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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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31 性別によって違う話

 

「――ええええええええーーーっ!! それホントなのっ!!」


 その夜、本戦出場おめでとうパーティーが開かれた席で、先の出来事が暴露。


 会場は騒然となり、黄色い声とともに話が盛り上がっていく。


「いやぁ〜遂にリリアちゃんにもそんな浮いた話が出てきたんだね〜」


「考え深いですなぁ〜」


「というか、何でその場に呼んで下さらなかったんですの!?」


「無茶言わないでよ! 委員長!」


 盛り上がってないのは、テテュラとフェルサくらい。


「青春ですね〜」


「あのテルサさんも止めてくれません?」


「いいじゃないですか。私なんて……私なんてぇーっ!!」


 そんな思い出もなかったとばかりに、目にいっぱいの涙が溢れ出る。


「ああああっ!! ごめんなさい!」


「で? 実際どうなの? 彼らのことは」


「ふんふん! どうなのどうなの?」


 テテュラはこの手の話、興味ないんじゃないの!? 切り出さないで欲しい。


 完全に女子会空気が漂ってきた。所謂(いわゆる)恋バナトーク。


 この空気は出来れば読みたくないが、逃げ場もないので、とりあえず率直な意見を述べることに。


「どうと聞かれても、アーヴェルさんはちょっと苦手意識があるし、シドニエは弟っぽい感じ……かな?」


「まあシドニエさんは情けない感じですものね」


「でも大会の時は、カッコ良かったですところもあったじゃない。勇者君とやり合ってさ……」


「でもそこから頼もしさに気付いてって感じなのかな?」


「「「きゃあーーっ!!」」」


 先輩方とアイシアは手を取り合い、その場でぴょんぴょんと跳ねて共感する。


 実に楽しそうではあるが、気は乗らない。


「苦手意識って?」


「ん? なんていうか生真面目なんだよね。それでいて押しが強そうというか……」


「そうだね〜、リリアちゃん、押しに弱いもんね〜」


「だねー。そのまま押されて……」


「「「きゃあーーっ!!」」」


「勘弁して……」


 確かに恋愛に疎いし、チキン野郎だから押しにも弱いけど、せめて相手くらいは選びたい。


「一人の女の子を巡っての男と男の勝負。そして彼女は思うの……「わ、私のためにこんな……キュン」ってね」


「「「きゃあーーっ!!」」」


「あの……お嬢さん方ぁー?」


「極めつけは、華やかに彩られる城下町の夜景をバックに愛の告白。かーらーのー……」


 後はわかるよねと、ニヤッと笑みを零すと、


「「「「きゃあーーっ!!」」」」


 何故かナタルまで混じって黄色い声を上げる。


「ちょっと、そのくらいにしてよー。お嬢さん方ぁ」


「諦めた方がいいわよ。今日は多分、これで一晩中盛り上がるつもりじゃないかしら」


「そう思うなら焚きつけないでよ! テテュラ!」


「ねえ、バークとサニラをくっつけるには、ライバルが出来ればくっつくかな?」


「あの二人はほっとけば、そのうちくっつくよ!!」


 サニラが睨み利かせてるんだし、早々女なんて寄り付かないし、ガキっぽい性格から恋愛対象になる可能性も低いから、心配ありません。


 いくら恋バナに飢えていたとはいえ、盛り上がり過ぎだろ。


「それでリリアちゃん。肝心のリカルドさんってどんな感じなんですか?」


「ああ、うん。一応聞いたよ――」


 あの後、ある程度ユニファーニをとっちめた後、エルクに文句を垂れ流しながら聞いた。


 リカルド・アーヴェルは、ハイドラスも言っていた通り、側近候補だった。ハーディスやウィルク同様の名門貴族。


 ハイドラスの側近になるべく、英才教育されているため、文武両道。


