27 殿下側近の実力
俺はヘレンからのとばっちりの説教を受けた後、ぶちぶち文句を垂れ流しながら、訓練場へと向かう。
「まったく……」
「え、えっと、か、彼女が言っていた劇には行くの?」
「うん。お呼ばれされてるからね」
正直、自分が美化される演劇に顔を出すというのは、思いのほか抵抗がある。
行きたくないが、どう舞台化されるのか観ておかないと不安である。
会場に出ると、先程のヘレンの宣伝が演出になってしまったのか、観客の熱量が段違いだ。
それをハーディスは嫌味混じりに、
「いやぁ、僕達のアウェー感が凄いですね」
「えっと……ごめんなさい」
「構いませんよ。僕は特別目立ちたいわけではないので。とはいえ、殿下の側近としての立場もあります。……負けませんよ」
今更ではあるが、俺はまともにハーディスの戦いを見るのは、今日が初めてに等しい。
試合を観るも、中々効率的に相手を倒している。
前衛としての立ち振る舞いをキッチリと熟し、パートナーであるビルマとの連携も取れている。
ハイドラスと共に、色々忙しかったであろうハーディスとウィルクのはずだが、形に出来ているのは素直に感心する。
フェルサやハイドラスは見習って欲しいところだ。
そんな器用かつ、風属性持ちのハーディスが相手だ、おそらく色んな手段の対策や攻め手を用意してあるはず。警戒しておいて損することはないだろう。
パートナーに関しては、うちのクラスにいた下位の魔法使い。だが、こちらもシドニエやルイスの前例がある以上、警戒は怠らない。
実際、前試合では水魔法での援護くらいしか見受けられなかったが、俺達のように隠している可能性がある。
まあこちらも万全を喫するだけなのだが。
「あれは大丈夫?」
「は、はい」
俺は先程手渡した物を持っているか、移動がてら確認をする。
「いい? 始まりの合図と同時だよ」
「はい。……相手はあのハーディスさんですからね」
騎士科の実戦成績はカルディナを超えてアルビオと同格。だが、アルビオのブランクを考えると実質トップと言っても差し支えない。
割と厳しい試合になるんじゃないかと思っている。
「それでは、シドニエ、リリアペア対ハーディス、ビルマペアの試合を行う。――始め!」
その合図と同時にハーディスが目の前に現れた。
「「――!?」」
予想はしていたが、これだけの速さで人が動けることに驚きを隠せない。
「参ります!」
確実に虚をついたとリリアに斬り付けるが、
「!」
ヒュンと俺は身を躱す。躱されたと瞬時に反応し、隣にいるシドニエにも連撃するも、
「くっ……こちらも躱されますか」
シドニエも素早い攻撃に対する身のこなしに、歓声が湧く。
「――シャドー・ダンス!」
追い払うように、俺達の影から黒い刃が突きつけるが、足蹴りしながら素早く後退。
ざりっと地面を軽く鳴らし、ビルマの側によると何やら話そうとしている。
情報収集を得意とするのは、リュッカの事件の時から知っている。分析もされるだろう、そんな時間は与えない。
「攻めるよ、シドニエ! 前に出て!」
「う、うん」
「やはり来ますか。 ビルマさん、貴女は作戦通り、リリアさんを警戒して下さい。攻撃のタイミングは合図します」
「はい!」
ハーディスは目に見えぬ速さで動き、シドニエを翻弄しようとかかるが、シドニエは躱し続ける。
「おおおおっ!? シドの動き凄いんじゃない!? あんなに動けたっけ?」
「……妙だな」
「妙ですね」
「妙ってどういうことです? 殿下」
「見てみろ」
そう言われて会場を見ると、ハーディスはシドニエの周りを俊敏に動き、隙あらば攻撃するも紙一重でシドニエが躱す動きが続き、リリアも無詠唱で援護し、シドニエに詠唱をさせようとするも、ハーディスはペースを取られまいと動き回る。
「えっと……どこが妙ですの?」
「回避する動きはあれだけの動きが出来るのに、時たまシドニエが攻撃する動きがどうもぎこちない」
「言われてみればそうですね」
「……おそらくリリアさんの魔法でしょう」
カルディナが覚えがあると割って入る。
「彼女達の眼を見てください。紫色に光ってますわ」
リリアもシドニエも何かの魔法を付与したように瞳に光を帯びる。
「そういえばカルディナちゃんの時もそうだったな。……確か、リアクション・アンサーだったか?」
