表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
278/487

16 夏休みの過ごし方

 

 ――翌日から、実家での特訓兼夏休みを過ごすことに。


 計画としては、実家へ帰って元気な顔を見せ、リフレッシュしつつ、実力の底上げという形を取ろうという感じ。


 俺個人としてはリフレッシュではなかったが、隠し事を無くすという心残りを払拭できることは良しとしよう。


 あんなところを見てしまったが、結果的には和解という形になったのだ。実際、朝起きてからも引きずった様子を見せないあたりは、さすが大人の対応と思った。


 同じ大人でも、ガルヴァとは大違い。


「ごめんね、パパ。昨日はどうしてもママと二人っきりで話したかったから、あんなこと言っちゃったの」


「そ、そうだったのかい?」


「うん。パパのこと、だぁ〜い好きだよ♡」


「――リリアぁあっ!!」


(うわぁ……めんどくさい)


 昨日のリンナの約束通り、パパママ呼びの愛想のいい娘でいろとのことなので、ガルヴァのご機嫌取りをするのだが、


「――ぶふっ」


 中身を知っているリンナは、その対応に思わず吹き出す。


「マ〜マ〜、どうかしたのぉ〜?」


「べ、別にっ……くふっ、ハハハハっ!!」


「――だああっ! もう! 笑うな!」


 その奇妙なやり取りにガルヴァは首を傾げるが、微笑ましい雰囲気なので気にしないことに。


 というか、この父親は娘に対しての疑心感は湧かなかったのだろうか?


「よーし、せっかくリリアが帰ってきたところだし、どこかに出かけ――」


「リリアはこれからお友達と魔法の特訓だっけ?」


「うん、そうだよ。ママはリュッカをお願いしてもいいよね?」


「ああ」


 特訓というよりは勉強に近い。リリアの魔術書を漁って、新しい魔法の習得、オリジナルの開発を試みようということ。


 せっかく帰ってきたのにと、しょんぼりとするガルヴァ。


「あの、その特訓とやらは長いのかい?」


「うーん、そんなこともないとは思うけど――」


「だったら――」


「アンタは仕事行って来な」


 どこの世界でも旦那さんの扱いはこうなのかなぁと、可哀想な気持ちになる。子供ができると母親は変わるとは言うが、なんとも世知辛い。


「で、でもぉ……」


 何とか一緒にいたいと食い下がるガルヴァ。仕事柄上、冒険者と組んで仕事をすることが多いガルヴァ。おそらくリリアが帰ってくることを見越して、仕事を調整してきたのだろうが、


