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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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46 共鳴詠唱

 

「テテュラ、その姿……」


 俺達一同のは驚きを隠せないでいる。


 人型の姿のまま、悪魔を連想させる(つの)と羽。まだ尻尾が出ていないことがマシであろうか。


 その考えもおかしいとは思うが、明らかに人が持つべき姿ではないのだけは誰でもわかる。


「半魔物化とでも呼べばいいかしら?」


「半……魔物化? まさか、それが原因で……」


「これは私が事件を起こす動機ではないわ」


 すると胸に埋まっている石を見えるように見せた。


「これはドクターが作った人工魔石。魔物の種類、属性の能力を得られるというもの。……まあ、私に与えられたのは、悪魔の魔石。貴女が使役する悪魔ほどの物ではないけれど、肉体強化としては十分な代物よ」


 属性も特に異なることもないから、純粋な肉体強化だけだと補足をつけるが、人知を超える強化だ。生半可なものではないだろう。


「そんな物まで埋めて……」


「そう。私は自分の身を捧げてでも、なし得たいものがあるのよ! さあ、殿下。貴方の首をよこしなさい」


 バッとよこすよう手を出すテテュラだが、そんな要求には勿論、応えられない。


「悪いが君の話を聞いて、尚更死ねなくなったよ。私の首は私の物だ」


「そう……わかったわ」


 両手にナイフを無数、用意する。


「死ねっ!!」


 飛ばすナイフは先程の比ではなかった。


 音は手元で振動していたのか、ヴンと重い音が鳴り、そのナイフも視認できていない。かなりの速度が出ているのだろう。


「――ぐうっ!!」


「オリヴァーン!?」


 テテュラの話の間に毒を抜いていたオリヴァーンが盾となり、庇った。


 着ていた鎧は砕け、そのナイフの威力を物語る。


「オリヴァーン、しっかりしろ!」


「殿下ぁ……わたくしは大丈夫です。後ろに……」


 よろよろとハイドラスとメルティアナの盾になるように、立ちはだかる。


「もはや肉盾となる以外にお役にたつことが難しく……」


「何を言っているのだ! オリヴァーン!」


「邪魔よ、どきなさい!」


「どけんよ。このお方は貴女のような方々を導かれるお方……我が身でお守りできるなら、騎士冥利に尽きるというもの」


 身体と鎧はボロボロ、魔力も吸われ、満身創痍になってもおかしくない状況。


 だが、譲れないものがあるのは自分もだと気迫を見せる。


「テテュラと言ったな、感謝するぞ。殿下はこれでまた、より良き王への器となられるだろう。――来い! 娘! 貴様にも意地があろうが、私にもあるのだ! 殿下のお命欲しくば、私を亡骸にしてみせよ!」


