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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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13 深き霧からの襲撃者

 

「また考え事? リリアちゃん」


「リュッカ……まあね」


 あの話を聞いてから落ち着かない。


 俺達はファニピオンを目指すため、ラセルブ山道を進んでいるが、クルシアの話が中々頭から離れず、ぼーっと考え事が続く。


 匂い袋を使って進んでいるのだ、考え事をする時間はたっぷりある。


「そんなにヤバイ話だったの?」


「う、うん。正直、あんなに怖い人だとは思わなかったよ」


 リュッカは怯えたような言い方で返す。


 正直、止めるとは言い切ってきたが、こう時間があると、色々と考えこんでしまう。


「気にしなきゃいいのに……」


「そりゃ、フェルサは聞いてないからそう言い切れるけど……あいつの強さの根源を聞かされたらさ……」


「でも彼女の言う通りですわね」


 その話を黙って聞いていたカルディナが、吹っ切れたように話す。


「彼の強さの秘密を知ったところで我々のやることは変わりません。見えなかった強さの中身を覗けただけでも良しとしましょう。それを踏まえた上で、欺いてやればいいだけですわ」


「お前にフォローされるのは、気に食わない」


「あら? 残念だわ」


 確かにカルディナの言う通りだろう。


 今回の旅の目的はあくまでクルシアから魔石を奪還すること。


 いつかはケリをつけなければならないだろうが、今すぐではない。


 ハイディルには待たせることになるが、今の俺達では歯が立たないだろう。


 この新しい武器もクルシアのような、魔法剣士タイプとやり合うために準備したもの。


 とりあえずは使いこなせるようになることが課題だ。


「じゃあさ、みんな。気分転換にこの景色でも楽しもうよ。なんだか懐かしい感じだよ」


 周り一面は木々に囲まれた山道。リリアの故郷を思わせる雰囲気の景観が続く。


 何だかんだとここまで順調な旅路。この山道も危ない道はあれど、匂い袋を使っていることから注意すれば済む話。


 ただ魔物は匂い袋で阻害できても(さら)い屋などの脅威は残る。


 警戒するならそちらだ。


「結局、五星教にも正体は隠し通せたからね」


「そうね。それに思ってたより、危ないイメージもありませんでしたし……」


「まあ時期も外してるしね」


 馬車を引いているロイドが妙なことを言う。


「時期って……何の?」


「恩恵の儀。こっちでは処刑日なんて呼ばれるくらいだ、殺伐とするもんだよ」


 五星教や騎士、衛兵なんかが目をギラつかせているわけだし、想像することは容易だ。


 何かと処刑日が近いとゲリラ組織の動きも活発化するらしく、そっちの意味でも殺気立つそうだ。


「この時期は比較的穏やかだからね。だからそういう意味ではタイミングが良かったね」


 そんな雑談を交えながら進めるほど順調な旅路だが、二日目あたりから異変が生じる。


「霧……?」


 二日目の昼過ぎ、薄っすらと白い霧が辺りの視界を奪っていく。


「……マズイなぁ。今日は崖道を通るつもりだったのに、これじゃあ危なすぎる」


「山の天候は変わりやすいって言いますし、早いですけど野営の準備でもします?」


 ロイドは少し悩んだが、やむを得ないと考えたのか、もう少し行った先で準備をしようと馬を走らせる。


 辺りの霧はどんどん濃くなっていく。


「ふえ〜……真っ白だね。涼しい〜」


「涼しいけど、これだけ濃いともう先に進むのは難しいね」


 そんな呑気な会話をしていると、フェルサが何か感じとったのか、耳と尻尾を逆立てる。


「どうなさいましたの?」


「ロイド、野営は中止。このまま走って」


「どうしたの?」


「来る……!」


 俺達には何の気配も感じないが、フェルサのこの険しい物言いからヤバイのが近付いてきてるのは間違いない。


 俺達も感知魔法を発動するが、


「あ、あれ?」


「どうしたの?」


「ねえ? リリィ、ナッちゃんどう?」


「いや……」


「私もダメよ」


 まるでこの周りを覆う霧のように、魔力の気配が読み取れなくなっていたのだ。


「まさかこの霧の影響で……?」


「いや、そんなことはないはずだ。たかだか霧くらいじゃ、感知魔法の妨害なんて……」


「こっちに向かってる連中がわかった。……グリーンエイプ。しかも相当の群れだよ」


「!!」


 それを聞いたロイドは、顔色を悪くすると手綱を強く叩き、走るよう促す。


「ロ、ロイドさん、この先は……」


「しばらく崖道に入るんだ、そんなところにグリーンエイプに襲われたら、全員谷底まで真っ逆さまだ。ナタルさんだったね」


「はい!」


「走る先の霧を払ってほしい。出来るよね?」


「わかりましたわ!」


 するとナタルは召喚魔であるエアロバードも召喚し、馬車の走る前の視界を作っていく。


「あの! わざわざ危険な道を走り抜けなくても、グリーンエイプを倒せば……」


「群れの数が異常なの。三十はいるわ」


「――なっ!? 三十!? 本気で言ってるのかい?」


 ロイドも想定外の数だと驚くと、さらに急かすように手綱を叩く。


「うん。だから、下手にグリーンエイプ(あいつら)のフィールドに合わせるより、突き落とせる崖道の方がいい」


「な、なるほど」


「ですが条件はこちらも同じ……」


「だからナタルさん、ウチにも風の魔法が使えるものがいますが、万が一は頼みます」


「……わかりましたわ」


 この疾走感が緊迫感をひしひしと当ててくる。


 やはり最後まで安全な旅というわけにはいかなかったようだ。


 俺達もグリーンエイプが追いついた時を考え、戦闘準備に入る中、フェルサは強い警戒心を見せる。


 そんな彼女は違和感を感じている。


(……おかしい。グリーンエイプが迷うことなく、こっちに向かってる? 匂い袋の感知……それもおかしい。そもそも匂い袋で毛嫌いし、近付かないはず……)


 そんな彼女の違和感の答えが見つからないまま、崖道へと突入する。


 道幅は多少はあるものの、左側は断崖絶壁(だんがいぜっぺき)


 落ちればアウト。グリーンエイプに襲われても、身動きが難しい状況と状態である俺達に勝ち目は薄い。


 だから俺達が取るべき行動は走り抜けるしかない。


 そんなみんなが張り詰めた緊張感の中、その馬車を見下ろす二人の影があった。


 その二人は駆け抜ける馬車へと飛んだ。


 ガタタンッ!!


