表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
281/487

19 何だかんだ初めてですよ

 

 出発準備に勤しむ一行。元々、迷宮(ダンジョン)での腕試しはするつもりだったので、準備は万全だったのだが、


「リリア、準備は大丈夫か!? 防具は完璧か? ポーションの用意はちゃんとしたか? 杖は持ったか? ああいや、指輪型の媒体の方が嵩張(かさば)らず、邪魔にならないか? それなら……」


 それを言うと、非常に心配性な父ガルヴァが止めに入ると思ったので、ギリギリまで言わなかったのだが、この始末である。


 家の中を駆けずり回り、娘の身の安全性を高めるためにありとあらゆる物を用意しようと右往左往していると、鬱陶(うっとう)しさ極まりないと嫁が爆発する。


「――だああああーーっ!! 煩ぁーーい!! 心配し過ぎだぁ!!」


「だって……」


「だってじゃない!!」


 夫婦喧嘩勃発中。と言っても一方的だが。


 ――俺達はリンナの伝手を使って、アルミリア山脈の一つの迷宮(ダンジョン)探索の許可が下りた。


 いわゆる腕試しだ。


 リュッカの動きもそうだが、俺達も魔術の色んな効果を試したい。実際、実戦でやる方が身に付くだろうとの試みなのだが……、


「リ、リリアに傷一つでもついたら、ぼ、僕は……」


 心身ともに酷い有様のガルヴァ――というかリリアを心配するごとに顔色が病弱化していくな、このお父さん。


「パ、パパ。私、パパもついてきてくれるから、頼もしいよ。だけど、私も頑張りたいの」


「リリア〜〜!!」


 だがその顔色も甘ずった声色の娘(俺)パワーで元気百倍。


 この区域の迷宮(ダンジョン)に行き慣れているガルヴァは元々連れていくつもりだった。


 どうせ置いてこうとしても、泣きついて離れなさそうなので。


 そんな心境も知らず、ガルヴァは娘の成長を目の当たりにして感極まり、その場でオーバーに泣き崩れる。


「……なんかリリィっぽくないね」


「……リリアちゃんも苦労してるんだから、そっとしとこ」


 俺だって本来なら、こんなあからさまなご機嫌取りなんてしたくはないのだが、やむを得ない。


「装備もちゃんと整えてるから心配いらないよ」


「というか、お前の方が弱いだろ? リリアは魔人も倒せるんだぞ。自分の心配しろ! 自分の!」


 ガルヴァは職種上、戦闘職ではないのでわかりきっていたことだが、一応娘的に頼もしい宣言をした手前、そんなはっきりと切り捨てないで欲しかった。


「僕は良いんだ、僕は!」


「良くないわっ!! お前がくたばったら、家計が成り立たないだろうがっ!」


 そういえば、魔人の報酬で懐が温かいことを言っていなかったような。


「あの……」


「なに?」


「魔人討伐の報酬のお話をしてたっけ?」


 両親はピタリと動きを止めた。


「聞いてないけど……」


「ええっと……こんなに貰ったんだけど……」


 マジックボックス型のお財布の中身を広げて見せると、あれだけ騒がしかったリンナは無言になったかと思うと、くるりと意味深な笑みを浮かべながら、ガルヴァの肩をひと叩き。