 騎士隊長の意地と格を示すには十分な気迫と度量を見せた。


 それに感化されないわけもなく、二人はそのオリヴァーンの前へ立つ。


「そんなボロボロで何を仰ってるのです? 殿下の側近である僕がお守りしましょう」


「すみません、オリヴァーン隊長。俺、冷静じゃなかったです。テテュラちゃんの心配ばかりで、殿下のことを考えてませんでした」


「あれだけ殿下の意思を尊重すべきだーなんて言ってた貴方が……だから軽薄男だというのです」


「んだと! このヘタレ野菜!!」


「おいおい……」


 いつも通りに戻っている二人を安心する反面、状況が状況であるが故に呆れていると、


「大丈夫です、殿下。お役目は果たします!」


「オリヴァーン隊長もまとめてな!」


 そう意気込む二人も武器をテテュラにしっかり構えたが、さらにその前に俺達が立つ。


「えっ?」


「貴方達は最後の要。私の友達は私が止めるよ」


「そうですわ。まあわたくしは友人と呼べるほど、彼女とは親しくありませんが、殿下の護衛方はお仕事を全うなさいな」


「フェルサ、大丈夫?」


「大丈夫」


 そうは言うがフェルサは限界に近い。今のテテュラに対し、万全でやり合えるのは俺とカルディナくらいだろうか。


 残っている騎士やリュッカ達は難しいだろう。


 ここが正念場、そう思っていると、


「リュッカ?」


 リュッカもカルディナの横に並び、武器を取った。


「リリアちゃん、優しくすることだけが友達じゃないよね?」


「……うん!」


 止めようと考えていた自分が恥ずかしい。


 リュッカも十分過ぎる覚悟の上で武器を抜いたのだと、その一言で理解した。頼もしさすら感じる。


 その覚悟を見たカルディナは嬉しそうに微笑む。


「そうですわね。あの頑固者の鉄面皮でも殴って差し上げなさい」


「え、えっと……はい!」


 ちょっと戸惑ったお返事。


 まあ確かにぶん殴るはちょっとと思うかも。


「前衛は任せますわよ、お三方。後衛は我々が」


「委員長!」


「わたくしだってやらせて下さいな。……それに彼女には聞かなければならないこともあります」


 クルシアのことだろう。本当の仇の話は抑えておきたいのだろう。


「ユーキル、黒炎の魔術師を除く者達は、魔力吸収の影響を未だ受けています。協力し、止めなさい」


「は! 姫」


 するとスタッとカルディナ達と並び立った。


 ファミアの言う通り、増え方は徐々に抑えられつつも、吸収されているのは事実。


 闇属性以外の者達では、ジリ貧でやられることは目に見えること。


「貴女達まで邪魔するのね」


「ごめん、テテュラちゃん。言いたいことはわかるよ。罪のない人が死ぬ世界なんて悲しい……だけど、テテュラちゃんのこの計画も誰かを悲しませてる。その未来にも未来は無いと思う」


「未来は誰にもわからない。もしかしたら、テテュラのこの行動が最終的には正しいこともあるかもしれない。でも、そんな『かも』とか、たらればで人の未来は作れない。だから……私達は今正しいと思う行動を取る。苦しんでいるテテュラを救う」


