02 陛下からのお願い
「おおっ……すっごいねぇ」
「シア、お願いだから失礼のないようにね」
俺達は王宮の応接室へと通されている。陛下から直々に話がしたいと呼び出されたのだ。
さすが王宮の応接室とあって、位の高い装飾品や美術品、鑑賞用の植物など飾られた、俺達がいるには中々場違いな空間。
個室というのが変に緊張感を持たせる。
貴族であるカルディナやナタルもさすがに落ち着かない様子。腰掛けて座る俺達の後ろでピシッと立っている。
「どうした、女狐。いつもの余裕が無さそうだけど……」
「貴女のように気楽に過ごしてきているわけではありませんので。父上がお世話になっておられるお方です、粗相など持っての他ですわ」
フェルサにつく悪態もさすがに出てこない。
しかし呼び出されたのが、あの場にいたシドニエ、ミルア、ユニファーニを除く、学生が呼び出されている。
俺達の方が大きく関わっていたせいなのだろうが、この呼び出し前に情報収集にも貢献したため、ある程度呼び出し理由にも覚えがある。
「リュッカ、やっぱりクルシアのことだよね?」
「多分……。でもそれなら、どうしてカルディナさん達まで?」
「戦ったからかな?」
そうは答えたが、事情聴取は受けている。
陛下から直接聞きたいのかと考えていると、コンコンとノックがなる。
「あっ、はい!」
「待たせてすまないな」
返事をすると陛下とハイドラス、オリヴァーンとハーディス、ウィルクが入室。
俺達は腰掛けていた座り心地のいいソファから立ち上がろうとするも、構わないと軽く手を出した。
「さて急な呼び出しに応えてくれてありがとう。それと改めて、我が国の危機を救ってくれたことに感謝する」
「い、いえ……」
「そう緊張しなくて構わない。ここは公共の場ではないのだ。気を楽にして聞いて欲しい」
そういうと早速本題を話す。
「君達を呼び出したのは他でもない、頼みがあって呼び出した」
「頼み……ですか? 王命じゃなく?」
「ああ。というかそもそもお前達、学生に王命などよっぽどでない限りはせん。……父上」
ハイドラスが言う、この国の理念の話がすり変わってしまう話だ。その通りだろう。
「うむ。リリア・オルヴェールとアルビオ・タナカを除く君達に、クルシアという輩の持つ魔人の魔石の回収を任せたい」
「……は?」
俺はその陛下の発言に思わず、失礼な発言。
「ちょっと! リリアさん!」
「あ、ごめん。でも……」
「まあ言いたいことはわかる。とりあえずこちらの話を聞いてくれ」
そう答えたハイドラスから説明が入る。
「先ずはオルヴェールの疑問から答えるとしよう。何故、名の上がった二人を除いたかというと、クルシアの目的地が西大陸だからだ」
「西……ですか?」
ここにいるみんな不思議そうな顔を浮かべる。
無理もない、ここにいた全員がクルシアの次の目的を聞いていたとはいえ、何のことだか理解していないのが実情。
ハイドラスは歌鳥の鳥籠という発言だけで、居場所を突き止めたのだろうか。
「ああ。クルシアは『歌鳥の鳥籠』と言っていたのは覚えているな?」
「はい」
「あれを指す場所には心当たりがある……」
少し深刻そうな表情になり、渋るように答える。
「奴隷オークション会場だ」
「「!」」
「奴隷……オークション……」
その言葉に嫌悪感を感じつつも、この世界では常識にある話であると飲み込んだ。
ハイドラスの発言に理解を示したカルディナとナタルは、なるほどといった表情。
「娯楽都市ファニピオンでは、奴隷のオークションが行われている。話伝いではあるが、そのオークション会場の一つに鳥籠をモチーフにしたセットがあるそうだ」
「それのことを指していると……?」
「おそらくな」
この話し合いを持たれる前に色々と情報を重ね合わせた結果、出た結論のようだ。
俺達も先日、クルシアの目的をある人物から聞いている。
「そしてファニピオンがあるのは西大陸だ。だから二人には行かせられない」
「えっ!? 何で?」
「忘れたのか? 西大陸は闇殺しの大陸。ましてやお前は向こうでも有名人。しかもこちらとは違い、危険人物として扱われている」
