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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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33 建国祭開幕

 

「――今日という日を迎えれたことを心より嬉しく想う」


 広場には、大勢の国民と騎士、王宮魔術師達が陛下の言葉を聞き入る。


「我が国はかの勇者、ケースケ・タナカによって平和とは尊いものであると、生きとし生ける全ての者達は手に手を取り合うことができると教え伝えてくれた。かの平和はその心意気を守り続けた故に存在し、そして、国民達が守り続けてきた結果である」


 改めて勇者の偉大さと国民への感謝を言葉にした。


 そして、この国を支えてきたが故に、嘆く表情も見せた。


「まだこの世界から、争い事が消え去ったわけではない。先日も我が国で、魔人の脅威が振り下ろされた。だがしかし、我らは困難に立ち向かい、勝利を得た。我が国は屈しない。先代より守り続けてきた意志を継ぎ、この国と民の平和と世界の平和を創る……架け橋になろうぞ!」


 広場からは大歓声が響く。


 ――この記念すべき日は晴天。晴れやかな青空は、王都を包み込むように祝福する。


 町も人が多く集まっているせいか、ザワザワと賑やかな人の声が集まる。


 出店だけでなく、路上にはパフォーマンスをする大道芸人や魔法使いも、この記念日を盛り上げる。


 そんな中、王城広場にてこの建国祭のセレモニーが行われ、陛下が挨拶をしていた。


 陛下は笑顔で手を振り応えると、城内へと戻っていった。


「父上、ご苦労様でした」


「ああ。やはりこういう事は慣れん」


 外から見えなくなったのか、気の緩みが出てきた陛下に、息子ハイドラスは、


「まだ建国祭は始まったばかりですし、来賓者もしっかり対応しなければなりませんよ」


 いつもの喋り方とは違う、敬語メインのピシッとした口調。いかに息子といっても陛下として接する以上は、厳格に。


 メルティアナも、


「そうですわ、父上。しっかりなさって下さい。母上に怒られますわよ」


 こちらも中々気合の入った丁寧語。


 外交に出ている女王を引き合いに出されて、眉を潜ませながら、げんなりとした表情に変わる。


「はあ、わかっているよ」


 何日もかけて考えた挨拶にダメ出しされながらも、次の場所へと護衛とともに向かった。


 そしてその演説を聞いていたこの男は鼻歌混じりに、賑わう城下町を楽しげに歩く。


「ふっふ〜ん♩ ふっふ〜ん♩」


 すれ違う人達は、なんてひどい鼻歌だろうと、苦笑したり、変な目で見られたりしていた。


 そんな彼の前に、一つの風船が空へと飛んだ。


「ああっ! アタシの風船〜!」


 子供が手を離してしまったようだ。


 見兼ねた彼は、その風船目掛けてギュンと高く飛ぶと、風船の紐を掴み、そのまま女の子の元へと降り立つ。


「これは君の風船かなぁ〜?」


 その風船を差し出すと、戻ってくるとは思っていなかった女の子は、そっと手に取り、ニッコリ笑った。


「ありがとう! 水色のお兄ちゃん……?」


 顔立ちが女顔で身長も低いので、性別がわからないようなので、その髪の色から小首を傾げながらお礼を告げる女の子。


 その母親は「すみません、ありがとうございます」と何度もペコリとお礼をする。


「お兄ちゃんだぴょん! このクルシアちゃんにかかれば楽勝だぴょん!」


「お兄ちゃん面白い〜!」


 うさぎの仕草や語尾が気に入ってくれたのか、女の子はさらに楽しそうにクルシアを見る。


 すると、クルシアはその女の子の頭を撫でながら尋ねる。


「ねえ、お嬢ちゃん。今日からのお祭り、楽しみにしてた?」


「うん!」


「そっかぁ〜! 何々? ママと何するのかなぁ?」


 すると女の子は、今度は手放さないように風船の紐を強く握りながら、母親とのしたい事を指折り数える。


「うんとね、美味しいものいっぱい食べるでしょ。アクセサリーとか見るでしょ。劇とか観に行くでしょ。あ、あと魔法の体験会とかもあるんだって!」


 魔法を使う機会などない幼い女の子は、純粋な眼差しでクルシアに教える。


「そっかそっかぁ〜! ママさんも大変だねぇ」


 女の子の髪を激しくわしゃわしゃしながら、母親に同情すると、困った笑顔を見せているが、


「そうなんですよ。大変で……」


 声は困っておらず、むしろ嬉しそう。娘との祭りを楽しもうという雰囲気がクルシアにも伝わってきた。


 女の子がわしゃわしゃされているのに、抵抗していると、クルシアは離したが、女の子は少しむくれた。


 子供扱いしないで欲しいと言わんばかりに頬を膨らませる。


「もうお兄ちゃん! アタシは立派なれでぃーなんだから……」


「ふふ、ごめんごめん。でもさ――」


 すくっと立ち上がる。


「お兄ちゃんも楽しみなんだぴょん。ちょっと浮かれてるんだぴょん」


 その言葉に母親の方がクスっと笑ってしまった。


「ああ、ごめんなさい」


「ハハハ。いいよいいよ。せっかくのお祭りなんだし、笑っていこうよ! ね?」


 親子はその屈託のない笑顔と意見に同意する。


「うん!」

「そうですね」


 その親子とは大手を振って、クルシアと別れた。


「そう……ボクはもう、とっても楽しみさ」


 ***


「はあ……いっぱいお店があるよ! 早く行こ!」


「食う」


「ちょっとお待ちなさい」


 子供みたいにはしゃぐアイシアと、今日はとことんまで食べると意気込んでいたフェルサを追いかけるナタルは大変そうだ。


 この役目、本来ならリュッカの役目だろうに、


「ナタルちゃん、大変だね」


「ほら、リュッカも行こ」


 今日は建国祭一日目。


 予定としては、午前中はアイシア達と町の散策。午後からは例の劇を観に行き、明日のパラディオン・デュオ本戦に向けての確認等を行う。その後は寮でパーティー。ヘレンやサニラ達も誘っている。


