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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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27 道化の実力

 

「あっれれ〜? ボクとしたことがミスっちゃったぞぉ〜。結界を破壊しなきゃよかった! テヘ♡」


「……わざとだろうが、クソ野郎」


 初対面であるギルヴァですら、クルシアの性格を正確に理解しているよう。


 あの物言いからもわざとだと伝わってくる。


 すると俺達が戦う意向を示したことで、鳥籠(とりかご)の中にいた人達を保護したアイシア達も険しい表情でクルシアを睨むと、


「私達もやるよ!」


「うん。絶対許せない」


「ああ。女の子をあんな風に泣かせる最低野郎……いくら格上だろうが、全力でぶん殴る」


「わ、私の分もお任せしてもいいですか? その代わり、しっかりサポートします!」


 普段、物腰が落ち着いて優しいリュッカやネネですら、怒りを露わにしているが。


 その気持ちは嬉しいし心強いが、


「いや、闇属性組み(わたしたち)だけでやる」


「えっ!? 嫌だよ、リリィ。私達じゃ、力不足?」


「そうだよ。戦わせて、リリアちゃん!」


「……ありがとう、二人とも。だけどやっぱり私達だけでやる」


 それを訊いた二人は悲しい表情で落ち込むが、カミュラがフォローする。


「貴女達……幻術魔法の対策は?」


「!」


「確かに私達が耐性をつければ、対抗できるかもしれない。けど、それはこちらの戦力を落とすことにもなる」


「そ、それは……」


 耐性を元々持つ俺達ならば、一人がその耐性サポートに徹すれば、クルシアとまともに戦える。


 するとその堂々とした作戦会議に割って入る。


「そんな野暮なことはしないさ。正々堂々戦おうじゃないかー」


「お前の言うことなんて、信用できるかっ!!」


「安心して。みんなの想いも込めて戦う。だからその人達と彼女達をお願い」


 鳥籠(とりかご)の人達に加え、五星教のトップ連中も任せることにした。


 すると納得したアイシア達はこくりと頷くと、エールを贈る。


「――リリィ! クルシアなんてぶっ飛ばしちゃえ!」


「お願い! リリアちゃん!」


「うん! 任せて!」


 そんな俺達をクルシアは、物欲しそうな視線で呟く。


「ああ……いいなぁ。壊したい……」


 その背筋も凍りつくような視線と発言に、怯むことなく俺は語る。


「バザガジール……あの男も十分イカれてるよ。死に迫る瞬間を味わい尽くしたい、命の賭けあいが生きがいとか……どうかしてるって思ってた。けど……」


 俺はいつでも戦えるぞと二丁の魔導銃を構える。


「――お前の方が万倍……いや、億倍イカれてやがる!!」


「はははははははは……」


 しばらく笑うと、髪をかき分ける仕草と同時に宣言する。


「――今更かい!?」


 クルシアのそのセリフと共に、殺し合いの火蓋(ひぶた)は落とされる。


 カミュラが笛の音を鳴らすと同時に、ギルヴァが翔歩で間合いを詰める。


 そのギルヴァの手には真っ黒の(いびつ)(ゆが)んだザザッとノイズ音のする剣の形をしたものを所持していた。


「はあっ!!」


 だがクルシアの防壁の前に、ビリビリと振動しながら防がれると、ギルヴァは吹き飛ばされて投げ出される。


「この程度――」


「なわきゃねえだろ!!」


「!」


 精神型であるはずの俺が背後に現れたことに気付くクルシアは、即座に()ぎ払い対応する。


「ぐうっ……!」


 だが、俺はソウル・アクセルの加速を利用し、吹き飛ばされながらも弾を撃ち込む。


「無駄さ!」


 クルシアは風の防壁を展開するが、


「――っ!?」


「チッ……外した」


 クルシアの頬を(かす)めると、一筋の傷ができ、血が滴る。


 それには思わず、アイシア達も歓喜の表情を浮かべる。


「へえ……」


 だが相変わらず怯みもせずに、余裕の笑みを浮かべるクルシアはすぐに分析に入る。


 先ず、カミュラはサポートに徹していると分析。


 先程から、同じような曲調で演奏を行なっていることから、幻術魔法の耐性がつく魔法を持続的に使用しているように考える。


 次にリリアが瞬時に来れたカラクリは、足についている付与魔法がファイア・アクセルと似ていることから、それのオリジナルと分析。


 精神型で速度を上げて接近するとなると、どうしても肉体強化の魔法や補助を行う付与魔法が必須となる。


 ギルヴァが先行し、盾になっていたとはいえ、精神型の彼女が一瞬の不意をつくということに楽しさを感じられずにはいられなかった。


 それともう一つ、風の防壁を貫通しての弾丸。


 この世界では珍しいタイプの攻撃方法であるが故に、色んな可能性が浮かぶも決定打がない。


(ああ……わくわくさせてくれるなぁ)


