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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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26 繰り返す悲劇

 

 俺の叫びは虚空へと消えた。俺の違和感を置き去りに、五星教の面々は安堵の表情を浮かべている。


「強敵だったが、まあアタシ達にかかればこんなもんだろ?」


「まあ」


「さて……」


 すると今度はこっちだと、殺気だった目線をこちらへ向けるメルトア。


「久しぶりね、ギル。こんな再会をするとはね」


「ああ。出来れば穏便に……」


「悪いけど、貴方も闇属性である以上は……?」


 ギルヴァどころか、リリア達の様子もおかしいと気付く。


 その様子を勿論、他の五星教も見ていたので後ろを振り返ると、


「な……!?」


 光の拘束が解けた身体の服装は五星教のものだった。


 そして――ごろりと転がった首の拘束も解ける。


「え」


 信じられないとポツリと呟いたメルトア。


 その首の正体は――、


「リ、リアンちゃん!?」


 反目開きに吐血しているリアンの首が無造作に転がる。


 名を叫んだミナールは思わず、ぺたんと力無く座り込む。


「う、嘘だろ……嘘に決まってる!! 確かにあのクソガキだったぞ。捕らえたのは!!」


「何故……」


 リンスもヒューイも勿論、遠くから見ている副隊長達も驚愕を隠しきれない。


 特に冷静さを失くしていたのはガオル。


「リアン様……リアンさまぁーーっ!!」


 ガオルはその首を抱えるが、返事はない。


「そんな……何故……」


 茫然と立ち尽くすメルトアは、ハッとなり、隣にいるリアンへと向く。


「そうよ! リアンはここ……に……」


 その振り向いてみたリアンの表情は、本来、彼女がするはずもない悪辣な笑みを浮かべて、楽しそうにメルトアと視線を合わせる。


「くく……ひひ……」


 笑いを堪えながら少し距離を置くリアンは、過呼吸でも起こしたかのように苦しそうにしている。


「ねえ? もう我慢しなくてもいいよねぇ?」


 そう言うと思いっきり腹を抱えて、


「――あっはははははは!! アハ! あははっ! あははははっ!! ひ、ひぃ……くる、苦しい……いひひ、ひひ、ハハハハハハハハハハっ!!」


 これでもかと言うほど大笑いした。


 一つ、明確にわかったことがある。この大笑いをしているリアンは本物ではないと。


「お、お前は……まさか……」


「いやぁ……ひひ、正攻法でさぁ、はははっ! 殺せそうにないからって……ひひ、笑い死にさせようってのは、いい作戦だよ。――ははははははっ!!」


 俺の違和感は的中してしまった。


 人の死をここまで嘲笑(あざけわら)うクソ野郎は一人しかいない。


「お前――クルシアだなぁっ!!」


「ははははっ!! 正解〜!!」


 リアンの姿からスッとクルシアが姿を見せた。


 五星教達は絶望と目の前の光景が信じられず、ただただ茫然と立ち尽くす。


「いやぁ、実に楽しい演出だったよ。あんなに笑ったの久しぶり。ボクを殺してもないのにドヤってるメルちゃんと来たらさ……ぷぷ、くくく……あははは……」


「あ、ああ……」


 クルシアの馬鹿にする笑い声が、メルトアを現実へと引き戻す。


 リアンを斬り殺してしまったショックを感じながらも、湧き立つ怒りの矛先を向ける。


「――ああああああああっ!!!!」

「ブッ殺すっ!!!!」

「死ね!!」

「……っ!!」


 五星教の四人は一斉にクルシアへと刃を向けるも、


「――止めろっ!!」


 勢いよく風を起こし、四人まとめて吹き飛ばす。


「――があっ!?」

「――ぐうう!?」

「――かっ!?」

「――きゃあっ!?」


 クルシアは嘲笑(ちょうしょう)の笑みを絶やすことなく、馬鹿にするように喋る。


「あのさ、手加減されてたってこと、気付いてくれないかにゃあ? 君達みたいな雑魚相手にボクがやられるわけないってさ!」


「ふざけるな……ふざけるなぁっ!!」


 ガオルが剣を抜きクルシアを刺そうとするが、軽く(かわ)すと膝蹴りを加える。


「――おごぉっ!?」


「はいはい。ボクちゃんは引っ込んでよう、ね!」


 お腹を押さえて苦しむガオルを勢いよく蹴り飛ばすと、副隊長達の元まで飛ばされる。


「ガ、ガオル!?」


