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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
4章 ラバ 〜死と業の宝玉と黄金の果実を求めし狂人
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43 共に歩むという答え

 

 ――アルビオが勇者の末裔と語られたのは、生まれてからすぐのこと。その黒髪から周りが判断することに時間は掛からなかった。


 その後の恩恵の儀により判明する六属性、肉体型でも精神型でもない勇者と同じ体質、精霊との契約、アルビオは周りから見れば羨むほどの研ぎ澄まされた才覚の持ち主と言えよう。


 だが、本人の心中を知る人は少ない。


 今でこそハイドラスを始め、自分が踏み出した一歩から沢山の人達に『自分』を見てもらえるようになったが、まだ幼少の頃は『勇者の末裔』としての扱いでしかなかった。


 当時ではあるが、両親ですら舞い上がり、上二人とは全く違う扱いを受け、兄弟からは絶縁されるような扱いを受け、幼少は苦しんだ。


 そんな時、生まれてから側にいた精霊達だけが、ハイドラスと知り合う前の最初の友人だった。


 世間では恩恵の儀の際に舞い降りたとされているが、正確には生まれた当初から側にいて、よく話相手になっていた。


 そのみんなは他の人達のような特別扱いの優しさではなく、自分の気持ちに寄り添って、優しく側に居てくれた。


 その中でもフィンは更に特別だった。他の精霊は優しくしてくれるが、フィンは言いたい放題。


 泣き虫、ヘタレ、弱虫、馬鹿など罵詈雑言の数々。


 よく他の精霊達に怒られてはいたし、最初こそ嫌味な精霊だと思っていた時もあったが、自然体でぶつかってくれるフィンのこのやり取りこそが、彼なりの優しさなのだと気付いたのも、そう遅いものではなかった。


 だからアルビオは精霊達に絶対的な信頼と尊敬の念を持っている。


 ――その最高の友達が、ボロ雑巾のように傷だらけで、小刻みに痙攣(けいれん)を起こし、苦しんでいる。


「お願いだっ! フィン! しっかりしてくれ!!」


 泣き叫ぶアルビオ。顕現(けんげん)していない精霊達も心配そうに見守る。


 すると、ゆっくりと目を開けてアルビオを見る。すると、ははっ、と軽く笑うと嫌味を口にする。


「……お前、泣き虫の……まんまだなぁ」


 その大粒の涙を目に浮かべるアルビオを見ての率直な意見。


 アルビオは涙声で肯定し、自分を卑下する。


「そうだよ……僕は、強くなんかない。泣き虫で弱虫のままだ……」


 愚図りながら語るアルビオの表情は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃ。


「君達が居なきゃ……何も、出来ないし、寂しいし……怖いよぉ……」


 今まで気を張っていたせいか、泣き言がポロポロと涙と同じように溢れてくる。


 いたたまれなくなったのか、フィンは気の毒そうに表情を(しか)める。


「そこまでじゃねぇよ、まあ……頑張ってるよ。最近は……男らしくも……なったって……みんなも、喜んでるんだぜ……それに……」


「フィン……?」


「俺も弱えってわかったしな」


 ゆっくりとアルビオの手の上で身体を起こす。それを心配そうに見守る。


「なんて顔してるんだ。俺なら大丈夫だ……」


 ヨロヨロとまた宙に浮き始めた。


「なあ、もっと自信持て。俺だってあのクソ野郎にあんなにボコボコにされたんだ、一緒だろ?」


 失望した目線を送る殺人鬼を見てそう語る。


「確かにアイツは強え。生半可なもんじゃ、どうしようもねえ。正直、勝てねえ……」


 珍しくフィンから弱音を聞いた。


 だが、その意見には同意以外に答えはなく、黙って肯定する。


「でも、一矢報いてやりたいだろ? どうだ?」


「それは……」


 ゴシゴシと涙を適当に袖で拭うと、力強く応える。


「うん!」


「よし、いい返事だ。……いいか、俺達は弱え……けど、何もしてない訳じゃねえ。強くなる為に努力してきたろ? だったらせいぜいアイツを踏み台にしてやろうぜ!」


 話し込む二人を見て、バザガジールも表情を変える。


 絶望感に(さいな)まれている訳ではなく、希望に満ちていく目をしていることに、少し驚いたように目を開く。


(おやおや〜……)


