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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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21 娯楽都市ファニピオン

 

「リリアちゃんとリュッカちゃん。大丈夫かい?」


「大丈夫でーす」

「ありがとうございます。大丈夫ですよ」


 ドラゴンに乗り慣れない俺達を心配してくれる声が、風の中へ消える夜の上空。


 ドラゴンは中々の速度で飛んでいる。俺はギルヴァにガッシリと掴んで離さない。


「つか、ギルヴァ! 俺と代われ!」


「――代われるか!」


「スケベ」


「――おい! そういう意味じゃない、カミュラ!」


 もめるほど余裕はあるようで安心した。


 正直、事が事だけにギルヴァは落ち込んでいるものと考えていたが、リラックスしているよう。


「あの、この調子ならどれだけでファニピオンに着きます?」


「多分、明け方くらいかな?」


「とにかくファニピオンに着いたら、一度休みましょう。ここに一人、限界を迎えそうなのがいるから……」


 カミュラの背中には、うつらうつらとしたネネの姿があった。


 可愛らしい仕草ではあるが、ここは上空。居眠り運転ならぬ居眠り相席していても命の危険がある。


 見ているこっちがハラハラする。


「ネネっ! 起きて!」


「――ふえっ!? ね、寝てまふぇんよ」


 いや、半寝はしてた。絶対に。


「眠れなくなるように、何か()んであげようか?」


 カミュラのポツリと呟いた一言が風のせいで聞こえなかったが、ネネは目がパッチリするほど驚き、激しく首を全力で横振りした。


 察したギルヴァとユネイルはそこそこにしておけよと呼びかけていた。


 そして、しばらく睡魔との戦いを制した俺達の目の前には、


「あ、あれ!」


 アイシアが指差すところには、示さなくてもわかるくらいの円形状の大きな町が姿を見せた。


 こちらも帝都同様、山に密着する形の町ではあったが、平地を円形状に広がる都市のようだ。


 帝都と違うところはとにかく高い建物が多く、派手な印象を受ける。


「来たな……ファニピオン」


「はわあ……」


 意気込んでみたはいいが、さすがにみんな眠そうで、アイシアの無防備なあくびに思わず微笑んだ。


 俺達はファニピオンに直接降りるわけにもいかず、町の入り口付近でドラゴン達から降りる。


「みんな、ありがとう」


 アイシアは一匹一匹、ドラゴン達の頭を撫でて労う。


「本当に龍の神子なのかな……?」


「でもドラゴンに限った話でもなかったんでしょ? それに両親もそんなっ気はなかったんでしょ?」


「いや、あのお母さんはほら……あんなだし……」


「あー……」


 そういえば娘に負けず、天然な性格してた気がする。


「要するにマルキス家の女性方は愛されキャラだと……」


「うん。だからドラゴンじゃなくても……なんて思ってたけど、あれを見るとね」


「バイバーイ!」


 大きく手を振ってドラゴンを見送るアイシア。ドラゴン達も満足気に飛んでいく。


「とりあえずその話は帰ってから殿下にでも訊いてみよ。何か知ってるかもしれないしさ」


「そうだね」


 アイシアが龍の神子だろうとなかろうと関係ない。


 仮に龍神王がアイシアを連れ去ろうとするなら、原初の魔人だろうと戦う。


 アイシアは変わらず、俺達の友達なんだから。


 ***


「……ふわぁ〜」


 俺はベッドの上で身体をグッと伸ばすと、一緒に寝ているアイシアとリュッカを起こさないよう、そっと部屋を出た。


 洗面所にて顔を洗い、サッパリしたところで情報の整理をする。


 ファニピオンへ入るのには、手間はかからなかった。


 五星教や帝都みたいな騎士団でない限りは、特に制限もないようだ。


 不用心とも考えたが、初めてここに来た俺達にユネイルは鬼気迫る表情で注意してきた。


 なんでもすんなりと通す理由として、(さら)い屋や奴隷商、闇組織などと監査していた門番が繋がっているケースがあるらしく、いつの間にか奴隷にされてたなんて話は珍しくないらしい。