「がは……そ、そんなことが……リアン様ぁ……」


 そんな強過ぎるクルシアにチェシーが物申す。


「お、おかしいっスよ!」


「何が?」


「ここはオイラ達が結界を張った場所っス。闇属性持ちのあんたには、戦いづらかったはずっス! リンス様達が負けるなんてあり得ないっス!」


「そうっスか?」


「!!」


 クルシアはチェシーの語尾を真似ながら、目の前に現れると、チェシーの首を持って空中に浮かんだ。


「は、離せ……ス」


「嫌っス! ていうかぁ、こんな沈下な結界でボクを封じるつもりだったの? 壊してあげよっか?」


 するとクルシアは魔力を一気に放出する。


「――があっはあっ!!」


 会場中にいる全員に重くのしかかるプレッシャーを感じる。


 まるで急に膨らんだ風船に押し潰されるかのような感覚。


 元奴隷達の一部は倒れ、アイシア達も一瞬、気を失った。


 勿論、このプレッシャーを間近で受けているチェシーは、一瞬で白目を向くも、


「はーい! 気絶しなーい!」


 クルシアに無理やり起こされて、魔力圧を受けることに。


 するとガシャンというガラスが割れた音が聴こえると、クルシアは魔力を抑えた。


「はい。これでボクの強さの証明にはなったかい?」


 どさっと地面に落とされたチェシーは、恐怖に震えた一言。


「ば、化け物……」


「そ。よく言われるよ。魔力量だけなら、バザガジールにも匹敵するからね、ボク」


「はあ? ほ、本物の化け物じゃないっスか!!」


「しかもボクと彼は親友! 呼んだら来るけど、呼ぶ?」


 もうヤバイ情報が次々と来たせいか、もう反論する余力もなく、チェシーは恐怖しながら後退る。


 するとクルシアはメルトアの方へ振り返る。


「そろそろ種明かしといこう。気になるだろう? どうしてボクと彼女を間違えたのか」


「――幻術魔法だろ?」


 そう答えた俺に、絶望感を抱えたままメルトア達は視線を集中させた。


「闇魔法の中にあったよ。私は不得意だけど、人形使い(ドールマスター)と同様、精神系の部類の魔法だよね? おそらく発動したのは、戦闘前のあの指を鳴らした時、リアンって五星教の側に現れたことにもそれなら説明がつく」


「そ、そんな……」


「待て、リリア。幻術魔法なら俺達でも気付いたはずじゃ……」


「今クルシアが壊した結界がなければ、もっと早く気付けたかもしれないけどね……」


「!?」


 闇属性持ちは同属性に限らず、呪いを受けなかったり、幻術などを見破れる耐性みたいなものを特性として身につけている。


 だが、力量の差があればその耐性すら意味のないものとなる。


 クルシアはおそらく俺達に気付かれないレベルの魔力を使い、幻術をかけ、結界の作用と合わせて見破りづらくしたのだ。


 力量の差があるとはいえ、俺達自身は幻術破りや緩和の魔法を唱えられていれば、このような事態は避けられたはずだ。


 本来なら光属性を持つメルトアも幻術破りはできるはずだが、メルトアにクルシアの情報はほとんどない。


 それをメルトアも理解したようで、より深い絶望へと堕ちていく。


「さっすが! 博識リリアちゃんは、どこかのお馬鹿さんとは違うなぁ。その通りだよ」


「だけどいくつか疑問点がある」


「なにかにゃ?」


「あの翔歩の時、あそこで入れ替わったのはわかる。だけど、その入れ替わったクルシアはどうなる?」


「そうだな。あのクルシアがリアンなら、お前らしくない発言をし、否定するはず……」


 女言葉を喋るクルシアができるはずだ。


 クルシア自身がリアンを演じれることは、神童とまで呼ばれた男だ。そつなく熟すのだろうが、リアンに関しては論外だ。


「いやいや、そこまでわかってるなら説明なんていらないでしょ? ボクが一人二役やっただけさ」


「!?」


「詳しく説明するとね、ボクとリアンちゃんが入れ替わって視えるんだけど、もう一つカラクリがあるんだよ。入れ替わった先のボクが喋ってるの、あれ……ボクなの」


「つ、つまりお前は、自分とリアンの表層意識を両方喋ってたと!?」


「そゆこと!」


 要するには、身体自体の動きは入れ替わった当人達に一存されて、表層意識はクルシアが幻覚で見せて喋っていたということになる。


「だからさ、ボクだけが聴こえてたんだよ。必死に――自分はクルシアじゃない! やめて! って叫んでたの! まあリアンちゃんは途中から何とか気付いてもらえるように、振る舞おうと考えたようだけど、ボクに視えてるわけだから、下手に抵抗しないなんてこともできなかったしね〜」