「苦しんでる……ですって?」


「だってそうでしょ? あれだけ感情的に怒るのは、苦しんでいる証拠だよ」


 テテュラの過去はどうなのかまでは知らないが、あの悲痛な怒りの叫びは苦しんでいるようにしか聞こえなかった。


「人が成長する上で苦しむことも必要だとは思う。だけど、傷つくだけの苦しみは悲しいだけだよ。今のテテュラはそれだ」


「ふざけないでっ!! 私はそんな――」


「今の自分を鏡で見てみなよ。もう見ちゃいられない」


「……っ」


「まあ言っても聞かないだろうから、カルディナの言う通り、殴ってでも止めるよ!」


「そう……わかったわ。なら、貴女達を殺してでも実現させる。いくわ!!」


 バッと右手をかざすと、驚きの展開を見せる。


「――デスサイズ・フィアー!!」


 テテュラから紫色の死神の大鎌が無数出現し、俺達をまとめて刈り取るように斬り裂く。


「――おっ!?」

「――きゃあ!?」


 瞬時に迫る大鎌に、リュッカとユーキルは跳んで回避。カルディナはナタルを、フェルサは俺を抱えて回避した。


「逃がさない」


 その魔法攻撃であるはずの大鎌を手に取り、向かってくる。


 テテュラの大鎌捌きも見事なもので、ナタルを抱えながら交戦するカルディナは苦戦している。


「はっ!」


「やらせない」


 そんな戦い辛そうなカルディナをフォローする形で、スッと斬りかかりながら割り込むユーキル。


「ナタルさん、リリアさんは防御に徹して下さいな。今の魔法は上級魔法……」


「だよね」


 カルディナ、フェルサは俺達を置いてテテュラの元へ向かう。


「テテュラ! お前、上級魔法を無詠唱で使えるのか!?」


「ええ、そうよ! まさか魔物の特性を忘れたの?」


 四人を相手取りながら不敵に笑う。


「そうか、魔物は魔法の詠唱無しで魔法が使え……」


 ここでふと思い立った。もう一人、そんな奴がいたと。


「おい、テテュラ。まさかクルシアも……」


「今更言わなくてもわかるでしょ!」


 これでクルシアとテテュラの繋がりがはっきりした。


 だが、その真実はあまりに脅威である。


 魔物は魔法を無詠唱で発動できる。それを人間ができてしまうのは非常に恐ろしい現実である。


 上級魔法までだとクルシアの時、認識していただけに、あの魔石によって半魔物化することで、魔法に対するデメリットをほぼ無効化できることは大きい。


 詠唱破棄、魔力供給の持続化、術後硬直の緩和、移動しながらの魔法発動など魔法剣士とは格の違う戦いができてしまう。


「かなり分が悪いね……でも!」


「ええ、それでも止めなくては!」


 だがテテュラの力は強大なもので、前衛四人相手でも圧倒する。


「――きゃあっ!!」


「――ファントム・ゲート!!」


 リュッカを横殴りで吹き飛ばすと、姿を煙りのように消す。


「この魔法は……?」


「ステルス魔法の上級種だ。探知は俺達でも厳しい」


 同属性である俺やユーキルでも探知が難しいステルス上級魔法。


 先程までの軽いステルス魔法とは違い、影すらない。


 なので探知するためには、その魔法が持続していることから、微かな魔力の変化を読み取らねばならない。


 俺も詠唱を中断し、辺りを感知魔法で読み取る。


(……いないか)


 するとユーキルは、ハッとなって上を見上げる。


「オルヴェール! 上!」


 あの劇場での印象とはかけ離れたユーキルの叫び声に驚き、思わず後ろへよろけると、


「――うわぁっ!!」

「――きゃあっ!!」


 ズガァンと俺のいた場所にテテュラが降ってきた。そのせいか、俺とナタルが軽くのけぞる。


 どうやら真上にいることで、魔法使いである俺の感知魔法にかからないように、被らせていたようだ。


 すかさず俺とナタルを攻撃しようと、姿を見せたテテュラの手にはナイフ。


「やばっ!」


「させない」


 ユーキルがテテュラのナイフを止め、フェルサが殴りかかる。


「邪魔だっ!!」


 二人を魔物の筋力で力いっぱい凪払うと、カルディナがテテュラの背後へと突貫。


「はっ!」


「くっ……」


 バッと素早く背後から感じるカルディナの気配に振り向くも、姿がない。


(……! 翔歩!)


 フェルサはこれを瞬時にフェイントと気付いた。


 強い殺気を背後から与えることで、隙をつくる作戦だったようだと。


 テテュラは再び気配の感じた方へ向くと、カルディナの剣先に肉体強化された拳がぶつかる。


 ギキキっと鋼が地面を擦るような音が響いた。


「あら? お気付きになるのがお早い」


「ふんっ!」


 皮肉混じりに微笑みながら語るカルディナの剣先に、更に力を込めて殴り飛ばす。


 だが攻撃の手は緩めない。


「やああああっーー!!」


 リュッカは頭から血の流しながらも、果敢にテテュラに斬りかかる。


「ぐっ、貴女達は……」


「テテュラちゃんを止めるって決めたから!!」


「そうだよね、リュッカぁ!! ――エクスプロード!!」

「――ゲイル・ガイスト!!」


 詠唱を終えた俺達の魔法もテテュラに向かうが、


「私は……負けられないんだあ!!」


 半魔物化したことにより得た、膨大な魔力を解き放つように発して、俺達の魔法とリュッカを引き剥がす。


「「「――きゃあーーっ!!」」」


 そんな戦いの行先を見据えるハイドラス達は息を飲みながら、状況を見極める。


「やはり我々はここで大人しくしていた方がいいか……」


「でしょうね。下手にそこの赤龍(レッド・ドラゴン)でここを離れようとすれば、あの翼の生えた彼女の格好の餌でしょうね。ただ……」


 ちらっと心配そうに見守るアイシア見る。


「陽動には使えそうですが……」


「ファミア姫殿下! アイシアちゃんを身代わりにするつもりですか!?」


「しないわよ。したところで、多少の隙を作る程度、彼女の命と天秤にかけませんわ」


 逃げられないこの状況では、例え彼女を囮りにしてもハイドラス達の命の保証は無いのが現状。


「マルキス、不安か?」


「えっ? あ、はい……」


「貴女は何もしないのかしら?」


「おい、ファミア」


「……わからないんです」


 ファミアの問いに関しての最初の一言。


「テテュラちゃんのことを知って、私がしてあげられることが力尽くで止めることなのかなって……」


 その答えに小さく鼻を鳴らすファミアは、少々呆れた表情をした。


「今の彼女を見る限りは、それが一番かもしれないわね」


「……」


「マルキス」


「は、はい」


「お前の言いたいことや思うことはなんとなくわかる。お前にとってテテュラは、かけがえのない友達の一人なのだということ。だから傷つけたくない。勿論、彼女と戦っている彼女達のことも同様だろう」


