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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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21 二人のエルフ

 

(――おお〜〜っ!! 正に絵に書いたようなエルフさんじゃないですか!?)


 内心テンションが上がっているが、あのスライムを放った主である可能性が高いため、警戒は怠らず、表情は真剣です。


 ホントですよ?


 というのもこのエルフ達の表情を見るや、とても好意的には見えない。特に男性エルフに関しては短刀を構えているくらいである。


「どうしてこんなところにエルフが――」


「それ以上、近付くな!! この劣悪種がっ!!」


「ああっ!?」


 様子見がてらそっと近付いたら、この悪態である。


 だからといって売り言葉に買い言葉で喧嘩ごしの返答は良くない。


 だが、この男性エルフは劣悪種と吐き捨てるだけあってか、その美しい瞳には合わない憎悪に満ちた眼をしている。


 その後ろで守られている女性エルフは、酷く怯えているようだ。俺達に対し、畏怖しているような雰囲気を感じる。


 そもそもスライムで消しかけたのはそちらだというのに……。


「まあまあ……あのお二人は――」


「近付くなって言ってるだろ!?」


 この中で穏やかな性格、顔立ちのリュッカですら取りつく島がない。


 このままではラチが開かない。どうしようかと思っていると、リンナがガルヴァに話をしている。何か対策があるのだろうか。


「え、えっと……君達?」


「ああ!?」


「――ひいぃっ!?」


 随分と口の悪いエルフだ。リンナの口調が移ったのかと思うほど。


 リュッカ以上に穏やかな性格――もとい気の弱そうにしている相手だ、まあ舐められそうな相手には強気になるのは、どんな人種でも同じということだろうか。


「は、話を聞いてくれ。僕らは……」


「お前らと交える言葉などない! 失せろ!」


 霧で迷宮(ダンジョン)の環境を変えたり、スライムで消しかけたり、身に覚えのない罵声を浴びせるなど、随分と一方的である。


 ガルヴァがあたふたと交渉している間に、リンナにこのエルフについて尋ねる。


「ねえ、なんでエルフはこんなに人間に対して攻撃的なの? 仲が良いとは聞かなかったけどさ」


「ああ、アイツらは多分、南の奴隷だ」


「奴隷!?」


 確かに身なりは貧相な服装だ。何時ぞやの魔人の服装を連想させる。だがそれだけで奴隷と認識できることには疑問を持った。


「どういうことですか? リンナさん」


「……首元を布で隠してるだろ?」


「う、うん。でもスカーフかと思ったけど……」


「スカーフだろうなぁ……首の奴隷の紋章を隠すためのな」


「!?」


 以前、アーミュ達に施した呪印のことが(よぎ)った。


 自分が施した経験があるが故、かなり目立つものだと理解している。アーミュ達には隠せないように呪印されているため、尚更である。


 まあアーミュ達の場合は罪の意識を忘れないために施した傾向にあるため、自業自得なのだが、このエルフ達は明らかにそのような罪を重ねたような人には見えなかった。


 だが、南大陸では人間と亜種族が戦争をしているという話を聞いている。


「……あのさ、奴隷の紋章を首にするのは犯罪者だって聞いてるけど……」


「それはこの国の場合の話だ。あのエルフの様子を見るに、侵略された後にでも刻印されたんだろうな」


「そ、それって……」


「向こうじゃ珍しい話じゃない。南には人間絶対主義国がある。……おそらくは敗者の烙印として、人間の奴隷にされちまったんだろう」


「そ、そんな……」


 魔人事件の話の時も上がっていたが、奴隷商なんて悪業があるくらいだ、ある程度の覚悟はしていたが、こう目の当たりにすると、なんともいたたまれない。


「ということは、このエルフ達は逃亡してきたってこと?」


