16 暗闇からの答え
「――どう?」
俺の話を聞き終えたカミュラは何故かテルミナに問う。
すると落ち着いた声で質問に答えた。
「……彼女は嘘をついていません。どうやら本当のようです」
嘘なんて一つも付いてないのに、その物言いは不愉快な気分になる。
すると、クスッと笑うとテルミナは謝ってきた。
「ごめんなさい。貴女を不快にさせるつもりはなかったの。でもあのクルシアの名前が出てきたからどうもね……」
「でも今の言い方だと、まるで嘘が見抜けるみたいだけど……」
「そうですね。私の得意とする術ですから……」
「えっ?」
「テルミナは心が読めるのよ。読心術師ってやつね」
「えっ!?」
心を読める的なテンプレ!? それはヤバイ!?
「てん……ぷ、れ?」
「えっ!?」
聞いたことのない言葉に困った顔をして首を傾げる。
「本当に読めるんだ……」
「ええ。今のように表層的なものなら気取られずに。深く読み込むならもう少し魔力を使いますが……」
いや、それでもチートでしょ!? 今みたいな交渉ごとは勿論、戦闘にだって応用が効く。
「ちーと? なんだか馴染みのない言葉ばかり使うのですね」
「す、すごーい」
「いや、アイシア。感心しないで。最早これは交渉じゃなくなってるから……」
心を読める相手に駆け引きは無理だ。クルシアという危険分子に対し、共に戦おうなんて話にはならない。
するとテルミナはまた微笑んだ。
「大丈夫ですよ。……言ったはずです、表層的なものなら簡単にと。それに貴女の深層意識を探ろうというのは、ポリシーに反します」
疲れますし、プライベートは守られるべきでしょと微笑まれたが、心が読める相手だ。疑り深くいくべきだろう。
俺のその疑心的視線に困った表情で説得してくる。
「確かに心を読める方が交渉は有利に運ぶでしょう。しかし、相手に信頼してほしいのなら敢えてそれを口にし、信頼を得なければならないと思いませんか?」
テルミナの要求は、五星教の組織の独裁を抑えるのが目的。
そのためには同じ目的を持つという共通意識と信頼性が必要になるだろう。
命すら張ることになるのだから、余計だろう。
「……わかったよ。言いくるめられてあげる」
テルミナの最初の印象からかなりかけ離れた。
この女……絶対腹黒い。
「それにあんた、同じ闇属性ならわかるでしょ? 同じ闇属性同士、力量にもよるけどある程度は緩和、無効になるでしょ」
「あ……」
言われてみればと心当たりがちらほらとあったと思い立つ。
「ま、まあ知ってたしぃ……」
誤魔化そうとする俺だが、時既に遅し。
カミュラはジトっと見てくるし、ユネイルは可愛いなぁと言いたげな眼差し。
「ん、んんっ!」
とりあえず切り替えようと咳き込むと、先ずは真実の羽根の作戦概要を尋ねる。
「具体的な作戦はあるの? そっちの計画の……」
「ええ、具体案はあります」
そう言うと、何やら資料を取り出してテーブルの上に置いた。
そこには、似顔絵と名前が並んでいた。賞金首かと思ったが賞金は書かれていないが、危険度は記されている。
「これは?」
「我々と同様の闇属性組織の幹部やリーダーの似顔絵です。これは五星教に所属する方に渡る物です」
マーチェから貰ったコピーだと語ると、作戦概要を話す。
ここに名を連ねている連中は、危険度Aを超える実力派揃い。五星教もマヌケではないので、ある程度の能力は把握しているだろう。
それでもこの連中の能力自体、厄介なものが多い。
そこで自作自演を行う。
五星教と連中の組織がぶつかった時、先ずは五星教を追い詰めるよう、闇属性組織に肩入れする。
その後、五星教側に助言する形で援護し、闇属性組織を撃退。
後は口八丁手八丁で言いくるめ、闇属性持ちに人権を与えるべきと諭すそうだが、
「……上手くいくの? これ?」
