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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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33 やり残したこと

 

「ロイドさん。何とか()けましたね」


「ああ……」


 カーチェル劇団の一同は、何とか港町ガルニマへ到着した。


 だがその様子は以前のように平然とではなく、どこかこそこそとした面持ちでの移動となる。


「しかし、ヘレンをわざわざ回収しに行かなくても……」


「彼女達はどさくさでまだこちらの動きを察知してないだろう? それに今後の活動のためにも――」


「活動が何だって?」


 ロイド達はその声に驚愕。そして――、


「――おわぁーーっ!!」


 カーチェル劇団の一同はシャドー・ストーカーで捕らえられる。


 触手のように絡みつき、手足の動きを封じた。


「見つけましたよ、ロイドさん♡」


 俺は満面の笑みで迎えいれると、ロイドは表情を引きつらせながら、苦笑いを浮かべる。


「や、やあ、無事で良かった! ……だけど、随分と手荒い再会だね。とにかく下ろしてくれないかな?」


「本当に無事で良かったって思ってる?」


「も、勿論さ! 君が無事ってことは彼女達も……」


 ロイドは途中で言葉が止まる。


 リリアの後ろから奴隷になったはずのカルディナ達が顔を覗かせているからだ。


「もう一回訊こうか? 無事で良かったって本当に思ってる?」


「……」


「残念だったね。貴方からすれば私達との再会は……」


 俺はトントンと首を突っつく。


「ここに刻印されての再会が望ましかったんじゃないかな?」


 路地裏で捕まったロイド達は無言になる。


「いやー……ナジルスタの騎士さんから、やっと逃げ切れたかと思ったら、貴方達の正体を知る私達に再会しちゃったね」


「しょ、正体って何のことかなぁ?」


 この後に及んでシラを切るつもりのロイドだが、全てお見通しである。


「わからないなら、説明……しようか?」


「!!」


「ロイドさん! 酷いです!」


 キャンティアが物申し姿を見せると、ロイドの表情は青ざめていく。


「……確かに証人がいなければ、貴方達を拘束することは無理だろうね。実際、奴隷にされてた彼女達にはマジックロールによる契約で、売った側の人間の情報を話せないようにしてあるらしいね。だけど、それを一部始終見ていたキャンティアの証言ならどうだろ?」


 本来、奴隷契約を行う場合、直に首に刻印して契約を行うことが普通なのだが、カーチェル劇団は情報漏洩を避けるため、わざとマジックロールを介して契約を行った。


 すると、たとえ本人が奴隷から解放されても、マジックロールによる契約は解消されない。


 何故なら奴隷契約と情報の開示禁止の契約は別物であるからである。


 キャンティアの話によれば、現地に到着後、みんなで夕食をとっていたのだが、キャンティアからすれば久しぶりのファニピオン。


 何か情報がないかと、手を付けずに飛び出したらしい。


 その後戻ってみると、泊まっていたはずのみんながもぬけの殻だったので、何かあったのではないかと情報を集めていると、奴隷商に眠っている彼女らが引き渡されたのを確認したのだ。


「ちなみにだけど、彼女の記憶も確認してる。間違いない情報だよ」


 キャンティアの姿を見ただけで、色々と察したロイドだが、笑顔は引きつったままだ。


 内心では無理やりでも探し出しておけばよかったと思っていることだろう。


 すると俺は嫌がらせのように称賛する。


「いやー、でも良く考えたよ。元々有名な劇団であるここの名前を使って、優秀で魅力的な人間をかき集めて教育し、ある程度、高く売れそうになったら売り飛ばす。いなくなった理由は独立したとか言えばいいし、口外しないことをマジックロールで契約させてるんだ……奴隷にされた側は訴えられない。いやー……見事なもんだよ、ホント」