 メルトア達は状況がわかってくると、ひたすら絶望していく。


 自分達は必死にリアンを攻撃していたのだと。


「ま、待って……下さい。だとしてもリアンちゃん一人で、私達の攻撃を凌ぎ切れるなんて……」


 わなわなと震えながら尋ねるミナールを気遣うこともなく、不敵な笑みを(こぼ)して尋ね返す。


「ボクと彼女には共通点があるの……わかんない?」


「……!」


「あ、気付いた? そう! ボクと彼女は風属性なのさ! だからさ彼女が生き残れるよう、サポートしてたんだよねぇ」


 風属性の魔法なら、発動している魔法を視認することは難しく、派手な魔法を使えば有耶無耶(うやむや)にもできる。


 それにリアンは元々前衛。


 常にクルシアの側で戦闘をしていたのだ、気付くことはより困難である。


「だからボク言ったよね? ――手加減されてることに気付いてくれる? って……」


 種明かしをされた五星教達は、完全に満身創痍(まんしんそうい)に陥っている。


「でも君達はラッキーだ! 一応、ボク火属性も扱えるんだけど、得意なのはやっぱり風でね。やりやすい方にさせてもらったよ、さすがに」


 そう言いながら、首の取れたリアンの側へ行くと、彼女の武器を取り上げる。


「貴様ぁ……何を……」


 覇気のない震えた声でクルシアを止めても意味などなく、むしろ助長させるだけだった。


「君達みたいなのに勇者の武器(これ)は宝の持ち腐れでしょ? ボクが正しく使ってあげようと思ってさ」


 クルシアが手にした途端、リアンの持っていた二刀は柔らかな黄緑色の光が漏れ出す。


「こ、これは……?」


「ああ、封印を解いたからね」


「封印……だと?」


 何の話だと尋ねると、勇者の双剣を雑に扱いながら語り聞かせる。


「勇者も考えたよね〜。この武器の本来の力を振り回させるのも危ないし、かと言って破壊するわけにもいかない。君達が闇属性の武器を壊した時も被害は中々のものだったろ?」


 破壊したメルトアは、確かに破壊した際に想像以上の魔力爆発をしたのを覚えている。


「この武器には封印術が施されていてね。闇属性の者にしか解けないように細工してあるんだよ」


「なっ……!?」


「この武器達をこの大陸に置いていったのは、武器の悪用を防ぐためだろう。何せここは闇属性を嫌い、迫害する文化が根付いていた大陸だからね。しかも、これほどの魔力だ……同属性じゃないと扱いも難しい。いやぁ、ボク向きの武器だよねぇ」


