14 真実の羽根
「大丈夫かしら……」
ナタルは心配そうにポチが飛んで行った方向を眺めるが、こちらの被害も甚大である。
グリーンエイプはドラゴンゾンビの出現により、姿を消したが、散々荒らされた影響で馬車は破壊、荷物も散乱し、馬もとてもじゃないが万全に動ける状態ではない。
「向こうも心配だけど、こちらの心配もしてくれると嬉しいかな?」
困ったように微笑むロイドに、すみませんと一言添えてぺこりと謝る。
「鼻の具合はいかが?」
「煩い、女狐。……当分無理」
涙目のフェルサは、こんな状態でもカルディナに対して冷たい。
「そっか。うーん……」
それを聞いたロイドは頭をかいて悩む。
「これからどうしましょう?」
「あちらの状況がわかれば良いのですが……あの感じだと簡単には戻ってこないでしょう」
「僕としてはファニピオンに向かう選択をしたい。……幸い、食料といった必要な物はマジックボックス内に入っている」
パンパンと腰にある鞄を叩く。
万が一のことを考えて、失ってはマズイ物は極力マジックボックスの中に入れ、肌身離さず持っていたのだ。
「まあ被害が無いわけでもないけど……」
そこには劇で使われるであろう小道具や設営のための機材などが散乱して、一部は破損している。
「だけど僕らの目的、仕事は君達をファニピオンへ送り届けることだ。彼女達のことはもちろん心配だが、僕らが生きて合流できなければ話にならない」
正論だと言わんばかりにフェルサ達も無言の肯定。
「ロイド殿の仰る通りですわね。リリアさん達もファニピオンへ行くということはわかっているのです。先に行くという選択肢もありですわね」
「ロイドさん。ここからパルマナニタまでは? ファニピオンとどちらの方が近いです?」
ナタルは無事に合流することを前提に尋ねる。パルマナニタでもファニピオンでも、安全なところで物事を考えた方が上手くいくだろう。
しかし、ロイドは首を横に振る。
「ここからだとどちらも距離的には変わらないかな? だったら目的地に先に向かっている方がいい」
「だね。リリア達もパルマナニタに戻ってるとは考えにくいんじゃない?」
「そう、ね」
納得のいった表情をすると、これからの行動の確認を取る。
「彼女達のためにファニピオンへ向かう。ここからは徒歩だから予定よりかなり着くのが遅くなるが、彼女達が混乱しないためにも目的地に向かおう。……いいかな?」
全員、こくりと頷くと状況確認も行われる。
「先ず、魔物の対策だけど匂い袋はあるが、あくまで馬車で進んでいることを前提に積んでいたし、フェルサさん、使い切るまでに鼻は戻りそうですか?」
「それは大丈夫」
「よし、それなら何とかなるだろう」
ロイドの話では、危険度の高い魔物の生息域では極力、匂い袋を使い切る寸前にし、放置したいそうだ。
その方が匂い袋の効果が切れた時の違和感で襲ってくる魔物を回避できるということだ。
そして匂い袋が無くなった時、獣人の鼻と魔法が使える者達の感知魔法でファニピオンまで向かうという話でまとまった。
「で? 貴女は皆さんが真剣に話をされている間、何をしてますの!」
「ん?」
そこには胡座をかいて腕を組み悩む、キャンティアの姿があった。
「さっきから大人しいなと思い、見てみれば何してますの!」
「んー……いや、さっきの戦闘についてネタをメモってたんだけどね」
注意するナタルの頭に怒りのマークが浮かぶ。
「さっきの戦闘中、ずっとあの危険な状況をメモ書きしてましたの!? 不謹慎ですわ!!」
キャンティアの性格を知る劇団員達は、平常運転だと苦笑いする。
「大した度胸ね。怒りを通り越して、呆れましたわ」
「まさか、私が苦しんでるところも……」
カルディナとフェルサもツッコミ、メモ書きを覗くと事細かに先程の出来事が知るされていた。
襲われた状況から襲ってきた人物の特徴的なところまで記されていることにカルディナは思わず、
「あら……凄いわね」
ポカンと口を開き、大した観察眼だと感心した。
「カルディナさん! 感心している場合ではありません! ほら……」
ナタルは強引にキャンティアを引っ張るが、バタバタと暴れる。
「――ああっ!? 待って! 待って下さい!」
「何です?」
不機嫌そうにギロッと睨みながら、用件を尋ねる。
