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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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32 恋愛という価値観

 

 ――一ヶ月後、城下町は今まで見た装いとは姿を変えていく。


 人の流れは勿論、建物には様々な飾り付けが進められていた。


 国旗を玄関前に飾ったり、出店を出す者は模様替えをしたり、勇者展望広場ではすでに観光客の姿も見られた。


 こんな派手な祭りになるとは知らず、思わずテンションも上がる。


 正直、インドア派な俺は向こうの祭りをまともに楽しんだ試しがない。


 別に嫌いではないのだが、友達と集まるとどうしてもゲームになってしまう。


 だがこうしてファンタジー要素ある祭りは、再び言おう……テンションが上がる。


 東大陸は獣人も多いため、町行く人達を見るだけでも俺は楽しい。


 まだ始まってないんだけどね。


 そんな町中を歩いているわけだが――、


「…………」


 すごーく不機嫌そうなむくれたルイスの姿があった。


「そんなに機嫌悪くしないでよ、ルイス」


「そうだよ。まだ建国祭前だけど、出てる出店もあるんだしさ」


「……そうですね」


 機嫌が悪い理由はわかっている。


 本来ならアルビオと二人っきりのつもりだったのだろうが、買い物を愉しむ俺達四人――俺、アイシア、リュッカ、ヘレンとたまたま出くわし、アイシアが――、


「一緒に回ろう!」


 と祭り前の空気に当てられたハイテンションでお誘い。


 断ることを特にしないアルビオはあっさりオッケー。


 彼氏だったらアウトだが、この二人は付き合っているわけではないので良しとしようと思っているのは内緒だ。


「それにしてもすごいですね。まだお祭り前なのに」


「うん。でも前回もこんな感じだったはずだよ」


「はず?」


「えっと……人混みが苦手だったし、殿下にくっついていたから……」


 おそらくハイドラスに引っ張られ、駆けずり回っていたのだろうか。


 まだやんちゃ盛りなハイドラスが弱気なアルビオを振り回す光景が目に浮かぶ。


「それにしてもまた大々的にやるんだね。どれだけの人が集まるんだろう」


「ハーメルトは勇者が拠点としていた国だからね。東大陸の国の色んなところから来るはずだよ」


「他大陸からはどうなんです?」


「殿下に聞いた話によれば来るらしいよ。来賓として招いている方々もいるらしい」


 殿下、そういう情報は言って大丈夫なのだろうか。


「守秘義務とか大丈夫?」


「まあ大丈夫だよ。警備も強化されてるし、それにみんななら大丈夫でしょ?」


 信頼してくれるのはありがたいが、警戒心は持とう。


「それにしてもテテュラちゃんにまた断られた」


「あの人、クールだよね」


「まあテテュラはこうやって群れるの、あんまり好きそうじゃないしね」


「というか他の方は?」


「フェルサは多分、ギルド。委員長は勉強。先輩方は補習」


 各々、充実? した休暇を取っていると説明。俺達は祭り前の空気に浸ろうと城下町を闊歩(かっぽ)しようというわけだ。


「鉢合わせてごめんね」


「そう思うなら、すぐにでも二人きりにして下さい! せっかく張り切ったのに……」


 そうこしょこしょと話すルイスの服装は確かに、オシャレな装いだが、どこか背伸びしているように見えたので、


