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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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36 男のプライド

 

 ――一年生のトーナメント戦ははっきり言うと、先程までの二、三年生に劣る部分があった。


 というのも、技術校と平民校の代表レベルが低く、完全に貴族校と勇者校の独壇場になっていた。


 だが、貴族校のもうひとペアと準決勝で当たるも、俺達は危なげなく決勝戦へと駒を進めた。


 そしてまもなく迎える準決勝第二試合。


「それでは両選手の入場です!」


 歓声の前に現れたのはアルビオ、ルイスペアとリカルド、マーチペア。


「話を聞いて驚いたわよ。随分と面白い趣向よね」


 金髪ツインテールが不機嫌そうに、ふいっと揺れ、ため息を漏らす。


 それもそのはず。彼女からすれば、自分の実力を披露する貴重なチャンスの場。


 一回戦の相手は、技術校のペアだったこともあり、特に目覚ましい活躍を魅せる機会もなく勝利し、準決勝は優勝候補が相手。


 勇者の末裔に光の魔術師だ、ほとんど見せ場は向こうに取られる厳しい展開が予想される。


 下手すれば、あっさりやられる可能性も捨て切れない。


 さらにはここで勝てたとしても、既に決勝戦を決めているシドニエ、リリアペアだが、一騎討ちという話だ。


 彼女からすれば何のメリットもない。


 そんな気乗りのしないマーチに謝罪をしつつも、男らしく語りかける。


「君には本当に迷惑ばかりかけていると思っているよ、申し訳ない。だが、譲れないものができたのだ。……どうか、わかってほしい」


 彼女からすればリカルドの恋路などどうでもいいと思う反面、自分自身の問題、嫁ぎ先の問題があることが頭の片隅にあった。


 彼女は特に幼少からの婚約者などいないため、社交会に出席しては、相手を漁っていたようなもの。


 正直、側近候補の彼は狙い目だったわけだが、意中の相手は別にいる。


 その彼女にご執心になる理由もわかるのだが、彼の言うことに、ほいほい乗っかり、いい人で済ませるわけにもいかない。


「わかったわよ。その代わり、もし一騎討ちに負けたら、最終日の夜は空けてもらうわよ」


「えっと、それは……?」


「寂しくお家にいるのも虚しいでしょ? 愚痴くらい聞いてあげるわ」


 マーチ的にはリカルドは、いかんせん真面目過ぎる。だが、優良物件に唾をつけておくのは悪くない。


 負けたら、傷心した彼を慰めて印象を残しておこうと言うのだ。


 生真面目な彼がそんな目論みも読めるわけもなく、しかし、不思議そうに返答。


「わかったよ。負けないけどね」


「でも……それ以前にだけどね……」


 リカルドの恋路の大きな壁として立ちはだかるアルビオとルイスと握手を交わした。


 そんな会場に響く、司会と解説の声。


「やはりこの試合の注目はアルビオ、ルイスペアですかね?」


「まあ、そうだね。リカルド、マーチペアもとても優秀ですが、風の精霊に加えて、光の魔術師を相手取るのは中々至難の(わざ)です」


「確かこちらは両方水属性ですよね? パーティ編成としては、相性がいいですが……」


「そうだね。水属性の魔術師は特に柔軟な対応力を有します。……しかし、光の魔術師である彼女はいわば、それの上位互換。厳しいと言わざるを得ないね」


「唯一の弱点は、ルイスさんがまだ光の魔術師としての対応力が低いことでしょうか?」


「そうだね。なんでもパラディオン・デュオのパーティを組むまでは魔法の発動すらままならなかった彼女。そこをつければ勝機もありそうですが……」


