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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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18 芸は多い方がいい

 

「――フレイム!」


 杖先から、炎がごおっと激しく燃えている。


「やった……やったぁー!! リリアお姉ちゃん! やったよぉー!」


「わ、わかったから、そのまま飛び跳ねないで〜!!」


 嬉しそうに飛び跳ねるナルシアを慌てて止めようとする。そりゃあ火を持ったまま跳ねられれば危険だからね。


 ――帰郷して一週間が経った。オリジナルの魔法の開発も進めつつ、初級魔法が使えないとナルシアに駄々をこねられた俺は、彼女の魔法を見ている。


 お姉ちゃんより、憧れの魔術師に見てもらう方がいいらしい。


「コラ! リリアお姉さんが困ってるだろ?」


「うっ、ごめんなさい……」


 デュノンの言うことを割とあっさり聞くナルシア。兄妹の力関係はしっかりしているようだ。


「うーん……こうだ!」


「むむっ。うーんっと……」


 アイシアとフェノンはボードゲームをして遊んでいる。ルールはチェスっぽい。軍配はフェノンにあるようだ。


 アイシアは頭を使うゲームとか苦手そうなのはわかるが、一番下の弟には勝てよとか、内心思っている。


 ここ最近のリリアの家は、この兄妹達のお陰で随分と賑やかである。俺は一人っ子だったので、兄弟がいた環境は正直わからんが、退屈はしなさそうだと思うわけで。


「すみません。何度もお邪魔して……」


 そんな俺の考えも裏腹にしっかり者のデュノンは、申し訳なさそうに謝る。どうやらナルシアの魔法を含めたことを言っているようだ。


「大丈夫だよ、弟君。私も復習になるし、いいリフレッシュにもなるからさ」


「そう言ってもらえると有り難いです」


「それにしても兄妹、わかりやすく分かれたね」


 というのも、女姉妹は精神型、火属性。男兄弟は肉体型、デュノンは水。フェノンは地と聞いている。


 これを見ると、属性は遺伝子だけの問題ではないと確信を得られる結果である。


 学校でもその辺は軽く学んだが、実際に知り合いがそうだとわかりやすい。


「そうですね。でも、まさか姉さんがドラゴンに乗って帰ってくるのは、夢にも思いませんでしたが……」


「はは……だろうね」


「色々とめちゃくちゃな姉なので、想定内と言えば想定内ですが……」


「昔からあんななの?」


「まあ……。猪突猛進というか、楽観的というか……」


 アイシアの今までの傾向を見ても、デュノンの言いたい――勢いで生きてることはヒシヒシと伝わってくる。


「でも私はそのお陰で助かってるからさ。色々」


「ご迷惑になってないと?」


「普段はまあ……抱きつかれることさえなければ」


 身に覚えがあると、同情の笑みを浮かべられた。


「でも悩んでる時とか、言葉が欲しい時はくれるよ。ナタルって友達が妹を亡くした時も、必要な言葉をあげてたし……」


 デュノンのような言葉を使えば聞こえは悪いが、俺から言うなれば、前向き、優しさの表れだと考える。


 傷つき、倒れている人にかけるべき言葉は簡単に見つかるかもしれない。でも言うとなれば話は変わってくる。


 人は無意識に避ける、本当に必要な言葉なのか、余計に傷つけるものではないかと。


 だからそれを言葉にできる人は強いと思う。アイシアが色んな人に好かれ、妬まれない理由はそこにある。


「そうですか……相変わらずデリカシーがない姉です」


 憎まれ口を叩くデュノンだが、優しい口調なあたり、内心はしっかり理解しているようだ。


「ま、負けた〜」


「お姉ちゃん弱ーい」


「ぐうっ、もう一回!」


 あんな子供みたいな性格だが、必要なものはしっかり持っている人だと思う。だからリュッカも救われたわけで。


「アイシア、休憩はそこまで。続き、やろ」


「うっ、はーい」


「じゃあ私達、ちょっと行ってくるね」


「はい、お気をつけて。姉さんもリリアさんに迷惑かけちゃダメだよ」


「わかってるって。大丈夫!」


 そう言って俺達は、家を後にした――。



 ――俺達は魔法の実験場として、俺が初めて魔法を使った森の中の開けた広場にて、特訓中。


 ある程度、魔術書の魔法も使えるようになったので、後は実戦あるのみと言ったところ。


 ファイアボールを使って、感動したことを昨日のことのように思い出す。


「よーし、じゃあ早速――ファイア・アクセル!」