 何だったら、その奴隷にされた奴を知ってる人が見かけても、失敗して借金でもしたんじゃないかと誤魔化せばどうとでもなる。


「情報によれば、二世代前からこんな人身売買をやってたんだって!」


「そう……」


 マーチェの情報にも心当たりがあるらしく、もう笑顔は固まっている。


 ここまで追い詰めてもその営業スマイルを続けられるのは、さすがはプロと褒めたいところだが、それで人を騙してちゃ世話がない。


「どう? どこか間違ってるなら訊くけど……」


「……ま、参った。僕らの負けだよ。さ、僕らを騎士なり衛兵なり突き出すんだろ? 好きにするといい」


 爽やかマスクで開き直るロイドだが、俺はある提案を持ちかける。


「まあでも、私のお願いを一つ聞いてくれたら逃してもいいよ」


「――えっ!? リリアさん!?」


 捕まえると聞いていた一同は、全員驚愕。


 ロイドも思わずポカンとするが、好都合と甘いマスクは外さず、ご機嫌を取るように尋ねる。


「も、勿論だよ。お願いを一つ、だろ? 何でも言ってくれていい」


 そう言ってくれたので、遠慮なく。


 俺は満々の笑みでこう語る。


「――ロイドさんの金○、蹴り潰させて欲しいの♡」


「………………は?」


 今度は俺の発言に対し、自分の耳でも疑ったように一同静まり返る。


「え、えっと……リリアちゃん? 今なんて言ったの?」


 何を言っているのか、理解できないと顔を引きつらせながら尋ねられたので、今度は恥じらいつつ語る。


「よく聞こえなかったの? もう! 女の子にこんなこと、二度も言わせるなんて。……こほん。だからね……その……ロイドさんの金○、蹴り潰させて欲しいの……」


「――いやっ! 満面の笑顔でも、恥じらってでも言うセリフじゃないよね!?」


 聞き間違いではなかったと、さすがに爽やかマスクが外れた。


 焦りと困惑の表情でのツッコミありがとう。


「いやね、私、一回でいいから潰してみたかったの」


「あ、あのね? 本来は潰すところじゃないから。潰していい場所でもないから!!」


 さすがにそんなお願いは聞けないと、とにかく無我夢中で否定する。


「そもそも女の子がしていい発言でもないし、それに君は女の子だからわからないだろうけど、ここを攻撃されると凄く痛い――」


「知ってますよ」


「……は?」


「いや、だから……知ってますって」


 いや、俺、元男なんで。知ってますよ、本当の意味で。


 さらっと知ってると答える俺に唖然としていると、アイシアがとあるエピソードを語る。


「そういえば小さい頃に、パパのお股に頭突きをしたことがあるんだけど、しばらく押さえて動けなくなってたな〜」


 みんなどういうリアクションをすればいいのか、困惑する。


 それは痛いヤツ。


 元男だから良くわかるよ。あの股間の痛みは男性にしかわからない激痛なんだよ。


 子供の頃は特にやんちゃだから加減も利かなかっただろうし、当時のパパ可哀想。


 だがこの男には容赦する必要はない。


「まあ確かに、男には金的が効くしね」


「「――何で俺達を見る!?」」


 カミュラがジッとギルヴァとユネイルを見ると、二人は股間を押さえてツッコんだ。


「というわけだから、潰させて?」


 笑顔を絶やさずに話しかける俺に、ロイドは恐怖心が募るばかり。


 それを追い詰めるように、アイシアが、本人は良かれと思って言ったつもりだろう、天然の追い討ちをかける。


「ロイドさーん。こういう笑顔のリリアはめちゃくちゃ怒ってるよー」


「!?」


「聞こえてるぞ〜」


「ご、ごめん!?」


 このままでは本当に潰されかねないと思ったロイドは、命乞いのように要求する。


「リリアちゃん! ど、どうかな? それ以外だったら、何でも言うことを聞くよ。だから、ね?」


 いつもの爽やかスマイルはどこへやら。


 ぎこちない笑顔でそう提案されると、俺も笑顔で返す。


「しょうがないな。だったら――」


 黒いオーラでも視えるかのように、


「――貴方のその元気になる汚物を今すぐ虚勢させてくれるなら――」


「だから何でそっち方面!?」


 どうしてもロイドの股間を攻撃したいという俺に、ツッコミ混じりに尋ねる。


「いやー、だってそこが元気になるから女の子を奴隷にしようなんて考えるんでしょ?」


「い、いや。そんなことは……」


「興奮しないと?」


 威圧感のある満面の笑顔の前に、嘘は付かなくなったロイドは、視線を泳がせた。


「い、いや……」


「女の子の奴隷のほとんどが慰めものになるのは必然。女の子の人生がめちゃくちゃになるってわかるよね? だったら、男の子の人生をめちゃくちゃにされたって文句無いよね?」


