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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
6章 娯楽都市ファニピオン 〜闇殺しの大陸と囚われの歌鳥〜
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04 道化の王冠

 

「クルシアは結局、そんな奇人どもを集めて何がしたいのだ」


 その疑問は納得だが、あの性格を考えれば深い意味も無さそうに考えられる。


「まあ……究極的な意味ではクー坊の真の目的は、ただの暇つぶしだ」


「……」


 やはりと思ったが、その後の組織名の由来を聞くと、真意がわからなくなってくる。


「なあ? どうして道化の王冠(クラウン・クラウン)なんて名前だと思うよ?」


「それはアレだろ? あのクソガキ、まるで一つの劇みたいな話をしてやがった。自分が演者……いや、監督か何かだと思って楽しんでやがるんだろ?」


 テテュラのこともあって口を悪くして語るウィルクに、冷静になれよと(さと)しながら語る。


「まあそれもそうだが、本質は少し違う。奴から言わせてみれば、組織の連中はピエロなのさ」


「ピエロ……」


「本来なら主役以上の活躍だって見込める芸を持ち合わせていながら、敢えて笑い役を買って出る。そのあたりをあのはぐれ者達に重ね合わせたのさ」


「……」


 闇属性持ちは、確かに他属性に比べると圧倒的に才能が秀でている。


 奴隷達だって本来ならば、もっと人としての活躍の場だってあるかもしれない。


「そういう保護団体だとでも?」


「そこまでご立派なことは言わねぇが、少なくともそれで救われた奴がいる……だろ?」


 テテュラのことを言っているのだろう、ザーディアスはこちらに軽くウィンクしてみせる。


「やめろ、おっさん」


「おじさん、傷つくなぁ。……まあとにかくその道化さん達にも活躍の場を与えて、王冠を被らせてあげましょって意味らしい」


 クルシア自身もそのあたり、暗い過去でもあるように聞こえる。


 歪んではいるが、優しさや同情心も持ち合わせているのだろうか。


「クルシアさんにも何か深い事情があったんでしょうか」


 その話から同情を一番最初に誘われたのはリュッカだった。


「まあアイツも人間だ、歴史くらいはあるさ。だが……同情はしなくていい。クー坊は身も心も化物だ。最初からな」


「クルシアに何があったのか、知っているのか?」


 すると酒をチビッと飲む。


「まあな。だが正直……知らなくてもいい話だ」


「話せと言ってもか?」


「言ってもだ」


 クルシアの過去を知れば、テテュラほどではないにしても、優位性を(うかが)えるのではと考えたのだが、今までさらりと情報を喋ってくれた口が固くなった。


「これはお前さんらのために言ってるんだ。奴の過去はテテュラの嬢ちゃんみたいに悲劇から来る、王子様が来ました……みたいな美談で済まねえ。もっと(おぞま)しいもんさ……」


「そんな苦労人には見えないけど……」


「苦労? しちゃねぇよ、あの坊主は。クー坊は根っからの天才肌さ。……あの歪んだ性格は元からだっつってんだよ」


 あれが子供の頃からと考えると、ゾッとしない話だが、本当に最初からそうだったのか疑問が残るところ。


 少し考え事をする沈黙が流れると、ザーディアスは呆れたように、


「どうしてもってんなら、西大陸にある噴水がデカくて有名な街がある。そこの大きな屋敷が奴の実家だ」


「……そこまで情報、垂れ流す?」


「そんな情報ってほどのもんじゃねぇよ。クルシアはもう絶縁してるしな。だがガキの頃のアイツを知るならってことだ。ただ聞けるのはハイディルっていう使用人だけだ。間違っても奴の家族や街の連中にはクルシアなんて言うなよ」


「禁句ってところか……」


「まあな。王子様も事件の噂くらいは聞いたことがあるはずだぜ」


 こちらに流れてくるほどの事件だったのか、意味深な忠告をする。


「それで……クルシアが今しようとしていることに心当たりは?」


「お宅のところで魔人の魔石を奪われたろ? あれの適合者を探してる」


「適合者……それってテテュラみたいな被害者をまた出すってこと? おっさん!」


「落ち着きな、銀髪嬢ちゃん。テテュラの嬢ちゃんみたいにはならねぇよ」


「何故、そう言い切れる」


「ドクターから聞いた話だが、あの魔人の魔石はクー坊やテテュラの嬢ちゃんがつけた物とは別物でな。魔物の能力がそのまま付与できちまうそうだ。魔人マンドラゴラの声の能力をそのまま使えるとなりゃあ、タチが悪そうなのは言わなくてもわかるだろ?」