 アイシアは無詠唱で、火属性の補助魔法を発動。


 ファイア・アクセルは両足に炎を(まと)い、その爆発によって加速するという速度向上魔法。


 風属性の速度向上魔法とは違い、随時スピードが上がるわけではない。むしろ付与された段階ではスピードの向上はない。


 しかし、これの利点は加速である。魔力を注ぎ、爆発を起こせば、その瞬間、飛躍的な瞬間加速が実現する。


 勿論、風属性の魔法でもできることだが、こちらの場合はデメリットが多い。


 瞬間加速が速すぎて読みやすいということ。ある程度の距離が必要なこと。風であるため、流れが感じ取られるということ、随時スピードが向上するため、慣れられると対処されてしまうことなど、速さがあるというメリットを差し引いても、デメリットが目立つ。


 実際、風属性の方が近接は有利とされているが、全員がこれらを使いこなせるわけもなく、風属性だからと特訓を疎かにした人間が落ちぶれるのはしばしば。


 しかも付与となると、別属性の人であることも考えられることから、風属性の補助魔法は使いこなしづらいということ。


 ウィルクのような努力家やバザガジールのような肉体強化だけであれだけの速度を操れる人間がわんさかいるなら、デメリットを打ち消せるような話にはなるだろうが、そんな人間、ポンポンいるわけもない。


 だがこのファイア・アクセルは加速したい時に、魔力を注げば、短い距離ではあるが瞬間的に加速できる。


 メリットは、こちら都合で加速するため読まれづらい。注ぐ魔力に応じて加速を調整できるため、臨機応変に距離や速度を調整できること。他属性に付与しても扱いやすいなど。


 デメリットは、風属性とは違い、随時スピードが向上するわけではないことや、瞬間速度が劣るということなど。


 勿論、どちらも長所短所はある。初心者から中級者はファイア・アクセル。上級者は風属性の付与魔法といったところだろうか。


「アイシアー。気をつけてよ」


「はーい!」


 アイシアは精神型だが、地上だろうが空中だろうが、ポンポンと飛んで跳ねている。体内魔力によって運動神経が左右されるわけではないという証明だろうが、


「――いったっ!?」


 ゴンっと思いっきり木に頭からぶつかった。あれは痛い。


「だから言ったでしょ?」


「うう……」


「でもこの魔法が無詠唱で使えるのは大きいね。殿下は光属性だし、騎士達からの指導も受けてるから、案外使いこなしてくれるかもよ」


「そうだといいね……」


 頭にできたたんこぶを撫でながらお返事する姿は、不謹慎だが可愛い。


「でもリリィのはこれの上位版でしょ?」


「まあね。だけどシドニエが使いこなせるかはちょっと……」


 俺はこれの上位――ソウル・アクセルを習得。火と闇属性の魔法……言うなればオリジナルだ。


 ファイア・アクセルの強化版でありながら、魔力を注がずとも、感情で操れる術にしたというところが最大のポイント。


 戦いのさなか、感情が高なるのは言うまでもないだろう……それらを利用できるように調整したものだが、シドニエのような感情が出しづらい者からすれば、難しい代物だろう。


「まあ一応、帰ったら試すつもりだけどね」


「殿下とは相変わらず都合合わないし……」


「……殿下はもう諦めた方がいいんじゃない? 建国祭も迫ってきてるからさ」


 まあ王族が忙しいのは、どの世もつきものだよね。


「後、アレ! やる気出るヤツ!」


「ブレイズ・ハートね」


「まさか、火属性で治癒魔法が使えるとは〜」


「精神限定だけどね」


 ――この術はアイシアの言う通り、闘志の向上魔法。いわゆる心のドーピングである。


 この言い方だと誤解を生みそうだが、精神的に参っている人間や前向きな人間に使って、後押しすることを目的として使用する術。


 精神を前向きにする術との認識は正しいが、アイシアの言う、治癒ではない。


 光属性にこれの上位――ブレイブ・ハートという術がある。こちらは精神を安定させる効果が強いため、ほぼ治癒に近い効果を与える。しかもバフ付き。


 こちらもバフがある。しかもブレイブ・ハートよりもだが、そもそも強化が目的ではないため、あまり意味がない。


 それならば最初から強化魔法を使えばいいだけ。実際、火属性持ちである俺のアイシアはそれも使えるようになっている。


「でもこんなに短い間に色々覚えたね。ほとんど補助魔法だけど」


「攻撃魔法だけじゃ芸がないでしょ? そんな魔法使いは簡単に淘汰(とうた)されるよ」


「とうた?」


「役に立たないって切り捨てられるよって意味」


(この場合はだけど……)


