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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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24 リリアVSカルディナ

 

 ――一回戦、最終試合。この試合の勝者で第二回戦のトーナメント出場者が出揃う。


 そんな最終試合のとある一組。


 リリアやカルディナといった一年生で有名な二人がいる試合をなんとか勝てないかと画策する。


「オルヴェールさんもワヤリーさんもペア相手は弱い。その隙さえつければ……」


「可能性はあるってことか」


 リリアもカルディナも個人の実力が凄まじい故、彼等は弱い人と組まされていると認識している。


 確かにその通りではあるのだが――その背後から彼等の予想外の出来事が文字通り、襲いかかる。


「えっ? ――きゃああっ!!」

「――うおおおおっ!?」


 その光景を見たマーディは、呆れた表情をしながら顔を隠すように片手を添えた。


「……まったく、オルヴェールはどこまで派手にやらかすつもりですか」


「はは……壮観ですね」


「笑い事ではありません、カルバス先生! これでは評価しづらいではありませんか」


「……ええ、なんとも教師泣かせですね」


 そんな教師泣かせが何をしたのか――それは、試合開始と同時に行われた。


「――闇の王よ、我が呼びかけに応えよ。暗き影より這い寄りし、黒き影よ。かの者に忍び、恐怖と絶望を与えよ。勝利なき現実を映せ! ――シャドー・ストーカー!」


 そう唱えたリリアの魔法陣から無数の影が何かを探しにいくように散らばっていく。


「あの……これが作戦の術?」


「うん。これで大方の相手は潰れると思うよ」


 シャドー・ストーカー。闇魔法、上級魔法の一つ。


 簡単に解説すればシャドー・ダンスの上位版。シャドー・ダンスはあくまで、リリアが見える範囲の影で攻撃するものだが、シャドー・ストーカーは広範囲に対応できる。


 先程散らばった影達が敵を感知すると、その術に組み込まれた攻撃を行う。


 今回は試合という形なので、生徒なら縛るように、魔物なら殺傷するようにしてある。


 しかも魔力を込め続ければ持続、自分での遠隔操作も可能となる万能な術だ。


 このバトルロイヤルにおいては好都合な術である。


 そうこうしている内に、色んなところから悲鳴が聞こえてくる。


「……さ、さすがオルヴェールさん」


「顔、引きつってるけど?」


 これが教師泣かせがやったことである。


「さて、悲鳴の感じからすると、カルディナさん以外はやられた感じかな?」


「や、やっぱりあの人は上手くやれませんよね?」


「多分ね。パートナーがやられてくれてれば、終わりだけど……」


 そう簡単にはやられてくれないだろうなと思うわけで。


 実際、試合終了を言われていない。


「とりあえず作戦通りにね」


「は、はい。頑張ります」


 シドニエが木刀を抜いて準備をした時だった――、


 ガサッと上の方から物音が聞こえたかと思うと、楽しげな笑みを浮かべながら、斬りかかってくるカルディナの姿があった。


「――くっ」


「――わあっ!?」


 俺達は何とか(かわ)した。


 どうやら左手で鷲掴みにしているパートナーだろうか、その彼を持っていたお陰か、思うように剣が振れなかったようだ。


「フフ、さすがは黒炎の魔術師……危うくやられてしまいそうでしたわ」


「――あでっ! あ、あのさ、もう少し優しく置いてくれない?」


「あら、ごめんなさい」


 というか男子を片手に持ちながら、楽しそうに斬りかかってくるって、女子としてどうなの? と思いながらも、


「カルディナさん、わざとですよね?」


「何のことですかぁ? 黒炎の魔術師さん?」


「――それだよ! それ!」


 気に入らない呼び方だってわかってて言ってる節にツッコむ。


 今までさん付けだったくせに、あからさまな黒炎の魔術師呼ばわり。絶対遊んでるよ、この人。


「まあよろしいではないですか。呼び方くらい」


 すると突きの構えを取る。


「それにその呼び方をしているのは、敬意を持っての発言ですのよ」


「……どうだか」


 俺達も戦闘態勢に入る。


 するとシドニエの構えた木刀を見て、カルディナのパートナーは心配そうに尋ねる。


「おいおい、そんな武器で大丈夫か? お前のことは聞いてるけど、それはあんまりにも心許(こころもと)なくないか?」


 そんな言葉は耳にタコができるほど聞いたシドニエ。その言葉に心揺さぶられることはない。