「ちょっと似合ってないよ」


「ガーン!」


 幼児体型のルイスに落ち着いた大人な色合いの服装は合わないと、正直な感想を述べた。


「そ、それはいいです。それより……」


 ちらっとリュッカを覗き見る。


「リュッカさんを遠ざけて下さい」


「ごめんね。私はリュッカを応援してあげたいから」


「ガーン!」


 すると、俺とルイスがこそこそと話しているのが、気にかかったのか、そのリュッカが尋ねてくる。


「どうかした? 二人とも」


「え? 何でも――」


「ないです!」


 先行しているみんなの元へ行くと歩幅を戻す。


 話題は先行していたアイシア達の話の内容へ。


「テテュラちゃんはね。頭が良くて、クールで、カッコよくて……」


「何でテテュラの話?」


「僕達、あまり彼女のこと知らないからどうなのって……」


 かくゆう俺もあまり詳しくはない。西大陸出身のクールな女の子ってだけ。


 だが、よく積極的に話しかけているアイシアは、内面を挙げているよう。


「それでいて優しいんだよ。私に勉強教えてくれるし。リリィはちょっと下手だから……」


「悪かったね」


「そっか……見た目怖そうだけど、人は見かけによらないもんだね」


「それ、貴女が言いますか?」


 不思議そうに小首を傾げるのは、言われたヘレンだけではなく、俺に対してもだ。


 おそらく同じような姿、顔立ちなのに、性格も違うなと言いたげだ。


「私達、姉妹じゃないんだから」


「そうだよ」


「でも、お二人とももう少し落ち着いた性格の方が似合いますよ。少女的な性格なら完璧です」


 俺は中身男だし、ヘレンは好奇心と冒険心が強い。確かに少女系の甘えた性格の方があっている容姿だ。


 だが、うちの母親(リンナ)も幼少はあのままの性格と考えると、もしかしてこっちの童顔は少女系の性格にはならないんじゃないかと不安になる。


「そういう性格が受けそうなら、演じるけど?」


 さらっと凄いことを言ったぞ。


 性格を演じ分けるというのは、女のスキルとしては必須かもしれんが、末恐ろしく感じる。


 アルビオもそう思ったようで、反応に困っていると、


「勇者の末裔さんは騙されないようにね♡」


「は、はい……」


 肝に銘じたことだろう。


「そ、それで劇の方はどうなの?」


 聞くかどうか迷ったが、この空気を払拭する方が先だろう。


 ヘレンは自信満々に答えた。


「仕上がってきてますよ。本番が近付くにつれて、緊張感も増し、突き詰めています」


 こうして自分の仕事を評価できるのは、楽しんでいる証拠ではないだろうか。


 中々頼もしいご意見である。


 気乗りは相変わらずしないが、悪い劇にはならなさそうで安心した。


 内容が内容なので……。


「僕達も観に行きますね」


「殿下達とご一緒に来られると聞いています。勿論、リリアも殿下と同じ、特等席だから期待してね!」


「はは……」


 こういうのをありがた迷惑と言います。


「というかアルビオ! なんで断ったの!?」


「あ……」


 そういえば、そこの討論をこの男としていなかったこと、もとい文句を言っていなかった気がする。


「ご、ごめんなさい!」


「お陰でこっちがとばっちりを受けたんだから!」


「ええーっ!! 私、アルビオさんが主役の劇、観たかったです」


 するとヘレンが、チッチッチと指を振る。


「ご安心を。やはり勇者の末裔さんを目立たせないのもおかしいと思ったので……」


