04 第一回リリア女子力向上計画
「とは言っても、急には無理だろうから、やっぱり見た目よね?」
「というかそれが彼女の女子力の低さなんじゃないかしら?」
まあ本当のリリアはむしろ女子力高めですよ。何せタンスを開けたら、綺麗に並んでましたから。
「そうね、服装とかは別の日とかにするとして――」
何やらみんな楽しそうに話し始めた。こういう時の女子の活力って凄いのね。
「とりあえず髪、弄ろっか?」
まあそれくらいならと、案内された椅子に腰をかける。
「じゃあどんな感じにする?」
「色々してみればぁ〜?」
「ま、そうですわね。手始めにリュッカさんと同じおさげにしてみましょうか?」
「リュッカとお揃い!! いいな〜、私髪短いから……」
アイシアは自分の前髪を指でクルクルと弄りながら語る。
女の子ってお揃いとか好きだよね。テンションの上がる要因がわからん。
「伸ばせばいいじゃない」
「う〜ん、下の子に引っ張られてから、伸ばすのやめてるんだよね。そしたらこの方が落ち着いちゃって……」
ナタルは俺の髪を弄りながら、ちょっと懐かしむような表情をする。
メトリーのことを思い出したのだろうか。
「ふふ、そうなの?」
「うん。お母さんみたいにお世話してたら、引っ張られちゃって……」
「髪色、お母さんと一緒だったから、遊ばれてたって言ってたっけ?」
「うん、そうなの。それで――」
何かこんな話を頭の上でされると、くすぐったいなこういう女子トークにはついていけん。
ナタル達は俺の髪を弄りながら、家族話に花を咲かせていると、
「出来たわ」
ポンと肩を叩かれ、鏡を渡された。
「おお……」
思わず感心の声が漏れ出る。綺麗な銀髪の編み込みのおさげでリュッカとお揃いに。
「――可愛いっ!! ね、リュッカ」
「うん、似合ってるよ!」
思わず照れながら、首を振っておさげをひらつかせる。
「そ、そう……?」
おさげリリアも確かにいいな。でもよくこんな綺麗に出来るもんだ。
女の子ってホント器用だわ。
「でもよく出来たね、委員長」
すると思い出すことがあったらしく、哀愁を漂わせる。
「よく妹と髪型、弄ってたのよ……」
「そっか……」
聞いちゃいけないことを聞いた気がするが、そこまで重く受け止めてはないようだ。
「よーし、そのままガンガンいくよーーっ!!」
「おー」
この先輩方は平常運転だ。気にも止めないよう。
「じゃあ次は……」
「私がやろうかしら?」
――という訳で代わる代わる、俺の髪は弄られ続けた。
ポニテ、ツインテ、お団子、シニヨン、猫耳、くるりんぱなど……ポニテやツインテに関しては高さを調整したり、お団子も二つにしてみたり、さらにそこから派生までかけられて、ガッツリ弄られた。
「……疲れた」
「座ってただけでしょ?」
いや、長時間座りっぱなしてのは大変だよ。
「でも、これでわかったでしょ? 髪型一つ変えても女の子は化けるんだから」
「は、はい。わかりました……」
ちょっと髪留めとか、ヘアゴムとか探してみようか。髪留めなら魔道具とかもありそうだし、お洒落プラス自分強化で一石二鳥。
とか言ったらまた怒られそうだから、黙っとこ。
***
「髪留め……ですか?」
「うん。実はね――」
俺は次の日、マルクに昨夜の話をした。
「確かにオルヴェール嬢は見た目より性能重視の面がありますからね」
それなりには気にするが、技術屋のマルクにそんなことを言われたくはない。
外見が殆ど弟と瓜二つというのは考えものだ。下手したら俺より女子力ないぞ。
「そういうのも作ってますから見てみます?」
「じゃあお願い」
そう言うと弟と共に校舎へと戻る。
「やっぱり女の子ですね。僕にはわからない話ですよ」
「はは……」
俺もさっぱりだよ。実際今だってマルクに相談したのは魔法強化をしつつ、お洒落してますよ〜的な誤魔化しが効かないかだしね。
普通にアクセを見に行くなら、先輩達が黙ってない。
「でもオルヴェールさん、そんな風になってるんですね。それも当然ですよね。魔人を倒したんですから……」
また立場が遠のいたと感じるのか、寂しさを交えたシドニエ。
最近、ちょっと無理をして特訓している傾向にある。魔人の影響はこういうところでも起きている。
そりゃあ男のプライドってのがあるよね。
「お待たせしました」
そう言って現れた二人は、何やらスーツケースみたいな箱上の鞄を持ってきた。
すると、ヤクザものとかであるような、札束を見せるように、こちらに中身が見えるように開けた。
その中には何種類かのアクセサリーの数々が綺麗に納められている。
様々なアクセサリーがある中、どれも丸い凹みがあるのか気にかかった。
「凄いですね。これどうしたんですか?」
「これは僕が作った物です」
「えっ!? そうなの?」
「はい」
星やハートは勿論、羽のような複雑なモチーフの物まで存在する。手先が器用なんだと感心する反面、僕がと言ったのが気にかかったので。
「えっと、お姉様は?」
「こちらの魔石です」
見せてくれたのは、飴玉サイズの魔石。
「様々な魔術付与を施せる魔石を改良しました」
「要するに人工魔石?」
「はい」
以前、クルシアが渡してくれた記録石みたいなものだろうか?
