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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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28 憧れを力に変えて

 

「ごめんなさい。約束を守るどころか、気絶しちゃうなんて……」


 運ばれてからすぐリュッカは目を覚まし、申し訳ないと謝った。


「大丈夫だよ。そういう時もあるって」


「容態は大丈夫ですか?」


 アルビオが純粋な眼差しで心配そうに尋ねると、また熱を上げたのか、首からメーターが上がるように真っ赤になっていく。


「だだだ大丈夫です!! はい!!」


「何の話をしたんです? ルイスさん?」


 おそらく原因はルイスにあるのではと尋ねるが、


「ただの世間話ですよ」


「それなら後ででも……」


「あの場で必要な世間話です。女の子同士の話にそれ以上、掘り返すのはデリカシーに欠けますよ」


 そう言われると言い淀むしかないアルビオ。


 こういう時のパワーバランスは女の方が強い。


「アルビオが掘り返すと余計ややこしくなりそうだしね」


「ですわね。多分」


 女の子同士は理解しているような口ぶりに、男性陣は不思議そうに首を傾げる。


 俺もまさか女サイドでモノをいう日がくるとは。


「ふふ、ほらアルビオ達は決勝だろ? 観覧席はもう満員だ」


 面白い状況になっているなと、笑みを浮かべながらハイドラスは医務室へと入ってきた。


「はは……状況が目に浮かぶようです」


「変に期待されても困りますがね……」


「それ……タナカさんが言います?」


「本戦出場を決めたとはいえ、せっかくの場だ。思いっきりやってこい!」


「いや、殿下。敵情視察しに来た生徒もいますよ、きっと」


 実際、俺もマリエール兄妹に貴族校の試合を観に行ってもらってる。


 これだけのブランド力のある俺達も観察対象には入っているはずだ。


 だが、ハイドラスは鼻で笑った。


「それがどうした? お前達は十分優勝を狙える実力、経験がある」


「要するに勝てるもんなら勝ってみろって見せつけろってことですか?」


「ああ!」


「……だそうだよ。勇者の末裔殿」


「はは……頑張ります」


 あれだけの戦いが出来る割に控えめなお返事。


 自身の実力に慢心しないのは良いことだろうが、ある程度の自信も必要だろう。


 もう少し爽やかにビシッと返事してもいい気がする。


「まあでも殿下の言うことも尤もです。期待されてるなら応えないとね」


「頑張ってね! リリィ!」


「うん。リュッカも少し休んだら観に来るでしょ?」


「うん。頑張ってね」


「ナチュタル、アルビオにはいいのか?」


 ハイドラスはわざとらしく焚きつける。


「へ? あっ、えっと……が、頑張って下さい」


「う、うん」


 異様に恥ずかしがりながら言われるものだから、アルビオも変に意識してしまうと、


「フンっ!」


「――痛いっ! 何するんですか?」


「別に。ほら行きますよ」


 まさかこんなやりとりをアルビオから見ることになるとは。モテる男は辛いねぇ。


「よし、行こっか」


「は、はい……」


「まあ当たって砕けろだよ!」


 バンと背中を叩き、気合注入。リリアの外見からは似合わない姿だが、硬い表情をしていたシドニエには丁度良かったようで、和らいだ顔をしていた――。


「なんだか凄いですね」


 決勝戦の俺達観たさに観客は大いに歓声で盛り上げるが、アルビオとシドニエには逆効果なよう。


 やる前から砕けたよ。


「あー……お前達、あまり気圧されずにな」


 さすがのカルバスも頭を悩ませているよう。ここまでの盛り上がりは、おそらくカルバスも初めての経験だろう。


 かく言う俺もこんな歓声の中、何かやるのは初めてだが、シドニエが隣で俺以上にビビってくれているおかげか、冷静でいられる。


「とりあえずまあ……よろしく」


「こうしてリリアさんと事を交えるのは初めてですね」


「そうかも」


「リュッカさんを救出の時、貴女が背中を押してくれたから、ここに立ててる気がします」


「そんな、大袈裟な……」


「いい機会です。僕が成長したところを見て下さい」


「散々観たよ。だけど、やるからには負けないから」


 そう挨拶を交わすと、俺達は開始位置へと移動する。


「シドニエ、出し切ろう。どうせお互いの腹は割れてるんだしさ」


「は、はい」


 敵情視察している奴らもアルビオ達も俺がどんな魔法が得意とか、好んで使う戦法とか把握していることだろう。


 それにシドニエのまだ未完成な付与魔法での戦いにも課題がある。


 相手は精霊を使う勇者の末裔と俺とは対照的な光の魔術師。


 きっとこの戦いで課題はもっと浮き彫りになるだろう。だが――負けてやる気もない!