「かもな。あの警戒の仕方や怯え方を見れば、説明もつくだろ」


「酷い、酷いよ!」


 アイシアは珍しく憤りを露わにする。世の不条理に怒りを表すのもどの世でも変わらないようだ。


 だが、やはり奴隷はやり過ぎだ。例え、それが異世界の常識だとしても。


 そんな俺達がエルフ達に同情心を湧かせるなか、向こうは向こうで説得が続いている。


「お願いだから話を聞いてくれぇ〜!!」


「な、なんなんだ! お前は!」


「君達から事情を聞かないと、リリアがまた危険な目に逢うかもしれないんだぁ!! 頼むよぉ〜!!」


 食い下がるように男性エルフに抱きつくガルヴァ。ナイフを突きつけられていたのに、懐に入り込むなんて……やるなぁと思ったら、どうやら娘を出しに使ったらしい。


 その言動に困惑しながらも、抱きついてくるガルヴァを引き剥がそうと必死だ。


 なんだか説得の仕方の方角が、変わってきた気がするのだが、


「……」


「なんだよ」


「別に」


 何を言いたいかは、このジト目でご理解頂きたい。


「わかった、わかったから離れろ!」


 男性エルフも、泣きながら必死に説得に応じるように言う残念そうな人間を見て、断り続けることに罪悪感を持ったのか、根負けしてくれた。


「そ、それじゃあ君達はエルフ……だよね?」


「……見ればわかるだろ」


 ふいっと視線を流す仕草で、エルフの特徴的な耳がこんにちは。


 俺達も説得に応じてくれそうなのでと思い、近づくが、


「えっと……」


「――お前は来るな! 銀髪!」


「!」


 こちらへと瞬時に短剣を向けた。


「リ、リリアが……リリアが何したって言うんだああーーっ!!」


「お、お前っ、なんなんだ、急にっ!」


 可愛い娘に対して険悪に扱えば、溺愛している父が激情するのは言うまでもなく、なんだか事情を聞ける状態では無くなりそうなので収束させることに――。



「ぜえ、ぜえ、す、すみません。取り乱しました」


「と、とにかくその闇属性の女は近付けるな」


 奴隷の紋章が付与されているのなら、闇属性持ちを警戒する理由にも説明がつく。


 俺が不用意だった。


「じゃあ話を戻すが、あの霧とスライムはお前さん達がやったのか?」


「……ああ」


「何の為に?」


「……話す理由など、劣悪種と言っているのだ。十分理由としてまかり通っているだろ」


 そう言われてしまえばその通りなのだが、負に落ちないことはいくつもあるが、俺は警戒されている。声をかけることすら難しい。


「あのさ、エルフさんって人間嫌いなんだよね?」


「そう言っているだろ?」


「……リンナさん。彼らは南から来たんですよね?」


「多分な。……どうなんだ?」


「それが何だ」


 その返答を肯定と受け止めると、アイシアは俺が思っていた疑問を投げかける。


「どうやってここまで来たの? 人間に手伝ってもらったわけじゃないよね?」


「……」


 南から来て引きこもるには、些か場所的に遠すぎる。ましてやこの二人がリンナの言う通り奴隷なのなら、ここまで来るにはデメリットの方が多い。


 なのにこんなところで引きこもっている。


 だからと言って魔人のような悪逆非道なことをしているような状態でもない。


「事と次第によっては、お前らを突き出さにゃあならん。そうなると都合が悪くなるのはお前達だぞ? ここにいる理由をちゃんと言え」


「そ、そうだよ。僕達は君達が出していた霧の調査に来たんだ。無事に帰れば、僕らは報告しなければならない」


「事情を話してくだされば悪いようにはしません。どうか……」


「くっ……そんなことを言って、結局突き出すつもりだろ」


「話さなきゃ、結局そうなるぞ。それに多勢に無勢だろ?」


 なんとも往生際の悪いエルフだ。よっぽど人間の言うことを信用していないらしい。


 まあいきなりあった人間を信用しろは難しいだろうが、ここまで心配してくれてるのに、その手を取らないというのは、それほど人間が憎いのだろうか。


 すると、今まで無言だった女性エルフが男性エルフの袖を引っ張る。


