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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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41 首の皮一枚繋がった

 

 自分が(した)っている方のその言葉に耳を疑った。


 その言葉の意味は理解できるが、信じたくないと声を震わせながら、今一度問う。


「今、何と……?」


「時間がないのはわかっているだろう。さっさと切って取り引きに応じろ」


「そんな……」


「それが貴方の答えなのね……」


「ああ、すまない。ファミア」


 こちらを向いて顔は見せなかったが、覚悟が決まった背中は、はっきりと映っていた。


 だがハーディスは納得いくわけがなく、取り乱しながら、考えを改めるよう説得する。


「殿下! 姫殿下様が大切なのは理解しております。しかし、御身も大切なものであるとご理解されているでしょう!? この国には殿下のような方こそが必要とされているのです。どうか、どうかお二人の命を――」


「ふざけたことをぬかすなっ!! ハーディスっ!!」


 周りの者がシンと静まり返るほどの怒号を浴びせると、ハイドラスはハーディスの胸ぐらを掴む。


「この国に必要だと? あんなに苦しんでいる妹一人救えぬ私が次期国王であるなど、よく言えたものだっ!!」


「で、殿下……」


 バッと乱暴に突き放すと、再び視線をテテュラの方へ向ける。


「この状況でどうしろというのだ。メルティはもうもたん! さっさと切れ!」


 テテュラの用意した状況は打破の難しいものであった。


 時間さえあれば何とかなるだろうが、テテュラはその隙も許さなかった。


 それに妹にあんなことを言わせてしまったのだ。何もできない自分が情けなくてしょうがなかった。


 負けてしまったのだとハイドラスの背中が寂しく語っていた。


 だが、それを理解しても出来るはずもなかったハーディスは、その場で崩れて四つん這いになり、涙を流す。


「無理です……殿下ぁ……」


「ハーディスっ!!」


「できません、殿下!! 僕が、僕が貴方様の首を切れなど……」


 冷静では居られず、弱気になっていく。いつもの優秀なハーディスは完全に消え失せていた。


 ハーディスにとってハイドラスは特別な存在。


 劇的な出逢い、出来事というものは特になかったが、仕えているうちに誇らしく思えた。


 優しく、思慮深く、責任感も強く、ユーモアもあり、人当たりも良く、人脈もある。


 確信を持って彼は答えられる……自分がお仕えするこの方こそハーメルトを、この世界すら変えられるほどの人物であると。


 だからこそ、いくらそのハイドラスの願い、命令であっても、命を奪うことなどできるわけもない。


 信頼を寄せてもらっているからこそ、頼まれたのだと理解できていてもやはり……、


「できません……」


「くっ……!」


 ハーディスはその体勢のまま俯き、できないと嘆くだけだった。


 テテュラは首からを切り落とすよう、指示している以上、自分からは難しい。


 もうメルティアナの意識もこちらから見てもわかるほどに(うつろ)いている。


 こくこくとメルティアナの命の危機が迫り来るなか、沈んだ、怒り混じりの一言が耳に入った。


「……だったら、どいてろ腰抜け」


 ハーディスが顔を上げて、そのセリフを吐き捨てた男の横顔見た。


 覚悟を決めた真剣な眼差しでハイドラスを見ていた。


「ウィルク……」


「殿下の命令だろうが。しっかり応えてやるのが臣下ってもんだろ?」


「その仕える方の命を奪っては元も子も……」


「殿下の覚悟を受け止めるのは臣下の務めだ」


「!」


 その一言と今までにないウィルクの鬼気迫る雰囲気に、気圧されてしまう。


 怯んだハーディスを置き去りに、ハイドラスに近付きながらウィルクは腰に挿した剣を抜く。


「殿下、俺でも大丈夫ですか?」


「勿論だ、ウィルク。頼めるか?」


 するとウィルクはふるふると呆れたような首の振り方をする。


「大丈夫ですよ。忘れました? 俺は女の子の味方なんです……姫殿下のお命を奪われたくないんで……」


 その言い分にはハイドラスも思うところがあったようで、皮肉を交えて返答した。


「まったく……優秀な部下で助かったよ」


 そう言うと、正面に向き直し、


「では一思いに頼むぞ。痛いのは嫌いでな」


「それはもう。ただ、一つお願いがあるんですけど……」


「もう時間がないのは――」


 もはや妹を助けることだけしか頭にないハイドラスが焦った口調で急かす。


 ウィルクはわかってますよと、軽い口調で返すも、彼なりのケジメも口にした。


「約束さえしてくださればいいので……」


「ならさっさと言え! なんだ?」


「俺も後から追うんで、ちょっと待っててもらっていいですか?」


 その言葉にみんな驚くも、ハイドラスはこんな状況のなかで楽しそうな笑みを浮かべた。


「意外だな。心中するなら相手は女だと思っていたよ」


「……まあ、ケジメってやつです」


 自分が守らなくてはいけない人に、こんな決断を強いてしまった自分へのケジメ。


 ウィルクは汚れ役を買って出るだけでなく、命で償おうと言うのだ。


 その意図を理解したハイドラスは、その覚悟に応えるように彼らの主らしく振る舞う。


「わかった。あの世でもこき使ってやる。だが、メルティの無事が確認できるまでは来るなよ。それくらいなら待ってやる」


「ありがとうございます、殿下」


 ウィルクの剣がハイドラスの肩の上に乗る。狙いを定めるための確認。


 薄れゆく意識のメルティアナでも、ハイドラスの命の危機が迫るのだとわかった。


 自分の望まぬ形がその瞳に映っている。


(おにぃ……さまぁ……)