「いや、おかしいんですよぉ」
「おかしい? 何がです?」
「襲撃者達の手際の良さですぅ」
「何もおかしいことはないのでは? ロイド殿、先程の襲撃者は攫い屋ですわよね?」
「ああ、間違いないだろう。リリアちゃんが狙いだとも言ってたしね」
「でしたら、手早くターゲットを狙うよう行動するのはプロだからでは?」
「じゃあ何故、獣人が居るって知ってたんです?」
「!!」
言われてみればと、ハッとした表情をする。
「確かにユネイルという男はフェルサさんに謝ってから、鼻を封じました。……確かにおかしい」
「それにここで待ち伏せしていたにしても、この馬車に確実に黒炎の魔術師さんが居ると考え、行動することもおかしいですよ。この山は強力な魔物も多い。当てが外れたり、魔物に襲われるデメリットだってあったはずなのに、待ち伏せなんて危険なことが出来るのは何故です?」
カルディナは嫌な予感が頭を掠る。
この中にあの襲撃者に内通してる人間がいると。
だが仮にも陛下や殿下が依頼を出して寄越した人達だ。安全かどうかの身辺調査くらいしたはずだ。
攫い屋と内通しているとは考えにくい。
「なるほど、この中に裏――むぐぅっ!?」
「お黙りなさい」
フェルサが劇団員に睨みを効かし、犯人探しをしようとすると、カルディナは強引に口を塞ぎ黙らせた。
「む……」
「証拠がありませんわ。それに仮に居るとするなら、そんな疑心暗鬼になる状況こそ、その内通者の思う壺ですわ」
フェルサは納得したのか、黙り込んだ。
「とにかく我々は無事にファニピオンまで辿り着き、彼女達を迎え入れることですわ。ですが、警戒はしておきましょう」
とカルディナは、ナタルとフェルサにこそっと告げる。
「あの……」
置き去りのキャンティアは、質問したのですがと不思議そうに見る。
「あら、ごめんなさい。でも貴女の言う通りだけど、パルマナニタで待ち伏せしていれば可能とも考えられるのでは?」
それは疑心暗鬼になりつつある二人にも聞こえるように答えた。
あくまで最低限の警戒をしようとの忠告だった。
「確かにそれならリスクも少なくなりますね」
「それと獣人、フェルサさんの件ですけど……」
「心当たりがあるの?」
「……ありますわよ! 思いっきりね!」
そちらの答えは簡単だとナタルは答えを口にした――。
***
「…………んっ」
俺は目蓋をゆっくりと開く。
その天井には見覚えがなく、この柔らかいベッドにも覚えはない。
何せラセルブ山道を進む間は、身体を痛めない程度の布を敷いて寝ていたのだから、地面は硬いはず。
すると意識が覚醒していくと同時に、ふと何があったかを思い出す。
「――そうだっ! アイシア!? リュッ……」
ガバッと掛け布団を払い除け、二人を探そうとすると、隣のベッドですやすやと眠っていた。
「良かったぁ〜……」
正直、肝を冷やした。
ポチごと俺達三人は滝壺に落ち、気を失っていたのだ。しかもラセルブ山道には先程、襲撃してきたグリーンエイプのような魔物達もいる。
下手に河川敷にでも投げ出されていれば、彼らの餌かおもちゃか。
はたまたあの襲撃者達に奴隷にでもされているところだろう。
ほっと安堵していると、カチャっと静かに扉が開く。
「あっ……」
「……!」
入ってきたのは、やたら小さな女の子。
身長はリリアよりも小さい、いやルイスくらいだろうか。淡い黄土色の髪をした白いローブの幼女。
こちらを見て、怯えたように驚くとサッと扉の向こうへ戻り、そっとこちらを覗き見る。
極度の人見知りだろうか。
「あ、あの……お嬢ちゃん?」
「ひゃぅっ!? カミュラぁ〜!!」
バタンと勢いよく閉めると、お友達の名前を叫びながらどこかへ行ってしまった。
「ううーん……」
困ったと頭をかくも、俺も状況がわからないため下手には動けない。
とりあえず叫んで行ったってことは、カミュラって人が来るだろうと待つことにした。
その間に荷物でもと辺りを見るが、
「あれ?」
どこにも見当たらない。足にくっ付けているはずの魔導銃の感じもない。
バッと布団をまくり上げるが、自分の荷物も武器もない。
「これってマズイんじゃあ……」
嫌な予感がする中、再び扉が開く。
今度は警戒するようにバッと振り向くと、
「――なっ!? ……お前」