 そう前置きを置くと、ハイドラスは王族である友人関係の話を始める。


「正直、私はお前達のような人間が羨ましい。そのように心の拠り所を作れる関係を。私の場合はなんとなく想像できるだろうが、中々心許せる友人に巡り逢うことはない。私の場合はどうしても『王族』という名前が出てきてしまう」


 その肩書きがどうしてもハイドラスという個人を見てもらえないものだと、強調する。


「だがそんな私でも信頼における部下に、頼もしくも恐ろしい婚約者(フィアンセ)もいる」


「あらあら」


「そして、そんな肩書きがあったからこそ、アルビオという似た境遇の友人にも恵まれた。友の作り方や関係性などは様々なものだ。楽しいことを共有したり、美味しい物を食べ合ったり、苦楽を共にしたり、喧嘩したり……。お前の場合は一人でいることが多い彼女を放っておけなかったのだろう?」


 アイシアは、こくりと頷いた。


 ミステリアスで少し物理的にも距離を取るテテュラ。好奇心もあったけど、アイシアが連想したのはリュッカとの出逢い。


 リュッカのように困っている様子ではなかったが、それでも不思議とテテュラは一人では居たくないのではと、直感で感じ取っていた。


 そして自分自身、もし一人だったらと考えると、純粋に嫌だと感じた。


 兄妹が多く、村の人達からも声をかけられ、友人にも恵まれ、人との繋がりに恵まれたアイシアだからこそ、一緒にいることが温かい気持ちになれることだと、確信があった。


 より強く感じたいとクセのように抱きつくのも、その影響から。


 だから困惑したのだ。自分の知らない感情に……。


「お前が優しい女だということはわかっている。オルヴェールやナチュタルのような考えて行動を起こすタイプではない、自分の信じる道をしっかり歩める女だとわかっている。だから、お前の答えは間違ってはいない」


 説得して止めたいということをハイドラスは肯定したが、


「だから彼女達は戦うのだ」


「え?」


 今尚、テテュラと激しい戦闘を繰り広げる俺達を見て、ハイドラスは改めてアイシアの答えをその心に問う。


「分かり合う時間を作るために、彼女達は武力を持って止めようとしている。人の心とは難解なものだ、簡単には解り合えない。そうだろ?」


「はい」


「彼女達だってマルキスと同じ気持ちだ。出来るなら傷つけたくない。だが、本当に分かり合うためには必要なことなのだと割り切っているのだ。……ナチュタルは何と言っていた?」


