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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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38 勝利から得られるものとは

 

「いや〜シド! あんた良くやったよ」


「うんうん、男らしかったね〜」


「ど、どうぼ……」


 ユニファーニとユーカに挟まれて、称賛を浴びるシドニエは顔を真っ赤にして、隣で揺れるユーカの胸をなんとか見ないように目を背けるが、気分が上がっているユーカはそんなことも気に求めず、スキンシップを取る。


「大した怪我が無くて良かったね」


「う、うん」


 治療室は実に華やかである。そんな状態にシドニエは気が気ではない様子。


 俺も男の時なら、挙動不審になるかも。


 コンコンとノック音がすると、扉が開いた。


「失礼するぞ。……よくやったな、ファルニ」


「で、殿下!」


 いつもならハイドラスにはガチガチに緊張するシドニエも、女の子に囲まれることに比べればマシなようで、助け舟が来たかのような喜びの声を上げる。


 そんな様子を見たハイドラスはニヤリと悪戯げな笑みを浮かべ、


「モテ期到来だな」


「な、何を言い出しゅんでしすか! 殿下!」


 確かに。俺には身に覚えもなかったモテ期。


 十代までに何回かあるなんて言われているが、絶対嘘だろってどこかで思ってました。


 ちなみにモテ期の最後の大波は二十代後半くらいだと言われてますが、定かではない。


「あまり揶揄(からか)うものではありませんよ。リカルドの時もそうでしたが……」


「あ、彼のところにも?」


「ああ。相当へこんでいたぞ。あんなアイツを見るのは初めてだ」


 ここに来る前に尋ねたようで、実に楽しそうに話すハイドラス。


 この童心が抜けきれてないような態度もまた、大物である資質だろうが……、


「程々にね」


「まったくです」


「いや、しかし良いものを観せてもらったよ。数ヶ月前とは見違えるようだ」


 同じ騎士科のハイドラス達から見れば、本当に見違えたのだろう。


 だが、この男の卑屈な謙虚さは抜けないよう。


「い、いえ。僕なんてまだまだですし、それに結局、オルヴェールさんの力に頼りきって……」


「まあ頼ることは悪くない。ちゃんと返していけばいいだけだ。それにお前はそんなに弱い人間ではないぞ」


「それ、私も言った」


「そうなのか? まったく……」


 頭をかきながら、ちょっとお説教。


「いいか? そんな自分なんてとか言っていると、相手も惨めにするぞ」


「!」


「リカルドは勿論、この大会でお前に負かされた者達も侮辱することになる。謙虚なのもいいが、何事も過ぎることは良くない。勝者として胸を張り、誇るのは勝者の権利ではない……責任だ」