 そしてギルヴァの能力は次元系と分析。


 クルシアは超高速でギルヴァの背後を取ると、


「さあ、いっちゃうよ!」


「ぐっ!」


 風を全体ではなく、収束する形で斬りつける。


 すると、ギルヴァは真っ二つに裂かれる。


「――ギルっ!!」


 だがクルシアはすぐに違和感を感じ、背後上空から斬りかかるギルヴァを受け止める。


「やるね〜。ザーちゃんとは違うタイプだ」


「……誰のことを言ってるのか、わっかんねぇなぁ!!」


 お互いの剣が弾き合うと互いに距離を取る。


「くそっ! あの防壁が厄介だ」


「うん。風属性ってのは、ホント厄介だよ」


 カルディナとの戦った時も思ったが、風属性持ちは本当に万能である。


 特にクルシアの場合は、肉体型、精神型以前に、半魔物状態であるが故に、接近戦も魔法合戦も持ってこいの状態。


 近接では風の如く、目にも止まらぬ速度で動き回る。


 さらには風の防壁は常に展開されており、こちらの攻撃はほとんどが受け流されるか、吹き飛ばされる。


 特に俺の弾丸は空気抵抗を受けやすいため、簡単に防がれる。


「やるねぇ。正直、驚いてるよ。特にリリアちゃんとギルヴァくんにはさ」


「はっ! そうかい」


「まあタネは大体割れたけど……」


 クルシアは飄々(ひょうひょう)とそう言う。


 伊達に人間観察を趣味とは言ってないらしく、洞察力は優れているのだろう、残念なことに。


「まあ簡単な手品だよね? あの弾。消えるではなく、透明になるんでしょ?」


「ああ、そうだよ」


 俺の弾丸がクルシアの頬を(かす)めたのは、風の防壁による抵抗を受けないように弾を透明化し、クルシアの魔力に反応して具現化するように細工してある。


 その弾の名はファントム・バレット。


 闇の魔力を乗せた弾丸で発動が可能となった。


 その種明かしをさらりと話す様を驚いた様子で指摘する。


「そんな簡単に肯定してどうする!?」


「タネがバレるなんて想定内だよ。そもそもクルシアに誤魔化しはあまり効かない。それにまだ出すもん出してないしね!」


 すると俺は腰に巻いている腰袋から、複数のマジックロールを展開すると、クルシアに術の正体がバレないよう、魔力を流し込んで発動。


「へえ……新しい付与魔法かい?」


「さあね」


 クルシアは俺の瞳をジッと見て、判断を(あお)ぐ。


 リアクション・アンサーを発動した場合、瞳が紫色に光ることは知っているが、リリアが先程の攻撃をする際から発動していることは確認している。


 精神型のリリアが近接戦を行うつもりなら、その魔法は必須になるだろうと考えたからだ。


「そう、じゃあ……お楽しみといこうか!?」


「来なよ。クソ野郎!」


 そう叫ぶと、ソウル・アクセルを使い、牽制(けんせい)しながら距離を詰める。


 そしてこのまま接近戦に持ち込んだ。


「おや? 正気かい?」


「大真面目だよ。てめぇの脳天に撃ち込むまではなっ!!」


 俺は銃を使った高速近接格闘術を披露する。それと対するようにクルシアも二刀の剣で応戦する。


 クルシアと俺の距離は殴り合いができるほどの短い距離。俺は殴る代わりに銃口を素早くクルシアに向けて撃つ。


 だがクルシアの判断能力、反射速度も並みではなく、隙あらば俺に斬りかかる。


 ――その前衛顔負けの戦いを披露する俺に、期待感を抱くアイシアはぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ。