「出し惜しみはなしだ! 全力でかかろう! シドニエ」


「はい!」


「こちらも油断できないね」


「当たり前です。あのリリアさんですよ。まだ何かあるに決まってます」


 するとアルビオは嬉しそうな笑みを零す。


「不思議ですね。今まではこんな感覚、なかったんですけどね」


「楽しみ……ですか?」


「うん。おかしいですよね」


「いいえ、そういう向上心は大切かと。私も頑張ります!」


 バッとカルバスが手を高く上げた。


「これより勇者校一学年、決勝戦を行う。両者、奮起するように」


「「「「はい!」」」」


「ではシドニエ、リリアペア対アルビオ、ルイスペアの試合を行う――始め!」


 その合図と同時に、


「フィン!」


「闇の王よ、我が声に応えよ……」


「光の精霊よ、我が声に応えよ……」


 前の試合から同じ行動を取る一同の中に、一人だけマジックボックスからマジックロールを瞬時に数本まとめて取り出す姿があった。


「いきます――アース・バイス!」


 一つのマジックロールはそのまま発動したようで、役割を終えたように消えるが、後の三本は自分の目の前で宙に投げると、


「はあっ!」


 そのマジックロールを斬り裂くようにまとめて木刀で叩いた。すると、マジックロールは粒子のように輝きながら、木刀へと吸い込まれた。


 会場が何をしているのかわからずどよめく。


 すると、シドニエはアルビオに向かって走り出す。


「いきます!」


「来るぞ、アル!」


「わかってるよ」


 アルビオは嫌な予感が頭を(よぎ)る。


 何せ全ての属性を使えるアルビオは、風属性を好んで使うものの、勉強は怠っていない。


 例の少ない光や闇属性はともかく、他の四属性に関してはある程度頭にある。


 アース・バイス――地属性の魔法の一つで、本来は植物のツタが対象に絡みつき、魔力や体力などを奪う魔法。


 だがツタが出てくるようなことがなかった。だが出て来なかった理由も察しがついている。


 シドニエの持っている獲物は木刀、しかも魔法樹で作られた特注品。


 そして消えたマジックロール。その意味することは、


(あの木刀に能力が付与されている!)


 アルビオは風の付与を施してもらうと、ハーディスの対策と同じ、下手に相手をせず、詠唱中のリリアを狙うことに。


 シドニエが木刀で正面から殴りかかると、瞬時に右へと避け、速度を上げてリリアへの距離を詰めようと、地を踏みしめた時だった。


 今度は頭に向かって木刀が横振りで襲いかかってくるのが、風読みで読めた。


「――くっ!?」


 バランスをわざと崩し、頭を下げて回避すると、シドニエとの距離を置き、彼を見た。


「お、おいおい……嘘だろ」


 フィンもあの正面からの攻撃からのなぎ払いには、驚愕を覚える。


 観客達もそうだ。彼の控えめな性格は試合からでもわかるほど、辿々しい戦い方。


 あくまでリリアの指示や作戦に従っているものと思っていた。


 そんな驚愕に包まれる空気をまったく読めない、そんな余裕もない彼はアルビオに果敢に挑む。


「やああーーっ!」


「無視しようとして申し訳ありません。お付き合いします!」


 今までの剣幕とは違うシドニエに応えるように、剣撃の打ち合いとなる。


(……! 目が……)


 シドニエの瞳はやはりハーディスの時同様、自動回避の魔法を施していた。


 おそらくはあのマジックロールのうちの一つは、その魔法だと推測する。


 実際、打ち合いになっているが、シドニエには擦りはするものの、明確なダメージは与えられないでいる。


 そんな打ち合いの中、目の前の闇の魔術師から大きな魔力を感じる。


 会場も大きく騒めく。


「――暗き影より這い寄りし、黒き影よ。かの者に忍び、恐怖と絶望を与えよ。勝利なき現実を映せ! ――シャドー・ストーカー!」


 リリアの影から無数の触手のように影が伸び、そこから卵のように丸い影も地を這いずり、アルビオ達を襲う。


「さあっ、追い詰めようか! シドニエ!」


「はい!」


 黒き影は素早く這い寄るようにアルビオとルイスを襲う。


「――ルイスさん!」


「きゃあ!?」


 シドニエと離れ、リリアの闇魔法による上下左右から攻める無数の影の槍を(かわ)しつつ、ルイスを強引に拾うと、大きくリリア達と距離を置く。


「大丈夫ですか? ルイスさん」


「大丈夫です。でも、ごめんなさい。詠唱が間に合わなくて……」


「いえ……」


 キッとアルビオが視線を送る先には、まるで魔王でも降り立ったかのような黒き影を操る銀髪の魔女と、不可思議な木刀を手にして、人が変わったかのように勇ましい戦いぶりを見せる剣士の姿があった。