「ええっ!? リリィは魔人を倒した英雄だよ」
その物言いには少し照れ臭さを感じるが、魔人の脅威は他の大陸でも同じことのはず。
それを倒せる人材は喜ばしいことだと考えるが、
「向こうでは魔人も倒せる脅威の魔法使いと扱われている。どんな理由、立場であってもあちらでは闇属性というだけで、絶対悪とされる」
「なるほど。だからアルビオさんも行けないと……」
「ああ。奴らからすれば、勇者の末裔も対象だ」
世界を救ったとされる勇者ケースケ・タナカは、西大陸でも例外ではなかったはずだろう。
しかし、西大陸の者からすれば優先順位は譲らなかったのだろう。
「それだけ根付いているんですね」
「ああ。人形使いの脅威は未だに向こうの大陸の者達を縛っている。それに近年だが、闇属性の者による大量の虐殺事件も引き金になっている」
「そ、そうなんですか?」
ハイドラスは詳しくは聞いていないが、そういうことはあったと説明。
「まあお二人が行けない理由はわかりました。わたくし達もお二人の首が飛ぶところなど見たくありません」
俺も飛びたくありません。
でも、あのクルシアの元にリュッカやアイシアに行かせるのは不安が募る。
リュッカもアイシアも優しいし、思いやりもある。
それにつけ込んでクルシアが二人を傷つけるのではないかと考える。
ナタルは別の意味で心配だが、カルディナや西大陸を行った経験のあるフェルサは大丈夫だろう。
「ですが、我々だけですか?」
「騎士の人達もついていくでしょ? 私やアルビオを外すわけだし……」
「いや、我々から人員は出せない」
「えっ!? 何で?」
すると陛下もハイドラスもかなり困った表情を浮かべ、説明する。
「奇しくもテテュラが行なった術中にはまってしまったのだ。あの事件は西大陸……五星教だな、奴らの主張が通り易くなってしまったのだ」
「以前にも似たようなことを……」
「ああ……」
テテュラのお見舞いに来た時に聞いた話だ。
闇属性に関する規制強化がされたとか。
「五星教の連中は、西大陸から流れてきた移民の受け入れを拒否や移住した闇属性持ちの引き渡しの要求など、あの事件を棚に上げて言いたい放題だ。応じなければ物資の物流を切るなどの過激な発言すらしている」
何というか五星教の闇属性に対する執着心が恐ろしく感じる。
「その中で我らが騎士が西大陸をうろつくのはさすがにまずい。秘密裏に動いたとしても、バレてしまった時の国に対するリスクが大き過ぎる」
「過度に刺激を与えるだけってことですか……」
「それとこれは情けない話だが、あれだけの事件を最近で二回も起こしてしまっている。警備体制の見直しは勿論だが、国民達の安全や信頼を考えると下手なこともできない」
どちらとも予想外の動きから始まったこととはいえ、国民の不安を大きく煽ったことは間違いない。
陛下やハイドラスが最優先されるのは、国民達が安心して暮らしていける国作り。
理念や思想を語っているだけでは国は守れない。行動を示すことが重要なのだろう。
「だからといってあれの恐ろしさと異常さを知りつつ、放置もできない。そこでお前達に白羽の矢が立ったというわけだ」
「あそこでクルシアと接触した我々が……」
「でもシド達は? シド達は戦ったでしょ? アルビオ達と……」
そう尋ねるとアルビオはこくりと頷いたが、
「彼らはクルシアと戦いはしたものの、深くは関わっていない。極力あの男とは関わらせない方がいいだろうという配慮だ」
確かに俺達はクルシアと対話をした。
タイオニアでの接触、ナタルの屋敷での魔物襲撃の知らせ、そして展望広場での接触。
その過程を知り、クルシアがどれだけ関わってきたのかを確かに知っている。
「つまり我々だけであの男を……」
ナタルは怖い顔をして、恨みつらみをぶつけるかのような言い方をするが、
「勘違いしないで欲しい。あくまで魔石の奪還が目的だ」
「!」
ナタルの考えを察知したのか、ハイドラスは否定する。