 頭は良く、剣技も優秀で、肉体型の魔力操作も完璧にこなし、貴族校での一学年トップの成績を誇る。


 更に、性格は真面目で真っ直ぐでありながら、知性的でもある。


 鼻につくようなこともないため、人徳もあるという完璧超人みたいな奴。


 さらに言えば容姿も完璧。


 知的という意味で、ハーディスとかぶっている部分があるが、ハーディスと違い高身長で、女性受けのいいスラっとした体格に加えて、ウィルク並みの甘いマスクの持ち主。


「――だってさ」


 つまりはハーディスとウィルクを足して二で割った感じだ。


「あれ? でも側近候補だったのに落ちちゃったんだよね? 何で?」


「エルク曰く、最終的には殿下が決めたそうだよ。自分の側近になるんだから、周りの大人が、はい、この人ねってわけにもいかなかったんじゃない?」


 それにハイドラスの性格を考えると、ウィルクみたいな砕けた性格をしている人を置きたかったようにも思える。


 ハーディスとリカルドが並んだら、胃がキリキリしそう。


「まあ、王族の側近が能力だけでの判断っていうのは、ないか」


「それでも彼氏候補としては優良物件でしょー」


「あのね、仮にアーヴェルさんとそういう関係になったら、一気にしがらみがのしかかってくるんだよ? そんなの嫌」


「ええー。私も貴族だけど、ちょっと社交会に顔出す程度だよ」


「今はね!」


 ていうかユーカが社交会に出てたことに驚く。


「じゃあ、あの情けなさそうなパッとしない男を選ぶの?」


「フェ、フェルサちゃん、ちょっと言い過ぎ……」


「選ぶ選ばないじゃなくて、そのイルミネーションデートだっけ? それをするだけ! 付き合うとかないから……」


「おーおー、この堅物をどう落とすか楽しみですなぁー」


「せ・ん・ぱ・い?」


 もういい加減にしろと、威圧感たっぷりに睨みを効かすと、


「イ、イエッサー……」


 俺はそのまま会場を出て行った。


「ちぇー」


「まあまあ。リリアちゃんも困惑してるところに、皆さんで騒いじゃったから……」


「そうですわね」


 ちょっとはしゃぎ過ぎたと反省するナタル。先輩方は不貞腐れている。


「でも王都のイルミネーションかぁ……楽しみだね! リュッカ」


「うん! 初めてだから、ドキドキする」


 その発言に次の獲物がそういえばここにも居たなと、先輩達の目に輝きが戻る。


「ていうか、リュッカちゃんは勇者君がいたねぇ」


「そうですな〜」


「――ええっ!? な、何を言ってるんですか!?」


 そこにナタルも興味津々な表情で割り込む。


「さっきも何やらアルビオさんとの会話中、ずっと赤くなっていましたし……」


「それ本当!?」


「あ、あの――」


 今度はリュッカをネタに騒ぎ出すが、アイシアはテテュラとフェルサの元へ。


「二人は誰かと観に行こうとかないの?」


「特には……」


「じゃあ一緒に観に行こうよ! サニラちゃん達も誘ってさ」


 フェルサは悩む。


 サニラのことだから、ツンデレマックスでバークを誘うだろう。


 しかし、それが上手く伝わった試しが今までない。今年こそ上手くいく……ということもないだろうと結論。


「わかった。誘っておく」


「やったあーっ!! テテュラちゃんも行くよね?」


 その誘いにテテュラは渋ったような顔をする。


「……ごめんなさい。その日は用事があるの」


「え? そうなの」


「まだ建国祭まで日にちあるのに予定が入ってる……あっ」


 フェルサはピンと耳を立てて閃く。


「男?」


「まあ……そうね」


 アイシアが嬉しそうに表情が変わっていくのがわかる。


 そして次の行動も、手に取るようにわかる。


「待ってアイシア。黙っててくれないかしら? 私もああはなりたくないの」


 その視線の先には、耳まで真っ赤になったリュッカの姿があった。


「……うん、わかった。上手くいくといいね。お友達として応援するよ!」


 その屈託もない笑顔を向けられると、ズキッと胸が痛んだ。


(今まで……こんなこと……)