 特に世間知らずや自信家な貴族、亜人種、特に女性は奴隷としても高価があり、(さら)いやすいからと、被害は絶えないという。


 ギルヴァの幼馴染もそんなところだろうか。


 俺達も宿に泊まっているが、ギルヴァとユネイルが夜通し見張りをしてくれていた。


 ユネイルの場合は逆に襲ってこないか心配だったが、一応、紳士を自称していただけあって、そんなことはなかった。


 そして――、


「とりあえず目的としては、君達の仲間との合流だね。おそらくはこの町に来ているはずだ」


「徒歩とはいえね」


「その節は申し訳ない」


 そう、とりあえずはカルディナ達との合流だ。


 真実の羽根(トゥルー・フェザー)が魔物の露払いをして放り、カルディナ達に実力があっても、さすがにあの山道を徒歩で行っているのだ。


 無事かどうかはこの目に映しておきたい。


「ここは二手に分かれよう。闇属性持ちである俺達は、クルシアが企んでいるであろう、オークション会場を探す。他のみんなは彼女達の仲間を探そう」


 こうして二手に分かれるが、心配事が離れていくのはソワソワする。


「リュッカ。自分もそうだけど、ぜったいアイシアから目、離さないでね」


「わかってるよ」


「リリアちゃん、任せて」


 リュッカとユネイルは心配かけまいと、自信満々にそう言うが、


「ねえ! 早く行こうよ! 気になるのがいっぱいだっ!!」


 今にも駆け出して迷子になりそうなアイシアに、あわあわとついて行く他族性組みを見て、カミュラが一言。


「あれ……帰って来ないんじゃない?」


「――不吉なこと言うな!」


 そんな心配事を頭の片隅に置きながら、俺達闇属性組みも散策を始める。


 街並みは帝都と変わらず石造りなのだが、いちいち建物が大きかったり、パルマナニタで見かけたような芸術的な建物もちらほら見かける。


 中には、


「あれって……ショーウィンドウ?」


 この世界では珍しいガラス張り。フリフリのドレスが飾られているところを見るに、貴族御用達のお店のようだ。


 思わず食い入るように見ていると、カミュラが嫌味口に話す。


「田舎者っぽく見えるからやめて」


「悪かったね、田舎者で!」


 実際はこの世界より技術の進んだ世界から来てるんだが、ちょっと物珍しいって思っただけだっての。


「ま、まあ、あんなガラスを使った店は珍しいからね」


「あれ? 田舎臭いからそういう洋服に目がないのかと……」


「嫌味しか言えないのか。この死霊使い(ネクロマンサー)は……」


 ギルヴァは思う――こっちはこっちで無事に帰れるのだろうか。


「別に私はこんな服に興味ありません! ショーウィンドウが珍しいと思っただけ」


「心苦しいから、せめて正直に言えばいいのに……」


「てめぇな……」


「その言い訳が本当だとしても、女としてどうなの?」


「お、お前の口一回、縫い合わせやろうか……!」


「やれるものなら……」


 ギルヴァは再び思う――俺が無事に帰れるか不安だ! 誰か助けてくれぇー!!


