29 男の勲章
ある程度は予想していた。
アルビオは精神型でも肉体型でもない。その間にある形だと聞いていた。
だが、本人自体はリュッカを助けてから、本格的に強くなろうという意欲に湧いたため、まだ戦い方を確立していなかった。
だが理由はそれだけではない。
勇者自身が優秀な魔法剣士だったが故に、どうしても比べてしまう自分がいたのだろう。
だがバザガジールとの死闘を通して、あらゆる可能性を考えていた。
そして――過去の偉人と比べる必要はない。比べるのであれば、過去弱かった自分と比べろ、と考えたのだ。
「まったく……」
どうやらモノホンの魔法剣士が相手になるようだ。
本来、魔法剣士のような中衛という戦い方が出来る人間はこの世界では少ない。
先ず魔法を使う際、無詠唱でもない限り、魔法は詠唱が必要となる。
ある程度なら動きながらでも詠唱できるが、レベルが上がるに連れて集中力が必要になることは言うまでもないだろう。
そもそも動きながら詠唱して発動できるものは、ほとんど無詠唱で成り立つ。
そんな中で中衛という立場の戦い方をする人間のほとんどは無詠唱魔法を織り交ぜた戦い方となる。
だがアルビオはその例外となる。
上級魔法以上を詠唱しながら戦うことができる――要するにはラノベなどで描かれるチート主人公みたいなことが可能となる。
「シドニエ! 余裕を与えないで!」
攻め続けることしかできないと、シドニエはリアクション・アンサーに一部委ねた連続攻撃で攻める。
「――風の精霊よ、僕の声を聞け! 吹き荒れる嵐は獰猛な獣となりて牙を剥く――」
シドニエとの激戦を繰り広げながら詠唱をするアルビオ。
「くっ……!」
「引き裂け! ――テンペスト・ウルフ!」
魔法による巻き添えを喰らわぬよう、シドニエとの距離を取ると、嵐の狼が無数にシドニエとリリアに襲いかかる。
俺は操っている影でいくつか相殺し無力化するが、シドニエが死角になっていたところは相殺できていなかったようで、その嵐の狼に向かって木刀を振り下ろす。
「――シドニエっ!」
魔力を帯びて強化された木刀が軋みながら、嵐の狼の頭蓋とぶつかり合う。
「押し……負けないっ!!」
叩きつける勢いのまま、嵐の狼粉砕するが、
「――っ!? かっ!?」
すぐさまアルビオの横蹴りがシドニエに入った。
(やっぱりか……!)
確信を得た一撃だったのか、リリアの所まで吹き飛ばされる。
「ぐう……」
「――大丈夫!?」
「は、はい。でも、何で?」
「多分、リアクション・アンサーの発動条件の穴を突かれた」
「穴?」
「うん。リアクション・アンサーの能力については説明したよね? その能力の発動条件は、認識しないと発動しない」
「あ……!」
物事をよく考えるシドニエは、すぐに理解できた。
風の上級魔法を回避することはできなかったため、テンペスト・ウルフで視界と動きを封じられた。
その上で、あの強化されたシドニエであれば、何とか相殺してしまうのではないかと判断したアルビオは、風魔法が消されたタイミングで一撃入れたのだとわかった。
「あわよくばあの木刀を離してくれれば良かったんですが……」
「――ライト・オブ・レイン!」
先程から詠唱していたルイスが魔法を放つ。
無数の光輝く槍がルイスの一帯にこちらに向かって飛ぶように構えると、正面と一部は斜め上を向き飛んでくる。
「ちっ……」
思わず舌打ちすると、俺はシドニエと自分を影で包み、ドームのような防壁を作る。
するとルイスの攻撃を全て防ぐことに成功。上からの曲線を描いた攻撃も含めて。
そのまま引きこもると、シドニエと作戦を立て直す。
「オルヴェールさん、これは……?」
「ごめん、シャドー・ストーカーの維持ももう限界。ダメージを受け過ぎた――」
二人の魔法攻撃に、魔力的には問題はないが、魔法自体にガタがきた。
「手短に作戦を立てよう。狙うのは予定通り、ルイス。魔力切れを狙う」
「でもタナカさん、確実に気付きましたよね?」
「多分ね。シドニエと一緒で良くも悪くも考えるタイプだから……」
風属性を好むだけあって、風読みからかなりこちらを観察していたように思う。