「――なっ!?」

「――きゃあっ!?」


 何かが乗ってきた影響で荷台は激しく揺れると、ロイドは馬を落ち着けるよう、手綱でしっかりと先導する。


 瞬時に落ち着けると、速度を落とさず走り続ける。


 そんな中、荷台では二人の黒フードが俺達の前にいる。


 一人は軽い口笛を鳴らすと、チャラい口ぶりで話す。


「こいつはツイてる。美少女と相乗りなんてなぁ」


「ざけたこと言ってんじゃねぇ。とっとと終わらせるぞ」


「あいよ!」


 そう言うと狭い荷台内にも関わらず、二人の男は果敢に攻めてくる。


「この……!」


 素早く対応したのはカルディナ。素早く剣を取ると鋭い突き攻撃を繰り出したが、


「悪りぃなぁ!」


 チャラくない方はその攻撃を紙一重で(かわ)すと、カウンターでカルディナのバランスを崩して荷台から突き飛ばした。


「なっ!?」


「――カルディナちゃん!?」


「ぐうぅっ!!」


 真後ろに突き飛ばされたことが幸いしたのか、後ろの馬車の荷台になんとかしがみついた。


 アイシアがほっと安堵しているのも束の間、フェルサも負けてはいられないと、チャラい方を攻める。


「おいおい、獣人のお嬢さん。せっかくの可愛い娘ちゃんが台無しだぜ」


「黙れ! お前ら、何者……!!」


 ぶんっと大振りに蹴った脚をひゅんと軽く(かわ)すと、チャラい男はフェルサの顔の前に。


「ごめんね。許してちょうだい」


 手元に持っていた黄色い木の実だろうか、片手で砕くと、とんでもない異臭が漂う。


「――ぐああぁぁーーっ!!?」


 フェルサは俺達よりも嗅覚が優れている。


 あんな真正面から異臭を嗅いだフェルサの苦しみは壮絶なものだろう。


 鼻を押さえ、身体を痙攣(けいれん)させながら倒れ込み、のたうちまわっている。


「くっ……お前ら一体」


「オレ達もさ、あんまり君達を傷つけたくないのよ。黒炎の魔術師ちゃん」


「!?」


 コイツの発言に耳を疑った。


 今、このチャラい喋り方をする方ははっきりと俺のことを黒炎の魔術師と言った。


 どこでそんな情報を。通りすがりの町々では、念のためフードを被って不用意に素顔も晒してないはずたが……。


「俺達の目的はお前だけだ、黒炎の魔術師。来てもらうぞ」


 考えてる時間もないようで、俺は銃を構える。


 二人は見慣れないはずの武器に警戒するが、急いでいるのかチャラい方が前に出て連れ去ろうとする。


「悪いけど、こっちだって簡単に捕まってやれないんだよぉ!」


 ダンッと一発、銃弾が飛び、チャラい方の太ももを貫通する。


「――があっ!? ……冗談、キツいぜ」


「ユネイル!! クソっ!」


 本来なら初見の武器に対し、様子を見ながら距離を取るのが得策だろうが、この二人には何やら焦りを感じた。


 その結果、ユネイルの足を被弾できたわけだが。


「女だからって甘く見過ぎだよ」


 まさか俺がこんなセリフを吐くとは思わなかった。


 リュッカとアイシアも臨戦態勢で構えてくると――笛の音が聴こえる。


「チッ。アイツ……」


