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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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23 選抜戦開始

 

 ――夏季休暇が終わりを迎え、ありきたりな学園長の言葉がつらつらと語られる始業式も終わり、


「それではこれより、パラディオン・デュオ選抜戦を開始する」


 王都では建国祭の準備が少しずつ進むなか、俺達はタイオニア大森林、ラバ周辺魔物区域にいる。


 カルバスはこの宣言とともにルールとバトルロイヤルメンバーを説明。


 そのメンバーの中に俺が警戒している人の一人、カルディナの名前があった。


「わあ……カルディナさんの名前があったよ」


 ちょっと苦手意識があるような言い方をすると、シドニエが尋ねる。


「そういえばお知り合いで?」


「うん。お屋敷に呼ばれたこともあったしね」


「うう……でも大丈夫かな? あの人、強いんだよね」


「まあ、なるようになるって」


 シドニエが不安に思う気持ちはわかるし、正直俺も通用するかも怪しい。


 だけど一回戦の作戦通りやれば、シドニエを温存できる。


 情報は武器っていうしね。


「リリィ、どうしよう」


「どうかしたの? アイシア」


「フェルサちゃんと当たっちゃった」


「あ……」


 対戦表を見ると、確かにそう書かれている。


 殿下との練習も結局、一回しかできなかったアイシア、ハイドラスペアが一回戦突破は厳しそうだ。


「うーん、運がないね」


「運がないというより殿下、時間取れなさすぎじゃないです?」


「す、すまんな。ちょっと厄介事も(かさ)んでな」


 どこか気を悪くしたように視線を逸らすが、魔人事件のような深刻性のある表情ではない。


 すると、クスクスと微笑しながらウィルクが理由を語る。


「ちょっと婚約者(フィアンセ)に絡まれていてね。アイシアちゃんに手を出せなかったの――さあっ!?」


「――誤解を生むような言い方をするなっ!!」


 ウィルクとハーディスのこのくだりも久しぶり。


「えっと……嫉妬されたとか?」


「ま、まあ忙しさにかまけて中々な。まあ……大変だったのだ」


 あのハイドラスが参っている様子を見るに、中々手強い婚約者なのだろうか。


「リュッカはどう?」


「私はソフィスさんくらいかな? 知ってる人と当たるのは……」


「テテュラちゃんは?」


「彼よ」


 クイっと指差す方向には、アルビオの姿があった。


「運がなかったね」


「いえ、むしろ嬉しいわ。どうせ負ける気でやるつもりだったんだもの」


「はは……」


 そういえばそんなこと言ってました。


 周りを見ても落胆している人から、気楽な感じの人まで対戦表を見た反応は様々だ。


 だが忘れないでほしい。これは授業の一環として行われるものであって、成績に響くものでもある。


 現にマーディ先生が厳正なる評価を下すぞと書いてあるような形相で見ている。


 周りの先生と比べても威圧感ハンパない。


 あと、こちらにも視線を強く感じるのは何故だろう。


 ――そんなこんなで一回戦、第一試合から開始される。


 俺の知り合いでいるのはナタルとユニファーニ、ミルアだ。ナタル以外の二人は貴族って情報のみ。ナタルに関しては、煩いのと組んだと言われて、それ以外の情報がない。


 俺達はタイオニアを映写できる魔道具から、状況を確認する。


 本戦で当たる相手の情報は必要だ。


 実際、本戦候補は俺のペアとアルビオのペアと皆が噂するが、俺とアルビオはあの段階ではがつくが、落ちこぼれと組まされていた。


 このパラディオン・デュオでのルールから、そこを狙われればこちらも勝ち目は薄いが、こちらは策を講じてあるし、シドニエ自身も強くなっている。


 勿論、アルビオもそうだろう。以前会いに行った時、魔法を使えるように精霊を使っていたことから、あの頃とは違う表層になっていることだろう。


 夏季休暇の間に強くなっていると警戒されればそれまでだが、警戒心の薄い人達なら自分が知りうる情報に頼るのが定石。