 バッと手を大きく広げて、テンション高めに告知。


「勝手にダブル主役にしちゃいましたあっ!!」


「――ええええっ!!?」

「よくやった!」

「やったあーっ!!」


 予想外の展開にアルビオ唖然。俺は讃え、ルイスは大喜び。アイシアと手を繋ぎ、回り始めた。


「やった、やった、やった、やったあっ!!」


「いやいやいやいや! 殿下は――」


「許可もらってます」


「僕は……?」


「もらってません」


「おかしいっ!?」


 正論。


「というか台本変えて間に合うものなんです? 小道具とか……」


「舞台は一緒なんですから、アルビオさん役さえしっかりすれば問題ありません。ってことで、愉しみにしていて下さいね」


 すると、アルビオは途端に落ち込み、沈んだ声でこう呟いた。


「行くの……やめよう」


 その一言に、俺は同情の肩叩き。


「行こう。どんな風になってるか観とかないと、後々不安になるよ」


「せ、正論ですね……」


 どよよーんとする俺とアルビオに、リュッカとルイスはドンマイをかけてくれたが、アイシアは不思議そう。


 そんな落ち込むアルビオに、ヘレンはさらに余計な質問を投げかける。


「そういえば勇者の末裔さんは、最終日のお相手とかいるんですか?」


「「!!」」


「……わーお、直球で聞く?」


「いや、モテるだろうからいるかなって」


 やっぱり最終日の夜はデートスポットとしても有名なようだ。


 それにしても、ヘレンは直球で聞くタイプだな。しかもアイシアとは違い、天然ではなく、ある程度計算を入れるタイプ。


 中々達が悪い。


 このタイミングで聞くというのは、アルビオを困らせて楽しんでいる証拠だ。


 すると目論み通り、ルイスが突っかかる。


「どうなんですか!?」


「いや、えっと……」


 言い淀んでいると、リュッカも気になるのか、目線が泳ぐ。


「い、いませんよ! そんな人!」


 奥手なアルビオにそんな相手がいるわけがない。


 元男の俺にはわかるぞ。女の子を誘うのって必要以上に勇気がいるもんだ。それに気恥ずかしいし――などなど。


 以上、ヘタレ元男子の心の声でした。


「へー、そうなんですか。意外です」


「いや、そうでもないでしょ。アルビオは一時期、殿下の後ろにくっついてるだけの時期があったんだから……」


「そうなんですか? 知りませんでした」


 同じ学校に通っていても、学科が違うから様子もわからないよね。


 あの試合を観た後では、アルビオの認識にも誤解が生じるだろう。


 いわば芸能人のオンオフみたいなものではないだろうか。仕事スイッチ的な。


 そのような偏見を持っていたルイスやヘレンが不思議そうな表情をしていることは、仕方がないことだと思う。


「だってあの試合の時はあんなに……」


「試合とそういうのは違います!」


 普段の緊張感とは管轄違いであることには納得がいく。


「でも五年に一度ですよ。誰か気になっている方を誘ってみればどうです?」


「……」


 アルビオも王都出身の人間だ、その例の夜景が綺麗なことは承知のはず。


 今まで誘わなかったのは、自分のことでいっぱいいっぱいだったことやハイドラス達と観る機会も多かったろう。


 しかし、ハイドラスが訪れる客人をもてなすことも増えてきた今日この頃では、話も変わってくる。


 色々とあって、ある程度の余裕も持っていることだろう。


 だが、色恋に余裕があるかは、緊張感と同じで話が全く別だ。