「ん、どうした? ナディ」


「……この人達は大丈夫かも」


「馬鹿を言うな。コイツらは人間だぞ!? 信用にたるものか」


「でも、獣人さん達も戻ってないよ。もう三日以上経ってる」


「人間と獣人、どちらを信じるんだ!?」


 はっきりとは聞こえないが、事情を話すか否かを相談しているようには聞こえる。


 女性エルフは少し沈黙すると、真剣な表情で男性エルフに訴える。


「私はこの人達の目と言葉を信じる。私達をちゃんと気遣っているように聞こえるの。だから……」


「……わかった」


「話はまとまったか?」


 男性エルフが観念した様子を見て問うと、女性エルフが話し始める。


「あの今までのご無礼をお許しください」


「やめろっ!!」


 先ずはお詫びをと頭を下げるが、男性エルフはすぐに止める。


「人間になど頭を下げる必要はない!」


「私達のせいでこの人達が迷惑したんだよ。謝るのは当然だよ。兄さんは少し黙ってて」


「……」


 男性エルフは納得のいかない様子だが話は続く。


「私達はおっしゃった通り、南大陸から逃げてきた者です。何故お分かりになったのかは存じませんが……」


 なんだか不自然なくらい仰々しい敬語だ。どうやらリンナの言っていた奴隷というのは当たりかもしれない。


「首を見ればな」


「――!?」


(――言ったぁーー!! それデリケートな問題じゃないの!?)


 エルフ達は首から見えているのかと、サッと隠す仕草を取る。


「……気付いていたのか?」


「むしろ気付かないと思ったのか? そんな身なりで不自然なスカーフ……奴隷の紋章がありますって言ってるようなもんだぞ」


「……くそっ」


 どうやらガルヴァも気付いていたようで、同情するような眼差しをしながらも、あっさりとそう吐き捨てるリンナに困惑している。


「そうじゃなくても、ここまで人間を毛嫌うエルフは南でしかいないだろ?」


「えっ!? 南にしかいないと思ってましたが……」


「ああ、東以外はいるんだよ。北じゃあ研究肌の変わったエルフさんがね。リンナのご両親に挨拶に言った時に初めて見かけたよ」


 北大陸は魔石研究の最先端。確かにそういうエルフが居てもおかしくない。


「後は西で奴隷にされたのを見かけたこともある」


「へ〜。あれ? じゃあ西のエルフさんもこんな感じには……」


「ならないよ。向こうは闇属性持ちに対してはアレだが、奴隷に関しては寛容な部分もあってな。雇う奴にもよるがエルフは貴重だからな、丁重に扱う奴の方が多いらしい」


「でも、どうして東にはいないの?」


「ほとんどの種族や属性の人間を受け入れているからだ。腹の中が見えないって警戒されてんだよ……ってそんな話はいいだろ」


 関節丁寧なご説明ありがとう。エルフという種族は警戒心が強いのだろうか?


 だが、西大陸にいるのはともかく、北の方はどうなのかと疑問に抱くが、解決するわけでもないので、とりあえずは保留。


「とにかく話を戻すが、そんな南の奴隷エルフがなんでこんなところで、スライム使って縄張りなんて張ってんだ?」


「実は――」


 このエルフの兄妹はリンナの予測通り、人間絶対主義国の侵攻により、村を襲われ、長らく奴隷生活を強いられた。


 そこでの奴隷生活は思ったほど過酷な環境ではなかったそうだが、エルフを含めた亜人種達が次々と呼び出されては帰って来なかったという。


 そんなある時、兵士達の噂話を耳にした――亜人種達を使った人体実験を行なっているのだと。


 それを危惧した二人を含めたエルフ達は脱走を試み、成功したのだという。


 だが、身寄りがない挙句、下手にエルフの村へ行けば二次被害になりかねないと、他の国の亜人種に協力要請を求めるため、国外に出たという。


 そこまでの経路は説明しなかったが――、


「ここまではこちらの獣人の冒険者さんに連れてきてもらいました。そういう経緯なら人が近寄りがたく、魔法を行使し、身を守れる迷宮(ダンジョン)に居ればいい。事情を汲み取ってくれる奴を連れてくると言われて、ここへ……」