「やれやれ、困りましたね……」


 その光景を観たこちらの一同も驚愕の表情。


「……さすがと言うべきだろうか」


「ええ。頭が痛くなるようです」


「ていうかシドってあんなに強かった?」


 秘密の特訓に付き合っていたミルアに尋ねるが、その当人も驚いた表情のまま、首を横に振る。


「お前達は何か知っているのか?」


 ハイドラスはアイシア達にも尋ねるが、知らないとこちらも首を横に振ると、


「「我々で良ければ解説致しますよ、殿下」」


「あ、マルクちゃんにエルクくん!」


 そこには綺麗にお辞儀をして見せるマリエール兄妹の姿があった。


「君らは確か、オルヴェール達のアシスト申請をした……」


「ご存知だったとは、傍らでも記憶して頂けたことに、恐悦至極の限りに御座います」


「そのような堅苦しいのは好まん。……それよりもタネを知っているのだな?」


「はっ」


 だから堅苦しいのは止めろというが、こういう性分なのだとマリエール兄妹は口を揃えて答えた後、本戦では出場しない皆様なので、ご説明しましょうと始める。


「シドニエ氏がどうしてアルビオ氏の動きに対応出来るか……ですよね?」


「ああ。だがおおよその予想も立てられる。あのマジックロールだろ?」


「さすがは殿下。試すようで申し訳ないのですが、その推論、お伺いしても?」


「シドニエはアース・バイスという呪文を唱えた。マジックロールでの発動だろう。だが、我々が知るアース・バイスではない。本来であれば、地中から木の根が芽吹き、その根が襲う術のはずだが……とりあえずそこは飛ばそう」


 観覧席からシドニエを観て、更に推理を確立していく。


「彼は一回戦の時に見せた肉体強化をメインにして戦うつもりなら、おそらくは木刀で斬り裂いたマジックロールはその付与魔法と思われる。その中にハーディスの時にも使われた、自動回避魔法だったか? それを含めた強化人間……と言ったところか」