「おそらくその付与魔法は回避能力の向上を与えるものと断定できますわ。だけど……」
すると、二人の眼から紫色の光が消えた。
「――今です! ビルマさん!」
合図と共に杖を地面に叩いた。
「――はい! ――フリーズ・バインド!」
バインド系の魔法は無詠唱はできないはずなのに。
「なっ!? くっ、――リアクション・アンサー!」
咄嗟にマジックボックスに触れ、魔法を発動。その間に俺とシドニエの足元が凍りつき、身動きを止めた。
そこをすかさずハーディスは猛追。
「はあっ!」
だが、ヒュンヒュンと空振りするだけでシドニエには当たらない。
「わわわわわわぁっ!?」
「げっ! マズイ」
上半身だけでハーディスの素早い剣撃を躱しきるのはおかしいと、ハーディスはビルマの元へ。
「……なるほど、攻撃を躱す種は、やはり貴女の魔法でしたか」
「くっ」
「さながら回避率の向上……いえ、先程のシドニエさんの悲鳴を聞けば違いますか。……自動で回避する魔法、ですか?」
俺はポーカーフェイスを貫こうとするも、シドニエがあわあわしている。
「シドニエっ! ポーカーフェイス! はったりも大事だって言ったよ!」
「ご、ごめんなさい」
「凄い、ハーディスさんの言った通りですね」
「ええ。ですが貴女のお陰で彼女の術の正体を暴けました。感謝します」
「そこなんだけど、どうして彼女、バインド魔法を無詠唱で?」
「いえ、無詠唱で発動していませんよ」
俺はふとビルマを見ると、足元に何か書かれている。
「――あっ!? 文字詠唱!」
「気付かれましたか?」
そういえば俺が無詠唱で攻撃を集中していたのがハーディスだったのに、一切フォローを入れていなかった。
杖を揺らしながら、そわそわしてたのは地面に術を書き込んでいたのか。
「ってことは最初から……」
「ええ。カルディナさんの時に見たあの異様な回避術を使うと踏んでいましたから。何せシドニエさんは我々のような機敏な動きはできないはずです。一回戦の時の戦闘スタイルを観れば、一目瞭然です」
つまりハーディスは俺の術を見破るために、ビルマに氷の拘束魔法を使い、足を封じられた動きで見破る判断材料にしたわけだ。
「私のような風属性を相手にするのは、素早い動きのできないお二人には厳しいでしょう。リリアさんはともかく、シドニエさんは詠唱が必要なようですから……」
「そこを突かれたわけね」
一瞬とはいえ、カルディナの時のアレを違和感と捉えられるのは、用心深いというか用意周到というか。
「でもさ、この術がある限り、ハーディスの攻撃は通らないよ」
「そうですね。マジックボックス内のマジックロールを使い切るまで粘るというのは、制限時間があるこの試合では厳しいでしょう」
「はは。そこもお見通しなのね」
そう。ハーディスが試合開始と同時に、高速で攻めてくるのは読めていた。
だからマジックロールに施しておいた、リアクション・アンサーの魔法を魔力を注いで強制発動したのだ。
ちなみにシドニエにも数本仕込んである。前準備が大変だっただけに、こう見破られるとへこむ。
「でもご安心ください。その自動回避ができないくらいの攻撃ならどうです?」
「……水の精霊よ、我が声に応えよ――」
「げっ!? もしかして彼女……」
「ええ。王宮魔術師の人に見てもらい、魔力量はまだ発展途中ですが、上級魔法は可能ですよ」
「それって職権乱用!!」
ルール違反では無いが、本当に抜け目ないわ! この人。
それを聞いたウィルクとハイドラスもツッコむ。
「おい、ハーディス! その手があったなら教えろ」
「そうだぞ、野菜頭!」
「申し訳ありません殿下。ですが、殿下はスケジュールがご多忙ゆえ難しく、騎士殿達と時間が合いませんで。……ウィルクは知りません」
ハーディスのことだ、建国祭で忙しいであろう騎士隊長や王宮魔術師のスケジュールは把握していたはず。
差し支えない程度にビルマに魔法を教えることは可能だろうが……改めてハーディスがハイドラスの側近護衛でいる理由も頷ける。
こりゃ優秀な秘書だわ。
「シドニエ! リアクション・アンサーでゴリ押して! もう貴方が詠唱するのは無理だわ」
「は、はい」
俺は火の魔法で氷を溶かすと、詠唱を始めようとすると、ハーディスが逃さないと距離を詰めるが、シドニエは木刀を振り、阻む。
