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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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19 心の支柱

 

「ひ、ひいいい!? た、助け――」


 ザシュッと命乞いの言葉すら断ち切る非情な刃。美しい鋼の刀身には命を奪ったことを証明するように血が(したた)る。


 それを見て、震えて死を待つ恐怖はどれほど恐ろしいことだろう。


「ま、待てぇ!! お、俺達が何したって言うんだ!? あんた達が怖いからこう――」


 再び途切れる命乞い。言葉を発することが出来なくなった首は血を流すだけ。


 なんと慈悲もない。


 そのように人を人と思わず切り捨てるのは、その鉄の意志を貫くが如く、凛々しき(よろい)を見に(まと)う、美しい金髪のオッドアイの娘。


 その二色(ふたいろ)(まなこ)にはその景色はどう写っているのだろうか。


 その紅蓮のように紅い瞳には、似た色の血は見えぬのだろうか。


 その濁りのない茶色の瞳には、その淀みが見えぬのだろうか。


 その両目から放たれる冷たき視線は、敵と認識された闇属性の組織(彼ら)に奪われるという恐怖を与えることはもはや必然であった。


 そして追い討ちをかけるように、温度なき凍てつく声がその見窄(みすぼ)らしいアジトに響く。


「お前達には許されている権利は死と絶望だけだ。命乞い、生きる、息を吸うことすら罪に等しい……」


「――お、横ぼおぉおっ!!」


 正論すら許さないと、容赦なく斬り捨てる。


「お前達の言葉には正論などない。その反論は死を意味する」


 彼女はその金色に輝く剣を両手で振りかぶる。


「私はお前達と違い、慈悲深い。せめて苦しむ間を与えず送ってやるのだ……感謝を述べ、死を受け入れよ」


 その一閃は、その敵と示した者達の命を無慈悲に奪い去る。


 その身は裂かれ、断末魔の叫びをもその輝きの中に溶けていく。


 絶対正義と謳うその剣は、あまりにも彼らには残酷に映ったであろう。


「……お疲れ」


「ん……ああ」


 その彼らの血で染まった部屋での労いの言葉。


 いつもの光景だ。相変わらず胸のあたりがざわざわすると、メルトアの側近ラルク・ジェノンは寂しげに幼馴染を眺める。


 その幼馴染メルトアは、涼しい顔をしてその返り血も気にせず、こちらへと歩いてくる。


「ラルク、報告は?」


「……はっ。今現在、この基地の闇属性持ち、並びに協力者の排除は大方片付きました。協力者に関しては情報を吐かせるために捕らえております」


「わかった。リンス達と合流します」


「はっ」


 幼馴染と言えど、定期連絡は業務的なトーンで話す二人。


 だが、そうでなくてもメルトアの心を遠く感じてしまう。


 ラルクは知っている。彼女に何があったのかを。


 他の者が見れば小さく華奢(きゃしゃ)ながらも優雅に歩くその背中は頼もしく見えるだろう。


 だがラルクから見れば――なんと弱くて、寂しげで、(もろ)そうな背中だろうと、誰にも理解できない背中をずっと見てきた。


 未だにその背中を救う言葉も行動も出せずに、ただ隣にいる。


 そんな弱くて惨めな自分に嫌気が差す。隣にいれば少しはなんて……。


「相っ変わらずしけた(ツラ)してんなぁ。同情か? いい加減にしろよ!」


 そうおてんばな声を出してラルクを注意するのは、


「リンス。そちらは終わったの?」


「当たり前でしょ? アタシを誰だと思ってんのさ」


 まだまだ幼い身体付きの割に派手な赤色のビキニアーマーと大きなマントをはためかせ、これまた彼女には合わない大剣を担いでいる。


「やんちゃ盛りで困ってんスよ。つか、教育的によかないでしょ? これ」


 そう軽いノリで話すのは、リンスの側近チェシー。