 魔人マンドラゴラと戦った俺達は身に染みて理解している話だ。


 音波攻撃や子供達を(さら)うことに使われた音波能力、それに演奏魔法という音を発動条件とした魔法術の使用も容易となるだろう。


「それにクー坊の話じゃあ、マンドラゴラの能力で原初の魔人の居所を探させる狙いもあるようだぜ。……何でも超音波がなんとか……」


 要するには探知機みたいな使い方をするつもりってわけね。


「確かに人にその能力が身につけばマズイね」


「そういうこった」


「ならばどこでそんな人物を探すつもりなのかは……」


「おいおい、全部吐かせるつもりか? ヒントも貰ったんだろ?」


 歌鳥の鳥籠(とりかご)……確かに魔人マンドラゴラの能力をつけるなら、歌が得意な人物につければいいと考えるわな。


「結構喋ってくれたんだ、ケチケチしないでよ」


「そうだなぁ……銀髪嬢ちゃんがストリップでも見せてくれたら――」


 俺は手早く杖を懐から取り出す。


「あ、何でもないです。はい」


 そんな懐かしいやり取りをクスッと笑ったアイシアは一つお願いをしてみる。


「あのザーディアスさん」


「何だ? シアちゃん」


「……私達と一緒にクルシアを止めてくれませんか?」


「シア……」


「ザーディアスさんが悪い人じゃないってこと、わかります。ザーディアスさんだってクルシアが悪いことしてるってわかってるでしょ?」


「まあな。……だけどな……」


 口止めされていなかったとはいえ、ここまで協力的だとテテュラと同様、抜ける覚悟でもないと喋らない気がする。


 雇われているなら守秘義務とかあるだろうし。


 しかし、答えは違った。


「言ったろ? 口止めはされてねぇ。逆に言えば話しても構わねぇってことだ。……それだけ自信があるんだよ。お前さんらに寝首を狙われない自信がな」


 その言葉にこちらからも反論はなかった。


 クルシアの実力はずば抜けたものだった。とてもじゃないが、倒せるとはっきり口にできるものではなかった。


「実際、おじさんだってクルシアにゃあ、勝てる自信がねぇ。中立って言ったのはそういうことだ」


「貴方の実力でも遠く及ばないと?」


 ハイドラスはここに来る前に、ザーディアスの実力を事前に調べている。


「それもさっき言ったろ? クー坊は天才だ。才能もなく、凡人として歩んできたおじさんとはわけが違う。悪いが、この臆病なおじさんが力になれるのは情報だけだ」


「だから彼らにも従うと?」


「まあな。それにあっちは羽振りもいいしな」


 指でお金を表示。


 するとアイシアはバッと立ち上がると、


「お、お金はないけど……私、何でもします!」


「――ちょっ!? アイシア?」


「何でもって……嬢ちゃん?」


 ここまで話してくれて一緒に旅をしたザーディアスを信用しているのか、食ってかかるアイシアだが、自分の無力さも口にする。


「……悔しいけど、クルシアは強い。私じゃ、どれだけ頑張ればいいのかわからない。でもザーディアスさんと旅した時、色んなことを教わって凄い人だって知ってる! 私達だって頑張ります! だから……」


 ザーディアスの腕を見込めば、俺達のパワーアップにも繋がるし、情報の提供、さらには俺達より場数を踏んだ冒険者だ、これほど心強いものはない。


 だが、ザーディアスの表情は複雑だ。


 アイシアの評価と自己評価が合わないといった表情。


「シアちゃんよぉ……そう褒めてくれるのは有り難いが、それが年の功ってやつだ。ついでに言えば、歳を重ねるごとにな、限界ってもんを決めちまうのさ。頑張るにしてもその重い腰をあげるにゃあ、見返りを求めちまうのさ」