 すると双子はニコッと微笑む。


「さすがで御座います、殿下。ほぼその通りに御座います」


「……やはり複数の強化魔法が……」


「で、でも確かシドは速さを捨てたんじゃなかったの?」


 リリアがいない間、秘密の特訓をマリエール兄妹としていたミルアはそう聞いていたと言う。


 だがエルクは首を横に振る。


「間違っていますよ、ミルア嬢。……確かにシドニエ氏はカルディナ嬢やアルビオ氏のような素早い動きで戦うことを諦めました。ですが、それだけです」


「どういうことですか?」


「彼は精神型です。つまり同じ属性のリュッカ嬢にも本来なら劣ります。翔歩が使えませんから……」


 肉体型であれば、コツさえ掴めば出来る歩行術もシドニエはどれだけ頑張ってもできないのだ。


 ウィルクもわかっているようで、少し落ち込んだ表情を見せる。


「ですが、反応速度は別です」


「!!」


「彼はアルビオ氏に攻め手になって頂いて、受け手として攻撃を捌いたに過ぎません」


「つまりはこうです」


 やっとマルクお姉様が語らう。基本、弟任せの姉は楽したがりである。


「アース・バイスの魔法を魔法樹の木刀に付与したかたちで発動。マジックロールを斬り裂くことで、その効果を吸収したのです」


「これで、いちいち唱えなくても複数の付与魔法を瞬時に施すことを可能とします」


「なるほど……魔法樹の木刀だからできる芸当というわけか」


「はい。そもそもマジックロールとは、術を記載してある簡易魔術書です。魔力を施すことで発動するのは、リリア嬢達も披露したのでは?」


 ここまでの戦いを観ていた一同は、軽く頷く。


「なのでアース・バイスで吸収、能力の付与は可能です。加えて精神型であり、地属性であるシドニエ氏はその付与効果の恩恵を強く受けることができます」


「つまりアルビオに対し、あそこまで接戦を繰り広げられるのは、その付与魔法の賜物というわけか」


「ですが、強化魔法だけであそこまでできますかね?」


「どういうことだ、ハーディス」


「私と戦った時はあのような動きではありませんでした。ご存知でしょう?」


 ハーディスがやり合った時は、むしろ今かけられている付与魔法の一つ、リアクション・アンサーがかけられている。


 その時の動きに対し、本人は悲鳴を上げるほど驚いていた。


「かけた付与魔法の影響だろう。……どうなんだ?」


「そうですね。色々な付与魔法を試したうちの一つだと思いますが、おそらくはグローリー・オーラを起用したものかと……」


「一回戦の時に観せたやつか」

 そこの説明は必要なのかと、知っているミルアに尋ねると、こくりと頷いた。


「ここからはあくまで推測になるのですが、シドニエ氏はグローリー・オーラの影響で強気な攻めができていると思われます。ただ……」


「ただ?」


「相手がアルビオ氏だからできること、と思われます」


「どういうことだ?」


「グローリー・オーラの効果については知っているでしょう?」


「ああ」


「シドニエ氏はアルビオ氏の先祖、勇者に憧れています。その子孫にあたるアルビオ氏と戦えること……これが力と変わっているのです」


「えっと、つまり何? モチベーションで戦えてるってわけぇ?」


 そんな精神的なことだけであそこまでの動きができることに、驚きと信じられないという感情を込めた質問をユニファーニは投げかけた。


 そんなことでできるなら、今までの間にも形くらいはできたのではないかと。


「もう少し詳しく説明しましょう。そのためには、リアクション・アンサーについて説明する必要がありますね」


「そういえば結局何なの? あの魔法」


「自動回避魔法ってことなんでしょ?」


 そう言うと先程から喋りっぱなしのエルクはくすりっと笑みを浮かべた。


「それは正確に把握しておりませんね」


「違うのか?」


「はい。リリア嬢から聞いた作用はもっと違うものですよ。『アンサー』という魔法はご存知ですか?」


「確か……リリィがアーミュって人にかけた魔法だったね」


 あまりいい思い出ではないと表情が曇る。


「彼女には嘘を吐かせるために使ったようですね。アンサーはその通りの魔法かと。リアクション・アンサーはそれのアクション版です」


「なんだと……?」


「リリア嬢曰く、相手の攻撃に対して最的確な回避法を取るといったものです」


「だから私の攻撃もあんな簡単に……」


 カルディナやハーディスの攻撃があれだけ(かわ)されたことに納得がいく。


 付け加えて、もう少しエルクは説明をした。


 アンサーの場合、問われた『問い』に対し、脳が解釈して正しい『答え』を吐かせるというもの。


 リアクション・アンサーは、相手の剣撃を『問い』として脳が解釈、その『答え』として行動を自動的に取ったということだと説明した。


「じゃあ攻撃はどうですの? 最的確を出して攻撃しているわけではないのでしょう?」


 実際、アルビオはシドニエの攻撃を(かわ)している。


「一度攻撃すれば相手は必ず返してくる。特にこれは試合だ」


「言われてみればそうですね」


 そこを頭に置いた上でと補足を入れると、シドニエの状態の説明をする。


 あの木刀を通じて複数の付与魔法を自分の身体へと付与する。


 あの戦いぶりと、用意してあるマジックロールから推測し、発動されているのはディフェンシブ・オーラ、グローリー・オーラ、リアクション・アンサーと思われる。


 例の二つの組み合わせで強固な身体を取得し、リアクション・アンサーでの回避、攻撃ともに優れた反射速度を手に入れたのだと説明。


 そして――、


「リアクション・アンサーとグローリー・オーラについては、アルビオ氏が相手であれば、効力を最大限に発揮できます」


「そういえばそんなことを言っていたな。どういうことだ?」


「グローリー・オーラの効果については?」


 ハイドラスはこくりと頷く。


「それならばわかるのでは? シドニエ氏は勇者に憧れていました。……強い憧れを」


「……もしかしてシド、楽しい……のかな?」


「は? どういうこと、ミルア」


「え、えっと、どういえばいいのかなぁ?」


 男心を言葉にするのは難しいし、気持ちの代弁もできないと言い淀んでいると、そのような感情に縁の無さそうな人が答える。


「憧れの子孫と戦える……彼が表に出てこない挑戦心が出てきた、と言ったところかしら」


 一同、黙って彼女を見る。


「何かしら?」


「いや、こんなことを言うのは無粋だとわかっているが、言わせてくれ。……テテュラ、まさか君からこんな言葉が出てくるとは」


「それは申し訳ありません、殿下」


「え、えっとつまりはさぁ……」


 テテュラの作り出す空気には慣れないと、ユニファーニは大きな声で場の空気を変えようとする。


「今の自分を憧れの子孫で挑み、試せることを喜んでいるってこと?」


「そうですね。彼の勇者に対する憧れがあるからこそ、力となります。彼の心境を代弁するならこうでしょうか? 『今僕は()()タナカさんと戦っている。戦えている。試したい……自分の可能性を!』……と言ったところ――何か?」