 中々、こんなお祭り騒ぎが出来ないので、アイシアのテンションも、予定を立ててる当初から上がっていたのを覚えている。


 まあ今もそうなんだが。


「おじさん、これ一つ下さい!」


「私もくれ」


「はい、毎度」


 両手いっぱいに食べ物を抱えるも、遠慮なく注文するアイシアに、おじさんも呆れた笑顔。


 フェルサは獣人だけに食うのが早い。


 この二人は手当たり次第の屋台の食べ物を食い尽くすつもりだろうか。


 抑えるよう説得するナタルにも熱が入る。


「楽しむのは構いませんが、限度を考えて下さいな」


「考えてるよ……むぐぅ……ちゃんと」


「胃袋の加減くらいわかる」


「――口に物を入れながら喋らない!」


 まるで親子のような光景だが、アイシアの食べている量や抱えている物を見ているだけで、胸焼けがしそうだ。


 大食いタレントをテレビで観ているより、生だからか尚更。


「さっきから食べてないけど、いいの?」


「いや、あれ見てたらね」


「そうね。私もお腹がいっぱいになりそう……」


「それにしてもテテュラがついてくるとは思わなかったよ」


「そう? 元々彼女(アイシア)に誘われていたし、付き合う気はあったわよ。……勿論、演劇もね」


 俺はビクリと身体を震わすと、身体の力が抜けたように落ち込む。


「それなんだよね〜。ううっ、行きたくないなぁ」


「私は楽しみだよ。あのカーチェル劇団の舞台が観られるし、リリアちゃんが主役の劇だなんて、ワクワクするよ」


「……一応その題材、あの事件だってわかってる?」


「わかってる、だからこそだよ。魔人について意識してもらえるいい機会じゃないかな?」


「まあ……」


 それは劇団の人達も言っていたことだ。納得した上で、オッケーを出したわけだから。


 とはいえ、自分がやったことを目の前で復唱されるのは、やはり気恥ずかしい。


「もう当日だし、どうしようもないでしょ?」


「まあ、ね」


「それにしても……ん?」


 リュッカは何か見つけたのか、足を止める。


「どうしたの?」


「ほら、あの人……」


 その指差す方には、人だかりが出来ていた。


 老若男女問わず、密集している店先にはニッコニコの眼鏡の男の姿があった。


 その店先には、屋台としては珍しく眼鏡が並ぶ光景。しかし、ラバの時に見覚えがあるのも事実で。


「眼鏡売りのお兄さん!」


「――いらっしゃい! ん? おおっ、お嬢さんじゃないか!」


「お久しぶりです」


 リュッカはぺこっと一礼。お兄さんは上機嫌なようでニッコニコで対応。


「そばかすのお嬢さんも久しぶり。攫われたって話だったが、無事で良かった」


 そういえば、連絡を取っていなかったなぁと目線を逸らす。


「はい。殿下から聞きました。証言してくれたようで、ありがとうございます」


「なに、別にいいさ。これからも贔屓(ひいき)にしてくれれば、それでさ」


 そんな世間話をしていると、アイシア達も合流。


「あっ! お久しぶりです」


「お久」


「おおっ、今日はお揃いだな。それに知らない顔もちらほらいるな。……あれ? あのウェーブの()はいないのか?」


「サニラは仕事」


 初対面のナタルとテテュラは一礼して、軽く自己紹介をした。


「それにしても儲かってるみたいですね」


「まあな。これもお嬢さんのお陰さ。サングラスにコンタクトレンズにと、色々アイディア貰ったからな」


 本当なら情報量を頂きたいところだが、何かとお世話になってるお兄さんに、貸しを作り続けるのもアレなので、素直に受け取ってもらおう。


「最近、流行ってますわね。これ」


 手に取ったのはサングラス。


「売れ方がまあ……オシャレメインになってるからねぇ。コンタクトレンズもカラーコンタクトや擬似魔眼みたいな使い方のほうが売れるよ」


 本来の眼鏡の使い方とは一体と、疑いたくなるような発言。


「委員長は買わないの?」


「流行り物には(うと)くて――」


「なら! 是非一本、買ってって下さいよ、お嬢さん!」