「貴方は人の心配などなさらなくて結構。自分も似たようなものでしょう?」


「ま、まあそうなんだけど……」


 俺のクラスの人間ではないためわからなかったが、この会話からカルディナのパートナーもやはり、成績的にも下の者らしい。


 こちらとしては好都合だ。


「それにシドニエさんはアルビオさんと稽古なさってたようで。……期待していますわよ」


 シドニエは無言のまま、カルディナ達を睨む。集中しているようだ。


 それを覚悟と受け止めたカルディナは――、


「さあ……参ります!」


 ギュンっと地を蹴り、素早く斬り込む。


 それに対しシドニエも走り出すと、同時に――、


「――リアクション・アンサー!」


(――!? 付与魔法?)


 俺は自分とシドニエに付与魔法をかける。俺達の瞳が薄っすらと紫色に帯びる。


(まあ……)


「――関係ありませんわっ!!」


 シドニエの動きが遅いことは、カルディナも把握済み。しかも今目の前での反応を見ても多少向上した程度。


 どんな付与魔法をしたのかまではわからないが、この瞬間だけなら対処できると判断。リリアの援護も間に合わない。


 刃がシドニエに触れ、攻撃があたる確信があった。


 だが――、


「――っ!」


「――なっ!?」


 カルディナは自分の獲物から手応えを感じなかった。シドニエを斬った感覚がなく、空振ったのだ。


(そんな……今の速度なら当たるはず……)


 そんなカルディナの一瞬の困惑のうちに、シドニエはちょっとつまづきながらもカルディナのパートナーの方へ駆け出す。


「――ふうっ!」


「えっ!? ちょっと……」


 シドニエはアルビオやバークに教えてもらった剣捌きでパートナーの魔法使いに攻め込むが、やはり精神型同士ということもあって、魔法使いの彼も紙一重ではあるが、(かわ)せている。


「くっ……!」


 不覚を取ったと、カルディナはシドニエに向かおうとするが、


「――シャドー・ダンス!」


 俺がそれをさせないと影うち。ひらりと(かわ)すと、悔しそうに睨みながら尋ねてくる。


「貴女、何をしましたの?」


「さあ? 教えると思う? それと、(いじ)らないの?」


 カルディナはどうしてシドニエが(かわ)せたのかの根本の理由はわかっている。


 リリアが瞬時に唱えた『リアクション・アンサー』という聞いたことのない魔法。


 黒炎の魔術師と異名されるだけあって、この魔法もオリジナルと考える。


 この魔法の効果で(かわ)せたと考えていいが、肉体強化なのか、別のものなのかで対応が変わってくる。


 カルディナの目の前で起きた光景は、動きが取れていなかったシドニエが急に加速し、剣撃を(かわ)したのだ。


 カルディナの剣速、あの対面なら本来(かわ)されることはなかった展開に驚愕しつつも、今、自分のパートナーに攻撃している速度はあの対応した時の速度ではない。


(……ただの肉体強化術ではないですわね)


 シドニエはこの術を理解していたと判断できる。


 特に迷いなく、自分のパートナーを攻撃しに行くところを見ると。


「……貴女、最初からわたくしと戦うつもりでしたの?」


「そりゃね。……シドニエには悪いけど、カルディナさんとやり合えるとは思えなくてね。それに……」


 俺は舌舐めずりをして、カルディナと同じように楽しそうな笑みを浮かべる。


「魔法使いが剣士を倒すなんてワクワクする展開……奪われたくないじゃない」


 その表情を見たカルディナに電撃が走る。


 リリアは本気で倒しにいこうとしているのだと、カルディナも心が踊った。


「フフ、言ってくれますわね」


「さあ、いくよ!」


 その挑発に乗ったカルディナは距離を詰めるため、攻め込むが、黒い影達が伸びて行手を阻む。


「っ……これは!?」


 カルディナは俺の表情を見る――ニッと口元が緩んでいるのが見えた。


 次々と影の槍が攻め立ててくる。その激しい猛追を(かわ)して、捌きながらも距離が詰められないでいる。


「なるほどっ。あの術はまだ持続してますの、ねっ!」


 地面を這う無数の影を見てそう語る。


 シャドー・ストーカーは継続されている。俺の魔力はリリアのお陰で豊富にあるため、持続させつつ、無詠唱での攻撃もできてしまうのだ。


 このシャドー・ストーカーは攻防一体の術。


 魔法使いの弱点である詠唱中の防御面、術発動後の擬似硬直などをフォローできる。


 勿論、かなりの集中力が必要とされるが、現代っ子である俺からすれば、そのイメージによる想像力はこの世界の人間の比ではない。


 ファンタジー好きの彼女いないイコール年齢のゲーム歴を舐めんなよと、言わんばかりの影の猛追にカルディナは、これほどの強敵と戦える喜びを表情に出しつつも、突破口を見出せないでいる。


