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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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15 協力依頼

 

 テルミナという目の前の女性からは清楚な雰囲気を感じる。顔立ちや振る舞い、すらっとした立ち姿には品性を感じる。


 聖母と言えば言い過ぎかも知れないが、安らぐ雰囲気がある。


 正直、カミュラなんかとは大違い。


 カミュラは正反対のクールを気取る不良少女。修道服みたいな格好してるんだから、それなりの態度でいろよと思うが、テルミナの眼帯も妙に気になる。


 こんな清楚系の彼女がまさか中二病ではなかろうか。


「先ずは謝罪を。このような形で迎えてしまったことをどうかお許し下さい」


 どうやら中二病説はなさそうだ。本当の意味で目に怪我でもしているのだろうか。


 それともここは魔法の世界だから、中二病関係なく魔眼とかを封じ込めたものだろうか。


「……こっちも急ぎの旅なんだ。迷惑してるよ」


「世界がどうとかだっけ? 馬鹿馬鹿しい……」


「カミュラ」


 テルミナが穏やかに指摘すると、そっぽを向いた。


「申し訳ありません」


「別にいいよ。ただ、そろそろ状況を把握したい。先ずはあんた達のことを教えてもらうよ」


 コイツらは自分から名乗っているということは、少なくとも危害を加えようという考えはないのだろう。


 一人はどうあっても信用できないが。


 信用してほしいという気概を感じる。


 実際そうなのだろう。テルミナは俺を椅子へ座るよう促すと、自分も相対する席へ腰掛けた。


「我々は真実の羽根(トュルー・フェザー)という表向きは(さら)い屋をさせて頂いております」


 さらっと笑顔で(さら)い屋って言ったぞ、コイツ。


「……何やら勘違いをされているようで。一口に(さら)い屋と言っても、色々御座います」


 俺の顔色を読んでか、誤解を解こうとする。


「いや、人(さら)いは人攫いでしょ?」


「俺達は闇属性持ちや違法で奴隷になってしまった連中専門なんだ」


「!」


「ええ。その方々を(さら)い、安全に生活できる環境へ案内したり、別大陸へと移住させることを専門としております」


「……信用しろと?」


 俺は(さら)い屋の上等文句に聞こえた。


 詐欺師とかが信用を得るために、慈善活動をしてますよー的なアレである。


 だがテルミナは動揺することもなく、ニコリとあることを思い出すよう促す。


「疑問には思われませんでしたか?」


「何が?」


「襲撃の件です」


「!」


 確かに疑問に思うところはあった。


 手際良く俺を見つけたことやフェルサへの対応。それにギルヴァのカルディナの攻撃も、あの狭さだというのに軽く回避していた。


 まるで攻撃方法を知っていたかのようだ。


 だが検討はついてると指輪を見せる。


「これ……でしょ? あの赤紫、あんたのところの奴か」


 テルミナは無言でニッコリと肯定する。


 俺達の情報を得るなら入国審査(あそこ)が一番濃厚だ。


 それにあの女は俺の正体に気付き、これを渡した。


「なるほど。つまり彼女から私と私の同行者を把握し、襲撃。この指輪には闇属性である私が、結界の影響を受けないようにする以外にもう一つ、探知できるように術式でも組み込んであったと……」


「ええ、仰る通りです」


 要するに発信器をつけられていたわけだ。これなら、辻褄が合う。


「そして彼女は五星教の入国審査員をしているなら、裏で手回しして(さら)った闇属性持ちを中心に国外へ逃していたってことかな?」


「ええ、流石ですね」


「馬鹿言え……」


 テルミナという女のことを誤解していたようだ。この女、腹黒いぞ。


 あの赤紫髪の女に情報収集と密入国を指示させ、それを信用材料に使うなんて、物騒でしかない。


「……腹黒いとは心外ですね」


「!?」


 俺は心の中を読まれたのかと、ギョッとする。


 一応ポーカーフェイスは取ったつもりだが、


「確かにマーチェには危険なことをお願いしていますし、その行為そのものが褒められることではありませんが、それも救われぬ者達のため。貴女に協力をお願いするのもそのためです」