 それを見ていられないのは、この崩れている男もそうだ。


 ハーディスは長い付き合いであり、普段とはまったく違う雰囲気からもわかる。


 ウィルクは本気で斬るつもりだと。


「ダメだ……やめろ! やめてくれっ!!」


 (すが)るように震える声で訴えながら、必死に迫ると、


「……ユーキル、ハーディスを止めなさい」


「は!」


 ユーキルはハーディスを地面に叩きつけ、抵抗できないよう体重をかけて取り押さえた。


 バタバタと暴れながら、そんな命令をするファミアに真意を問う。


「何故です!? 何故ですか!? 貴女がこんな……間違っていますよ!!」


 そんなハーディスの叫びも彼女の耳には入ってこない。


 ファミアにできることは、彼の決断を見守り、その結末を見届けること。


 何もできないからこそ、せめてその覚悟は受け止めようと考えたのだ。


「じゃあ殿下いきますよ。ご覚悟ください」


「ああ、来い」


 ウィルクは片手剣を振りかぶった。


 もう見ていられないと堪らず叫び出す。


「やめてくれぇっ!! ウィルク!! 殿下あぁああーっ!!」


 その光景を見ていたテテュラは、ハイドラスの首が跳ねるまで警戒を怠らなかった。


 それでも振りかぶり、振り落とされるその瞬間――、


「――!!?」


「フェルサさん!」


「ん、わかって――」


 いきなり目の前からフェルサとアルビオが現れたのだ。


「「「「!?」」」」


「――うおっ!?」


 予想外の助けの登場に、勢いをつけていた剣をなんとか文字通り、首の皮一枚で止めたウィルク。


 一方のテテュラは咄嗟(とっさ)のことで対応が間に合わないどころか、ほんの少し体勢が崩れた隙をフェルサに突かれた。


「――る!」


 バッとメルティアナを引き剥がすと、蹴って突き飛ばし、ダメ押しに、


「フィン! 吹き飛ばして!」


「はっ! 吹っ飛びな!」


 その蹴りの勢いのままに展望広場のモニュメントの石柱に激突した。


 人質を解放できたと喜ぼうとした時、危機迫る覇気のある叫びをハイドラスは上げた。


「――アルビオっ!! その小瓶を落とすなっ!!」


「へぇっ!?」


 落とすなと言われたので、反射的に上を見ると宙に浮遊し、落ちようとする小瓶があった。


「フィン! あの小瓶を捕まえて!!」


「お、おう!」


 風を操り、なんとか掴むが急かす声は続く。


「その薬を早くメルティに飲ませろ! 急げ!」


 薬の中身など確認する余裕などなかった。もうメルティアナは限界を迎えようとしている。


 それは今来たばかりの二人にも理解できる様子だった。


「えっ! えっと、えっと……」


 だが、その焦燥(しょうそう)感が(ただよ)う空気に押され、上手く考えがまとまらないアルビオは、薬を片手にあわあわしていると、


「貸して」


 フェルサはパシッと横殴りにぶん捕ると、自力では薬も飲めない状況だろうと判断したのか、小瓶の中身を口に含んだ。


 思わず一同は驚くが、さらに驚く光景が広がる。


 フェルサはメルティアナの上体を上げ、薬が食道を通れるよう、(あご)を上げた後に口移しをしたのだ。


 その解毒薬と思われる液体はしっかりとメルティアナの身体に入ったようで、喉がこくんと通った。


 すると苦しそうにしていたメルティアナの顔色が、少しずつ良くなっていく。


「はあ〜〜っ!!」


 一同、力が抜けたかのように安堵する。


 ウィルクとハイドラスに関しては、肝を冷やした状況故か、思わず膝をついた。


「大丈夫ですか、殿下」


