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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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28 覚悟の行動

 

「さあさあさあさあさあーっ!! ワタクシの相手は……貴方ですかぁ!?」


「――があっ!?」


 縦横無尽に飛んで動き回るウィンティスは、今までの鬱憤(うっぷん)を晴らすように、過激に動き周り、強烈な一撃をお見舞いする。


 いくらひょろっこい身体のデーモンとはいえ、魔力の濃さや強さはインフェルに匹敵する。


「――ディザスター・ストームっ!」


 俺達三人の下から、竜巻が発生。


「「「――がああっ!?」」」


 さらに追い討ちをかけるように、クルシアのシャドー・ストーカーが襲い来る。


 投げ飛ばされた我が身を気力で立ち上がるが、


「くそぉっ!!」


 俺は何とか二人を守るように、シャドー・ストーカーで軌道をズラすが、ズイっと俺の目の前にウィンティスが現れる。


「勇者には確かに遅れを取りましたが……」


「がっ!? ああ……」


「――リリィ!!」


「貴女に遅れを取ったつもりは……ありませんよぉ」


 首を掴み、持ち上げられると身動きが取れない。


 バタバタと暴れるが、俺の蹴りなどが通用するわけもない。


(やべぇ……絶対絶命……)


 俺の眼には迫り来る影の姿も現れる。


「――おおおおっ!! ぐうあっ!?」


 ギルヴァが俺の盾となり、影に貫かれる。


「――ギルヴァッ!!」


 カミュラも落ちどころが悪く、頭でも強く打ったのだろうか、ピクリとも動かない。


 魔力が帯びていることから、死んではいないようだが、気絶している。


「くそぉ――おごぉっ!?」


「人の心配などなさっている場合ですかな?」


「――リリアちゃん!!」


 俺はウィンティスに腹パンされると、そのままドサっと地面に倒れ込む。


 リュッカの悲痛の叫びが木霊する中、霞む視界の中で、圧倒的な力を見せつけるクルシアを視界に入れる。


「これ以上は見ちゃいられない! ギルヴァ、今……」


 ユネイルが剣を抜き、参戦しようとした時、ギルヴァが立ち塞がる。


 そのギルヴァは血を流しているが、任せろと言わんばかりに振り向き様にニッと笑う。


「あれれ〜? 助けを求めてもいいんだぞ?」


「黙れよ……」


 彼らが入ってきた場合を考えると、これ以上の地獄絵図が広がることを恐れる。


 何せアリアもいるし、今まで支えてきてくれた仲間達をそんな目にも合わせたくない。


 勿論、今倒れているリリアやカミュラもそうだ。


 ギルヴァは次元の剣を展開。痛みに耐えながらも構える。


「男気溢れるじゃない。ゾクゾクするねぇ」


「ええ。まったく!」


 ウィンティスが先行し、クルシアはシャドー・ストーカーで追い詰める。


「おおおおっ!!!!」


 ギルヴァは次元分身を巧みに使い、何とか立ち向かい対抗するも、もはや誰の目にもジリ貧なのは見て取れる。


 そんな状態をアイシア達は悲痛な表情で見守り、クルシアは嘲笑(ちょうしょう)を浮かべながら、追い詰める。


「ははははっ! 健気じゃないか、ギルヴァくん。通したい信念も守りたい人達もいるってのは、綺麗なもんだねっ!」


「羨ましいか? お前には絶対味わえない感性だ!」


「そうだろうねぇ。ボクは道化だ。守るよりも攻めしかできない人間でね……」


 ぐばあっと影が(おうぎ)のように広がると、更に無数の影の矛が伸びて襲う。


 ギルヴァの分身ごと全員を一斉攻撃。


「――がああああっ!!」


 本体のギルヴァも腹を貫かれる。


「あ……ぐうう……」


 痛みに震える手で何とか突き刺さった影を引き抜こうとすると、ウィンティスが目の前に現れる。


「ああ……抜きたいのですか?」


 そう下卑た笑みを浮かべると、ギルヴァの身体を掴み、一気に引き抜く。


「――ぐああああっ!!!!」


「――ギルヴァッ!!!!」


 ギルヴァの苦痛の叫びが会場に響く。


 その光景をもう見てはいられないとアリアは、顔を手で覆い、座り込む。


 ウィンティスに雑に地面に叩きつけられると、息づかいを荒くしながらも、懸命に立ち上がろうとする。


「こ、ここからでも治癒魔法を……」


 ネネは詠唱を始めようとするも、こちらに何か企みがあるような笑みを向けると、ネネはビクッと反応し、詠唱を止めた。


 あの男のことだ、治癒魔法を使おうとして、あそこに倒れる三人に悪影響が出るかもしれないと警戒したのだ。


 今のクルシアはもう全員、何をしでかすのか読めなかった。


「本当に君は可哀想だよ」


「ぐ……うあ……」


 風魔法で宙に浮かせながら、ギルヴァを哀れんだ目で見る。


「どこかの殺人鬼さんの影響で、幼いにも関わらず人間関係が崩壊。特に君とメルちゃんは悲惨な目に遭い、一番苦労してただろうに。……報われないねぇ」


 クルシアは無理やり引き抜かれて出来た傷穴にそっと指を入れ、痛みを感じるところを手探りで探し、反応を楽しむ。


「があっ!? ぐ……あぁああっ!!」


「も、もうやめてぇ!!」


 もう見ていたくないと悲痛な叫びが訴える。


 その叫び声の主をクルシアは嘲笑(あざわら)う。


「アリアちゃん……そんな風に叫べばやめるとでも?」


「やめて……もう、みんなを解放してあげて……」


「悲劇のヒロインを演じればやめるとでも? ははっ! それは素敵な価値観だ。だが……ボクが満足する価値の証明にはならないなぁ」


 そう言うと、再びギルヴァを苦しめる。


「――ああああっ!!」


「いいかい? ボクは言ったよね? 君達の価値観はどこだい? どう証明する? 君が止めたいと願うなら、それだけの力を証明しなければならない」


「価値……」


「主人公に対し、悲劇のヒロインを演じ、やる気を駆り立てること自体は悪くない。君と彼の関係を考えれば、男女感の価値観としては十分成り立つだろう。だけど……その逆転劇を見せるはずの主人公様がこれじゃあねぇ……」


 アリアはその言葉に、納得せざるを得なかった。


 同情心を買わせれば、止まってくれると無意識に思っていたんだと。元々戦う力を持たず、とろくさい自分にできることは、やめてほしいと叫ぶだけしかできないと思い込んでいたのだと。