 そのセリフも表情もエルクにはまったく似合わないと、一同の表情が曇る。


 それを見て、こほんと咳き込むエルク。


「とにかくこのような舞台での戦いも後押しをして、彼のモチベーションは最高潮でしょう。それを全て力に出来ているということです」


「しかも木刀に付与されているのを通じてということは……」


「はい。木刀を手放さない限り、本来なら限界があるリアクション・アンサーも発動を続けます」


「じゃあシド、勝てちゃうの?」


「それはどうでしょう」


 その発言には疑問を持つ一同。


 彼の話からシドニエに付与された魔法によって強固な身体と俊敏な反応速度を得た自動回避、攻撃能力。


 挙句、木刀を離さなければという条件付きだが、発動は続けるという。


 欠点など見当たらないと思う。


「欠点はあります。先ず、リアクション・アンサーの効果が強力過ぎます。身体のみならず、頭にも相当の負荷をかけます」


「……! そうか、自動回避と言われれば聞こえはいいが、脳が瞬時に解釈し、それが負担となる。そして、それに応える身体は自分の予想を超えれば……」


「大きく体力を削がれることになります。精神型であるシドニエ氏はその体力もついていません」


 普通の精神型よりは、素振りや体力作りをしていたためあるとはいうが、ウィルクほどではないだろうと説明。


「つまり身体にガタがつく」


「ええ、ですからシドニエ氏達は短期決着を望むつもりでしょう。……そして二つ目、先程も言いましたが、これだけの強化をされる環境がシドニエ氏のモチベーションに左右されるということです」


「そうか。アルビオに挑み、このような環境だからこそ、グローリー・オーラの作用が効く……」


「はい。それが無ければもう負けています。ですが、ここまでの強さを発揮できるという自信に繋がるとても良い試合となるでしょう」


 自分に自信のないシドニエに大きな結果という自信を。アルビオと互角に戦えたという経験という結果もシドニエを強くする糧となる。


「そっか……シド自身の憧れが成した結果か」


「凄いね……」


 ユニファーニとミルアは、黄昏(たそがれ)るように、観覧席から見下ろしてシドニエを観る――。


「どう? いける、シドニエ」


「はい。なんだか今なら迷いなくぶつかれる気がします」


 そのやる気に満ちたシドニエに微笑んでみせる。


「よし! 行こう!」


「はい!」


 再び、影とシドニエが襲いかかる。


「――フィン! 君はルイスさんの防御に専念して! ルイスさんはリリアさんの魔法を対処して下さい!」


「おう!」


「わかりました!」


 ルイスはフィンの風の防壁に包まれると、詠唱を始める。


「予想してたよ!」


 俺は下の影からルイスを攻撃しようとするも、


「フン!」


 フィンの放つ風圧で次々とあしらわれる。


 一方でアルビオはシドニエの動きを観察する。


 向かってくる駆け足自体は遅いのだが、剣を交えた際に生じる反応速度は異様に速い。


 再び衝突。押し合いになると、アルビオが尋ねる。


「強くなられましたねっ。正直、驚いていますっ!」


「僕は全然強くなんてありませんっ。でも、せめて気持ちだけでも……っ!」


 白熱した衝突に観客も熱気を増す。


「そうですね、気持ちって大切ですからねっ!」


 大きく弾くと、引きずるようにシドニエは後退させられた。


 するとアルビオは剣を振って見せた。


「――エア・カッター!」


 ビュンと風を切るような音とともに迫ってくるものを感じたシドニエは反応すると、その風の刃を強引に相殺する。


「……」


「何をそんなに驚かれているのですか?」


 シドニエの心意気に応えたいと、アルビオも男の表情へと変わる。


 自分自身でもまったく似合わないと思うほど、熱い気持ちが込み上げている。


「精神型である貴方が魔法剣士を目指されるのは良いことです。ですが……僕にもできますよ」


 勇者の末裔という肩書きの真髄が花開く。

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[良い点] う、もう最新話だ...
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