 照れ臭そうに頬をかいて、言い訳を並べる。


「えっと、ぼ、僕はその……もっと強くなるために、特訓してまして、よ、余裕がないというか……何というか……」


 絵に描いたようなヘタレ。だが、同情心はめっちゃ湧く。


「アルビオさんは確かに、今後もっと強くなるでしょう。だからこそですっ!」


 ヘレンはアルビオに詰め寄り、人差し指を立てて、物申す。


「いいですか? 男性というのは、守るべきものがあれば、真価を発揮される生き物。強さに対する執着は様々でしょうが、アルビオさんのそれは守りたいではありませんか?」


「ま、まあ……」


「そんな時、自分の心の中にパッと浮かぶ、守りたい人がいれば、それは力に変わります」


 言いたいことはなんとなくわかると、話を聞く一同だが、リュッカとルイスの視線はちょっと違っている。


 何か期待感を孕んだ視線。


 これが恋する乙女の視線だろうか。


「何故、異性は惹かれ合うのか、考えたことあります?」


「え、えっと……生物としての現象、かな?」


 身も蓋もないご返答。


 そのような返答をしたのは、ヘレンが主導権を握り、自分が困惑する話を切り上げるためだろうが、


「それはロマンだからです!」


 特に萎えることもなく、話が弾んでいく。最早、答えなど気にしない。


 そして、話の方向もおかしくなってきている。


「この世界に同じ人間など存在しません。だからこそ他人に惹かれる。そして異性に惹かれるのは、そこに運命を感じるからです」


 リュッカとルイスは、こくこくと頷いているが、精神論の話が弾むとキリがなくなってくるような気がする。


「運命……それは恋! 恋は人生において、最大の物語なのです! 恋に形は色々あれど、男女感の恋、愛は大多数の人間が認める人生譚なのです!」


 さすがは役者。人の人生を演じることを誇りとしている人間の言うことには、熱量も相まって、説得力がある。


「ですからそのチャンスを不意にし、後回しにするなんて言語道断です! 男性なら特に! 女性を自分のものにしようという気概くらい持たないとダメですよ。それに……」


「そ、それに……?」


「勇者の末裔たる者、女性の一人も口説けないでどうしますか」


「――なっ!?」


「そんなヘタレの末裔さんに守ってもらう? 不安でしょうがありません」


「――っ!?」


 アルビオの顔色がどんどん悪くなっていく。図星を突かれているのか、言葉を聞く度にギクリと身体が跳ねている。


 この時、俺は思った――女で良かった。あんな言葉浴びせられたら、ヘコみそう。


「いいですか? 恋愛とは二人三脚です」


 なんか聞いたことがあるような……。


「人間、長所短所はあるものです。それを補い、支え合い、育んでいく……そして芽生えるものが愛です。……この人を守りたい、この人を支えてあげたい。そう願うことが愛なのです」


「は、はあ……」


「ふと自分の心が弱った時、自分を想う人がいることがどれだけの支えとなることか。家族、友人、仲間、そして恋人! 人は一人では生きていけません! だから育むのです! 愛を! わかりましたか?」


「は、はい!」


 人を好きになることは重要なのだと、熱弁して下さったヘレン先生。


 勉強になるが、ちょっと怖かった。


 そんな彼女は、


「それで話を戻しますが、好きな方はいますか? 意中の女性、いるんでしょう?」


 急に俗っぽい感じへと変わる。さっきのいい話をしていたヘレンはどこ行った?