「いや、わたくしは……」


「わたくし? ……なるほど、どこか気品が(ただよ)うお嬢さんだと思ったら、お貴族さんだろ?」


「え、ええ、まあ――」


 ナタルがセールストークに押されている中、リュッカは吟味(ぎんみ)していた。


「リュッカ、買うの?」


「うん。授業とかで走り回ることも多いから、スペアを何本か」


「そうね。普通に視力が悪いと、スペアが無いと不安よね」


 そこを聞き流さなかったお兄さんは、ある程度ナタルを落とし終えたのか、リュッカにトークをかける。


「だったらいっそ、コンタクトレンズにしてみないかい? これなら、眼鏡の破損の心配はご無用!」


「張り切ってますね〜」


「そりゃあこれだけ人がいるんだ、ガッツリ営業しないとな」


 商人魂ここにあり。


「で、でもそれ……直接目に入れるですよね?」


「大丈夫! その目に合うように調整できるし、入れ方も簡単! なんとすり抜け機能がついてて、目に自然につけることができる」


 皮膚貫通の方が怖い気がするが、上から乗せるだけは確かに簡単そうだ。


「で、でも……」


「それに……」


 お兄さんがとどめのセールストークをするため、耳打ち。


「意中の男性に普段とは違う素顔を見せて、ドキッとさせてしまおうよ」


 女心をついた見事な買わせ文句に、リュッカも真剣な表情。


 俺達から見れば、なにを言われたと首を傾げるだけだ。


 するとリュッカ、決断したようで、


「か、買います! 助けてもくれましたし、是非!」


「ありがとさん! あ、でもついでにスペアも――」


 本来の目的をついで扱いすることで、買わせてしまう手法に、ちょっとゾッとしてしまう。


 目的以外を買わせる手法は、商売をする人間としては、必須スキルだろうが、俺が商品提案してからの手腕が凄い。


 そんなことを思っている間に、あれやこれやと勧められていると、結果――、


「買ってしまった……」


「こ、こんなに買う予定は……」


 こんな言葉がある――やってから後悔しろと。


 この二人には、この後悔から色々学んで欲しい。


「あの人、上手ね」


「完全に他人事だね。テテュラ」


「これから行く場所についても他人事よ」


「ぐっ」


 そんな楽しげに話しながら、劇場に向かう俺達をアイシアは嬉しそうに見る。


「なに?」


「やっぱりこうやってみんなでいるの、楽しいなって」


「まあそうだね」


「いつも一緒にいるけど……」


「建国祭という特別な環境下ですもの、当然ですわ」


 俺達の何気ないこの会話にテテュラとフェルサは思うところがあるようで、哀愁(ただよ)う雰囲気をにわかに感じた。


 そのフェルサがポツリと呟く。


「……やっぱり、仲間っていいね」


「フェルサ?」


「……私は一人だった。そこからサニラ達に拾われて、仲間の大切さを知った。一人じゃ得られなかったものが確かにあるって……思った」


 そう語るフェルサは、いつもみたいな淡々とした表情ではなく、嬉しさが(にじ)み出てくるような、優しい顔をしていた。


「みんなもそう。色々あったけど、やっぱり……いい」


「……ジードさんの言う通り、この学園に通ってよかったろ?」


「あの鬼婆は嫌だけど」


 ここでみんなドッと笑顔で居られる……俺自身もそんな関係に感謝している。


「どうしたの? テテュラちゃん」


 その中で一人だけ、寂しそうな笑顔をしていた。


「何でもないのよ」


「そう?」


「ええ、本当に何でもないの。……こんなに幸せなことはないわ」


 どこか意味深な、自分とは違う世界の話をしているかのような言葉に聞こえたが、そんな意味など特に考えることもないアイシアは、


「これからもずっとだよ」


 只々、純粋な笑顔を向けた。


 (にご)り一つ無いその笑顔は、眩く、直ぐ側にあって、でも手を伸ばせば、焼かれそうな存在に思えた。


 自分の覚悟を焼き尽くされそうな光。


「……ええ、そうね」


 テテュラは素直な気持ちに、言葉だけ応えた。