あの現場にいたのだ、ナタルがクルシアに対し、大きな恨みを抱えているのは把握済みだ。
「勿論、クルシアを捕縛できるのであればやって欲しいが、お前達も知っての通り、あのバザガジールと実力を張れる。それはテテュラからの聴取から得た手堅い情報だ」
あのテテュラの処遇の説明を終えた別の日から、テテュラからは根掘り葉掘り、ハイドラスは情報を聞き出している。
その情報によれば、一度クルシアが魔石を埋め込んだ際に模擬戦と評して、一戦交えたのをテテュラが目撃している。
それはもう凄まじく、とてもじゃないが勝てる気など微塵も感じなかったと言っていたそう。
さらにテテュラは最悪の情報も説明してくれた。
「さらにあの男はテテュラ同様、半魔物化が可能。しかも赤龍の魔石だそうで、その属性である火属性も付与され、元々持つ風と闇を加え、三属性だそうだ」
あの背中に生えた翼はやはりドラゴンの翼だったよう。
しかも軽々と飛んで見せたことから、使いこなしているようでもあった。
「挙句、アルビオはわかると思うが、近接戦も可能だ。さらに言えば精神型で魔法の威力も落ちるわけもない」
「つまり、三属性で魔法の詠唱破棄にも関わらず、魔法の威力は落ちず、近接戦も可能。しかもパワーは半魔物化で飛躍的向上に加えて、凄まじい戦闘センス……」
「に加えて、あの性格……」
「さらに言えば、奴の闇属性の特化する能力を知らない。はっきり言うぞ……最強の殺人鬼と呼ばれるバザガジールよりタチが悪い」
確かにこれなら世界征服も可能という馬鹿げた発言も出てくる。
能力も異常だが、それらをさらりと使いこなすセンスがやばい。
それを聞いたナタルは悔しそうに歯ぎしりをたてる。
本当なら復讐をしたいと望んでいることだろう。だが、遠く及ばない実力であるのもわかっているからの表情。
「魔石を奪うだけでも至難の技ですわね」
「そういうことだ。かなり無理難題を押しつけているが、この国で起きたことの二の舞いは避けねばならない」
魔人の魔石を手に持ち、奴隷ときて、テテュラの半魔物化を見れば、最悪が頭を過ることも無理はない。
「だがここまで言っておいて何だが、強制はしない。先程言った通り、これは王命ではなくお願いだ」
「!」
すると陛下がゆっくりと重い腰を上げたような物言いで語る。
「私はその男との接触はないが、聞けば聞くほど危険な人物だと理解できる。とてもじゃないが野放しにできる輩ではない。だが、そんな男を騎士や魔術師団ではなく、君ら学生にやらせるというのは心苦しい。だから王命ではなく、自分自身で決めて欲しい」
ここにいるみんながクルシアに対し、許せないと感情を抱いているせいか、些かズルイとも感じたが、せめてもの配慮なのだろう。
「みんな断った場合は?」
「その場合はなんとかして五星教を説得するなり、西大陸でも話を聞いてくれるところはある。そのあたりを当てにするほかない」
するとカルディナは陛下の近くまで行き、忠誠を誓うように跪く。
「わたくしは勿論その話、お受け致します。わたくしは将来、この国のために尽くすつもりに御座います。陛下の願いを無下にはできません。何より、あの外道を放っておくのは個人的にも容認し難く存じます。その出鼻を挫く命を頂き、感謝致します」
いつも以上に凛々しく、慎ましやかに語った。
するとナタルもカルディナの隣で同じように跪く。
「わたくしも迷いなどありません。そのお話、お受けさせて頂きます。この国の理念はわかっておりますが、それでも貴族という位を与えられた身分として、成すべきをさせて頂きたく存じます。そして、このような機会をお与え下さり、感謝致します」
ナタルについては事情を聞いている陛下は、その申し出に感謝する反面、心配の方が募るようで、
「君の事情は聞いている。魔人の件ではすまなかった」
「いえ、陛下が謝られることではありません。全ては……」
「あの男であろう。だからこそ囚われてはならない。……わかっているのか?」
俺達から見てもナタルはどことなく、落ち着かない様子であの事件以来を過ごしている。