「え、えっとぉ……」


「その股間を無くせば、女の子の気持ちもわかるかもよ」


「ひっ!?」


 一緒に捕まったカーチェル劇団の男衆も悲鳴を上げる。


 俺も元は男だ。本来ならそんな非情なことはしたくない。


 だが今は女の立場にある。


 女の人生をめちゃくちゃにする奴隷の仲介役には、徹底的に叩きのめさないと、また繰り返すだろう。


「でも私は慈悲深いから、選ばせてあげる♡」


 ロイドから見れば、リリアは可愛らしい女の子ではなく、男としての人生の終焉を呼ぶ怪人であった。


 その様子をギルヴァとユネイルは震えながら、身を寄せている。


「な、なあ。もしかして黒炎の魔術師って異名は、あのブラックさがそう呼ばれたのか?」


「さ、さあな」


 震えているのはロイドも同じ。歯をカチカチさせながら恐怖に(すく)んでいる。


「ねえ……どっち?」


「い、いやぁ。あの、その……だからね……」


 しどろもどろと優柔不断な態度を取り始めたので、


「いい加減にしろ」


「!!」


「私達、貴方と違って暇じゃないの。そのまま答えを決めないようなら、両方合わせたのをやるよ」


「ひぃっ!?」


「金○をいい感じで痛めつけた後、削ぎ落としちゃうぞ♡」


「ひぃっ!!」


「だからさ――どっちがいいかとっとと選べ」


 満面の笑顔のまま、圧のある声を聞いた一同は、震え上がり、アイシア達に関しては、


(ブラックリリィだ……)

(ブラックリリアちゃんだ……)


 と一同、思ったという。


「ハイハイハーイ!!」


 するとマーチェが元気よく手を上げて提案。


「それなら私もやりたーい! 情報を集めるのに、拷問する基準にしたいなっ!」


「へ……?」


 最早ツッコむ気力が薄れてきたロイド。


 さらにそこに追い討ちをかけるように、彼女も立候補する。


「私もやりたい。面白そう」


「カミュラ!? ダメです! 親友が変な趣味に目覚めるのは容認できません!」


 バタバタと否定するネネだが、無視するカミュラは俺達と一緒に吊りし上げられているロイドの前へ。


 パカっと股間に攻撃が通りやすくなるように、百八十度の大股になり、大の字になるロイドは、もう爽やかマスクは消えていた。


「待って……助けて……」


「ええ〜っ!? 今まで嫌がって奴隷にされちゃった女の子ぉ〜、何人いたか調べてあげようかぁ〜?」


「いいね。その分だけ蹴ろうか?」


「賛成だけど、調べるまで面倒だし……」


 キャイキャイとロイドをどう料理しようか話す俺達を見て、もう余裕のないロイドは汗が止まらない。


 無防備に股を開かされ、周りの仲間達も同じようにシャドー・ストーカーで捕まった状態。


 一切の抵抗を絶たれたロイドの股間に逃げ場はない。


 そんな余裕もなく青ざめるロイドにマーチェは悪戯混じりの悪ーい笑顔で足を撫でるような仕草で主張する。


「ああん! そんないじめ甲斐のある顔しないで下さいよぉ!」


「そうね。(そそ)るものがある」


「……どう? 他人に理不尽に人生を変えられる恐怖心は? 中々スリリングでしょ?」


「そ、そうだね。もう十分理解したから……だから……」


「いやいや、ここからが本番でしょ?」


 そういうと蹴りやすくするように、ロイドの位置を調整。


「いやだぁ!! お、男として終わりたくないっ!!」


「ええ〜? 今まで女の子の人生台無しにしてきたくせに都合良くない〜?」


「その甘いマスクで何人騙してきたやら……最低」


「まあいいじゃないですかぁ、ロイドさん。こんな美少女三人のおみ足を汚すことができるんですから……」


 この劇団の影響力とその天性の優男顔でやってきた悪行の報いが訪れたということで、是非とも観念してほしい。


「ゆ、許ひて……」


 もう羅列(ろれつ)も回らないほど、怖がるロイドに止めの一言を俺は添える。


「まあ最初こそ地獄かもしれませんが、後になれば希望も湧きますよ」


「は……?」


「女の子三人に(さげす)まれながら、蹴られるうちに変な性癖に目覚めることを期待して下さい♡」


「ひっ!? ま、待って……そんな変態になりたくない……堕ちたくない……」


 俺達三人はジリジリとにじり寄り、蹴り上げる構えを取る。


「さあ、いくよ♡」


「や、やめ――ぎぃやああああーーーーっ!!!!」


 この後、彼がどんな性癖に目覚めたのかはご想像にお任せします――。


「――ふう……」


 いい汗をかいたと汗を拭う俺の前には、白目を向き、泡を吹いて、ズボンの股間部分は何がとは言わないが、びしょびしょに濡らしているロイドが、痙攣(けいれん)しながら、シャドー・ストーカーにぶら下がってる。