そこには俺達を執拗に追いかけてきた死霊使いの姿があった。
「起きたんだ、黒炎の魔術師」
「てめぇ……」
俺のみならず、二人にも危険な目に合わせた死霊使いに男言葉で威嚇する。
するとフンと鼻で笑う。
「見た目の割に口が悪いのね。ネネみたいに可愛らしい感じだと思ってたけど……」
そう口にすると、先程の幼女の頭をポンポンと優しく叩くと、ネネと呼ばれている彼女は照れ臭そうにむくれる。
「や、やめてよ、カミュラ。子供扱いしないで……」
「は? 夜中に一人でトイレに行けるようになったら、やめてあげる」
「お、お化けとかでカミュラが脅かすからでしょ! うう……」
何とも微笑ましい友情を見せているが、俺からすればカミュラには怒りの感情しか湧き立たない。
「私はもしかしなくても捕まったのかなぁ? だったら手錠の一つでもしておいたら?」
随分と舐められた対応に苛立ちを隠せない。
武器や荷物を奪っておきながら、拘束一つ施していない。
明らかに敵意を剥き出しにして、しつこく追いかけ回してきた奴のすることじゃない。
「今の丸腰の貴女に何が出来るの? それに私がいるってことは、貴女からすれば敵地。下手なことをすれば立場が悪くなるのは……」
ちらっとアイシアとリュッカに視線を向ける。
「誰かな?」
「……」
これは完全な脅し。
確かにカミュラの言う通り、丸腰ではあるが別に媒体がなくても魔法の発動は可能だ。
実際、クルシアも指一つ鳴らすだけで魔法を使っていたように。
だが、俺自身できることはショボい魔法が使えるくらい。挙句、結局ピンチに何一つ解決できないどころか、足手まといになっている。
悔しいが、言い返せない。
するとネネが、わたわたとカミュラに可愛らしく説教する。
「カミュラ! 仲良くしなきゃダメだよ。テルミナにも言われてるでしょ?」
「……知らない。それに噂に聞くほど優秀でもないよ。正直、期待外れだわ」
するとカミュラは部屋を出て行こうとする。
「カミュラ!」
「……報告してくる。貴女は軽く説明しておいて」
「え……」
何を頼んでいるのと茫然とした返事をすると、こちらを向いたせいか、パチクリと目があった。
「ひぃっ!? ひぃやぁーーっ!! 無理無理無理無理っ!!」
「おい(怒)」
人に視線があっておいて、こちらが傷付くような否定的態度をされると、いくら人見知りでも腹が立つ。
ネネはカミュラの服にシワを作るようにしがみつく。
するとカミュラは呆れたため息を吐き捨てると、何も言わずに扉を閉めた。
「あっ! ちょっと!」
ガチャっと鍵も閉められた。
「くそっ! あの女……」
俺はガチャガチャとドアノブを回し、引っ張るも開かない。
魔法で一応開けることは可能だと考えるが、丸腰でどこかもわからない場所からの脱出は極めて危険だ。
俺は意見を仰ごうと、アイシアとリュッカを起こそうとする。
だが下手に揺さぶるのは危険だ。
俺自身に怪我や痛みがないように、奴らが治療したようだが、念のために呼びかけることだけにする。
「アイシア、リュッカ、起きて!」
何度か呼びかけるが、一向に目が覚めない。
敵地での友達の安否がはっきりしないのが、こんなに恐ろしいとは考えもしなかった。
二人が横に寝ていただけで、簡単に安堵した自分が情けない。
無茶を言って同行させてもらった後ろめたさが後押しして、どんどん不安になっていく俺に追い討ちをかけるようにノックされる。
コンコン。
思わずビクッと反応すると、聞き覚えのあるチャラい声が聞こえた。
「ネネちゃん、どう? 彼女達、起きた? ……ネネちゃん? 入るよ」
ガチャっと鍵を開けて入ってきたのは、金髪ロングヘアのチャラそうな男だった。
七光りの嫌なお金持ちのお坊ちゃんって感じの顔立ちだが、襲撃時の服装のままの真っ黒なローブ姿のせいか、まだマシに見える。
するとその男は忽然と目の前から姿を消すと、
「起きたんだね、麗しの君。あの時の……球かな? 効いたよ。もう忘れられない衝撃さぁ」
いつの間にか手を握っていた。
このノリ、ウィルクと同じだ。
なんだろう、金髪のイケメンはチャラ男が定着するものなのだろうか。
しかもコイツの場合、俺の弾丸でどうやら頭の方もおかしくなったらしい。
