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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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08 前途多難

 

「はあー……気持ちいいねぇ」


「そうだねぇ……」


 そよそよと潮風に吹かれ、遠ざかっていく東大陸をデッキから眺める。


 思えば向こうでは都会っ子の俺は、リリアの故郷である山も珍しいが、海もそうだった。


 魔人の件であまりそのあたりを堪能していなかったが、壮大に広がる青い空と海のど真ん中にいると開放感を感じ、自然の偉大さを身体いっぱいに感じられる。


 そりゃあ水着一枚ではしゃいだりもするわ。いかに自分がちっぽけなのかを思い知る。


 良い意味でね。


 欲を言えばこれが旅行であれば文句もないのだが、そう上手くはできてない。


「リリアちゃん、シア。ファニピオンまでの経路を説明するって」


「「はーい」」


 ――ロイド達によるファニピオンまでの道のりの説明を受けた。


 着いた先の港町ガルニマで一泊した後、ラセルブ山脈にある山道からファニピオンへと向かうという。


 ラセルブ山脈までも距離があり、地図を見るにあたって、リリアの故郷からハーメルトまでの距離があるところを見ると、覚悟はしていたが中々の長旅になりそうだ。


「……にしても大きな山が結構あるんですね」


「元々、西大陸はドラゴンの楽園を作るために龍神王が地形を変えたという伝説が謳われていますよ!」


「龍神王って確か、原初の魔人だっけ?」


「はい! 是非、主役にした脚本を書いてみたいのですが、原初の魔人は色んな情報が飛び交っているせいか、中々難しく……」


 うむむと唸るキャンティアを見ると、本当に話を書くのが好きなのだろうと感心するが、今はその話は関係ない。


「そんないるかどうかもわからない伝説は置いといて、その道中に現れる魔物の話でもしようか。ラセルブ山脈までは東大陸とは変わらない系統の魔物が存在するが、ほとんどが上位の魔物だ。戦闘は基本的に僕らがやるつもりだが、後衛はほとんど置いてきてしまった。だから君らに任せてもいいかな?」


「それは構いませんが、匂い袋は使わないので?」


 先程は使ったのにと首を傾げて尋ねるカルディナの意見には同意見だ。


 ザラメキアでは使っていた匂い袋を使わない手はない。


「それはね、匂い袋の効果が消えた後の副作用がね。向こうよりも強くて賢い魔物も多い。下手に使うと魔物の群生地を作ったり、同じように道を通る人達に迷惑をかけるからね」