「で、デタラメを……」


「確かにデタラメかもね。ボクはあくまで君達の武器から封印術が視えたから、そう推理したまでさ。……どう? 君達からは視えるかい?」


 そう俺達に尋ねられたので、目を凝らして魔力感知をすると、確かにメルトア達の持つ武器の(さや)や持ち手には円を描くように魔法陣が帯びていた。


「確かに……紫色のものが視えるよ」


「ね? どういう意図で残したかは、推測の域を出ないけど、確実なのは君達が使い(こな)せてはいないってことさ」


「そ、そんなことは――」


「試してみる?」


 そう笑顔で指を鳴らしたクルシア。


 すると、メルトア達の武器から魔力が溢れ出てきた。


「なっ……ああっ!?」


「ぐうぅ……ああっ!?」


 リンスの大剣は真っ赤に熱を帯びて、とても持てそうにないのが、見て取れる。


 ヒューイの長剣も本人を巻き込みながら、バキバキと凍らせていく。


「こ、こんな……」


 ミナールの杖は地面にめり込んでいることから、魔力が重量を上げているのだろう、咄嗟に手放した彼女は呆然と見ている。


「――ああっ!?」


 メルトアの剣に至っては、彼女を拒絶するように強く光を放ったかと思うと、弾かれるように彼女から離れ、円を描くように宙を舞うと地面に突き刺さる。


「どうだーい? 使い熟せてまちゅかぁ? 上手く魔力コントロールができれば、そんな拒絶反応は起きないぞぉー?」


 彼女達が、魔力を解放した勇者の武器を使えていないのは、一目瞭然であった。


 そんな悪戦苦闘する彼女達を(あざけ)ながら、元に戻すよと、簡単に封印してみせた。


 そして――、


「勇者の武器ってのは……こう使うんだぞ!」


 クルシアが片方の剣で()ぎ払うと、強く風が吹き荒れ、メルトア達をいとも容易く吹き飛ばす。


 彼女達は再び壁へと激突。


 副隊長達もメルトア達に呼びかけるも、力なくクルシアを見つめる様子から、戦意まで喪失しているようだ。


 するとクルシアはこちらの言語で書かれている名前が武器から見えた。


「……? カザハナ? 変わった名前だね。これ」


 リアンが使っていた武器を気に入った様子で眺めるクルシアに、メルトアはリアンがあれを手にしていた光景が走馬灯のように流れる。


 勇者の武器を贈呈された時や共に戦った時、あの武器を手に戦ったリアンにはいつも頼もしさや心強さを感じていた。


 今さっきだって……。


 冷静に自分のことを励まし、戦ってくれようとしたリアン。


 だがあのリアンがクルシアだったと思うと、後悔と絶望感がひたすら襲ってくる。


 自分は何をしていたのだろうと。


「やめろ……それは、リアンの物だ」


 自分の無力さに打ちひしがられながら、悲しげな表情で訴えるも、クルシアにそんな情が通用するわけがなく、それどころか……、


「……君は変わらないねぇ。あの頃から……」


「なに……?」


「ボクと初めて会ったあの時から何も変わってないよ。変わったのは、年相応に身体付きが女の子っぽくなったくらいだよ」


 まるでピエロのようにケタケタと(あざけ)ながら、メルトアに思い知らせていく。


「私は! お前のせいで変わったんだっ! お前を……お前を殺すためにぃーっ!!」


「はははっ! そんな泣きながら言われてもねぇ」


 悔しそうに叫ぶメルトアの想いは届かない。


「でもねぇ。今の君、鏡で見てごらん。あの時――両親の死体の前で泣き叫んだ後、ボクを眺めて絶望していた顔、そのまんまだよ」


「え……?」


 メルトアはふと両手を眺める。


 ガントレットを装備した手は、目視でもわかるくらい震えている。


 敵が目の前にいるにも関わらず、剣も手から離れ、ペタンと座り込んだ足も上がらない。


「その鎧はまるで、自分が傷つかないようにするための殻にしか見えないから。まるで似合わないんだよねぇ〜。ボクが初めて見た時の可愛らしいフリルの付いた服の方が良く似合うよ」


「やめろ……」


「闇属性の抹殺だって、みんなを守るためじゃない。自分を守るためだろ? もう一度、あんな地獄を観たくないってさぁ〜」


「やめろと言っている……」


「君はあの頃から変わらない……か弱くて可憐な少女のままさ。誰かに守ってもらわなきゃいけないくらい、弱い弱ーい女の子……」


「――もうやめて!! いやぁーーっ!!」


 メルトアと面識のある者達は、こんなにも弱いメルトアを見ることは初めてだった。


 そのメルトアはもう精神的に限界だった。


 親友を自分の手で殺し、自分が本当は闇属性に対し、ただ恐怖していただけなのだと思い知らされ、挙句、自分の努力が無駄であったかのように、憎んでいた相手に実力で(もてあそ)ばれたのだ。


 抱きしめるように身をすくめ、震えが止まらない。


 そんなメルトアにラルクが駆け寄り、クルシアを睨むと、ギュッと服を引っ張られた。


 メルトアは(すが)るように、ラルクの服にしがみついたのだ。


「〜♩ 男冥利に尽きるじゃない」


 クルシアが口笛を鳴らし、そう茶化す。


「もう十分だろ!? や、やめてくれ!」


「……君がそれを言うのぉ〜? ポイント稼ぎご苦労様であります!」


「な、なに?」


「だって君、今まで側にいながらさ、わざわざ彼女が心配で五星教にまでなったのに、してた事と言えば寂しげで弱々しい彼女の背中を傍観(ぼうかん)してただけだろ? 今助ければ、彼女は自分のものにできるって稼ぎにきたようなもんじゃない! ボクより酷いけど、悪くない手だ。傷付いた彼女に優しい言葉でもかけてあげれば、その身体は君の物だ」


