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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
5章 王都ハーメルト 〜暴かれる正体と幻想祭に踊る道化〜
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07 舞台 悪意を討つ魔術師(仮)

 

 ――俺達はヤキンとレオンを泊める場所の案内をアイシア達に任せ、王都内の喫茶店へと場所を移した。


「突然の訪問申し訳ありません。しかし、その……」


「いやぁ! 貴女が黒炎の魔術師ですかぁ。いいですねぇ! 素晴らしいですねぇ!」


 先程から落ち着きなく褒めちぎるのは、ベレー帽のような物を被る少女。


 その隣で歌のお兄さんみたいな体格のいいイケメンさんが苦笑いを浮かべている。


 その横にはリリアの容姿そっくりの銀髪美少女がニコニコと楽しげに見ている。


「それでどのような御用でしょうか?」


「はい、先ずは自己紹介から。……初めまして僕はロイド・カーチェルと言います。この劇団の団長を務めさせて頂いてる者です」


 見るからに容姿の整った二人がいるのだからそう言われれば納得もいくが、先程から落ち着きのない彼女は脚本家か何かだろうか?


 すると、手招くように彼女達を紹介する。


「こちらは脚本を務めている、キャンティア・モルモ。そして彼女は今回の舞台の主演を予定している、ヘレン・キャナルです」


「よろしくお願いします」


 リリア似の彼女は軽くお辞儀をした。


 リリアより雰囲気に丸みを感じる、まるで人形みたいな愛らしさが滲み出ている。あと瞳の色が違い、赤茶色である。


「主演を予定しているというのは――」


「それはですねぇ!!」


「――コラッ! 殿下の発言を遮るな」


 キャンティアという人は落ち着きがないようだ。団長さんもご苦労なされているようで。


「すみません、ついつい。――しかしですねぇ! 私はビビッと来たんですよ。ヘレンちゃんを主演にするならこれだとっ!!」


「そうですね、私もそう思います!」


 話が見えないこちらを置き去りに、やる気満々のお二人。


 わかるように話して〜。


「えっと……」


「はは、実はですね……最近、こちらで魔人の事件があったとお伺いしています。そのことを是非、ウチの劇団でお芝居としてやらせて頂けないかと思いまして……」


 ――何でもこのカーチェル劇団は東と西大陸を中心に旅して回る劇団で、今回、建国祭が行われるハーメルトを盛り上げようと、もとい稼ぎにきたのだが、その道中で冒険者達や町の人達から魔人事件の噂を耳にした。


 情報収集をする内に、是非舞台としてやれないかと言う話で劇団はまとまったらしい。


「だが、建国祭までに間に合うのですか?」


「ええ、幸いウチの脚本家は優秀でして、台本は出来てるんです」


 キャンティアは、すっとハイドラスの前へ台本を差し出す――表紙には、悪意を討つ魔術師(仮)と書かれている。


「こちらの劇場をお借りできる許可も得ていますので、建国祭までの二ヶ月ほどあれば、十分仕上げられると思います」


 役者の役作りの仕方とか苦労とかはよく知らないが、はっきりと言い切るあたり自信があるのだろう。


 さすがプロと褒め称えるべきか。


 思えば学習発表会の劇とか、散々苦労した覚えがあるが、アレの数十倍の苦労はあるはずだ。


 何せプロとして演技を披露し、金を貰うのだ、生半可なものなど許されないから、本気で取り組むのだろう。


 それを考えると、ちゃんと出来ていても作品や役者に対し、誹謗中傷を浴びせるのはどうかと思うなぁ。


 顔が見えないからこそだろうけど、ネットって怖い。


「丁度何をしようか考えていた時に舞い込んできたお話ではありますが、やらせて頂けないでしょうか?」


 しかし、ここでウィルクは首を傾げる。


「ていうか、何で殿下にこんな話が?」


「はぁ、貴方はやはり馬鹿ですね」


「――何っ!?」


「……いいですか? 魔人事件は解決しましたが、それによって被害を受けた方々がいるのです。それなのにそんな演劇をすればどのような反感があるかわからないでしょう?」


 死者も出ているのだ、きっと不謹慎に思う人も出てくるだろう。


「ですから、あらゆる面から対処出来そうなこの国の王族に話を通した方がいいというお話ですよね?」


「ええ、そういうことです」


 陛下はお忙しいかったり、さすがに王様にする話とも思わなかったのだろう、殿下に白羽の矢が立ったとだろう。


 直接、王族に伝えようとする度胸も凄いが、それをわかっていながら演じようとする度胸も凄い。


 するとハイドラスは、それを理解してか、さらっと答える。


「良いのではないか?」


「いいんですか?」


「……お前達の懸念もわかる。だが、人のやる事など反感を買うのは当たり前のことだ。そんなことを言い続けていれば、人は何も出来なくなる。……お前も黒炎の魔術師とは呼ばれているが、それを良しと思わない者もいるだろう?」