ハーディス達のように上手くはいかない。
「シドニエはアルビオに魔法を使わせる隙を与えないで。キツイと思うけど、頑張って!」
「は、はい!」
そんな中、ドームを警戒しつつ、構える三人も今後の動きを話し合う。
「あいつら、引きこもっちまったな」
「おそらく作戦を練ってるはずだ」
「だったら叩いちまおうぜ!」
フィンが両手を構えて攻撃する素振りを見せると、アルビオが手で遮って止める。
「おい! 何で止めるんだよ」
「彼女達が見えない以上、何をしてくるかわからない。出てくるまで様子を見よう」
「あのビルマさんみたいな……?」
「うん」
あの時、何が起きたのかは遠くから見ていたアルビオ達は理解していない。
「でも、ボーっと待ってるわけにもいかねぇだろ?」
「そうだね。ルイスさん」
「はい」
「作戦の変更は特になしだ。シドニエさんを狙う」
「私はリリアさんの魔法を何とかする、ですよね?」
闇属性に有効である光属性のルイスを当てがうのは当然のことだが、魔力を調整して良くしたとはいえ、リリアとの間には差が生じている。
しかもアルビオ自身もかじってはいるものの、リリアの闇魔法に対応できるほどの光属性を持ってはいない。
純粋に力比べをされてしまうと、こちらが力負けする。
だからこちらからすれば、シドニエを倒してしまうのが手取り早い。
「そういえば木刀がどうとか言ってませんでした?」
「うん。シドニエさんの動きが変わったのはやはり、あの木刀でマジックロールを叩いてからだから。手放せれば、効果が切れるかもしれない」
「……わかりました。それなら少しでも派手な魔法で、シドニエさんを巻き込めるようにします!」
「お手柔らかに……!」
ドームに動きが現れる。
こちらに向かってドームを維持したまま、そこから尖った刃先がこちらへ伸びてくる。
「――フィン!」
「おうよ!」
アルビオは素早く回避し、フィンはルイスに再び防壁を張り、ルイスは詠唱を始める。
ドームは解けた所を見ると、そこには詠唱しているリリアの姿とアルビオに向かってくるシドニエの姿がある。
「――タナカさん!!」
「今度こそ倒します!」
アルビオは何とか木刀を弾こうと立ち振る舞い、シドニエは魔法の詠唱の集中力を削ぐように立ち振る舞う。
互いに傷をかすめながら、譲らない攻防を魅せている。
その一方で――、
「――アビス・ファング!!」
「――シャイン・ブレイズ!!」
互いの魔法が相殺しあい、爆風が会場中になびく。
「――闇の王よ、我が声に応えよ……深淵にて研ぎ澄まされし凶々しき矛。理を解き、具現せよ! 大地を汚す黒き蹂躙! ――ダーク・オブ・フェノメノン!!」
「――光の精霊よ、我が声に応えよ……天上に捧げられたし金剛の剣。生命の輝きに満ちた力を体現せよ! 光の一撃! ――ライト・オブ・セイヴァー!!」
リリアの魔法は黒い雷が疾りながら、太い槍状に変異すると、ルイスに向かってギュンと飛ぶ。
対するルイスの魔法は天にも届く光の柱が現れ、向かってくる凶々しい槍を迎え撃つ。
「――やああああっーー!!」
激しく爆発する音が響き、辺りも爆風での砂埃で見えなくなった。
「けほっ、けほ……アイツらやり過ぎだ……」
審判役のカルバスも思わずぼやく中、上級魔法でもパワー負けするわけにはいかないと放ったルイスも、息切れを起こす。
「はあ、はあ、アルビオさんは大丈――」
「ルイスさんっ!!」
「――!!」
まだ姿が確認しづらいアルビオから焦りの声が聞こえた。
状況が飲み込めないルイスは姿の見えないリリアを探す。
おそらく彼女が何かしているはずと思っていると――背筋に悪寒が走る。
「―― 龍は問う、汝の魂の汚れを……」
「嘘っ!?」
リリアがすぐさま詠唱を――しかも最上級魔法を唱えていた。
「フィン!! 止めて!!」
「悪りぃ! 無理だっ! あの女、だからあの魔法を使ったんだ」
フィンの様子がおかしいことにルイスは気付く。風の防壁が消えて、フィン自身も発光している身体が薄い。
「フィンさん! 何がっ?」