 この妖艶さを感じる笛の音に覚えがあるのか、もう一人の男は舌打ちすると、ユネイルに肩を貸した。


「おい!」


 銃を構えるが、よく考えればこんな狭いところでの発泡はマズイと今更気付くと、牽制(けんせい)がてら銃を向けることしかできなかった。


「大人しく来てくれれば、被害は出なかったかもしれなかったってのに……後悔するなよ!」


「それはどういう……」


 捨て台詞にそんなことを吐き捨てると、早々に馬車から飛び去った。


「アイツ……」


 俺が身を乗り出し、奴らが逃げていくのを確認していると、なんとか後方の馬車に乗り移っていたカルディナが血相を変えて叫ぶ。


「――リリアさん! 上!」


 俺はバッと見上げるとそこには――複数のグリーンエイプが襲ってきていた。


「――なっ!?」


 三台の馬車の上に大猿の雨が落下する。


「ぐあっ!? クソォ!!」


 馬の手綱を握るロイド含めた劇団員達は崖下へ落ちないよう、必死に操り、何とか踏み止まるが、


「キィィーーっ!!」


 グリーンエイプは興奮状態で馬車を荒らし、襲い始める。


 劇団員達も戦うしかなく、俺達も応戦する。


「もうめちゃくちゃだ!」


 全身が濃い緑色の手長猿。顔はオランウータンのようなチャーミングな顔立ちだが、その長い腕から繰り出されるなぎ払いはまるで鞭のよう。


 跳ね飛ばされるとこれまた谷底までの片道切符を強制的に買わされてしまう。


 しかも俺達はまだ臭いにやられたフェルサを庇いながらの応戦となる。


 そんな乱戦状況の中、さっきよりもはっきりと笛の音が聴こえる。


 その音の鳴る方を見上げると、


「なっ……」


 そこには黒い修道院のような服装をし、半透明のアラビアンマスクをつけた女がフルートを吹いている。


 その横には、グリーンエイプそっくりの姿の魔物もいる。だが、色は全く違う色で真っ赤だ。


 その大猿に覚えのあるリュッカは、驚きを隠せない物言いで名を語る。


「レッドエイプ!?」


「なっ!? 馬鹿な!? レッドエイプは迷宮(ダンジョン)にしか生息しないって……」


 ロイドも知っていたようで、リュッカの発言に驚愕する。


 名前からしてグリーンエイプの変異種か希少種。


 おそらくはあのレッドエイプがグリーンエイプ達に指示している形で、そのレッドエイプの主人があの女とみた。


 だがそのレッドエイプの様子がおかしいように見える。


 あの女からの視線は感じるが、不思議とレッドエイプからは視線を感じない。


 使い魔であるなら、グリーンエイプの様子を見るだろうし、敵である俺達に多少なりとも敵意の視線くらいはあっていいと考えるが、こちらを見向きもしない。


「――リリアちゃん!?」


「え?」


 ぐんっと身体を持っていかれる。


「なっ!?」


 ちょっとした油断の隙を突かれた。俺はグリーンエイプの腕にはたかれる形で崖に投げ飛ばされた。


「――きゃああーーっ!?」


 落ちる感覚の中、下を見ると激しく流れる川が流れている。


 やべぇ!! いくら下は川でもこのまま落ちたらタダじゃ済まない!!