「んだよ。闇属性持ちはぶっ殺す! だろ?」


「いやぁ〜、オイラマジ将来が心配っスわぁ」


「んだとぉ!?」


「……相変わらず賑やかね」


 ふうと安心したようなため息で穏やかに話すメルトア。


 先程の冷酷な表情とは違い、まるで別人である。


「んなことより、報告!」


「はぁーい。メルトア様、こちらの基地の闇属性持ちの殲滅(せんめつ)は完了ッス。逃げた協力者も先程捕らえたと連絡もらったッス」


「了解」


「じゃあ後はお片付けだけっスね。いやぁ〜それにしてもこんな規模の基地は久しぶりッスね」


「そうね。亡命を出来なくさせたことが要因でしょう」


 今、メルトア達が殲滅(せんめつ)したのは、西大陸のとある鉱山洞の中。


 そこを根城にひっそりと暮らしていた闇属性持ちを問答無用で抹殺したのだ。


「にしても……」


 ちらっと血溜まりの部屋を見ると、うえっともどすような素振りを取る。


「ラルク先輩のお気持ちもわかるッスよ。そりゃあこんな景色を見せられちゃ、辛気臭い顔にもなりますって……」


「メル、見せしめはもう散々やっただろ? いい加減にしないか?」


「いいえ。これが貴方達に残されている運命だと教え続けなければ……」


「最近、僕らが襲われていることも知ってるだろ? いつか取り返しがつかないことになる前に――」


「お前はメルの母親か? そんな口酸っぱいのはリアンだけでいいつぅの!」


 チェシーもやれやれと言った態度。この光景は何度も見たことがある。


「まあまあ。ラルク先輩の言葉にも一理あるッスよ。実際、怪我した人達の報告も受けてるッスよ」


「それは申し訳ないとは思ってる。だけど、五星教へと踏み入れたのならば、覚悟はして欲しいものね」


 それは戦いに身を投じるものだけでなく、こうして闇属性持ちをも殺す覚悟も意味している一言だろう。


 現に五星教は闇属性持ちの活動が落ちていくにつれて、それ以外の業務も導入していった結果、皆が皆、志を一緒にしているわけではない。


 むしろ闇属性に対する復讐心を持つ者は少なくなりつつある。


 だが、それでも支持され続けているのは、人形使い(ドール・マスター)のような奴の再来を防いでくれるのではないかという、希望の声からである。


 ましてやそのトップに君臨する彼女は三属性(ドライ・エレメント)。否応にでも英雄として祀り上げられる。


「ま、メルも相変わらずだよなぁ。お前も嫁の貰い手がとか言われてんのか?」


 鉱山洞の出口に向かう途中での会話とはいえ、十五歳の少女から聞く内容ではなかった。


 だから少し驚きながら尋ねた。


「どうしたの、急に……」


「いやさ。チェシー(こいつ)も含めてなんだけどさ。こんながさつな性格してたら、嫁の貰い手がねぇぞって言うんだ……くっだらね」


 先々の心配はあって当然だが、リンスにはまだ早い気がする。


「大丈夫ッスよ、リンス様。メルトア様の歳にでもなれば嫌でも意識します」


「うるせぇ!!」


「チェシー……余計なお世話」


 二人の五星教トップに対し、ものすごい発言だとラルクは苦笑いを浮かべるが、矛先はこちらへ。


「で、でもメルトア様はちゃんといるじゃないッスか」


 思わず首を傾げる。メルトアを知るラルクも心当たりがないので同じように首を傾げた。


 その様子にチェシーも不思議そうにする。


「あれ? お二人はデキてんじゃないんですか?」


「!」

「――!? いや、僕は違……」


「あれ? 違うんスか? てっきり側近にしてるのもそのためかと……」


「そ、それは違うよ。僕が彼女を放っておけないだけで……」


「ほぉ〜らぁ〜」


「いや、そういう意味じゃなく……」


 茶化してくるチェシーに対し、どう説明しようか戸惑う。


 放っておけないのは昔の彼女のことを知っていて、その苦しみを分かち合えたらいいと考えたから。


 だけど、彼女は一人で走っていくばかりで振り向きもしない。


 こちらの心配など無用だと言わんばかりに。