「行かせません!」
「申し訳ありませんが、相手が務まると?」
相手にしなければ良いと、軽く躱すと、無理に攻撃せずこちらへと向かってきた。
すると、
「――があっ!?」
ハーディスは背中に重く硬い一撃をもらう。
「無詠唱できるのが、私だけとは思わないことだね」
軽く受け身を取って地面を滑り、ハーディスは背中の攻撃が何なのか見てみると、拳ほどの石が転がっている。
「なるほど……迂闊でした」
一回戦に圧倒できる付与魔法を見せたのはこのため。
初級魔法の一つ、ストーン・バレットをぶつけたのだ。いくら高速で移動していても、後から撃った魔法の速度の方が落ちていないはずだし、空気抵抗もハーディスの背中に撃つため、影響は少ない。
「――スパイラル・ブレイズ!」
螺旋を描きながらビルマへと炎の渦が突っ込むと、その炎の前に立ちはだかり、風属性を付与されているであろう剣でなぎ払う。
「させませんよ!」
ブワッと炎をかき消すと、そこには木刀で殴りかかるシドニエがいた。
「――やあっ!」
先程のことを警戒してか、多少相手にするようで、木刀と鋼の剣が殺陣をする異様な光景となる。
(ここまで木刀を硬質化できるとは……舐めてかかれませんね!)
「――大いなる恵みの怒りを買い、荒れ狂う母は全てを呑み込む。水神の逆鱗を見よ! ――ダイダル・ウェーブ!」
会場一帯に大きな水流の渦が唸りを上げて、渦巻く。さながら災害のようだ。
「「――魔法障壁」」
俺もシドニエも大きな魔法が来ると、構えていたため、防御術が間に合った。
付近にいたハーディスは、術の影響を受けていない、ビルマの元へ。
「大丈夫ですか?」
「は、はい」
ハーディスは無理もないと言った表情。
バインド魔法も上級魔法も魔力の消費が大きい。これ以上の魔法を使うと、魔力切れを起こすだろう。
「安心して下さい。これでケリです」
ダイダル・ウェーブが消えて、魔法障壁が解かれる。
(――この隙!)
ヒュンとハーディスは姿を消す。リリアがマジックボックスに手を添えているが、術後硬直がある以上、すぐに発動は無理だ。
翔歩で詰め寄り、術の消えたシドニエを気絶させようとした瞬間だった。
ドサッとハーディスの後ろから人が倒れた音が聞こえた。
ビタっとシドニエの真ん前で攻撃を止め、振り返ると虚な目で倒れているビルマの姿があった。
「な、何が……」
「ふう……間に合ったみたいだね」
「そこまで! 勝者シドニエ、リリアペア!」
勝者宣言から少し遅れて歓声が湧いた。遅れたのは、みんな何が起きたか、わからないためだろう。
シドニエすらクエスチョンマークが頭の上からポンポン出ているような表情で、俺とビルマを見る。
その様子からハーディスは、マジックボックスに手を添えていたリリアの仕業と考える。
ビルマを介抱しながら、理由を尋ねる。
「何をしたんですか?」
ビルマの様子は酷く疲労したような感じ。息も早く、足腰も立たないように、身体が小刻みに震えている。
「マジックロールで仕込んでた魔法はアレだけじゃなかったってこと。簡単な話、魔力と体力を入れ替える魔法を使用したの」
「ですが術後硬直があるはず。いや……」
リリアが既にマジックボックスを触れていたところを見ると、すぐにこの状況になった理由にも納得がいく。
「術後硬直って言ったって、ほんの一瞬の話でしょ?」
それこそコンマ単位での話である。
使った魔法はバランサー・ドレインという魔法。言った通り、体力と魔力を入れ替えるだけの魔法。
だが使い方次第では下手な攻撃魔法より強力である。
ビルマの状態がその例の一つ。彼女の魔力量はかなり減っていたが、体力は魔法使い故、温存されている。
それを入れ替えることによって魔力を回復、体力を激減させることで、身体に負荷を与えたのだ。
ビルマ自身は急に身体に重みや怠さを感じ、魔力が急に増幅することで、魔力回路を一時的に麻痺させたのだ。
人体に外傷を及ぼすことはないものの、体内攻撃ともとれるこの魔法は、体力と魔力を安定させれば、防ぐことも容易だが、戦闘中はそうもいかないだろう。
「ハーディスと組む娘はどうしても魔力が少ない娘になるだろうと思ってたし、さっき自分でも言ってたしね」