「でもじゃない。行ってこい」


 奥様は許しません。


 家族を支えるため、頑張るお父さんを応援してあげようね、みんなは。


「パ、パパ頑張って。お仕事頑張るパパ、大好き♡」


 優しくしない嫁に代わり、娘は優しくすべきだろうと、頑張って笑顔をつくると、


「うん! パパ頑張る!」


 どうやらこのパパの管理は娘である俺が出来そうです。即決で返事すると、はりきって仕事へと向かった。


「罪作りな娘だねぇ」


「……消しかけた嫁さんが言うセリフじゃない。あなた、いってらっしゃいの一言くらいあっても――」


「…………」


 ガラじゃないと言わんばかりの酷く嫌そうな表情。何故、結婚したのか疑問が浮かぶ表情はやめてほしい。


「――おはようございます!」


「ダメだよ、ちゃんとノックしなきゃ。すみません……ってどうかしました?」


 二人が扉を開けて入った先に、嫌そうな表情で娘を見る光景は何事かと思うだろう。たじろぎながら尋ねた。


「ううん、なんでもないよ。いらっしゃい」


「娘が馬鹿なことを言っただけだから」


「別に馬鹿なことじゃないでしょ? 夫婦円満の秘訣とかじゃない?」


「十五の娘が言ってんじゃねえよ。バーカ」


 ごもっともな意見だが、俺の両親はそんな感じだったから言った意見だった。まあ性格によって違ってくるだろうし、この二人の力関係だとこんなもんだろうか。


 そんな様子をアイシアは楽しげに見ている。どうしたのと尋ねると、


「仲直りしたんだね」


 嬉しそうに返答したが、意味がわかりかねると再び尋ねる。


「だって昨日、リリィは遠慮がちに見えたし、お母さんはピリピリしてた感じだったから、今は違うなぁって」


「……そっか、気にしてくれてたのか。悪かったな」


 ぽんぽんと軽く頭を叩く。


「もう大丈夫だから気にするな。な?」


「うん。ありがとう、アイシア」


 ――アイシア達が来たということで早速、アイシアは俺と自室へ、リュッカはリンナにご指導いただくことに。


 俺とアイシアは使える魔法を増やすために魔術書を読み漁ることに。実際、リリアは俺が今使っている魔法よりも多彩な魔法が使えたということは、部屋にある書物を見れば一目瞭然。