 ***


「き、来てしまった」


 だらんと肩を落とす俺が見る先には――、


『魔人対新たなる英雄達 〜勇者の再来と黒炎の英雄〜』


 とデカデカと甲板が掲げられている。


「まあ、わかりやすいタイトルの方が呼び込みやすいですわね」


 他にもやるようで案内を見てみると、他の劇団名とタイトルが並んでいる。


 ステージも複数分かれているようで、まるで映画館みたいな感じ。


「あ、来た来た」


 そこには勇者校の制服を着たヘレンの姿があった。


「出てきて大丈夫なの?」


「大丈夫じゃないよ。だからこっち……」


 と言われ、関係者の部屋へと引きずり込まれ、もとい案内される。


「よく来てくれましたね。ありがとう」


「いえ、こちらこそお招きありがとうございます」


 とりあえずロイドに社交辞令のご挨拶から。


「いやぁ!! 黒炎の魔術師さん! 来ましたねぇ!!」


 出た。めちゃくちゃな脚本家さん。


 姿を見せた早々、俺の手を握り、ブンブンと大きく手を振り、握手。


「ご許可を頂いたお陰で、素晴らしい出来栄えですよ! 期待してて下さい!」


「あ……はい」


 このテンションに対応する方が体力使いそうだったので、適当に流す。


 その後、みんなにも元気に挨拶を済ますキャンティアは、俺達が観る特別席へと案内を進めた。


 その場所は舞台を上から観れる展望席。


 思わずアイシアは身を乗り出し、景色を眺める。


「おおっ、凄いね」


「危ないから、シア」


「ポチからの景色の方が凄いでしょ?」


「それとこれとは別だよ」


 まあ気持ちはわかる。


 客席も見下ろせるのだ、この特別感が気持ちを高鳴らせるのは、わからないではないが、


「やる内容がなぁ〜」


「「はあ……ん?」」


 思わず出たため息が以心伝心していた。


 その相手は、先に座っていたアルビオだった。


「あれ? アルビオ」


「えっと、こんにちは」


「お、やっと来たか、オルヴェール」


 そこにはハイドラス達の姿もあった。だが、側近である二人の姿はない。


「殿下、お忙しいのでは?」


「そうだとも。これもその一環の一つだ」


 そう上を指差すハイドラス。さらに上に客席があったことから、他国のお偉いさんも来ているようだ。


「では何故、殿下がここに?」


「羽休めもさせてくれ。朝からどころか、昨晩から相手をさせられているのだ。それに――」


「それに……何です? ハイド」


 気品のある女性の声がふわっと聞こえた。


 すると、ハイドラスとアルビオの顔色が変わっていく。先程の疲れた表情とは一転した、青ざめた顔をしている。


 恐る恐る、カラクリ人形のようなカクカクした動きで振り向くと、黒の派手なドレスに身を包んだ、気品の高そうな女性の姿があった。


「お、おやぁ? 何故、ファミアがここに……?」


「あら? 婚約者(フィアンセ)と一緒に、この国で起きた実話の英雄譚を眺めるのはいけないこと?」


「そ、そんなことはないさ! は、ははは……」


 いつもの余裕のある態度がないことにも驚いたが、何より婚約者(フィアンセ)が現れたことにも驚いた。


「へー、この人が殿下の婚約者さんですか?」


「ちょっと、アイシア……」


「フフ、構いませんことよ。黒炎の魔術師、リリア・オルヴェール」


 すると、手に持つ黒扇子をパチンと畳む。


「ご機嫌よう。わたくし、ラージフェルシア王国第一王女、ファミア・ラージフェルシアと申します。いつも、わたくしのハイドが世話をかけているわね」


 堂々とした立ち姿で自己紹介をする姿に、自尊心の強さを感じた。


「お、お姫様ですか!? し、失礼を――」


「気にしないで下さいな。ハイドの心意気をわたくしも汲んでいるの。ハイドと接するような形で構わないわ」


「は、はあ……」


 そうは言うものの、今までにない高貴な立ち振る舞いに、黒を基調とした煌びやかなドレスをすんなり着こなし、確かな貫禄を見せる彼女には、接しづらい印象が強く、萎縮される。