「お前はとにかく強力な防壁魔法を唱えろ! やっぱり闇の魔術師ってのは厄介だぜ!」
「だから何が起きたんです?」
「さっきの奴の術はお前さんのような純粋な攻撃魔法じゃない。あれは魔力吸収魔法だ!」
「えっ!?」
「あの陰湿野郎が珍しく活きいき説明してたのを覚えてるぜ……」
闇の精霊ザドゥがどう説明していたのか、横聞きしていたアルビオは非常に気になるところ。
フィンはフィンなりに、リリアと対するために聞いてくれていたようだ。
「おそらくはさっきの術で君の魔法とフィンの防壁魔力を吸収、その反動で追加詠唱したんだ」
「つ、追加詠唱って!?」
「闇の魔術師が得意とする詠唱法の一つだ。魔力を一定まで吸収できるとラグ無しで詠唱できる、時短術だ」
そんな説明をしている間に砂埃は消えたが、ほぼ詠唱を終えたリリアが構える。
その前には、疲労状態が見えるシドニエの姿もあった。
「シドニエ! ちょっとこっちへ。巻き込まれるよ!」
「う、うん……」
「くっ……」
アルビオはあの魔力と火属性の魔法陣から、何が飛んでくるのか予想することは難しくなかった。
何せ魔人事件の際に、あの天を貫く炎柱を見たことがあったから。
あの攻撃を今撃つなら、無防備なルイスのところへ撃つだろう。
勿論試合だから加減したり、わざと逸らしたりするだろうが、少なくとも決着はつく。
それを防ぐには、リリアを止めるかシドニエを倒すかしなければならないが、距離を置かれている。
しかもフィンの魔力も一部吸収されたせいか、風の付与も外されている。
なくても速くは動けるが、どうにも間に合わない。
選択肢は二つ。
賭けに出て、どちらかを倒すか、ルイスと共に防御魔法で対抗するか。
その答えは――、
「くっ、フィン! 防壁いける?」
「ギリだっ!」
「ルイスさん、防御魔法は?」
「いけます!」
「よし」
対抗することに決めたアルビオは、両手をかざして防御体勢を取る。
「真っ向勝負ってわけだね。いくよっ!」
俺もそれを受け止め、放とうとした時だった。
カランカランという音がいやに会場に響いた。
「……!」
その音は俺の隣で鳴った。その音にも聞き覚えがある。木刀が地面に落ちた時の軽い音。
まるで力尽きたと言わんばかりの軽い音。
「シドニエ!?」
「ひゅぅ、ひゅぅ……」
相当疲労しているのか、小さい灯火のような息を吐きながら倒れていた。
一旦場が静まり返り、俺の魔法陣も消え、先生は素早くシドニエに駆け寄る。
「……試合終了、そこまで! 勝者アルビオ、ルイスペア! よって一学年優勝ペアはアルビオ、ルイスペアっ!」
「「「「「――おおおおーーーーっ!!!!」」」」」
あまりの激戦に会場は燃え上がるような歓声で、俺達を激励した。
「……」
「……勝ったんですか?」
「みたいだな」
どこか納得いかない様子の優勝ペアだが、
「シドニエ、ごめん! 大丈夫?」
俺はシドニエに負担をかけ過ぎたと、心配で側に寄る。
「まったくお前はコイツに何をしたのだ?」
「え、えっと……」
酷く疲労したシドニエを見て要因を尋ねられた。
おそらく原因は、リアクション・アンサーによる過度な能力使用。
肉体的、精神的にもかなり負担がかかったものと思われる。どちらかと言えば肉体的疲労が大きいようだ。
「付与魔法の負担……かなと……」
するとカルバスは呆れたため息とともに注意喚起を促す。
「いいか? 他属性ならともかく、闇属性の付与魔法はデメリットも多い。……先程の試合を観る限りでは呪い系ではないようだが、コイツ自身も身体が出来ていない。もう少し気遣ってやれ」
「は、はい……」
すると、それを聞いていたのか、
「先生……」
「シドニエ!」
かすれたような疲労感漂う声で、話しかけてきた。
「シドニエ、ごめん。つい夢中になってアルビオ達と……」
「その気持ちは、僕も同じです。……不思議でした……楽しかったんです」
するとアルビオ達も駆け寄ってきた。
「ずっと出来ないって言われていた僕が……ここまで戦えたのは、きっとオルヴェールさんのお陰です。そして戦ってくれたお二人のお陰です。……ありがとう」
シドニエは認めさせて、証明できたことを初めて口にした。