「凄いよ、リリィ! クルシアとあんな凄い戦いしてるよ」


「凄いですわね。今のわたくしが戦っても勝てるかどうか……」


 以前、戦ったカルディナの記憶では、リリアは魔法をメインで戦う後衛ポジション。


 あまりの適応能力の速さに驚きを隠せない。


 するとリンスとヒューイが尋ねる。


「黒炎の魔術師つーから、てっきりミナールみたいな後衛型だと思っていたが……」


「……万能」


 二人も驚くほどの高速戦闘が繰り広げられている。


「なあ。黒炎の魔術師って精神型のはずだよな? あの動きは一体……」


「あれは多分、リアクション・アンサーという彼女オリジナルの魔法によるものだと思います」


「リュッカさん宜しいので?」


 思わずカルディナは止めに入る。


 彼女達はクルシアの被害者とはいえ、闇属性殺しを推奨する組織のリーダー格。


 手の内を明かすことは危険だと考えての発言だった。


「大丈夫です。私、信じてますから……」


 リュッカは柔らかな語り口の中に、確信を持ったように答えた。


 なんの根拠もないと思うカルディナだが、二人はリュッカの真っ直ぐな瞳に感心する。


 その見つめる先には、リリアとクルシアの戦闘シーン。


 二人は同じ瞳を知っている。あれは仲間を、友達を信じる眼差しであると。


 普段、一緒に行動する仲間達、同じ立場を共有する者達を信じている眼差し。


 二人も若くして五星教のトップに昇り詰めたが、その原動力はメルトア同様、闇属性が原因であった。


 メルトアほど悲しい過去は持たないものの、他人の不幸の尺度は違うもので、二人もメルトアの法案はやり過ぎな気もしたが、受け入れることに時間はかからなかった。


 だから強い仲間意識というのは知っている。


 リュッカやアイシア、カルディナ達から感じる仲間意識というのは、強い信頼関係が築かれているものだと気付く。


 そして闇属性持ちにも、そんな真っ直ぐな信頼関係を築けるのだと感じたのだ。


 だが同時に自分の惨めさや浅はかさにも気付く。


「……お前は黒炎の魔術師を信じてるんだな」


「勿論です。大切な……友達ですから」


「私もだよ!」


 リュッカとリンスの会話にアイシアも混じる。


「いい? リリィはクルシアみたいな悪い魔法使いじゃないの! リリィは優しくて、カッコよくて、あんな風に真剣にぶつかってくれる時もある……自慢の親友なんだから!」


「そっか。凄えな」


 そのドヤ顔で語るアイシアの想いが伝わったのか、ヒューイも口元を緩めて微笑む。


 そして、遠巻きにそれを訊いていたアリアは、少し聞き耳を立てるように聞き入る。


「それに比べたら、アタシ達は情けねぇな。本物のリアンかと思ってた奴があのクソ野郎なんてよ……」


 悔しそうに俯きがちに語るリンスの声は、泣くのを我慢しているかのよう。


 するとアイシアは、優しくハグをする。


「なっ!? 何を……?」


「泣いてもいいんだよ?」


「なに……?」


「我慢なんて要らない。大切な人がどんな形でも亡くなったなら泣いたっていい。だってきっとそれが貴女の強さに変わってくれる」


「!」


 リンスはメルトアの過去を思い出す。


 メルトアもあの悲しい過去から、強さを身につけたと思う。


 クルシアは変わらないと話していたが、リンスから見れば、メルトアの真剣に取り組む姿勢には学ぶとこらがあった。


 だがアイシアの言う強さとは違う気がした。まるで涙の意味を考えろと悟らされているよう。


 それを代弁するかのように、リュッカが寄り添うように近付いて語る。


「リアンさんの死で流した涙を、悲しみだけで染めてはダメだって言いたいんだと思います。しっかり後悔し、反省するためにも感情は吐き出した方がいいということだと思います。だからアイシアは胸を貸してるのだと思いますよ」