「させてくれますかねぇ?」


 そんな期待混じりに語る司会者達の下を通りながら、開始位置へと移動する。


「なんだか私達が勝つみたいな言い回しですね」


「そうだね……」


 二人の心境の重さは司会や皆のプレッシャーのみならず、リカルドの事情を知るが故に気乗りが難しい。


 加減などする気はないし、失礼になるようなことはしないつもりだが、それでもこの大会の彼らの望む意図を理解している分、やりづらい。


「人の恋路を蹴飛ばすのは、後々遺恨を残しそうで嫌ですぅ〜」


「あー……うん、まあね。だけど、リカルドさんの気持ちを考えれば、手加減して勝つのは嫌だろうし……」


「真面目そうですしね。あれと付き合う女性は大変そうです」


「……」


 ハイドラス達ほどの付き合いはないとはいえ、知らない仲ではないアルビオは困惑の表情を浮かべる。


「と、とにかく、やれるだけ頑張ろう! それにリカルドさんは加減ができるほど、甘い相手じゃないことは僕が知ってるから」


「わかりました! せいぜい障害になってあげましょう!」


 お互い定位置で、獲物を構える。それを確認した先生が司会者に合図を送った。


「それでは参りましょう! 準決勝第二試合、アルビオ、ルイスペア対リカルド、マーチペア……試合開始っ!!」


「――召喚(サモン)! スノーマン!」


 開始と同時にフィンを召喚するのは、お決まりの展開だが、アルビオ達の頭上から影が落ちる。


「えっ!? 嘘――」


 アルビオとルイスはシルクハット帽のオシャレ巨大雪だるまに潰された。


 これには会場も響めきが走る。


「おおっと! 初手からいきなりのスノォーマーンっ!! アルビオ選手の精霊召喚を読んでの行動か!?」


「そうだね。召喚速度を考えると、スノーマンの方が圧倒的に速いですからね」


 そんな解説を聞いていた俺は、エルクに詳しい説明をしてくれと頼んだところ、解説してくれた。


 そもそも召喚とひとくちに言っても、召喚方法や召喚魔が色々いるため、能力によって様々な変化が生じる。


 今回の精霊と召喚魔の場合は、そもそも土台から違う。


 精霊か魔物かの違いからして、そもそも別個の話。


 精霊はすぐ側に存在はするものの、人が見えるように顕現(けんげん)するのには、存在の認識を行うことで、半精霊体として姿を見せることができる。


 魔物達の場合は、召喚契約を行なっているなら、専用の空間が作り出され、そこから直接、召喚されることとなる。


 強い存在の召喚、顕現(けんげん)が手間取るのは当然のことで、いくら精霊が顕現(けんげん)に慣れていても、スノーマンのようなレベルの低い召喚魔の方が圧倒的に早い。


 とはいえ、このまま終わるわけでもないだろうと、二人は様子を(うかが)いつつ、行動に入る。


 するとその予感が的中する。


 スノーマンの身体はあくまで雪、非常に斬りやすかったのか、細々に斬り裂かれた。


「ふう……びっくりしました」


「完全に虚を突かれ――」


 ルイスは後ろの気配に気付かなかった。


「!?」


 ルイスが気付く頃には、既にリカルドの剣が振り下ろされている。


 ガインっと予想打にしない音がルイスの耳に入る。


 痛みが走らないところをみると、ダメージがないらしい。


「やらせませんよ」


「……本当に変わられましたね」


 どこか悔しさを(にじ)ませながら、互いの剣が交じる。


「ルイスさん! 彼女を止めて!」


 振り向くと、マーチが詠唱しているのが見えた。集まっている魔力から上級魔法と予想ができる。


「――無慈悲なる死の大地を生む凍傷、立つことも叶わぬ白の海に眠れ!」


「――シャイン・アロー!」


「――きゃあっ!?」