「あれ? でも、第一って……」


「わたくしには弟がいまして、彼が国を継ぎますので、わたくしは政略結婚の道具にこの国へと嫁ぐわけなの」


「おいおい、言い方ってもんがあるだろ?」


「あら? 事実じゃない。それより、何故ここで悠然と座っているの? 少し席を外すと聞いていたのですがぁ?」


 どうやらハイドラスは抜けてきたらしい。どおりで二人の姿がないわけだ。


「――アルビオが一緒に観て欲しいと言われたんだ。ほら、自分の役があるなんて聞いていなかったらしいし……な!」


「え、ええ……」


「あら、そうですのぉ?」


 考えていることなどお見通しと目が語っている。


 見下し、冷めた視線を送ると、その視線に辛抱出来なかったアルビオは、小さくか細い声で、


「ご、ごめんなさい、嘘です」


 と白状。


「おい! アルビ――おぐぅっ!?」


 ガシッと後ろから首根っこを掴んで、ハイドラスを回収。


「あ〜ら。婚約者を差し置いて、嘘をついてまでご友人とだなんて、涙ぐましい友情ですこと……ユーキル」


「は! 姫」


 ファミアの隣にいた、黒フードの男がハイドラスを拘束し、連れ帰るようだ。


「た、頼む、ユーキル。わ、私は……」


「……」


「そんなに怯えることありませんわ。仲良く……し・ま・しょ?」


「ア、アルビオぉ〜!!」


 そのままハイドラスは連れて行かれた。


 状況がわからないので、助けを求められていたアルビオに説明してもらおう。


「あの、何であんなに嫌がってたの?」


「まあ、高圧的な方には見えましたが……」


「えっとね、子供の頃から上下関係がはっきりしてまして――」


 小さい頃から決められていた婚約者がファミア・ラージフェルシアというお姫様。


 東の国の中では、闇属性持ちを多く住んでいる王国らしく、その技術関連から交流がある。


 ファミアは闇属性ではないが、先程の側近は闇属性持ちらしい。


 それでその技術から色んな魔道具も流通しているのだが、遊びに来てはそれをハイドラスやハーディスなどに試していたよう。


 ただ、次第に王族としての役割や勉学のため、交流も少なくなった影響から、フラストレーションが溜まり、会うたびに過度な嫌がらせをするらしい。


「そんな婚約者だったとは……」


「まあ愛情の裏返しなので、大丈夫は大丈夫なんですけど……」


「けど?」


「……」


 困ったような笑顔で沈黙した。


「いや! なに!?」


「……やり過ぎてしまう傾向にあると?」


 ナタルの代弁にこくりと頷いた。


「一度、お会いしたことがありますが、殿下にそのようなことをしてらしたのは、驚きましたわ」


「そっか、社交会とかで?」


「ええ、小さい頃にですが……しかし、昔と変わらず、達観してますわ」


 その振る舞いから、(おごそ)かな雰囲気は変わらないと感心を寄せる。


「そうですね。昔から賢い方でしたから、確か……王子の教育役も買って出ていたはずです」


「面倒見もいいんだ」


「ご本人は、お国のためだと言ってますが……」


「だったら少しのストレスの発散くらい、多めに見てもいいんじゃないです?」


 お茶目な一面もあって可愛いと言うルイスだが、どんなことをされているか理解しているアルビオは、変な汗をかいている。


「いや……それは、その……」


 アルビオのこの反応と、あの女王様気質を感じるファミアを連想すると、イケナイ姿が頭に浮かぶ。


「あの……聞いても大丈夫なヤツだよね?」


「えっと…………ご想像にお任せします」


 頬を赤らめ、ふいっとそっぽを向き、恥ずかしがる仕草を取る。


 ご、誤解を生みそうな仕草はやめろ! それとも本当に()()()系か!?


 今から俺の黒歴史が生まれそうな場所で、ハイドラスの黒歴史を知ることとなり、複雑な心境が先に湧き立った。

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