァートも激しいツッコミを入れるが、本人は屁でもない様子。


「ほら、彼女も握り潰すつもりみたいですよ」


「へ?」


「ヴァートさーん!」


 ヘレンがこちらへ突っ込んできた。後ろには複数体のマリアドールを連れて。


「飛び越えるんでー! 一緒に跳んでくるマリアドールを狙い撃って下さーい!」


「はあっ!?」


 ヴァートは慌てた様子で甲板の柵に身を乗り出すと、向かってくるヘレンの後ろから無数のマリアドールが追いかけてきている。


 ヴァートはその光景からヘレンの意図を汲み取った。


「君達は向こうへ。こちらの者達は詠唱を始めて。ヘレンさんが飛び越えたら撃って」


 ヘレンの作戦はウィンドタートルでマリアドールを挑発し、船へと敢えて突っ込み、飛び越えることでマリアドールも一緒にジャンプするのではないかと目論んだのだろう。


 いくら船を沈めることが目的でも、ほとんどの生き物は本能的に障害物を避けようと考えるだろう。


 ましてやマリアドールは冷静な状態でヘレンを追いかけているわけでは無い。


 飛び上がった拍子に目の前に壁があれば飛ぶだろうが……。


「くっ――プロテクト・シールド!」


 ヴァートは一目散に万が一を考え、その突撃ルートに防御魔法を施し、船を守る。


「いっけえ!!」


 ヘレンはウィンドタートルと共に船の上を通り越す。


 そして読み通り、マリアドールも無防備な腹を魔術師団に向けて飛んでいる。


「は、放てぇーっ!」


 魔術師団の攻撃がマリアドールの群れに命中。背中の女神像を攻撃しなければ、こっちのものとばかりに魔法が放たれ、マリアドールは次々とひっくり返りながら、海へと落ちていく。


「よし、作戦成功だね!」


 連携が取れるイルカ型の魔物だからこそ、できた対処方法だったね。


 そんなめちゃくちゃな方法を遠く見ていたアルビオもマリアドールを片付けられたようで。


「……めちゃくちゃしますね、彼女」


「だな」


 こうして無事にマリアドールからの危機に脱したわけだが――。


「貴女達は僕のことをどうしたいんですかぁっ!?」


 怖くはないんだけど、めちゃくちゃ怒られた。


 普段が普段なだけに鬼気迫る怒り方にもいまいち迫力に欠けるヴァートの説教。


 私と何故かルイスも正座させられた。


「いや、良かれと思って……」


「右に同じく……」


「――いや! 良かれと思って突き落とすな!」


「えっ!? あれ、突き落としたの!?」


「そうだよっ!」


「それは良くないよ。ルイスちゃん」


「そうですか? 少しでもことを納められればと。それに……」


「それに?」


「アルビオさんに万が一でもあったら困ります」


「――あたしはあってもいいのかぁっ!!」


 しれっと答えるルイスに、ユニファーニは激しくツッコミするも、本人動じず。


 それどころか、


「ユニファーニさんは図太そうですから、大丈夫ですよ。繊細なアルビオさんとは違います」


「ほお……」


 ニッコリと答えたルイスに対し、怒り混じりのユニファーニは感心すると、ルイスと取っ組み合いになる。


「だったらアンタはもっと図太そうだから、突き落として同じ気持ちを味合わせてやる〜っ!」


「私は召喚魔と契約してませんし、そもそも属性違いです! ついでに言うと私は泳げません」


「そんな言い訳が通用するほど、世の中甘くないってのをこの寒空の海に沈めて、根性叩き直してやる」


「きゃあ〜! アルビオさん、か弱い私を助けて♡」


「――感心するほど、計算高いね!? アンタ!」


「……ユファさん、反省を促すという意味なら許可します」


「ガーン!」

「マジ!?」


「自業自得です」


 味方になってくれるであろうアルビオにも見放されたルイス。


「いやぁーーっ!? や、やめてっ!!」


「ふふふ……今こそ報いを受けるがいい!」


「お願いだから、僕の寿命を縮めないで……」


 そんなすったもんだはありましたが、ルイスはとりあえず突き落とされませんでした。


「それにしてもヘレンさんもヘレンさんです」


「ん?」


「めちゃくちゃし過ぎでは?」


「そう? リリアはもっとめちゃくちゃでしょ?」


 首を傾げてそう言われると、納得してしまう自分がいる。


「ま、まあ……そうだね」


「僕から言わせて貰えば、アルビオさんも随分とやんちゃになられましたよ。お願いですから皆さん、もう少しおとなしくして貰えませんか? 僕、本当に死にそう」


 若さ故の行動力は理解できるも、少しは大人の言うことを聞いて欲しいと、心ながらに懇願するヴァートには、


「は、はい……」


 申し訳なさそうな肯定の返事しかできなかった。

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