 さすがハイドラス。人の上に立つ人間の説得力は違うものだと痛感する。


「……」


「お前の性格を理解していないわけではないが、優勝した以上、目標となれる振る舞いくらいはしないとな」


「私も?」


「お前には功績と肩書きがあるだろ? 黒炎の魔術師殿」


「ハハ……」


 確かに、俺の場合だと胸を張る必要ないかも。


「そうだよ! あたしは感心したよ。あのシドがやり遂げたんだなって。ちょっとくらい調子乗ったっていいって」


「……うん。ありがとう。殿下もありがとうございます」


 勝者の責任というものを知ったシドニエは、落ち着いた様子を取り戻した。


「さて、そろそろ表彰式です。主役は遅れぬように……」


 ハーディスがそう言うと、ハイドラス達は部屋を後にした。


「よし、シドニエ。殿下から有り難いお言葉も頂いたし、最後のスピーチ期待してるよ」


「へ?」


「そうだよ、シド。最後のひと仕事が残ってるんだから……」


「ああ、表彰スピーチね。男女ペアで出たなら普通、男の子が言うわよね?」


 怪我がある程度完治したはずのシドニエの顔が、サァーっと真っ青になっていく。


 これだけわかりやすく血の気が引くのを目の当たりにすると、さすがに可哀想だと感じた俺は、


「えっと……私が言おうか?」


「ダメだよ、リリアちゃん。コイツの度胸をつけるためにはさせなきゃ」


「えっ!? ユファ!? ……ミ、ミルア……」


 (すが)るようにもう一人の幼馴染にも助けを求めるが、苦笑いをされる。


「えっとね、頑張って」


 見放されたシドニエ。ドンマイ。


「失礼しまーす。そろそろ表彰式に入りたいのですが、お怪我の方は大丈夫ですか?」


「あ、あの!!」


 様子を見に来たバルティナに詰め寄る。


「インタビューとか……その、するん――」


「勿論! 順番は一年生である貴方からですよ。ズバッとカッコイイの頼みますよー」


 なんだか聞いてはいけないことを聞いたようで、その場で固まったシドニエ。


 シドニエの怪我の度合いを目視し、それだけ言うとバルティナは、来て下さいねと捨て台詞を置いて行った。


「えっと、何で一年生からなのかな? 対戦は三年生からだったのに……」


 何とか少しでも気が紛れるように話す。


「多分、他の学年優勝者が貴族校だからですわ。そこのトリまで彼らに取られては面目が潰れるというもの。勇者校と違い、貴族校はプライドもあるのですわ」


 この国の掲げる、立場を平等にという目標はあるだろうが、まあ上に立つ者は必要だし、その人達のプライドを誇示(こじ)することは必要だろう。


「だったら気が楽だよ。最後は先輩達がちゃんとしてくれるよ」


「そ、そうだよ。貴族校の生徒さんは優しいらしいし、失敗しても大丈夫!」


「ミルア……失敗を前提にしちゃダメだよ」


「あっ……」


 するとギギギと錆びれた機械のようなぎこちない動きで振り向く。


「ガ、ガンバリマス」


 いつもの噛み噛みを通り過ぎ、機械化した言語を習得したシドニエに不安を覚えつつも、表彰式へと向かったが、スピーチは予想通りの展開を迎える――。



「ほ、本じちゅはお日柄も良く――」


 噛んでいる挙句、天気から入るのはもうダメだと思う瞬間であった。


 この後もグダグダなスピーチが続いたのは言うまでもなく、優勝しても人の本質は変わらないんだなと痛感しながら、パラディオン・デュオは閉幕を迎えた。


 ***


「いやぁ、劇良かったわよ〜」


「さいですか……」


 祝勝会と称して、二日目の夜は冒険者ご用達の食事処で食べております。


 何せアイシア達は勿論、アイシアの家族や先輩方にジード達までみんなと言ったら、大所帯でも大丈夫なところになる。


 みんな思い思いに話が進むのも一重に祭りだからだろうか。


 そんな俺達が聞かされているのはサニラ達が演劇を観に行ったこと。感想を述べられても、あまり嬉しくはない。


「でもさ、俺達が出てなかったろ?」


「あんたね……リリア達が主役なんだし、冒険者は危険な目に遭うなんて日常茶飯事でしょうが。普段、細かいこと気にしないくせに……」


「いや、だってさ――」


「……演劇観た後もこんな感じだったんじゃないです?」


「さすがだね。その通りだよ」


 こういう幼馴染カップルは同じ話で喧嘩しがちだよね。


 共有してるっていうか……この二人、付き合ってないけど。


「ていうかジードさん達も観に行ったんですね」


「そりゃあ少しは気になったからな! 俺だってリリアちゃんを助けるのに一肌脱いだんだからなぁ!」