 その意味を告げると一瞬怯えた表情をするが、ここまでの術が使えるようになった影響か、言葉の意味を理解した表情へと変わる。


「でも、そっか。やれることが多い方がいいよね?」


「そうだよ。王宮魔術師の闇魔術師さんも音を遮断できる魔法が使えたから、魔人を倒せたんだよ。音の遮断も攻撃ではないでしょ?」


「……どちらかと言えば補助?」


「妨害が正しいと思うよ」


 そういう意味では攻撃だろうが、直接的ではない。


「それを考えると、肉体型の人の中にはたまに――お前達は後ろで攻撃魔法だけ撃ってろ! みたいな人、いるよね?」


「いるね。馬鹿だから放っておけばいいよ」


 そういうことを吐き捨てる奴らは、実戦経験不足や後衛のありがたみをわからない奴。最悪は傲慢(ごうまん)な性格の奴だろうか。


 組んだら苦労しそうなのは目に見える。


「でも、やっぱりリリィの方が使える魔法は多かったね」


「そりゃあまあ、アイシアと比べるとね」


 火属性はそもそも補助魔法は少ない。だからこの短期間で必要なものを習得出来たのだろう。


 俺は闇属性もあるため、バリエーションは言わずもがなである。


「後はアレも使ってみたかったなぁ」


「ああ、アレ? アレは無理だよ」


 アレというのはある攻撃魔法を言っているのだが、発動条件が厳しいのだ。


「やってみなくちゃわからないよぉ」


「ええっ?」


 そんな風にちょっとじゃれついていると、ガサッと草木が揺れた音が聞こえた。


 俺達はその方を向くと、そこには見覚えのない歳の近い女子がいた。


 その女子集団は見つかったとばかりに、一瞬表情が歪むが、そのリーダー格が、ふんと強がるように前へ出る。


「久しぶりね、リリア」


(えっと……誰?)