 そんなことを考えるが、助けなど来るわけがないので、


「ショーウィンドウというのが何か知らないけどぉ! この技術は多分、他国のものだ」


 二人の間にちゃんと割って入れるよう、二人の会話に切れ目を入れるように割り込む。


「……そうなんだ。他国の技術は受け入れるのに、闇属性は受け入れないなんて、変わってるよね」


「貴女、馬鹿?」


「ああん?」


「カ、カミュラ、頼むから仲良くしようぜ」


「仲良くする理由なんてない。向こうもその気じゃないしね」


「当然! あんたのおかげで死にかけたし、謝られてもないし……」


「おい、カミュラ。謝ってないのか?」


「必要悪だったんだから……」


 そんなひねくれた性格にギルヴァも困り果てる。


 実際、カミュラを除いたメンバー全員から謝罪は受けている。


 だがギルヴァ的には、(わだかま)りは無くしたい。


「カミュラ。確かに必要なことだったが――」


「それより会場を探すんでしょ?」


「カミュラ! ……悪いな」


「別に。それより、アイツが馬鹿だって言ってた理由がわからないんだけど」


 不機嫌そうに尋ねると、困惑した笑顔で歩きながら説明してくれた。


「このファニピオンは奴隷の推進国だとも言ったよね? つまりは他国から(さら)ってきた技術屋を奴隷として雇い、働かせているんだ」


「ああ、なるほど」


 魔人マンドラゴラの時に、ちらっと話題に出てた話だ。


 国外から人を(さら)っては、売りつけるなんて胸くそ悪い話だと考えていたが、こんなやり方で発展する町があるなんて……。


「つまり奴隷を買ったのではなく、技術を買うと?」


「まあね。奴隷になった、された人達は事情を押し付けられ、働かざるを得ない状況を作らされるだろうから、奴隷側も技術を売らざるを得ないわけだ。実際、今探している会場のオークションもそのはずだろ?」