「…… 優しくすることだけが友達じゃない」


 リュッカを救出した際、リリアが言った一言。あの時の言葉を思い出す。


『楽しいこと、辛いこと、悲しいこと、苦しいこと……色んなことがある中で、笑ったり、泣いたり、怒ったりしてさ、自然とぶつかり合えるのが友達だって思うんだよ』


「そうだ。……たまにはいいと思うぞ、喧嘩もな。思いっきり自分の思いをぶつけて、わからせてやるって……たまにならな」


 普通に気兼ねなく話せる友人くらいなら、少し歩み寄ればいいかもしれない。


 だけど、その人にはその人の人生があり、その人生の一部になるというのは、勇気と覚悟が必要になるのだと考える。


 大袈裟に考えているかもしれないが、テテュラの場合がいい例だ。友人と接していたはずだが、本質的な部分の支えにはなれていなかったということ。


 ただ一緒にいて楽しいや嬉しいだけでもいい。友人関係というのは、そんなに重たいものでなくていい。


 だけど、自分の中で大きくなっていく友人を想うこと、それだけ大切にしたいと望むことには勇気が必要だ。


 テテュラの過去については、そのあたりシビアだと考えるわけで、力になれるのか、今みたいに拒否されるのか、正直、踏み込むには気が引ける部分。


 だけど本気で止めたい、傷つくことも傷つけることも逃げ出してはいけないのだと、懸命に戦う友人達を見て感じた。


「お前の優しさや人懐っこさは美徳だ。その優しさを忘れずに寄り添えるならば、自ずと答えも見えてくるだろう」


「……ありがとう、殿下。私、馬鹿だったよ」


「いや、お前の答えも間違ってはいないさ。気持ちを届けるためには、彼女達の答えも必要だっただけだ。――さあ、行ってこい!」


 気持ちに整理がついたアイシアをハイドラスは背中を押す。


 マジックポーションをグッと飲み干すと、渾身の詠唱を唱える。


「――火の精霊よ、我が声に耳を傾けよ。燦然(さんぜん)と輝く黄金の星よ、我が道を照らす道標を前に! 勇気の象徴となりて輝き、焼き尽くせ!」


 夜にも関わらず、残光が広場を照らし出す。


 それに対し、戦闘に夢中になっていた一同は、ハッとなり振り向いた。


「アイシア!?」


「――燃ゆる光よ! ――サンライト・レイ!!」


 ルイスの使ったアトミック・レイとは違い、太陽の光のようなオレンジ色の光線が展望広場に降り注ぐ。


「ちょっと!? アイシア――」


 突如、展望広場全域に落とされる光線に意図が読めないと、ナタルは問いただそうとするが、俺はそのナタルの腕をガシッと掴んで、引き寄せる。


「委員長、すぐに風の防壁魔法を全員に……」


「狙いがわかって――」


「いいから早く! ――フェルサ! カルディナさん!」


 狙いがあるのだと察すると、二人はテテュラに向かって駆け出す。


「貴女はもう休んでも良いのですよ」


「言ってろ! 女狐!」


「――闇の王よ、我が呼びかけに応えよ。真実を見極める心眼を宿せ。暴かれたるはかの世界への導き。示せ! ――リアクション・アンサー!」


 俺は前衛全員にシドニエが使っていた付与魔法を施す。正直、突貫している二人がメインだが、この二人も飛び出しそうなので念のため。


 すると予想通り、リュッカはこちらを振り向き、軽く頭を下げると、二人は降り注ぐ光線の中を進む。


「――エアリアル・ウィンド! それで? アイシアさんの狙いは?」


「ないよ」


「は?」


「多分、この魔法は止めたいって意思表示。見てよ」


 そう指差す方向には、身動きが取れなさそうにしているテテュラの姿があった。そこに……、


「はあっ!! ……そろそろ終わりにしませんか?」


「ええ。私としてもねぇっ!!」


 カルディナ達も割り込むと、完全に防戦一方になるテテュラ。


「動きが……」


「アイシアのことだ、多分、当てないように加減してる。ランダム性があるから、多少の流れ弾はあるだろうけど、それが逆にテテュラの動きを封じる役割を果たしている」


「な、なるほど。それにあれだけの光を放つ光線だと、身を消すことも難しい」


「そこは強引に魔力を使った魔法で払拭されそうだけど、それをさせると思う?」


「だからシドニエさんの時の付与魔法と私の風魔法の付与をつけた」


「そういうこと。さて、私の役割も果たすよ!」


 前衛が畳み掛けているのだ、こちらもテテュラを止める一撃をと意気込んでいると、アイシアがこちらへ走ってきた。


「リリィ! ごめん、私も止めるよ! だから……」


「待ってたよ、アイシア。あの分からず屋にキツイ一撃をお見舞いしてやろう!」


 アイシアがこの最中に落ち込んでいた時、かけるべき言葉はあっただろう。


 だけど、その中にアイシアのように訴えかけるだけという選択はなかった以上、かけるべき言葉はなかった。


 だからと言って、テテュラを大切に思うアイシアに、戦うことで止めようとも言えなかった。


 アイシアは俺達の中で一番優しい女の子だ。自分勝手かもしれないが、そのままでいて欲しいと考えていたのかもしれない。


 でもそれでも信じていた身勝手な自分もいた。


 きっと自分なりの答えを見つけて、駆けつけてくれることを。


「リリィ、アレやろう」