「よし! 娘のために死んでいいぞ」


「――ええっ!?」


 あっさりと手の平を返した。金の力、恐るべし。


「まあそれは最終手段でいいとして……」


「リリアちゃん……」


「今から行く迷宮(ダンジョン)って、どんなところ?」


「ああ、遺跡迷宮だ」


「遺跡迷宮?」


「きゃああああああ〜〜っ!!!!」


 俺達は聞き慣れずに首を傾げるが、ガルヴァは奇声を上げて驚く。


「何でよりにもよってそんなところの許可なんて得るんだよ! リリアが……リリアがぁ……」


「大丈夫だって。何とかなるって、な?」


「――ならんわぁーー!! はっ! 他の冒険者も一緒に――」


「いるわけねぇだろ?」


「――死んだぁーー!!」


 この危機感の温度差とテンションに、どこをどうツッコめばいいのかわからん。


「あ、あの……そんなに危険なところなんですか?」


 そんな中、尋ねたのは横聞きしていたデュノンだった。姉のことが心配なのか、恐る恐る尋ねる。


「よく聞いてくれたね、少年。この人を説得してくれ! いいかい? 遺跡迷宮っていうのは名の通り、遺跡みたいな迷宮(ダンジョン)のことだ――」


 ガルヴァの説明によると、石畳の遺跡が広がる迷宮(ダンジョン)で、アルミリア山脈の迷宮区とは思えない――正に迷宮(ダンジョン)異世界説を理論付ける所。


 存在する魔物も、アルミリアには生息を確認しないような魔物が存在する。


 蛇系の魔物やサソリ、アンデット系、ゴーレムなど、寒々しい山脈地帯には生息しないような熱帯系の魔物が混在する。


 勿論、ゴブリンのような定番系も多数存在する。


 話を聞く感じ、砂漠地帯にある遺跡っぽい印象を受ける。


 さらに遺跡というだけあってか、罠も無数に存在し、死者も平気で出るという迷宮(ダンジョン)だという。


 だがその分、魔物から取れる魔石やその遺跡に混在する材料は質が良く、特に地属性の魔術師なんかが訪れることが多いとか。


「――今から君のお姉ちゃんが行くところはそんなところだ。君達だってお姉ちゃんがミイラになるところなんて嫌――だっ!?」


「ガキを脅かしてんじゃねえよ!」


 そのゲンコツは正しいが、俺達が行く迷宮(ダンジョン)が経験の無い場所であることは、重々理解した。


「お、お姉ちゃん、ミイラになっちゃうの?」


「やだぁ……」


 ナルシアとフェノンが行かないでとばかりに、不安げな表情でひしっと抱きつく。


「パパ。ナルシアちゃん達が本気にしちゃったじゃない」


「だ、だってぇ〜」


「おい、リリア。パパなんて大っ嫌いって言え」


 それ……言った後に言うのって効果ある?


