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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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13 不穏な再会

 

 ――翌日、俺はアイシア達と共にリリアの故郷へと飛んだ。


「リリィの村って冒険者の人もいるんでしょ?」


「ま、まあね」


「どうしたの? 緊張してる?」


 正直、俺の心境としてはかなり緊張している。


 決まっていたこととはいえ、逃げるように王都へ向かった俺が、あまり認識のない両親の元へ帰るというのは緊張を覚える。


 グラビイス達との話で、リリアの両親のことを軽くは聞いたとはいえ、中々娘として振る舞うのは大変だろう。


 しかも、アルミリア山脈……魔物の生息域も近いことから特訓するという話にもなっている。


 つまり、前回の二日間ほどより長く滞在することになる。尻尾が出ないかどうか不安の方が強い。


 というのも出て行く最後の時、リリアの母リンナは何か察したような表情をしていたことを思い出す。


 父はともかく、母は鋭く、感づかれる可能性が否めない。


 そして何より、騙しているかのようで罪悪感でとても心苦しく思う。


 でも、実家へは魔人討伐の件で色々あったし、安心させる意味合いでも帰るようにはしなければいけない。


「ここだよね? 着いたよ」


 そんな色々重い考えを持つ中、近いせいかすぐに到着してしまった。


 ……もう少し心の準備が欲しかった。


 するとアイシア達の村同様の歓迎を受ける。しかも冒険者もいる為、武装率は中々である。


「よっとっ!」


 俺はスタリと軽く地面を鳴らし降り立つと、周りがどよめく。


「おおっ! リリアちゃんじゃあないか」

「おいっ、この()、黒炎の魔術師じゃないか?」


 驚く声が続々。すると、凄い叫び声を上げながら、地鳴りを鳴らし近付いてくるのが聞こえた。


 正直、誰が近付いているのは大いに想像がつく。


「――リリアああぁあぁーーっ!!」


「おと――おぶっうっ!?」


「ああああぁっ!! リリアぁっ!! 無事で、無事でよがっだあぁーー!!」


 心配性のお父上のご登場。ドン引きするぐらい泣き喚きながら、娘を強く抱きしめ歓喜する。


 向こうがあんな落ち着いた感動の再会なだけあってか、二人にこの親を見てもらうのが、めちゃくちゃ恥ずかしくなってきた。


 実際、二人はどうすればいいのかわからないようで、リュッカに関しては苦笑いすら浮かべている。


 俺は中々剥がれない父を強引に引き剥がそうとする。


「お父さんっ! 落ち着いて……」


「ううっ、うう……リリアぁ……パパは、パパは寂しかったぞ」


 するとその泣きじゃくる父の頭をゴォンと鈍い音が鳴らすと、そこにはフライパン片手に呆れた顔をしたリンナの姿があった。


「あんたは何やってんのよ、みっともない」


 相変わらず姉御肌的な喋り方は変わらないよう。だが、父はタフさを身につけていたようで、気絶するまでには至らない。


「だって! やっと娘が帰ってきてくれたんだ! 嬉しいだろうが!」


「ああ、そうですね。嬉しい嬉しい」