「はは……いいよ。委員長、悪いけどちょっと離れて……」


 ナタルは俺達から少し距離を取る。


 俺達は少し身を寄せ、アイシアは龍の牙の杖を、俺も杖を構える。


「……いくよ!」


「「火の精霊よ、我らが呼びかけに応えよ!」」


 俺とアイシアは同時に詠唱を始めた。


 その光景にナタルと遠巻きに見ていたハイドラス達も驚く。


共鳴詠唱(シンフォニック)だと……!」


 ――共鳴詠唱(シンフォニック)とは名の通り、二人の魔法使いが共鳴するように詠唱するものだが、同時にというわけではなく、ルールが存在する。


「――真炎に染まる誠の心……」


「――示したるは信念の証……」


 一つは、始まりは同時に詠唱を始める。周りの魔力を高めるためにも二人で行うものだと認知するため。


 二つ目は、交互に詠唱を発すること。キャッチボールでもするかのように、二人の意思疎通を促し、飛躍的な術の質の向上を行う。


 三つ目は、その詠唱の際に発生する魔力のコントロール維持。一人で行う詠唱とは違い、魔力の集約地点や人によって魔力の流れの速さや濃度が違うため、それの調律を行う。


「――業火に染まる悲しき導べに……」


「――我が勇気を持って、語り聞かそう!」


 以前、ヴァートがプラント・ウッドに対し、石壁を出現させた魔法は、同じ魔法を重ねることで効果を重複させる重複詠唱(デュープリケーション)という。


 近場にいる魔法使いが同じ魔法を同じタイミングで行うことで発動可能。しかも多少のズレならば修正可能な点も簡単な要因である。


 終わり良ければ全て良し、と言ったところ。


「――歌い、踊りて舞い上がれ!」


「――我が情熱、魂を持って応えよう!」


 だがこの共鳴詠唱(シンフォニック)は、二人の意思疎通が必須であり、詠唱の言葉のタイミングは勿論、二人を行き交う魔力のコントロールを二人で綺麗に合わせなければいけない。


 以前、故郷での魔法特訓の際にリリアの魔術書の中に見つけた高等詠唱術。


 試してみたは良かったものの、非常に難しく、一向に発動する気配すらなかった。


 成功すれば最上級魔法にも劣らない魔法が発現する。


 ちなみに共鳴詠唱(シンフォニック)と呼ばれる要因は、歌うように詠唱を行うことから由来している。


 その詠唱を耳にした前衛陣も畳み掛ける。


「いきますわよ!」


「お前が仕切るな! 女狐!」


 なんだかんだ言いながらも、しっかりとした連携を取る二人。


 そして――、


「テテュラちゃん……終わりにしよう!」


「リュッカ……貴女だけでなく、アイシアまで……」


 リュッカもついてきているようで、伊達に元冒険者のリンナの指導は受けていない。


「大切なルームメイト……友達だから、止めます!」


 本当なら一番最初に相談に乗れる立場であったリュッカ。


 同室で、指摘される前は夜な夜な出て行くのも知っていた。


 もしもその時、話を聞いてあげられていたらと考えると、後悔の念しか出てこない。


 こんなに苦しく、切ないぶつかり合いになってしまったことを。


「ふっ!」


 リュッカは大きく踏み込んで斬り込むと、テテュラはヒュッと後ろに後退するが、


「はあっ!!」


 その勢いのまま、回転して斬り込むと、強化されているテテュラの身体を斜めに斬り裂く。


「――ぐうっ!?」


「リュッカっ!!」


 何かに焦ったようにフェルサは叫ぶと、


「――きゃああっ!?」


 リュッカの襟首(えりくび)を引っ張り、強引に後退。


「フェルサちゃん……!」


 尋ねようとした時、何故後退したのか、詠唱のラストあたりに入ったことである。


「「――燃えよ! 美しき旋律の業火、その叫びを聞けぇ!」」


 四つ目は、魔力が二人の間で共鳴できた時、同時に詠唱し、魔法を唱える。


 だが、もうこの時点では条件とは呼べないほどのシンクロ率となっている頃合いだろう。


 俺は、繋がった魔力の流れの中で、アイシアの心を感じた。


 先程までの苦しんだ心だろうか、もやもやした感覚も残ってはいるが、強い芯のようなものがそれを通さないように(さえぎ)っている。


 俺に余計なものを混ぜないよう、配慮しているかのよう。


 そんな中で俺が出来たことは、魔力吸収の影響を受けているアイシアの補填とコントロール。


 そして、何より一緒に止めようという意志。


 その二人の共通意識がこの魔力吸収を受けている中で、魔力が増幅している。


 それを今、解き放つ。


「「――届けぇ!! シンフォニック・ブレイズっ!!」」


 リュッカの傷を受け、よろめいているテテュラの周りに円形の炎が無数に出現し、囲んでいく。


「くっ!」


 脱出を試みようと走り出そうとしたが、円形の炎は一気にテテュラを包み、ドーム状へと姿を変える。


「――がぁあああーーっ!!」


 中では燃えたぎる業火の轟音が拍手喝采のようにテテュラを囲む。


 そして一瞬、収縮すると――ドカァーーンと爆発音が響き、展望広場一帯に爆風が激しく吹き荒れ、その爆発地点からは煙が立ち昇っていた。


 空へと昇る、終焉の狼煙(のろし)が。

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