「ほどほどにしておけよ、グラビイス。子供達もいるんだから……」


「わあってるよ! 俺の顔面じゃ、ビビらせるだけだからな!」


 と言いつつ、お顔は出来上がってきておりますが。


「それにしたって坊主! なんでも大活躍だったそうじゃないか」


「あ、はひ……」


 顔を近づけてそう話すグラビイスだが、酒臭かったのだろうか、若干顔を逸らした。


「ごめんね。でも、凄かったそうじゃないか。近接戦をしながらの魔法発動は難しいのにね」


「ジードさんも無理なんですか?」


「多少なら動きながらでもね。ほら、逃げながらとか……」


「ああ……」


「でも戦闘を行いながらとなると、話は変わるでしょ?」


「確かに……」


「――例えるならアレだっ! 二股が上手くいかないってアレだ」


 完全に酔いが回ってきたグラビイスの問題発言。


 例えが不純だし、オッサン臭い。あ……この人オッサンか。


「つまり、坊主は二股かけても問題――」


「あるわぁーーっ!!」


「――ぶはぁっ!!」

「――ひいぃ!?」


 話が聞こえていたのか、急にアネリスがグラビイスを足蹴りで突き飛ばした。


 発言の問題視を問題のある行動で止めることに問題があると言及したい。


「あーた何? こんら可愛い()とデートするおに、二股かける気かあーーっ!!」


 グラビイス以上に出来上がっているアネリスは、俺を肩から抱き寄せながら物申す。


「いや、そんなつもりは……ていうかそもそも――」


「もっとハッキリ言いなさぁーい!!」


「は、はいっ!!」


 酔っ払いの相手って大変だ。アネリス達が騒ぎ出したからか、サニラとバークは手際良く、


「はいはい。アネリスさん……」


「グラビイスさん、水飲みましょうか?」


 パパっと対処した。


「手慣れてるね」


「まね。ていうかジードさんも止めて下さいよ」


「ああ、すまないね。付き合いが長いせいか、逆に中々止められなくてね」


 昔話にでも花咲かせるのか、日頃の愚痴がこぼれ出るのか、そんなあたりだろう。


「ていうか優勝したって割に、相変わらずオドオドしてんな」


「う、うん……」


「こんな酔っ払い相手にされればこうもなるよ」


「でもさ、やっぱ嬉しかったよ。一緒に特訓してた奴が優勝したって聞いた時は、なんかこう……熱くなった」


 自分のことのように喜んでくれるバークに、こそばゆい気持ちなのか照れていると、


「僕も同じですよ」


 アルビオが入ってきた。


「騒動が収まってきたから、来たの?」


「そ、そう言わないで下さい、リリアさん」


「ごめんね、ウチの酔っ払い達が……」


「ホント。弱いってわかってて飲むんだから……あっ」


 そんな酔っ払いさん達は、ちょっと目を離した隙に、アイシア達の元へ。


 楽しそうにしているあたりは大丈夫だろうし、リュッカやナタルがいるため、歯止めも効くだろうと放置する模様。


「僕も嬉しかったですよ。リカルドさんが強いことも知ってましたから尚更。思わずあのカウンターが入った時なんか、目頭が熱くなりました」


「あの重力魔法の?」


「凄かったらしいわね」


「どんなんだったんだ?」


「えっと……それは――」


 恥ずかしがりながらも、打ち解け合うように話をするシドニエ。


 精神型なのにと騎士科からハブられ気味だったシドニエが、こうも友人に囲まれていると、俺も背中を押したかいがあったと感じる。


「ま、お陰でデートにまでこじつけられたしねぇ〜」


「!」


 ユーカはのしっと俺の頭の上にご立派な果実を二つ乗せて、愉快そうにシドニエを茶化すと、その当人はビクンっと反応する。


「いや、それは……その……」


「そんな話になってたのか?」


「らしいわよ〜」


「……サニラも楽しそうだけど、自分は大丈夫なの?」


「は? いや、私は別に――」


「あれあれ〜? そこの彼と一緒に――」


「あーあーっ!! 聞こえませーん!」


 昨日の夜で、この先輩を相手にするとろくな事がないとわかってか、耳を塞ぎながら距離を置こうとすると、


「君でしょ? 彼女と幼馴染さんって」


「まあ、うん」


 シドニエからサニラへ。サニラからバークへと相手を変更。なんとも自由奔放な人である。


「好きな()とかいるのぉ〜? どうなの?」


「どおなのぉ?」


 のそっとタールニアナも参戦。ユーカはセリフも態度もオッサン臭い。


 そのふざけた態度もサニラにとっては困るもので、間の入り方に困惑している。