 俺の驚きを無視し、話を続けた。


「貴女はこちらの社会情勢はご存知で?」


「まあ。人形使い(ドール・マスター)のことを未だに引っ張ってるとか」


「……ええ。歴史から教訓を学ぶ姿勢は悪くありませんが、限度というものがあります。我々は五星教の独裁を止めたいのです」


「えっと……」


 つまりはコイツらは、闇属性持ちや違法な奴隷達を救う過程で、この大陸自体に住み良い環境作りのために、五星教を抑えたいという考えだろうか。


「待って。ギルヴァもそこの死霊使い(ネクロマンサー)も闇属性だよね? 五星教に喧嘩を売るのはマズくない?」


「彼女から聞きませんでしたか? 五星教も一枚岩ではないと……」


「!」


「五星教の中でも、今の改革を良しとしないものもいますし、帝都側も実権を取り戻そうと考えているようですしね」


 後ろ盾というより、当ては色々といるようだ。


 確かにテテュラからもギルドが機能しないほど、五星教は独占権を取得していると言っていた。


 実際、こちらの町々に言って気付いたが、五星教の制服を着た人間が常にいたように思う。


「実権を取り戻すって、帝都に発言力がないの?」


「ないわけはありません。ですが民衆は大統領の声より五星教のメルトアの声の方が届くようです」


「あの殺人狂には、闇属性に家族を殺されたという後ろ暗さがあるから。その背景に同情する民衆が味方している形なの。……我が国の問題ながら呆れ果てるわ」


 集団心理による無責任な行動原理はクルシアの話だけでお腹いっぱいだ。


 この大陸の人間はその愚かさを学ばないらしい。


「ですから一応の責任や決定権は大統領側にあるものの、民衆の味方である五星教の意見を(ないがし)ろにすると、民衆が黙っていないということなのです」


「つまり五星教は、責任を全部国側に背負わせておきながら、意見が通らないと国民を盾に使うクズ集団ってこと?」


「そ。話がわかるのね」


「お前に褒められても嬉しくない」


 そんな意見とカミュラとのいがみ合いに、眉を曲げて困った笑顔を見せるテルミナは、ここからが本題だと話す。


「そこで国側から我々裏組織に依頼が来ました――これ以上の五星教の拡大を止めて欲しい。方法は問わないと……」


「依頼?」


 妙な話だと眉を(ひそ)める。


 彼女らが裏組織なのはわかる。闇属性持ちが少なからず二人はいる組織だ。


 クルシアの話からしても俺と同じ歳くらいの奴が生き残っているのがその証拠だろう。


 だがそんな組織に、仮にも闇属性の抹殺のために五星教なんて組織を作ったほどだ。


 どうやって依頼したのかが想像がつかない。


 その痕跡がバレれば国の立場はより一層悪くなるのではと考える。


「そう。俺達みたいな闇属性持ちに依頼してきたんだよ。馬鹿な話だろ?」


「いや! そもそも依頼されてる時点でこのアジトの場所、分かられてるって!」


 一同はそっちかと目をパチクリ。


「すみません。そうですね。そちらの疑問から解決しましょう。簡単な話です、匿名でギルドの掲示板に貼り付け、依頼したのです」


 この大陸全土では、ギルドはほぼ機能していないだけで、存在はする。


 ギルドの経営のほとんどを五星教が担っていることから、ギルドの本店、支店は自ずとならず者やホームレスのたまり場となっている。


 そこに目をつけた帝都は、そこに依頼書として貼り付け、ならず者や真実の羽根(トゥルー・フェザー)のような取り引きに利用している連中の目に止まるようにしたのだ。


 その依頼書を見た彼らは事が事だけに口外はしないし、五星教もギルドには何も期待していないので、立ち寄ることもない。


「……なるほど」


「納得した?」


「したよ。でもそんな依頼の出し方をすれば、過激派の連中が何しでかすかわからないよ」


「貴女、馬鹿? 大統領の狙いはそこ」


「なに!?」


 カミュラに馬鹿にされたくないと思わず感情的になるが、国の狙いと聞いてわかった。


「そっか……不穏分子を排除しつつ、五星教の力を削ぎ落とすのが目的……」


「ええ。そして内側から説得し、闇属性持ちでも暮らしていける大陸を目指そうとしているのです」


「ん? そんな良心的な考えがあったんだ」


「ないわ。あんた、馬鹿ね」


「さっきから馬鹿馬鹿とぉ……」


「国側は恐れてるのよ。五星教側が仮に陥落した時、我慢をしてきた我々裏組織が暴動でも起こすんじゃないかってね」


「要するにはパワーバランスをとりたいってことだ」


 メルトアがリーダーになるまでは、闇属性持ちの裏組織が過激に行動していたこの西大陸。


 しかし今ではカリスマ的センスでのし上がってきたメルトアにより、闇属性持ちが表舞台に出られない日々が続いている。


 そんな時、メルトア一人失っただけで、またパワーバランスが崩れてしまう。そんなことを恐れたのだ。


 しかもメルトアの改革は闇属性持ちをとにかく殺すことを前提とした改革故、闇属性の能力についての研究、対策などは更新されていない。


 時代の流れにつれて技術が進歩するのは、向こうだろうが異世界だろうが同じこと。


 偽装魔石やマーチェから貰った指輪然り、技術は常に進化している。


 そのため、今のままにしておいてもパワーバランスは必ず闇属性側に傾く。


 そこで国側は、反省を促す意味でも五星教を消しかけることで忠告し、かつ闇属性持ちの不穏分子を叩き潰し、加えて協力的な闇属性組織ならば囲ってしまおうという考えなのではないか。