俺は胡散臭い作戦だと、思わず馬鹿にしたような口調で言ってしまうが、予想していたようで苦笑いを浮かべる。
「仰りたい気持ちはわかります。都合よく彼らが動き、両方をサポート、五星教の説得というのは全てにおいてハードルが高い。ですが、全員が話を聞いてくれないというわけではありませんし、この彼らに関しても動向を探らせています」
まあ前例があったわけだから、納得できると言えばできる。
情報収集に関してはマーチェを中心に行い、戦力サポートはここにいる連中。説得はテルミナがやるって寸法なんだろう。
「あれ? じゃあもしかして……」
「ええ。貴女を確保したいと考えたのはそのためでもあります」
なるほど。交渉材料ね。
いくら危険人物と認定されていても、魔人を倒した魔術師だ。帝都は無下には扱えないってところか。
五星教に関しちゃ、まだ未知数な部分が多いが、メルトアって奴にバレたら即バトルだろうな。
俺はその作戦を聞いて、いくつか質問を投げかける。
「ここの連中らだけど、五星教に限った話じゃないけど、目につくような動きとかは?」
「今のところは何も……」
「それもそうだよ。五星教の長どもの実力も並じゃない」
「それって、各属性ごとにいるって言う……」
「そ。眼鏡ちゃん」
嘲笑しながらリュッカを見るカミュラにイラッとする。
絶対、小馬鹿にしてる。
「そもそも五星教の長共を何とか出来るなら、こうなってない」
わかり切ってたことだが、メルトアの独壇場で成り立っているわけではないようだ。
「その長というか隊長だっけ? その連中全員、メルトアみたいに闇属性持ちに見境がないとか?」
「そこに関して狂気じみてるのはメルトアだけだよ。他の奴らは共感してるって感じ」
共感されても困るが……。
「それでも話が通じるのは地と風の彼女達でしょう。交渉するなら彼女らだと思っていましたし……」
「でも実力があるなら、そもそも独自解決されちゃうんじゃ……」
「ああ。だからコイツらに同盟を結ばせようって考えてる」
「……なるほど。リストに載ってる人達が結託すれば、五星教の隊長達にも引けは取らないと……」
「それでも五星教の方が有利」
俺達は五星教の強さを全く知らないが、ここに書かれている明らかに悪くて強そうな連中が束になってもダメじゃ、作戦としてはガバガバだ。
「五星教の隊長格ってどれだけ強いの?」
「そっか。知らないんだな――」
ギルヴァは腰を上げ、立ち上がると一人ずつ説明してくれた。
リンス・ヴァーレット。五星教、火属性のリーダー。
性格は活発的で短絡的かつ好戦的。燃え盛る紅蓮の炎のような髪色のツインテールさんで、表情筋が柔らかいのか喜怒哀楽がしっかりした少女。
ユネイル曰くぺったんこ。
ガキっぽい見た目の割には豪快な戦い方を好み、魔物との戦いを観察したことがあるらしく、グリーンエイプが大量発生した区域を一凪で焼き払ったそうだ。
小さい見た目に反し、大剣を豪快に振り回して戦うようだ。
ヒューイ・ウェンキュリー。五星教、水属性のリーダー。
性格は何を考えているのかわからず、感情表現が希薄していることからよくわからない。
水色が混じったような雪色の髪色に、ふわぁとしたショートヘアの常にジト目のように目蓋を落とした人形みたいな少女。
ユネイル曰くこちらはリンスより程よくあるそうだ。
身体も細々く、とても戦いに向いた身体付きをしているようには見えないが、小柄な身長からは似合わない長剣を使い戦う。
五星教のリーダー格の中ではメルトアの次に強いのではと噂されている。
リアン・ハイル。五星教、風属性リーダー。
性格は明るいく、優しいお姉さん。草原のような黄緑色の髪色のポニテールさん。包容力を見せる優しい顔立ちだそう。
ユネイル曰くその包容力を証明するかのように、豊満な果実が実っているそうだ。