 その質問にさっきより、動揺し、紅潮するアルビオは、


「ご、ごめんなさいっ!! し、失礼しまぁーすっ!!」


 先程までの話もあってか、堪らずその場から逃走した。


「「――ああああっ!!」」


 アルビオの話を聞けるかと期待した、ヘレンとルイスは、残念そうな叫びをあげるが、ヘレンがボソリと、


「ちょっと攻めすぎたか?」


 その一言に、ヘレンにこの手の話を握らせるのは、止めようと誓った。


 すると入れ違いで、別の男の子が現れる。


「よ、よう」


「あれ? レオン君?」


 アイシアに龍の騎乗を教えていたレオンだった。


「お久しぶりです」


「お前も久しぶりだな、リュッカ」


「私のことは覚えてる?」


「もちろんだ。というか、有名人だろ、お前」


「はは……」


 黒炎の魔術師の名は伊達ではないだろうと、呆れた物言いをされると、隣にいるチャラそうな癖っ毛男子が、サラッと俺達の前へ。


「そんな言い方ないだろ? レオン。……ごめんね、コイツ不器用でさ。お詫びと言っては難だけど――」


 チラッと出店を見ると、あれだなと判断し、


「奢らせてよ、ね?」


 サラッとナンパしてきた。一緒に食事しよという明らかなお誘い。


「やめろ、バーツ。お前は本当に手当たり次第だな。懲りない奴め」


「馬鹿言え。あの黒炎の魔術師だぜ。男として、話しかけるのは当然でしょ?」


 いえ、別に当然じゃない気がします。


 そんな苦手なタイプの男性がいるなぁと、リュッカが恐る恐る顔見知りのレオンに尋ねる。


「この方は?」


「すまない、コイツはバーツ。俺の友人でな。ここへ来ると言ったら聞かなくて……」


「バッカ! お前のハートを射止めたレディに会いに行くって言ったら、行くに決まってるだろ?」


「馬鹿はお前だっ! 誰がそんなことを言った」


 男友達のノリってこんな感じだったな。懐かしい。


 俺達はこんな冷やかし合いはなかったが。


「じゃあホントの理由は何です?」


「俺達の国のお偉いさんも、建国祭に来るからな。それの視察団に俺達が選ばれたんだ。ヤキン先生も来てる」


 あのアルミリア山脈の向こうの国だからな。道中を含めての安全確認といったところか。


「ところでそいつらは?」


 ルイスとヘレンについて尋ねられたので、自己紹介を済ます――。


「いやぁ、それにしてもそっくりだね。楽しみにしてるよ、ヘレンちゃんの黒炎の魔術師」


「ええ、期待してくれちゃって大丈夫です」


 チャラ男特有の褒めとけ作戦を、営業スマイルで軽くスルーしてみせるヘレン。


 俺達は結局、奢ってもらい、そのまま案内役を買ってしまった。


 奢ってもらったのは、出店の焼き菓子。


 女の子は甘い食べ物好きだろと、あの辺りの出店の中で、香ばしい匂いを放つ焼き菓子にたどり着いた。


 見た目は完全にワッフル。ただサイズがベビーカステラ。


 厚みが無い分、ベビーカステラ以上に、パクパクと口に入っていくが、これならベビーカステラでよくね? と思ったのは、俺だけだ。


「こんなの食べたことないよね。美味しい!」


「アイシア、一人で食べ過ぎちゃダメだよ」


「はーい」


 バーツは女子全員にご馳走すると、言ったのだが、シェアしようという話でまとまり、アイシアがベビーカステラならぬ、ベビーワッフルの袋を所持。


 そんな無邪気に笑うアイシアに視線を送る男の姿が見えた。


 レオンはバレないようにか、たまにアイシアを見るようにしているが、周りのみんながわかってしまうほどの不器用さ。


 気付いていないのは、例によってアイシアだけ。


「あの人、バレバレですね」


「あー、やっぱり?」


 俺とルイスがまた後ろで話していると、前であの賑やかな男がアイシアに話題をふる。


「どうだった、レオンの奴。俺と違って、人付き合い苦手だからさ。戸惑ったんじゃない?」


「お前っ! 余計なことを――」


「とってもわかりやすかったよ。それに一緒に飛んでくれたりもして、優しく教えてもらったよ」


 素直な感想に思わずレオンは赤面。照れ隠しか、俯きながら礼を言う。


「あ、ありがとう」


 その反応を見たヘレンも、俺達の方へ来ると、こしょっと耳打ち。


「アイシアちゃんって、やっぱりモテる?」


「幼馴染のリュッカ曰く、モテる」


 しかも男女問わず。


 モテる理由については、概ね理解できる。


 容姿端麗でありながら、あどけなさが残る顔立ち。


 加えて、性格は明るく、天真爛漫。子どもっぽいところもあるのだが、思いやりがあり、時にはナタルを励ます時に見せたような母性も発揮する。


 俺やリュッカのような恨み言や嫉妬の目線であまり見られないところは、この素直で天然な性格によるものだろう。


 男性目線から見させてもらえば、素直で優しい彼女に居て欲しい。天然でどこか危なっかしい彼女を守ってあげたいってところかな?