「割とあっさり気絶しちゃったね」


「潰れたの? 確認する?」


 カミュラがロイドの股間を指して尋ねたが、


「やだよ。触りたくないし、見たいの? そこ……」


「「別に」」


 俺はそんなびしょびしょのズボンは触りたくないと拒否する。


 そもそも男の股間なんて向こうじゃ、毎日見てたんだ。


 性に興味が湧いた女子ならまだしも、俺は他人の一物なんか見たくない。


「さて……」


 カーチェル劇団達は、ビクッと酷く反応する。


「次はてめぇらか」


「「「「「ぎゃああああーーっ!!!!」」」」」


 あんな光景を見せられて堪らず悲鳴をあげる劇団員達は必死の命乞い。


「ごめんなさいっ!! ゆ、許してぇっ!!」

「もう二度としませんから!!」

「お、俺達はそこの団長の指示に従っただけで……」


「「「「「その命乞いはやめろぉっ!!」」」」」


 下手に刺激する命乞いはよせとある劇団員の言葉が耳に入った団員達はツッコむ。


 するとマーチェは楽しそうに、ニヤニヤと劇団員達を見渡す。


「いやぁ〜、団長一人じゃ検証にならなかったしなぁ〜。どうしようかなぁ〜」


「そうだね。それにちょっと反応が面白かった」


「――お願いだからカミュラ! 変な趣味に目覚めないでーっ!!」


 いや、元々サディスティックな気はあったと思うが。


「まあ、待って二人とも」


「「!」」


「団長みたいにぃ〜、惨めに潰されたくない?」


 あざとくぶりっ子ぶりながら尋ねると、団員達はシンクロして同時に激しく頷く。


「だったら私のお願い……聞いて欲しいな♡」


「……な、内容によるかなぁ……なんて」


「あ?」


「いえ! 聞きます! 何でも! はい!」


「それは良かった。あのね、そこで泡吹いてる惨めな団長さん連れて、みんなでおてて繋いで仲良く騎士団に投降してね、二度とこんなことはせず、女の子を敬い、しっかりと反省できるなら……潰さないであ・げ・る」