「なるほど。その上で、魔人を倒した私が戦力となって来てくれると有り難いって話なのね」


「ええ。それに貴女はハーメルトの王族とも接点があるでしょ? 大統領との交渉材料としてこれほど……」


 俺はそう発言するテルミナをジト目で見つめると、こほんと咳き込んだ。


「と、とにかく貴女が協力して下されば、鬼に金棒といった話なのです」


 真実の羽根(トゥルー・フェザー)からすれば、国側の依頼は願ったり叶ったり。


 しかも俺という切り札を手札に持っておけば、国側は慎重な対応をせざるを得ない。


 魔人を倒し、双属性(ツヴァイ・エレメント)であり、ハーメルト王家と繋がりがあり、闇属性の情報の塊である俺を、ハイ斬首とはならないだろう。


 だがこの話……俺の一任で決めるには、さすがに重い内容だ。


「私は私で目的がある。それに考える時間が欲しい」


「それは勿論。これだけの話です、即返答しろとは申しません」


 それにこの話を聞いて、俺はあることも思い付いた。


 だが危険性も非常に高いし、やはり一人で決める内容でもない。


「一旦、アイシアとリュッカの状態を見に行きたい」


「わかりました。一度、休憩いたしましょう。お部屋はわかりますか?」


「うん、大丈夫」


 パンと手を叩き、その提案に応じてくれたので、俺は失礼してその場を後にした。


 俺はアイシア達が眠っている部屋への道中、考えをまとめる。


 先ず、この組織についてだが、とりあえずは信じてみようと考える。


 活動内容については証拠はなく、どうも丸め込まれているようにも感じたが、少なくとも対応を見る限りは安心できる。


 ギルヴァやテルミナの対応は、こちらを気遣っての対応だったように思うし、ネネって()に関しても危険性を感じない。


 カミュラは言わずもがな。ユネイルに関してはウィルクとおんなじ匂いがするせいか、あしらう対応をしておけば問題ないだろう。


 問題はその彼女らの協力要請である。


 具体的な作戦は言われてないものの、不穏分子を削ぐという考えがあるということは、五星教に対し、何かしらのアプローチを仕向ける作戦があるとみた。


 だが、こちらの目的も忘れてはいけない。


 確かにこの大陸自体の解決のためになるなら是非とも協力したいが、俺一人で決めることではない。


 目的を見失い、起きるはずのない事態は極力避けるべきだろう。


 とはいえ、この大陸の忌むべきところを変えられるところに干渉できるチャンスも捨てたくない自分がいる。


 変な正義感に駆られているわけではない。


 テテュラのような被害者、クルシアのような狂人、まだ姿すら見たことのないメルトアという殺人狂。


 これ以上の悲劇を生む人材を減らす、手伝いができるのではないかと考える。


 あんな想いはしたくない。


 とりあえず頭にある考えを二人に聞いて欲しい。


 俺は扉をノックする。すると――、


「はぁーい!」


 何事もなかったような馴染みある明るい返事が返ってきた。


 俺は勢いよく扉を開けると、


「あっ! リリィ!」


「アイシア、リュッカ……良かったぁ」


 ケロっとした表情のアイシアと俺と同じく安堵した表情を浮かべるリュッカの姿があった。


「リリアちゃんも無事だったんだね」


「うん。二人ともホントに良かった」


「リリィも!」


 俺達はお互いの無事を確認し終えると、俺は先ず二人に謝った。


「ごめん。アイシア、リュッカ。私のせいで……」


 真実の羽根(トゥルー・フェザー)は俺が狙いで襲撃してきた。二人は巻き込まれた形になる。


