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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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10 期待の応え方

 

「お待たせしました〜」


 アルビオ達の模擬戦が終わった頃合いに、密着すると言っていたヘレンが姿を見せる。


「遅かったね」


「ごめんね。今日、当番だったから……」


 急いで来たのか、息を整えながら家事当番であったことを説明。


 旅劇団なのだ、その辺の当番制はしっかりしているのだろう。


「……何で貴女がここに?」


 先程とは一転、怯えたような表情に変わるアルビオはチラチラと彼女の後ろを見る。


 するとヘレンはニコリと微笑み、


「大丈夫ですよ。彼女はいませんから」


 どうやらキャンティアのことを言っているらしい。確かに彼女の独特の好奇心はビビる理由にはなるかもしれない。


 するとその容姿を見て、事情を知らない一同は、昨日の寮の彼女達と同じ反応、同じ言葉を口にする。


「……貴女って双子だったの?」


 という訳で面倒だが説明した――。


「なるほどね」


「――ていうかカーチェル劇団の方なんですか!?」


 ヘレンは、はいとニコリ笑うと、ソフィスとミルアは嬉しそうにきゃっきゃしている。


「それにしても魔人事件を劇にねぇ……」


「まあいいんじゃないかしら。その言い分もわかる気はするわ」


「そうですね」


 あの事件に関わった冒険者であるグラビイス達は、まあ納得といった反応を見せる。


「てことはよ、あの狐目殺人鬼も誰か演じるのか?」


 むっとして話すその一言にキョトンとするヘレン。


「狐目殺人鬼?」


「――バークっ! それはシーっだよ」


「えっ!?」


 そこまでは話してないし、冒険者達にもハイドラスから口止めされていたことをあっさり。


 だが、その慌てた反応にクスリと笑うと、


「大丈夫ですよ、彼女とは違いますから無理に聞いたりしません」


 可愛らしく唇に人差し指を当てて、ウインクをする。この仕草に男性陣は頬を紅潮させる。


 女の子してるなぁ、なんて思ってると、横からバークの痛みが走った叫び声が聞こえた。


 またサニラが踏んだらしい。もうお決まりなので割愛下さい。


 よそ見される心配があるなら、もう繋ぎ止めとけよ。


「とはいえ、気になるのでいいですか?」


 口が固そうなので話すと、――そうですかと軽くため息を吐いた。


「……最近は噂を聞かなかったのに、突然ですね」


 何か知っているような口ぶり。


「知ってるの? バザガジールって人のこと」


「うん。西だと有名な人だよ――」


 何でも西の戦乱の中、突如として現れては戦場をかき乱し、暴挙の限りを尽くすと恐れられた人だという。


 その後、南へと向かったと噂があったきりだという。


「そうなんだ……」


 しかし西って色々あるんだなぁ。


 人形使い(ドールマスター)にバザガジール、闇属性殺しに奴隷制度まで、物騒な話しか出てこない。


 なんて顔に出てたのか、


「昔の話だよ。そのバザガジールって人はもう何年も姿を見せてないらしいから……」


 怖い話をしてごめんなさいとフォローを入れられた。


「それで? 話が逸れたけど、貴女はリリアを演じる為の役作りにきたってわけ?」


「はい。お邪魔になるようなことはしません。何でしたら怪我とかされた時に治療もできますよ」


 そういえば昨日、水属性の結構な魔術師だと言っていたことを思い出す。


 ならお願いと話が進み、前衛組と後衛組で分かれての特訓が始まる。


 ――前衛組は戦闘経験の豊富なバーク達を中心に、一対一での模造刀による模擬戦を行い、身体の動きや魔力の込め方を確認するように進めている。


 一方で後衛組はジード達の教えの元、こちらも魔力の込め方、詠唱速度の調整などを学んでいく。


「――エクスプロード!!」


 俺はカカシに向かって火の上級魔法を放つ。