 だけどそれがどこか危なっかしく、いつか壊れてしまうのではないかと気が気ではない。


 まるで真っ直ぐなテーブルの上に置かれたガラス玉のように。少しでも傾ければ地面に叩きつけられ、簡単に砕け散るように……。


「安心して。私も彼を男としてどうしたいとは思ってないわ」


 さらっとそう答えたメルトアに一同、目を丸くして視線を集めた。


「いやぁ〜、えぐいッスね」


「勝手に話が進んで、勝手にフラれた」


「ははははははっ! 爽快だなあ、おい」


 確かにラルクもそう見ていなかったが、それはそれでと複雑な心境がくすぶる。


「それに私みたいな女、好きになる方が異常よ」


「えっと……自覚はあったんスね」


「じゃあ訊くけど、真っ赤な血で染まった女は受け入れられるの?」


「無理ッス」


 チェシーは即答するが、ラルクも正直、同意見だ。


「でもでもラルク先輩は、幼い頃のメルトア様も知ってんスよね? そんな鎧を着るなんて想像もつかなかった時代があったんスよね?」


「まあ……知ってるけど……」


 メルトアとラルクは影を落とす。


 あの事件が起きる前までは良かった。ただ友達と無邪気に走り回って遊んでいた、あの幼い頃の自分達は。


 二人の様子にチェシーは、地雷踏んじゃったかなぁ〜なんて読み取れるような表情をした。


 すると、こちらへ向かってくる足音が聴こえる。


 部下達はほとんど外に出たと認識していた。


「……! 誰だ!」


 そこに出てきたのは、長身で南国風の民族衣装に身を包み、ヴェールのついた帽子をぶかっと被った男性の姿があった。


「ここは立ち入り禁止のはず。すぐに立ち去りなさい」


 即座に仕事モードに切り替わるメルトア。伊達に五星教のリーダーを受け入れてはいない。


 だがそんな威圧感のある発言にも、怯むことなくその男性はゆっくりと語る。


「……何を恐れているのだ、少女よ」


「なに……?」


 メルトアは今年で十九である。少女と、まるで幼子に語るような雰囲気ある物言いはおかしいと疑問を感じた。


 だがこの男性は幼子を(さと)すような話し方をやめようとはしない。


「少女よ、お前の心からは酷く怯えた姿が見える。何故そんなに怖がるのだ」


「貴様は何を言っている。私は何にも怯えてなどいない! それより立ち去れと言っている!」


 男性は指を差し、また指摘する。


「その虚勢が証拠であろう。どうして(すが)ろうとしない。何故助けを求め――」


「立ち去れと……言ったはずだっ!」


 堪らずメルトアは腰の剣を素早く抜き、男性に向かって構えた。


「メル!?」

「ちょっ!?」


 落ち着いてと近寄ろうかと思った二人だが、どうも気が立っていて近寄り難いとしどろもどろ。


 男性は呆れたため息を吐く。


「その力は決してお前に優しくはない。ましてや恐怖から逃げるための道具でもない」


「貴様……」


「おい、お兄さん。結局何しに来たんだ?」


 一触即発の空気を変えようと、生意気盛りな言い方で場を濁す。


「用件はあれか? メルトアの説得か? 軽くみたとこ闇属性ではねえみたいだし、何が目的か……用件くらい言えるよなぁ?」


 挑発的にリンスは語りかけるが、可愛い子供でも見たかのように、ヴェールからでもわかる微笑みが見えた。


「そうだな。目的は彼女の説得には違いない。これ以上、この地に愚かな血を流さないでほしい」


「……その文句なら、この向こうにある――」


「この大陸全土の話をしている」


「……!」


「お前がこの地で闇の力を持つ者達を手にかけているのは知っている。それが恐れから来ていることも……」


「だから恐れていないと――」


「……哀れだな……娘よ」


「!!」


 ヴェールに隠され良くは見えなかったが、一瞬、哀れんだ視線を感じた。


 それが頭にきたのか、メルトアは駆け出したかと思うと、その男性の前にいた。


「――メル!!」