 この一回戦はこのようにバトルロイヤルの模様を中継される。


 だからこの一回戦でやるべきは勝利しつつ、いかに情報を隠すかである。


 勿論、一回戦突破を目指す場合の話だ。テテュラみたいに成績に響かない程度で頑張るなら、その限りの話ではない。


 尚、スタート地点は転移石を使って、ラバ周辺魔物区域のどこかへ飛ばされてのスタートとなる。


「このバトルロイヤル、魔法使いが重要な役割を果たしそうだね」


「うん、そうだね」


「ど、どういうことですか?」


 ロバックはリュッカが理解しているのに、迷惑はかけられないと、恥を忍んで尋ねてくる。


 俺は一回戦、一緒ではないので質問に答えることにした。


「ここはタイオニア大森林だよ。これだけ視界が(おお)われていると、魔法使いの感知魔法が有効になる」


「確かに私達も授業で何度も足を運んでいますが、その地の利より魔法使いの感知魔法の方が察知が早いです」


「な、なるほど……」


「いかに他のペアを素早く見つけ出し、攻めていくか、早い者勝ちってことかな?」


「なるほど、だとすると……」


 ちらっとモニターを見るロバックの目に映っているものは、ナタルの面倒くさそうな表情。眉が引きつっている。


「ちょっと! お待ちなさい!」


「ハハハハッ!! さあ、敵はどこだっ!」


 随分と好戦的な様子を見せる彼はナタルのペア相手のイレス。槍使いの火属性、肉体型。


 特にあてもなく、警戒もしないでズンズンと森を進むが、


「お待ちなさいと言ってるでしょ!!」


「――うおおっ!?」


 グイッと首根っこを掴み、尻込みをつかせた。


「いい? どこに敵がいるのかもわからないのに、自分勝手に進むんじゃありません!」


 かなりご立腹な表情を見せるが、イレスはキョトンとした表情で問う。


「わからないから探すのだろ?」


「それはそうなのですが……探し方というものが……」


「そうか? 俺は授業中も大体こんな感じだ!」


 猪突猛進にもほどがあると、爆発しそうな感情を抑えながら説得していると、ガサッと茂みが揺れる音が聞こえた。


「!」


 イレスとナタルは素早く反応し、音の方から距離を置く。すると、


「君達が一組目のペアかい?」


 出てきたのは、ナルシストが憑依したような金髪貴族が現れた。その横には呆れた様子のユニファーニがいた。


「あのさ、奇襲した方が評価的にも高くなるんじゃないかな?」


 せっかく気付かれる前に見つけたのにと、ぶつくさ言うが聞く耳を持たないようで、髪をさらっとかき上げると、これまた意味深にゆっくりと(さや)から剣を抜く。


「さあ、僕の晴れ舞台だ……華麗な舞をご覧にいれよう」


 剣舞には自信があるような発言に、イレスはそれに応えるように槍を構える。


「おう! 俺の槍とあんたの剣、どっちが強いか勝負だ!」


「フッ、望むところさ」


 と勝手に盛り上がり、ナタルとユニファーニを置き去りに戦闘が開始される。


「あの……すみません。なんだかウチの貴族の坊ちゃん、このバトルロイヤルの意味を汲み取れてないようで……」


「彼ならそうでしょうね。趣味が自分磨き、自分自慢ですもの」


「あ、やっぱり?」


 敵同士のはずの二人がのんびりと、互いのパートナーについて呆れ気味に話が弾む。


「私のパートナーも言うことを聞きませんので。気の済むまでやらせてあげましょう」


「そうしましょう」


 そんな呑気に話していると、再び茂みの音。


「やっているな」


「――ライボル!」


「やはりお前か、エノール」


 またややこしい人が出てきたと、表情が語る二人の側に、ちょこんと座るミルア。


「ユファ、何してるの?」


「……あれのパートナーって……」


「うん、私」


 ミルアのパートナーのライボルは、何故かこの国では一人しかいないはずの黒髪。なんでも勇者をリスペクトするあまり染めたとのこと。


 しかも格好も古めかしい勇者の衣装の装い。


「さあ、俺の高みへの踏み台になってもらおう!」


「フッ……お前との剣舞、心が躍るようだ」


「――よっしゃあ! いくぞぉ!」


 まるで子供のお遊戯会でも観ているかの光景に、女子三人は同じことを思った。


(……勝手にしてくれ)