「よく来てくれた。お陰で首は繋がっているよ」


「同じく……」


 本当に助かったと張り詰めた糸が解けたようになるも、メルティアナの容体も心配だ。


「メルティは?」


「大丈夫だと思う。呼吸が落ち着いてきた」


 そう言いながらフェルサは、メルティアナを地面にゆっくりと寝かせた。


 先程のような状態でないことから、一同安心する。


「だが本当によく来てくれた。しかし、急に出てきたなお前達。どこから来たんだ?」


 その質問に二人は顔を見合わすと、フェルサは真顔で、アルビオは眉を曲げて空を指差す。


「空から」

「空からですかね?」


 ***


「あああっ、あ、あぐぅ……」


 少し(さかのぼ)って、トーチゴーストが出現した当初、こちらでも異常事態が起きていた。


 一緒にイルミネーションを観ようと集まった中のルイスが苦しみだしたのだ。


「ルイスちゃん!? 大丈夫?」


「わか……りません。急に……力がぁ……」


 すぐ様、サニラは感知魔法で彼女を調べる。


「魔力が吸われてる? しかも、勇者さん以外の全員!?」


 サニラは辺りを見渡しながら、そう語った。


「なんでアルビオさんだけ……」


「わっかんないわよ。とにかく、彼女、このままだと危ないわ。どこかで安静にさせつつ、魔力の補給を。あと――」


 ちらっとナルシア達にも視線を送る。


「あの子達も危険かも。せめて建物の中に避難させるべきね」


「わ、わかったがどこに行けばいい? なんだかトーチゴーストが増えているように見えるが……」


 アイシア父は我が子の側につきながら、意見を(あお)ぐ。


「あんたの娘のドラゴンで、学園の寮なんてどう?」


 リュッカに同意を求めるよう振り向く。


「うん。大丈夫だと思うよ」


「では今から学園寮にルイスさんと一緒に――」


「アルビオ」


 避難を呼びかけようとしたアルビオの意見が止まった。


 どうしたと皆の注目を集めるが、アルビオはザドゥの意見に耳を傾ける。


「召喚陣、大量生産、召喚供物、魔力吸収、騎士対応、困難必至」


「そんな……」


「なに? どうしたの?」


「それが、僕の闇の精霊が事件を調べてくれたんだけど、魔力の吸われている原因が、このゴースト達みたいなんです」


「本当ですの?」


「はい。間違いないかと……」


 精霊は魔力の流れに敏感であり、展開されている術式も解析できることから、情報の信用度は高い。


 ザドゥの場合は多少の翻訳は必要になるが。


「でも闇精霊ってことは、このゴーストからもわかる通り、犯人は……」


「おそらく闇の魔術師かもしくは……」


「魔人……?」


 マンドラゴラの事件が(よぎ)った一同は、表情が曇る。


 だがここで考えていてもしょうがないと、サニラは空気を一掃する。


「とりあえず避難優先! アイシア、あんたはルイスとあんたの家族を連れて、学園寮に避難させなさい。リュッカ達は後よ」


 ポチに乗れる上限は決まっているため、アイシアを含めると状態異常者と子供、その保護者でギリギリだろう。


「バーク、私達はジードさん達と合流。いいわね」


「おう!」


「サニラ、私も」


「フェルサはみんなを守ってあげて。実戦経験じゃ、私達より上でしょ?」


 ちらりとアイシアの弟達を見ると、その判断に納得し頷いた。


「それはいいですが、我々にも何か……」


「お友達があんな状態よ。側にいてあげることがやるべきことよ。それに、これは多分、魔人の仕業じゃないわ」


「え?」


「よく考えてもみなさい。建国祭の最終日、狙いすましたかのような召喚テロ。こんな芸当、血が昇りやすい魔人にできるとは思えないわ」