 呼びかけに対する対応が早かったルイスは、無詠唱で速度のある初級魔法で詠唱の妨害。


 光の魔法はとにかく攻撃速度が速いのも特徴。特にシャイン・アローのような突貫型の攻撃速度は風魔法より速い。


 そのルイスとの距離が近いリカルドの剣は届かない。


 アルビオが近寄らせないとばかりに距離を離さない。


「フィン! ルイスさんと一緒に下がって」


「あいよ」


 ルイスを風の膜で覆うと、そのまま宙に浮き、距離を取り後退。


 リカルドは攻めきれなかったことに表情が曇る。


 アルビオ達のポジションの確立は強固なものだ。精霊を使っているというアドバンテージはあまりにも大きい。


 しかも風の精霊だ、わかっていても対処が難しい。


 攻防一体の風の精霊に、自分達のやれることは限られている。


 だが、自分に課したルールなのか、必要以上の行動を精霊に命ずることはしないアルビオに、リカルドには助かる話。


 だが、それは防御の方は万全という捉え方ができる。


 精霊が攻め手に出ない分、防御に徹するのだ……後衛の防御は強固と言わざるを得ない。


 対してこちらの召喚魔はスノーマン。名前の通り、雪だるまでゴーレムの下位的な魔物。


 とてもじゃないが、後衛の壁役というには心許ない。


(ですが、そんなこと……百も承知!)


「マーチ嬢!」


「わかってる! ――クッション・ウォール!」


 取り出したのは、マジックロール。その呪文を手早く唱えると、スライムの形をした液状が彼女を呑み込む。


「あれは……」


「ご存知ですか……そうです。衝撃を吸収できる水属性の上級魔法です。……この大会はどちらかが戦闘不能になれば、勝利を得ます。後衛が狙われてしまうのは当然ですので、対策も万全と言ったところです」


「まあ……そうですよね」


 リカルド自身に勝機があるなら、アルビオ自身にある。


 リカルドは伊達に側近候補ではない。


 剣術は勿論、戦術や魔法に関しても多く勉強してきた。


 それはハイドラスと一緒にいたアルビオも同じだが、剣術に関しては怖がりだったこともあって嫌厭(けんえん)していた。


 アルビオが精霊、勇者としての才能というアドバンテージを活かすなら、リカルドは彼の先を行く英才教育……努力というアドバンテージを活かさねばならない。


 そのアドバンテージを活かすためにも、


「マーチ嬢、言った通りにお願いします!」


「わかってるわ。それより、さっさとケリつけてよね」


 後衛の補助は必須。


 マーチの仕事は多い。


 基本的にはルイスを抑えつつ、回復魔法でリカルドを援護。必要ならアルビオに攻め入る彼のフォローとやることは多い。


「なるほど、よほど一騎討ちがお好きと見えます」


「いや、貴方の場合はこうでもしないと圧倒的に不利なもので……。ですが、一騎討ちなら貴方には負けません」


 その自信の現れとも捉えられる目に、アルビオ自身にも自覚がある。


 色んな経験を経て強くなったとはいえ、リカルドのように積んできた努力の差が違うことは明白。


 その差をアルビオが埋められるのは経験。


 魔人やバザガジールとの死戦を乗り越えたことでの戦闘経験を活かす時。


「僕も負けられません」


 言葉はもういらないだろうと、互いにタイミングを見計らうように睨み合う。


 思わず援護しなければならない後衛の二人も息を呑むほどの緊迫感。


「これは……お互いに譲らないぞとばかりの睨み合いだ! この読み合いは果たして……!」


 バルティナの実況も小声になる。


 そして――、


「――っ」


 ヒュッとアルビオは姿を消した。最初に仕掛けたのはアルビオ。


 その一瞬の(まばた)きに彼がどこから仕掛けてくるのかは、想像がつきやすい。


(――後ろっ!!)