 暗黙のルールというやつだろうか。強い個体が集まるのと弱い個体が集まるのとでは話が全く違うからね。


 どんな魔物が現れるのかを尋ねると、ゴブリンは相変わらずだが、ウォーウルフ、ハイオークなどといった向こうの雑魚の上位が連なる。


 特に道中厄介なのはウルフ系。


 特にウォーウルフは武装したワーウルフ。獣独特の動きに加え、人間と同様に武器を扱う挙句、ウルフ特有の団体行動と並の冒険者なら簡単に壊滅させられるという。


 ただ話を聞くかぎりは向こうのように特殊な魔物は少なめ。どちらかと言えば脳筋な魔物が多いとのこと。


 ドラゴンが強調される大陸だけあったか、向こうより更に弱肉強食の世界なのだろう。


「町は大丈夫なの?」


「それは問題ないよ。向こうに行けばわかるけど、人工魔石による大結界が張られているからね」


「ああ……それが問題の結界ですわね」


「問題?」


「貴女のことを言ってますのよ!」


 他人事のように尋ねる俺にナタルのお叱りが入る。


 それに呆れるカルディナも交えて説明を受けた。


「向こうが闇殺しの大陸だというのはご存知でしょう? その結界こそが闇属性の魔力持ちを阻害するものなんですよ」


「ああっ!?」


 その対策はしてないと、サァーっと血の気が引く。


「大丈夫だよ。確かに影響は受けるだろうが、入れないということはないよ。体調が悪くなったら直ぐに言ってね」


「あ、ありがとうございます、ロイドさん。でも具体的にはどんな効果があるんですか?」


「確か……身体に強い気怠さと魔力回路の不調とかですかね?」


「詳しいですね」


「取材でしょ」


「はい! その通りです!」


 ふんぞり話すキャンティアのことだ、前みたいに強引に迫ったに違いない。


「つまり、リリアさんは西大陸の街中では魔法が使えないと考えても?」


「そうだね。だからこそ、五星教に正体がバレるとマズイ。僕らも気をつけるけど……」


「はい、わかってます。自分の身は自分で守ります」


 話にも聞いていたが、五星教が西大陸を管理していると捉えても間違いないらしい。


 それを踏まえると、外出は控えるべきだろう。


「まあ入国審査の際には、船酔いでもしたと言えば通るだろう」


「そうあって欲しいです」


「……! あ、見て!」


 アイシアは陸地を指差す。西大陸が見えてきた。


 その港町は四つの柱が立っていた。てっぺんにはひし形の魔石が光りを放ち、効力を発揮しているようだった。


「あれが例の人工魔石ですか?」


「そう。魔物避け兼闇属性対策の結界魔石だね」


「ま、考えててもしょうがない。なるようになる」


 そう言うとフェルサは降りる準備を始める。


「なるようにならないと困るしね」


 俺達も降りる準備を進めていく――。


 数時間の船旅はあっさりと終えて、西大陸の港町ガルニマへと船は定着する。


「大丈夫、リリィ?」


「うん……まあ……」


 俺の真っ青な顔色を見て、心配そうに尋ねられた。


 さっきのご指摘通り、どっしりとのしかかるような酷い気怠さを感じる。


 それに合わせてなのか、頭痛や耳鳴りまでする始末。そんな特典は是非下げて欲しかった。


 こんな中で入国審査をしなければいけないのは、かなり億劫(おっくう)である。


「だぁいじょうぶですかぁ〜?」


 そんな俺に口だけの心配言葉がかけられる。


 伏せていた顔を上げると、ベレー帽のような白い帽子を被り、軍服とまではいかないが統一性のあるピシッとしたデザインの白を基調とした制服を着こなす集団が目の前に現れた。