 そんなことなどわかりもしないバークは、割とさらりと、


「まあ特には。でも、リリアちゃんくらい可愛い()となら付き合えたらいいな……」


「!」


 何とも正直なご意見に肝が冷える。


 気持ちはわかるが、好意を寄せる幼馴染の目の前でする発言ではない。


「モテモテですなぁ〜。リリアちゃーん」


「先輩、そろそろ引っかき回すのも大概にしませんか?」


 するとご機嫌斜めのサニラは、バークの耳を引っ張り、


「あんたみたいなガキンチョが相手してもらえるわけないでしょうがぁっ!!」


「――痛だだだだだだっ!! 痛いっ! 痛いっ!」


 予想通りの態度にユーカ達も楽しそうだ。


 言ってサニラもかなり可愛いが、幼馴染だとそんな意識も希薄なのだろうか。


 するとそれを眺めていたジードは、年寄りくさい発言。


「いやぁ、若いっていいね。普段からバーク達を見てても思っていたが、やはりこう沢山集まるとおじさんの立つ瀬がないね」


「えっ? 二十代くらいじゃ……」


「私のママと同い年くらいだそうです。一緒に冒険者をやってたそうで……」


「えっ!? 見えない〜」


「ありがと。お世辞でも嬉しいよ」


 グラビイスはともかく、ジードとアネリスは二十代と言われても違和感はないような顔立ち。


「そういえばリンナさんは? 来なかったの?」


「えっと、パパが暴走するかもってことで……」


 それだけ言うと、察したのか眉を曲げて微笑んだ。


「なんだ、あの美人さん来てないんだ」


「あれ? 見たことありましたっけ?」


「受験の時に、男勝りの銀髪美人さんが娘を引きずってるって噂になっててね。観に行ったの」


 テルサも言ってたが、大分印象的に残る光景だったようで、ユーカを含めて複数の生徒からも印象にあるようだ。


「でもまさか、あれだけ抵抗してた娘がリリアちゃんだなんてね」


「は、はは……」


「めちゃくちゃ嫌だって叫んでたのにね。何が嫌だったの?」


「ほ、ほら、やっぱり慣れないところって偏見とかあるじゃないですか」


「ふーん」


 普段の俺を見ているせいか、納得はしていないふーん。


 まあ別人だなんて言えないし、言ったとしても信じてもらえない……かな?


 そこまで違って見えるなら信憑性はあるか? 言わないけどね。


 それにしても久しぶりだな、この手の話。


「なら良かったんじゃないかな? ここへ来て色んなことが見えてきたんじゃないか?」


 その一言でハッとなる。ジードの言う通りだと。


 最初こそ、ハーメルト以前にこの世界で生きていけるのか、不安の方が先に出ていたように思う。


 リリアに転移したせいか、どこか他人の物語を観るかのような第三者の印象を持ちながら。


 だが、色んな事件や出来事に関わるうちに、俺はここで生きているのだと、爪を立てているように感じる。


 そう感じられるのは、どちらの世界の人間の本質は変わらないものだからだろう。


 笑ったり、泣いたり、怒たり、悲しんだり、思いやったり、(ののし)りあったり……上げればキリがないほど、人間の感情は豊かであり、その本質はどの世界でも変わらない。


 自分から歩み寄れば、ちゃんと応えてくれる。


 望む望まないは別にしても、それが自分の成長に繋がった。


 世界が変わっても学び取ることは変わらず、生きることが学びなのだと思い知った。


「そうですね。色んなことがありました」


 欲を言うなら、リリア本人にも知り、学んで欲しかった。


 清々しく答えると嬉しくなったのか、ジードは微笑んで返した。


「じゃあこれからも色んなことをしましょーう……っということで、男性経験も積みましょうか、リリア君」


「……先輩。せっかくいいオチついたと思ったのに、なんですかそのノリと意見。急に俗っぽいじゃないですか!?」


「いやだって、明日はデートでしょ?」


「まあ……誰かさんが言い出したこととはいえ、約束ですから……」


 その誰かさん(エルク)はこちらに見向きもせずに澄ました顔で黙々と食事に勤しんでいる。


 そのデート相手(シドニエ)は、瞬きを忙しなくさせながら、緊張を隠しきれない様子を見せる。


「またコーディネートしてあげようか?」


「大丈夫です! 自分で頑張りますから……」


 今後のためにも、先輩のおもちゃにならないためにも。


「そっかそっか。リリアちゃんもやっと女の子してきたねぇ〜」


「最初から女の子ですけどぉ〜?」


 そんなやり取りを目の前で、ちびちびと酒を飲みながら見ているジードは、


(こりゃ確かに、あの男が発狂しそうなわけだ……)