 ラルクの呼び止める言葉など聞くはずもなく、斬りかかったが、


「――なっ!?」


 ハシッと片手でメルトアの剣を受け止めた。


「そ、そんな……ッス」


 一同、全員が驚くのも無理はない。


 彼女が持つ剣はかつて勇者が使用していた武器の一つ。今いる鍛治師では作れない名剣。


 そしてその使い手であるメルトアも、並の実力者ではない。


 三属性(ドライ・エレメント)を使い熟し、剣の鍛錬も怠ることはなかった。


 その実力は誰もが認めるものだった。


 それをこの男はあっさりと受け止め、挙句、受け止めたはずの手には切り傷一つない。


 その男性はまたため息を吐くと、ゆっくりと刃を退けた。


「落ち着け、娘。私は争いをしにきたわけではない。この地を護りたいだけなのだ。そのためには、このような血を流させ続けるわけにはいかない」


「……っ。私のやり方を変えろと? 部外者の貴方が!?」


「この地にて腰を据えている以上、部外者ではない」


「屁理屈を……」


 男性はまったく聞き入れない様子に、はたまたため息を吐くと、


「ましてや今、神子が来ているというのに……」


「? なんだって?」


 男性の呟きに反応したが、男性はそれには答えずに首を横に振ると、新たな話を持ちかける。


「お前には何を言っても無駄なようだ。仕方がない……『闇の力を持つ銀髪の娘がこの地に降り立った』と言えばいいか」


「「「「!!」」」」


 四人には心当たりのある特徴。


 東大陸、王都ハーメルトの王族の懐刀、リリア・オルヴェールの存在を。


「貴様! あの黒炎の魔術師がどこにいるのか、知っているのか!?」


 男性はこくりと頷く。


「どこだっ!! 言え!!」


 闇属性持ちと聞くや激情するメルトアに、やはり哀れさを隠せない男性はこう話す。


「場所は言えぬ。だが、お前の運命を変える出逢いにはなるだろう」


「何だと……」


「その出逢いが我々にとって、平和への道標にならんことを……」


 そう言うと男性は来た道を戻って行き、立ち去ろうとした。


「待てぇ!!」


「口より足動かせ!」


 リンスは誰よりも早く駆け出し、出口まで到達したが、辺りには五星教の部下達がいただけだった。


「おい! ここを誰か通らなかったか!?」


「えっ? い、いえ。誰も……」


「なにぃ……」


 遅れてメルトア達も外に出たが、辺りには先程の男性はいない。


「リンス様。さっきの奴は……」


「いや、いねぇ。さっきまでちゃんと魔力も感じてたのに……」


「……メル」


 メルトアは悲痛な表情で俯く。


 あの男のまるで見透かしたような哀れむ言動の数々に冷静ではいられない。


 だがどこか自分でも理解していたのだ、無意識に闇属性の者達に対する恐怖を。


 そしてそれを何より理解していたのが、ラルクだった。


 あの男性の発言の数々に思い当たる節がある。


 メルトアが闇属性に対して抱く嫌悪、憎悪。その根底にあるのは、恐怖心やはたまた劣等感ではないかと。


 あの無力だった幼き日を悔やみ、怯えているのではないかと。


 それを自分にさえ、ひた隠しにするように強がっているのをあの男は見透かしていたのではないかと。


「くそっ! あの野郎……シメてやる」


「あのリンス様? 女の子がしていい発言じゃないですからそれ!」


「待って、リンス」


「んだよ。いいのか? あんな舐めた口叩かれて……」


「別に今はいいわ。それより黒炎の魔術師が来ていることが問題よ」


「はあ? さっきの野郎の話を信じるのか?」


「それは調べれば済む話よ。ラルク、すぐに指示を送って……」


「……わかったよ」


 ラルクは渋々といった表情で、入国審査をしていた者達の調査指示を送る。


 ラルク自身は彼の言葉を信じてみたい気持ちだったが、闇属性に関して頭の血が昇りやすく、冷静でいられなくなるほど余裕のないメルトアを見て、どこを見たら変われると判断したのだろうかと疑問にも思った。