「おい!」


「はぁーい」


 そのふざけた口調で話しかけてきた女性は、先輩だろうか。注意を受けると、その彼の後ろにいる同じ服装の者達の元へと下がった。


「ロイドさん、この人達は……?」


「彼らが五星教だよ」


「!!」


 早速ご対面。だが、皆同じ服装を見ると、五星教のリーダー格はいないようだ。


「これより入国審査を始める。荷物についてはこちらで確認した物から持っていっても良い。商人達は――」


 入国審査員のリーダーらしき人物は、業務的に話を進めていく。


「――次に、あそこの建物でボディチェックから属性審査を行う。建物内では男女に分かれてチェックする。こちらの指示に従うように……」


 入国審査の徹底ぶりがわかるような喋り方だが、まるで囚人にでもなった気分だ。


 あまりいい気持ちではない。


 俺達は直ぐそばの建物へと入り、入国審査を受けた。


「それではこちらの指示に従い、審査を始めます」


 すると、この女性陣のリーダーだろうか、ギッと睨みつけてくる。


「な、なんでしょうか……?」


「貴女、黒炎の魔術師ではないでしょうね。随分と具合が悪そうだけど……」


 見た目からそう判断したのか、警戒心剥き出しで突っかかってくる彼女。


 具合の悪そうな人間に話す言い方ではないだろうと考える余裕もない。


「すみません。彼女は船酔いが酷くて……」


 代わりにリュッカ達が答えるも、


「闇属性持ちの典型的な言い訳だな。よくまあ――」


「まあまあまあ、先輩。調べれば直ぐにでもわかる話ですってぇ〜」


 否定されたが、先程から軽い口ぶりの女がちょっかいをかけてくる。


「貴女。この女が――」


「はいはい、わかってますぅ〜! 例の魔術師だったらマズイって話なんてタコができるほど聞きましたぁ〜」


 その敬意の欠片もない言い方にイライラした様子の上司を後に、俺を押して別室へと移動しようとする。


「貴女! 何を勝手に……」


「大丈夫ですって。私の仕事っぷりはご存知でしょう?」


 それには覚えがあるのか、納得はしたくないといった表情が顔に出ている。


「じゃあじゃあ、彼女さんはこちらへ〜」


 俺だけ別室へと移動させられた。


「いやぁ、ごめんなさいね。うちの上司が煩くて。あんなに怒鳴り散らしたら、シワシワになるってわっかんないのかなぁ〜」


「……貴女が真面目にやればいいのでは?」


 正論を投げかけてみると、ケラケラと笑われた。


「他の子達が真面目過ぎるの。闇属性持ちなんてそうそう来るわけないのにねぇ」


 俺はドキッとした。


 この赤紫の髪の五星教さんはやはり黒炎の魔術師のそっくりさんだと思っているようだ。


 有り難い話だが、もしバレでもしたらと思うと、心臓が高なる。


 いくらふざけた性格でも、上司への報告義務は果たすだろう。


 そんな心境の俺に更なる追い討ちがかかる。


「はぁーい。では全部、脱ぎ脱ぎしましょうね」


「……は? はああっ!? い、いきなり何を!?」


 俺は思わず身体を隠す仕草を取る。


「いやいや、属性の検査とボディチェックをさらっと終わらせるためですよぉ。ほら、持ち物によって上手く測定できなくする装備を外すためですよぉ」


「いや、だからって……」


「ごめんなさい〜。新しい規則になってからこんなんなんですよぉ。文句なら東で問題を起こした闇の魔術師さん達にぃ、言ってね」


「ていうか向こうは!?」


「あ、向こうもそうだから安心して。みんな一緒にすっぽんぽんだよ」


「へ〜……えっ!? 脱ぐって服だけじゃないの!?」


 俺はさらにこの五星教の女から距離を素早く取る。


「大丈夫だよぉ。同性なんだしぃ。気にすることないでしょぉ?」


「気にするよ!!」


 というか全裸で検査なんて、マジで囚人扱いじゃないか。


 人権がないのか、この国は!!


「大丈夫。穴まで調べないから……」


「――当たり前だよ!! 女の子がそんなこと言うもんじゃない!!」


 あの重量感のある倦怠感(けんたいかん)はどこへやら。


 この女のペースに飲み込まれている。


「じゃ、そろそろ脱ぎ脱ぎしましょ。具合悪いなら脱がして……あ・げ・る」


 実に楽しそうに手をワキワキさせながらにじり寄ってくる。


「ちょっ、自分で脱げるから! わかったから!」


 そう答えると一気に現実に帰ったせいか、倦怠感(けんたいかん)が襲う。


 この女のテンションのせいか、イマイチ危機感を感じないが、現在進行形で首チョンパコースである。


 コンタクトの件はいい。これは目視じゃ確認しづらいし、バレる心配はないだろう。


 問題は今、服に隠れている人工魔石。


 部屋のテーブルに置いてある水晶石がおそらく、恩恵の儀などで使われる属性を判別する魔石。


 これに関しては問題ないのだ。コンタクトがバレない限りは。


 しかし、この人工魔石を調べられるのはマズイ。


 この女の上司と思われるキツそうな彼女は、俺を疑心の目で見ていた。


 そんな疑いの眼差しを送る相手が、偽装魔石なんて持っていたら疑惑が深まり、最悪、正体がバレる。


 俺はこのペンダントをどうしようか悩みながらも、何とか気取られないように振る舞う。


「あのさ、どうして一人で任されたの?」


 俺のこの疑問は当然だろう。


 向こうの方が人数がいるとはいえ、複数人で調べられると考えた。


 実際、女性を検査する上司さんは俺のことを疑ってたわけだし。


 すると、


「そんなの私が優秀だからに決まってるでしょ? こう見えても最上級クラスの治癒魔法が使える魔術師なんだから」


「え……」


 俺はサァーっと血の気が引いた。


 五星教は五属性の各リーダーが務めており、全員が優秀であると聞いている。


「まさか、五星教のトップのうちの一人……とか?」


「まさかっ!!」


 俺の心配を他所にへらっと笑う。


「私は治癒魔法しか使えないポンコツだから、ここで気ままにお仕事してるんですよぉ。でもでも、治癒魔法術師だから嘘もすぐ発見できるの。検挙率は高いよぉ〜、わ・た・し」


 思わず冷や汗が噴き出て、視線も少し横に逸れた。


 マズイマズイ! コイツの前で全裸で属性感知の水晶石を使おうものなら一発でバレる!