というのも彼女は魔物の討伐や闇属性の断罪の仕事は好まず、人を助けることをメインに活動している。
五星教が民衆に受け入れやすいのも彼女と地属性リーダーの影響もある。
武器は二刀流の剣を使って戦い、風属性の恩恵の影響か迅速迅雷の言葉が当てはまるほどの身のこなしのようだ。
ミナール・ハイドライト。五星教、地属性リーダー。
性格は温厚で大人しく、常に自信が無さそうにフードを深く被っているが、茶髪と丸メガネがフードから顔を覗かせている。
五星教のリーダーの中で唯一の精神型の魔術師。
ユネイル曰く隠れ巨乳であって欲しいとのこと。
リアン以上に戦いは好まず、五星教の縁の下の力持ちをしている。
だが魔法使いとしても優秀で、北大陸側の港町が波に呑まれそうになった際には総指揮を執り、自身も大きな岩壁を作って災害を阻止した。
そして――、
「五星教の総指揮者にして光属性リーダー……メルトア・キューメル。闇属性以外には優しい笑顔さえ見せる彼女だが、戦闘時は勿論、闇属性相手なら激変する。魔物と戦う際には凛々しく、闇属性相手なら冷酷にって感じだ」
「外見は金髪とオッドアイが印象的なんだよなぁ〜。胸はあの鎧を見る限りは巨乳と見た。顔立ちが可愛らしいだけに、冷酷な表情は似合わないんだけどなぁ〜」
メルトアの女性像に惜しいと悔やむユネイルに、さっきから引っかかってる話をする。
「あのさ、さっきから胸の話をちょくちょく入れるのやめない?」
元男として気持ちは分からんではない。
だが、大事な会議の場にその要素は必要ないように考えるが、急に熱弁する。
「いやぁ、確かに聞き苦しい話かもしれないが、あの女性特有の豊満なボディには、男のロマンティックが詰まってるんだよ! なっ!?」
「――俺に同意を求めるなぁ!!」
男女比は明らか。同意を求められても、はい、そうですとは答えづらい。
「……あんた、おっぱいだぁい好きだものね」
「……最低」
「男の子って本当におっぱいが好きだよね」
女の子達からの批判の声が飛び交い、テルミナとリュッカは戸惑いの笑み。
そんな言葉を浴びせられながらも、ユネイルは止まらない。
「待て待て。男でおっぱいが嫌いな奴なんていないだろ、普通。だろ?」
「……だから、同意を求めるな!」
「カッコつけるなよぉ〜」
男子的なノリだなぁ〜、懐かしい。
「……まあ男にはない願望の塊だものね」
「わかってくれるのかい!? リリアちゃん!?」
「理解はできるけど、近付かないでね」
男の支配欲を満たす胸としては非常にわかりやすい。
好き放題に揉みしだくなんて、男としては魅力的だろうが、こうして襲われる側になると男に対し、怖さや呆れるという感性が理解できる。
男ってバカねってセリフ……よく理解できました。
俺がサッと胸を隠して身をよじると、大丈夫と根拠のない言い訳を始める。
「俺は紳士だからね。嫌がる女の子にそんなことしないさ」
キラッと決め顔をするが、
「そもそも紳士はこれだけの女の前で胸のことを熱弁しない」
「大丈夫だよ、死霊使い。変態紳士って言葉がある」
「へぇ……」
「あのさ、リリアちゃん。それ……褒め言葉じゃないよね?」
俺達にボロクソ言われて、やっと凹んだ。
するとテルミナがそっと手をあげる。
「そろそろ話を戻しても?」
「そうね。男共をつまみ出したら再会ね」
「えっ!?」
「待てっ! 俺関係ないっ!?」
さらに冗談で場が和んだところで、メルトアの情報の話に戻る。
「彼女は片手剣を使い、三属性を起用し戦います」
「三属性だっけ?」
「そ。あの殺人狂の厄介なところ。光属性が得意属性ではあるんだけど、火属性と地属性も扱うの」
「それだけじゃない。他の連中もそうだが、武器は術式が組み込まれてる特殊な魔道具だ。魔法剣士みたいに戦う性質上、他を寄せ付けない実力を持ってる」