 ――そのバトルロイヤルの趣旨がズレたこのやり取りには、先生方も頭が痛いよう。


「……」


「先生、無言になっちゃったよ」


 かく言う俺も――なんだこの中二病共と思いながら観ている。


「そ、そうだね。ナタルさん達、大変そう」


「男の子って馬鹿なんですかね?」


「あ、ルイス」


 そのルイスの発言にアルビオは苦笑い。


「はは……いいんじゃないかな? 嫌いじゃないよ」


「……それ本心で言ってる?」


「言ってたら私、ペア辞めます」


「はは……」


 視線を逸らしたところを見ると、本心ではないようで安心した。


 すると話題を変えるように、アルビオはシドニエに尋ねる。


「そういえばどうなったの? あれ以来、来なくなったから心配してたんだよ」


「えっと……だ、大丈夫です、タナカさん」


「そうそう」


 俺は情報をくれてやらないぞとシドニエの前に出る。


「ウチの子は秘密兵器なんだから」


「ちょっ! オルヴェールさん!」


 持ち上げ過ぎだと、恐縮したような感じで戸惑うシドニエ。


 それに対抗してか、


「そうですか。……ウチにも秘密兵器は居ますよ」


 そう言うとルイスの両肩を持ち、差し出した。


「へ? ――ええっ!? 何を言い出すんですか!? アルビオさん!」


 互いに彼等は成長したんだよアピール。彼等は落ちこぼれと呼ばれていたのだ、成長したとなると、秘密兵器呼ばわりは当然のこと。


「お互いに一回戦、被らなくてよかったね」


「そうですね。リリアさん達と戦うのは、もう少し情報があった時にでもと思ったので、助かります」


「それはこっちもだよ」


 そんな会話が弾んでいるうちに、第一試合が終了。なんと勝ったのは、


「どうだ、ナタル! 勝ったぞ!」


「はいはい……」


 なんとイレス、ナタルペアだった。


 次々と試合が運ばれる中、以外だったのが、


「――えっ!? 負けたの? フェルサ」


 悔しそうに無言で頷くフェルサ。敗因はパートナーがやられたこと。


 無視していたツケがここで返ってきたようだ。


「私達も負けた……」


「すまん……」


 頭脳明晰な殿下も対人戦、ましてやバトルロイヤルは困難だったようで、アイシアとのチームワークも上手くいかなかったよう。


 こちらは練習量以前に、会う機会がなかったことが原因。


 アイシアに関してはあんなに頑張って、一緒に魔法覚えたのに。


 そしてまた別の試合――、


「さあ、白黒はっきりさせましょうか! 軽薄男!」


「上等だ、こんな機会、中々ないから覚悟しろよ、野菜頭ぁ!」


 こちらはまた別の意味で子供みたいな喧嘩を繰り広げる。


 だがこちらは第一試合のような酷い有り様でなかっただけマシだろう。最後に残った二組でこうなった。伊達に殿下の護衛を務めてはいない。


 ペアの女子二人もなんだかんだでフォローしている。


「あの……こうなるように仕組んでませんよね? 殿下」


「…………」


 ハイドラスはその質問に対し、微笑すると遠い目をして空を見上げた。


「――ちょっと! 冗談ですよね!?」


「冗談だ、冗談」


「まったく……」


「でも殿下? 実際どっちが強いんですか?」


「まあハーディスだな」


 アイシアの問いかけに、特に悩むことなくあっさりと答えた。


「伊達に風属性、肉体型で、殿下の護衛に選ばれているわけではありませんものね」


「でもウィルクさんも頑張ってますよ」


「そうだな。だがどうしても越えられないものもあるのだよ」


「あの殿下、それってやはり……」


 自分に重なるものがあるのか、シドニエは沈んだ口ぶりで尋ねると、ハイドラスは優しく微笑み答えた。


「まあ察しの通りだ。確かに実力や才能といったものは必要だろうし、避けられない現実でもあるだろう。……だが、それでも努力は無駄にはならんさ」


 ハイドラスはウィルクは勿論、シドニエの努力も否定しなかった。


 才能に準ずるわけではなく、自分で決めた道を進もうとする彼等を尊重するような言葉。


「実際、才能があっても持て余す者やそれを重圧と感じる者もいる。向き合い方次第だろう」


「そうですね……」


 そんなありがたいお言葉を頂戴している間に、勝者が決まったよう。


「そこまで! 勝者ハーディス、ビルマペア」


 そして次の試合――ここの試合メンバーは勝ち上がるつもりのペアが多かったようだが、相手が悪かったようで。


「これが勇者の末裔……」


「わかっていたけど、ここまでとは……」


 アルビオは風の精霊であるフィンを使役し、本来感知魔法の役割をするはずの、ルイスの仕事すら奪う活躍を見せた。


「アルビオさん! 私にも出番が欲しいです!」


 ほとんど仕留めてしまってと、ぷりぷりとご機嫌斜めのルイス。