「……随分と情けないことだ」


「おうとも。そちらの隊長さんみたいに志ってのが、おじさんにはねぇのよ。じゃなきゃ、こんな流れ者みたいな生き方してねぇさ」


 だが情報をくれる以上、これがザーディアスなりのやり方ってものなのだろう。


 実際、クルシアはテテュラをあんな姿に変えても嘲笑(あざわら)う男だ。


 自分の身に同じことが降りかかるかもと考えれば、同情心も湧く。


「ま、だから見返りがあれば、おじさんも頑張れちゃうかもな。シアちゃん、何でもするって言った――」


「オッサン? (声大)」


 手をワキワキさせながらそんなわかり切った態度を取ったので、杖先から黒炎を見せつけ、威圧感たっぷりの満面の笑みで尋ねる。


「じょ、冗談だって冗談……」


 少し同情心をくすぐられたかと思うと、調子に乗るあたりがおっさんらしい。


 まったく……現金なおっさんだよ。


「アイシア。こういうおっさんにその発言はよくないよ。どんなことお願いされるかわかったもんじゃないから」


「ガードが硬いなぁ、銀髪嬢ちゃん。中年のイケてるおじさんは若い子より経験値高――」


「オッサン? (声大)」


 確かに見た目はハードボイルド系のイケてる中年おじさんだから、女性経験も豊富だろうが、そこを求めてはいない。


「本当に冗談の通じない嬢ちゃんだな……」


「割と冗談じゃないでしょ?」


「半分な」


「半分もあれば十分!」


 ザーディアスはグラスに注いだ酒を飲み干すと、ふうと一息。


「とにかくだ。おじさんが協力できるのはあくまで情報だけな。過剰な期待はしないでくれ」


「それでいいのかよ……おっさん」


「何だ? 銀髪嬢ちゃん。良心でも傷まないのかって? そんなタマならテテュラの嬢ちゃんの時におじさんもいたはずだぜ」


「……観てたのか」


「そう睨みなさんな、王子様。あの事件自体はテテュラの嬢ちゃんの望むことだったはずだ。……見守ってただけさ」


 少し寂しげに話したのは、同情心からだろうか。下手に手を出したり、止めたりするといけないと考えたのだろうか。


 クルシアからテテュラの情報は聞いていたのだろう、その表情から(うかが)える。


 娘を見守る父親のような面影がチラついた。


「おじさんはもうやんちゃするような年頃でもないのさ。オルディーンだったっけ? お宅の騎士隊長……あんな風にはなれんよ」


 ザーディアスは自分と歳が近そうなオリヴァーンを棚に上げて話す。


 自分は自分、他人は他人なのだと。


 だがそれでもクルシアを知り、それを何とかしようとする俺達に改めて忠告する。


「クー坊に関わるつもりなら、いくらか覚悟しときな。アイツは……イカれてるぜ」


 ***


「――そう……ザーディアスさんにあったの」


「テテュラも面識はあまりないって……」


「ええ、そうね。二度くらいかしら……」


 俺達はザーディアスの話をカルディナ達へとした後、西大陸出身のテテュラからも話を聞くことに。


「貴女もその、ザーディアスって方の言う通りだと?」


「そうね。クルシアの適合者探しは間違いないけれど、それはあくまでドクターの目的の方が大きいわ」


「そのドクターについてはおっさんも、さあって言ってたけど……」


「私達も彼の素性についてはさっぱり。ただ、あそこまで魔石の知識を有していることから、北大陸で何かしらはあったんじゃないかしら?」


 研究者達と反りが合わなかったってあたりをクルシアにスカウトされたのだろう。


 そんなあたりの予想がつく。


「で、テテュラは殿下の言う……ファニピオンってのはどう?」


「当たってると思うわ。クルシアは知っての通り、人をよく観察して見抜くわ。その人のうちに秘めたものを……」


「そして、それを利用するのもね」


「テテュラも悪い男につかまされたね。次は気を付けろ」


 フェルサがさらりと一言。思わず苦笑する。


「そうね、気をつけるわ。……ファニピオンで鳥籠(とりかご)のようなオークション会場があるのはホントよ。そこでは歌……だけではないけれど、芸を披露しているわ」


 この世界にもエンターテインメントはあるのは知っている。だが、向こうでいうアイドルや歌手なんて仕事があるのだろうか?