「くっ、――召喚(サモン)! イン――」


 咄嗟にインフェルを呼び出そうとしたが、インフェルはテテュラの身体の維持のために召喚している。


 こちらに呼び出したら、テテュラがどうなるかわからないと瞬時に(よぎ)る。


「――リリアちゃーん!!」


 そんな絶対絶滅の時、リュッカがこちらへ飛んでくる。


「えっ!? ――おわぁっ!?」


 俺はそのままリュッカに抱き抱えられる形で向こう側の崖近くまで来ると、リュッカはナイフを素早く取り出すと、崖岩に突き立てた。


「ぐぅああっ!! 止まってぇ……!!」


 ガリガリガリと岩を削り落とす音を鳴らしながら、落下速度を落としていくと、ピタリと止まり、ぶら下がる形で止まった。


「は、はは。(たくま)しくなったねぇ、リュッカ」


「……これも、リリアちゃんの……お母さんのおかげ……かな?」


 肉体強化で跳躍力を上げて飛んできて、助け出すなんて、男顔負けの救出劇。


「リリィー!! リュッカぁー!! 大丈夫ぅー?」


 手を振って心配してくれるのは有り難いが、そっちの状況も考えて心配して欲しい。


「大丈夫だけど、そっちも――」


「今助けに行くからね!」


「ちょっとリリアさん!? 何を勝手に……」


 ナタルが止める声も聞かず、アイシアは魔法陣を展開。


「――召喚(サモン)! ポチ!」


「ガアアァッ!!」


 ポチは飛んだ状態で崖側に召喚されると、笛吹き女もドラゴンの召喚に驚く。


「あのままにしてたら、リュッカ達が落ちちゃう。ここはお願い!」


「あーんもう! わかりましたわよ!」


 アイシアは飛んでいるポチに飛び乗ると、すぐ様俺達の元へと駆けつけた。


「大丈夫! 飛び乗って!」


 俺達がポチに飛び乗っている中、笛吹き女は面倒くさいそうに舌打ちする。


「……面倒ね」


 すると先程と明らかに違う笛の音、曲調が変わった。


 激しく荒々しい笛の音が山の崖道だけにやまびこのように木霊(こだま)する。


 その不気味な笛の音が鳴り響くと同時に、地鳴りが聞こえる。


「な、なに……?」


 グリーンエイプの様子もおかしくなる。キョロキョロと辺りを見渡したと思うと、野生の勘が働いたのか怯えた様子で崖を登って避難していく。


 いつの間にかレッドエイプもいない。


 すると――ドカァンっと崖の一部が破壊され、その中から真っ黒のドラゴンが出てきた。


「そ、そんな馬鹿な……! この山にドラゴンなんて……」


 驚愕し、信じられないと口走るロイドだが、あれは明らかにドラゴンだ。


 笛吹き女は笛を吹きながらドラゴンに飛び乗ると、こちらへ飛んで来た。


「――アイシア! 逃げて!」


「う、うん! ポチ、お願い!」


「ギャアッ!!」


 みんなから離れるのはマズイと思うが、さすがにドラゴン相手は未知数なところが多いし、ロイド達の方も荒れ放題だ。


 逃げるしかない。


「皆さん! 後で合流しましょう!」


 リュッカは大声でそう呼びかけると、みんなはこくりと頷いてくれた。


 そうこうしているうちに真っ黒の気味の悪いドラゴンが迫ってくる。


「――アアアアアアッ!!!!」


 震える低い声で叫ぶドラゴンは、肉が削ぎ落ちており、羽もボロボロ、目玉なんて片方がなくなっている。


 凄い速度で渓谷を飛ぶポチとドラゴンの空中追いかけっこが繰り広げられる中、俺達にできることはないかと先ずあのドラゴンの正体を考察する。


「リュッカ、あれって?」


「種類はわからないけど、アレ……ドラゴンゾンビだよ」


「ゾンビ……もしかしてあいつ」


 あの笛吹き女の正体に心当たりが浮かんだ。


 思えば、あのレッドエイプもおかしかった。こちらを向かず、目の焦点があっていなかったことを考えると、あのレッドエイプもゾンビだったと言える。


 あのレッドエイプを利用して、グリーンエイプを従えていたと考えると説明がつく。


死霊使い(ネクロマンサー)か!? あいつ!!」


「多分……。だとすると本体を狙うのがいいけど……」


