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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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12 マルキス兄妹

 

 ――灰色髪の少年とオレンジがかった茶髪の少女は魔物避けを施されている村までの道を歩く。


 その少女の足取りは軽いが、少年はやや重いようだ。


「お姉ちゃんが帰ってく〜る♩ お姉ちゃんが帰ってく〜る♩」


 同性の兄妹の帰省に胸躍らせ、思わず上機嫌に歌い出す。


 一方の今現在、一番上のお兄ちゃんは複雑な心境。


(姉さんが帰ってくるのはいいんだけど、また抱きつかれるんだろうなぁ。頼むから人前ではやめてくれよ)


 中々思春期真っ只中のアイシア弟。男の子としては姉に抱きつかれる姿など、同じ歳の子――特に女子には見られたくない光景だろう。


 そんな道中、大きな影が二人の前を素早く通った。


 その影を二人は反射的に目で追いかけると、上空にはこの辺では見覚えのない飛空物が飛んでいる。


「お兄ちゃん、今のなぁに?」


「わかんないけど、あの方向は村の方だよね」


 少年達の場所からではもうその姿は確認できないが、村に向かったのは間違いないと走り出す――。


 少年は息を切らしながら、村の入り口前の少し開けた広場を目視している。


 そこには赤龍(レッドドラゴン)の姿と武器になるような物を手にした村人達が群がっていた。


 ただ事ではないと妹を草陰にやると、もう少し近くで様子を見ると、村人達が楽しそうに笑っている姿に違和感が生じた。すると、


「――ん? おおっ、デュノン! 帰ったのか? こっちへ来い!」


 近所に住むおじさんに呼びかけられた。すると、赤龍(レッドドラゴン)の懐から見覚えのある人が姿を見せた。


「――あっ! デュノンっ!!」


「――ね、姉さん!?」


 アイシアは久しぶりに会う弟に猪突猛進、駆け出す。


 まだ状況の整理が付いていないデュノンは、慌てふためいてる内に――、


「久しぶりぃ〜!! 元気してた?」


「――おぶっ!? ね、姉さん、やめてぇ〜!!」


 お姉ちゃんの愛の抱擁(ほうよう)。思春期真っ只中の弟は恥ずかしくて堪らないようで抵抗する。


 はは……お気持ちお察ししますよ、弟君。その年頃の少年は、お姉ちゃんやお母さんからの甘やかされるような行動は恥ずかしいよね。


 元男の俺には理解できるぞと、その様子を苦笑いしながら見ていると、草の茂みから顔立ちはアイシアに似たような女の子が出てきた。


「――お姉ちゃん〜!!」


「ナルシアっ!! 久しぶりだねぇ!!」


 アイシアは左腕で弟君を、右腕で妹ちゃんを抱擁(ほうよう)する。


 嬉しくなったのか、アイシアはぎゅうっと抱きしめると、二人の顔が最近成長著しい脂肪に押さえつけられている。


 兄妹達は抵抗するも、気付いてないようなので……、


「兄妹の再会早々、友人が誤って兄妹を窒息死なんて洒落にならないからやめてあげて……」


「え?」


 俺のツッコミでようやく気が付いたのか、ちらっと二人の様子を見てみると、二人共、眼を回していた。


「ご、ごめん! 大丈夫!?」


「もうシア、少しは手加減してあげよ」


「ごめんごめん。つい」


「この二人はアイシアの兄妹?」


「うん! そうだよ、紹介するね――」


「いや、後でいいよ。落ち着いてからで……」


 本人達だってしっかり挨拶したいだろうし、なんて考えていると、ほぼ村の人達が集まってしまった。


 その理由はポチである。


 ここはアルミリア山脈からとそんなに遠くない為、ドラゴンが来ることもあるらしい。数年に一度あるかないからしいが。


 だからこそ、注目を集めるには充分であった。


「リュッカちゃんも久しぶりだねぇ」


「お久しぶりです」


 全員と顔馴染みなのか、一人一人に挨拶をするリュッカ。


 これだけ小さな村ならご近所付き合いもいいのだろうか? 以前聞いた時は馴染みが無さそうな印象があったが……。


「ねえ、リュッカ? 村の人達とは顔馴染みなの?」


「うん。私の家のことをシアが広めて回ったからね」