 身体を大きく捻り、後ろに斬りつけるも手応えがない。


 すると、


「――がっあ!?」


 後ろから強く蹴飛ばされると、リカルドは地面に転がり勢いを殺す。


 アルビオはその隙を逃さないと、果敢に攻め入る。


「ああーーっと! アルビオ選手、リカルド選手の不意をついた見事な攻撃!」


 今の動きにフェルサも感心。


「おおっ! 見事なフェイント」


「だね。瞬時に姿を消したとなると、普通後ろから来るって思いたいよね」


「それでアルビオさんは敢えて真正面に……?」


「それだけじゃないな。あの人間、魔法も使用していた」


 意外な人からご意見をもらったので、ジトっと皆さんの視線を集める。


 すると体裁が悪くなったのか、悪態を吐きながらアルビオのフェイントについて語る。


「あ、あの人間は姑息なようだな。風の初期魔法を使って、軽く相手の人間の背後に風を吹かせたようだ。……まったく、狡猾な人間らしい手口だ」


「ご考察ありがと、ツンデレエルフさん」


「変な呼び方をするなっ!!」


 その呼び名が気になったのか、子供達にツンデレと連呼されるシェイゾを横目に、リュッカに呟いた。


「やっぱり、あの殺人鬼の影響かな?」


「……多分」


 アルビオが強くなる分には有り難い話だが、バザガジールの影響と考えると、奴らの思惑に乗っているようで、不安を覚える。


「でも強くなったね、アルビオ君」


「……! そうだね。私達も頑張らなくちゃね」


 一生懸命にリカルドとぶつかり、戦っているアルビオを見たら、そんな考えなど馬鹿らしく思えてくる。


 そんなアルビオ達の接戦は続く。


 激しい剣術を打ち込むリカルドに対し、一定の距離を保ちつつ、魔法と剣撃で攻め入るアルビオ。


 リカルドからすれば歯痒い展開が続く。


 アルビオもその焦りには覚えがある。


 リカルドの剣術には、普通の剣撃とは違う特性を持っている。


 普通の剣が振って鳴る音とは異なる音に、どのような効果が現れるのか理解しているからだ。


 魔道具を使いこなすとされるリカルドに対し、獲物は尤も警戒すべきもの。


 その情報アドバンテージがある以上、アルビオがわざわざ土俵に乗る必要はない。


 とはいえ剣術は向こうの方が上なため、どうにか有効範囲に入れたい、リカルドの猛攻が続く気が抜けない状況。


 マジックボックスに手を突っ込んだリカルドは、短剣を握りしめる。


(――二刀流!?)


 ヒュンとその左手の短剣をアルビオの顔面に目掛けて打ち込むが、


「ぐっ……!?」


 首を引っ込めて(かわ)しきるが、二刀流になったせいか、攻撃の速度が変わり、今までの防ぎ、(かわ)してきた動きとは違うものになり、先程よりも近接した戦闘へと変わった。