 ――そんな様子を見ながら、俺の友人達はこぞって言いたい放題。


「す、すごいわね、さすがリリアちゃん」


「あいつはなんだ? いちいち人を驚かすようなことをしないと気が済まないのか?」


「魔人を(あぶ)る彼女のやることです。今更な気がしますよ」


「しかし、上級魔法を持続、操りながら更には隙あらば無詠唱で追い討ちしてますわね」


「それを全て紙一重で捌き続けるカルディナという彼女も大概だと思うけど……」


「フェルサちゃんならどう? 突破できそう?」


「無理すればかな? あの一帯の影のほとんどがリリアの武器になってる。突破するのは困難」


「アルビオさん」


「なに?」


「さっき言っていた作戦ってなんですか?」


 リリアも同じ作戦を取っているという発言が気になった。


「そんな複雑なものじゃないよ。さっき言ったでしょ? 秘密兵器って」


「えっ? 冗談で言ったんですよね?」


 そのルイスのポカンとした物言いに微笑する。


「ルイスさんは皆さんが知っているルイスさんではないでしょ?」


「そりゃあそうです! 特訓の成果を見せるつもりだったのに〜」


 先程の試合を思い出したのか悔しさを滲ませながら話してみせる横でハイドラスが気付く。


「なるほど、温存か。お前達が一回戦を突破するのは容易だろうからな。それにアルビオもリリアも個人の能力が盛大にバレているからな。こんな派手な戦い方もできるというものだ」


「はい。僕らの能力対策はされるでしょうが、彼女達はどう成長しているかは未知数です。特にルイスさんは光の魔術師でもありますから……」


「だから私の出番が無かったんですね」


 理由を言われても、どこかまだ不機嫌な様子。


「だからリリアちゃんはシドニエさんにこの試合は、彼を攻めるよう指示したのですか?」


「そのようだな」


「とはいえ、相手はカルディナちゃんだ、一筋縄じゃあいかないと思うがな……」


 ウィルクの指摘通り、カルディナは風属性持ち特有の素早い動きでしっかりと攻撃を回避している。


 そのせいかリリアも攻めの主導権は握っているものの、決め手にかけている。


 なにせシドニエのところへ行かせるわけにもいかないし、森の中のため、下手に火属性の魔法を乱発もできない。注意を引きつつ、攻防するのは大変だ。


 シドニエもそれは理解しているためか、内心かなり焦っている。


(くっ……この人、意外と攻撃を(かわ)せている)


 というのもカルディナのしごきで彼も魔法使いの弱点である近接戦での回避方法を身体に教え込んでいたのだ。


 その彼も内心、


(あの特訓は無駄じゃなかったのね〜!!)