「なるほど、このパラディオン・デュオのパーティー編成を利用した作戦だったというわけですか……」
ハーディスはビルマをお姫様抱っこ。
「まあちょっとズルイかなぁとは思ったけど……」
「いえ、貴女の作戦勝ちかと。あの自動回避魔法すら囮りに使ったのですから」
その魔法のインパクトとシドニエが自分で肉体強化魔法を使用することを根付かせたことが、勝利へと導いたと思う。
種まきって大事だね。
俺達は舞台から捌けると、舞台入り口には次の試合の出番であるリュッカとロバック、見送りにきたアイシアがいた。
「本戦出場おめでとう! 二人とも」
「そっか、優勝しなくてもここで決まってたのか。……ありがと!」
「あ、ありがとうございます。……い、いいのかな? 僕が本戦だなんて……」
「大丈夫だよ。シドニエがちゃんと成長した証拠だよ。もっと胸張って」
シドニエの肩を叩いて勇気づけた。
「う、うん」
まだ不安を残した表情ではあったが、ちゃんと言い切ってくれた。
実際、課題は山積みだし、ハーディスの言う通り、シドニエを急成長させることは難しい。
だが、最近のシドニエは積極的というか、恐れずに対戦相手と向き合っているところを見ると、魔物を倒すどころか剣すら振れなかった彼とは思えない。
肉体強化さえできれば、鋼の剣でも振れるようになるのではと考えたのは内緒だ。
「リュッカ達も続いてよ。決勝で待ってるぜ!」
「ちょ、無茶言わないでよ。リリアちゃんも見たでしょ?」
「まあ、うん。アルビオもルイスも強くなったねぇ。でもさ、こっちだって元冒険者にしごかれたんだから、タダではやられないでしょ?」
「……うん。そうだね!」
リュッカはリンナとの特訓を思い出し、リンナのあの性格に押されるように鼓舞するが、
「リュッカさんはいいですけど、僕は……」
もう一人はダメらしい。しょぼーんと落ち込んでいる。
「だ、大丈夫です。私が守りますから」
「うう、ありがとう」
落ち込みながらお礼を言うロバックに同情の念が湧く。男としてあまり女子から言われたくないよね。そのセリフ。
そんな試合がちょっと不安になるなか、舞台へ向かう二人を見送り、観覧席へと戻った――。
光の派手な魔法での勝利の余韻が戻ってきたように、歓声が鳴り響く訓練場。
「相手はリュッカさんだからって手加減しちゃダメですよ」
「わかってますよ。……怒ってませんか?」
「いえ。これから次第で機嫌は大きく変わります」
何故そんなにもぷりぷりした態度なのか、心当たりがないまま、リュッカ達と握手を交わす。
「よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
リュッカとアルビオが和やかに握手を交わすのが気に入らないよう。
「あ、あのっ、痛い! 痛いんですけど……」
強く握ったロバックの手を振り解くと、強引に間に割り込み、リュッカに無理やり握手する。
「少しお話があります。二人は先に戻って下さい」
リュッカから視線を離さないあたり、リュッカと話をしたいのだろうと思ったが、
「あの……何故――」
「い・い・か・ら・ね?」
その女子特有の圧にアルビオとロバックは息を呑んだ。
「「は、はい」」
二人がある程度離れると、宣言通り話をする。
「リュッカさん。貴女はアルビオさんのことをどう思っているのですか?」
「――ええっ!? い、いきなり何ですか!?」
「いきなりではありません! 周りからはちらほらと噂されてるんです」
「う、噂?」
「アーミュさんが起こした事件の概要をこの学園の人間が知らないとでも? そこからお二人の雰囲気が変わったと聞きます。どうなんですか!?」
確かに助けてもらった恩義があるから、特別な感情はある。
だが、そういう風に聞かれてしまうと、変に意識してしまう。
周りからもちらほらと弄られてはいたが、彼も否定的だったが故に、そんなこともないと思っている。
というかリュッカ自身、恋愛経験が無い故、どのような感情が恋愛なのかわからない部分がある。
だがルイスには自分にはない感情があるのではないかと、見て取れた。
「わ、私自身、よくわからないんです。アルビオさんに対し、特別な気持ちはあると思う。……けど、それが貴女が警戒しているものかどうかは……」
「……嘘ですね」
「え?」