 お前のせいで、娘との再会は台無しだよという感じの投げやり感。


 すると、アイシア達はご両親だろうと、このタイミングだと挨拶。


「あの……」


「あん?」


 母よ、あんって返事はやめよう。怖いよ、普通に。


「は、初めましてアイシア・マルキスといいます。リリィ……じゃなかった、えっと……」


「ああ、リリィってのでいいよ。娘と仲良くしてくれてるのか?」


「あっ、はい!」


「あんたもかい?」


「は、はい。リュッカ・ナチュタルといいます」


「そっか、ありがとな」


 優しく微笑んで、二人の頭をポンポンと叩いて、大人の貫禄を見せる母リンナに対して、こちらの顔がぐしゃぐしゃになった父は、さらに情けない顔へと変わっていく。


「あのリリアに……こんな、こんなお友達ができるだなんてぇ……よく頑張ったなぁっ!! リリアぁっ!!」


「――お願いだから、いちいち抱きつかないでぇ!」


 父親の物言いに違和感を感じる二人は首を傾げて見合う。


 やばっ! こういう意味でも帰ってきたくなかったんだ。このままだとより不信感を持たれて、取り返しのつかないことになるかも。


「あの――」


 リュッカ達が出逢った当初に感じた違和感を確かめようと、リリア父に声がけしようとした時、リンナが父の袖を掴む。


「悪いな、コイツは情緒不安定な奴なんだ。迷惑かけるな」


「い、いえ……」


 自分の旦那に対して情緒不安定は言い過ぎな気がするが、助かったと安堵(あんど)する。


「とりあえずリリア、うちに来い。色々話もあるだろ? お友達も連れてきな」


「は、はい!」


 なんだろう、少しトゲが刺さったような物言いに聞こえたのは気のせいだろうか。


 だが、喋り方はこんな感じだったように思うので、アイシア達と家へ向かった。


 ――家に帰ると、リリアの両親に魔人の件から説明。王家からの報酬として頂いた巨額の金額も渡した。


「はー、あんたはまあ本当に……」


 リンナは呆れかえるが、父は金よりも娘の無事にしか興味がないようだ。


「そんなことより怪我はしてないか? 変な病気や後遺症とかは?」


「心配し過ぎだ! 馬鹿!」


 見てわかるだろっと再びツッコミ。


「心配もするさ、魔人討伐の報告を見た時、目の前が真っ暗になったんだから」


「ああ……見た瞬間、お前気絶したもんな」


 心配性もここまで来ると、能力のレベルである。見た瞬間、気絶とか。


「そんな心配、全然要りませんよ! リリアのお父さん。リリィは魔人の件のほとんどを解決したんですから」


「――っ!」


 げっ! この天然さんは余計なことを喋りそう。


「あ、あのっ!」


「――リリアは黙ってな」


「――っ」


 話題を変えようとした俺をギっと睨むと、ニコッとアイシアに向き直し、話を続けてくれと言う。


 その対応にアイシアとリュッカは違和感を覚えるも、話を続ける。


「え、えっと――」


 魔人事件のバザガジール以外の全容を話した二人。


 俺の内心は非常に落ち着かない。どこに地雷が埋まっているか、爆発するかわからない状況に立たされている感覚だ。


 いかに鈍い父でも違和感に気付くのではないかと思ったが、


「そんなに立派になって……嬉しいぞっ! リリア!」


 この父は娘好き過ぎるだろっ!? 少しは不信がれよ! 逆に心配になるわ!?