 歌鳥の鳥籠(とりかご)って言ってたし、演技や歌唱力も技術か。


「ってことはアリアさんだっけ? その幼馴染も何か得意なことでも?」


「いや、取り立ててどこにでもいる町娘だったよ。まあ確かに特技と言われると、歌が得意だったように思うが……」


「何やってるの?」


 ピタリと止まったカミュラは呼びかけ、俺達を待っている。


「遅い」


「ここは?」


「ここでしょ? 例の……」


「間違いない……はずだが……」


 テルミナが渡してくれたメモを片手にその場所とその目印となる看板を見つけるが、本当にここなのか疑うが、店内へ入ることに。


「いらっしゃいませ」


 カラランと小気味良い鐘が鳴ると、教育の行き届いた綺麗な挨拶をされた。


 その挨拶をしたのは女性店員だが、その首には奴隷の証がついている。


 ビンゴかと思われるが、実際、珍しい話ではない。人件費削減のため、奴隷を使うことは一般的。


 するとカミュラは何を思ったか、その店員に詰め寄る。


「貴女を解放してあげる。だからここにあるオークション会場の入り口に案内して」


「えっ!? オークション……えっ!?」


「――情報収集下手かっ!」


 俺は思わずカミュラの頭をスパーンと叩く。


「痛いわね。この方が手っ取り早い」


「手っ取り早くないわ! 人のこと、散々バカバカ言っておきながら、あんただって馬鹿じゃない!」


「お、おいおい」


 するともめている俺達を見兼ねて、奴隷の彼女は誤解を解こうとする。


「あ、あのオークション会場とは何のことでしょう? このお店にはそんなところはありませんが……」


 確かにこの奴隷の彼女の言う通り、こじんまりとした洋服店といったところ。


 だが違和感はある。


 この通りに並ぶ店は派手な構えの被服、装飾、宝石店などが建ち並ぶ。


 強盗が入ってもおかしくない豪華な店が並ぶ中、この店構えは大人しめだ。


 いざ中へ入ってみると、結構な品を取り揃えているようで、値札を見てギョッとした。


「貴女じゃ話にならない。店長を出して」


「強引だなぁ」


 だがカミュラの言う通り、一度店長から話を聞いた方が良さそうだ。


 奴隷の女性はパタパタと店の会計のところへ行くと、丸々と太った中年のおじさんが出てきた。


「わたくしにお話とはなんでしょう」


 如何にもな奴隷商人に見えるおじさんに、カミュラは今度は声を潜めて尋ねる。


「ここ、奴隷オークションの会場でしょ? 参加したいのだけれど……」


 するとおじさんは、不思議そうな表情を浮かべて首を傾げる。


「奴隷オークションの会場? ここが? お嬢さん、冗談はやめて下さいな。こんな狭い店内でそんなことができると?」


「そんな手には乗らない。地下施設とかがあるに決まってる」


 まあ普通に思いつく話ではあるが、このおじさんも違和感なく返答しているところを見ると、本当に違うように聞こえる。


 そのカミュラの言葉に楽しそうに微笑むと店内を、招くような手仕草を取る。


「でしたら、お気の済むまで店内を調べて下さい。こちらとしては、目移りして頂いた方がいいですし……」


「はは……」


 調べてもいいし、店内を調べているうちに商品に目移りしてくれたぁ、中々正直な店長さんである。


 さて、どこまで正直か試してみますか。


 俺はパサッとフードを取ると、ギルヴァの腕を強引に引き寄せ、腕を組む。


「ねえ、ギル? こんなおバカさんは放っておいて、二人で美味しいものでも食べに行こ?」


「「は?」」


 俺はまるでギルヴァに好意があるような態度を取る。


 上目遣いで少し勇気を振り絞った可愛い女の子演出。


 その様子にカミュラはすっごい気持ち悪いと言いたげな表情を、ギルヴァは赤面して困惑した表情でのご返答。


 だがそんなことはお構いなしに、さらに強引にギルヴァを連れ出す。


「ほら。そこの妄想お馬鹿さんは放って行こ?」


「ちょっ、急に……」


「あなたねぇ――」


 苛立った様子でズカズカと近付いてくるカミュラに、


「――――」


「……!」


 俺は店長に聞こえないように、か細くカミュラに()()()()()をすると、察したのか少し冷静になると、そっぽを向く。


「あなたの思い通りにはならないわ!」


「ふふ……どうかなぁ?」


 俺はギルヴァの腕に胸を押し付けると、ギルヴァはさらに困惑。手汗がひどい。


 俺はフードを被り直してギルヴァと店を出る。


 カミュラは、


「じゃあ店長、調べさせてもらうわ」


「よろしいですけど、そちらは良いので?」


「ふん、貴方が気にすることじゃないわ」


 そう言うと、店内を調べ始めた。


 俺達は店を出た後、あの店が見えていて、尚且つ店長がこちらに気付かない路地裏へ移動する。


「あ、あの……黒炎」


「――あーっ! 恥ずかしかった。あ、あとリリアでいいよ。いい加減、黒炎はやめて」


 俺は掴んだ腕をあっさりと離した。


 思わずポカンとするギルヴァに対し、誤解のないように説明する。


「わかってると思うけど、これ演技だからね」


「えっ!? あ、ああ……勿論」


「……まあ残念そうなのもわかるけどさ」


「うぐっ!」


 元男としては、そんな風に女性からアプローチされれば、勘違いもするよね。


 まあわかっててやったんだけど……。


「そ、それで? 何でその……あんなことを?」


 嬉し恥ずかしそうな態度で尋ねてくるギルヴァに、先ずは結論から話す。