 その時、芽生える。


 何か自分に証明できる価値はないのかと。この状況を止められる、自分にできること。


 そんな考えの中、彼の今の仲間であるユネイルは激怒する。


「てめぇ!! いい加減にしやがれっ!!」


 ユネイルは剣に手をかけるが、クルシアはくるりと向くとギルヴァを盾にする。


「次は君達が来るかい? 構わないよ」


「待て!」


「止めてくれるな!」


「今のクルシアは何をするかわからん。彼女の二の舞いになるぞ」


 カルディナは酷く怯えたメルトアを見て、そう訴える。


「だったら……だったらどうすればいいんだよ……」


 リュッカ、アイシア、ナタルも同じ理由でカルディナに止められた。


 何もできず、歯痒い気持ちばかりが募る中、一人の男だけは実に楽しそうである。


「ボクは別に構わないんだよ? 幻術魔法の対策ができる三人はご覧の通り」


 リリアを含めた三人が戦闘不能状態である。


「さらに光属性持ちの彼女もあの状態だ……」


 先程よりも落ち着きは取り戻したものの、以前、戦意がある状態とは言えない。


「さあ……どうする? このまま彼を――」


 ギルヴァの傷口を(いじ)くり回す。


「あ、ああっ!!」


「――痛ぶろうかにゃ?」


「やめろって言ったんだろ!! 性格の歪んだ奴だ!!」


「その歪んだ奴に(もてあそ)ばれるのって、どんな気分? ねぇ? ねぇ?」


 ユネイル達が、クルシアが自分を道化だと言う理由が、よくわかった。


 道化(ピエロ)は主役前の前座。ありとあらゆる方法で客を楽しませる。


 クルシアはあくまで主役を被害者達と立てるための、悪役という前座だと言い切っているのだ。


 だからここまでの非道な行いも、人の心を(あざけ)るのも、その主役のやる気を駆り立てるため。


 そしてその被害者達が想定以上のことを行うことを楽しみ、さらにそれを上からねじ伏せることがこの男の楽しみであると、分析できる。


「……とんだクソ野郎だ」


 どれだけクルシアがクズだとわかっていても、力の差は歴然。


 五星教を赤子扱い、ギルヴァ達も満身創痍になるほど。しかも当人にはほとんど怪我がない。


 ギルヴァが痛みに苦しむ声が響き続けるが、メルトア達の二の舞いになると、誰も動けない。


 そんな中、一人だけ行動を起こした。


 その少女は駆け出す――ユネイルに向かって。


 ユネイルはその気配に気付くのが遅れた。


「――貸して!」


「なっ!?」


 バシッとユネイルが持っていた魔人の魔石を不意をついて取り上げる。


「ま、待つんだ!」


 ユネイルの止める声も訊かず、アリアは魔石を呑み込んだ。


 その様子を霞んだ意識にいたギルヴァからも視界に映っていた。


「ア……アリア? ――アリアッ!!」


 この時、初めてアリアがいることに気付いたメルトアも、驚愕の表情でアリアを見守る。


「あの娘、何を……」


 ウィンティスが邪魔だてしようとすると、クルシアが手を出して止める。


主人(マスター)?」


「面白くなってきたじゃないか。ちょっと様子をみよう」


 周りはアリアが魔石を呑み込み恐れる。あの二人のような死人になることを。


 同じ鳥籠(とりかご)の人達は、後退りながら恐れおののき、アイシア達は吐き出すよう促すが、時既に遅し。


「――っ!?」


 アリアの身体が脈動するように振動した。


 吐き気を抑えるように、口元を両手で押さえながらも身体はよろめく。


「はあっ……あぐぅう……」


 うめき声を上げながら、身体の中を巡る衝動に耐え抜こうとする。


 アリアの脳裏に浮かんだのは、皮肉にもクルシアの言葉――。


『―― 必要なのは自分の意志と覚悟と命だ』