ザーディアスが使っている大鎌みたいなものだろう。これでほぼ肉体型も精神型も関係ない。
「つまりコイツらの実力を超えた者達をぶつけなきゃダメってこと?」
「そ。だから加担する側に実力のある者が欲しかったの」
俺をチラ見するカミュラの視線で察した。
俺を攫うこと自体、メリットの方が多いようだ。
これでマーチェが回収してきた五星教のリーダー達の情報の全てが開示された。
ついでにユネイルのおっぱい講座も終了です。
「でもさ、結局コイツらが結託しないと話が進まないよね?」
「そうですね……」
裏工作してるとは言うが、ほいほいとその通りに行くなら苦労はしない。
しかも同じ闇属性組織とは言うが、全員の考えが合うわけではない。
非常に厳しい作戦だと考えるが、
「だったら、私の要求は通りそうだね」
俺は不敵な笑みを浮かべ、自信満々に言い放つ。
「貴女の要求とは? 先程のクルシアの件ですか?」
「そうだよ。言ったよね? 私達はクルシアを止めるために来たって……。クルシアはここ、西大陸のファニピオンという町で犯行を行うと宣言してる。『歌鳥の鳥籠』でね」
「歌鳥の鳥籠……?」
「はい。先程話したテテュラちゃんが起こした事件の帰り際に話しました」
「こっちで調べた話だと、鳥籠みたいな裏オークション会場があるんだってね。そこでクルシアは魔人の魔石の適合者を探すことを目的にしてる」
魔石を取り込まれた人間の話はしたよねと話を思い出してもらう。
「そしてクルシアの性格上、私達が来るまで実行しない。……逆に言えば、私達が行けば行動を起こす」
「つまり、私達の条件に合うと……」
こくりと頷いた。
いくら探りを入れているとはいえ、いつ動くかわからない連中を使うより、こちらの動きに合わせて動く奴を利用する方が手取り早い。
それにクルシアならば五星教を追い詰めるほどの実力はあるだろう。何せバザガジールって殺人狂のお墨付きだ。
だが、クルシアの性格を考え、戦力の増強は魔石を奪うことは勿論、勝機も見出せるかもしれない。
さらにさらに、クルシアが事を起こそうとするところは、違法オークション。
仮にクルシアが現れなくて、違法で奴隷を作る組織こそ撲殺されるべき。一網打尽にできるだろう。
どちらにしても真実の羽根は五星教や帝都に対し、強いアプローチが可能となる。
ただこの提案に対し、問題なのは彼らの反応。
カミュラは忠告し、ギルヴァは血相を変えるほどに驚いていた。
カミュラの発言を考えると、血染めの噴水事件については知っていそうだ。
「私は反対する」
悪い予想が当たった。
反対意見を口にしたのは、軽く手をあげて壁に寄りかかっていたカミュラ。
「『指切り』と関わりを持つこと自体、ごめんよ」
「『指切り』?」
「彼の異名です。噴水事件や屋敷での事件の被害者のほとんどが指を切断、引き千切られていました」
そういえば拷問された跡が残ってたと話していた。
「そんな異常殺人鬼に関わりを持つのは、同じ闇属性でも敬遠したくなります」
テルミナも渋るような口ぶりで話すが、ギルヴァの方へ向く。
「ですが、私は賛成です。危険度は上がりますが、五星教に関わる以上は同じこと」
「テルミナ!?」
「他のみんなはどう?」
「わ、私も反対。カミュラがこんなに怯えるのは初め――」
「ネネっ!!」
「ひゃう!?」
この二人は幼馴染のような態度を見せる。最初から思っていたが、どうにもそう捉えられる。
だがこちらの関係はどうだろう。
ユネイルはギルヴァをジッと見ると、仕方ないなという風に微笑む。
「俺は賛成だ。リリアちゃん達には迷惑かけてるし、何よりあのヤバいのがこの大陸に居るんだろ? 目のつかないところにいるって方がゾッとしない」
「バカ言わないで。この業界にいるんだからわかるでしょ? 奴は私達が捌いてきた連中とは文字通り、格が違うの」
「……大丈夫。君は俺が――」