 ――後々聞く話になるのだが、孤立していたリュッカと友達になったアイシアは、安くて良い肉が手に入ると、広めて回ったらしい。


 幼い少女の純粋な言葉に、嫌厭(けんえん)しがちだった村の人達はその言葉を信じ、交流し、現在に至るという。


「みんな元気で何よりだよ」


「……っ、……姉さんは相変わらずみたいだね」


 目を覚ましたデュノンが、アイシアを姉さんと呼ぶことにめちゃくちゃ違和感を感じる。


「初めまして弟君はデュノン君でいいのかな?」


 俺は彼に目線を合わせ、前屈みに尋ねると、少し赤面して挨拶する。


「え、えっと初めまして。デュノン・マルキスと言います」


 この姉に接していた影響があるのか耐性が付いているようだ。だが、俺の顔を見て驚愕の表情へと変わっていく。


「……あれ? どこかで見たことがあるような……」


 そう呟く言葉に周りの村人達も、確かにとざわつき始めると、ナルシアが指差し、宣言する。


「――ああっ!! 黒炎のまじゅちゅしさんだあーーっ!!」


 当たってるけど、噛んでるよ。言いづらいよね、魔術師って。


 すると村人達も連鎖して思い出していく。


「ああっ! 確かこんなべっぴんさんだったねぇ」

「まだ学生さんだと聞いていたが……」

「新聞で見た通りだねぇ」


 なんて言われながら囲まれてしまった。


「黒炎のまじゅちゅしさんみたいに強くなるにはどうしたらいいの?」


 何かデジャヴを感じるぞ。助けを求めようと、アイシア達に声をかけると両親だろうか、嬉しそうに対面している。


「よく帰ってきたな! アイシア!」


「パパ! ママ! ただいまっ!」


「あらあら、おかえり」


「リュッカ! 帰ってきたか!」


「ただいま。お父さん、お母さん」


「向こうでの話も聞かせてね」


 感動の対面をなされているところ、水を差すのも悪いと思ったんで、苦笑いを浮かべながら、質問の嵐をなあなあで答えていった――。


「ごめんね、リリィ。大丈夫だった?」


「はは、まあね」


「でも姉さん、本当にあの黒炎の魔術師さんの友達なの」


「まあね!」


 時の人が友人となると自慢したくもなるようで、ふんぞりとドヤ顔。


 これは自己紹介のタイミングだなと、軽くお辞儀し、愛想良くニコリとご挨拶。何事も第一印象は大切である。


「初めまして、リリア・オルヴェールです。リュッカとアイシアと仲良くさせてもらってます。今後ともよろしく」


「こちらこそ、娘と仲良くしてくれてありがとう。これからも仲良くしてやってくれ」


 皆さん、俺の印象は好感触なようだ。


「それにしてもアイシア。あのドラゴンはリリアちゃんのドラゴンか?」


 黒炎の魔術師という肩書きを持つ俺が使役するものだろうとアイシア父は質問すると、ふるふると首を横に振る。


「ううん、私の」


「――はぁっ!? 姉さんの?」


「……それは本当か?」


「あらあら……」


 一同、絶句。


 帰ってきた娘が立派なドラゴン連れて、飛んで帰郷すれば驚きもするだろう。


「お姉ちゃんっ! すっごぉーい!!」


「でしょお? 後で乗せてあげるね」


「ホントっ!? やったぁー!!」


「お母さんもお母さんも」


「うん! 任せて!」


 アイシア家女性陣は仲良く手を繋ぎあって、円を組み踊っている。


 それを弟デュノンは身内の恥だと、重いため息と共に顔を伏せる。


「……あんな能天気な姉とお付き合いして頂き、ありがとうございます」


「い、いえ。楽しいから大丈夫だよ」


 どうやら天然の性格は母親譲りのようだ。一緒に無邪気に喜び合っているところを見るに間違いない。


 驚き方とかも、おっとりとマイペースな感じ。俺の本当の母親に少し雰囲気が似ている。


 一方の父親も笑顔でその光景を見ているあたり、こっちも若干の天然が垣間見える。


 だから弟君はこんなにしっかりしてるのかも……弟君の苦労が忍ばれる。


「リュッカさんも姉が迷惑かけていませんでしたか?」


「ううん。むしろ居てくれて良かったってことしかないよ。お姉ちゃんを借りちゃってごめんね」


「あ、いえ。あんな姉で良ければどれだけでも……」


 毛嫌いしている様子ではないが、どこか思春期が見え隠れするトゲトゲしい物言い。


 姉に構われるのは鬱陶(うっとう)しいが、姉が元気かどうかは気になっていたと言ったところ。


 うーん……こう考えるとツンデレか?