 飛行するドラゴンゾンビに乗り、笛を吹き続ける女を見る。


 リュッカは勿論だが、俺でさえこの速度と激しく唸りながら飛び回る逃走劇の中、拳銃で狙いを定めることも、魔法の詠唱にも集中できない。


「くっ……!」


「まだ追いかけてくる?」


「うん。多分、狙いは私だよ」


 完全に足手まといになってしまった俺。


 だからといって二人を助けるために飛び降りるのは、助けてくれた二人に申し訳ないし、解決にもならない。


 そんな悩む時間すら与えない笛吹き女。


「――アアアアッ!!」


 ドラゴンゾンビの口からヘドロのような物体を吐き出してきて、ポチの横を素通りする。


「きゃあ!? えっ? なに?」


 すると岩壁にぶつかったその物体は、岩を溶かしていた。


 腐食させる攻撃だろうか、それとも分解を促す溶解液か。どちらにしてもピンチであることに変わりはない。


「アイシア!!」


「わかってる! ポチ、頑張って!!」


「――ギャアッ!!」


 ドラゴンゾンビが溶解液を吐き出すため、先程より激しい空中鬼ごっことなる。


 ポチとアイシアばかりに頑張らせるわけにはいかない! どうにか出来る方法を……。


 焦燥感に駆られる中、目の前に飛び出た岩が急にポチの目の前に出てくる。


「――キィヤァッ!?」


 素早く飛んでいたせいと土地勘がなかったせいか、岩に激突して破壊。


 ポチは甲高い声でバランスを崩すと、俺達も身を投げ出される。


「「「きゃあーーっ!!」」」


 するとその叫び声を聞いたポチは、カッと目を見開くと下の川の水面ギリギリで踏み止まり、落下する俺達を背中でキャッチした。


「はあ、はあ、ポチ……ありがとう」


「グルゥ……」


 だが安心したのも束の間、ドラゴンゾンビが溶解液を吐き捨てながら追い詰めてくる。


「――ポチっ!!」


 ポチも何とか踏ん張って乗せてくれているが、先程のダメージが残っているのか、高度も速度も落ちていく。


 上から追いかけ攻めてくるドラゴンゾンビの方が圧倒的に有利だ。


 そして、恐れていたことが起きる。


「――ギャアッ!!」


 ポチの羽に溶解液が命中。羽の(まく)の部分を溶かされ損傷。


 今度こそ完全に飛翔不能となったポチと共に川へと投げ込まれた。


「「「きゃあーーっ!!」」」


 高度がなかったせいか、痛みは少ないが急流のため、身動きなんて取れるわけもなく、


「――がはぁ!? リュッ……カ!? ばはぁ!!」


 ポチにしがみつき、浮き沈みしながら二人の安否を呼びかける。


「げほっ! ぶ……無事、だよ!」


「私も、げほっ……大丈夫、だ……げぼ」


 水をたまに口にしながら会話をしているが、ドラゴンゾンビと笛吹き女は空中で見守っているだけだ。


「ポチ、ごめんね。大丈夫?」


 ポチは返事はしないものの、俺達を守るように庇ってくれている。


 涙が出るくらい感動したいところだが、ドドドドドッという水が激しく叩きつけられる音が聞こえる。


「この音って……」


「冗談だよね……」


 アニメの主人公とかが、ピンチに陥るシーンでは良く見かけるのではないだろうか。


 まさか自分がそんな対面を果たすなんて最悪だ。


 音の正体は滝。


 だからあの笛吹き女は近付くまでもなかったってことだろう。


 ここで歴代の主人公なら、突拍子もない閃きで乗り越えたりするものだろうが、川は絶壁の下を流れていて、引っかかる場所がない。


 それにポチが守ってくれているためか、さっきのリュッカみたいに壁にナイフを突き立て、落ちないようにという手段も取れないし、できたとしても上から笛吹き女が攻めてくる。


 そんな考える時間もないことは、この急流の流れからもわかること。


 間に合わずに俺達は――ポチにしがみつき、最低限の安全確保に努めるしかなく、滝壺まで真っ逆さま。


 激しく叩きつけられた俺達の意識は簡単に奪われた。


「……手間かけさせて……」

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