31 魔法について学ぼう 実技編その五
「ていうかそもそも、もう少し速度が出ないのかな?」
というのも、小さいのである程度は速度があるが、よく見て躱せるほどの余裕はある速度だ。前衛がいるならともかく一対一では話にならない。
「早く出るイメージをすれば出るか? ――ファイアボール! ……ダメだな、変わらない」
何が問題なのか考える。魔法の発動に必要なものが原因だよな。杖、魔力、イメージ、詠唱……詠唱?
ふと詠唱が問題なのではと直感がモノを言う。詠唱の詳しい事が書かれていた本を思い出し探す。
「……あった! これだ多分。――詠唱は基本、自分が発動しやすい言葉を選んで行う。つまり詠唱した言葉がそのまま発動するケースが多いから、早くなるように言えばいいのか!?」
物は試し、早速やってみる。
「――火の礫よ、早く敵を打て! ファイアボール!」
ボッ! と先程までより素早く出た。だが、少し納得しない様子。
「早くを付けると変だよな」
不満なのはファイアボールの速度では無く、語呂が悪い詠唱の方だったが、すぐに解決策が浮かんだ。
「……消してみるか、――火の礫よ、敵を打て! ファイアボールッ!」
納得のいかない詠唱の時と同じ速度で飛んだ。少し驚いた表情を見せて悩んだ。何故かと。
「……もしかして狙いを言葉にしたからか?」
確かに『敵を打て』と岩という対象を狙った。一応、『敵を打て』を除いた詠唱で発動してみる。
「――火の礫よ……ファイアボールッ! ……やっぱりか」
速度が遅くなったのを確認。おそらく確定だ。
「つまりは詠唱の言葉次第で臨機応変に対応できるわけなのか。でも中級魔法以降はどうなんだ? 確か、魔法は強くなればなるほど詠唱は長くしなくちゃいけないんだっけ?」
中級魔法を探す。イメージしやすい魔法を見つける。
「ファイア・ランスか。火の槍ならイメージしやすいな」
イメージを膨らませる。発動ができそうな魔力は流れてくるが、詠唱が思い浮かばない。
「え、えっと、――火の槍よ、敵を打て……ファイア・ランスッ! …………アレ?」
発動がしない。どうやら詠唱が短すぎたよう。頭をかき、仕方なさそうな表情をしたかと思えば舌舐めずりをして、
「本格的に中二病を拗らせますか〜?」
楽しそうな笑みを浮かべ、今度は中二病感マックスな感じで唱えてみる。
「――火の精霊よ、今形を成して我が敵を打て! 赤き槍を振り下ろす! ファイア・ランスッ!」
ボボボボボボボッと燃ゆる音とともに岩の上あたりに燃え盛る炎の塊が出現。そこからボゴッと槍の形を形成したかと思うと勢いよく振り落ちる。
ボゴオオォォン!! 轟音と共に岩へ命中。岩は砕け、真っ二つになった、その現代世界との差を痛感させられて少し呆然とする。
「お、おお……すげぇ迫力……」
中級魔法でも十分、威力と迫力があるすごい光景だと思い知った。