「そ、そんなつもりは――」


「じゃあなんで見てただけだったの?」


「……!」


 ラルク自身は勇気と自信がなかったのである。


 自分の言葉で変えられるのか、自分の意思が彼女を変えていけるものなのかと。


 だが、そんなことをずっと悩んでいただけで、何の行動もできていなかった。


 メルトア自身もあまり頼りにはしなかったこともあって、きっとこのまま強く生きてくれるだろうと諦めていたのだ。


 黙ってしまったラルクに茶化しが入る。


「ほーら! やっぱり彼女の身体目当てじゃない! さーいてーい!」


「ち、違――」


「でも残念。せっかくだから面白いこと思い付いた」


 ラルクは(いじ)める価値もないと、早々に手を引くと、彼女達の自尊心を蹴落とす発言をする。


「どうだい? 君達、ボクの奴隷にならない?」


「なっ……!?」


「君達四人をベッドの上に転がすのも悪くない。その代わり、か弱い君達はボクが守ってあ・げ・る」


 軽く舌舐めずりをし、その反抗的な眼を自分好みにできるといった、自信に溢れた表情で見下す。


 とてもその容姿からはしてはいけない発言と態度である。


「正直、ボクはあんまり性欲は強くない方なんだけど、この状況なら(そそ)るよね。四人仲良く可愛がってあげるよ。戦友を殺したボクがね! もしかしたら寝首をかけるかもよ。我ながらナイスアイデア! ねぇ……どう?」


 勿論、そんな意見など乗れないと何とか立ち上がる三人。


「ざけんなぁ……」


「無理……」


「貴方……みたいな人なんかに……」


 だがメルトアだけはラルクにしがみついたままだった。


「メル! 全部こいつの思い通りにするつもりか!?」


「立って。そして仇を打つの」


「か……たき?」


 ヒューイのその一言に、また現実が彼女を襲う。


「ち、違うの……わ、私……私は殺すつもりなんてぇ……」


「……!」


「バッ!? 違うっての。あれは……」


「君のせいだよ。メルちゃん」


 ビクッと跳ねるメルトアをいつまでも(いじ)め尽くしたいと企む表情。


「もうやめやがれ!!」


 大剣を振り、炎がクルシアへ向かうも、もはやモーションも要らないとあっさりと炎は吹き飛ばされる。


「くそ……くそぉっ!!」


「こ、こんなの……悪魔のやる事っスよ。悪夢だ……」


 クルシアはゆっくりとメルトアの側へ近付く。


「さあ……か弱くて可哀想なお姫様。その首にボクから素敵なプレゼントをさせておくれよ……」


 闇属性に恐怖しているという本性が完全に露わになったメルトアは、ラルクの後ろに必死で隠れる。


「やめて……こないで……」


 すると、


 ――ダァーンという銃声音が響く。


 その撃ち出された弾は風の防壁で防がれ、地面にめり込んだ。


「あのさ……跳弾するからやめときなって言わなかったかい? それとも流れ弾で人を殺したいのかにゃ?」


「もうその脅し文句は効かねぇよ」


 俺は自分の身くらい守れる人間しか残っていないと把握した上で、クルシアの脳天目掛けて撃った。


「黒炎の……魔術師?」


 何故助けたのかと疑問に浮かぶ声が聴こえてきた。


「そこの副隊長共。上司をさっさと退かせ。邪魔だ」


「舐めるなよ、黒炎の魔術師! アタシ達だってな――」


「黙れ、チビ」


「なっ!?」


 カミュラがストレートに物申す。せめてオブラートに包もう。


「そこの臆病者が闇属性と知れば、情報も得ろうとせず、殺してきたツケだ。このクズにそれだけ言われて、戦友を殺されても文句なんて言えない」


 本当にストレートに言うカミュラに、さすがのギルヴァも苦笑いを浮かべながら止める。


「おい、よせ。言い過ぎだ」


「珍しく意見があったね、死霊使い(ネクロマンサー)


「お、おい!」


「ギルヴァには悪いけど、その通りだよ。文句なんて言えない」


 ギルヴァにとってメルトアは特別な幼馴染みでフォローしたいのは山々だろうが、自業自得なのも事実だ。


「だけど少なからず、私達にも責任はある」


 リアンを殺されたのは、俺が五星教をクルシアに消しかけたことが原因でもある。


 いくらリアンが了承したとはいえ、俺にも後ろめたさはある。


 だがそれ以上に――、


「てめぇはクズ過ぎるんだよ! クルシア!」


「そういうリリアちゃんは感情が乗ると、男っぽくなるねぇ」


「――母親似だからね! 悪い!?」


 確かにメルトアのやってきたことは許されないし、死んだ人間は戻ってこない。


 だけどクルシアのは残酷過ぎる。


 騙し討ちのように殺すよう、誘導し、無力だと精神的にも責め立てる。


 いくらなんでもやり過ぎだ。


「弱い者いじめはもう済んだろ? 今度は私達と刺激的なデートでもしようよ。……とびっきりのヤツをさぁっ!!」

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