 不思議そうに首を傾げるアイシアに不審に思われないように、少しぎこちないが、


「ありがとう」


 ニコリと笑って返事をした。


 そして当事者がいなくなった会はお開き、明日は学校もありますので、もう休みましょうと解散になった。


 部屋へ戻ったテテュラは、落ち着いた寝巻きに着替えると、ベットへと座った。


 同室者のリュッカはまだ火照っている様子。


「大変だったわね」


「わ、わかってるなら止めて下さいよ」


「ごめんなさいね。私もその手の話は苦手だから……」


 他愛ない会話。リュッカとはあの事件以来、こうして話す機会も増えた。


 アイシア達ともそうだ。特にアイシアは人懐っこく、いつも目を輝かせて近付いてくる。


 昔の自分なら本当にあり得ないくらいの幸せを手に入れていると思う。


 だからこそ、あの言葉が決心を鈍らせる――、


『本当にやるの?』


 ――クルシアのあの一言、あの時の会話がぐらつかせる。


 正直、こうして心揺さぶられていることが、奴が楽しんでいる状況にも取れる。


 だがそこはいい。問題となっているのは、彼女達が大切な存在になってきているということ。


 クルシアの言う通り、もしかしたらしなくてもいいかもしれない。


 いや、本来ならしない方がいいに決まっている。


 だが――どうしても自分の過去が、計画を遂行しろと訴えてくるように感じた。


「どうしたの? テテュラちゃん」


「……大丈夫よ。ちょっと疲れただけ。もう休みましょうか?」


「うん、そうだね」


 ランプ用の魔石の灯りがフッと消える。


「お休みなさい」


「……お休み」


 こんな当たり前の日常がこんなにも嬉しいことはない。手放したくはない。


 だが――、


(やらなくちゃ……救われない)