「うーん……リュッカの言ってること、難しい」


「はは……」


 リュッカの言葉とアイシアに抱きしめられた優しい温もりに、リンスは思わず身を委ねるように抱きしめられる。


 それを察したアイシアは何も言わず、もう少しそっと抱きしめた。


 普段から感情があまり表に出ないヒューイでさえ、リュッカの言葉には堪えた。


 今にも泣き出しそうな表情をしていると、アイシアが少しリンスを右の方へ寄せると、空いてる方へと手招きする。


 最初は少し恥ずかしさが優っていたが、曇りのない優しい笑顔にアイシアの胸の中に吸い込まれるように身を寄せた。


「……ごめんなぁ……リアン」


 涙声でか細く謝罪を口にするリンスと、すすり泣くヒューイ。


 二人が心の中で(くすぶ)っていた後悔が涙へと変わり、想いを吐き出すごとに溢れ出る。


「ごめんな! お前のこと……ちゃんと見つけてやれなくて……弱くて……ごめんなぁ……」


 その様子を二人の副隊長は思い思いに見守る。


「これでまた……リンス様も強くなるっスかね?」


「なるさぁ〜!! ヒューイ様だってぇ〜!!」


 リグに関しては、ヒューイの成長を喜ぶように号泣する。


 まるでお兄ちゃんかお父さんである。その様子には、ボロボロのチェシーも力なく苦笑い。


 そして、それを訊いていたアリアもまた、友達の在り方を考える。


 自分の出来ることはなんだろう。


 かつてはギルヴァと別れた際には、こう言われたのを鮮明に覚えている。


『お前が信じて待っててくれるんだろ? だったら、安心できる……』


 まだ幼かった私達の悲し過ぎる別れ。


 メルトアは家族を奪われ、闇属性持ちへの復讐と絶望の念に呑まれ、ギルヴァはその一年後に闇属性と判定され、故郷を幼くして去った。


 ラルクと自分はその悲しみの連鎖から抜け出せずにいながらも、アリアは自分ができることをギルヴァに伝えていた。


 それは信じていること。


 また幼かったあの頃のように、四人で笑い合う穏やかな時間が帰ってくることを。


 あの故郷で待つことが、力もなく、過激な考えなど出来ないおっとりとした彼女の答えだった。


 だがこうして懸命に自分の過去と戦うギルヴァを見て、自分は彼らのために何も出来ていないのでは? もっと分かち合える方法があったのではと考えた。


 ――激しい激戦は続く。


 俺自身も疲労感が目立ってきた。酷く息切れをしている。


「さすがにバテてきたかい、リリアちゃん? リアクション・アンサーに身を委ねるのは割と体力を使うようだね〜」


 そう語るクルシアだが、得た情報よりも精度が増しているように感じていた。


 確かにリアクション・アンサーなら自分と張り合えるほどの近接戦闘は可能だ。


 いくら目が動きを捉えられずとも、身体が最適解を出し、行動してくれる補助のおかげで対応できるわけだが、その精度が飛躍的に向上したように感じた。


 純粋にリリア自身が強くなったものだという考えで、切り捨てることは容易いだが、変化には理由が必ずあるのだと思考を止めない。


「随分とお疲れの様子だけど、まだいけるかな?」


「はは……勘弁して欲しいな。こっちは慣れない近接戦闘でやっとなんだよ」


 実際問題、マジックポーションと頭痛薬を飲みたいところ。


 というのも、かけている付与魔法はリアクション・アンサー、ソウル・アクセルだけではない。


 ブレイン・アンサーといい、リアクション・アンサーの補助という形の魔法だが、この魔法、単体でもかなり出来がいいオリジナル。


 ブレイン・アンサーは脳内の思考速度を早める効果がかる。


 簡単な例を上げると人間の思考速度をコンピュータ並みの速度まで上げることができる。


 思考速度が早まれば、それだけ身体に送る信号も早くなるわけだ。


 だがこのブレイン・アンサーは下手に長期使用すれば負担も大きくなり、特に脳内に負荷を与えるわけだから、頭痛と疲労感が襲ってくる。


 だから早期決着を望んでいたのだが、やはり上手くいかない。


 その酷く疲れた俺をフォローする形で、ギルヴァが前に出る。


「体力を温存しろ。俺がやる」


 ギロっとクルシアを睨むと、無数の歪んだ黒い剣状のものを自分の周りに浮かす。