 次々と素早く斬り込む攻撃に完全に受け身態勢になったアルビオ。


 その追い込まれている展開に、会場もヒートアップ。


「おおーーっと! ここでリカルド選手が猛烈な攻撃ぃ! アルビオ選手は避けるばかりで攻め入る余裕がなぁーい!」


 バルティナも会場を盛り上げるべく、選手を(あお)っていく。


 だが戦闘に集中している彼らには、そんな言葉など耳に入るはずもない。


 リカルドの視線はアルビオを定めている。


 すると、アルビオに異変が生じる。


「くっ……」


 くらっとしたのか、瞳孔が自分に向いていないことに気付く。


 やっと自分の土俵に入ってくれたと、さらに追い詰めるために攻め入ろうとした時だった。


「――キュア!」


 キィィンとアルビオの身体が光り、視線がこちらを向いた。


 そう気付いた時には、リカルドは大きく剣を振り下ろした瞬間だった。


 無防備な獲物と横っ腹が見えたと、


「ぐっ!? がああっ!!」


 剣を弾き、横っ腹を蹴飛ばしたアルビオ。先程のフェイントとは違い、完全な手応えを感じた。


 マーチの側まで吹き飛ばされた。


「ちょ、ちょっとしっかりなさいよ!」


「クリーンヒットぉ!! 大振りになったリカルド選手への鉄槌(てっつい)が下されたっ!!」


 クッション・ウォールから離れるわけにもいかず、声がけするが、リカルドは思いっきり入ったのか、震えながらも立ち上がろうとする。


「貴方の剣術については知ってるんですよ。対策くらいします」


「ぐっ……甘く見ていたのはわたくしでしたか……」


 アルビオはリカルドから受ける影響をルイスに説明していた。


 そのため、先程のような近接で攻められた際には治癒魔法を頼んでいたのだ。


 後は異常が出たアルビオを、即座に治癒されることが前提で動けばいいだけだった。


「マジックロールを用意していたのは、貴方やリリアさん達だけではなかったということです」


 リカルドは痛みに震えながらも、立ち上がった。


「すまない、マーチ嬢。治癒を……」


「――させると思っていますか! シャイン・スパーク!」


「きゃああっ!!」


 アルビオの後ろから強い光が発されると、直視してしまったのか、マーチはその場で目を押さえながら崩れる。


「許して下さいね。これも勝負です!」


 するとアルビオが今度は攻め手に変わる。


「これは完全にアルビオ、ルイスペアのペースになってしまったぁーー!!」


「あのクッション・ウォールは確かに強力な防御魔法です。しかし、強い光までは遮断できなかったようですね」


 クッション・ウォールは攻撃の威力を吸収し、防ぐことに特化した防御魔法。


 しかし、デメリットもいくつか存在する。


 彼女のように中に入っての防御前提の行動では、行動制限がかかる。外の様子を確認できるよう、光が通るのも今回の件でデメリットと理解できる。


 多少の眩しい程度の光なら吸収するだろうが、光の魔術師の放つ強力な閃光では太刀打ちができないのが本音。


 その彼女は再びフィンの風の防壁の中から呪文詠唱を始めていた。


「くっ……」


 (負けられない……やっと巡り逢えた気がするんだ)