 なんて心の中でツッコミを入れているが、


「話してくれてありがとな」


 ニコッと笑うあの裏で何を思ったのか、俺は不安で堪らなかった。


「よっしゃ、じゃあせっかくだ。昼飯食ってけよ、な?」


「あ、はい! 是非!」


「ありがとうございます」


「えっと、二人共」


「ん?」


「……あんまり期待しない方がいいよ」


 あの大雑把な料理を知っている者からすれば、もてなすようなものではないため、父と共に何とも言えない微妙な表情を浮かべるのだった。


 ――どんな料理? が出てくるのか、内心ハラハラしながら、俺は自室を案内。


 二人はこの部屋を見て感心する。


 というのも魔法に関する本ばかりがある部屋で、とてもじゃないが、女の子の部屋という認識は相変わらず薄い。


「リリアちゃんが優秀な理由にも納得がいくね」


「うう……目がチカチカする」


 アイシアは火の魔法についての魔術書を手に取って、見開いた瞬間、そう言い放った。


 その本にはびっしりと文字が書き込まれており、リリアがこれを読んで勉強していたかと思うと、本当に優秀だったのだと、俺は改めてリリアの凄さに気付く。


「でも、あれ? 勉強嫌いって言ってなかったっけ?」


 俺というリリア像がボロボロと剥がれていくよう。やはり自宅にくるんじゃなかったと後悔の念に絶えない。


「これだけやったから、嫌になったって感じだよ」


 内容もほとんど知らないのにそう言って誤魔化すと、


「そうだよね。私なんかもう嫌になったし……」


 この文字だらけの本を見ていたせいか、持っていた魔術書をポンっと元に戻し、すんなりと受け入れてくれた。


「それにしてもリリィのお母さん、カッコイイね」


「うん、リリアちゃんそっくりだけど、大人の女性って感じだね。リリアちゃんもあんな風になるのかな?」


 女性らしさを(かも)し出す、サバっとした性格にちょっと憧れを抱いた様子で話す。


「でもリリィに対して、ちょっと怒ってた……?」


「きっと魔人のことで危険なことをして怒ってるのかも……」


 あの睨み方はそういうことなのだろうか。少し違うようにも感じたが、そうであって欲しいと願うばかりだ。


「そのことについては後でお母さんと話をするから、大丈夫だよ。今はこれからのことを考えよ」


「わかった。アルミリア山脈の(ふもと)付近で特訓だよね」


「それなんだけど、最初はさ――」


 俺はこの魔術書をチラッと視線を送る。


「もっと出来ることを増やそうかと思うんだけど、どうかな?」


 魔法について学校でも色々勉強したが、ここにある魔術書を読み漁った方が色んなことができるようになると踏んだ。


「えっと……つまり?」


「幸い、ここには火の魔術書が沢山あるから、アイシアはどんどん魔法を覚えてこ」


「ええ〜〜〜〜っ!!」


 さっきの文章まみれの魔術書が頭を(よぎ)った。


「シア、頑張ろ」


「うう〜……」


「リュッカはお母さんに習うのはどうかな?」


「え?」


「ウチのお母さん、グラビイスさん達と冒険者だった時があったらしいし、学ぶことがあるかも」


 あの性格だから、きっと前衛で大活躍していたに違いない。リュッカにはあんな性格の師匠がいてもいいと思う。


「うん! わかった。頼んでみる」


「それで時たま魔物の生息域で実戦訓練といこう」


「わかったよ」


「了解〜……」


 アイシアは渋々の了解。せっかくの長期休暇にも関わらず勉強かと表情を落とす。


 ――すると、何やら焦げ臭い匂いが(ただよ)ってくる。


「何? この臭い……」


「焦げ臭い……まさかっ、火事!?」


 火事だと誤認してしまうほどの臭いが二階の自室まで来ているが、おそらく料理をすると言っていたリンナのところだろう。


「……大丈夫。多分、お母さんのせいだから」


「――だったら尚更だよ! もしかしたら一大事かも。行こう!」


「えっ!? ちょっと!」


 アイシアに強く引っ張られ、ダンダンと階段を駆け下りると黒い煙まみれ。窓が開いているのに、換気が追いつかない。


「――大丈夫です……か?」


 そこには涼しい顔をして何かを一気に人数分焼いているリンナの姿があった。


「ん? どした?」


 その何も問題ないような表情で尋ねてくるリンナに対して、二人は拍子抜けした表情をする。


「あ、あの……それは何を?」


「ん? ああ、これか」


 フライパンを軽く片寄らせて、中身を見せる。そこには黒焦げた肉があった。


「肉好きだろ? 肉!」


「あはは……はい」


「せっかくリリアの友達が来たんだ、美味しいもん食わせてやりたいじゃないか?」


「そ、そうですね……」


 そんなに黒焦げたら、駄目なんじゃないかなぁと、思いながらも二人は気を遣って、相槌(あいづち)を打つ。