「それって転移石とか記録石みたいな?」
「いえ、これの場合はそこまで強力な術式を付与出来ません。これはあくまで詠唱減少や魔法の威力向上などの強化系専門ですね」
ゲームでいうと、装飾品枠につけられる地味に効いてくるやつ系ってことだね。
この凹みは魔石に術式を付与して、はめ込んで使用する形だろう。
「それにしても――」
俺は羽をモチーフにされた髪留めを手に取った。
「カッコいいね、これ」
すると、男性陣がきょとんとする。
「可愛いではなく?」
「う、うん」
こちらもポカンとして答えるとシドニエは苦笑い。
「確かにカッコいいけど、可愛いにも見えない?」
羽をモチーフとはいえ、結構凝った造形にどちらとも捉えられる。
「う〜ん……」
「これは髪留めですよ? ……やはりオルヴェール嬢の女子力は低そうですね」
「これだけでそう判断される!?」
「……そうですね、先程の話でも伺う限りはそう捉えられるものでは?」
「まあ、そうだけど……」
「でも他の女子の皆さんの言う通りでもありますよね。イメージって大切ですから……」
シドニエにまでそんなことを言われてしまった。
ただわからなくはない。こんな作品を書いてるからこの作者はこうだ、みたいなイメージは確かにあるだろう。
でも理想は理想、現実は現実なのだ。わかって欲しいが、中々上手くいかないのが現実だろう。
「とにかくおつけになられては?」
そう言われたので付けてみる。
「どう?」
「よくお似合いですよ。銀髪にも映えて見えますし、宜しいのでは? ね、お姉様」
「そうね、弟よ」
久しぶりに聞いたこのセリフ。
二人からは好印象の評価を頂いたが、シドニエの意見がまだだ。
ちらっと視線を送ると、気付いたのか慌て始める。
「ああっ、えっと……あの、お似合いでしゅ」
噛んだということは、本当に似合っているということだろう。本気で照れてくれると判断しやすい。
「さて、後は魔石を付けてやれば……」
マルクは、失礼と髪留めを取り、凹みに魔石をはめ込み、もう一度つけてくれた。
「うん、よくお似合いですよ」
「そう?」
銀の髪にアクセントとして、一粒の宝石をつけた羽の髪留め。
よく女子がちょっとの変化でも気にかけてくれと言う理由が頷けるように思う。これだけでも大分違う。
立場が変われば見えてくる景色というものは違うのだと痛感する。
「一応仮付けなので、魔石に術式を付与しましょう。そうすればお洒落だけでなく、戦闘効率も上げられます。……正に一石二鳥!」
どうやらここにも女子力の低い女がいます。俺と考えてることが一緒だ。
とか思いながらも、髪留めをマルクに渡した。
「でもさ、ここまでの物を作れたらモテるでしょ?」
お姉様一筋とはいえ、嬉しいくらいはあるだろうか。
すると、ふるふると首を横に振った。
「いいえ。特にそのようなことは……」
「そうなんですか……」
「はい。僕がお姉様一筋なのはみんな知ってますから」
聞きたくなかった真実を突きつけられる。クラス公認で知っているはヤバイな。
というか止めろよ! お姉様!