 激しい爆音と共にカカシはその爆発を起こす火の渦の中で灰塵と化す。それどころかその一体も黒こげになっている。


 そのとんでもない威力に一同呆然。


「私より威力がないかしら……」


「はは……あんたに教えることなんてなさそうね。むしろ教えてもらう側かしら」


 呆れた口調でアネリスとサニラは呟く。


「伊達に魔人を焼いちゃないわね」


「いや、アレは魔人の隙をついた作戦だったからさ……」


「ねえ、リリア。あの黒い炎を出して見せてよ」


 真剣な眼差しで要求する。役作りのイメージを膨らませることが目的だろう。


「べ、別に構わないけど……えっと――カースド……」


 無詠唱で唱えようとすると、


「――ストップ! 詠唱もして」


 要求が増えた。


「あの、ヘレンさん? 一応これ特訓なんですけど……」


 俺としても詠唱の短縮や魔法威力の向上など、試したいことがある。


 ヘレンの都合ばかりは叶えられない。


「わかってるよ。お願い」


 人の話を聞いていたのだろうか、普通にお願いされてしまった。


 なので渋々、


「―― 闇の王よ、かの赤き力を持って我に応えよ。その黒き息吹はかの万物に宿れ、灰となり、地に還るまで! ――燃やせ! カースド・フレイム!」


 杖先から黒い炎が新しいカカシを燃やすと、歓声が上がる。


 何故にと思いその(ほう)を向くと、初めて見る黒炎に高揚を隠せない同級生達がいた。


 思い思いに褒めたり、感心したりの意見を頂いた。


「でも、オリジナルか……やっぱり凄いなぁ」


「そうね。複数属性を持つからこそ、柔軟な魔法開発ができるってものだからね」


 ロバックのその羨むような言い方から、オリジナルを開発したいように聞こえた。


「ねえ、ロバックはオリジナルでも考えてるの?」


 すると、ふるふると首を振って否定した。


「チャレンジはしようとしたけど、中々ね……」


 そんな会話をしている一方でヘレンは真剣な面持ちで、ポージングを試験している。


「……役者ってのも大変なのね」


「まだ、密着取材が続くんでしょ? ふふ、仕上がりが楽しみね」


「人の気も知らないでぇ……」


 俺は赤面する顔を覆い隠して嫌味を聞いていると、その彼女はこちらの気も知らず、


「ごめん、もう一度お願い」


「勘弁してくれる〜」


 真剣に物事に取り組む姿勢は見習うべきところだけど、少しは人目を気にして欲しいと思いながらも、わかったと要望に応えるのであった。


 ――一方で前衛組は、


「ふーん、少しは腕を上げたんだね」


「おう! お前ともやり合える――うおっ!?」


 フェルサはバークの背後を取り、渾身の一撃を入れる。


「――ごはぁあっ!!」


「フ……まだまだだね」


 と無表情ながらも決め顔。何だか楽しそうである。


「す、すごいですね」


「いや、あそこまで出来なくても大丈夫だから」


 それを横目に、参考にしちゃいけないよとグラビイスはソフィスに言い聞かせるが、先程のアルビオとの戦闘からその意見を否定する。


「い、いえ。私もあれくらい出来るように――」


「いやいや、おじさんもあそこまで素早くは動けないからね」


「そうなんですか?」


 先程の戦闘を思い返すと、ちょこまかと動いていたのはバークだけだったように思える。


「そうですね……」


「いいかい? 確かにフェルサみたいに撹乱(かくらん)できるような動きが出来れば、それに越したことはない。……だけどできないならできないなりの戦い方がある」


 グラビイスはフェルサやバークと違い、筋肉質な体型だ。細身の二人のような機敏な動きは厳しい。


 実際グラビイスが持っている武器も両手剣だ、戦い方が異なる。


「自分がどんなことができるのか、しっかりとそこをわかってれば対応はできる。これは戦い方に限った話じゃねえけどな」


 授業で習わないようなことに、関心を持つ様子を見せる。その姿勢を見たグラビイスもそれに応えようと、教育意識も湧くというものだ。


 自分の経験則から学び取ったことを話す。


「俺は筋肉質な体型な分、動きが遅いが踏ん張りが利く。体格の大きな魔物の相手ならバークよりも上手くやれる。それに動きが遅いなら、カウンター寄りの戦い方をすれば相手の意表もつけるってもんだ」