「そうですね。だとすれば……」


「大規模な犯罪組織が動いてると考える方が自然だわ」


 色んな国の要人が来ていることから、その可能性の方がしっくりくると説明した。


「だったら尚更、君達みたいな子には……」


「冒険者舐めないで。これでもそういうのを相手したこともあるの」


「だな。死ぬかと思ったが……今回はもう少しマシだと嬉しいけど……」


 実戦経験があるようで、アイシア父の心配をあっさり断ち切った。


「貴方達は我が子の無事だけ考えなさい。その子達、絶対離しちゃダメよ」


 このピリついた空気に、幼いフェノンとナルシアは父と母にキュッとしがみつく。


 その父と母もいつものおっとりした雰囲気はなく、守らなければと真剣な表情に変わると、その不安げな子供達の目線に合わせて(さと)す。


「大丈夫だ。パパとママがしっかり守ってやるぞ」


「う、うん……」


 その一番上のアイシアは、デュノンに話しかけていた。


「デュノン、ナルシアとフェノンをお願いね。お姉ちゃんは往復しなきゃだし……」


「わかってるよ、姉さん。任せて」


 じゃあ任せたとバークとサニラは、トーチゴーストでいっぱいになっている道を押し除けながら、去っていった。


「よし、みんな乗って!」


 ポチに先ずは上手く身体を動かさないルイスから乗せる。


「それにしても、ポチを出しっぱなしにしておいてよかったですわね」


「どういうことです? ナタルさん」


「これだけの召喚テロです。干渉が行われ、避難が出来なかったかもしれません。現にわたくしの召喚魔は召喚できませんでした」


「そうなの? ナッちゃん」


「……ですから、貴女はポチを絶対引っ込めてはダメですわよ! 避難にせよ、調査にせよ、空中を飛べるというのは大きなアドバンテージになるのですから」


 そうこう話ながら、第一避難の人達を乗せると、アイシアの舵の元、学園寮まで飛び立った。


 残されたリュッカ、ナタル、フェルサは詳しい状況が出てこないのか、アルビオに尋ねると、情報収集していたザドゥから新規情報を得る。


 その情報は最悪の情報だった。


「――えっ!? 殿下が事件の首謀者と接触している!?」


「今正にそんな状況だって……」


 ザドゥは召喚陣から術者の気配を特定。その魔力の所持者が今、ハイドラスの目の前にいると言ってきたのだ。


「マズイわね。首謀者の狙いは殿下……」


「そんな。殿下のお命が……何とかして誰かに伝えた方が……」


「そんな方法を探すより向かった方がいい」


 フェルサはダッと駆け出す。


「待ってフェルサちゃん! 行くって?」


「殿下の匂いなら知ってる。探し出す」


 そんな猪突猛進な考えのフェルサの意見にアルビオは乗っかる。


「待って、場所ならわかってる。勇者展望広場だ。僕も行くよ」


 そんな唐突的な判断にナタルは待ったをかける。


「待ちなさい! サニラさんも言っていたでしょ? 相手はどれだけ危険な集団か、わかったものではないのですよ」


「わかっています! だけど、殿下は僕にとって大切な恩人であり、友人なんです。助けにいかないと」


「大丈夫。私達が強いのは知ってるでしょ?」


「そうだけど……」


「ごめんなさいリュッカさん、ナタルさん。お二人はアイシアさんが戻り次第、すぐに避難を。出来れば先生を伝手(つて)に騎士団に連絡を……」


 それだけ言い残すと聞く耳を持たず、フェルサとアルビオは屋根から展望広場へと跳んで向かった。


 その道すがら、ザドゥから仕入れた更なる情報から人質をとっていることを確認。