引っ込み思案なシドニエが達成感を口にすること……これはシドニエにとって大きな一歩となったことだろう。
アルビオはそんな彼を認めるかのように、手を差し伸べる。
「僕も。君と戦えて良かった」
「……!」
するとおぶってあげると背中を丸めて見せた。
シドニエは特に恥ずかしがることもなく、ゆっくりとアルビオの背中に身を預けると、出入り口へと向かった。
その姿を観た観客からは歓声ではなく、称賛の拍手が送られた。
「なんだか男の友情って感じですね」
「ああ、うん。そうだね……」
その背中は覚えがある。
俺がまだ男の頃、公園で足を捻った友達をおぶっていたのを覚えている。
あの時の俺達は悪ガキだったから、ふざけ合いながらも、楽しげに笑い合っていたのを思い出す。
傷は男の勲章なんて言葉があるくらいだ。
女は怪我したら非常に心配するだろうが、男には怪我そのものに意味を見出すロマンチストだ。
特にこんな大舞台での怪我なら、正に――、
「傷は男の勲章ってことかな?」
「なんですか、それ?」
「男ってのは不器用で馬鹿って意味」
男としてあの二人の想いを知り、見守る側の女という立場になった人間の率直な言葉。
あの二人の友情を微笑ましい気持ちで見られるのは、懐かしさだろうか、羨ましさだろうか、定かではないが、悪い気持ちでないことは間違いなかった――。
――シドニエは医務室に運ばれたが、少し休めば大丈夫とのお達しを頂いた。
「いや、良い試合だったよ」
「あ、あ、ありがとうございましゅ。殿きゃ」
「……お前は格好がつかんな」
せっかくの激励だったが、根はそんな簡単に変わるわけもなく。
「ですが、本当に良かったと評判ですよ。そんなことをちらほらと聞きます」
他の生徒達からのガヤから聞こえたのだろう。
「シド! 良かったよホント!」
「うんうん!」
「二人もありがと」
「一応負けてるんだけどね」
「フェルサさん、余計なこと言わない」
「でもこれなら本戦も期待できるね?」
「いやぁ、プレッシャーかけないでくれるかなぁ? アイシア」
すると、楽しげな笑みを浮かべながらエルクは言う。
「それは問題ないのでは? 貴族校を観て来ましたが、申し分ないかと……」
「あ、エルクにマルク」
どうもと丁寧に頭を下げると、話を続ける。
「ただ先程の試合は他の試合に比べ、注目度が違いましたから、他校の皆様も警戒なされているかと……」
「まあ対策されるだろうね」
「どうかしら。お二組のアレを観て、むしろ萎縮された方が多いのでは?」
「はは……」
ナタルの言うことも尤もであるが、警戒しておくに越したことはない。
「後で教えてよ」
「はい」
「む〜……」
ルイスは何やら唸っている。
「どうしたの?」
「いえね、さっきの試合は納得いきません!」
「えっと……もしかして僕のせい?」
「いえ! シドニエさんのせいではありません。やはり倒し切るほどの実力を身につけられなかったのが、悔しいです」
あの場でも拍子抜けさせられた表情をしていたが、正直、俺も同じ気持ちだ。
俺の場合はシドニエのことをもう少し考えるべきだった。
本人が付与を駆使した戦い方にしたいと言っていたとはいえ、段階を踏むべきだったと思う。
お互いに課題や反省点が出てきたのはいいことだろう。
「だったら今度は納得のいく試合をしよう。お互い本戦に出るんだから。リベンジ……させてもらうよ」
「今度はしっかり勝ってみせます! ね、アルビオさん」
「そうだね」
「シドニエはどう?」
「うん。僕も頑張るよ」
お互いライバルと認め合い、高みを目指す……まるで少年誌の主人公的な展開。
ちょっとくさいけど、いいなと思ってしまった――。
――シドニエが回復し、道中でマリエール兄妹に貴族校での本戦出場者の情報を聞かせてもらうべく、待っていたアイシア達との帰り道。
「でもまさかシドが本戦に出るとはねぇ〜」
「シドニエくんカッコ良かったし、本戦も大丈夫だよね」
「シア、あんまりプレッシャー与えること言っちゃダメだよ」
「……最近、この天然さんはどうしたの?」
「だってほら!」