「だぁいじょうぶですかぁ〜?」


 表情が蒼白していく俺はそんな言葉すら耳に入らない。


 甘かった。こんないきなりけつまずくなんて……。


「私もちゃっちゃと仕事終わらせたいので――」


 すぽーんと上をいきなり脱がされた。


「強引にいきますねぇ〜」


「――なっ!?」


 瞬時に起きたことだったので、胸を隠す仕草を取ると、今度は無防備になった下をズルリと下着ごと脱がされる。


「――ひやあぁっ!! ちょっ!? えっ!?」


 もはやツッコむ時間すら与えない手早い脱がしっぷり。


 男性なら是非覚えておきたい脱がし術である。


 俺はバレてはいけない、重くのしかかる気怠さ、急に脱がされるという驚愕にもはや的確な思考が出来る状態ではなく、あっという間に全裸に剥かれた。


「な、なるほど。優秀な理由が……わかったよ」


「お褒めに預かり光栄だよ。ささっ、これに魔力を込めてねぇ」


 脱がした服や装備を(かご)の中へ入れると、水晶石を差し出す。


 人工魔石のペンダントを取られた時、聞かれるのかと考えたが、どうやらスルーしてくれた。


 ちょっと表情が和らぐと、水晶石に魔力を流すが、


(確か……)