「お姉様……」
「? 何です? オルヴェール嬢」
マルクは不思議そうに尋ねる。どうやら弟の性癖を治す気はないらしい。
さすがにここを矯正するのは、勇気がいる為、なるようになると思おう。
「そういえばお姉様はどうなの?」
わざとらしくお姉様呼びして、弟のアクセサリーを指すと、フンと少し誇らしげに表情を緩ませた。
「勿論、わたくしも作れますよ。……ただ一部の方にのみ需要があるようで……」
この物言いから、万人受けするような物ではないようだ。どんなデザインなのか尋ねてみる。
「どんな感じなの?」
するとエルクが珍しく、分かりづらいが興奮した様子で話す。
「お姉様のゴーレムを見ればわかりますよ。――お姉様! 是非!」
「そうですね、弟よ」
すると腕輪をしている右手を前にかざして――、
「――召喚!」
唱えると、茶色の魔法陣が展開し、中央に魔石がポツリと宙に浮いた。
すると魔法陣から大量の岩が浮いて出てくると、魔石を覆い隠すように、人型の姿に変わっていく。
すると、それは何やら見覚えがあるような、ないような形状をしている。
「どうです? これがわたくしのゴーレムです!」
自慢げに見せられたのは、昭和時代辺りの戦隊モノロボットが出てきた。
何故か弟の目が爛々としているのが気にかかるが、俺とシドニエは唖然とする他にない。
「えっと……独創的だね」
「うん……凄く個性的……ですね」
その曖昧な感想にはイマイチ不服なエルク。
「お姉様のこの独創性こそ、評価されるべきです。時代の先を行く……そんな感じには見えませんか!?」
珍しく熱弁する弟。
まあ確かにロボットという面に関して見れば、時代の先を行っているようには見えるよ。この世界ならね。
向こうの世界じゃ、センスが古すぎる。
「良いのです、弟よ。わたくしのこのゴーレムを評価してくださる方々も居られるのですから、それで充分です」
「お姉様……」
「ちなみに聞くんだけどさ……その腕、発射とかしないよね?」
双子はよくぞ聞いてくれましたと、熱弁しようとする。
「――っ!! よくぞ気付いてくれました! 実は――」
「ああっ!! いいですっ! 大丈夫でーす!」
この反応から聞かなくても大方の予想はついたので、語り始める前に止めると、ちょっと機嫌を悪くした様子を見せる。
そして誰に需要があるのかも大体想像がつく。
「しかし、こんなゴーレムも作れるもんなんだねぇ……」
何時ぞやもゴーレムの話をしたような気がする。確か、ザーディアスの迎えに来た時だったか。
「まあゴーレムは地属性の魔術師の強さの象徴ともされている魔物ですからね」
「象徴ねぇ……」
「そうだね、僕も言われたことあります……」
「――! そっか、シドニエも地属性か!」
忘れていたが、シドニエは精神型の地属性だ。最近、木刀を振っている姿が様になっているせいか、抜けていた。
「ゴーレムはその形状や性能など、色んな評価を周りからされるので……」
「ふーん……」
「ゴーレムの姿形はともかく、魔石や身体にたくさんの術式を組み込み、動かせるのがいいのです」
「大きさとかも?」
以前見たゴーレムは巨大なゴーレム。今召喚されているゴーレムはせいぜい二百センチ以上くらい……本当に人型くらいだ。
「そうですね。大きくなればなるほど、複雑化するものです。とはいえ、数も作れれば十分将来性はあります」
「ちなみにこのゴーレムはどんな能力があるのですか?」
さっきの俺の質問と被っているような気がするが、張り切って話すお姉様。
「それはこの腕が飛び出したり――」
ロケットパンチかな?
「形状を変えて、潜入できたり――」
変形かな?
「後はこの胸の――」
「魔導砲みたいなのが出るのかな?」
完全に昭和ロボットみたいな説明、ありがとう!
「やけに詳しいですね? この姿のゴーレムは珍しいはずですが……」
そりゃあ向こうの世界じゃ、腐るほど知る機会はあった。何だったらマルクよりも詳しいだろう。
だが、そんな話題はこちらの情報源にもなりはしないので、逸らすことに。
「ゴーレムって言うと、こんな岩とか土とか想像するけど、他には何かいるの?」
ゴーレムは自然的なのと、人工的に作られたものと分かれている。
人工的なやつはそこそこに聞いていたので、自然的なゴーレムの発生について尋ねる。
「そうですね……ゴーレムと言っても様々存在しますからね。核である魔石さえあれば、どんな身体にでもなります」
「確か、炎のゴーレムや幽体型のゴーレムなんてものもいるそうです。学者さん曰く、スライムも実はゴーレムではないかと仮説を立てた時もありましたね」
「――ええっ!? スライムが?」
要するに不定形の核が存在する魔物はゴーレムではないかと言ってるわけだ。しかし……、
「スライムは良くも悪くもあまり人の話を聞かないことから、忠実なゴーレムとは違うのではないかと結論も出されています」
まあ水の塊に性格を求めるのは、確かに筋違いだろう。まあ土塊に求めるのもどうかと思うが……。
「まあ自然的に出現するゴーレム自体珍しいことです。ほとんどは人工です」
「それで人工的に作られたゴーレムの質によって地属性の魔術師の格ってのがあるわけね」
「その通りです」
なんとも世知辛い社会縮図である。
「それで話を戻しますけど、マルクさんのアクセサリーってどんな感じなんですか?」
そういえばその話だったと、話の路線を戻すと、腰に下げているバックから何か出すようだ。
この戦隊ロボを見る限り、おそらく、
「これですっ!!」
にゅっと出したのは、ごつい変身ベルト。
「――予想通りだなっ!!」
思わず速攻ツッコんだ。
間違いない……マルクも女子力ゼロだ。