そう指差すところに張り紙がされている。
「建国祭か……」
「そろそろ町の雰囲気も変わる頃合いかと……」
「そうなんだよ! 私、初めてなんだよねぇ。王都の……い、い……」
楽しみにしている何かの名前が出てこないらしい。
「イルミネーションじゃなかったかな?」
「そう! それだよ、リュッカ!」
「イルミネーション?」
「ええ、建国祭の最終日の夜に、町中をそのライトアップ用の魔石で彩るんです」
「へ〜……」
建国を記念して最後は華やかにお祝いしようということのようだ。
さぞ最終日はカップルで溢れ返るであろうことも予想がつく。
「あたし達は小さい頃から見てるけど、めちゃくちゃ綺麗なんだよ〜」
「私達は初めてだから、楽しみで楽しいで……」
「シア、王都へ行くって決めた時から、言ってたもんね」
「うん!」
ユニファーニは、こそっとシドニエに近づくと小声で話し出す。
「リリアちゃんの反応は薄いね」
「え? あー、そうだね」
「アイシアちゃんはあんなにテンション高いし、リュッカちゃんも嬉しそう」
そこにミルアも混じってきた。
「いや、リュッカちゃんの場合は、違う意味じゃない? まあ、それはそれとして……どうなの? 誘うの?」
「えっ!?」
「えっ!? じゃないわよ〜。あんたは一番どの男よりも誘いやすい立場なんだからさぁ〜」
シドニエを面白おかしく弄ってくる。
「あんな美少女を隣にあの穴場で王都の美しく彩られた夜景を見れば、いくら鈍感なリリアちゃんでも……コロっと」
「コ、コロっと?」
「コロっと」
妄想を広げやすいよう言葉巧みに言い寄られたシドニエは、思わずそんな光景を想像すると――、
「――――」
顔から火が出るほど恥ずかしい光景を想像してしまった。
「あれ? まんざらでもなさそうだねぇ〜」
「――ゆ、ユ、ユ、ユファっ!!!!」
珍しくシドニエが大声を出すものでビクっと身体が跳ねた。
「えっ? 何? どうかした?」
みんなの注目がシドニエに集まると、何やら思い返したようで、縮こまったように小声で……、
「何でもありません」
消えてしまいたい。そんな感じに聞こえた。
「でもそんなに綺麗な夜景ならどこか高いところで観たいね。勇者展望広場とかやっぱり多いのかな?」
「いえ、そこは他国の客人や殿下達が使われますので、立ち入りが禁止されます」
「あ、そうなんだ」
勇者を祀った展望広場で華やかに建国祭を締めくくるってわけね。
「ほらっ」
「ちょっ……」
シドニエの背中をドンと押して、誘うよう促す。
最終日どうするの? なんて会話が飛んでいるなか、飛び込んでリリアを誘い出すには気恥ずかしいシドニエ。
「さ、誘うにしても、やっぱり二人きりの時にでも……」
「二人きりの方が緊張しない? ねぇ、ミルア? ……ミルア?」
少し寂しそうに俯いているミルアは人の話を聞いていないよう。
「ミルアーっ!!」
「――へあい!! えっ? 何?」
「何じゃないよ。どうしたの?」
「い、いや、何でも。そ、そうだよ、リリアちゃんはしっかり誘わないとわからないと思うし……」
「ほら、ミルアもそう言ってるし……」
ミルアの様子が少し気にかかったが、シドニエは緊張と気恥ずかしさで頭がいっぱいだ。
そんな時――、
「これはオルヴェール嬢。ご機嫌麗しゅう」
「へ?」
一人の貴族男子が使用人を連れて現れた。
ウィルクとは違う雰囲気の金髪貴族紳士。誠実さが滲み出るような落ち着いた余裕のある態度を見せる。
すると彼を見たエルクがそっと耳打ちする。
「彼は貴族校の本戦出場者の……」
「リカルドさん……ですよね」
「!」
俺が彼の名前を口に出した時、ちょっと離れて話していたシドニエ達は驚く。
「覚えていましたか。そちらのお嬢さん方もお久しぶりです」
アイシア達もぺこりと一礼。
「ご存知で?」
エルクは思わず尋ねた。
それもそうだろう。本来、俺達の立場からすれば、彼への接点はないはずだろうからね。
「一度だけあったことがあるの。ほら、魔人討伐した時に開いたパーティーの時に……」
そう、あのパーティーの時に挨拶してきた貴族の一人だった。