 まるでメルトアが戦って見せた、七つの虹色の剣のようだ。


 すると瞬時に距離を詰めたギルヴァは、無数の剣を使い、我流とは思えない剣捌きと宙に浮かんだ黒い剣を自在に操る。


「君の能力も大したもんだよ。ザーちゃんとは違い、空間系ではなく、次元系なんだね」


「ムカつくくらい賢いなお前っ!」


「お褒めに預かり光栄だよ」


 ギルヴァの闇属性としての得意系統はザーディアス同様、時空系統。


 ザーディアスの場合は空間と空間を繋ぎ、移動を得意とする能力であるが、ギルヴァの場合は時間を操る能力となる。


 とは言っても、周りの時間を止めたり、早めたりなど物理的に干渉を行うものではなく、あくまでその空間内に微々たる次元干渉を行うというもの。


 つまりはズレを起こさせるというもの。


 先程、真っ二つにされたのはそのズレで生じた、本物とほぼ同じ感覚を持った残像。


 そしてギルヴァの使用するノイズ混じりの(いびつ)な黒い剣は、その次元干渉濃度を濃くし、武器として実体化した次元の剣。


 無限に作ることができるメリットがある反面、非常にシビアな魔法で、そのコントロールを行うのに、ギルヴァもかなり苦労した。


 次元系の魔法はほとんど使用されておらず、前例も少ないことから、ギルヴァは我流でやる他なかった。


「随分と苦労したんじゃない? メルトアちゃんのせいもあってさ……」


「メルは関係ない。どちらにしても俺にあの町での居場所はなかった。()()()は今でも恨んじゃいない。むしろ感謝してるくらいさ!」


 次元の剣がクルシアへ向かいホーミングするが、地面だろうが空中だろうが動き回るクルシアを捕らえるのは難しい。


「あれを感謝だなんて……君ってマゾなんだね」


「俺はそんな変態じゃない! というか、何故そこまで知ってる!?」


「ボクの趣味は人間観察と人生観察なんだぞ?」


「どう違うか……わっかんねぇよ!!」


 クルシアに無数の剣が刺さったかのように見えたが、姿はない。


「くっ。どこに――がっ!?」


「ここだぴょーん」


 いつの間にか懐に飛び込まれていた。そのまま腹を蹴って、吹き飛ばす。


「――ああああっ!!」


 すると笛の音が音調を変える。


 スゴゴと何かが迫り上がる音が響くと、地面から人骨の大きな手がギルヴァを受け止める。


 まるで野球ボールがグローブにすっぽりと収まるようにキャッチ。


「す、すまない」


 カミュラは視線をクルシアへ戻すと、無数の死霊の腕を召喚し、クルシアへと迫る。


「おっ? 君も攻め手に転じるのかい?」


 楽しそうな口ぶりで無数の死霊を回避するクルシアに、詠唱していた俺の魔法が炸裂する。


「――他の者の勝利無き現実を映せ! ――シャドー・ストーカー!」


 速さで(かわ)し切られるなら物量で勝負と、カミュラと共に数で圧倒する。


 無数の死霊の腕と無数の影の槍の猛追がクルシアを追い詰めるが、当人は……、


「――ははははははははっ!!!!」


 愉快だと大きな声で笑いながら、全てを回避する。


「……マジかよ」


 その凄まじい光景に唖然とする一同も、これを全て(かわ)しきるクルシアの異常性に驚愕を覚える。


「クルシア……リリアさん達のあれだけの攻撃を凌ぎ切るだなんて……」


「リリィ達も凄いけど……」


「改めて、あの人の恐ろしさを思い知りましたね」


「幸いしているのは、あれから魔石を奪わずに済んだことかしら?」


 カルディナはユネイルの持つ魔人の魔石をちらりと見て、そう語った。


 成り行きを見守るしかないアイシア達の心境は非常に複雑である。


「冗談だろ? あれだけの攻撃を……」


「ははっ! ボクも中々楽しめてるよ」


「本当にムカつく。性格も悪ければ、実力も嫌がらせみたいに強いのね」


「褒め言葉として受け止めておくよ。……そうだ! 嫌がらせついでに君達の得意分野でお相手しようか?」


「何……!?」


 するとクルシアの影が伸びて(うごめ)く。


「――シャドー・ストーカー……」


「……っ!」


「そ、そんな……」


 明らかに俺よりも影の濃度が濃く、さらに数も倍以上だ。


「ボクちゃん、影魔法は得意じゃないんだけどぉ〜、どうかにゃあ?」


「ああ……最悪の気分だよ。満足?」