「ごめんなさい。でも、これも作戦なんだ」


「作戦?」


「多分、リリアさんも同じことをするはずだよ」


「それ、どうゆう意味です?」


 その質問に答えようとした時、ルイスの目の前の地面から何かが生え出てくるのか、地面が盛り上がる。


「――ルイスさん!」


「へ? ――きゃあっ!?」


 そこからストーン・ポール、石柱が突き出てきた。


 どうやら敵襲のようだと身構えると、そこにはテテュラが現れた。


「……テテュラさん」


「ごめんね、勇者さん? 不意打ちさせてもらったわ」


「……勇者じゃないんですけどね」


 ルイスに後ろにいて、防壁を張るように言うと、戦闘態勢に入る。


「今のパートナーの方ですか?」


「ええ」


 特に隠すこともなく、淡々と返答する。


 アルビオは視線で辺りを見渡すも、その術者はどこにも見当たらない。


「ルイスさん」


「なに?」


「彼女の術者、パートナーを探してほしい」


 ルイスも先程のストーン・ポールの魔法を唱えた術者が見当たらないことに気付く。


「了解です!」


 ルイスが感知魔法を発動すると、テテュラはそれを止めるように攻めに入るが、


「させません!」


 残りがテテュラとマルファロイペアなので、アルビオも自然と気合が入るが、テテュラは表情を変えず、淡々とアルビオの剣撃を捌く。


 それを観ていたアイシア達は感心する。


「テテュラちゃんすごーい!」


「そうね。彼女、普段は物静かなのに、中々やるのね」


 絶賛する声が次々と飛び交うなか、俺はテテュラの戦い方に違和感を覚える。


 だがテテュラの戦い方は、別段特別なものではなかったはずなのだが、普通の剣使いとしての戦い方なのだが……。


「どうかした? リリィ」


「……何でもないよ」


 そんな自分でもわからない違和感を持ちながらもこの試合はアルビオ、ルイスペアの勝利で終えた。


「次はリュッカ達だね。頑張って」


「リュッカ! ロバックくんファイト!」


「うん。行ってくる」


 そう言うと、リュッカ達は転移石を受け取り、試合会場へと向かった。


 一回戦の残り試合も僅か。俺は最後の試合。本当に仕組んでないだろうなと思うくらいの試合順番である――。


「――それでは、第一回戦、第七試合、始め!」


 その音頭と共に映像に映る生徒達は行動を開始する。リュッカ達も何やら相談しているよう。


「ロバックさん、先ずは感知魔法を」


「うん」


 ロバックは杖を地面に突き立てて、辺りに他のペアがいないかを確認する。


 すると、当たりが来たようで、はっと目を見開く。


「向こうから来るよ」


「待ち伏せしましょう。こっち」


 指差す方へ二人は身を隠す。


「……先ずは出方を見るの?」


「はい。おそらくですが、向こうも気付いているはずです」


「そっか、そうだよね」


「でも膠着(こうちゃく)状態を続けるつもりもありません。私が様子を見ますから、動きがないなら魔法を唱えるよう指示します。いいですか?」


「う、うん」


 リュッカ達の試合はほとんどが均衡した実力者達でのバトルロイヤルとなっている。


 対戦表の中に個人として実力が確立している者の名前が一緒になかったことが幸いしている。


 だからこそリュッカは、最善手を考えられる。


 実力が均衡している場合、考える行動はどちらも似たり寄ったりになる。


 基本、この森での行動は魔法使いが感知、対策を練り、攻め込むが基本。


 つまり対応力もそうだが、何より求められるのは行動力である。


 攻めや守り、考えがあっても行動に移せないのでは話にならない。


 先生方が見ているのはそこだ。


 騎士や魔術師、冒険者のような職についた時、危険に対応できないではお話にならない。


 その為、夏季休暇に入る前からペアを組ませたのは、自主性を重んじ、自分達で考え、行動し、お互いの持っているものでどう対応し、行動できるか……それを見ているのだ。


 このパラディオン・デュオには、そういう意味合いでの学習行事と言えよう。


 運動会でもそうだが、競争率を持たせることで成長できるように大会という名目を作れば、将来の糧にもなるだろう。


 ――気配のあった場所に動きがないのを悟ると、リュッカはロバックに手で指示を送る。


「――水の精霊よ、僕の呼びかけに応えよ……」


 ロバックは忍んでいる相手に聞こえない程度に詠唱を始めると、リュッカは小石を手に持ったかと思うと、忍んでいるだろう辺りの木に投げた。


 コツンっと当たった音がした。


 すると、ガサッと動きがあった。リュッカはすかさずそこへ走り込む。


「――はあああっ!」


「――えっ!?」


「距離を取れ!」