 まあカーチェル劇団みたいな感じで遠征でもしながら地方活動は現実的でないように思える。


 この異世界では魔物が往来している世界だ。


 歌って踊って騒げば、格好の餌だろうし、その魔物を倒せるボディガードみたいな仕事をギルドで見たこともない。


 何せフェルサやサニラと話をした際にも、魔物退治や雑務がほとんどで、誰かの護衛なんて仕事は基本、魔物退治ができない商人やここ(ハーメルト)に来る前の俺達みたいな客だ。


 貴族などの護衛は名のある冒険者か、ほとんどは騎士が務める。


 だが、アイドルの護衛とかあるのだろうか?


「正確にはショーの役者のオーディションね。奴隷にもチャンスをあげようってわけ」


「へえ〜……悪くない試みだね」


 奴隷になるなんて、気落ちしそうなところに希望を与えるなんて、いい心がけじゃないかなぁ、なんて考えていたが、


「表向きはね」


「え?」


「あくまでオークションよ。買い付けに来るのは、金を持った貴族がほとんど。能力のある奴隷を欲しがるのは、見せ物として金を落とすから。そんな目覚しい活躍をする者を夜は思い通りに可愛がれるとしたら……?」


「……最悪」


 要するにはその買い付けに来た奴らは、優越感を買いに来てるんだ。


 何だったらその能力も独り占めしてしまえばいい。


 ベットの上で転がして良い声で(あえ)ぐ抱き枕の出来上がりだ。


 買われた方も悔しいだろうと考えたが、


「まあ中にはそれでもいいってのもいるけどね」


「どういうこと?」


「あ……前にテテュラちゃんが言ってた……」


「ええ。奴隷として買われて幸せになる人もいるのよ。実際、奴隷オークションは違法よ。する側は入念な対応をしてバレないようにしている。つまりは、奴隷にされた側も本来は違法でなったもの。望む望まないは別にしても、助かることはほとんどない」


「だったら、流されて奴隷として生活した方がいいと?」


「そういうことよ。奴隷に対する扱いの法律はしっかりしてるから」


「そっちじゃなくて、奴隷が増えていくことを何とかしなよ!」


「そうね、その通りよ」


 そんな社会にしてしまう方を何とかしろよと(いきどお)りを覚える。


 だがそれも、人形使い(ドール・マスター)の歴史が糸を引いてしまっているのだろう……そう感じ取ってしまえる。


「奴隷と言えば、クルシアも買ってるって……」


「ええ。だけどクルシアの扱いは特別よ。買い取った奴隷をすぐに解放するわ。あとは本人達の意思に任せているの」


「……人間観察のためかしら」


「そうね。実際、クルシアから少し話を受けて決めるわ。クルシアに改めて奴隷になる人、自由という荒波へと駆け出す人、強さを求めて道化の王冠(クラウン・クラウン)の力をあてにして、死にゆく人……」