「あの〜、そろそろ動きません?」


「あっ、そうだね。リリィは一晩泊まっていくんでしょ?」


「うん。とりあえずは……」


 俺の帰郷は明日。今日はアイシアかリュッカの家に泊めてもらう話になっている。まあ招待されたのだ。


「ねえ、そういえばフェノンは?」


 アイシアはもう一人の弟について尋ねる。


「フェノンは昨日から熱を出して寝てるよ。まあだいぶ落ち着いたけどね」


「えっ!? それ早く言ってよ! 看病しなくちゃ!」


「ちょっ、姉さん!?」


 デュノンの止める声も聞かずに自宅へまっしぐら。


「えっと、じゃあリュッカの家にお世話になるでいいかな?」


「そうだね。いいよね? お母さん」


「ええ、勿論」


 病人がいる家に押し入るわけにはいかない。とはいえ、友人の弟が寝込んでいると聞いたので、せっかく近くまで来ているのでお見舞いがてら挨拶しに行くことに――。


「フェノン、大丈夫?」


「うん、もうほとんど治ってるよ」


 ベッドで横になっているフェノンと呼ばれている彼の顔色は良さそうだ。


「……お姉ちゃん、おかえり」


 すると彼は見覚えのない銀髪の女の人を見かけると、コロンと首を枕上で傾げる。


「えっと……誰?」


「お姉ちゃんのお友達のリリアだよ。よろしくね」


「うん。よろしく」


 この兄妹は男兄弟の方が落ち着きがあるようだ。この子もデュノン同様、大人しそうだ。


 ――マルキス家は父と母、娘と息子が二人ずつの六人家族である。


 アイシア十五歳、デュノン十三歳、ナルシア十歳、フェノン八歳の四兄妹……中々四兄妹はお目にかからない。


 少子高齢化が進む現代人に見習わせたいと思うところである。


「じゃあフェノンは私が見てるから、アイシアはリリアちゃんをもてなしてあげてね」


「ああっ、お構いなく……」


 おっとりしててもしっかり母親だ。礼節を(わきま)えてらっしゃる。


 だが病人に障るといけないので、アイシア母に任せることにして、お言葉に甘えることに――。



「――そっかぁ!! 黒炎のまじゅちゅし、カッコいい!」


「黒炎の魔術師ね」


「その呼び方やめて……」


「えっ!? すみません」


 雑談がてら、魔人との対決のところだけを説明。こんな子供達にあんな残酷な話はできないからね。


「そっか、大変だったなぁ――ん?」


 ガチャっと看病が一区切りついたのか母親が帰ってきた。すると、アイシア父は真剣な表情へと変わる。


「リリアちゃん、いやリリアさん」


「あ、はい」


 急にどうしたんだろうと、こちらまで(かしこ)まると、ペコリと深く頭を下げた。


「えっ?」


「娘を助けてくれてありがとう」


「あの、何の話ですか?」


「ホスキンさんから話は聞いたよ」


 その名前を出されて、何のことを言われているのか思い出した。ホワイトグリズリーの件であると。