 クルシアは言った。力が応えてくれるのは、自分の意志と覚悟だと。


 命は覚悟の現れでもあるが、アリアは今、この身体を巡る衝動を感じ、その言葉の意味を否応に理解する。


 この力は人の意志も意識も全てを呑み込もうと目論む。


 身体は自分が知らないほど脈動し、酷く寒くなっていく。


 かと思うと衝動に駆られ、まるで中から酷く焼き尽くされるような熱さにも見舞われる。


 自分の中なのに、何が起きているのかわからない恐怖心、これだけの異変から感じる不安感。


 自分の意志を(さら)いそうな感情がいくつも誘ってくる。


 まるで――不安から逃げなくていい。恐れるな。全てを委ねろと言われているよう。


 だがアリアはそんな死神の誘いには乗らないと、クルシアの言う通り、意志を強く持つ。


 自分が変わらなければ、何も変わらない。


 メルトアもギルヴァもラルクだって、変わろうと行動を起こしていた。


 自分はただ信じて待っていただけ。


 聞こえはいいが、それは何もやっていないことに等しい。


 そんな罪悪感もあってか、得られた一筋の希望。


 ここに偶然か必然か、()()()を境に悲しい別れをした幼馴染達が揃っている。


 そして、その元凶がここにいる。


 今、変わらず、いつ変わるのか。


 皮肉にもこの魔石もあの男が用意した物だが、それでも何かが変わる瞬間であれば……。


「――あぁあああーーっ!!」


 アリアから禍々しい魔力が溢れ出す。


「アリアちゃん!」


「しっかりしろ!」


 アイシア達は必死に呼びかける。


 その彼女の瞳は、血のような残酷な紅に染まっていた。


 だがこの光景はあの二人と同様であり、アリアは何かを吐き出そうとする仕草も取った。


「――アリアぁっ!! あぁ……」


 無理に叫び、痛んだギルヴァだったが、


「ああああああーーっ!!!!」


 その叫びなど比較にならないほどの大声が会場に響き渡る。


 その声から発される音の振動で、部屋は軋むような音が鳴り、皆も耳を押さえなければならないほどの声が発される。


「ナタルさん!! あのお三方の耳を守ってくださいな!!」


「わかりましたわ!!」


 この声の中、何とか聞き取れたナタルは、風魔法で俺達の耳を保護した。


 そしてその音波が集中したのは勿論、クルシアへ。


 ウィンティスがその音波を察知し、クルシアを庇うように前へ出て、風魔法で対応しようと手をかざすが、


「――なにっ!?」


 ウィンティスの身体は浮き、後方にいたクルシアごと吹き飛ばされる。


 その際、ギルヴァは投げ出されるも、クルシアはウィンティスの細い身体の下敷きになる。


 自分でも信じられないほどの声を上げたアリアは、やり切ったとばかりの息の荒れよう。


 充血に似たその紅い瞳がクルシアを見逃しはしない。


「はあ……はあ……これ以上、私の大切な人達を苦しめないでぇっ!!」


 その自己意識がしっかりしていることに、周りにいたユネイル達は安堵と歓喜に包まれる。


「大丈夫なのかい? アリアちゃん」


「は、はい。何とか……」


「アリア……!」


「トアちゃん!」


 アリアのことが心配でメルトアはラルクと共に側に寄ると、ラルクの方が辛そうな顔をする。


「ごめんな、アリア。お前にこんな思いを……」


「ううん。私が勝手にやっただけ」


 そう言うとラルクの頭をなでなでする。


 恥ずかしそうに振り解くと、アリアはクルシアの方へ視線を戻す。


「あの小娘……申し訳ありません。ワタクシともあろうものが……」


 ウィンティスは謝るが、クルシアに反応がない。


 ちらっと振り向くと、これまた楽しそうに笑っている。