 黙らせるためにはやれと、首を軽く振って指図する。


「……はあ、パパなんて大っっっ嫌い!!」


「――っ!!?!?」


 効果抜群だったようで、その場で真っ白になった。言われるってわかっててここまでショックを受けるガルヴァは凄いと変な感心をした。


 本当にリリアでコントロールできるぞ、この人。


 そんな真っ白でくの坊を横目に、ナルシア達の不安を拭う。


「大丈夫だよ。お姉ちゃんが強いのは、妹ちゃん達の方が知ってるでしょ? なんたってアイシアはドラゴンをも乗りこなすお姉ちゃんだよ。いらない心配だよ」


「それに黒炎の魔術師様もついてるしね」


「リュッカぁ?」


「ふふ、ゴメン」


「そうだよ。それにリュッカお姉さんもついてる。姉さんが暴走しても大丈夫だから」


「それどういう意味?」


 みんなで和やかにフォローをし合っている内に、不安は取り除かれたようで、さっきよりも表情が柔らかい。


「そうだね! お姉ちゃん! 頑張ってね!」


「うん!」


「それに特訓なんだからそこまで無茶もしないでしょ?」


「まあ……な」


 何だか歯切れの悪い返答が聞こえたぞ。


「もしかして……何か兼ねてる?」


 疑いの眼差しを向けると、嘘が明らかに下手そうなリンナは視線を逸らしてそっぽを向く。


「こ、子供が親に変な散策をするもんじゃないぞ」


 みんながそんなリンナをジーっと見ると、


「そんな目で見るんじゃない!!」


「ジー……」


 すると耐えきれずに観念したのか、ため息混じりに白状する。


「……なんだかここ最近のその迷宮(ダンジョン)、様子がおかしいんだと。魔人を討伐した黒炎の魔術師だったら、何とか出来るんじゃないかって……」


「つまりその調査依頼を受けることを条件に許可を得たってこと? 他の冒険者は?」


「お前はさ、冒険者達と一緒に魔人を討伐したんだろ? 下手な冒険者より信頼されてんだよ」


 有り難いような、随分と買いかぶられているような、冒険者達はこんな小娘をそこまで当てにするのもどうかと思うが。


 だがこんな話、ガルヴァが許さないと思う。


「そんな危険な状態の迷宮(ダンジョン)になんて行かせられません! 大人しく家にいよ。ね?」


「うーん……行こうよ、やっぱり」


「――なっ!? リリア?」


迷宮(ダンジョン)で異常ってことは、そのうち中から異常が出てくるよ」


「まあ確かにな」


 魔人事件の件でやはり度胸が身についたようだ。以前なら尻込みしていたことだろうが、起こり得るかもしれないことは潰しておくべきだ。


 魔人事件のような迷宮(ダンジョン)を利用するような犯罪や魔物の変異があるかもしれない。


 アイシア達もニコリと同意してくれる表情を見せてくれたが、ガルヴァだけは駄々をこねる。


「うぐぅ……で、でもリリア〜……」


「おい、リリア」


 俺はこくりと頷くと、深く息を吸って吐き捨てる言葉の準備を整える。


「パ――」


「ス、ストップっ!! わ、わかった、わかったからぁ……」


 先程までの傾向から言われる言葉をある程度想定していたようで、口にされることは困ると同意した。


 すると、クルッと表情を変えて元気よく、


「改めて……行こうか!」



 ――アルミリア山脈の迷宮区までの道のりは魔物よけがされている。迷宮(ダンジョン)に乗り込む前に体力を消耗するわけにはいかないための措置。


 その三百六十度、緑に囲まれた山道を歩いていくと、そこには迷宮(ダンジョン)らしき横穴が無数に存在する広場に到着した。


 その中央あたりには行商人だろうか、商品を広げて冒険者達に売りつけているようだ。


「商魂(たくま)しいことで……」


 その光景をリンナはボソリと呟きながら、俺達はその場をスルーする。


 どうやら目的の迷宮(ダンジョン)はここら一帯の場所では無いらしい。


「こんな広場があるなんて……」


「そ、そうだね。ここは迷宮区だから、あえて広場を作ることで、商人は稼げるし、冒険者達は準備不足を解消できる」


「しかもそれだけじゃない。……ここいらで腰を据えてる奴らはこの迷宮区の情報も持ってる……」


「つまり情報も商売として売買してると?」


「そういうこった」


「――ならその情報、一つ買わないかい?」


 そんな話を盗み聞きしていたのか、一人の商人が話しかけてきた。


「……いらねぇよ。余計な出費はしない主義なんだ」


「まあ、そう固いこと言わないで。その娘さん、黒炎の魔術師だろ? 商人の俺達としては仲良くしたいねぇ」


 まあこの外見だから隠し通せる訳もないわけで、


「噂の英雄が顧客になってくれれば、儲けになるって?」