 これを基にリリアの足跡を辿れれば、飛躍的な成長に結びつくだろう。


 それにリリアが読んでいた魔術書を読むことで、あの魔法陣の形成を理解できるかもしれない。


 リンナが調べるとは言っていたものの、自分からも何か出来ないか調べるべきだろう。


「ここらへんにあるのが……そうかな?」


 アイシアが使える火の魔術書を本棚から適当に見繕うと、嫌そうな顔をされた。


「せっかくリリィのおうちに遊びに来たのに、お勉強?」


「……一応、パラディオン・デュオの対策なんですけど?」


「う〜……わかってるけどさぁ」


 イマイチ乗り気ではないと言う雰囲気。


 気持ちは非常に理解できる。俺も勉強は嫌いだ。だけど、必要なことならやらねばならない。


 だがモチベーションが無ければ、向上心が芽生えず、成長にも強く影響が出てくるだろう。


「私だって勉強だけじゃ、つまらないってわかってるし嫌だよ。だからお昼までは頑張ろう、昼以降は実戦や何だったら弟君達も呼んで遊ぼうよ」


「ホント! なら頑張る!」


 とりあえず集中力が続くようにやるのがコツ。休憩を適度に挟みつつ、効率よくやっていこう。


 俺自身も飽きるし。


「でも何から手をつけるの?」


「うーん、そうだね……」


 考えはあると、魔術書をペラペラとめくる。


「正直、攻撃魔法よりも補助魔法をメインに覚えていこうと思う」


「私達、火属性だけど?」


「無属性も持ってるでしょ?」


「あっ……」


 この世界の人間は忘れがちだが、六つの属性以外にも――人族なら無属性、魔物なら魔属性を持つ。


 無属性は日常的に使うか、度外視するかのどちらかで存在感が薄い。だが、使いようによっては無限の可能性があると思う。


「無属性は基本、物質や生物に影響を与える術が多い」


「浮かせたり、強化したりね。でも、他の属性にも出来ることだからね」


「その認識が可能性を狭めてるんだよ」


 物を浮かせるなら風属性、強化魔法なら火や地属性など、無属性より明らかにスペックの高い術をかけることが可能だが、


「じゃあ無属性と火属性を合わせた複合術だったらどう?」


「えっと……えっ!? オリジナルを作るってこと?」


「そういうこと。つまり……」


 無属性はいわば六属性の下位版だが、他の属性と違うところは、基本的に対象に対してかける魔法であるということ。属性問わず、浮遊や念動、強化などを行えること。


「他属性と合わせることで、強力な空間認識に特化した魔法を作れるってことだよ」


「くうかん……にん、何?」


「えっと……私も詳しくは知らないけど、簡単に言えばその物質に対して状態を素早く把握する能力のことだよ」


 この説明でもイマイチ、ピンと来ない様子のアイシアに例題をあげることに。


「……魔法を使う時って、自分を中心点にして魔力を集めるでしょ? あれって自分という存在を認識することで魔力を集めやすくしてるんだよ」


「?」


 余計にややこしくなったと、大きく首を傾げ始めた。


 アイシアの場合、実践的に学ばせた方が早いかも。ポチの時もそうだが、説明を受けていた時より、実践してた時の方がやれてた気がする。


「……わかった。とりあえずやりながら学ぼう」


「そうだね。そのくうかん何とかを習得してみせよう!」


「だけどそれを実践するためには、使える魔法を増やさないとね」


「うう……頑張る!」


 大量の魔術書を目の前にして、些か臆した様子を見せたが、友達と一緒ならと頑張ってくれるよう。


 俺もリリア自身の力や知恵ばかりでなく、自分の想像力を武器にできるよう、学びとらなければ――。



 ――一方でリュッカとリンナは、家の小さな庭にて実戦トレーニング中。


「うーん、筋は悪くないが……」


「はあ、はあ……」


 リンナは汗一つかかず、余裕を持ってみせると、木刀でリュッカを指すと指摘する。


「判断力が遅いな。頭で考え過ぎてる印象だ」


「そう……ですか」


「ああ。深く考えるのはリリアみたいな魔術師の方だ。前衛はもっと柔軟に対応しないとな」


 リュッカはザーディアスが言っていたことと、類似していることを思い出す。


 前衛は後衛を守ることや自分自身を守ること、攻め方など、考える用途は様々だと言われていた。


「特にパラディオン・デュオみたいな少人数での対人戦となると、かなりの柔軟性が求められる」


「ど、どうしてですか?」


「……魔人事件みたいな数が必要な戦いだと、陣形の取り方の方が重要だろ? 攻める役目と守る役目を分担すればいい、だろ?」


「はい」


「だがパラディオン・デュオでの場合は、自分の味方は一人だけだ。しかも役割も決まってる。後衛は大砲と補助で、前衛はその後衛の状態に応じて、攻めと守りを往復しなきゃならない」


 必要な情報だけをざっくりと説明した。


 つまりは多人数で判断、行動するはずのものを個人のみで行わなければならないということ。


「つまり、攻めと守りの(かなめ)たる前衛の判断力が低いと、対応力の低下にも繋がる。判断力……つまり考える速度が遅いと身体はついてこない」


「そ、そうですね……」


 リュッカ自身思うところはある様子。自身の性格から考えても、引っ込み思案な性格をしているため、本当にこの行動で良いのかと決断力の鈍い部分がある。


 実際、周りのカルディナやフェルサなどを見ていると、反応速度や対応力は非常に早い。


 経験則のあるフェルサはともかく、カルディナは貴族でありながら、戦闘における決断力が早いことには、今更ながら感心を覚える。


 個人差や家にもよるだろうが、貴族は少なからず、蝶よ花よと育てられることを考えると、尻込みしそうな人もいるだろう。ソフィスなんかがそうだろうか。無論、マルファロイやアーミュなどの貴族はもはや論外。


 しかし、芯の通った貴族に関しては並の冒険者をも凌ぐ決断力を持っているはずだ。


 貴族校が優勝し続けるのも、ここが要因とも言えるのではないだろうか。


「いいか? 仮にアイシアちゃんやリリアをパーティーに組んだ時、お前さんの行動一つで一気に窮地まで追い込まれることもあるんだ。それだけ前衛での動きは重要になる」


 友達を引き合いに出し、厳しく言うのはそれだけ教える側も真剣だということだと、受け止められた。


 リンナ自身もやる以上は、ちゃんとやるの精神で臨んでいる。


「後衛は勝負の決着の戦略を担うなら、前衛はその土台を作り、守らないとな」


「そのためにも、素早い判断力が求められるってことですね」


「そうだ。本来ならリュッカちゃんみたいな考えるタイプは前衛には向かない。私も含めてだが、本能的に動くタイプが才能を伸ばすからな。だが冷静に判断しつつ、行動が取れる前衛は味方として、これほど頼もしい存在もない」