 そんな動揺が混じりながらも、確かな想いもあるのだと、改めて確認したのだった――。



 ――パラディオン・デュオの選抜戦も終え、学校には生徒達が戻ってきた。


 活気に溢れた校舎は晴れ晴れしいが、活気に溢れているのは、学校だけではない。


 町中がいつもよりも人の往来が激しいように見える。


 パラディオン・デュオの自主練期間も終え、午後からも実戦訓練が戻ってきた道中、訓練場に向かう時に感じた。


「なんだか活気付いてきたね」


「そりゃあ建国祭まで二ヶ月切りましたから、大きい物の準備とかはもう始めないと……」


「近いうちに出店も出るのかなぁ?」


「ええ、出るはずですわ。記憶が正しければですが」


 ナタルが五年前というと十歳の頃だろうから、記憶はうろ覚えか。


「いやぁ、楽しみですね。アルビオさんとのデートも取り付けましたし。フフ……」


「えっ!? そうなの?」


 ルイスの発言に驚いた。アルビオが女の子とのデートをオーケーするとは。


 ヘタレに見えたのだが、違うのだろうかと考えたが、


「ん? もしかしてパートナーであることを利用した?」


「ギクっ」


「やっぱり……」


 予感的中。立場を利用したものだったようだ。


「いいじゃないですか? あれを機にアルビオさんはモテモテですよ、きっと」


 学校内で噂になるには十分な大会だったからな。


「そういえばシドニエさんにも、ちらほら視線を送っていた女子がいましたね」


「え、いたんだ」


「そりゃいますよ。いくらリリアさんのパートナーとはいえ、あんなかっこ良く戦えば、女の子も付きますよ」


「ふーん」


 特に興味も無さそうに返事をすると、ナタルが呆れた様子で尋ねる。


「本当に興味がありませんのね」


「一応、ママからは作れとは言われてるけど、想像がつかないんだよね」


「華の女の子なんですから、恋に花咲かせないで、どうするんです?」


 ごもとっもなご意見ありがとう。


 だけど、ないものはない。


「でも恋かぁ……」


「何? 恋しくなってきた?」


「そう言うわけじゃないけど……私も誰か男の人を好きになるのかなぁって」


 アイシアに恋はちょっと似合わないなと思ってしまった。


 俺よりもちゃんと女の子なのに申し訳ない。


「というか、ナタルさんは貴族ですし、婚約者はいないのですか?」


「いませんわね。私の街は他大陸との交流の場でもありますから、継いでくれる結婚相手が慎重になってますの」


 港街だから、下手な貴族が嫁いで好き勝手やられても困るってわけね。


 なんだかナタルが恋バナが好きな理由に納得がいったかも。


「大変だね」


「ええ。しかも信用たる人物となると、大体は私よりもお年が……」


「ほ、本当に大変そうですね……」


「貴族に生まれなくて良かった……」


 俺とルイスは思わず引いてしまった。


「ま、まあとにかくアイシアは焦らなくてもいいよ、ね?」


「そうだね! 考えてもわかんないし」


 うん。俺もわかんないし!