 表情には出さなかったが、記憶の中にはございませんと頭の中では困惑している。だが、大いに予想はつく。


 この高慢的な態度と取り巻きをみるに、アーミュのデジャヴが見える――リリアを虐めていた女子だろう。


 遺書を見るあたりは、最初は無視の指示。年齢が上がるにつれて手を出していたのだろう。


 だがそれはあくまでリリア本人の話。俺が合わせる必要はないが、一応知り合いという流れだけは合わせる。


「……えっと、お久しぶりです」


 そのリーダー格の女子はその返事を聞いて、ピクッと眉が動いた。


「王都へ行って大分変わったようだけど、なに? 当て付け? 自分は特別なんだって?」


 この攻撃的な態度を見るに、魔人討伐の件が面白くないようだ。


 そりゃあそうだ。自分が貶めていた人が目覚ましい活躍をしているのは面白くないだろう。


「別にそんな気はないですよ。やれることをやっただけだから……」


「――それが人を舐めてるって言ってんのよ!!」


 感情任せに胸ぐらを掴まれた。だが、俺はあまり動じない。正直、あの死線を潜り抜ければ、このぐらいの小競り合いなら怖くない。


 向こうにいた頃ならビビってただろうが、


「なによ……その顔は……!!」


「ちょっとやめてよ! リリィが何したって言うの!?」


 アイシアはその掴んだ手をバッと突き放すと、リーダー格の女子は、その苛立ちを今度はアイシアにぶつける。


「何? あんた……」


「私はアイシア、リリィの友達だよ」


 それを聞いたリーダーさんは笑みを浮かべる。


「友達? あのリリアが? ハハッ、笑わせんじゃないわよ」


 すると取り巻きの一人がアイシアを知っていたようで、


「ねえ、彼女……学校で良く噂になってたアイシアって()じゃない?」


 言われてみればとジッと見ると、今度はアイシアを見て嘲笑する。


「ああ……貴女が噂に聞くお気楽女ね。学校じゃ良く聞くわよ……アイシアちゃんなら王都でもお友達を沢山作っているんでしょうね〜とか」


 どうやらクルーディアの学校では、王都の学校に通ったアイシアのことを話している村出身の人がいるらしい。


 その人達はコイツみたいに馬鹿にした意味ではないだろうが。


「それなのにできたお友達がご近所の根暗娘なのね? 王都に言って現実を知って、活躍した根暗娘に泣きついて仲良しごっこってわけぇ? ハハハハ……」


 アイシアは困惑した表情を見せるが、言っている意味を理解できないと哀れむように見ている。


 だが馬鹿にされていることも理解はしているよう。


 だから……、


「……お前達は何しに来たんだよ」


「!?」


 ちょっと威嚇気味に言い放つと、ビクっと簡単にビビってくれた。小物臭が漂ってきたので、すぐに呆れ返す。


「行こ、アイシア」


「う、うん……」


「ちょっと! 逃げる気?」


「逃げるって何に?」


「何って、私からよ!」


 あれだけ簡単に怯んだくせにと、呆れたため息を吐き捨てる。


「……じゃあやるの?」


「や、やってみなさいよ!」


 軽い問答をした後、俺は杖を取り出し、


「――シャドー・ダンス」


 軽い口ぶりで構えることなく唱えた。


「――ヒィっ!?」


 取り巻きを含めた彼女らに、黒い槍状の影があいだあいだを遮るように貫く。


「……あのね、昔は()()だったかもしれないけど、今は違うの。みっともないから辞めたら?」


 アイシアに昔のリリアをわからないように曖昧な言い方をする。


「――なっ!? ……リリアのくせに……!」


 昔の名残が捨てきれないようで、悔しそうに睨みつけると、この天然が火を注ぐ。


「そうだよ! こんなやり方じゃ仲良くなれないよ!」


「……アイシア?」


「久しぶりに会った友達に、そんな喧嘩越しに喋っちゃダメ!」


「アンタ、何言ってんの!? こんな根暗と友達なわけないでしょ? なに? そこまで頭ん中、お花畑なわけ?」


 この天然の言ったことが癇に障ったのか、アイシアに手を出そうとする。


 さすがに容認できないし、いい加減にアイシアを馬鹿にされるのにも腹立だしくなってきたので、


「――召喚(サモン)インフェル!」


 脅しという現実を魅せるという意味では丁度いいだろうと悪魔を召喚すると、三人は腰を抜かして驚く。


「――な、なに……?」


「お呼びですか? 主人(マスター)