「えっと……騎士隊長さんとかがそうでしょうか?」


「まあ、そうだろうな」


 リュッカは魔人事件での騎士達の動きを統率していたオルディーンを連想した。


 殿下の指示に的確に理解し、行動、指示する姿は正に理想的な姿と言えよう。


「まあすぐになれるもんでもないが、実戦を交えて身体に覚えさせれば、嫌でも理解できる」


 加減はしてやるとは、交える前には言っていたが、熱が入った瞳をしているせいか、俄然やる気が満ちるリンナ。


 それに対してリュッカは怯むことなく、


「わかりました! 頑張ります!」


 そこの意気込みの判断は早かった。


 その意気込みを嬉しそうにリンナは受け止めたのか、木刀を片手で構える。


「よしっ! いくぞっ!」


「はい!」


 女の子っぽくない熱い指導が、若干の注目を浴びながら行われる。


 その木刀が激しく打ち合われる中で、リュッカは真っ直ぐに指導してくれるリンナに感謝する。


 リュッカ自身、アイシアやリリアに迷惑をかけたことをまだ少し引きずっている。自分の判断力や対応力、甘さが二人を危険、心配をかけてしまったこと。


 二人は今のままの自分が好きだと言ってくれだが、自分自身、その言葉に甘えてはいけないんだと、鼓舞するように木刀を振るう。


 変わらない自分と変わらなければいけない自分、メリハリをつけることが重要なのだと、真剣に臨んで挑む。


 その気持ちが乗っているのか、リンナ自身も負けられないと熱が入る。


「どした、どした! もっと来い!」


「はい!」


 元冒険者の血が(たぎ)ると、猛特訓は続いた――。



 ――そろそろ腹の虫も鳴き出す頃だろうと、まだ木刀が弾く音が鳴る外を、窓から見下ろす。


「そろそろお昼にしよう! 初日から飛ばし過ぎないでよ〜」


 見下ろすそこには、軽く息が早い二人の姿があった。


「お、おう」


「うん……」


 二人とも疲れ切った様子。リンナに関しては久しぶりだっただろうにと、頼んでおいて難だがと、ちょっと呆れ気味に見下ろす。


「さて、じゃあお昼は適当に――」


「じゃあここからは私が先生ですね?」


「は?」


「昨日言ったじゃないですか」


「あ? ……ああっ、あれくらいなら――」


 リンナは少し悩んだが、すぐに思い出すと肉の焼き方くらいと軽はずみな表情で返そうとするが、


「料理、食事は身体作りの資本です。しっかり教えますからね」


「えっ? いや、料理は……」


「教えますから……ね?」


 昨日の料理はやはり酷かったのだろうと、この瞬間、リュッカの圧から感じ取ったリンナ。立場は逆転する。


「え、えっと……お手柔らかにな、先生」


「いえ、リンナさんがあれだけ真剣にご指導してくれていたんです。私も真剣に教えますから、しっかり覚えていきましょう」


「あ、ありがとな……」


 そのやり取りを階段から覗き見ていた俺達は、


「ねえ、アイシア。リュッカって人に教えるのはスパルタかな?」


「どうだろ? でも、お昼はもう少しかかりそうだね」


 アイシアも昨日のリンナの料理の出来から、リュッカに教えてもらいながらならと判断する。


「……もう少し上でお勉強しようか」


「えっ!? 休みたい〜」


 俺達はその場を後にし、自室へと戻ったが――、


「こんな切り方知らねえよ!」

「めんどくせぇ!」


 などの文句が最初は垂れ流れてきていたのだが、モノの数分もしている内に静かになった。


「あれ? 静かになったね」


「はは……そうだね」


 リュッカはスパルタ教育でもしたのだろうか。それとも料理の何たるかを語って説教してみせたのだろうか。どちらにしてもリンナにとっては予想外の展開が待ち受けていたのだろうと悟った。