「なるほど……」


 ほとんど平民と変わらない生活をしていたとはいえ、貴族嬢のソフィス。


 ただ型通りに剣を振ってきたわけでもないが、それでも自分の知らない世界もあるのだと知る。


 あの変異種にやられてからは、特に意識するようになっていた。


「でも、相手が自分を超える存在で、何とかしなければならない時は、どうなさいます?」


 ソフィスはグレートボアの変異種の時を思い返して尋ねると、グラビイスもまた表情を落とす。


 自分がこの質問に対し、適切に答えられるような立場にないと自覚がある。


 あのバザガジールにできること……何一つできず、挙句、バークを危険な目に合わせてしまったこと。


 あの後、どれだけ後悔したことか、その質問に苦難する。


「……そうだなぁ、おじさんはその質問にしっかりとした答えを出せない。けどな……後悔するような行動はするなとは思ったよ」


 グラビイスは後悔していた。何もできず、(すく)んでしまったことを。


 グラビイスは輝いて見えていた。バークが自分の意志に順じて、行動した勇気を。


 若さなんて物言いは言い訳だとわかるほど、自分が小さく見えた。


 ソフィスにも思うことがあっての質問だろうと、自分のようにならない為にと、そこを強く伝える。


 強い意思を感じたのか、ソフィスは優しく受け止めた。


「はい。教訓とさせてもらいます」


「……そういう意味では立派だよ。彼は」


 そう言って見た先にはアルビオとシドニエの姿があった――。



 ――その彼らも特訓前に少し話をしている。


 アルビオにとって、シドニエは自分と重なるところがあった。臆病で自分に自信を持てず、どうすればいいのかわからず、迷走している……少し前の自分を見ているようだと。


 アルビオ自身もまだ抜け切ってないようには思っているものの、周りの影響もあり、自信が少しはついたと自覚がある。


 そんな彼について、あの相談以来、気にしていたのだ。


「最近どうかな? あの時は上手く助けてあげられなくてごめんね」


「い、いえ! タナカさんが謝ることじゃないですよ」


「……その腰に刺している木刀がシドニエさんの武器なの?」


「は、はい。僕、お金も無くて……でも、みんなが良くしてくれたおかげで納得のいく物になっています」


 そう言いながら、腰の木刀に手を添えるが、その表情は不安が見え隠れしている。


 その表情にもアルビオは覚えがある。


「……怖いんだよね?」


 その言葉に思わずビクンっと反応し、何故と問うような視線を送る。


「ここまでしてくれたのに、自分は何も出来ないんじゃないかって、変に強張(こわば)ったり、(すく)んだりするんだよね」


「タナカさんにもあったの?」


「うん。今でもそうかも……」


 その不安とともに優しく微笑んだ。


「でも、殿下がこう言ってくれたことがあってね――」


 ――それはアルビオが勇者の末裔として、騎士達の稽古(けいこ)を受けていた時、幼いながらもマイペースにしか進めない自分が、迷惑をかけているのではないかと、自己嫌悪していた時だった。