 俺の周りにはそんな人は見当たらないが、きっと要らぬ嫉妬を買ってたり、どうして助けてくれなかったのと責任を押し付けたり、考える者もいるだろう。


 やった物事に対し、賛否要論あるのは当たり前のことなんだ。全員が賛成、反対になることの方が珍しいだろう。


 それこそよっぽどのことくらいだろう。


「それに演劇にすることで、より沢山の者達が知ることが出来る。魔人の脅威や共に助け合うことで乗り越えられる困難があることを……」


「殿下の仰る通りです。我々がこれを演じたいと思うのは、助け合う事の大切さ、命の尊さ……自分達も演じることで学び得るものがあるからです。しかも実話であるからこそ、意味があるのです」


 確かにあの時は必死だったが、色んな人達に助けれたからこそ、解決できたことだと理解している。


「お話を伺っていると、リリアさんはとても勇敢に立ち向かわれていたと聞いています。魔人を決して許さないと、それはもう勇ましかったと……」


 魔人を焼いていた時にいたのは、殿下と魔術師達だったか、おそらく魔術師達から聞いたのだろう。


 ちょっと気恥ずかしい。


「まあ、そういうことだ。わかったか? オルヴェール」


「まあ、そういうことなら……はい」


「――ありがとうございます!」


「ただし、台本は見せてもらうぞ。観客を不快にさせる内容では、やはり困るからな」


「それは勿論! 許可を頂きましたので、皆様にインタビューをさせて頂き、書き直したのちご確認をお願いします」


 とりあえず仮の台本でも良いからと、ハイドラスはテーブルの上の台本をぱらりと軽くめくりながら目を通す。


「あのインタビューって?」


「そりゃあ勿論! 黒炎の魔術師さんはあの事件の立役者です! その方のお話をお伺いできれば、より素晴らしい台本が出来るはずです!」


 パスっと軽く台本がテーブルを叩く音がする。


「……なるほど。それを踏まえた上で、私のところへ来たのか」


「はい! まさか黒炎の魔術師さんがご一緒とは思いませんでしたが……」


 確かに現場指揮はハイドラスが取っていたからな。その人に話を聞けばより良いものが書けるだろう。


 というか、黒炎の魔術師はよして。


 そしてルンルン気分のキャンティアにわかったと、伝えるが一つ疑問が浮かんだようで。


「……そう言えば主役はオルヴェールなのだな」


「あ、はい!」


 俺はふと台本の題名を見る――確かに主役は俺のようだ。


「あ、あの別に私が主役じゃなくてもいいんじゃないかな? アルビオでも……」


 口出しするなら多分今だ。自分が主役の舞台をやるなんて、どんどん恥ずかしくなってきた。


 要するにはあの出来事が公に晒される訳だ、かなりカッコつけたような気がするし、劇にする訳だからある程度、脚色もつけるだろう。


 何だかそう考えると不謹慎云々の前に、こっちが恥ずかしさで死んでしまいそうだ。


 しかし、ロイドは苦笑いを浮かべる。


「実はここへ来る前に偶然お会いしまして、話をさせてもらったのですが――」


 何でも、自分が主役の舞台なんて無理! 魔人を討伐したのはリリアなんだからと、かなり拒否られたらしい。


「……しかし、よくアルビオがわかったな」


「人間の黒髪は彼だけと聞いてますから……」


 そうでしたね。それならわかるか。


「で、でも私が主役はちょっと……」


「急にどうしたオルヴェール」


「ははぁん、リリアちゃん急に恥ずかしくなってきたんだろ? 可愛いなぁ」


「――煩いっ!!」


 俺は器用に椅子の隙間からウィルクの(すね)を蹴る。


「――いったぁっ!? (すね)ぇ……」


 ウィルクは思わずしゃがみ込み、痛さに震える。


 当たり前だ。痛くしたんだから。


「……まったく、じゃれついているな。別にいいじゃないか、お前が劇に出る訳ではないのだ。彼女がやるのだろう?」


 目の前にいるクリソツさんがやるんだろうけど、だからこそ恥ずかしい。


「ご心配には及びませんよ。精一杯演じ切って見せます!」


 むふぅっとやる気に満ちたヘレンさん。そこの心配は一切していない。


「そ、それにほら、この国はアルビオの方が知名度が――」


「今は貴女の方があるのでは?」


「――うっ!」


「そうですよ! それに男性の希望は勇者、女性側は貴女の方が格好もつくでしょう!」


 そんなものを俺は望んでいないのだが、勝手に噂が流れていくのが世の中というものだろう。


「それにアルビオ自身が強く拒否したと言っているだろう? アレの性格は私もよく理解しているが……まあ首を縦には振らんだろう」


「だったら私も全力却下します! 恥ずかしいのでやめて下さい!」


「「「「――ええっ!?」」」」


 一同何故という驚き。