魔法の鍛錬も鬼気迫るような感覚だったのを覚えている。
正直、復讐心に囚われていないと言えば嘘になるだろう。
「陛下の仰りたいことは存じております。正直、憎いです。ですが、それに囚われてはいけないということは先の事件にて理解しているつもりです」
テテュラのことだろう。
テテュラも闇属性を不当に扱う人々に対する、劣等心や復讐心に囚われて行なったことだ。
それを聞いた陛下は、それでも不安そうな表情をしたが、
「……わかった。感謝するぞ」
その言葉を信じることにした。
「私も構わない。でも、報酬は弾んでくれるんだよね?」
「ちょっ!? フェルサ!?」
「勿論だとも」
フェルサは冒険者気質なところがあるからか、あっさりオッケーを出す。
「あ、あの……」
すると周りが二つ返事で答えるものだから、アイシアとリュッカも便乗して答えようとするが、
「二人とも、そんなに焦らなくていい。相手はさっきも説明した通りの格上と思われるクルシアを相手にする話だ。それに西大陸自体もここより治安が悪い。下手をすれば命をも落としうる。お前達は本来学生だ、こちらは元々無理を承知でお願いしている。断ったところでどうということはない」
ハイドラスが割って入り、冷静になるよう促すと、アイシア達も落ち着いた様子を見せる。
「そうだよ。私個人としても二人がそんなところに行くのは不安だよ」
「リリィ……」
「わたくし達は心配なさらないのね」
「するよ。だけど……クルシアが許せないのも放置できないのもわかるから。それに委員長に関しては止めたって行くでしょ?」
「そうね、申し訳ないけど。……あの男は、奪ってはいけないものを奪ったのよ」
その意味深な一言にまた不安は募るが、そんな簡単に解決できる話なら苦労もしないだろう。
「陛下、でしたら僕達を呼んだ理由は何ですか? 僕らが行けないのなら呼び出される理由もないのでは?」
「そうだね」
友人達が危険な任務を与えられることを把握しておいて欲しいというなら、それまで。
だが、そうでもないらしく陛下はさっきよりも落ち着いた物言いで語り始める。
「君ら二人にもお願いがある。テテュラという少女についてだ」
「「!」」
「君らには彼女の状態をより理解するために、北大陸に赴き、調べて欲しいのだ」
「要するに護衛役ですか?」
「というよりはテテュラが一人では心細いだろうからという配慮だ。それにオルヴェールの悪魔が憑依しているのだろう? あまり離れ過ぎるのもな」
つまりはあの事件に関わった者達を当てにしたいといったところだろうか。
「北……ですか」
「ああ。あの国なら魔石に関する技術能力は高い。ヴァートも懸命に調べてくれているが、中々な。だからこちらのヴァートの魔術師団と共にテテュラを元に戻す手掛かりを掴んできて欲しい。完全は無理でも、進展は望めるはずだ。それに……ドクターという男の素性もわかるやもしれん」
人を魔物化、魔石化できる人工魔石を生成できる男だ、北大陸で情報があるかもしれないとのこと。
「お願いってことはこちらも……」
「強制はしないが、西大陸に行くのに比べ、こちらはハードルも低いし、何せ黒炎の魔術師殿に勇者の末裔だ。道中、変な騒ぎにでも巻き込まれない限りは大丈夫だろう」
「その肩書き言うのやめてくれます? 殿下」
「どうします?」
テテュラを元に戻す手段を探すのは賛成だし、ドクターという男の情報もあるかはわからないが、一番情報が出てきそうなのも事実。
二つ返事で受けたいところだが、アイシアとリュッカが先の返事を保留している以上は、さらりと答えたくもなかった。
「とりあえず保留でも大丈夫ですか?」
「危険は少ないとはいえ、大きな話だ。勿論、構わない」
するとフェルサが質問する。
「西大陸に行くはいいんだけど、やっぱり船でいくの?」
「ああ、正規ルートで行かせるつもりだが、より自然に潜入できるよう、協力者を手配している」
「協力者ですか?」
「お前達も知っている劇団だ」
「劇団……」
俺の頭に過る劇団はただ一つ。
「カーチェル劇団に協力してもらう」
やっぱり!