「だとすると、人質のせいで殿下達は身動きが取れない」


「だと思う。だから極力気付かれないように人質と犯人を引き剥がしましょう」


 とは言うものの、状況がいつ変わるかわからない以上、もたついた作戦を取るわけにもいかない。


 迅速かつ確実な方法が求められる。


 するとフェルサがさらに突拍子もないことを言い出す。


「真上から行こう」


「ま、真上?」


「犯人に向かって降り立つ……みたいな?」


 確かに展望広場は三百六十度開けているため、視界は良好。気付かずに近付くのは困難。


 トーチゴーストを払いのければ、居場所もバレる。


 だからその作戦は妙案とも言える。


「でも、どうやって?」


「貴方は精霊使い、でしょ?」


 そう言われるとピンと来たアルビオは、展望広場に向かうために顕現(けんげん)させていたフィンに指示を送る。


「フィン! あの展望広場の頭上まで、僕らを連れて飛んでくれ」


「わかった! いくぞっ!」


 ギュンと高く飛ぶと、肌に冷たさが刺さる。


「このくらいでいいか?」


 雲を突き抜ける一歩手前付近まで上昇。これなら気付かれることはない。


「じゃあいくよ! フィン、お願い」


「あいよ!」


 すると今度は展望広場目掛けて急降下。


 狙いは近付くにつれて調整すればいいと判断。


 そして現在に至る――。


「――随分と無茶なことをさせてしまったな」


 その空中作戦だけを説明すると、呆れた様子で感謝された。


「いえ、ご無事で何よりです。それよりも犯人ですが……」


 急降下した手前、犯人の顔はしっかり見られなかったアルビオ。


 警戒した体制を取り、石柱に激突して軽い砂煙を起こして映る、シルエットを見た。


 体格から女性であることはわかるのだが、どこかで見たことがあるようなシルエットに、違和感を感じていると、


「テテュラ」


「え?」


 思いがけない名前を口にされた。


「この匂い、テテュラだよ」


「そ、そんな……」


 砂煙を払うようにヒュンとナイフが(くう)を裂くと、フェルサの言う通り、テテュラの姿が出てきた。


「そんな、テテュラさん!?」


 信じられないとハイドラスにも視線を送ると、無言で頷かれた。


「どういうつもりか、聞いてもいい?」


「どうもなにも、私は殿下の命を奪いに来た者としか説明できないわ」


 テテュラはあっさりと自供。


 それに対して、アルビオはショックを隠せない。


「何故ですか? リュッカさん達と仲良くしていた貴女が何故?」


「それはこの娘を捕らえた後にでも。アルビオ殿」


 駆けつけて戻ってきたオリヴァーンがアルビオの前に出る。


「オリヴァーンさん!?」


「オリヴァーン、早かったな」


「殿下の御身が心配でしたので……間に合い――姫殿下!?」


 どうしてここにいるのかと、驚愕するオリヴァーン。


「一体何が?」


「説明は後だ。彼女の狙いは私とメルティの首だ」


 必要最低限のことだけ言うから察しろと話したが、そこはテテュラが説明した。


「王城にいたところを拝借させてもらったのよ」


「馬鹿な! 我々の警備をかい潜るなど……」


「おそらく容易だったと思うわよ。何せ、闇属性のステルス特化だもの」


「なっ!?」


 オリヴァーンについてきた騎士達は騒つくが、騎士隊長である彼は喝を入れる。


狼狽(うろた)えるな! 姫殿下を(かどわ)かされた汚名、ここで注ぐぞ!」


「はっ!!」


 すると、テテュラを囲むように騎士達は槍を構える。