「ふふふふ……楽しいなぁ。最っ高だよ! 今日はなんて素敵な日なんだい?」


 まるで絶好の〇〇日和みたいな物言いで叫ぶ。


「私は勝ったよ。クルシアさん」


「それはどうかな?」


「どういう意味だ!?」


「すぐにわかるよ」


 そのクルシアの企む笑みの答えが、すぐにアリアを襲った。


「――あっ!? ああ……!」


「アリア!?」


 再びアリアは苦しみ出すが、予想通りだとクルシアは語る。


「正直、驚いているんだよ? 魔人の魔石の意志に勝ったんだ。魔物の意志と人の死の奔流(ほんりゅう)の中を君の意志が勝ることに。ボク達のと違い、あまりにもリスクがあるからね」


 確かにクルシアの魔石は、アリアが呑み込んだ魔人の魔石ではない。


 それにテテュラの話によれば、ドクターが監修の元、とり行われたという。


 性質が違うとはいえ、クルシアやテテュラの魔石もリスクが無いわけではないが、アリアが呑んだ魔人マンドラゴラの魔石とは比較にならないだろう。


「でも身体がその魔力に馴染んでからが本番さ。魔物の意志が勝つか、君の意志が勝つか、高みの見物といこう!」


「てめぇはどこまでも……! アリアちゃん! 意識を――おおっ!?」


「ユネイルさん!?」


 アリアは呼びかけたユネイルの首を絞める。


 ユネイルはやめろと呼びかけながら、必死に抵抗する。


 そのアリアの表情は困惑と歪み睨んだ表情を繰り返す。


「コロ……ス。ニンゲン……ああっ!? 私、ワタ……」


 魔物の本能と自己意識が(せめ)ぎ合っているのが、誰の目にも止まった。


 全員で何とか引き剥がそうとするも、腕はびくともしない。


 クルシアは宣言通り、高みの見物からの愉快だと笑っていると、


「――っ!?」


 肩のあたりに痛みが走った。何が貫いた感覚。


 だが何が起きたかまでは、瞬時に理解できた。銃声が走ったのだから。


 クルシアとウィンティスがその攻撃の主を見る。


「……ほっそいくせに邪魔なんだよ。お陰で狙いが外れた」


「――リリィ!!」

「――リリアちゃん!!」


 アイシアとリュッカは俺が倒れた状態で魔導銃を撃った姿を捉える。


 俺はよろめきながらも立ち上がる。


 正直、ブレイン・アンサーの副作用はまだ残ってるし、腹を殴られたせいか気持ち悪いが、そうも言ってられない状況だからね。


「小娘……このワタクシが隙を突かれようなどぉお……」


 悔しそうに顔がくしゃっと歪むが、今更、怯みもしないと鼻で笑ってやった。


「――貴様ぁっ!!」


 ウィンティスはそう叫ぶと、よほど気に障ったのか、殴りに来た。


 挑発し過ぎたとは思うが、上等と魔導銃を構える。


「私のことを忘れないで……」


 俺の目の前から召喚陣が出現。そこから、黄金の装飾品を大量にぶら下げた死霊が現れる。


 その死霊はウィンティスの拳を受け止めると、高笑いしながら、殴り返す。


「ぐおっ!? この死霊風情が……」


「人間の怨霊をあまり甘く見ちゃダメ。特にこいつはこの町の欲望の塊みたいなものなんだから……」


 骸骨にも関わらず、高飛車な笑い声を上げることで傲慢な性格に見え、黄金の装飾品を悪趣味なほど身につけるこの死霊は、確かに欲望の塊と言える。


「お前、まさか……」


「そう。気絶したフリをして、この町で無念に死んだ富豪達の怨霊、悪霊を集めたのよ」


 ファニピオンならではの死霊といったところだと、自慢げに話すが、


「……本当は結構気絶してたんでしょ?」


「腹を一発殴られたくらいで身動きが取れなくなる。か弱い貴女に言われたくない」


 言い争いに発展する。


「舐めた真似を!!」


 ウィンティスの風魔法も、黄金の死霊が妨げる。


「まだ戦えるよね? ()()()()