 ――一方で、騎士科の生徒達もタイオニアにて実戦訓練中。


 シドニエは授業中は、使い慣れている付与魔法の組み合わせで、身体を慣らし、作っていくことに。


 だがその様子はいつも以上に真剣だ。


 その表情に今まで見向きもしなかった一部の貴族嬢の視線も浴びる。


 取り柄のなかった男が、急に頼もしいとわかれば自然と注目もされるというもの。


「せいが出るな! シドニエ」


「なんだか別人に見えますね」


「え、えっと、ありがとうごらいます」


「……」


 呂律が回らなかったのだろうかと、眉を曲げた。


「まあそう簡単には人は変わらんさ」


「で、殿下!? あの……何かご用でしょうか」


 縮こまりながらそう話すシドニエに、楽にしろと言うが難しい。


「特に用事はない。だが、異様に張り切っているように見えてな」


「はい。なんだか僕も頑張らないといけないなって感じまして……」


 すると、はっとなって周りを見ると、頼りになる男性陣が集まった。


 シドニエは勇気を振り絞って、相談を持ちかける。


「あ、あのっ!!」


「? 何だ?」


「そ、相談があるのですが――」


 シドニエを囲った一同は小首を傾げるが、その内容を知ると一気にテンションが上がる。


「――そ、そんなことがあったのか?」


「は、はい」


「何故だ……何故私は、馬車で帰ったのだあーっ!! 彼らと一緒に帰られれば、そんな劇的な――」


「殿下にそのようにして帰れなど言えますか。馬車で帰るのは当たり前です」


「だがだな。私が目指すのは、なんの隔たりもない――」


「それとこれとは関係ありません!!」


 自分のせいで喧嘩になっていると、あたわたしているが、ウィルクとアルビオは苦笑い。


「気にするな。いつものことだ」


「そうですよ。……それにしてもそんな話になっていたとは……」


「まあリカルドの奴、リリアちゃんにだいぶご執心だったからな。色々聞かれたよ」


「あ……」


 この会話を聞いて、相談相手を間違えたのではないかと気付く。


「み、皆さんはアーヴェルさんのお知り合いですよね……」


 心配そうに上目遣いで見てくるが、ウィルクとアルビオはクスッと笑った。


「大丈夫ですよ。僕は特に彼の味方というわけではありません」


「俺もそうだぜ。だが、お前の味方でもない」


「え?」


「俺は、リリアちゃんの味方だ。リリアちゃんが望むなら、例えお前だろうと…………」


 思うところがあったのか、ふと考えをまとめるため、言葉が止まる。


「いや、お前では頼りないなぁ」


「ううっ!」


 結論はノーだった。


 まあシドニエ自身も相応しいかと考えれば、違うと思ってしまうのが本音である。


 そんな情けない考えにガックリするが、実際、安定していない戦い方をサポートしてくれたのも全部リリアだ。


 立場を(わきま)えているけど……、


「で、でも……オルヴェールさん、困ってたから、頑張りたい」


「そっかぁ……お前も男だな」


「――おぐうっ!?」


 ウィルクはシドニエの背中を思いっきり叩いた。


 すると、先程まで揉めていた二人が寄って来た。


「ですが、一回戦から当たれば良いものの、他の方と鉢合わせると、勝負自体がうやむやになりそうですが……」


「それに関しては裏工作――」


「しないで下さいね。殿下」


 そんな試合を観たいからって職権乱用かなと、アルビオ達は苦笑い。


「アルビオや貴族校の連中に当たらない限りは大丈夫だろ」


 アルビオは頬をかく。


「あの……僕はどうすればいいんでしょう」


 アルビオ以外は、耳を疑うように呆れた。


「いや、馬鹿かお前」


「貴方は貴方で全力でお相手すればいいんです」


「お前がしようとしていることは優しさではなく、侮辱に値するぞ」


「そ、そうです。例えタナカさんに当たっても、ぼ、僕の力で勝ちます」


「……」


「おっ、よく言ったな」


 馬鹿なことを聞いたと、反省するアルビオ。


「すみません、余計なお世話でしたね」


「まあいいさ。それより私としては複雑な心境だ。リカルドとは友人だし、お前のことも応援してやりたい……どうすれば良いか」


「僕はリカルドを応援しますがね」


「なんで?」


「将来的なことを考えれば、リリアさんがリカルドに嫁いでくれれば、国力になることでしょう」


 現実主義発言に一同、幻滅。


「お前ってさ、もう少しロマンチック性を持たせろよ!」


「貴方みたいにあやふやではないのですよ。ロマンチックやドラマチックで国は守れません」


「心があればこそだろうが!」


「僕はそれだけではダメだと言ってるんです!」


「あ、あの……お二人とも、落ち着いて……」


 するとハイドラスは、シドニエの肩を叩き、放っておけと言う。


「まあ相談する相手はちょっと間違えたかもしれないが、私は二人とも応援することとしよう」


「そうですね。僕もリカルドさんとは面識がありますし、どちらも応援させて頂きますね」


「は、はい」


 それを踏まえてはいるが、リカルドを知る二人は腕を組んで、正々堂々たる勝負になり得るようアドバイスを始める。


「だが、あの試合を観る限りでは、リカルドの方が有利だろ」


「そうですね。僕の時のようにはいかないでしょう」


 リカルドは試合を観ていたと言っている。一度見せているパフォーマンスは通用しづらい。


「い、一応、無詠唱での付与魔法も使えますが……」


「大して変わりないだろう。リリアがいるならともかく、一騎討ちなのだろう? どちらも応援すると言った以上、リカルドのことを教えてやる」


 一部は昨日、エルクに聞いているのだが、リカルドと面識の濃い二人の方が参考になるだろう。