 そして――、


「二人とも、ご飯出来たよ」


「やったぁ! お腹空いたぁ〜」


 コンコンと軽くノックした先に出てきたリュッカは、いつものリュッカだったが下へ降りると、げっそりとしたリンナの姿に対し、美味しそうなお昼ご飯が並ぶ。


「わあっ! 美味しそう!」


「だね……ママ、大丈夫?」


「……料理がこんなに大変だったなんて……」


 なんだか消沈している。どんな風に教えられたのかまでは、聞かないことにしよう。


「明日からも頑張りましょうね」


「――っ!? あ、明日も……?」


「はい。というか、お邪魔させて頂いてる間はお礼も兼ねてしっかりと」


 えっと、ママ上は引きつってらっしゃるんですけど。


「リュッカ、どんな教え方したの?」


「えっ? 普通の教え方だけど? でも……」


「でも?」


「教えがいがあるね。リリアちゃんのお母さん」


 このいつも通りの笑顔のどこにリンナは恐怖したのか、俺は知る由もなかった――。



 ――そんな昼食を済ませると、アイシアはポチに乗って文字通り飛んで帰ると、また文字通り飛んで帰ってきた。


「キャハハ! 凄かったぁー!」


「し……心臓止まるかと思った」


 ポチに乗った感想は様々。寝ているであろう次男を置いて、次女と長男が遊びに来た。


 というかアイシア、ポチを乗りこなすの早っ!


「いらっしゃい。よく来たね」


「あ、お、お邪魔します」


「黒炎のまじゅちゅしさん、こんにちは」


「コラ、ちゃんとリリアお姉さんって言うんだよ」


 弟君は本当にしっかりしてらっしゃる。その賑やかな声に誘われて、リンナも顔を出す。


「おーおー、賑やかだねぇ」


「ママは大丈夫?」


「……今から食材調達の勉強だとさ」


 どうやらリュッカは徹底的に教え込むつもりらしい。頼もしい限りだ。


「というわけだ、お前も来い!」


「――えっ!? あー、ほら私はこの子達の面倒を見なくちゃいけないし……」


「女・子・力」


 その逃げ方はずるいと、約束を切り出す。


「ナルシアちゃん、リリアちゃんのお話を聞くのを楽しみにしていたみたいですから、ここは私とお母さんだけで行きましょう」


「そ、そうか?」


 さっきのことが頭に(よぎ)ったのか、行きたくなさそうな表情をするが、リュッカは気にも留めないよう。


「リリアお姉さん! もっと色んなお話聞かせて!」


「ちょ、ちょっと……そんなに押さなくても逃げないから」


「じゃあリュッカはリリアのお母さんとお買い物?」


「うん。余計なお世話かも知れないけど、お料理の楽しさとか、準備も楽しいんだって教えてあげたいし……」


「私の料理はそんなに酷かったか?」


 今一度、昨夜の問いを恐る恐る尋ねると、僭越(せんえつ)ながらと答える。


「なんと言いますか簡素なんですよね。全体的に。料理は栄養だけ取れればいいというわけではないんです」


 まあ栄養も怪しいけど。


「味、香り、見た目、栄養と先程のご指導の通り、無限にもある食材の中から柔軟に材料を選び、調理しなければいけません」


「お、おう……」


 リュッカはさっきの教えをしっかり学び取り、早速活かしてくる。リンナもこの用途は予想外だろう。


「そのためには、私がご指導して頂いていることと同じ、練習あるのみです」


 リュッカはとても面倒見の良い娘だからね。本当に良いお嫁さんになりそうだと、俺は微笑ましい表情で、ナルシアに押されながら家の中へ。


「料理は食材選びから始まります。行きましょう」


「お、おう……」


 リンナはこの屈託のない笑顔で、一生懸命教えようとする優しいリュッカを見て、いい()だと思う反面、後悔している。


(今になってこんなに苦労することになるなら、ジード達に面倒くさがらずに習っとくんだった!)


 グラビイスのパーティーにいた頃は、料理がまともに出来るのはジードくらいで、みんなまともな料理を作らなかった分、文句もなかった。


 旦那に関しては文句を言わせなかったし、リリアも言わない。


 料理以外の家事なら問題のなかったリンナが、今になって後悔した出来事であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