「あの店長、奴隷商人だよ」


「ほ、ホントか!? 何故そう思う?」


「――女の勘!」


 女になって一度は言ってみたかったセリフだ。


 俺はムフッとドヤるが、


「…………」


 ちょっと長い沈黙が続く。


「じょ、冗談だって。ちゃんと理由はあるから聞いてよ」


 いたたまれない気持ちになった俺から折れることに。


「まあ、あながち女の勘も嘘ではないんだけどね……」


「どういうことだ?」


「……男性は女性を見る時って女性と違い、やっぱり性的な部分を見ることが多いんだって。本能的にね」


「そ、そうかもしれないが、全員がそうではないだろう」


 まるで自分は違うと言いたげな発言。


 カッコつけたい気持ちもわかるよ。伊達に男十五年、女一年未満ではない。


 なのでここでちょっとイジワル。


 先程のように媚びを売る感じの仕草で、今度は胸を強調するようにし、誘い文句を添える。


「……じゃあこの胸、好きにしていいよって言ったら……どうする?」


「なっ!? いや、それは……その……」


 胸の方に視線がチラチラと泳いでいると、俺が悪戯っ子の笑みを浮かべてニヤニヤする。


「そ、それは誘導尋問だろっ!!」


「ははは、ごめんごめん。お詫びに本当に揉む?」


「えっ!?」


 再び目線はそちらへ向くも、


「こ、断るっ!」


 一瞬でそっぽを向いた。


 悪戯(いたずら)が過ぎたと軽く笑うと、本題へ戻る。


「今のでわかったでしょ? どんな男であろうとも邪な気持ちは芽生えるってこと。紳士的でイケメン超人だろうともね」


 個人差で大小あるだろうがね。


 それは向こうでのマルファロイみたいな連中を見ればわかることだ。


「……」


 女性に対しての付き合いが真っ当そうなギルヴァは、納得したくないけど、納得してしまうと言いたげな表情。


 女が男可愛いと思うのは、こういう時だろう。


「私はこう見えてもモテてね。男達からのそういう視線は結構浴びてるの」


「だからわかるって?」


「ほら、私フードを取ったでしょ。あの一瞬……まるで舐め回すような気持ち悪い視線を感じたよ」


 あの店長、俺の素顔が見えた時、品定めでもするかのような視線を感じた。


 全身を飴玉みたいに舐めて転がす視線を。


「さ、さっきの話だとまあ……言っちゃ悪いが、あのおじさんのスケベ心からじゃないか? 機敏になってるだけじゃ……」


「それだったら、ギルヴァでもわかるくらいに()()のことを見ない?」


 ギルヴァは言われてみればと、ハッとなる。


「あの店長は一瞬だった。……さすがは奴隷商(プロ)だよ。私だって最初は気付かなかった。その視線が最初はカミュラに向いてたから……」


「だからカミュラはあんな風に噛み付いたのか」


「そう。それにスケベ心なら私達二人を見るはずでしょ? 一人一人見るのはおかしいよ」


 俺やカミュラみたいな警戒心が強いからこそ、気付いたことだ。


 これが人をあまり疑わず、素直な性格のアイシアやリュッカ達なら気付かないと考える。


 俺も普通の女の子であれば気付かなかったかもしれない。


 それに奴隷の鉄板とも言える若い女性というのは、奴隷商からすれば上玉。


 特にリリア(おれ)やカミュラみたいな男性受けのいい娘は尚、仕入れておきたいだろう。


 正にあの店長からは、そんな俺達を人間ではなく、商品としての価値を見定めていたのだろう。


 男を知り、女の立場になったからこそ気付けたことであった。


「だが判断材料がそれだけというのも、説得力に欠けないか?」


「それだけじゃないよ」


「なに?」


「あのさ、この町って大っぴらに奴隷オークションとかするって言ってたけど、町を歩く限りはそんなことないよね?」


 事前から聞いていた話と食い違う部分がいくつかある。勿論、俺の思い込みもあったかもしれない。


 個人的には、町中でも小汚い格好で人身売買をやっている印象があったが、どうもそんな雰囲気ではない。


 品位のある景観を守るためか、ちらほら見かける奴隷達もそれなりの服を身につけている。


 とてもじゃないが、派手にオークションをしている印象はない。


 じゃあ何故、そんなことを言われるようになったのか、考えた結論が――、


「そのオークションってさ。会員限定とか、通行証とか……参加証明が必要なんじゃない?」


「つまりカミュラの言う通り、地下に施設があり、条件を満たさないと通さないということか」


「多分ね。おかしいと思わなかった? あの店長……」


 ギルヴァは見た目の印象から、胡散臭くは見えたと話すが、それ以上の不信な点はなかったと言う。


「カミュラが最初に言ったこと、覚えてる?」


「ああ。ここがオークション会場かどうか、だろ?」


「うん。でもさ、普通のお店の店長だったら、そんないちゃもんつけられたら怒るか、動揺くらいしない?」


「!」


 あの店長はカミュラのセリフに対し、軽くいなすように対応した。


「で、でもこの町のことを理解しているなら、それぐらいの質問くらいされるんじゃないか?」


 その質問に対し、俺は例の店を含めた場所の店舗を指差す。


「他のお店と比べてみてよ。大きさ、規模が違うでしょ?」


「まあ、比べるまでもない」


「大きなお店なら、そういう質問もあったかもしれないけど、私達が行った店は個人経営するくらいの店舗。仮にあの店長がやっとの思いで漕ぎ着けた店だったとしよう。……カミュラみたいな質問を投げかける客をどう思う?」