 それで出来た料理が――、


「さあ、出来たぞぉ!」


 並んでいる料理は、主食のパンに相変わらずのざく切りサラダに野菜スープ。そしてメインには、ほとんどが黒ずんだ肉の塊。


「いやぁ、ちょっと失敗したけど、まあ食えるだろ?」


 相変わらず大雑把過ぎるし、レパートリーも少ない。よくリリアはここまで成長できたものだと、生命の神秘や栄養士に問いかけてみたいものが、目の前に広がっている。


「……い、頂きます」


 口にするその料理の数々は、テルサの料理とは天地の差。


 テルサの料理は、レパートリーが豊富で味付けもこの年頃好みの味で舌鼓(したづつみ)を打たせる。咀嚼(そしゃく)する食感も絶妙で、材料の扱いも完璧。


 伊達に寮長を務め、あらゆる生徒の舌を唸らせてはいないと感じていた。


 実際、テルサの料理をものにしようと、学ぶ生徒もちらほら見かけるほど。


 だが、それに比べてリンナの料理は、ボソボソとしたパンに、適当に切っただけの野菜をちょっとだけ綺麗に盛り付けただけ。


 野菜スープも野菜の旨味が出る前に、即席で作ったような薄味に、トドメの黒焦げ肉。


 塩、胡椒(こしょう)で味付けすらされてなく、焼いただけの肉。当人は素材をそのまま生かした料理と称するが、素材のまま過ぎる。


 最早、料理ではないが、変に強調するような不味さじゃないところが、さらにたちが悪い。


 決定的に不味い方がいいとさえ思ってしまう。


 リリアの母親にあんまり悪いことを言いたくないが、これは酷いと言わざるを得ないが、心の中だけに留めておこう。


「どうだ? 美味いか?」


「お、美味しいです」


「独特ですね……」


 ニッコニコで感想を尋ねる友達の母親に、不味いと言える訳もなく、気をめちゃくちゃ遣っての感想。


 すまない、二人共。


「え、えっとお母さん、ちょっと頼みがあるんだけど……」


「ん? 何だ?」


「お母さんって元冒険者なんだよね?」


「ああ、魔人討伐の時にグラビイスの奴らと一緒って言ってたな。それで?」


「肉体型だよね? だったらリュッカに色々教えてあげて欲しいの」


 チラッとリュッカを見ると、見極めるかのように視線を向ける。


「なるほど、いいよ」


「本当ですか? ありがとうございます」


「ていってもなまってるかもしれないから、あんまり期待しないでな」


 すると俺は料理を軽く指差して、リュッカに目配せする。


「あ、あのっ!」


「何?」


「えっと教えてもらうだけじゃ悪いので、失敗しないお肉の焼き方とか教えさせていただけませんか?」


「……旨くなかったか、肉」


 珍しくしゅんと落ち込む。元のリリアの性格上、友人を連れてくるなんて初めてのこと。本人としては今ある中での最上のもてなしだっただろう。


「い、いえ! ただ私の実家は解体屋なので、もっと美味しくなるお肉の焼き方を知っているだけです」


「解体屋……ああ、ランテって村に細々とやってるとこがあるって……もしかしてあんたんところか?」


「あ、はい」


 リュッカ達の村の名前はランテっていうのね。看板とかなかったからわからなかった。


「そっかぁ……確かにそこの娘さんなら私より上手く肉を焼けるか。実際、ジードとかが焼いたやつも美味かったんだが、私じゃなあ……」


 本人も下手という自覚はあるのだが、いまいち上達しないと頭を悩ませている。


「わかった! じゃあよろしく頼むよ!」


「こちらこそ……」


 これでリュッカが上手いこと誘導して、料理の手ほどきもしてくれれば、俺も今後のリリア父の健康管理もしっかりしてくるだろう。


 ありがとう、リュッカ。頼むぞ、リュッカ。


「なあリュッカちゃんにアイシアちゃん、リリアの様子はどうだ? 学校はちゃんと通ってるのか?」


 会話の内容的には何も問題ないんだが、この両親は本当のリリアを知っている。


 この苦味のありそうな肉の味すらしないほど、混濁(こんだく)している。


「はい。そりゃあ――」


「ちゃ、ちゃんと通うって言ってたでしょ?」


「……そうね」


「そうだぞ! リリアだって頑張ってるんだ。優しくていい子に育って嬉しいぞぉ」


「はい。リリィ、頑張ってますよ」


 ――こうして全く味のしない昼食を終えると、特訓は明日からだと、アイシア達は帰っていった。


 それにしても父親は溺愛している影響か、都合の良いように捉えているのかわからないが、感づく気配がない反面、リンナには明らかに不信感が募っているようだ。


 質問内容自体はリュッカの両親と変わらないものだが、リンナが知るリリアと今現在いるリリアとは、どうしても彼女の中で矛盾が生じるのではないだろうか。


 俺もリリアの性格は遺書を通してだが、理解している。


 そんなことを頭の中でぐるぐると考えているうちに、夜を迎えた。


「よぉし! 今日はパパと寝ような」