 コンタクトに施されている術式を発動。


 視線を送る水晶石に干渉し始め、水晶石は水色――つまりは水属性であると証明できた。


「ふぅ……どう?」


「はぁーい。問題ありませんよぉ〜」


 やっと終われる……俺は荷物へと近づく。


「黒炎の魔術師さん?」


「!!」


 服を手に取ろうとしたのを一瞬ピタリと止めると、今、ここで妙な反応をする方がマズイと考え、再び服を手に取る。


「何言ってるんですか? 確かにそっくりですけど、彼女とは違い――」


「いやぁ、嘘つくの下手でしょ? お話している間中、ソワソワしてましたよぉ? それに今も一瞬でしたけどぉ、反応したし。極め付けは……こぉれ!」


 彼女が手に持っているのは、偽装魔石のペンダント。


 荷物を入れた(かご)の中身に、ペンダントがない。


 正直、彼女と顔を合わせてなくて良かった。俺は今、めちゃくちゃ動揺している。


「このペンダントぉ……闇属性の組織さんとかが扱ってる品なんですよぉ。良かったですね……見つけたのがぁ、私で」


 含みのある言い方に思わず振り向くと、ニコニコと笑顔の彼女がいる。


 それはおかしいと俺は気付く。


 五星教は闇属性持ちに対し、強い嫌悪感、憎悪、怒りなどの感情を向けるものだと考えていたし、ここに来るまでに散々言い聞かせられたことだ。


 彼女からはそんな黒い感情がないが、別の雰囲気を感じる。


 得体の知れない感覚がある。


「あのさ、貴女……何者?」


「さあ? 何者でしょうか!」


 すると、ペンダントと一緒に指輪を手渡した。


 すると、重くのしかかっていた気怠さが嘘のように晴れていく。


「あんた、本当に――」


「まあまあ。それ、必要でしょ? その指輪があれば貴女でも街中で魔法を使えるし、具合も良くなったでしょぉ?」


 指輪には石がついており、おそらくこれも魔石だろう。


「……」


「そんな疑いの眼差しで見ないでよ。私としては歓迎してるんだから……」


「歓迎?」


「そ。まあ私はここでお仕事続けなくちゃ行けないけどぉ、近いうちにまた会えるから……」


 得体の知れないこの女の前で着替えを終えると、やはり怪しいのでと指輪を返そうとするが、


「いーの、いーの。受け取って。それにほら、これがないと何でまだ顔色悪いのって言われるよ? ね? ね?」


 確かに俺は怪しまれている。


 あの上司が優秀な治癒魔法術師である彼女を起用した以上、俺の顔色が良くなっていないとマズイ。


 結界で当てられた人間でないと証明するためにも必要だろう。


「……わかった。今はありがたく受け取っとく」


 俺は渋々受け取ることにするが、これで彼女に正体を明かしたことになる。


 その彼女だが、とても嬉しそうだ。


「もしかしてお前、五星教じゃないな」


「まあま、女の子は秘密の一つや二つあった方が、セクシーでしょ?」


 あくまで自分のことは言わないらしいが、五星教ではないのかと考える反面、もしかしたら泳がせるための作戦なのかと、色々と考えが頭を巡る。


「さて、審査終了〜っとその前に……」


「ん?」


 ***


「終わりましたか?」


 キツ目の上司さんが待ち構えていた。


 俺のことを見定めるようにギッと見回すが、そんな上司にも圧倒されないこの女がずいっと前に出る。


「いやぁ、聞いてくださいよぉ!! 彼女、あのカーチェル劇団の期待の新人さんみたいですぅ!! きゃあーーっ!!」


「――煩い!! そうなのですか?」


「は、はい。ヘレンと言います」


 赤紫の女は色紙を見せびらかしながら、きゃっきゃ騒いでいる。


 彼女に行く前に呼び止められたのは、口裏合わせのため。サインまで書かされた。


 随分と用意周到な女だと考える。


「だから言ったじゃないですかぁ〜。調べれば一目瞭然だってぇ。水色でしたよ、水晶もパンツも」


「――パンツは余計!!」


 その上司もすっかり顔色の戻った俺を信用したのか、ふうとため息をつく。


「その変わった武器は……」


「物騒じゃないですかぁ? この彼女の見た目ですよぉ? (さら)い屋なんて格好の餌でしょうしぃ〜、先輩も間違えたように、黒炎の魔術師だって、ゲリラどもに狙われるかもっ!」


 俺や上司の言いたいことを全部ぺらぺらと喋る赤紫色の髪の女。


「……貴女の言う通りね。ヘレンでしたね」


「は、はい」


「来た目的は、他の方から聞いてます。ファニピオンへ仕事に行くとか……」


 向こうからキャンティアがひらひらと手を振るところを見ると、どうやら旅の目的は話してくれたようだ。


「我々、五星教が護衛を受けましょうか? 万が一狙われても大変でしょう」


「そ、それは大丈夫です。他の劇団員さんもいますし、それにお忙しいでしょう?」


「確かに我々は忙しいですが、そのような部隊もありますので、お気になさらず。それとも何か都合が悪いことでも?」


 さっきよりではないが、まだ疑ってる節がある様子だ。


 正直、その提案には乗りたくない。


 今ですらポロっと正体が出てしまったのに、五星教の前でそれは最悪だ。


「あら? 旅の道中に、人を犯罪者みたいに調べる不粋な集団と旅路を共にするなんて、まっぴらですわ」


 挑発的にそう発言するのはカルディナ。助け舟が来た。


「これは規則ですので……」


「入国審査とはいえ、全裸に剥く規則など容認しがたいですわね。人権というものは考えましたの?」


「ならば文句は、無能なハーメルトというお国と悪魔を従える黒炎などと物騒な名の付いた魔術師に言うのね」


 二人の間に火花が見えるようだ。


 こんな空気の中、お願いしますとは言えない。


「あの……同行者がこう言ってるので、お気持ちだけ頂きます」


 その融通の効かない上司は、ふんとそっぽを向くと、俺達の前から去っていった。


 すると、その上司をクスクスと笑う。


「いやぁ、狙いが失敗して悔しそうですねぇ」


「狙い?」


「そ。ほら貴女が黒炎の魔術師にそっくりだから、ゲリラさん達を炙りだそうと考えたんでしょ?」


 それを聞いたカルディナは、舌打ちをする。


「これが国を守ろうとする人間のやることですの」


 すると赤紫の女は、ノンノンノンと指を振る。


「国なんてどーでもいいの。あの人みたいな人がやりたいことってぇ、ただ闇属性持ちを殺したいだけなの」


「……!」


「ほら、こんなお国だからさ、闇属性持ちもやり返すからぁ、イタチごっこなのよねぇ」


 つまりは五星教が規制すればするほど、規制された方も激化するってことか。


「貴女は違うので?」


「私? 私はぁ、お給料がぁ――」


「何をやっているのですっ!! さっさと来なさい!!」


 去っていったはずの上司さんが激怒した様子で注意する。


「はぁーい。そんな怒鳴らないで下さいよぉ」


 パタパタと小走りで向かうすれ違いに、


「ま、五星教も一枚岩じゃないってこと」


 さらっと小声で呟かれたのでバッと振り向き、彼女を見ると、軽くウィンクして上司の後について行った。


「彼女、なんと?」


「五星教も一枚岩じゃないってさ。隙があるってことでしょ?」


 この発言と俺を見逃したことを考慮すると、十中八九あの女は五星教じゃない。


 だが、クルシアの縁者のような雰囲気も感じる。


 この国への入国は認められたものの、前途多難な旅の幕開けとなった。

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