「とはいえ、道中を共に行くだけでクルシアと関わらせる気はない。彼らは西大陸にも慣れているし、任務に集中できるよう配慮するための付き添いだ」
「劇団に紛れ、クルシアの情報に探りを入れたり、五星教に変に勘ぐられたりしないためのカモフラージュ……」
「そういうことだ。向こうの大陸でも彼らのことは知られている。そう無下に扱われることもないだろう」
本人達からのお墨付きだそうだが、ちょっと気になることがあったので、そっと挙手する。
「何だ?」
「あの……ヘレンが私似のはずなんですが……」
「彼女本人もそこは問題にしていない。実際、別人だからな」
相変わらずメンタルというか、割り切りがすごいように感じる。
「それに向こうで反応もないだろうしな」
「反応?」
「ああ。西大陸の町々では、闇属性に対抗する結界魔法や結界石が用意されている」
「それってハーメルトにある魔物避けみたいな?」
「まあ似たようなものだ」
ハーメルトに限らず、この世界の人が住む場所には人工魔石から作られた魔物避けの作用があるものを配置されている。
とはいえ万能ではないため、ラバに魔物達が突っ込もうとしたわけで。
「まあそれに反応しないなら、いくらリリアちゃんに似てても問題ないと……」
「らしい。ちなみに闇属性持ちには作用が起きるようで、魔力の不調や重苦しい気怠さなど複数の作用を与え、動きを封じるそうだ。魔属性にも効くようでな、魔物避けと兼ねているそうだ」
つまり西大陸じゃあ、闇属性は魔物扱いですか。
テテュラが人権を与えられず、実験台にされたというのにも納得がいってしまう。
「だから僕達は行けないんですね」
「でも、情報によればクルシアも闇属性じゃ……」
「……悔しいけど、あの男の実力を考えるとそれすら跳ね除けそうね」
「ああ、どうもそうらしい……」
そのハイドラスの発言に違和感を感じるカルディナだが、話の腰を折らぬよう、今は避けた。
「さて話を戻すが、カーチェル劇団は西大陸も詳しいようだから彼らと協力し、クルシアの目論見を止めて欲しい。……正直、あの男もかかってこいといった態度だったから、行かせなくもないが放置もできん」
次の舞台はとかぬかしていたことを覚えている。かなり挑発的だった。
だからこそ人員から外されることは、怖さの方が強い。明らかな罠があるのではないかと。
あの人は、ああ言っていたが……。
「この話を受けてくれた諸君らには感謝する。決めかねている君達は、改めてよく考えてくれ。……巻き込まないと言っていたのに、情けない話だ……」
「いえ、そんなことは……」
「どうか、よろしく頼む」
陛下はそう言うと軽くお辞儀し、この場を後にした。
「改めて、本当に申し訳ない」
「殿下まで……」
「本来であれば我々が何とかすべき問題であるところを……」
「国と国民の安全を守ることが一番大切だって理解してますから。これ以上、謝らないで下さい」
「……すまない」
「ほら」
「あ……」
少し空気が和らいだところで、ナタルが今後の相談をしたいと掛け合う。
「殿下。劇団との話し合いをしたいのですが……」
「ああ、わかっている。ハーディス」
「は!」
「――ちょっと待って下さいな」
解散の空気が流れ、ナタル達が西大陸へ向かう準備に取り掛かろうとした時、カルディナは違和感を確かめるべく、待ったをかける。
「どうした?」
「我々が西大陸に行く目的はクルシアの目論見の阻止と仰いましたね」
「ああ」
「その口ぶりからまるで何を仕出かすか理解しているように捉えられるのですが……奴隷オークションの会場と明確できたのも何故です?」
「それは上手く当てはまったからでは?」
「連想はできますが、確定情報ではありません。あの男の言うことを何故、真に受けるのです? それに魔人の魔石というなら魔導兵器や奴隷を供物にした儀式魔法の触媒など色んな可能性を追及できるはずです。……あの男の性格を考えれば派手な作戦を好むはず」
カルディナの言わんとしていることがわかってきた。
もっと慎重に事を運ぶよう、情報を処理すべきと提案したいのだろう。
「……すまなかったな。確かにテテュラや奴がポロっと言った一言だけで決めたことではないよ」
「……」
「クルシア自体をよく知りうる人物との接触に成功したことで得た情報も含めて、提案したのだ」
「!? そんな人物がいたのですか?」
「うん。いたよ」
それに答えたのは、俺達だった。
「何を……リリアさん」
「私達は数日前に、その人物に話を聞いてきた。……クルシアの目的は、魔人の魔石の適合者探し。それがわかれば歌鳥の鳥籠からも連想できたって話ですよね? 殿下」
「ああ……」
するとナタルは険しい表情でその人物を尋ねる。
「リリアさん、その人物とは誰です」
ナタルからすれば、仇に通じる人物。
そんな顔をしなくても教えるつもりの俺はその人物の名を口にする。
「――ザーディアスっていう、おっさんだよ」