 苦労が報われると、勝ってもいないのに歓喜していた。


 とはいえ、危機的な状況であることであることは変わりない。同じ精神型とはいえ、シドニエは騎士科の授業を受けている。


 何度か杖で受け止めたりもする。真剣ではなく木刀であったことに感謝しつつも、もう限界だと叫ぶ。


「カ、カルディナさぁ〜ん!! 助けて〜!!」


「なんとか退けられませんのっ!!」


「無茶言わんで下さい! オルヴェールさんみたいに無詠唱なんて使えないんですよ!」


 ここでカルディナは後衛の重要性を身をもって経験する。


 魔法使いの能力によって、こんなにも差が生じるものなのかと。


 実際、目の前にいるリリア達は、そこを上手く使っている。


 セオリー通りではなく、自分と対等に戦える人間をぶつけることで、セオリーの逆手にとった。


 それで自分の動きをここまで制限されたのだから、もう少し考えを詰めれば良かったと後悔する。


「このままでは……いけませんわね! ――くっ!?」


 リリアの魔法が行手を阻む。


「悪いけど、行かせてあげられないな」


「……貴女の作戦は見事なものですわね。魔法使い相手ならシドニエさんがどれだけ強くなっているのか、把握しかねます」


「ありがと」


 とはいえ、そろそろ決めてほしいのが本音。


 カルディナもこの闇魔法ならゴリ押せると思ったが、思った以上に距離や配置が切迫していて、攻撃の入れ方が難しく、攻めきれない。


 周りの木々の影が沢山あっても、そのアドバンテージを活かせない。


 シャドー・ストーカーのような魔法は多人戦や奇襲、個人で戦う時に有効であると、確信を得られたのは収穫だろう。


 上位の魔法を使えばいいというものではないと勉強にもなった。


 シドニエもそれは理解しているようだが、もう一枚剥ききれてないところがある。


「くっ……」


 シドニエは目標はある。でもやりたいことはわからない。そんな迷い……迷子の方が適切かもしれない。


 目標は勇者みたいな人になること。だが、剣を持って人を助ければ、目標になれたかと言われると違う気がする。


 その迷いを抱えたまま意地を通しながらも、がむしゃらに特訓していた時、ルイスから報われる出逢いから救われたと言われた。


 リリアと出逢い、色んな人を見ていくうちに、もっと考えた。


 色んな人がいる中で、自分はどうありたいのか。その答えを見つけた時に、帰ってきたリリアに行ってみた。


 自分はそんな真剣に悩んだことはないと難しい顔をされたが、受け入れてくれた。


 だが、その答えを示す場所は自分で切り開かねばならない。


 自分の出した答えが正しいのか、自分の努力が正しいのか、その答えはここから示さねばならない。


「僕は――つまずけないんだぁー!!」


 彼の杖を弾くと、そのまま……、


「あ、ああっ!?」

「おおっ!? ――おふぅっ!?」


 勢い余って、つまずき倒れた。


 その様子をリリアとカルディナは思わず、ポカンと見てしまった。


 すると、シドニエは彼を動けないように抱きしめると、


「か、確保しまちた」


 焦りからか噛みながらも、役目を果たした。


「そこまで! 勝者シドニエ、リリアペア」


 シドニエは安堵した表情でため息を漏らすと、


「頼むからどいてくれ」


「あっ、ああっ! ごめんなさい……」


 パッと離れてお辞儀する。


「お疲れ、シドニエ」


「う、うん。ありがとう、オルヴェールさん」


「まったく、やられましたわ。わたくしはてっきりシドニエさんが戦うものとばかり思ってましたのに……」


「はは……す、すみません」


「二回戦もあるんだから、隠せるものは隠さないとね」


 その意味深な言葉とウインクに、カルディナは尋ねる。


「あら? 期待してもいいのかしら?」


「勿論! でしょ?」


 そのリリアの信頼に、不安は残るが頑張るという意志を込めて、真剣に返事する。


「……はい」


 こうして一回戦、最終試合の幕は閉じた――。



「みんなご苦労。この休みの間、頑張った成果が見られて何よりだ。だが、パラディオン・デュオの選抜戦は終わっていない。出場枠を争うトーナメントをここで発表する」


 そのトーナメント表には俺のペアとアルビオのペアが端と端に書かれている。


(はは……本戦に出させる気満々だねぇ)


 誰が見てもあからさまな感じではあったが、特にみんな異論はなさそうだ。


「このトーナメントの決勝進出ペアが本戦出場となる。勝ち上がったペアは明日に備えてくれ。以上だ」


「リリィ! おめでとう! リュッカと同じ、トーナメント進出だね!」


「うん。お互い頑張ろうね、リュッカ」


「頑張りたいけど、決勝にはいけないかな?」


 ちらっとトーナメント表を見ると、リュッカのブロックにはアルビオペアの名前があった。


「ははは、何を言っているのだ、ナチュタル。アルビオを是非、懐柔してくれたまえ」


「あの! それ何か違いませんか!?」


「そうですよ。懐柔するのはこの私です!」


「それもおかしいです!」


 なんだかアルビオは明るくなってからツッコミが増えた気がする。


「あの、オルヴェールさん」


「ん?」


「僕……頑張ります」


「ん……期待してる」


 決勝トーナメントは明日、その日……シドニエの答えが試される。

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