するともう一人のフードまで被ったローブの男が、開いた扉をノックしてこっちを向くよう促す。
「なに馬鹿やってるんだ、ユネイル。彼女が呆れてるだろ?」
コイツらもあの襲撃者じゃないかと思ったが、先程のカミュラとは違い、友好的な物腰で会話する。
「悪いな、黒炎の……は長いから、とりあえず黒炎って呼ぶな。強引に連れて来て悪かった。カミュラの奴はやり方がいつも雑でな……」
「その雑さ加減が彼女の魅力だろ? それにこんな可愛い娘ちゃんに黒炎なんて物騒な名前は良くねぇだろ?」
「はいはい、言ってろ」
俺はやるべきことを精査する。
これ以上、迷惑はかけられない。俺が今すべきは情報を手に入れること。
敵意が見られず、むしろ謝ってきたこの男なら情報を入手できそうだ。
「私達は攫われたのよね?」
二人は目を合わして確認を取ると、ああ、と軽く返答された。
ということは場所を素直に尋ねても答えてはくれないだろう。
「私達をどうするつもり……?」
ここは西大陸だ。しかもコイツらは俺の正体をわかっていて確保している。
闇属性持ちである俺を生かして捕らえる理由は、正直ロクでもないだろう。
最悪、死ぬより辛い目に遭う可能性だってある。
だから返答次第では、この二人だけでも無事に返してやりたい。
自己犠牲が美徳でなく、残された者が悲しい気持ちになるだけということを向こうの世界のお話でも散々あった。
だが二人にそんな目には合わせたくなかった。
すると黒のフード男は、そのフードの中で優しく微笑む。
「安心しな。奴隷商に売りつけるなんて真似はしない」
俺が女であるからか、一番の不安材料だと思ったのだろう、そこから語るとパサッとフードを取った。
東大陸の赤髪とは違う、紅葉色の髪色のどこか垢抜けない顔立ちの少年が素顔を見せた。
年齢的には同い年くらいか。
「俺の名前はギルヴァ・ヴェルマーク。あんたと同じ、闇属性持ちだ」
「!」
俺が驚いている中、隣のチャラい奴ユネイルの自己紹介も一緒にされた。
「闇属性持ち……」
「そう! これで少しは信用してくれたかな?」
キラッとウインクしてみせるユネイルをスルー。
確かにこっちの大陸でも闇属性持ちはひっそりと暮らしてたり、ゲリラ組織として行動してるなど聞いた。
「もしかしてここって……ゲリラ組織のアジト?」
「まあ間違ってはないな。一応、攫い屋もやってるし」
「攫い屋……」
俺が自分の身を抱きしめる仕草を取ると、ユネイルは胸キュンしたのか、興奮気味に詰め寄る。
「大丈夫さぁ! 心配いらない。そんなに怯え――ふぅっ!?」
「やめろ、馬鹿」
ギルヴァはユネイルの頭をスコーンと殴る。
「勘違いしないで欲しい。俺達は君やそこでまだ寝ている君の友人に何かしようって気はない。ただ……協力して欲しいことがある」
「協力……?」
テテュラがゲリラ組織に狙われる理由として、強力な闇属性持ちだからと助けを求められる可能性があると言われたのを覚えている。
「悪いんだけど、あまり当てにしないで欲しいんだけど……」
「わかってるよ。そこまで重要なことをさせる気はない。ただ、魔人を倒すほどの実力の後衛の方が地盤を固められるってだけ」
攫っておいて、身勝手なお願いを押し付けられそうだ。
嫌な予感しかしないが、おそらくアイシアとリュッカの武器も取られているはず。
今はとりあえず成り行きに身を任せ、出来る限りの情報を収集することに専念する。
「じゃあ協力して欲しいなら、そちらとしては信用して欲しいんだよね?」
「まあね。……いいよ。何が訊きたい?」
まるで尋ねてくることがわかっているかのような受け身態勢。
「先ず、ここどこ?」
「さっきも話した通り、ここは俺達のアジトだ。帝都ナジルスタより数キロ離れたところにある」
……は? 帝都?
俺の記憶が正しければ、ロイドが広げて見せた地図に描かれていた。
ファニピオンとは反対方向にあり、アイシアが残念がって行かなかった山の向こうにある都だ。
「はぁ!? 帝都? 反対じゃない!?」
「まあ転移石を使って君達ごとアジトに来たからね。カミュラのせいで、結構危なかったし。ごめんな、カミュラの奴はいつもああで……」
「――そこじゃないよ!」
俺の焦った様子に驚く二人。
あの死霊使いの件も謝って欲しかったが、そこじゃない!