 その話に些かの疑問が生じる。


 直接ではなく、わざわざ連れてくると言ったのは何故だろう。東大陸にはほとんどエルフがいないから目立つからとか? それにしたってまどろっこしい。


 その疑問を持ったのはリリアの両親も同じなようで、


「わざわざこんな危険なところでか?」


「はい……」


「……」


 ガルヴァに関しては、言いたいことがあるような困惑した表情。何かを察したらしいので、背中を押すことに。


「パパ。何か言いたそうだね?」


「えっ!? あ、ああ……そうなんだけど……」


「煮え切らないなぁ。何だ?」


「え、えっとね……多分なんだけど君達、売られるよ、きっと」


「――!? 何!?」


「た、多分、君達の身元を確認するために、見つかりにくいこの迷宮(ダンジョン)を選んだんだ。南とわかっているだけで、所有主をわかっていた方が礼金を受け取りやすい」


 その意見に強い憤りを覚える男性エルフは、感情を剥き出し反論する。


「ふざけるなぁ!! 人間じゃあるまいし、あの獣人達はそんなことを考えるようには見えない!」


「……じゃあどうしてわざわざ強い魔物がゴロゴロいる、アルミリア山脈の迷宮区を選んだんだ? お前達の保護が目的なら、弱い迷宮(ダンジョン)でさっきのスライムを使って守らせればいい。何だったらこの山のボロ小屋にでも匿えば、事も済む……だろ?」


「それは私も疑問に持ちましたが、それは人間が近寄りづらくするためで……」


 そう言うと、リンナは靴の爪先で地面をコツコツと鳴らした。


 私達は来たけどと示すように。


「確かに実際、噂になって近寄りがたくはなったが、こうして解決してくれと言われてここに来たんだ……本末転倒だと思わんか?」


「そ、それじゃあ……」


「えっとつまり……このエルフさん達は、見捨てられた?」


「……!」


「えっとおそらく、この迷宮(ダンジョン)に置き去りにすることで君達二人の衰弱を狙い、間に合うようなら、君達の主人に引き渡してお金を貰う。間に合わなければ見捨てるつもりだったのでしょう」


「その為に派手にスライムやら霧やらを使わせたわけか」


「うん。噂が収まればいるかいないかも判断つくしね」


「でもそんな適当な……」


「このエルフ共が助けを求めたのは?」


「冒険者?」


「そう。魔人事件の時に世話になっただろうし、お前さん達の周りはいい連中ばっかりだっただろうが、全員がそうじゃない」


 確かにそれは覚えがある。ラッセみたいなのもきっとゴロゴロいるだろうし、人間に限らず亜人種だろうと人である以上、欲望に忠実になるだろう。


「では何だ? 私達が頼った獣人達は金目的で適当に付き合ったというのか?」


「そう言ってるだろ?」


「リ、リンナ。そんなバッサリ……」


「オブラートに包んでどうなる。獣人だけのパーティーなら特に単純に物事を考える傾向がある。……お前達も言ったろ? 人間じゃねえんだからってさ」


 獣人はそういう仕事が雑だと説明する。


 このエルフ達も亜人種ということで、ある程度その説明に納得いく部分もあるが、人間の言うことだと反論する。


「そ、そんな人間の解釈など……」


「……ねえ、今の貴方達を置き去りにし続ける人達を貴方は信用できるの?」


 俺は衰弱しているエルフにそう問いかける。


 その問いかけに闇属性持ちとはいえ、思うところがあるようで、伏せてしまう。


「兄さん……」


「……っ」


「あ、あのね、僕達は君達をどうこうするつもりはないよ。あくまで問題を調査してくれと言われただけだからね。魔物が原因と言えば、ここを拠点にしてる冒険者達も納得してくれるよ」