「いいや、――召喚(サモン)!」


 今度は召喚魔を呼び出した。


 緑色の魔法陣からは、嵐のように轟音が吹き荒れ、高笑いをしながら現れる。


 その登場の仕方にデジャヴを感じる。


「――ハハハハハハハハッ!!!! ワタクシの最高にして最悪最凶の我が主人(マスター)! このウィンティス、只今参上致しました」


 ヤギのような角が二本、尖ったクチバシのような顔面には、インフェル同様、紅い目だけがあるべき場所についている。


 身体と手足はあまりにも細い。少し手心を加えれば、バキッて音と共にへし折れそうなくらいに細い。


 そしてその身体の肉付きとはアンバランスなくらい大きな翼が生えている。


 この奇妙さが不気味感を(かも)し出す。


 その異様な雰囲気を出す召喚魔の気配に、覚えのある東大陸勢(おれたち)は冷や汗を流す。


「マジかよ……」


 その姿は悪魔であった。


 しかも風を起こしての登場から、風の悪魔――ウィンド・デーモンと思われる。


「やあ! ウィンティス。ご機嫌は如何?」


「そりゃあもう素晴らしいですとも! あんな退屈な場所から解放して頂いたこと、貴方様のような素晴らしき人物にお会いできたこと、まったく素晴らしい!」


 天を(あお)ぐように情熱的に語るウィンティス。


「どうだい、リリアちゃん。君に習って悪魔と契約してみたんだ。素敵だろ?」


 するとウィンティスは、ほぅと感心する一言を漏らすと、ジロリと見られる。


「ああ、貴女様がインフェルノ・デーモンの飼い主様ですか。確かに彼好みの魔力を持ってらっしゃる……」


「そりゃどうも」


「しかし、いかんせん淀みのない瞳をする娘だ。あのインフェルノ・デーモンとはいえ、悪魔を使役する者には見えませんなぁ」


 悪魔を従えるには相応しくないと、哀れんだ言い方をする。


「どんな奴が悪魔を従えていようと勝手でしょ? それにインフェルは私の気持ちにも応えてくれるくらい、優しい子になったよ」


 と俺は思うが、本人(インフェル)はどうなのかは定かではない。


 一応、勇者の末裔(アルビオ)を殺すって目的は生きてるわけだし。


 するとウィンティスは高笑いする。


「ハハハハハハハハッ!! 気持ちに応える? 優しさ? 正に悪魔に相応しくなぁい。まああのインフェルノ・デーモンですから、この娘の色香に当てられて(ほだ)されたのでしょうが……」


「随分とインフェルの印象が悪いようだね」


「ええ! あの悪魔は我々と違い、戦いにプライドだのにうつつを抜かす愚か者。悪魔のプライドとは残虐、残酷、冷酷、非情、非道、狡猾、悪辣……人々を(おとし)め、苦しめてこそなのです!」


 まあ確かにウィンティスの言うことの方が悪魔らしく聞こえる。実際、インフェルも最初こそ殺伐としていた。


 でもインフェルは俺と関わっていくうちに、荒々しく暴力で解決しようという当初の考えは消えていたように思う。


 そうでなければ、テテュラに憑依したままでいるなんてことはない。


「それが正しいって思ってるから、勇者に封印なんてされるのさ。変わることが怖いんだろ?」


「……」


 ウィンティスはピタリと動きを止めた。


「はははっ! 言われてるねぇ、ウィンティス! ねえ、どうだい、返答は?」


「ク、クク……ハハハハハハハハッ!!!! 肝の()わったお嬢さんだ。……なるほど、インフェルでしたか、今の名は。彼が従うわけだ。……それで? 今回のご用件は?」


 そろそろ呼び出された用件を尋ねる。


「彼女達を(なぶ)ってほしい」


「殺さないので?」


「やだなぁ〜、殺すなんて簡単なことしちゃダメさ。だからリリアちゃんに言われるんだよ。心の底から絶望させた後に、ほんの少しの希望を垂らして(すが)ったところを裂くように殺す方が楽しい!」


「さすがは我が主人(マスター)!! 所詮は魔物であるワタクシでは考えが及ばないところにまで、お手が届く……実に素晴らしいぃ……」


 ニタリと悪辣な笑みを浮かべるあたり、実に悪魔らしい。


 そしてこれほどクルシアと相性の良さそうな召喚魔も珍しい。


「さあ……第二ラウンドと行こうか?」

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