「それもそうなんだが、アンタ……ルバイにサングラスとか、コンタクトレンズとか考案したんだろ?」


 その名前に聞き覚えは無いが、その情報をお礼に差し出した商人は覚えている。


 どうやらこの商人はあの眼鏡売りの商人の知り合いらしい。それとも商人の情報網の一つなのだろうか。


 ていうかあの商人さんの名前、今初めて知ったわ。


「知り合いなの?」


「商人同士だ、ある程度は繋がってるぜ」


「おい、商人の口車にあまり乗るな。素人だろ」


「そ、そうだぞ! うちの娘をたぶらかすな!」


「へ〜、お宅らの娘さんなのかい?」


「――お前は素人かっ!!」


 あっさりと親だと暴露するガルヴァ。魔石採掘師として顧客との取引とかしているはずなのだが、娘がいるとポンコツになるらしい。


「そんな取って食おうなんて思っちゃないさ。これから遺跡迷宮(ダンジョン)に行くんだろ?」


 商人の情報網恐るべしと思いつつ、そこまでわかっているならと強気に話を続ける。


「情報を売るって言ってたけど、その辺の情報かな?」


「まあな。どんな異常が起きてるか把握してるのかなぁってさ」


「軽くは聞いてるよ。ある場所まで行くと入り口に戻されるとか」


「ああ、幻覚系らしいな」


「どうせ植物系の魔物が生えてきたんだろ?」


 幻覚や錯覚を起こす魔物は多数存在すれど、突発的に起きたことを(かんが)みると、植物系の魔物が湧いたと予想を立てるも、


「いや、どうやらそうでもないらしい」


「なに?」


 商人はそれを否定。


「何でも霧が発生するらしい」


「霧? 私も何回か入ったことあるが、あんなカラッとしたあの迷宮(ダンジョン)で霧なんて発生しようがないだろ? 冗談言ってんじゃねえよ」


「冗談なもんか。潜った奴らが揃って言ってるんだぜ」


 話だけ聞く限り乾燥した迷宮(ダンジョン)らしいし、湿気の無い場所で霧が発生するのは異常と言えるだろう。


 明らかに作為的なものを感じる。迷宮(ダンジョン)にあまりいい思い出のない俺達は嫌な予感が頭を(よぎ)る。


「? どした?」


「いや、ちょっと嫌なことを思い出しただけ」


「は、早く行こう! もしかしたら、手遅れになるかも……」


 アイシアがその想像を先走り、焦って要点が不明な心配をすると、大人達が尋ねる。


「手遅れって?」


「……耳貸して」


 商人には聞こえないように、リンナだけに耳打ちし、魔人の取った手段を説明する。


 俺達が(よぎ)った嫌な予感はそれだった。杞憂であって欲しいと願うばかりだ。


「なるほどな。魔人の野郎……んな胸糞悪いことを」


「落ち着いてシア。まだそうとは決まってないよ」


「そうだよ。そんなしょっちゅう起きてもらっても困る」


「おいおい……女性陣だけで、俺達は蚊帳の外は困るな。こっちは無償で情報提供してるんだ、共有しようや」


「うるせー。うちの馬鹿はともかく、お前にはダメな情報だ」


「ていうか無償って?」


 確かこの商人は俺達に情報を売りつけることが目的だったはずだがと首を傾げると、商人はへらっと理由を話してみせる。


「実はな、お宅らが行こうとしてる迷宮(ダンジョン)は俺の顧客が多く利用していてね。異常が起きると商売にならないんだよ」


「だったらもう少し詳しく状況も知ってるな? 依頼者の方からは曖昧にしか聞いてないからな」


 常連から聞いているだろうと強気に尋ねるリンナに、そんな怖い顔しなくてもと余裕のある表情で話してくれた。


 ――何でも奥に進むとの分かれ道があるようで、その右側の通路が霧に包まれているらしい。


 その霧の影響か、迷宮(ダンジョン)の魔物達にも異変が起きている。


 既存の魔物達は弱体化しているが、その変わった環境の影響なのか変異種や本来ならいないはずの魔物も存在するらしい。


「スライムだと……!?」


 その一言に俺以外の一同は驚く。


「スライム? スライムってそんなに強いの?」


 俺からすれば、ゲームの定番ザコモンスター。そんなに驚くことのない名前だが、その問いにアイシアですらその発言に耳を疑った。


「スライムって言ったら、危険指定種だよ!?」


「は?」


「おいおい、黒炎の魔術師様はそんなことも知らないのかい?」


 驚愕の言葉を浴びせられる中で、リンナがこっそりと尋ねてきた。


「なんだよ。お前のところじゃスライムは弱いのかよ」


「そもそも生きてないよ。向こうのスライム」


「はあ!? ホントか?」


「ホント」


 向こうの世界じゃあ、薬品を調合して作る物じゃなかったかな?


「いいか? スライムはほとんどの物理攻撃は無効。弱点である魔石は体内で移動可能。挙句、属性によっては有効的な攻撃手段のはずの魔法攻撃も無効にできると正に不死の魔物なんだよ」