「「「「「――は、はい!! 喜んで!!」」」」」


 シュルシュルと影は引っ込み、劇団員達は仲良く手を繋ぐ。


「いい? 一人でも騎士団に投降する前に離してごらん……連帯責任で全員潰すから」


「は、はいぃ……了解しました……」


 震えながらそう答えた劇団員達は無事騎士団に投降し、捕まったというが、大の大人が数十人手を繋ぎ合い、真ん中には気を失い、股間を濡らす男の光景は異様だったという。


 ***


「はぁー、スッキリした」


 俺達はロイド達が自首して数時間後、東大陸行きの船の前にいる。


「いくらなんでもやり過ぎじゃないかな? リリアちゃん」


「凄く痛そうだったけど……」


「当然の報いだよ。カルディナ達を一時的とはいえ、奴隷にしたんだから……」


 そのカルディナ達も複雑な顔をしていたが、フェルサだけはグットサインを送っていた。


「まあ、あれだけやれば二度としなくなりますわよ」


「それより私達、すっかり足手まといでしたわね。人のことを言えませんでしたわ」


「すまない……」


「まあいいよ。とりあえず最低限の成果は上げられたわけだし……」


 そう、最低限である。


 結局、魔人マンドラゴラの魔石を適合させてしまった。


 本当なら魔石のまま、回収しておきたかった。


「お別れだな、黒炎の魔術師」


 リンス達が見送りに来てくれた。


 というより、ロイドを追い詰める手伝いをしてくれていたわけだが、


「彼ら、頑なに手を離そうとしませんでしたが、何事です? 潰されたくないと呟くばかりで……」


 そう疑問を呟くラルクに、ギルヴァとユネイルが肩を叩く。


「……お前は知らなくていいことだ」


「そうだぞ。現実は知らなくていいことがいっぱいあるんだ……」


「えっ!? な、なに? 余計気になるよ!?」


 なんだかこっちにまで心の傷(トラウマ)を植え付けたようだ。


 するとギルヴァとアリアもこちらへと来る。


「まあとにかくだ、行ってくるよ」


「おう」


「頑張ってね」


「いってらっしゃい」


「身体には気をつけてね」


「まあ、なるようにね」


「ファイトだぞ!」


 ギルヴァとアリアは真実の羽根(トゥルー・フェザー)のみんなとラルクから見送りの言葉をもらうが、辺りを見る。


「どうした?」


「いや、メルの姿がないなって……」


「一応言ったんだけど、もう少し心の整理が必要みたいでね」


「そっか……」


 言い過ぎたのか、会うにも後ろめたさがあるのか、尊重すべきだろうと諦めると、トンと肩を横から叩かれる。


「大丈夫。トアちゃんならきっと……」


「そうだな……」


 すると出航の合図がなる。


「もう出るみたいだね。名残り惜しいけど、またね」


 俺はそう言うと、船へと乗り込んだが、ギルヴァは最後にユネイルに近寄ると握手を求める。


 ユネイルはそれを察し、ギュッと男らしく握り締めた。


「しっかりやれよ! ギルヴァ!」


「お前もな! 任せたぞ! それと……」


 ギルヴァはユネイルの影からひょっこりと横から乗り出す。


「ラルク! メルのこと任せた! 後、いい機会だから、とっとと告っとけ!」


「――っ!? なっ!? ばっ!?」


 あわあわと焦るラルクだが、五星教のほとんどの人間は気付いているようで、呆れた表情で見守るが、リンス達が一言。


「馬鹿言ってんじゃねぇよ。こんなヘタレにメルをやれるか」


「同意」


「ふふ。頑張りましょう」


「ええっ!? み、皆さん!?」


「こりゃあ見返しがいがありそうっスね! 先輩! 協力しますよ〜」


「えっ!? ええ〜!!」


 みんなでラルクをからかいあい、楽しそうに笑いあった。


「じゃあいくよ」


「まあ待て」


「ん?」


 もう時間がないと向かおうとしたギルヴァをユネイルは止めると、一言。


「……帰って来たら、股間が無くなってたなんてやめろよ」


「――せっかくいい感じだったのに、ぶち壊すなぁっ!!」


 ――こうして俺達の長いようで短かった西大陸での冒険を終え、帰路を迎えた。


 アリア達のことを考えれば、清々しい帰路とは言えないが、今こうして笑顔でいられるところを見ると、最悪の結末に向かわなかったことを嬉しく思う。


 そんなリリア達を一匹の白い龍が艶やかな紅い瞳で帰路を見守る。


 ***


「行ったか……」


 とある山の中で一人佇む男性。


 その瞳にはとある船が映っていた。


「神子よ。その友人よ……感謝する。これで、無益な血を見ずに済む……」


 その民族衣装の男性は綺麗な透明の宝石を握り、天に祈るように感謝の言葉を口にした。


「アリシア……お前の子孫はやはり心根の優しい娘であった……」


 男性はアイシアがリンスとヒューイを抱きしめたことを思い出す。


 あの暖かさには覚えがあると、懐かしむように。


 そんな心の余韻に浸っていると、後ろから足音が聴こえる。


 民族衣装の男性は目付きを鋭くし、振り向きながら尋ねる。


「何者だ……?」


 その歩いてくる男性の後ろには、無残にもやられているドラゴン達が積み上がっていた。


 その狐目のオールバックロングの赤髪の男性は、紳士的な喋り方でご挨拶。


「これはこれは。お初にお目にかけます……」


 深々とお辞儀するが、民族衣装の男性はその男の気配に戦慄する。


「――龍神王殿?」

皆さま、ここまでのご愛読ありがとうございます。第6章はここまでとなります。


第7章と行きたいところではありますが、6章で別れたヘレンの物語を書きたいと考えております。


というわけで次は第6.5章とさせて頂きます。


これからもご愛読下されば幸いです。それでは。

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