「君が居てくれなかったら、只では済まなかったと聞いている。本当にありがとう!」


「ありがとう、リリアちゃん」


「あ、いえ。当然のことをしたまでですから……」


 こんなに感謝されるなんて思いもしなかった。


 魔人を倒した際には、お祭り的な感じでの感謝だったので、こんなくすぐったいような暖かみがある感謝は、向こうでは全然なかった。


 こちらに来てから俺は人間的に成長できている気がする。


「私からも改めてありがとう、リリィ」


「――もうっ! アイシアまで。さっきポチの上でも言ってたじゃない」


「あっ! そうだっけ?」


 俺自身も救われているのだが、この好意は俺の中で強い励みとなった――。



 ――一通りの話を終えると、俺達はリュッカの家へと到着。


 リュッカの父母からも――、


「娘のピンチを二度も救ってくれて、ありがとう! 何とお礼を言ったらいいか」


「本当にありがとう」


 二度ということは蟲の迷宮(ワームのダンジョン)について、リュッカが話したようだ。アイシア家よりも熱のこもった感謝をされた。


「よし、今日は最高の料理でもてなしてくれよ」


「はい」


「私も手伝うよ、お母さん」


「貴女はいいの。リリアちゃんと休んでなさい」


 軽く頭を撫でられている。リュッカも心なしか嬉しそうである。


 何だか両家の家族を見ていると、最近はなかったホームシックになりかけそうだったので、


「あの、せっかくなら仕事場を見せてもらえませんか? リュッカの解体捌き、凄かったので……」


 ちょっと気を紛らわせる意味で言ってみた。


「ああ、構わないぜ」


「――あ・な・た」


 鋭い視線で、注意したよね? とばかりに目配せを送ると、父ビビる。


 このご家庭はどちらかと言えば、母親の方が上らしい。


「はは……わかってるよ」


「あの……彼女の魔物知識があったから、魔人も討伐できんです。だからそのお父さんの仕事場を見れば、勉強になるかなって思ったんですけど……ダメですか?」


 すると難しい顔をされたが、しょうがなさそうにため息をつかれる。


「……わかったわ。貴女がそう言うならね」


「ありがとうございます」


「ほら! 俺がしっかりとリュッカに教えたからこそ、こうして――」


「あ・な・た?」


 今度は調子に乗るなと圧がこもった笑顔をするが、娘はフォローする。


「そんなに責めないでお母さん。お父さんが教えてくれたおかげで、こうして帰って来れたんだから。……ありがと、お父さん」


 父親からすればめちゃくちゃ嬉しい言葉だろう。実際、感極まっているご様子。


「少し見ない間にこんなに成長してるなんてなぁ。それに不思議と大人びたようにも見えるし、娘の成長はこんなにも早いものか……」


 確かに会ったばかりのリュッカは、素朴な田舎娘という感じであったが、今は前髪を下ろし、コンパクトな眼鏡をかけて、おさげの位置も子供っぽくならないような感じにしてある。