「……! やっと名前で呼んだね」


「あのクソ野郎よりはマシだって思っただけ……。そっちは任せるよ! クルシアの思い通りになんてさせない!」


 クルシアはこの状況に恍惚(こうこつ)な表情を浮かべ、テンションが上がる。


「ははははははははっ!! 今日は盛大に盛り上がるなぁ!! いいよ……遊び尽くそう!!」


 ギリギリの俺達では限界もあると悟ったのか、


「――ロック・プレス!!」


 クルシアとウィンティス、両方を押し潰すように岩壁が地面から生え出てくるが、風属性の二人には関係ないと一瞬で破壊する。


「フン……んっ?」


 壊れた岩壁の両方に一人ずつ、人影が映った。


「舐めんじゃねぇ!!」


「切る」


 リンスとヒューイがその岩壁に隠れて奇襲をかけたが、二人に食い止められる。


「おやぁ〜? 戦意喪失したのではぁ〜?」


「貴女達……」


「馬鹿抜かすんじゃねえ!! つか、頭が冷えただけだ」


「うん。惑わされない」


「確かに貴方の幻術魔法は驚異です。ですが、それを戦わない理由にはできません! 今一度、戦います!」


 リンス、ヒューイ、ミナールが加勢してくれた。


「つーわけだから、銀髪とつり目。幻術の耐性魔法を頼むぞ!」


「名前があるんだけど」


「それは後。……わかった。いくぞ!!」


 クルシアと俺達の激闘が勃発する中、アリアの方はまだ葛藤している。


「お、お願いだぁ……」


「アリアっ!!」


「う……ウウ……」


 ユネイルの顔が少しずつ、でも確実に青ざめていく。


 このままではもたないと、アイシアは何か方法はないかと、辺りを見渡すと、地面を這いずるギルヴァの姿があった。


「――ギルヴァくん!」


 ギルヴァはアリアの状態をギッと歯ぎしりを立てて悔しがる。


「……すまないが、肩を貸してくれ」


「う、うん!」


 駆け寄ったアイシアとリュッカに肩を借り、ギルヴァはアリアの元へ。


「ネネちゃん! ギルヴァくんの治療!」


 ネネはユネイルを助けるのと、迷う仕草を取るが、自分の力不足をさらっと理解し、ギルヴァの治療をする。


「アリアっ!!」


「……あ、ああっ。うぐう……」


 反応があると、今一度呼びかける。


「アリアっ! 俺だ、ギルヴァだ! 目を覚ませ! そして俺達を見ろ!」


 アリアは魔物の本能に抵抗しながらも、ギルヴァの呼びかけに応えるように、ギルヴァを見る。


「そうだ。お前がずっと待っていてくれた状況だろ? やっと四人、再開できたんだ。それなのに、お前が……お前がそんなんでどうする!?」


 そのギルヴァの訴えに二人も呼びかける。


「アリア! 私はここよ」


「アリア!」


 魔物の意志をコントロールすることなど、ギルヴァ達には想像もつかないことだ。


 アリアがどれだけ必死に抵抗しているのかも、この表層面的な部分でしか理解ができない。


 だからこそ、一人で待たせ続けたアリアに叫び、訴えるのだ。


 簡単には昔のようにはならないだろうけど、四人揃うくらいはできると。


 きっと新たな関係として一緒に居られると。


「負けるなっ! アリア!」


「……」


 その訴えが通じたのか、ユネイルの首を掴んでいた手が緩む。


 アリアの手を掴み、抵抗していたカルディナ達はそっと手を引くと、力なくアリアは前に倒れかかる。


「しまっ――」


 ユネイルも解放された影響か、後ろに倒れ、尻込みをついていた。アリアを受け止めることができない。


 だが、


「――アリアっ! あっ! 痛っ……」


 ギルヴァの胸の中にもたれつくが、受け止めた本人も痛そうにする。


「ダメですよ! ギルヴァ。傷口が酷いのですから……」


「すまない、ネネ。だが……」


 優しく撫でるその彼女は、苦しみから解放されたかのような穏やかな表情。


 思わずギルヴァも笑みが(こぼ)れる。


「良かった……良かった……」


 そんな感動の瞬間をこの男は、無粋に踏みにじる。


「――あっははははっ!!」


「ぐああっ!」