 ドクターやアミダエルに実験された者達だろうか、クルシアのことだからテテュラのように自分で選ばせたのだろうが、誘導じみた感覚もあの性格を考えれば想像もつく。


 何ともやり切れない気持ちだ。


「……あのクルシアが善行をやるとは思えないわね」


「見る人によっては違うのよ。私だって……こんなことにならなかったら、信じているわ」


「今も……じゃない?」


 テテュラの物言いから未練を感じる。


「そうね……」


 テテュラにとっては、結局救ってくれた人、生き方を導いてくれた人。


 そこに対する感謝だけはどうしても変わらないようだ。


「皮肉な話だね」


「また騙されそう」


「なら、私は貴女達に騙されているって話になるけど?」


「――私達がそんなことしないよっ!!」


「わかってるわ。冗談よ」


 ちょっと場が和んだところで話が戻る。


「その奴隷オークション会場はファニピオンにあるのは間違いないわ。ただ、その正確な場所までは不明だけどね」


「そこに乗り込めば、クルシアがいる」


「客としているでしょうね」


「それでテテュラさん。私達は西大陸に行くことになったから、気をつけることを聞きに来たの」


「あら? 貴女は西大陸に居たって聞いているけど?」


 フェルサはこくりと頷くが、


「人間の社会事情なんて知らん」


 とさらりと答えた。


「アイシア達も……?」


「私達は一応保留だけど、行くよね」


「うん」


 二人はあの場では困惑していたが、やはりやる気の方が前に出るようで、行く気満々のようだ。


「そう……わかったわ。そうね、とりあえず五星教には気を付けなさい」


「やっぱりか……」


「ええ、リリアが一緒に行くなら特に――」


「待って下さいな」


「!」


「リリアさんは一緒に行きませんの」


 テテュラはハッとした表情をするが、すぐに納得した表情へと変わる。


「……なるほど、懸命ね。ということはアルビオも行かないのね」


「うん……」


「でしょうね。闇属性に対する対応が為されているだけでなく、五星教自体も強いもの。行かない方がいいわ」


「正直、私自身は行きたいけど……」


 クルシアは放っておけないし、何よりそんなところにリュッカ達を見送るのは不安でしかない。


 リュッカ達がどうこうではなく、自分が手を貸せないという状況が嫌だ。


 これはわがままだろうか。


 そんな表情が出ていたのだろうが、テテュラは更に不安を(あお)り立てる。


「気持ちはわかるわ。クルシアに五星教、奴隷商に攫い屋……しかも魔物もこちらとは違い、強いものもゴロゴロいるわ」


「魔物に関しては問題ない。私が保証する」


 西大陸の魔物を知るフェルサが太鼓判を押す。それは心強い。


「改めて物騒な大陸だなぁ」


「まだあるわよ」


「ええっ!? まだ?」


「ええ。闇属性のゲリラ組織もいるわ」


「!」


「えっ!? 闇属性持ちがいるの?」


 それに関しては話を聞きに来た一同全員が驚く。


 今までの話や物騒な大陸で呼び習わされているところを見ると、闇属性持ちは撲滅させられていると考えていた。


「……でも、いざ言われるとそうよね。居てもおかしくはないわ。こちらに移住している者もいるのだし……」


「あ……」


「その通りよ。五星教の包囲網をくぐり抜けてきた者達は移住に成功してるし、五星教を潰そうと画策している者達もいるわ」


「そのいざこざに巻き込まれでもしたら……」


「面倒でしょうね」


 治安が悪いというのにも納得がいく内容。


 中々統率が取られていないように思えてならない。


「でも、その人達は結界の影響とか受けないの?」


「それを緩和する人工魔石を付けているのよ。出回ってるって話で、五星教がそのルートを潰しているわ」


「ふーん……」


「何とか手に入らないかなぁ? とか考えてません?」


「――えっ!? そ、そんなこと……あるけど……」


 チラリとテテュラを見ると、軽く首を振って否定した。


「大丈夫だよ、リリィ! 不安がないって言われたら嘘だけど、何とかしてみせるよ」


「ええ。任せて下さいな」


「そ、そうだね……」


 みんな励ましてはくれるが、俺自身は罪悪感もある。


 みんなが命がけで向かうのに、俺やアルビオは安全な北大陸に向かうという話だ。


 いくらテテュラのためとはいえ、俺自身もアイシア達と一緒に行きたい。


「ねえ、テテュラ? 五星教ってそんなにヤバイの?」


「そうですわね。その辺を聞けるなら聞きたいですわ」


「そうね。五星教は名の通り……火、水、風、地、光を星として掲げ、それらの人々が教え導くとして設立された組織よ。まあこれは建前だけど……」


「真の目的は……闇属性持ちの絶滅……」