「いかにステルス能力が高いとはいえ、多勢に無勢だろう。下手に抵抗しなければ、手荒にはしない……大人しく投降せよ!」


 囲む騎士達も引き締まる思いで、テテュラを見張る。


「テテュラ、悪いことは言わない。どうか投降してくれ」


「命を失くしかけたというのに、随分と甘いわね。ユーキル」


 ユーキルは察して獲物である黒刀を構えるが、オリヴァーンが手を差し出して止める。


「ファミア姫殿下。貴女方のお手を(わずら)わせません」


「あら? 大丈夫なの?」


「お任せを……」


「テテュラちゃん! オリヴァーンさんは本気だ! 頼むから投降してくれ!」


「テテュラさん!」


 心配するアルビオ達とは裏腹に、テテュラはニッとほくそ笑んだ。


 その口元を見逃すことはなかったオリヴァーンも穏便に済ませたいのも現状。


「テテュラと言ったか……抵抗するつもりか」


 無駄な抵抗はよせと促すも、テテュラは腰にある小さなポシェットのような鞄から、ナイフを複数取り出す。


「テテュラ!」


「……かかれっ!!」


 武器を手に持ち、抵抗の意思表示には十分だろうと、オリヴァーンは取り押さえるよう指示を送った。


 二、三人ほどの連携で取り押さえようと、果敢に攻める騎士。


「はあっ!」


 一凪(ひとなぎ)払うとテテュラは軽々と跳んで回避すると、持っていたナイフをその騎士の眼球目掛けて放つ。


「――があぁっ!?」


 見事に両眼を貫く。


 二人の騎士も取り押さえるよう、武器を振るうが、その騎士からナイフを抜き取ると盾にするように蹴飛ばした。


「なに!? ――がっ!」


 その騎士の身体でテテュラを見失った騎士は、そのまま首を切られる。


「ぐうっ!? ぶふっ!!」


 血を吐きながらその首は宙を舞った。


「こ、この……」


 最後の騎士も怯みながらも攻撃するが、姿を捉えていた場所に彼女の姿はなかった。


「な……どこへ?」


 ドシュっと、肉を貫く鈍い音が聞こえた。


「え?」


 その姿が消えた少女は既に懐におり、お腹には痛みが走っていた。


 刺し箇所は見えないが、痛みと血のどろりとした感触がお腹に感じる騎士は、抵抗するように殴りかかろうとするも、


「がっ!? ――は……」


 どうやら毒が仕込まれていたらしく、白目を向いて倒れた。


 テテュラは仕留めたと、冷ややかな視線で軽くナイフをヒュンヒュンと回し、


「……」


 その視線を残りの騎士へと向けた。


「ひっ……」


「お前達、下がれ! お前達が相手できる者ではない!」


 オリヴァーンはすぐにマズイと判断した。


 襲い掛かった騎士が倒されるまで、数秒の出来事。的確な暗殺捌きに考えが甘かったことを痛感する。


「……彼女、あれだけの実力者だったの?」


「いや、学園での彼女はそこそこといったところだ。あんなに身軽な動きをするのは初めて見る」


「でしょうね。……オリヴァーン、これでも助けは不要かしら?」


「……わたくしの見解が甘くございました。恥を忍んでお願い申し上げます」


「ユーキル」


「は」


 すると、フェルサとアルビオも前に出る。


「貴方達……?」


「すみません。彼女、僕にも止めさせて頂けませんか?」


「アイツ、アサシンなら動ける私がいた方がいい」


「アルビオ……」


「殿下、テテュラさんは僕達が止めます。ハーディスさんとウィルクさんは殿下達をお守り下さい」


 するとしばらく無言だったテテュラが口を開いた。


「何人でも構わないわ」


 口にした言葉は挑発だった。


 余程、実力に自信があるのだろうかと、ファミアとフェルサは憎たらしそうに睨む。