「やだ、キモい」


 パパめちゃくちゃショックを受けて崩れる。


 いや、普通に考えたら思春期真っ只中の女の子がお父さんと一緒に寝るはない。


「王都に行く前は、あんなに一緒に寝たのに……」


 聞きたくもなかった爆弾発言が飛び出す。


 親と一緒に寝るとしても、同性の母親が普通だろうが――リリアとリンナの性格を考えると難しいだろう。


「馬鹿だな、リリアも年頃の娘だぞ。……パパ臭いって言われる前にすっこんだ方がいいぞ」


「――!!!!」


 リリア父に自身の人生における最大の衝撃が全身を走ると、瞬時に手を握って確認する。


「パ、パパは……臭くないよな? パパ臭くないよねぇ!!」


 俺自身もかなり鬱陶(うっとう)しくなってきたので、この際、ちょっと距離を置いてもらうつもりで言い放つ。


「お父さん、臭い」


「――っ!?!?!!?」


 パパ、この世のものとは思えないほどの表情で絶望すると、くるりと背中を見せると、とぼとぼと力無く歩き、聞き取ることが困難なほど小さく消えた声で、


「……おやすみ……リリア……」


 呟き、煙のように消えた。


 さすがに言い過ぎたと、めちゃくちゃ後悔した。ここまで効果があるとは思わなんだ。


 明日は存分に可愛がられてやろうとすら思うほどに。


「それにしても、お父さんにお母さんねぇ……」


「えっ?」


「あんた、出て行く時はパパ、ママだったろう?」


「えっと、向こうの子達はパパママ呼びはしてなかったから……」


 やはりリンナの目的は俺と二人きりになることが目的のようだ。


 父親を消しかけたのは、その為だろう。


「ちょっと話がある。あんたの部屋に行こう」


 言われるがまま、リリアの部屋へと場所を移した。リンナはベッドにボスンと座り込むと、改めて学校生活について尋ねる。


「ねえ、リリア。学校は楽しいかい?」


「え、えっと……」


 遺書を見る限り、リリアは学校は嫌いな印象がある。部屋にある魔術書があるところを見ると、勉強は嫌いではないようだ。


 そこから答えを出そう。


「た、楽しいよ。色んなことが学べて、少ないけどお友達もできたし……ね」


 アイシア達が居た時とは一転して、変に他人行儀な喋り方をしてしまった。


 しかもそれを聞いたリンナは無言だ。この張り詰めたようなキリキリとした空気をなんとかして欲しい。


 そんな無言の沈黙が長く続いているような感覚に襲われる中、次の質問がされる。


「魔人の討伐はよくやったな。さすが私達の娘だ」


 ニカっと笑ってみせたその表情。


 俺は自分が知り得るリリアの情報とリンナが持っている情報が食い違っているのではないかと、その一言から思った。


 父はあんな性格だが、優秀な採掘師だというし、リンナに関しては元冒険者だ。


 もしかしたら、多少なりとも臆病ではあるが、やる時はやる()ではないのかと感じた。


「う、うん。でもみんなのおかげで討伐できたようなものだから、私だけの力ではないよ」


「……そっか、()()()の力か?」


「うん、そうだよ。みんなの……」


 この言葉の続きは喉から出てこなかった。リンナを見て、畏縮して止まってしまったからだ。


 リンナは娘にしつけとして向けるような眼光ではなかった。冒険者が敵意を向けて放つ、殺意がこもったような眼光で俺を睨んだ。


「みんなだと……ふざけるんじゃあねえ!! お前がうちの娘の何がわかるっ!!」


 どうやら俺は地雷を踏み抜いたようだ。爆発したような怒りが向けられる。


「友達の一人や二人くらいならとは思っていたが、みんなだと……こんなこと言いたかないが、うちの娘がそんな社交的なわけあるか。それに友達に対してとはいえ、あんなにフランクに喋る娘も見たことがない」


 遺書に書かれていた性格が、やはり正しかったようだと、どうすればいいかとばかり頭が巡る。


「あの()達の話を聞いてたら、まるで別人の話をされてるかのようだったよ。……まあ王都に向かう前にも違和感はあったが――」


 ヒュンと風を切るような音がしたかと思うと、喉元に刃を突きつけられた。


「――っ!?」


「……話を聞く限りは悪い奴ではないようだが、娘に化けてるのか、それとも憑依しているのか……白状してもらおうか」


 どうやら腰に下げている小さなマジックボックスから、剣を抜き出したらしい。


 伊達に元冒険者ではないようで、その剣速は勿論だが、敵に対する威圧のかけ方も尋常ではない。


 衰えているとは言っていたが、そんなことはないんじゃないかと思うほどである。


 リンナの経験を後押しするのは、娘に対することだからと、物語るように視線を離さない。


「――てめぇ……何者(なにもん)だ?」

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