 雰囲気が大人っぽくなったリュッカを見て感じたんだろうが、鈍いなぁとリュッカ母はため息。


「……あなた、今気付いたの? リュッカも王都で一皮剥けたってことでしょ? ……気になる子でもできたんじゃない?」


「――なっ!?」

「――えっ!?」


 母親はさらりと核心をつく一言をズバリ貫くと、リュッカは照れながらも否定するが、父親は尋常じゃないほど動揺する。


「ち、違うよ! おかあ――」


「男か? リュッカに……嘘だよなぁ?」


 ガシッと強くリュッカの両肩を掴み、真意を問う父の目はかなり怖い。娘が大切なのは理解できるが、限度を考えよう。


 リリアの父親にも言えることだが。


「リリアちゃんも何か言ってよ」


「…………」


「――無言で向こうに向くのはやめてっ!!」


 いやぁ……実際、リュッカが好意があるのは知ってるとはいえ相手は勇者の肩書きがある男だ。


 上手くいくかもわからないし、そもそも恋愛とは無縁の生活をこちらでも向こうでもしてきた人間だ、不用意な発言は控えよう。すまない、リュッカ。


 ――その辺の話は追々と、リュッカの父は仕事場を見せてくれた。


「もう客も来ないだろうし、好きに見てくれ」


 不思議と血生臭くもないし、酷く汚れてもいない。清掃を(おこた)らずにやっている証拠だろう。


「ここで魔物の解体を?」


「ああ、そうだ。魔物によって身体や皮膚の強度が違うから――」


 解体用の包丁がずらっと並んでいる。その内の一本を手に取った。


「こうして包丁を使い分けているのさ」


 リュッカに持たせていたのは、万能な解体用ナイフだったのだろう。


 だが、こういう専門的な仕事をするなら、個性的な特徴がなければやっていけないだろう。リュッカの父はその辺りを(わきま)えているようで、どんな魔物を持って来られてもいいように、用意を(おこた)っていないようだ。


 仕事場の清潔感を見てもそうだ。


 魔物を扱うという以上、どんな危険があるかもわからない。血をしっかりと拭き取り、綺麗にしておくことは、危険の回避、仕事の要領、顧客の印象も良くする。


 誇りを持って仕事をしているのだと、子供ながらに理解した。


「魔物の知識がしっかりないと成り立たない仕事……凄いですね」


「そ、そうか?」


 娘の前なんだし、そんなデレっとしない方がいい気がするが、――リュッカも父を褒められ、まんざらでもない様子。


 まあ、本人がいいならいいけど。


 ――リュッカの父は気分を良くしたのか、饒舌(じょうぜつ)になっていくと、まるでタイミングを図ったかのように、


「はーい、ご飯できたわよ」


 ひょっこりと仕事場を覗き込みながら、晩ご飯の支度ができたと呼びかけられる。


「行こっか? リリアちゃん」


「うん」


 笑顔で普通に話しかけるリュッカを見て、リュッカ父は、フッと軽く笑った。


 ――晩ご飯を頂きながら、リュッカ父が見守るような笑みを浮かべた理由を語り始める。


「リュッカ、学校は楽しいか?」


「うん、とっても」


「そっか……最初こそ不安だったが、こうしてお前が元気なところを見たら安心したよ」


「そう? あなた、そんなに心配してるようには見えなかったけど……」


「そ、それはリュッカに不安感を与えないためだっ!」


 何とも和やかな家族の食事風景。


 俺は場違いではなかろうか?


「あんなに人見知りだったリュッカが、こうして友達と楽しげに話しているなんてな。アイシアちゃんや君のおかげかな? ありがとう」


 リュッカ父は娘の成長を噛みしめるように、感じていると、俺はそれを少し僭越(せんえつ)ながら否定する。


「それは違いますよ」


「!」


「リュッカはとても優しく思いやりがあって、一生懸命で……そんな彼女に私もアイシアも沢山助けられました。だから、リュッカ自身の力ですよ」


「……ありがとう、リリアちゃん。でもね……」


 手に持っていたスプーンを音なくテーブルに置くと、真っ直ぐ俺を見た。


「そんな私でいられるのもみんなが居てくれるからだよ。シアにリリアちゃん、フェルサちゃんにサニラちゃんも……色んな出会いがあったから、こうして幸せでいられる。辛いこともあったけど、こうして乗り越えられた――」


 この村から出てからのことを踏み締めるように、ゆっくりと感謝を込めて語るリュッカ。


 俺自身もそうだ。向こうの世界じゃ、何となくでしか生きていなかった。こんなにも人の暖かみを感じることが、当時の俺にあっただろうか……きっとなかったように思う。


「これからは私自身も何か返していけるように頑張るよ」


「……それは私のセリフだよ。私だってリュッカにはいーっぱい感謝してるんだから……これからもよろしくね」


「うん!」


 俺達は改めて自分達の在り方を確認した。


 そして、人と人の結びつきがこんなにも暖かく、でもどこまでも固いものなのだと、人として大きなことを学んだように思うのであった。

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