『お前はどうして、そう笑わないのだ?』


 いつもへの字でいる、一緒に素振りをするアルビオに尋ねた。


『え、えっと……』


 殿下に話しかけられて動揺を隠さず、言い(よど)んでいると、ふうとため息。


『お前は勇者の子孫なのだろう? もっと堂々としていれば良いのだ!』


『うっ、うう……』


 子供の頃のハイドラスは堂々たる態度。自分とは全然違う振る舞いや考え方に圧倒されてしまう。


『だから! 堂々としていれば良いのだ!』


『で、殿下。タナカ殿が困っておりますから……』


 オリヴァーンが(なだ)めるように、興奮しているハイドラスを止める。


「少し休憩しましょう」


 ――ふと中庭から吹き抜けて見える青空の雲を見上げ、羨むような哀愁漂うため息をつく。


『空を見るのが好きなのか?』


 ハイドラスはのんびりと雲を眺めていたアルビオに話しかける。


『あ、あの……』


 恐れ多いのでと話しかけるのをやめてほしいと言う前に、ハイドラスは穏やかな表情で嬉しさを口にする。


『いいな……こんな風にぼーっとすることなどないからな。それに私は嬉しいぞ』


『え、えっと……何故ですか?』


『いつも勉強、勉強、勉強……部屋ばかりにいて、同じ歳の友達も出来ない、周りは大人ばかりだ』


 そう不満を口にするが、嫌そうには話さない。仕方ないことだとわかっている口ぶり。


 どこか達観した口ぶりなのも(うなず)ける。物分かりがいいのだろう。


『だから私にとって今の時間は貴重なのだ。こうして無為に空を友と見る……良いではないか』


『――とっ! 友達だなんて恐れ多いです!!』


 その喉に引っかかっていた言葉がボロっと口から吐き出た。


『何だ? 私と友達というのは嫌か?』


『い、いえ。そのようなことは……』


『なら友達で良いだろう。流れる時間を共にする、良いことだ』


 ハイドラスは周りの大人達のように『勇者の末裔』という見方が無かった。


 幼いからと言えばそこまでだが、物分かりのいいハイドラスのことだ、その辺にも理解はあるものと思っていたが、どうもそうじゃないらしい。


 素直に自分と接してくれることに嬉しくなったのか、今度はアルビオから歩み寄る。


『あの……殿下』


『ん? 何だ?』


『ぼ、僕はその……怖いんです。みんな勇者の末裔だって……』


 ホロリと涙が(したた)り流れるように、そう話した。


 ハイドラスも覚えがあるようで、フっと小さく笑みを零すと、空を見上げる。


『そうか、そうだな。不安もあるだろうし、思うこともあるだろう……だが、なんだ……気にするな』


『え……?』


『周りがどう見ようとお前はお前なのだ! いちいち気にするな!』


 ――当時は殿下だから、そんなことが言えるんだろうなと深くは考えずに、その言葉を聞いた覚えがあった。


 その後、リュッカから似たような言葉をもらい、こんな風に変われたのだと気付く。


 今思えば、あの人だって殿下という立場にあり、勉強ばかりとよくぼやいていた。


 周りからのプレッシャーもきっとあっただろう。


 だが、ハイドラスはそんな表情をすることもなく、毅然(きぜん)とした振る舞いをしていたことに、頼もしさを感じていたのだ。


 昔はその後ろにいるだけでいいと考えていたが――、


「並び立つではないけど、お役に立てればいいなって思うようにはなったよ」


「そうですか……」


「だから、シドニエさんの気持ち、わかります。彼女があれだと焦りますよね?」


 その視線の先には、恥ずかしそうにヘレンを止めるリリアの姿があった。


「自分の力になってくれる人が凄いと、期待に応えないとって思ってしまうよね」


「は、はい……そうなんです」


「だから僕も殿下と同じ言葉を口にするよ。――自分は自分なんだ、気にしなくてもいい。自分のペースで頑張ればいいんだよ。……彼女だってきっとそう思ってるはずだよ」


 どこかでわかっていた。リリアやマリエール兄妹は期待に応えてほしいなんて一言も言ってないし、そんな態度でもなかった。


 だが、与えられたものに対して、期待に応えなくてはという自己認識があったのだ。


 楽しそうにみんなと一緒にいる彼女を見ながら、その不安はおかしいことだと気付く。


「それとも別の理由なの?」


「えっ?」


「リリアさん、可愛いですからね」


 すると、シドニエは一気に真っ赤になると、


「にゃっ、にゃにを言ってりゅんでしゅか!? しょっ、そんなことは決して――」


 誤魔化すように慌てふためくが、好意があるのが丸わかりである。


 噛み癖があるのは知っていたが、ここまで噛んでいるのは初めての見ることだ。


「ごめんなさい、別にそういう意味で言った訳ではありませんよ。男として格好がつかないでしょって意味です」


 アルビオ自身もハイドラスのような散策も余計なお節介もする気はないのだ。


 深い意味などを尋ねる訳でもなかったのだが、分かりやすい反応に思わず微笑んだ。


「そ、そぉですよね〜……はは」


「そうですよ。僕だって人のことなんて言えませんし……」


 奥手な二人はそんな話などまだ早く、自分のことで手一杯なのだからと互いに苦笑い。


「まあでも返せるのなら返したいですよね」


「え?」


「……僕は色んな人達に支えられて、今ここで笑っています。そんな僕ができる恩返しってなんだろうって考えた時、きっと自分らしく前を向いて歩くことが一番だって思ったんです」


「自分らしく……」


「まあ僕の場合はその自分らしくが情けないのですが……」


 勇者の末裔という肩書きと合わないと、自己評価は低く持つ。


 だが、それでも周りの人達を見て、自分らしく歩いていく人達を見ると、何だか誇らしく感じている。


 自分はこんな人達の中にいるのだと。


「自分らしい答えがあればいいってことですよ。その点に関してはシドニエさんの方がしっかりしてそうですけど……」


「え?」


 何のことを言っているのだか不思議そうにすると、その目線の先を感じた。


木刀(それ)は貴方の答えではないのですか?」


「!」


 周りから散々言われた――無理だ、諦めろ……腐るほど聞いてきたにも関わらず、がむしゃらに走ってきたのは、ただの憧れ。


 だがその憧れはあまりにも眩ゆく受け止めていた自分の高揚を思い出す。


 成長するにつれて、その輝きは(かす)んでいくものであったが、リリア達がまたその輝きを取り戻してくれたことを思い出す。


 その一歩がたとえ小さく、か細いものでもと、その憧れを夢に抱いたことを思い出す。


「だから、焦ったのかも……」


 その輝きに相応しくなりたいがための焦りと気付く。


 どうせ直ぐにはなれないものだというのに、少しバカらしく思った。


 その晴れていく表情を見て、アルビオも微笑んだ。


「お力になれたようで何よりです」


「はい! ありがとうございます!」


「まだお礼は早いですよ。この間はお力になれなかった分――」


 アルビオは模造刀を手にする。


「――こちらで力になりますよ」


 伊達に騎士達の教えを乞うたわけではないと、構えて見せると、シドニエも木刀を手に取った。


「よ、よろしくお願いします!」


「うん――」


 お互い似た者同士だからこそ、わかり合うことがあるのだと改めて認識した。


 その中でどう応えていくのか、きっと自分も相手も満足する答えに行きつく。


 その為には今は少しでも頼ってもらえるような男になろうと考えるシドニエだった。

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