「ええ。できた当初は宗教組織みたいだったようだけど、時代が進むにつれて騎士団みたいになったそうよ」


 その辺の歴史事情は詳しくないと言うが、宗教組織が騎士みたいな組織になると考えると、(トップ)の変わり方に問題があるようだ。


「今、五星教のトップ達は女性騎士よ。その中でリーダーを務めているのが、メルトア・キューメルという女性のはずよ」


 メルトアってなんだか可愛らしい名前だなぁ。


「その彼女が即処刑の敢行を進め、実行まで持ち込んだ女よ」


 前言撤回、物騒な女の子のようだ。


「えっと、それって……」


 テテュラの言いたいことが上手く伝わらないのか、不思議そうにするアイシアに、少し苦い顔をしてわかりやすく説明。


「……この国では恩恵の儀。向こうでは処刑日と呼ばれているって話はしたわよね?」


「う、うん」


「いくら処刑日と呼ばれ、闇属性を畏怖しているとはいえ、まだ幼い子供をその場で処刑するのは人としておかしいのはわかるでしょ?」


「当たり前だよ!!」


「でも、その彼女は即処刑を敢行するよう、勧めたのよ」


「!!」


「……」


 あまりの残虐っぷりに言葉を失った。


 まだ幼い子供を平気で殺せる女って、クルシアに負けず劣らずのイカれた女である。


「そんな理不尽な……!」


「でも、それを認めてしまったのよ」


「それも全部、人形使い(ドール・マスター)という恐怖の再来を恐れてのこと……」


 人形使い(ドール・マスター)の話は聞いているし、国一つをごっそり支配し、操った事件というのは身の毛もよだつような話だということも理解に苦しむわけではない。


 だが、ここまで狂ってしまうものなのかと、正直、正気を疑う。


「彼女自身も闇属性持ちによって家族を失ったとその時の演説で語っていたわ。……その男は血に染まった人々を嘲笑(あざわら)ったのだと……」


「でもそれってただの八つ当たりじゃ……」


「そうね。だけど、人形使い(ドール・マスター)という幻影が消えない限り、それすら正しく聞こえてくるのよ」


 その彼女の家族を殺した闇属性の奴も大概だが、その恨みを罪もない、ただ闇属性と言われただけの者達に死の鉄槌を無情に与えることもおかしい。


 テテュラが殺人集団と呼び習わすのも納得である。


「クルシアもそうだけど、そのメルトアという女も狂人ね。気を付けろというのも頷けるわ」


「ただ闇属性以外の人間には、女神みたいな女よ。率先して魔物を討伐したり、犯罪集団を撲滅したりと活躍も目覚しいわ」


「つまり西大陸の住人から見れば――闇属性に平穏を奪われた悲劇の女騎士様が、自分のような境遇にならないように奮闘する可憐なお方で、闇属性持ちから見れば、幼子だろうが容赦なく死罪を突きつける狂気の殺人鬼ってところ?」


「そうなるわね」


 俺のその発言とさらっと肯定するテテュラに、フェルサ以外、事実なだけに苦笑する。


「でもリリアにアルビオも行かないなら、特に警戒しなくてもいいわ。そもそも組織のトップだから、早々お目にかけられる人物でもないしね」


「そうね」


 そうは言うが、やはり行きたい気持ちは強い。


「まあでも、クルシアから魔石を奪うのは至難の業よ。はっきり言うと無理ね」


「やってみなくてはわかりませんわ!」


「……クルシアとは付き合いが長いからわかるの。とてもじゃないけど……」


「それでもですわ!!」


 テテュラの発言が頭にきたのか、ナタルは強く否定する。


「まあまあ殿下の話だと、その適合者を何とかする方向でもいいという話みたいだし……」


「そっか。それでもいいのか」


「うん。止めること自体はやっぱり難しいって言ってたし、適合者だったら説得できるかもって……」


「テテュラみたいに?」


「うーん……出来れば穏便にしたいところ……」


 戦闘は避けたいし、最悪のケースは論外だ。


「とにかく、あの男の良いように事が運ぶのは面白くありませんわ。元よりあの外道を放置するのは、わたくしのプライドが許しません」


「ええ、私も……メトリーの仇を……」


「……気張りすぎないようにね」


「私も……頑張る!」


 思うことはみんな色々だ。俺だってそうだ。


 クルシアと初めて出逢った時、あいつは楽しげにゴブリンを殺した。


 魔物だから倒して喜ぶのもおかしい話ではない。


 だがあいつの笑い方はゴブリンを倒した喜びではなく、命を奪うことの喜びに聞こえた。


 あの時、何が出来るでもなかっただろうが、それでも悔やまれる。


 そしてあの狂気が自分を支えてくれた人達に矛先が向けられるのではないかと不安で堪らない。


 クルシアは言った……次の舞台で待っていると。


「何とか……ならないかなぁ」


 俺はポツリ、か細く呟いた。

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