 自分にも娘がいたら、この何気なく聞く会話も気が気ではないのだろうかと思う。


「どうかしました?」


 そんな視線を感じた俺がふと質問すると、微笑しながら、手を振り答えた。


「いや、ガルヴァが今の話を聞いたらと思うと、来なくて正解だったなぁって……」


「ですよね」


「ああ〜、一時期、手紙が毎日のように来てたっけ?」


「そうですね」


 そのせいでナタルには迷惑をかけました。


「……やっぱり娘ってのは可愛いもんなんだろうな。私もよく子供の話とか聞かされることもあるが、楽しそうだしなぁ……」


「えっと、ジードさん?」


 他の冒険者と飲む機会もあるのだろう、そういう話も耳にすふとぼやくジード。


 そう呟くその顔は紅潮している。どうやら酔いが回ってきたようだ。


「はあ……私はずっと出会いもなく、ただ毎日を放浪するように過ごすだけ。子供がいたっておかしくない歳なのに……」


「え、えっと――」


 フォローを入れようとすると、さっきまでバークと揉めていたサニラに肩を叩かれる。


「余計なこと言っちゃダメだから。これもいつものこと」


 それだけ言うと、サニラはスッとジードの隣へ行く。


「歳か? 理想が高いのか? ……いや、魅力がないのか? それとも――」


 サニラはそんな愚痴にもうんうんと相槌(あいづち)を打ち、受け流しているようだった。


「うちのギルドの大人達は酒癖があってね」


「そういえば前もそうだったね」


「ジードさんはいつも冷静なんだけど、内心は焦ってんだろうなぁ」


「え、えっとバークさんは彼女さんがいますしね」


 その余裕そうな物言いからシドニエは、サニラが彼女なのだろうという発言。


 それに対してバークは、ものすごーく不思議な顔をして大きく首を傾げた。


「あれ? 違うんですか? バークさんの彼女はサニラさんかと。特訓の時も仲良さそうでしたし……」


 聞こえているのか、チラチラとジードの愚痴をそっちのけに視線を感じる。


 まあそう見えるって聞くだけでも嬉しいもんなんだろうね。


 青いなぁ……。


「ないない。俺とアイツはただの幼馴染、腐れ縁ってやつだよ」


「そ、そうなんです……かっ!?」


 そんな青い青春とは裏腹の激怒のオーラへと激変。


 その怒り混じりの表情から色んな訴えが聞こえてくるようで、思わず俺とシドニエは(すく)んでしまう。


「あ、あのバークさん……」


 俺はガシッとシドニエの肩を強く握り締めると、ブンブンと首を振った。


 これも放っておこう! いつものこと!


 そう表情で訴えかけていると、サニラは俺達の予想通りの行動に出る。


「――いでぇっ!? な、何すんだよっ!?」


「別にぃ〜!!」


「いや、なんでそんな怒って……」


「――別に怒ってないわよ!!」


 ここでツンデレについてちょっと考えてみよう。


 ツンデレとは普段はツンツンした、気がないような攻撃的な態度を取る人がほとんどだろう。


 だがその実、本心は別にあり、それを隠すための建前としてそのような態度を取る。


 何故か? 本人なりのプライドからなるものであると予想できる。


 サニラの場合、幼馴染という確立した立場があり、昔からバークには負けられないという変なプライドがあるのではないだろうか。


 実際、バークより賢いだろうし、大人っぽさとかはどうしても女の子の方が出てくるだろう。


 だからこそ好きになってしまったのが、先だというのが、変に許せないのだろう。


 あっちから好きになって欲しい……女の子の憧れでもあるだろうか。


 以上のことから、常にツンツンしながらも攻撃的な態度を取るのはそんなところか。


 実際、デレたところを見たことはあまりないが、バークの言動、行動を気にするあたりはツンデレ感が否めない。


 こうして改めて考えてみると、面倒くさく、損な性格してるなぁと思うわけで。


 恋は(いくさ)なんて言うこともあるほど、険しいものである。


 人の心は奇々怪界(ききかいかい)


 恋愛には様々な駆け引き等あれど、結局なところ相手依存な部分があるため、思い通りにならないのが現状。


 恋愛に限った話ではないが、明らかに人生損するような性格には違いない。


 カテゴリーとして見る分にはいいが……。


 振り向いて欲しいなら、やはり積極性は必然だろう。


 そんなことを一方的に機嫌を悪くするサニラを見ながら思うわけだ。


 だから、最終日の夜のデートも俺の中でまた何か変わるのだろうか。


 オロオロしながら、サニラを止めようか止めまいかしているシドニエを見ながら思う。


 価値観は人それぞれだろうが、俺の場合は特殊だ。何せ中身が元男で、男として生きた記憶が長い。


 望んでなったならまだしも、成り行きでなった俺の価値観は別物だ。


 だからといって後回しにし続けたツケが来られても困る。


 最初こそ一生独身でいようなんて思っていたが、その価値観も変わりつつある。


 シドニエならいいと考え、あの時叫んだのはそう言うことではないだろうか。


 妥協と片付けてしまえばそこまでだろうが、それだけでは済まない気がしている。


 シドニエは俺に対して好意を持っていることはわかる。俺は鈍感主人公ではないので。


 他の連中は接点がないから簡単に断ったが、シドニエに求められたら、どう答えるべきなのだろうか。


 求められても、ちゃんと受け止められるのだろうか。


「ど、どうかしました?」


「えっ? ああ、ごめん」


 真剣な視線が刺さっていたのか、心配そうに尋ねるシドニエ。


 俺はサニラのご機嫌を戻そうとしながら思った。


 俺は純粋に恋愛をすることが出来るのだろうかと。

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[良い点] 頑張れ、シドニエ
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