 下手をすれば命だって落としていた。


 俺は深々と謝ると、アイシアがプンプンと怒っている。


「何で謝るの、リリィ。友達を助けるのなんて当然だよ」


「そうだよ。友達の迷惑なら気にしないって言ったの……リリアちゃんだよ?」


「で、でも……」


「でもじゃない! みんな無事だったからいーの!」


 まったく俺は本当に都合が良い。


 こう言ってくれたことに嬉しくなってしまう。


「そうだね、ありがとう。助けてくれて」


 二人はニコッと笑ってくれた。


 この二人の優しさに応えるためにも、自分の中でしっかり反省し、力になれるよう頑張ろうと意気込んだ上で、


「二人に話がある」


「うん、そうだよね。ネネさんから軽く事情は聞いたけど……」


「聞けたの!?」


 俺の時はあんなにビビってたのにと思っていると、アイシアがむぎゅうと抱きしめていた。


「えっと……」


「うん? この()、すごく怯えてたから撫で撫でしてあげてたの」


「わ、わかりましたから! こんなに子供扱いされたの、カミュラでもなかったです!」


 バタバタと暴れるネネだが、アイシアはニコニコと歳の離れた妹を可愛がるように接している。


「悪いんだけど、その()には聞かれたくない話なんだ。嫌がってるみたいだし、離してあげて」


 アイシアは了承すると、パッと手放す。


「あ、ありがと……」


「気にしなくていいよ、ネネちゃん。さ、あっちに行っててね?」


 すると、むすっと不機嫌そうな顔をする。


 子供扱いが気になる年頃なのだろうと微笑ましく思っていると、衝撃の一言を口にする。


「あの、私はいくつに見えますか?」


「えっと……十歳?」


「……今年で十六です」


「「えっ!?」」


 俺とアイシアは驚くが、リュッカはアイシアに指摘する。


「さっき言ってたよ? 何でシアが驚くの?」


「えっ!? あれっ!?」


「あー……えっと、ご、ごめんね」


 謝りはしたが機嫌は直らず、プリプリと頬を膨らませながら部屋から出て行った。


 後でもう一度謝っておこう。


「こほん……は、話をしようか。先ずは私に置かれた状況から――」


 俺は先ず、自分達の置かれた状況、彼女らの組織のことについて、提案された内容も話した。


「――というわけ。ここまで大丈夫?」


 リュッカは心配してないが、アイシアに関しては途中からついてこれてない。


 目がクリクリのキョトーンである。


 多分、説明しても時間がかかりそうなので、アイシアは置き去りにしよう。


「それで彼女らの話なんだけど、利用できないかって考えたの」


「利用?」


「うん。実は――」


 俺は思い付いたある提案をリュッカにすると、苦悶の表情を浮かべた。


「……」


「まあ危険なのはわかってるけど、私達の目的の成功率を上げられると思うの」


「そうだよね……この組織の人達が味方になってくれれば、確かにクルシアに対しても良いかもしれないけど……」


 リュッカは襲撃のことを振り返りながら、俺の案について真剣に悩んでくれている。


「このことを組織の人達には?」


「話してないよ。彼女達の要求も保留にしてる」


「そう、だよね……」


「でもさ。それでもクルシアには勝てない気がする」


「勝てなくてもいいんだよ。魔石さえ奪えればいい」


「……リリアちゃん、話を持ち込んでみよう」


「――! 本当っ!?」


「私達の要求が通るかもわからないし、とりあえず話をしてみよう。それにクルシアはこの大陸では有名人みたいだし、名前を出せば解放してくれるかも……」