「そ、そうなんだ」


 しかも種類によっては物理攻撃を受けて分裂したり、属性能力が高ければ魔法も発動できるとオールラウンドの活躍を見せるとのこと。


「唯一の救いは、ほぼ凶暴性が無いってところだが、そもそも分解液を分泌してるから、どちらにせよ近づくこと自体、危険だ」


 体内に入った物を溶かす的なやつね。溶解液とも言う。


「ところが厄介なことに、その住み着いているスライムは凶暴性があるみたいだ」


「なに!?」


「情報をくれた冒険者達の一部は武器や鎧を溶かされて帰ってきてるし、襲われた本人達から直接聞いたしな」


「よし! 帰ろう!」


「――そんなことを意気込むなっ!!」


 聞けば聞くほどリリアに危険が迫ると、心配が募るガルヴァは男らしい言い方をしつつも後ろ向きな発言に、情けないとツッコまれた。


 これが俗に言う夫婦漫才だろうか。


「だってその霧の発生源がスライムかもしれないんだろ!? リリアが溶かされたりなんてすれば……」


「待って下さい。死者は出たんですか?」


「いや、怪我人は出たが、軽傷だってよ」


 リュッカはそのスライムの行動を分析しているようだ。


「何か思うことがあるんだね」


「はい。凶暴性のあるスライムは捕食しようと粘着質に襲う傾向があるので、その行動はおかしいと思いまして……」


「要するには加減しないんだ。本来なら」


 スライムが攻撃してきたにも関わらず、軽傷で済むことがおかしいことに、こくりとリュッカは頷く。


「……これ以上の情報は無いのか?」


「新たに確認された魔物くらいか。罠に関しては変わらずだ」


「その魔物の情報をくれ」


 するとそこは金を取るようで、右手を差し出す。


「何の真似だ」


「それはそれ、これはこれさ」


 根本の解決はして欲しいため無償で提供するが、間接的に発生した魔物の情報に関しては商売がしたいとせびるようだ。


「チッ! セコイ商売してんじゃねえよ」


「いやいや、商人だからセコいんだろ?」


「悪いが金を払ってまではいらねえや。お前、わかってるよな? うちの娘は黒炎の魔術師だ」


「おっと、こいつはやっちまった!」


 情報を得ずとも何とかできると言い切ってしまった。行き当たりばったりのような気がする。


「リ、リンナ。情報は欲しいよ……」


「いらねえよ、ほら行くぞ」


「ええっ!? せめてポーションの一本や二本……」


「――買わん!!」


 どうやら情報を餌に、いくつか商品を買わせる作戦だったようだが、空振ったようだ。


 この節約家さんから金を取るのは大変だ。伊達にリュッカが来るまで、もそもそとした食事を摂らせていたわけではない。


 誇れるものでもないが――。



 ――そんなこんなでたどり着いた遺跡迷宮(ダンジョン)の入り口。魔人が利用していたような横穴形式の一般的な作り。


「よし、着いたな」


「ねえ、ママ」


「ん?」


「やっぱり騎士にこれを話さないのは、迷宮(ダンジョン)の管理権が理由?」


「まあな」


 アルメリア山脈の迷宮区の管理はギルドがしてるって話だったし、予想通りの返答。


「さて、隊列の確認をするぞ」


 ――と言ってもリュッカとリンナが前衛、俺とアイシアが後衛になる。非戦闘員であるガルヴァは俺達の側にいる感じになることを確認。


 後はこの迷宮(ダンジョン)での目的も確認。


 基本的には俺達の実戦能力の向上を目的とした迷宮探索。危険察知能力や個性的な魔物達が蔓延(はびこ)迷宮(ダンジョン)での柔軟な対応力などを養うことが前提。


 異常についてはあくまで調査。解決して欲しいというわけではないとのこと。


 だが魔人の件が頭の中を霞む以上は、そこも何とかしたいのが本音。


「――ここまでで質問は?」


 ガルヴァ以外は大丈夫だと頷くと、俺達は迷宮(ダンジョン)探索を開始する。


「あ、あの! やっぱり行くの、やめない? ねえ!!」


 ガルヴァの大丈夫じゃないは心の準備だけなのでスルーすることに。


 何せガルヴァはここの迷宮(ダンジョン)に仕事で訪れることが何回かあるのだ、それに娘の危険を回避するため、入念に準備も整えていたので問題ないと、ガルヴァ以外判断していた。


 何だかんだまともな迷宮(ダンジョン)探索は初めてである俺達。


 初めてはリュッカの救出。二回目は魔物が一切居なかったが、子供達の死体が並んだ苦い光景。


 なかなかよろしくない経歴だが、それが更新しないことを祈りながら、足を踏み入れるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