 ――リカルドが彼女のことを知るのは、ハイドラスからの話である。


 ちょっと腹黒いところがある美少女がいると、マルファロイに一泡吹かせた話を面白おかしく話されたのを聞いたのが初めて。


 その時の印象としては、平民出の人間の中にはそう言って噛みつく人はいるだろうなといった軽い印象。


 だが、その後に聞いた魔人討伐での活躍に、リカルドはこう解釈した。


『彼女は分け隔てなく、自分の意思を貫ける強い女性である』と。


 リカルドの周りはやはり、家柄を見られることが当然であった。


 リカルド自身もそこは理解している。実際、リリアの第一印象としても貴族として見られていることを出会い頭から捉えられている。


 どうあってもしがらみから解き放たれることは難しい。


 だが彼女とならば、接しているうちに自分でも知らない自分の世界が広がるのではないかと、不思議とそう感じていた。


 新たな可能性と未来。


 家柄の体裁のために費やした人生とは違うものを手にする機会……リリアの生き様を見て、変われるものがあると思った自分を守るためにも負けられない。


「……マーチ嬢、とにかく貴女は回復に専念を。わたくしが持ち(こた)えます」


「リリアさんのこと……本気なんですね」


「ええ。こんなに胸を熱くさせられたのは、初めてなもので……」


「ならやはり、手を抜くのは失礼ですね。ルイスさんの仰るとおり、せいぜい障害になってあげますよ! ――フィン!」


「あいよ! ウィンド・エンチャント!」


 アルビオは風を(まと)うと、再び姿を消してリカルドを攻める。


 リカルドも奮い立たせた神経を尖らせ、アルビオの攻撃を読み切る。


 ガィンと強く鋼の音が響く。


「二度目はもらいません!」


「――いきます」


 初撃を捕らえると、剣を交えるごとに集中力が増していく。


「うおおおおっ!! なんだか知らないが、ものすごいデットヒートが続いているぞぉ!!」


 その凄まじい剣撃のぶつかり合いに会場の盛り上がりも上がっていく。


 さらにそこへ、


「――アトミック・レイ!」


 詠唱を終えたルイスの上級魔法が炸裂。


 クッション・ウォールで防がれてしまうマーチを無視し、全てリカルドの方へ矛先が向く。


「まだまだぁ!!」


 その光の雨の中をかい潜りながらもアルビオに攻め続ける。


 そんな光景に思わず、ルイスも目がまん丸になる。


「嘘ぉ!?」


「……」


 アルビオもリカルドの熱に当てられたのか、


「えっ!? アルビオさん!!」


 アトミック・レイの射程外にいたアルビオもその雨の中に入り、リカルドを迎撃。


 この展開には、バルティナの実況にも熱がこもる。


「これぞ男と男の対決かぁ!? 二人とも顔に似合わず熱い展開を魅せておりまぁーす!!」


 この一連の行動に一番驚いたのはハイドラス達。


「おいおい、アルビオの奴……キャラが変わってねぇか?」


「リカルドさんも随分と楽しそうで……」


「ああ。あんな二人を見ることになるとは、想像もしていなかったな」


「まあ彼らも『男の子』ってことでしょ?」


 この会場の熱に当てられ、準決勝という流れからくるものなのだろうと軽く言い放つファミアだが、それでもと口添えする。


「アルビオ様はあのような方でしたっけ?」


 ファミアは自分の覚えている印象との違いに違和感を持つも、


「君が知らないうちにアイツも変わったってことさ」


「ああ、貴方がわたくしを呼んで下さりませんものね」


「そ、それはその……お前も忙しいかと思ってだな。こんな機会でもないとほら……」


 そんなしどろもどもなハイドラスを置き去りに、試合も大詰めを迎える。


「――ヒール!」


 視力が戻ったマーチはすぐ様、治癒魔法をかける。


「すまない! マーチ嬢!」


「礼は後! 決めてきなさい!」


 気力と体力の勝負になってきた両者。互いの後衛にも疲れとダメージが出てきている。


 だがアルビオはこの消耗されている展開の経験を活かし、敢えて消耗しきるように攻め手を緩めない。


 中々隙を見せてくれないアルビオに苦戦を強いるのはリカルドの方。


 やはり、実戦経験の差は出るか……!?


 魔人討伐の事件の概要の全てを知るわけではないが、立役者なのは知っているリカルド。


 攻めきれていないのは、そこの踏ん張りどころだろう。


「でも……負けられないんだぁ!!」


 気力を振り絞り、踏み出した大振りの一撃。


 これを隙と見たアルビオは、左へと避けようと試みるが、


「!?」


 リカルドは少しだけ遅れて、左の短剣でも斬りかかっていた。


 思わず重心が乗っていた左を優先に防ぐとバランスを崩した。


「ぐあっくっ……」


 その隙を逃さないと振り下ろした勢いのまま、リカルドはとどめの一撃を加える。


「やああああっーー!!」


「ぐああっ!?」


 ザシュッとアルビオの身体を斬り裂き、その場で膝をつける。


「――アルビオさん!? フィンさん、行って!」


「お、おうっ!」


 身体に思いっきり入ったのか、制服から血が(にじ)んでいる。


 いくら防御付与がされているとはいえ、入り方に手応えがあった。


 リカルドも思わず駆け寄ろうとすると、


「そこまで! 勝者、リカルド、マーチペア!」


「「「「「おおおおーーーーっ!!!!」」」」」


 大歓声の中、みんながアルビオに駆け寄る。


「大丈夫か? すまない、加減が難しく……」


「やり過ぎですよ! 今、治癒しますから……」


 するとルイスの心配を他所に、アルビオは眉を曲げて笑顔を見せた。


「これくらいなら大丈夫ですよ。魔人の時に比べれば全然。……ですが、いい一撃でしたよ、リカルドさん」


「勇者殿……」


「勇者じゃありませんって……僕もまだまだですね」


「いや勇者殿……いやアルビオ殿。貴方も素晴らしかった。こうして剣を交えられたことに誇りを感じる……ありがとう」


 すっと手を差し出すリカルドに、アルビオも握手で応えた。


「是非、今度は稽古の時にでも手合わせ下さい」


「勿論ですとも。こちらとしては、魔法と剣術についてのお話でも……」


 新たな友情が芽生えた瞬間を観ながら、俺は隣で緊張した面持ちのシドニエに尋ねる。


「勝てる? アレに……」


 正直、俺から見たら天と地ほどの経験の差があるように思える。


 シドニエ自身も自信をつけたとはいえ、素人が抜けきれない部分もある。


 用意があるとはいえ、太刀打ちできるか不安に感じていたが、


「大丈夫です。僕、頑張りますよ」


「いや、あんた。あのねぇ――」


 その根拠のない自信を見せるシドニエに思わず口出しするユニファーニを見ながらも、俺は彼の一言に感じたものがある。


 シドニエも『男』なんだな。

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