 アリアを止めていた一同は振り返ると、そこにはやはり圧倒的な力でリリア達をねじ伏せるクルシアの姿があった。


「や、野郎……」


「強い」


「う……こんな、人に……」


「君達はまるでダメダメさんだねぇ。リリアちゃん達は期待できるけど、さすがに限界かい?」


「はっ! ほざけ」


「――リリィ!」


 クルシアはアリアの様子を見ると、称賛よ拍手を送る。


「おっ! 彼女、死ななかったんだね。凄い凄ーい。これは友情? 愛情? どちらにしても面白かったよ」


「何度も言わせるなっ! いい加減にしろ!」


「何度でも言いなよ、ボクはやめない。それにね、今日は最高の日なのさ……」


 そう口にすると両手で顔を包み、あまりにも酷い表情が顔に出るのだろう、悪意に満ち満ちた声と共に感激する。


「奴隷達を(もてあそ)び、メルちゃん達を絶望に叩き伏せ、魔石の適合者はできた挙句、その副産物としてこんなドラマが見られた……ははははっ! 最高さ! これだから人生観察はやめられない!」


「自分で誘導した人生でもか!?」


 アリアは明らかに誘導された形で魔石を呑み込んだ。


 最初に何も価値が無いと押し付け、考える時間を作り、ギルヴァを苦しめて背中を押した。


 こいつは人生観察が好きだと言うが、そのほとんどがこいつ都合の人生だ。


 残酷なものなのが、よりたちが悪い。


 だがクルシアはやはり正論じみた答えを返す。


「いやいや、人生なんて他人と関わることで形成されていくんだ、一重にボクのせいだけじゃあないだろ? 彼女の人生が変わったきっかけ作りも結局、ボクではあるが、そこからの経緯があるからその結果にたどり着いたんだ……」


 魔石を取り込んだアリアを見ながらそう語った。


「確かにお前の言う通りだが、やっぱりお前の言葉で訊きたくはなかったよ。だからさ――そろそろ舞台から降りないか?」


「は?」


「お前は自分はピエロだって言ったな? 前座だって……」


「そんなことも言ったね。それで?」


「もう前座は要らないって言ってんだよ!!」


 感情が乗り、男口調になって怒鳴る。


「お前が苦しめて、花を添えられた主人公達はとっくに舞台(このせかい)の上に立ってんだよ! 観客に熱を与える前座の出番はもう不要だ! 前座は前座らしく……とっとと舞台(このせかい)から降りろ!! この狂ったピエロがぁっ!!」


 銃口をむけてそう語る俺のその発言を訊いたクルシアは少しポカンとするが、すぐに腹を抱えて笑う。


「――ハハハハハハハハッ!! …………やぁだよ!! ボクはその主人公達を蹴落としてでも舞台を盛り上げる狂った道化でいたいのさ。例え、どれだけの血が流れようとも!!」


 それが楽しみなのだから、奪わせないよと楽しげに語る。


 やはりどうにも止まらないようだ。


「いいかい? 善行も悪行も全て……役者を引き立たせる素晴らしき舞台装置。それを担ってるんだ……少しくらい好きにしたっていいだろ?」


「もうさせない!」


 リンス達の次はとアイシア達も前に出る。


 その様子を見たクルシアは、カルディナ達についている奴隷の刻印を解呪した。


「舐めた真似を……」


 今まで何も出来なかったフェルサも唸り声を上げて、威嚇し、ナタルもこの時が来たと構える。


「いいよ。止めたきゃ、かかってきな!」


 正直、もう俺達は限界だ。


 相変わらず頭は痛いし、気持ち悪い。それに魔力の消耗も魔人の時のように枯渇(こかつ)しかけている。


 だが、ここでこいつを逃せば、この好機がいつ訪れるかもわからないし、そもそも今回の件でよく理解できた。


 こいつは世界にとって、ウイルスみたいな奴だ。それもとびっきりの毒性を持つ厄介なヤツ。


 そんな考えの元、また戦闘が再開されそうになった――その時。


「――ダァーーリーーン!!!」


 空中から次元の穴が開き、そこから愛想を振りまき、媚びた声でクルシアに飛びついていく獣人の姿があった。

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