 カタカタと怯えすくむデジャヴを見て、ため息を吐く。


「……また呪印でも施せばいいと?」


「いや、単なる脅し」


「……なおさら呼ばないで下さい」


「――リリィ! なんでインフェルちゃん?」


「ちゃん?」


 さすがのインフェルもキョトンとした珍しい表情を見せる。


「……まあ軽く脅かしてあげて」


「……はあ、かしこまりました。――娘共」


「ひっ!?」


「我が主人(マスター)に何様だ? 言ってみろ」


「……いや、あの――」


「私とやりたいんだって。だから代わりに召喚魔の貴方がやってくれる?」


「――なっ、何言い出すのよ!! リリアっ!!」


「ほう……」


 インフェルは楽しげに目元を緩ませて、品定めでもするように恐怖心を煽りながら見下す。


 意図を理解してくれているようで、何より。


「では僭越(せんえつ)ながらお相手しましょうか」


「い、いやぁ……」


「ダ、ダメだよ! インフェルちゃんはあの勇者と戦ったほどの悪魔でしょ? リリィも止めなよ!」


 天然さんもさらっと煽りをかけてくる。さすがです。


「ご、ごめんなさい……ゆ、許して」


 完全に敵意を喪失した彼女らを確認すると、インフェルはちらりとこちらを見る。


 インフェルも柔軟になってきたなぁと感心する。


「……許すも何も怒ってないよ、呆れてるだけ。そりゃあアイシアを馬鹿にされたのはイラッとしたけど……」


「え? 馬鹿にされてたの?」


「「「「は?」」」」


 思わず説教しようとした相手達とかぶった。らしいと言えばらしいが、ちゃんと気付いて欲しい。


「ごっことか言われてたでしょ?」


「でも仲良しでしょ?」


「そりゃまあ……」


 なんか弁明するだけアホらしくなってきたので、説教に戻る。


「そんなカッコ悪いことしてるくらいなら、もっと頑張ればいいんじゃない? 私がここまで出来るようになったんだよ?」


 そのセリフに違和感があったのか、だが悔しそうに、


「……アンタ、ホントにあのリリア?」


 とこんなことを言うわけがないと吐き捨てたが、それに対して、


「うん、そうだよ」


 自分は色んな経験を踏んで変わったんだよと、含んだように返事をすると、少し考えるように間が空いた。


「……行くわよ」


 取り巻きを連れて足早に去っていった。


「……結局、何しに来たんだか」


「お友達になりに来たんじゃないの?」


「それはない。ただ調子に乗るなって言いたかっただけだよ」


 自分よりも弱いと思っていた存在に、自分の自尊心を汚されると恐れての行動。


 リリアが彼女の姿を見て、弱々しい態度を取ることを期待し、安堵したかっただけなんだろう。


「あんな浅ましい劣等種のために呼ばないで下さいよ」


「ごめんって。それよりありがと。理解してくれたみたいで……」


「これでも貴女の召喚魔ですからね」


「そんな悪態をつくためだけに? 何で?」


「そういう人もいるってこと。誰かのせいにしなくちゃ、自分よりも弱い存在を作らなくちゃって考える人もいるんだよ」


「劣等種らしい考えです」


 人間らしいと言われれば、その通りだと思う。そう思うことで簡単に安心できるのだから、人間とは都合の良い風にできている。


 でも、あれだけの経験を経て学んだ。行動しなければ、取り返しのつかないことになるのだと。


 今回の妬みだってそうだ。下手に拗らせると、きっとロクなことを生まない。


 この対処が正しいかまではわからないけど、それでも行動に移さないよりはマシだったろう。


「ならきっとわかってくれるね」


「え?」


「だって、今日のことはきっと忘れないよ。あの人達」


 これもまた天然だろうか。この笑顔には人の可能性を疑わない無垢な感情が込められているよう。


 きっとアイシアの強さは信じることだろう。自分から歩み寄ることで、他の人なら恐れるであろう心の内にも踏み込める強さがある。


 悪い言い方をすれば、空気読めない……だろうか。懐かしい。


 でもそこに純心さがあるからこそだ。改めてアイシアの凄さを知った。


「相変わらず凄いね、アイシアは」


「えっ? リリィの方が凄いよ。魔法とか……」


「はいはい」


 俺達も彼女らに場をかき乱されて興が逸れたと、その場を後にした――。



 ――家に戻ると、疲れ切ったリュッカとリンナの姿があった。


「ママ、あんまりリュッカをいじめ過ぎないでね」


「バカ言ってんじゃないよ。筋があるから、根本から鍛えてるんだろ?」


 まるで料理の時の恨み辛みを晴らすように見えるのは、気のせいだろうか。


「あ、ありがとうございます」


 まあそんな嫌味も通じないんですけどね。こちらはこちらでその辺だけ、受け止め方が違うようなので。


「じゃあお昼にしましょうか」


「はーい! 私も手伝う!」


「僕も」


 ナルシアとデュノンは積極的に手伝いを志願。


「貴方は?」


 俺が屈んで目線を合わせ尋ねると、困ったような表情をする。


「んっと……じゃあ、僕も」


「よし! だったら私は――」


「頑張りましょうね。リンナさん」


 リュッカは逃げようとしたリンナの手を取ると、台所まで引きずっていく。


「なんだかリュッカ……逞しくなった?」


「さあ?」


 リンナママの逞しさを娘リリア以上に干渉されてきたのだろうか。優しいリュッカでいて欲しいが、強くなっていく友人を見るのは、何とも嬉しくあり心強い。


「でもリュッカのお母さんも強いし」


「あ……そうなのね」


 まあリュッカの逞しさの片鱗は、魔物を解体したり、迷宮(ダンジョン)に身を投げられても、無事だったことから折り紙付きだが。


「そうだ、リリア」


「なに?」


「午後から行くぞ。迷宮(ダンジョン)


「えっ?」


 どうやら許可が出たらしく、午後からは迷宮(ダンジョン)探索である。

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