「あー……そっか。他の同行者だよね。大丈夫だ。ファニピオンまで向かう目処はあるみたい――」
「そこでも……って本当?」
思いがけずフェルサ達の情報が聞けることに、キョトンと尋ねると、優しく頷いた。
「良かった……って良くない! 私達はファニピオンへ行かなくちゃいけないの! それなのに帝都? 困るよ!」
すると二人は不思議そうな顔をする。
「ファニピオンが目的ってことは観光だろ? 悪いが、俺達の目的は――」
「観光なわけないでしょ!? こっちじゃ私、極悪人扱いなんでしょ? ちょっと考えればわかるでしょ?」
俺達の目的を軽率に判断しての行動だったようだ。
まあ俺もあちらの事情を知らないから、何ともし難いが、クルシアがいつ行動してもおかしくない状況に、目的地が遠ざかるのは不安を覚える。
すると気の毒になってきたのか、二人は申し訳ないと謝罪を交えて会話を続ける。
「言われてみればそうだな。悪い……」
「こちとら世界の危機まであり得ることなんだよ。どう責任を取るつもり!?」
「せ、世界って……」
ずいっと言い寄るとギルヴァはたじろぐ。
女に対し、免疫力がないのだろう。ここは強気で押し切ると考えた時――、
「は! 世界? 随分とスケールの大きいね」
淡々と馬鹿にしたように語る陰湿な声が邪魔をする。
「……っ」
「カミュラちゃん! 今日もかばいいっ!!」
ユネイルが抱き着こうとしたところを、手で顔面を押さえて阻止する。
「ギルヴァ。貴方も押し負けてるんじゃない。腰抜け」
「う、うるせぇ! というか黒炎から信用得ることは大事だ。だから――」
「だから、その女の世界や責任なんて言葉遊びに付き合ってるの?」
「ぐっ……いや、そもそもお前はいつもやり過ぎ――」
「それ、今関係ある?」
口喧嘩は女が強いとは良く言うが、正に目の前で見せつけられた。
するとフンと鼻を鳴らし、首を軽く振ってこちらに来るよう仕草を取る。
「来なさい、黒炎の魔術師。……ネネ、その魔術師様のご友人は任せる」
「う、うん……」
ネネはぴょこぴょことアイシアとリュッカの側につくと、ユネイルも隣へ。
「俺も手伝うよ! ネ〜ねっ!?」
「あんたはこっち!」
カミュラがユネイルの襟首を強引に引っ張り連れ出す。
「……とりあえず詳しい話はテルミナとしようぜ」
そう言うとギルヴァも席を立つ。
とりあえずついて行くしかないと、俺もベッドから出た。
部屋の内壁からわかっていたことだが、ここは地下施設なのだろう。通路も土壁が続く。
「テルミナって……?」
「ウチのリーダー。……って言っても少数でやってるから、自然と賢い奴がって感じ」
「黒炎の魔術師、あんたは黙ってついてくればいい」
相変わらず頭にくる言い方しかしないカミュラ。
協力させる気があるなら、あんな危険なやり方や態度は取らないんじゃないかと考える。
「あのさ、私にはリリアって名前があるの。黒炎の魔術師って呼び方やめてくれる? 死霊使い」
「仲良く出来なさそうな奴に名前で呼ばれたいなら呼ぶけど? リリアちゃん?」
挑発するような口ぶりにカチンときた。
「そうだね! やっぱり黒炎の魔術師でいいよ! 死霊使い!」
女同士の喧嘩に、気まずくなってきた二人は、
「やっぱ女って怖えよ」
「頼もしいじゃないか。それに好きだぜ、キャットファイト」
「……言ってろ」
そんなギスギスした空気の中、リーダーテルミナがいるであろう部屋の前に来た。
「テルミナ。連れて来たよ」
言い方から尊敬の念ではなく、親しい友人といった口調。
カミュラは軽く扉を開く。
「良く来てくれました。黒炎の魔術師……」
そこには左眼を眼帯で覆う清楚な物腰の女性の姿があった。
彼女はゆっくりと席を立ち上がると、目の前に来てニッコリと微笑みながら自己紹介。
「初めまして。私はここ、真実の羽根の長を務めている者。名をテルミナ・クリスエルトと申します」