「お、お願いします!」


「そうですね……先ずは――」


 リカルドは体内魔力は肉体型。属性は水と、本来であれば相性の悪い属性。


 だが、アーヴェル家は魔道具の使い手という、側面も持ち、マジックロールは勿論、多様なアイテムを使用する。


 それにより、本来、肉体型では発動が難しい魔法も発動を可能とする。


 そのための英才教育も浸透しており、アルビオが見せたような魔法と剣術を駆使した戦いを得意とする。


 剣術に関しても、属性効果も相まってかしなやかな剣術を使う。


 まるで水の流れのような滑らかな剣捌きは、相手を翻弄する剣術ともされている。


 付け加えるなら、武芸としても成り立つらしい。


「――まあ総合すると、錯覚を起こすような幻妖な剣術に加え、魔法でも攻撃してくるという、性格に合わない厄介な奴だ」


「そ、そういえばエルクさんも言ってました。いつのまにか前衛がふらついていると……」


「彼の使う剣なんですけど、刀身が薄いんですよ」


「う、薄い?」


「原理まではわかりませんがその剣を避けても、時間を掛ければかけるほど、不利になるようで……」


「そういえばお前は相手をしたことがなかったな」


 まだアルビオが金魚の糞になっていた時期だろうか。経験のある二人が喧嘩を終えて参加する。


「彼の刀身から微量な音が鳴るんですよ」


「音?」


「性格には振動じゃないか? その空気の微妙な振動と音で脳にダメージを与える的なやつだ」


「なるほど……耳を通じてですか」


 こくりとハーディスは頷く。


 ハーディスは風属性故、リカルドの剣を交わした際に、空気中に違和感を感じたそう。


 小刻みに頭を揺らし続けるみたいな感じだという。


「ですが、そんな原始的なものだけでなく、魔道具も使ってくるはず。そのあたりはエルクさんにでも尋ねた方が良いかと……」


「は、はい」


「しかし、あれだな。一人の女を巡って争うなど、物語の中の話のようだな」


 こういう話大好きのハイドラスは、ワクワクした表情で話す。その声も弾んで聞こえる。


「ですが、実際は生々しいものではないです? 今回のように男性同士ならまだ可愛いかもしれませんが、女性であればドロドロですよ」


「このリアリストが……」


「事実でしょうが。我々の業界から見ても、圧倒的に女性の方が陰湿です」


 アルビオがふと思い浮かんだのは、アーミュだった。


「はは……」


「今、浮かんだでしょ?」


「おい! やめろ! 女の子っていうのは、もっと可愛いもんだ。汚すんじゃない! このマッシュルーム!」


「僕も別に全員がそうだとは言ってません」


 また二人が揉め始めた。水と油とは正にこのことだろうと証明されているのが、目に映っている。


「リカルドとの試合もそうだが、勝った時のリリアとの試合はどうなんだ?」


 冷やかすようにニヤリと尋ねると、シドニエはこの世の終わりのような表情で焦り出す。


「そこなんですぅーーっ!! どどどどどどうしましょうっ!!」


「意外ですね。女性の幼馴染がお二人も居たので、大丈夫かと――」


「大丈夫なわけないですよ、タナカさんっ!! 二人とは幼い頃から一緒だったから、そういう意識がないだけで、オルヴェールさんは別です!」


 なんだか失礼なことを言っている気もするが、今ツッコんでも拾ってくれなさそうなので、スルーすることに。


「まあ張り切る気持ちもわからんではない。オルヴェールは山育ちのはずだ。星空とはまた違った景色に、ドキッと…………」


 ハイドラスはそう言いつつも、今までのリリアを思い浮かべる。


「するのか?」


「か、彼女だって女性ですよ。だからきっと…………」


 アルビオも考えるが、


「……」


 思わず苦笑しながら無言になった。


「何というか、そういう絵は浮かぶが、あの女が景色を見て喜ぶことがあるのだろうか」


「ありますよ」


「「「――うわああーーっ!!」」」


 急に女性の声が出てきて、ハイドラス達は跳ねて驚く。


「ご、ごめんなさい。そんなに驚かすつもりは……」


「何してるの? 一応授業中だけど」


 話しかけてきたのは、リュッカとフェルサ。


「いや、すまない。話に集中していてな」


「いやだから、授業中」


「わかっている、すまない。そろそろ戻るか」


 ハイドラスはまだ揉めている護衛を宥めて、授業に戻る。


 先程の話をお尻だけ聞いていたリュッカは、応援してくれる。


「リリアちゃん、ポチに乗ってた時、ちゃんと景色楽しんでたみたいだから、大丈夫だよ」


 そこを心配はしていないシドニエ。心配しているのは、その相手。


「か、仮に僕が勝ってもその……皆さんで行かれた方が楽しいのでは……?」


「そんなことないんじゃないです? リリアちゃんにとってシドニエさんも友達ではないですか?」


「と、友達……」


 向こうの接し方を見ても分かる通りの発言ではあるのだが、いざ言われると悲しい気持ちになってくる。


 あからさまに落ち込んでいると、クスリと笑みを零す。


「リリアちゃんはアレで意識してますよ」


「ほ、本当ですか?」


「本当です。だってあんなに困ったリリアちゃん、見たことないですから」


 シドニエは素直に言い寄られているのを困ってると思ったのだが、違うのだろうかと疑問に思う。


「え、えっと、頑張ります」


 今は考えても始まらない。


 だがそれでも出てくる言葉は『頑張る』しか出てこなかった。


 でもその通り。今シドニエがやれることは頑張ることだけだった。

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