「そんなので認めると?」
決め台詞をバッサリとはたき落とされると、ギッとギルヴァを睨むが、パッとこちらへ向く。
「黒炎の魔術師! ふざけた提案をしないで! あんな得体の知れない化け物を相手にするのはごめんよ」
「それなら協力関係は無しだ。武器も荷物も返してもらう」
「なっ!?」
「驚くことでもないでしょ? 私達はそのクルシアから犯行予告を受け取ってここにいる。クルシアも把握してるはずさ。面白いことに関する嗅覚は鋭いからね。あのクズ」
俺はクルシアの名前を使って、怯えるカミュラを翻弄する。
正直、こいつが一番ビビってることに驚くが、ギルヴァの思い詰めた表情も気にかかる。
「貴方はどうです? ギルヴァ」
真実の羽根で一番、因果関係がありそうなギルヴァは、考えがまとまったのか、真剣な眼差しを俺達に向けた。
「その話、乗るよ。俺」
その返答に舌打ちをして、不機嫌な様子を隠さないカミュラ。
他のメンバーは少し悲しそうな表情をしている。
何があったのかを訊くのは野暮だろう。クルシアの事件を見てきた俺達からすれば、容易に想像がつく。
「……これで反対はお二人さんだけになったけど……どう? 考え直してくれる?」
「……わかった。好きにすればいい」
「カ、カミュラぁ!?」
機嫌はそのままにネネと一緒に部屋から退出した。
「すみませんね。でも、必ず彼女も力になってくれるので……」
「そう……」
カミュラの退出前に見せたあの機嫌の悪い表情は、怯えるような恐怖心からくる感情に見えた。
少なくとも怒りではない。
「それではもう少し詳しく、作戦の話をしましょうか」
こうして俺達の作戦の話が進行し、近いうちにファニピオンへと向かうこととなった――。
「よし、じゃあこっちな」
ある程度、話を終えた俺達は武器や荷物、そして保護されているポチの様子を見に行く。
「ポチは無事なんだよね?」
「ああ。だが、めっちゃ不機嫌だけどな」
そりゃそうだ。襲われた相手に好意的な感情は先ず湧かない。
それにドラゴン自体、気性が荒い。
ポチだって同質者である俺に懐くまでどれだけ時間のかかったことか。
「それにしてもあのドラゴン、ポチって名前なのか? かっこ悪いなぁ、おい」
ギルヴァ君、まったく同意見であります。
改めてごめんね、ポチ。俺のせいで。
「カッコよくなくたっていいよ! ポチは可愛いもん!」
「そうだぞ! 彼女の可愛いらしいネーミングセンスをバカにすんな!」
「あ、ううん。この名前考えたのリリィだから」
「いや、確かにそうだけど……」
ギルヴァから妙な視線を感じる。
「違うから! 冗談で言った名前を可愛いってアイシアが採用しただけだから!」
「いや、冗談でもドラゴンにつける名前じゃない」
「お、仰る通りで……」
ぐうの音も出ないとはこのことである。
「それにしてもテルミナさんは凄いですね」
「何が?」
「これだけ個性的な能力を持つ方々をまとめるのは大変でしょうし、西大陸の社会情勢にも立ち向かおうという姿勢は凄いと思います」
ベタ褒めするリュッカだが、彼女を知る男子二人は哀愁漂う表情へと変わる。
「そう見えてるなら有り難いだろうが、実際はそんな立派なもんじゃないさ」
「え?」
「テルミナの眼帯、見たろ?」
「ああ……うん」
テルミナには似合わない黒くて包帯みたいな眼帯。まるでこの奥の瞳を絶対見せたくないと強固さすら感じた。
「あそこにテルミナの目玉は無い」
「「「!?」」」
俺達一同は驚愕する。
そして悪い話は続く。
「テルミナは闇属性で読心術師だって言ったろ? テルミナは処刑日前から闇属性だとわかられてたからな。ガキの頃には酷い目に遭ったそうだ。あの眼帯もその名残りだ」
「元々この組織は、俺とギルヴァで始めたんだ。テルミナを保護した時は……酷かった」