 そう指示した男子生徒はペア相手を突き飛ばし、剣を抜いてリュッカに対応する。


「先手は取られたが、やられないぞ!」


「こちらこそ!」


 リュッカと男子生徒は鋼音を交えながらの戦闘を繰り広げる。


 だが、男子生徒のペア相手はまだ起き上がってはいなかった。


 それを見たロバックはリュッカの指示通りに、そのペア相手を狙う。


「――ウォーター・バインド!」


「――えっ!? ちょっと待っ……」


 女子生徒の周りを円を描くように、水の触手のような形となり、縛りつける。


「く、くう……」


「しまった!」


「そこのペア、そこまでです。戻ってきなさい」


 一人を無力化されてしまったペアは、マーディの判断でこの場を去っていく。


「やりましたね」


「うん。上手くいって良かった……」


 それを見ていた俺達も思わず歓喜する。


「やったぁ! さすがリュッカ」


「そうだね」


「まあ普通ならこうですわよね」


 ナタルはちらりとチームワークの欠片もなかったフェルサを見ると、フェルサも言い返す。


「ナタルにそんなこと言われたくない」


「うぐっ!」


「まあまあ。……それにしても試合流れが早いね。毎年こうなのかな?」


「いえ、例年ならもう少しかかりますよ。今年はほら……」


 そう話すハーディスは騎士科の貴族嬢達を見る。


「……ああ、なるほど」


 今年の一年生はハイドラスやアルビオ目的の貴族嬢達で、歯応えのない試合が続いたわけね。


 まあ玉の輿狙いの奴らがシドニエみたいに努力するわけもなく、あっさりやられていたのを思い出す。


「だからほら、リュッカちゃんの試合ももう大詰めだ」


 ウィルクが指差すところには、リュッカ達とソフィス達が対面している。


「やっぱりリュッカさん達が残ったね」


「はい。私達も頑張りましたから」


「ロバック、お互い一緒に練習したもの同士だが、決着つけようぜ」


「う、うん。負けないよ」


 互いのペア同士が激突。ロバックとユーディルは詠唱。リュッカとソフィスは剣を交える。


 もうこの二組しか残っていないため、小細工はなし。互いの実力同士がぶつかり合う。


「やりますね。実家で練習されたので?」


「はい。ですが、そちらも動きにキレがあります、ね!」


 リュッカは強く弾き、少し後退すると、


「――ウォーター・プレス!」


 ソフィスとユーディルの頭上に水の塊ができ、影を落とす。


「チッ――魔法障壁(マジック・シールド)!」


 ソフィスも魔法は警戒していたようで、すぐ様ユーディルの側へ移動し、攻撃を回避。


「すまん、こっちの詠唱が遅れた」


「ううん、今度はこっちの番。援護お願いします」


 ソフィスは駆け出すと、リュッカをユーディルのところへやらないように対応する。


 このパラディオン・デュオでは魔法使いを狙うのが鉄則。


 基本、魔法使いは戦闘になった場合、ほとんどその場から動かない。そのため格好の餌になる。


 だからリュッカもソフィスも必死に互いを通さないのだ。だが、リュッカとソフィスの実力は均衡している。


 この勝敗の行方はロバックとユーディルに委ねられたと言っても過言ではない。


 その結果――。



「――勝者! リュッカ、ロバックペア」


「やったあ! リュッカが勝ったよ!」


 勝敗の分かれ道は、治癒魔法も使えるようになった、ロバックによるサポートとその判断力がものを言った。


「なんとか勝った〜」


「ありがとうございます、ロバックさん」


「ああ〜くそっ! 負けたぁ」


「惜しかったですけど……」


 さっきまで対戦していた四人が戻ってきた。


「お疲れ、リュッカ。良かったよ」


「ありがとう、リリアちゃん」


「リュッカぁ〜!」


 アイシアの定番ハグ。


「シアもありがと」


「でもリュッカ、ホントに凄いよ! 明日の二回戦、決勝まで行けば本戦だよ!」


「いや、さすがにそれは無理だよ。アルビオさんやリリアちゃんだっているし……」


「ま、そうだね」


 そんな話をしていると、


「あら、わたくしかもしれないじゃありませんか」


 聞き捨てならないと、カルディナが割って入る。


「そうだけど……負けないよ」


「そっくりそのまま返しますわ、黒炎の魔術師さん」


「――それやめて!」


 そう宣戦布告すると、長居は無用と先に転移石を受け取りに向かった。


「リリア、あの女狐には気をつけて」


「はは……女狐って」


 フェルサの注意喚起がなくても、気をつけるつもりだが、それよりも色んな魔法を試してみたいという気持ちの方が前に出ている。


「よし、行こう。シドニエ」


「は、はい!」

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