 レオンの場合も、そんなところに惚れたのだろうか。


 聞いたところで素直に答えてはくれなさそう。


「そっかそっか。良かったな、レオン。嫌われてないってさ」


「そ、そんな心配はしていない!」


「嫌われる? 何で?」


「いやぁ、コイツね――」


「おい。その流暢(りゅうちょう)に喋るその口、引き千切るぞ」


 ガンつけて言い放つと、バーツは悪い悪いと軽いノリで返答しつつ、こちらへと軽い足取りで来た。


「相変わらず無愛想なんだから。俺みたいに愛想良くしないと、嫌われちゃうぞ」


「貴方はもう少し節操を持った方がいいのでは?」


「ん?」


 というのも、サラリと肩に手を回し、スキンシップを取ってきた。


 すると、パッと離れてあどけてみせる。


「あれ? 友好の証だよ。気ぃ悪くしちゃった? ごめんね」


 こういう女の子に言い寄ろうとする悪ノリは慣れない。


 告白等は受けたことは多々あるが、こういう隙あらばグイグイくる感じは初めてで戸惑う。


 だが、ヘレンはそんなセリフが出てくるほどだ、慣れた対応。


「そんな風にふわふわしてるから、相手にされないんですよ」


「手厳しいなぁ、ヘレンちゃん。でもさ、俺、こう見えても、優秀な龍操士(ドラゴンライダー)候補だぜ。素敵な空の散歩にも是非、案内させて欲しいな」


 レオンの先程の話と照合すれば、そうなるのだろうが、この軽い態度を見ているとイマイチ信用に欠ける。


 そう感じたのは、ヘレンも同じなようで、特に興味もないように、


「そうですか。でも大丈夫です」


 さらりと答えた。


「じゃあ君はどう?」


「え、えっと……」


 俺に振られたが、ヘレンが断った後なので、断りやすい。


「私はアイシアのポチに乗ったことあるし、友達同士の方が、ね」


「確かに彼女も凄いらしいけど、俺も負けてないぜ」


 くっ、引き下がって!


 やんわり理由をつけてのお断りは、効果がないらしい。


 すると、ヘレンがサッとバーツに聞こえないくらいの小声でアドバイス。俺はそう答えることに。


「き、機会があれば……」


 いや、これって、オッケーだよって意味なんじゃ、とも焦ったが、


「じゃあ約束、ね?」


 満足げにそう言うと、レオンを茶化しに楽しそう戻った。


「あの断り方で良かったの?」


「ああいうタイプは、苦手でしょ? リリアは……」


「まあ、うん」


 逃げ道をズブズブと潰して、押すタイプ。


「彼、貴女のこと、押せばイケるって思ってたよ。素っ気ない態度を取らないから……」


 そんな隙だらけだったのねと、客観的な有り難い意見を頂いた。


「だからチャンスはあるよって、こっちから振っておくの。相手からじゃなくてね」


「は、はあ……」


「要するに会話の主導権を相手に握らせないようにすればいいの。はぐらかし続ければ、オッケーだから……」


 つまりは、相手のナンパしている空気をバッサリと切り捨てることが大事だということだろうか。


 確かにまた今度って言えば、これ以上は来るなって言ってるようなもんだしな。それにそこで引かないようなら、怒ればいいしね。


 セールス対策みたいなものかな?


 俺みたいに押しに弱いなら、また今度、対策して強めに押せばいいと思うのだろう。


「手慣れてるね」


「うちの劇団、そこそこ人気あるから。打ち上げとかで、そういう人がいるの」


 なるほど。経験値をちゃんと稼いでらっしゃる。


「まあでも、アレは大人しい方だよ。女の子と一緒に遊ぶのが好きなだけかな?」


「確かにじゃれついてる感じですけど、何で私には一声もないんですっ!?」


 向こうでリュッカも言い寄られて困っている様子を見て、納得いかないルイス。


「えっと……原因を言っていいなら、言うけど」


「わかってるから言わないで下さい!」


「守備範囲外?」


「――歳一緒っ!!」


 どうしても子供扱いされる容姿に、プンプンと怒りを露わにする。


「でも、あそこから恋愛には結びつくのかねぇ」


「さあ? 運命はどこから吹くかわからないから、あながちあるかもよ」


 とウインクされたが、


(ないわぁー)


「あっちはどうだろ?」


「アイシアとレオン?」


「そう」


「うーん、恋愛に関しては私より素人ですからね。二人とも」


 どの口が言うと、俺とヘレンはジッと見るが、本人は自信満々だ。


 相手にすらされていなかったのに。


「アイシアは天然で、レオンは不器用さんだからね」


 そんな二人を含め、色んな関係を見るにあたり、それぞれ価値観が違うのかなと、感じた。


 自分もシドニエかリカルドのどちらかと、デートする予定にはなっているが、その時、自分の中に恋愛感という価値観を見出すことがあるのだろうかと思うのだった。

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