 いや、普通に嫌だよ、自分のドキュメンタリーとか。芸能人とかならともかく元男子高校生だよ? 無理。


「お前……魔人討伐は誰がどう見てもお前の功績だ。アルビオには悪いが、舞台の主役という意味では適任だろ?」


「でもアルビオはバザガ――」


 俺があの殺人鬼の名前をあげようとすると、横っ腹をこずかれると、こそっと口添えする。


「それは別の話だ。不用意にその名を口にするな」


「おやおやぁ〜、何か匂いますねぇ」


 収集した情報になかったことがあるのかと、まるでジャーナリストみたいな鋭い眼光に変わるキャンティア。


 だが、何もないさとハイドラスは余裕のある表情を浮かべると、キャンティアはそれ以上は踏み込まなかった。


「リリアさん、本当にダメですか?」


 ヘレンが上目遣いで媚びるように尋ねてくる。


「ダ、ダメなものはダメです!」


「私、これが初の主役なんです。リリアさんのような素敵な女性を演じられたら、今後の活動にも弾みがつくと思うんです」


 良心に訴えかけられるように懇願される。


「お願いします! リリアさん!」


 キラキラした目で視線を逸らすことなく、訴えかけられる。


 視線を逸らそうとするが、


「――リリアさん!」


「は、はい!」


 こっちを見ろとばかりに、声をかけられた。もはや首を縦に振らないとダメな雰囲気を感じたので、はあっと一息漏らす。


「……わかりました。お好きにどうぞ」


「やったぁ! ありがとうございます!」


 するとキャンティアは胸ポケットからメモとペンをサッと取り出す。


「では早速ですが、魔人事件について少しお伺いさせて頂きますねぇ〜」


「ああ、可能な限り話そう」


 目を爛々と輝かせているキャンティアを横目に、ロイドとヘレンは立ち上がる。


「では終わった頃に迎えに来るから……」


「キャンティアさん、程々にしておいて下さいね」


「わかってますよぉ。心配には及びません!」


 一緒に聞かないのかと疑問に思ったが、この後それを思い知ることになる。


「では殿下、僕達はこれで一度、失礼します」


「後ほど」


「あ、ああ……」


 ちょっと不信に思いながらも、二人を見送るとキャンティアは身を乗り出す。


「さてではですねぇ――」



 ――数時間後、頃合いを見計らって戻ってきた二人は、案の定の結果に苦笑いを浮かべた。


「そろそろかと思ってきたのですが……大丈夫ですか?」


 ロイドとヘレンの見た光景は、ゲンナリとした俺とハイドラス、立ち疲れて小鎮しているハーディスとウィルク、そして疲れ知らずのキャンティアが活きいきしている姿があった。


「……お前達、わかっていたなら言え」


「も、申し訳ありません、殿下」


 何があったのか察しの良い方はお気付きと思うが、キャンティアは魔人事件に関して、根掘り葉掘り細かく尋ねてきたのだ。


 どのような経緯だったのか? 解決に向けて行動、考え、その場の雰囲気から景観、状況に関する心境、使っていた武器まで、とにかく細かく聞かれた。


 しかも確認しながらなので余計に時間がかかった。お陰様で腰と頭が痛い。


「すみません、キャンティアさんは創作意欲を駆り立てる為に、細かい部分にもこだわる人で……」


「――それを先に言って!!」


 俺達四人は大きなため息をついた。


「それでなんですけど……」


「――まだ聞くのかっ!? もう無いぞ……」


 頭をペンでかきながら疲れを見せないキャンティアに、さすがの殿下も相手出来ないと撃沈寸前。


 そこに助け舟。


「程々って言いましたよ」


「――ああっ!?」


 ヘレンはグイッとキャンティアの腕を強引に引っ張り、やめさせる。


 だが、程々と言っていた割にはここまで放っておいたのね。


「それだけ情報が集まれば充分だろ? ほら行くぞ」


「うーん……しょうがないですねぇ」


 不満そうに頭をかきながら、ヘレンに引きずられながら、店を後にした。


「申し訳ありませんでした、殿下。……台本はおそらく明日にはできると思うので、そちらの都合のつく時間に来て下さい」


「わかった……」


 本来なら長話には慣れっこのはずのハイドラスですら、疲れを見せるのはおそらく彼女の話す勢いだろう。


 人によっては話すだけでも疲れる人っているからね。


 ロイドは泊まっている宿とお世話になる劇場の場所のメモを渡すと、その場を後にした。


「つ、疲れたな……」


「は、はい……」


 返事する気力すら湧かない。


 この後、俺は殿下を探していた馬車に拾われて、学生寮へと戻ったのだった。

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