 だが変われるなら、得体の知れない男の言葉にさえ、頼りないと感じてしまう。


「情けないな……」


 そんな変わらず、変えられぬラルクを置き去りに、メルトアは決心を固める。


「リリア・オルヴェール……!」


 ***


「――クシュン!」


 小さくクシャミをする俺に、ユネイルは可愛いなぁと一言。


「風邪?」


「風邪なんて引いてられないよ」


「なら暖めて――えへぇっ!?」


「結構です!」


 抱き着こうとされたので肘打ち。だがクシャミの原因には覚えがある。


 この寒々しい地下道がそうである。


 アルビットの一件の事情聴取を終え、俺達はアジトに続く隠し穴を進んでいる。


 元は帝都ナジルスタは鉱山の町。今現在は全盛期に採掘され尽くされたせいか、閉鎖されているが、ユネイル達のような組織の通り道になっている。


 勿論のことだが、陽の光の当たらぬここでは体温を奪われることは必至。


 背筋に寒気が走るのも無理はない。


「まあ寒いよね」


「リュッカ達は大丈夫そうだよね。特にネネは……」


「まあ耐性がありますから」


「耐性?」


「私、水属性ですから」


「あ……」


 属性によって耐性があるのを忘れていた。


「……って、ネネは闇属性じゃないの?」


「あれ? 言ってませんでしたっけ?」


「気付いてたんだと思ってたけど? 俺とネネちゃん、後はマーチェちゃんも闇属性じゃあねえな」


「そっか……」


 そう聞くとこの二人はきっとあの三人を放っておけなかったから、ここにいるのだと考えた。


 それを見透かしたように、ユネイルは嬉しそうに話す。


「まあ疑問には思うわな。ネネちゃんはともかく、俺は最初、ギルヴァとは友達でもなかったしな」


「そうなんですか?」


「ああ。どっちかって言ったらアルビットみたいな賞金稼ぎだったよ」


 ユネイルはその後、少し恥ずかしそうに自分のことを話した。


 ユネイルは魔物に両親を殺された。だが幸い、生きる術を教えてくれる優しい人に巡り合い、迷惑をかける悪い奴らを倒してきた。


 その際に出た賞金の一部は、その人に恩返しを込めて渡していたらしいのだが、その時にギルヴァと出逢い、事情を聞き、現在に至るという。


 ネネも自分の想いを語るためか、ここにいる経緯を話してくれた。


 ネネはとある小さな農村の育ちで、周りには同じ歳の子がおらず、お爺ちゃんお婆ちゃんに囲まれて過ごしていた。


 いつも通りに畑に行くと、木にもたれかかった重傷のカミュラを発見したそうだ。


 カミュラも闇属性だと強い嫌悪を向けられ、出逢った当初こそ、牙を剥き出しにする猛獣のような振る舞いだった。


 だが、周りの優しさとネネと過ごすうちに少しずつ打ち解けたそうだが、いつまでもこうしてはいられないとカミュラが出ていったところをついて来たという。


 庇護と聞いていたが、この組織へは安全確保優先とネネが強引に行ったと聞いて納得した。


 死霊使い(ネクロマンサー)の奴が強情に、一人でなんてありきたりなセリフを吐き捨て、ネネがダメだと言い張った光景が浮かぶようだ。


「……色々あったんだね」


「色々あるのが普通だろ? 俺からすればカミュラちゃんにそんなところがあるなんて、微塵も感じないのに……」


「カミュラは照れ屋さんだから」


「はは……照れ屋ね」


 いや、間違いなくアイツは照れ屋ではなく、ひねくれ者だよ。


 あんな強引なやり方で連れ去られた身になってほしい。


 だが、カルディナ達が無事だと言っていたあたり、一応、気は使っていたんだとちょっと反省もした。


「まあホントはさ、みんなでこんな堅苦しい大陸から逃げ出せばいいんだろうけど……アイツらにも想い想いあるみたいだしさ。付き合ってやるのも一興だろ?」


「そっか。二人とも凄いね」


「い、いえ。そんなことは……」


「惚れてもいいんだぜ」


「そういうところが無ければ尚よし」


「うえ〜!! そりゃあないぜ、リリアちゃぁーん!」


 そんな楽しげな会話を続けながら、おみあげ話を引っさげて帰ってきた。


「たたいま。どうだ? 龍の方は確保……?」


 俺達がギルヴァ達のいる談話室へと入ると、そこには絶望感を抱えて驚愕するギルヴァの姿があった。


 カミュラとテルミナも、その背中を丸めて何かのリストを食い入るようにしてみるギルヴァを無言で眺めていた。


「どうした?」


「……ごめんなさい、おかえりなさい。随分とかかりましたね? 観光が長引きましたか?」


「あ、いえ。その辺りは後で話します。それより……」