「……店を侮辱された気持ちになるな」


「そういうこと。何だったら周りの他店に同じ質問してみる? 経営者側の気持ちになれば、人身売買に加担してるんじゃないのなんて言われたら、腹が立つよ。普通」


「でもあの店長は……微笑んで対応した」


 めちゃくちゃ心の広く穏やかな性格、世間知らずの大馬鹿野郎だと言われればそこまでだが、そもそもそんな人間は商人なんてやれない。


 商人は商品を以下に安く仕入れ、高く売りつけるかと考えるものだろう。


 そんな狡猾さを求められる商人が、日頃の苦労を踏みにじるような、カミュラみたいな発言におかしいと考えたのだ。


「怒らないにしても動揺くらいはするでしょ? それもなかった。つまり……」


「奴隷商である――」


「可能性が高い、だね」


「こ、ここまで説得しておいて可能性か?」


「仲介役の可能性もあるってこと。そのメモ、あくまでオークション会場の手掛かりとして書かれてるんじゃない?」


 ギルヴァはメモを見ると、確かに手掛かりはそこだと書かれている。


「……多分、マーチェもテルミナも手掛かりの場所までは掴んだけど、行き方までは調べられなかったんじゃないかな?」


「な、なるほど……」


「つまり直接店舗へ行き、不審な点を洗い出せば、オークション会場への行き方も見つけられるってことだよ」


「なるほど……」


「店内はカミュラが調べてくれてるし、最悪、強行手段の方法もさっき教えてきた」


「さっきカミュラに呟いてた、あれか?」


「うん。だから私達は入っていくお客さんを見ていこう」


 ギルヴァはもう俺がどこまで考えているのか、ちんぷんかんぷんな表情でこちらを見る。


 こんなマヌケな表情、初めて見た。


 俺は苦笑いを浮かべながら、ギルヴァにやって欲しいことを交えながら説明する。


「あのお店を奴隷商人との仲介、もしくは奴隷商だったと断定して客を観察してほしいって言うのは、話を戻すけど、参加条件って話したでしょ?」


「あ、ああ……」


「入っていったお客さんが出てこない場合、参加条件を身につけていたって話になるし、何か買っていくことが条件ならどんな物を買ったのか、袋の大きさとか……まあ覗ける魔法でもあればなぁ」


「つまりは参加条件がわかればいいのか?」


「うん」


「覗き見ができる魔法なら一応できるが……」


「本当? ってどうしたの?」


「いや……」


 俺を見ながら、気まずそうな態度を取ると、俺は察した。


「……えっち」


「ち、違っ!? そんな目的には使わないし、バレやすいんだよ!」


 するとギルヴァは、ザーディアスのような次元の裂け目を作る。


「これって……」


「ああ。俺は次元魔法が得意でな。と言っても空間移動はできないが、小さな風穴くらいなら作れる」


「つまり、お店の袋に軽くこれを作って覗くと……」


「まあ、人の買い物の中身を覗くのはあれだが、これもオークション会場へ向かうためだ。仕方ない……」


「ふーん……えっち」


「――あればいいって言ったのお前だろっ!」


 こほんと咳き込んで話を整理する。


「つまり、さっき言っていた違和感からあの店長は奴隷商だと考え、その証拠を掴むためにオークションの客となりうる情報を客から探し出す……であってるか?」


「うん!」


 やることの概要が見えた俺達は、先ず書くものとペンを用意し、向こうにわからない程度に覗き見しながら、客の人数、出てきた客の荷物を徹底して調べた。


「しかし、よくあれだけであの店長が奴隷商だと結論付けられたな。普通、思いつかないぞ。さすが、黒炎の魔術師と呼ばれることはあるな」


「そ、それは関係ないんじゃないかな……」


 俺が好きなファンタジーゲームはロールプレイングアクションゲームが主流だったりする。


 そこでの謎解きに店で怪しい素振りのある人間を観察すれば、イベントが進むなんて王道。


 ある条件を満たした状態で話しかけるなんてのも王道だろう。


 ましてや奴隷のオークション会場だ。


 ゲームの中なら間違いなく、ボスイベント前のフラグだ。


 実際問題、あの胡散臭いおっさんを見て思ったよ――あっ、これフラグだってさ。


 この推理を戻ってきたカミュラは、半信半疑で受け止めていたが、これまでの客の持ち物に対し結果が出てきたので、渋々認めていた。

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