「なら何故、急に女性らしくしようと考えたんです? 男性の視線……アルビオさんを意識しているからではないですか?」
「い、いやぁ……あのっ!」
「貴女の寮の先輩に聞きましたよ。最近、オシャレについてもたまに尋ねてくると。アイシアさんと一緒に……」
観覧席にいるであろう先輩達を見ると、ひらひらと手を振っているのが見えた。
「これでも違うと?」
「……」
言われていることが的中しているような感覚に、赤面していると、先生から早くしなさいと言われ、話は中断される。
その去り際……、
「いいですか? アルビオさんは私の彼氏さんにします。その気があろうとなかろうと、容赦しません!」
「――えっ!? ルイスちゃん?」
フイっとそっぽを向くように、アルビオの元へ戻ったルイスに尋ねる。
「喧嘩してるように見えたけど、大丈夫? 仲良くしようね?」
ジトっとアルビオを睨むと、機嫌が悪くなりましたよと、再びそっぽを向く。
「アルビオさんは優柔不断ですね」
「えっ!? 急にどうしたの?」
「別に」
一方のリュッカもちょっと様子が変だとロバックが尋ねる。
「ルイスさんなんだって?」
「いえ、大した話ではないので……」
リュッカ自身、どうして急に見た目を気にするようになったのか、もやもやしている。
というのも王都に来てから浮かれていたとか、女子寮でのみんなは可愛い娘や美人さんも多く、ちゃんとした方がいいとか。
あの事件があったからこそ、地味な見た目から舐められないようになど、理由を挙げれば沢山出てくるが、今となってという話でもない。
自分にはアイシアという可愛い女の子が常に隣にいたし、リリアと一緒に行動するようになっても、特にその辺を意識することはなかった。
となれば、
「――――」
ルイスの言った通りではないかと、顔から火が出そうなほど、真っ赤になる。
否定してはいたが、やはりちゃんと女として意識しているところはあったのではないかと、グルグル考えが巡る。
そんなリュッカの様子がおかしくなっていくのを見ていたロバックは呼びかけるが応答がない。
するとオーバーヒートしたのか、頭から湯気が思いっきり出たかと思うと、力が抜けていく。
「えっ!? リュッカさん!? しっかりして下さい!!」
揺さぶり応答を尋ねるが、目を回している。
その様子に先生やアルビオ達も駆け寄る。
「どうしたの?」
「いや、あの急にこんな状態に……」
「熱に当てられたんでしょうか?」
確かに訓練場は開けているから、日差しが眩しいし、まだ夏季休暇明け。気温も高いが、熱中症になるほどではない。
それを観覧席から見てた俺達。
「リュッカ、どうしたんだろう?」
「さっきまでお元気でしたよ」
「うーん、ルイスが何か仕込んだ?」
「魔法の気配はありませんでしたが……」
「わかってないね。みんな……」
ユニファーニはルイスの態度と表情から、自分の意見に自信がある様子。
「何が原因かわかるのです?」
「これは、アルビオさんの取り合い……つまり恋だよ!」
「!」
「ああ〜……」
何とな〜く言いたいことは伝わってきたし、リュッカが気絶した理由にも納得がいきそうだ。
「そんな馬鹿な。そんなことで気絶なんて……」
「経験のなさそうなナタルさんにわかるんです? 恋する乙女の気持ち」
「じゃあ貴女はありますの?」
「ない!」
「――人のこと言えないじゃありませんの!!」
そんな女子トークを繰り広げているうちに、リュッカは運ばれ、不戦敗としてアルビオ、ルイスペアの勝利となった。
その話が本当だとして、リュッカは意識してなかったのだろうか。
恋愛に疎い俺でも、てっきりリュッカはアルビオに想いを寄せているものだと思っていたのだが。
「ねえ、テテュラ?」
「何かしら?」
「リュッカに恋愛相談とかされた?」
同室者であり、口の固そうで頼りになりそうなテテュラなら聞いたことがあるのか尋ねると、ふと考える素振りをするが、さらりと答えた。
「ないわ」
「だよね〜」
俺達もそういえばされたことがない。
女子って男子とは違い、気持ちを共有して欲しい傾向があるため、恋愛相談をすることが多いって聞いたことがある。
まあ女子って恋バナ好きだからね。
そこで女子達が論争を繰り広げているのを見ながら、そう思うのだった。