 俺達が気になるのはギルヴァのこと。


「彼、どうかしました?」


「……実は、幼馴染の方が奴隷にされていたそうで……」


「!?」


 ギルヴァがガン見していたのは、奴隷のリストだそうだ。


 顔写真と最低落札金額が書かれていた。


「ファニピオンに向かう前に、向こうの情報をと思って手に入れたものだったんだけど……ご愁傷様」


「お前なぁ、もっと言い方ってものがあるだろ!?」


「……でもこれで行かなきゃいけない理由がもう一つ、出来ちまったな」


 ユネイルが優しく肩を叩く。


「ああ……アリアを奴隷になんてさせるか」


「そうと決まれば――」


 テルミナの机の上の魔石が呼びかけるように点滅する。


「ああ、はいはい」


 まるで鳴った電話を急いでとるが如く、主婦のとある日常を切り取った光景に懐かしさを感じ、苦笑いしていると……。


『もしもしテルぅ!? 黒炎の魔術師は無事!?』


 魔石が声に(あわ)せて点滅する中、連絡を取ってきたのはマーチェだった。


「この声……!」


「あの時の……」


 俺達が驚いてる中、急いだ様子で連絡をよこしたマーチェの声に耳を傾ける。


「どうしたのです? 貴女らしくもない」


『ごめんねごめんね! だけどさぁ、キンキューなんだよ! キンキュー!!』


「用件を話して」


『あ、その声はカミュちゃんもいるの? 相変わらずクールビューティーぶって――』


「用件」


『ああ、はいはい……ってそうだよ用件だよ用件!』


 なんだか慌ただしいな。


 魔石もチカチカと忙しそうに光る中、飛び込んできた情報。


『どこ情報か知らないけど、この大陸に黒炎の魔術師がいるってバレたみたいなのぉ! しかも最悪、あのメルトアからの情報網らしくて、もう意味不明ぃーっ!!』


「嘘だろ!?」


 俺は念のためフードを被り、極力、人との接触は避けてきたはず。


 アルビットの事件の時かとも考えたが、事情聴取もされてヘレンだと言い逃れてきたばかり。


 しかも情報先がメルトアというのも妙だ。


 接触どころか顔すら知らない女に、俺の情報があったなんて……。


 そんな考えをしている間に、マーチェ達も色々と言い合っている。


「――貴女が下らないミスでもしたんじゃない?」


『してないもん! 情報にミスなんてあっちゃいけないんだもん』


「とにかく貴女は無事なのですか?」


『一応。これから地の女神騎士が視察に来るっぽい。多分、調査だね。こっちはなんとかしてみせるから、黒炎の魔術師を守ってよ』


「わかっています」


『それじゃあねぇん。何かわかったらまた連絡するよん』


 そう言い終えると、魔石は光を失った。


 すると、すぐに確認を取るよう、くるっと振り向いた。


「うかつに帝都に行かせるべきではなかった……何かありませんでしたか?」


 俺達は気まずい様子を見せると、


「何かあったみたいね。答えて」


「お、怒らないでくれよ〜。じ、実はさぁ……」


 ユネイルの誤魔化したそうな発言から、帝都での出来事を説明。


「……そんなことがあったのか」


「貴女達……馬鹿」


「し、仕方ないでしょ!? 子供を放っておくなんてできないでしょ?」


 俺は至極真っ当な意見を言うが、カミュラはそこは否定的。


「貴女、自分の立場を理解してる? 闇属性だとバレたら人助けどころじゃなくなるの。わかる?」


「うっ……」


 図星を突かれ、ギクリとはなるが、


「それでも……人として当たり前のことをしたつもりだよ」


 俺はそんな当たり前くらいできる人でありたい。


 そりゃあカミュラの言うこも尤もだと思う。死んだらそこまでだ。助けられるものも助けられない。


 自分のことも守れない奴は他人だって守れないと考える。


 だけど、助けたいと思う当たり前を捨てたくはない。


「まあまあ、お二人さんとりあえずはそこまでってことで……」


「そもそも貴方がなんとかすれば良かった話じゃ……?」


「――うっ!?」


「最初、弱腰吐いてたからなぁ……」


「――うぐうっ!?」


「ポンコツ」


「――がはぁっ!?」


 俺とカミュラの連携罵声攻撃に、ユネイルはノックダウン。


 そんな様子を困ったように見る一同の中で、ギルヴァは咳き込み、


「とにかく話をまとめるのと、場所を変えた方がいいな」


 落ち込んでいる場合ではないと、自分を奮い立たせる意味でも音頭を取った。

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