 それに対し、相変わらずウィルクは甘い考えのようで、まだ説得しようとする。


「テテュラちゃん! もうやめよう。話し合えばきっと……」


「おやめなさい、見苦しい。彼女を見ればわかるでしょ? 和解する気は毛頭ないわ」


 騎士達を殺した血が(したた)る刃、冷ややかな視線に、臨戦体制を取られては、そう判断せざるを得なかった。


 だがウィルク同様、ハイドラスもその真意を問いたい。


 テテュラとは接点は少なかったが、リュッカの事件の際、友を心配し、反省していた表情が嘘だとは信じたくなかった。


 このまま何も言わずに事が進めば、テテュラの真意はわからないままだ。


 だが、部下を殺されたのも事実。


 ハイドラスは言葉なく、事を見守ることしか出来ず、悔しそうに俯くだけだった。


「テテュラ」


「なに?」


「裏切るの?」


 たった一言だが、冷たく、重苦しく言葉を放つ。


 許せないと突きつけるように、フェルサは淡々と放つ。


「誰を?」


「みんなをだよ。リリアもリュッカもアイシアもナタルも……私も」


 不器用なりにも友達だと認識していたのにと、怒りを込めて話す。


 すると、テテュラは思い出を思い返すように、軽く目を(つむ)って俯く。


「そうね、裏切るわ」


「……!」


 テテュラはゆっくりと、フェルサはカッと怒りを(あらわ)にするように目を開く。


「なら殺されても文句言わないでよ」


「フェルサさん!?」


 威嚇(いかく)するように(うな)りながら、四つん這いで睨みを利かす。


「待って下さい! 何も殺すことなんて――」


「ええ、言わないわ。貴女こそ、文句――」


 テテュラも挑発するように、ナイフを回す。


「言わないで頂戴ね」


「テテュラさん!? くっ!」


 この二人はもう聞く耳を持たないと、アルビオも剣を抜いた。


 いつ戦闘が勃発してもおかしくない雰囲気に、オリヴァーンとユーキルも構える。


 四対一、数では圧倒的に有利だが、アルビオの内心はフェルサの一言で戦況が変わった。


 何とかして、殺さずに捕えなければと。


 一方で、強者の貫禄を見せつけるテテュラだが、正直困っている。


 自分の実力なら正直、この面子相手でもハイドラスの首を取るのはやれなくはない。


 オリヴァーンの実力はこの作戦を決行する前に調べてあるし、フェルサは授業中にも戦い方の癖を把握している。


 問題となるのが同じ闇属性のユーキルと、精霊を使い、全属性持ちのアルビオである。


 だがユーキルに関しては、そこまでの危機感はない。同じ闇属性でもステルス能力は非常に有効であるがため、相当レアな能力特化でない限りはどうとでもなる。


 一番の問題はアルビオ。


 精霊は勿論だが、何より全属性を持つことが問題。全属性、すなわち光と闇属性も持つということ。


 召喚陣に施した魔力吸収が効かないだけでは飽き足らず、ステルス能力の看破にまで繋がってしまう脅威。


 唯一の欠点は、まだ実力が不十分だということだが、戦闘経験の豊富な三人と連携されれば、さすがに苦戦は必至。


 例え戦えても、逃走できなければ意味がない。


 そんな考えを持ちながらポーカーフェイスを貫く彼女の頭上から、


「おー、大変そうだねぇ」


 楽しげな声が降り落ちてきた。


 一同、その声をする方を見上げると、勇者の像に足をぷらぷらさせながら座る、少年の姿があった。


「手伝ってあげよっか?」

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