その時のテルミナは、ゴミ置き場の片隅に身を丸めて片目から血を流し、遠巻きからでもわかるくらい震えていたそうだ。
その時の恐怖心に支配されたテルミナの表情が離れないと口にする。
「じゃあ……あの二人も?」
「いや、カミュラとネネは庇護を求める感じでな」
ネネが強引にカミュラを引っ張ってのことだそう。
「……テルミナはそんな組織で自分に出来ることを探した結果が今のポジションさ。正直、助かってはいるが、内心ハラハラさ」
「今頃、ドッと疲れが出て、汗まみれでくたびれているだろうさ」
「私達の話で……」
「……アイシアは多分わからないと思うけど、酷い人間不信なんだと思う」
闇属性だと罵られ、片目を奪われるだけでは済まなかったろう。
しかも読心術ということは、それだけの悪意を身に浴びるということだ。
クルシアみたいな異常者じゃない限り、常識的に考えれば、人間不信に陥る。
俺達も自然と落ち込んだ表情に変わると、ギルヴァはすまないと微笑む。
「悪いな。こんな話……」
「い、いえ」
「でもな。それだけの覚悟があるってことなんだよ。テルミナは確かに人間不信に陥っている。だけどそれ以上に何とかしたいって……自分みたいな人を作りたくないって、そう言ったんだ」
それはどれだけの勇気がいることだろう。
逃げ出したい、怖い、誰かに縋れるならそうしたいだろう。
だけど自分の境遇から救いたいと望むことは、どれだけの覚悟と勇気を――そして、どれだけ辛い想いを背負っているのだろうか。
そんな様子など微塵も感じなかった。
「だから危険な私達の案にも乗ってくれた……」
「まあそこはどっこいどっこいさ。なっ?」
「ああ……」
ギルヴァとユネイルが立ち上げたというこの組織、本当の目的は多分クルシアだ。
「やっぱりギルヴァ君にも何かあった?」
「シ、シア……」
クルシアのことを知ってるんだから察してよ、アイシア。
そこ踏み込むのとリュッカも少し動揺する。
「気になってはいたんだろ? 多分、想像通りだよ。俺はクルシアを殺すためにこの組織を作った。戦力を集めるために……。俺達の全てを変えた、あの男に……」
わなわなと湧き立つ憤りを感じる。
クルシアに大切な人でも弄ばれたのだろうか、テテュラやナタルみたいに……。
「でも今じゃ、闇属性保護や奴隷解放の仕事にやり甲斐を感じてる。復讐なんて……忘れるくらいに。だから今回の作戦は感謝してる。復讐ではなく、奴の罪を断罪できる機会をくれたことに……」
「!」
怒りはある。憎しみもある。だが、彼は知っているようだった。
復讐から振るう暴力が生むのは、新たな憎悪と破壊、暴力であると。
その瞳は決して復讐に囚われたものではない。俺達に対し、感謝の念を示した瞳だった。
「何だか安心したよ。思い詰めた表情してたから」
「……葛藤がなかったわけでもないんだぜ」
「でもそんな中でもそう言い切れるのは凄いです。……身近に復讐に囚われそうな人がいますから……」
リュッカの言う人物はナタルのことだろう。
「俺だって今はこう言ってるが、本人を目の前にしたらどうなるか……正直、自信はない」
そう仕方ないと微笑むギルヴァに、ガバッと肩を組むユネイル。
「大丈夫だ! そのためにひょうきんな俺がいてやってるんだから。ほっとくなよぉ」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。馬鹿が」
そう楽しげに話す二人を見ながら俺は、リュッカに助言する。
「大丈夫だよ、リュッカ。ナタルが間違わないように、友達の私達が見てればいい」
リュッカも目の前にいる彼らを見ると、納得した表情を浮かべる。
「そうだね」
持つべきものは友達、なんて言葉があるように、友達というのは、本当にかけがえのない財産なのだと、この微笑ましい光景を目にしてそう感じた。