「まあ食い扶持(ぶち)があればいいからな」


「じゃあどうするつもりだ」


 俺達は少し悩んだ表情を見せる。


 状況から放ってはおけないし、だからと言ってエルフをのこのこと出して歩くのにも問題がありそうだ。


 何せこの外の迷宮区には冒険者が沢山いる。保護するにしても場所に困る。


「やはり我々を……」


「――そうだっ! 私達の村に来てもらうのはどうかな?」


「それだよシア。いい考えかもね」


「確かにあの村ならリュッカの家にさえ気をつければいいかもしれないけど……迷惑にならない?」


「事情を話せばわかってくれるよ。奴隷なんて酷いよ! 悪いことなんてしてないのに……」


「スライムに襲われたがな」


 余計なことは言わなくてもいいよ。エルフさん達、どういう顔すればいいかわからなくなってるじゃないか。


「とにかくリリア。お前の闇魔法でコレ、解除してやれ」


「――何!?」


「ほ、本当ですか!?」


「うん。出来るけど、コレ……解除したら探知とかされるんじゃあ……」


「解除しない方が探知される。それにお前は闇属性だろ? 水属性の解除呪文ならともかく、闇や光なら大丈夫だ」


 安全を確認した上で、助けてあげることに迷いはなく、奴隷の紋章を解除した。


「――ディスペル・コード」


「……ああ」


 素直に解除されたことに、困惑が交えながらも嬉しさが滲み出てきたようで、その美しい瞳に似合う綺麗な涙がこぼれ出す。


「あ、ありがとうございます」


「どうして……」


「信用してもらうには、先ずはこちらから歩み寄らないとね」


 こうも信用されていないなら、行動で示すのが一番。助かったという結果がきっと信頼たるものになると信じて。


 女性エルフは深く頭を下げ終わると、安心した表情で名乗り出る。


「名乗るのが遅れました。ナディ・ランペルと申します」


「なっ!? ナディ!? コイツらを信用するのか? 危険すぎる」


「兄さん、この人達は助けてくれたよ。心配もしてくれて、これからのことも提案してくれた」


「だ、だが……それこそ、私達を利用するためかもしれないだろ?」


 そう堂々と信用できないと言われると、何だか複雑であるが、その警戒も尤もである。


「でも疑心暗鬼になり過ぎてるよ、兄さん。助けてくれたという真実はここにある」


 ナディは首をさするように触り、自分達を見捨てたであろう獣人達とは違うのだと示す。


 それを見た男性エルフは、酷く悩み、困惑しつつ、最終的には納得のいかないブスッとした表情で了承する。


「……わかった。ナディがそこまで言うなら、劣悪種共の世話になってやる」


「に、兄さん!」


「別にお前は置いてってもいいんだぞ?」


「ふざけるな! ナディを一人で人間のところに置いておけるか」


「だったらもう少ししおらしくお願いしてみろってんだ」


「フン! 劣悪種に下げる頭などない」


「このオスエルフ〜!!」


 子供みたいな喧嘩を眺めながら、どうやら解決したのだと安堵する。


「それじゃあとりあえず戻ろうか」


 そう言って、俺達が道を引き返そうとすると、ナディは魔石を取り出す。


「これを使って戻りましょう」


「これって?」


「私が作った転移石です」


「――おおっ!? た、確かに」


 ガルヴァが娘以外で興奮した反応を見るのは中々新鮮だ。職業病という感じだろうか。


 そしてそれを転移石と聞いて、謎が解けた。


「なるほど。つまりあの霧で動きが止まった人間に向かって、その転移石を投げつけて砕き、入り口まで転移させてたんだね」


「は、はい。その通りです」


 ――この後に聞いた話だが、兄であるシェイゾ・ランペルが水属性持ちでスライムや霧を操っていた。


 妹のナディはそのスライムが回収してきた魔石を加工し、転移石を作っていたそう。


 エルフは地属性でなくとも、魔力に精通しているためか魔石の加工は可能とのこと。


 風属性であるナディは転移の術式を魔石に組み込むことが出来たというわけだそう。


 つまり一連の事件の真相は、エルフ兄妹による自己防衛による近所迷惑といった感じだろうか。


 中々迷惑な話ではあるが、魔人事件のような凄惨なものではなかったことに、ほっと胸を撫で下ろすのであった。

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