 リュッカの言う通り、俺達の目的はクルシアを止めること。


 離れた未開の地に放り出されるのも問題だが、この組織だって完全に信用していいわけでもない。


 下手に頼るのは慢心の元だ。


 俺達に関わるとロクなことにならないと教えれば、諦めてくれるかもしれない。


 クルシアについて知っているなら、関わりたくないと手荒な真似はしないだろう。


 俺は二人を連れて、テルミナの部屋を尋ねる。


「テルミナさん、いる?」


「はい。おりますよ」


「失礼しまーす」


 中へ入ると、作戦会議中だったよう。俺が知っている全員が集まっていた。


「タイミング悪かった?」


「いえ、大丈夫ですよ。そちらのお二人もご無事で何より」


「あ、助けて頂きありがとうございます」


 ペコリとお互いに頭を下げるが、


「リュッカ。コイツらは一応、私達を襲った元凶だからお礼は要らない。(むし)ろ文句の方がいいよね!?」


 カミュラに聞こえるように言うが、フンと視線を逸らした。


「それで? わざわざ俺達が呼びに行く前に来たってことは、話の答えを出しにきたんだろ?」


「そのことなんだけど……提案がある」


「提案……?」


「そのためには先ず、私達の旅の目的の話がしたい」


 本来なら陛下から賜った極秘任務。


 魔人事件に関してもあまり国外の人達には話したくなかったが、真実の羽根(トゥルー・フェザー)は裏組織のようだし、仲間にする気持ちが向こうにあるなら、口を固くしてくれるだろう。


「世界がどうとかの話? 聞く必要なんて……」


「訊きましょう」


「……! テルミナ?」


 カミュラ以外は聞く姿勢があるようだ。


 話すにしても、興味を持ってもらわないとこちらの要求が通りづらい。


 有り難いと感じながら、先ずパルマナニタでは禁句とまで言われた男の名を口にする。


「……みんなはクルシアって男の名前に聞き覚えは?」


「「「「!?」」」」


 真実の羽根(トゥルー・フェザー)の面々がひどく驚いた表情へと豹変する。


 ギルヴァに至っては、ダンっと強くテーブルを叩いて立ち上がる。


「ふー……ふー……」


 落ち着くよう促しているのか、深い息遣いが聴こえてくる。


 やはりパルマナニタだけの話でもないみたいだ。


 ハイディルの話から(おぞま)しい内容であるが故、教え伝わっていてもおかしくない。


「落ち着いて、ギルヴァ」


「あ、ああ……すまない」


「……続けてもらえます?」


 ギルヴァがゆっくりと座るところを確認すると、話を続ける。


「私達の旅の目的はそのクルシアの陰謀を止めるためにここにいる」


「陰謀って……奴はここに戻ってきてるのかぁ!?」


「落ち着けって、ギルヴァ! 気持ちはわかるが……」


 平静を保たない様子で感情を(あら)わにするギルヴァを何とか押さえ込む。


「……黒炎の魔術師」


「?」


「何のつもりか知らないけど、下手にその男の名は口にしないで。特に私達みたいな裏業界の人間の前ではね」


「私だって本来ならしたくなかったけど、こちらの事情をわかってもらうには説明しないとね」


「じゃあ……本当に?」


 さっきからギルヴァの反応が冷静ではない。


 クルシアに対する畏怖ではなく、まるで探し求めていた仇を見つけたような瞳だ。


 ギルヴァに向かって頷く。


「クルシアはファニピオンにいる。その道中で貴方達に襲われたんだよ」


 そして――俺はクルシアが東大陸でしてきたことを話した。

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