 殺人鬼も嬉しそうな表情へと変わる。期待に胸が膨らんでいく。


「一緒に強くなろうぜ! 今まで通りさ!」


 アルビオはまた励まされたと、不甲斐なく思うが、フィンの気持ちにしっかりと応えるよう、瞳に闘志を宿す。


「うん! これからも一緒に強くなろう!」


 吹っ切れたのか、回復もしてないのに身体が軽い。自然と武器も構えられた。その目も生気を戻していく。


「おやおや、なるほど。消耗品もまだまだ捨てたものではないですかねぇ?」


「ほざいてろっ!! 化け物!!」


 そしてその構えた剣を見て思いついた。


「フィン、ルイン……頼みがあるんだけど」


「ああ?」


「何です?」


 フィンはともかく、ルインもというのに、問うように返事をした。


「僕の剣になって欲しい」


「はっ!? 何で?」


 やれなくはないがという言い方。


 実際、精霊は思念体だが、その実態に決まった形は存在しない。あくまで今の姿はアルビオに寄り添いやすくする為の威厳のある姿や親しみやすい姿に合わせているだけ。


「君達を直に触った方が、きっと上手くいく……今ならはっきり言えるんだ」


 精霊を剣にすることで直に魔力回路を繋げ、感じることが出来るのだと考えた。


 元々今使っているこの刃こぼれが酷いこの剣も悲鳴を上げている。むしろ良くもった方だと思う。


 それに今の精霊達と自分達の気持ちならきっと上手くいくと、強い確信がある。


「そういえば、情報では精霊は一体しか顕現(けんげん)できないんでしたっけ?」


「もう何でも筒抜けなんですね……」


「彼の趣味は人生観察ですからねぇ」


 その彼とは極力関わりたくはないが、この殺人鬼と接点がある以上、会う予感はする。


 フィンは大丈夫だとやる気に満ちているが、ルインは心配の方が先に出るよう。


「変な心配してんじゃねぇ! ルイン! アルがやれるっつってんだ。やるぞっ!!」


 アルビオは感謝を示すように、ここまで一緒に戦ってくれた剣をゆっくりと地面に置いた。


「……わかりました。アルビオ、共に――」


 左手に金色の光が集まり、右手には黄緑色の光が発光して集まり、光り輝く(つるぎ)へと変わった。


 魔力が強く宿っているのか、剣全体が強く光り続け、オーロラのような帯状の幻想的な光が漏れ出ている。


 予測通り、魔力回路がシンクロし、全身に満ち満ちるようだ。


「凄い……これなら……!!」


 二刀流なんて初めてだが、自然と様になる構えが取れる。


「アルビオ、我々がフォローします」


「好きにやりなっ!」


「ありがとう。二人共」


 その様子を見て、小さく鼻で微笑うと、期待感が高まっているのか、機嫌を良くした殺人鬼。


「吹っ切れましたか? やっと道具扱いが出来るようになったようで……」


「――違いますよ」


 ヒュンと右手の剣でバザガジールを指す。


「これは僕と精霊達が共に戦い、生きる覚悟の形だ!! 貴方にこれ以上、踏み(にじ)らせはしない!!」


 アルビオは自分がいくら傷つけられても、我慢すればいいということを覚えてしまった為、中々その癖は治らないと思う。


 だけど、友を侮辱され、踏み(にじ)られることは今までにない経験だ。


 許せないという気持ちはあるが、不思議とあまり怒りの感情はない。


 自分の力不足を痛感していることや相手が強すぎて、どこか仕方がないと思っているところがあるのだろうか。


 だが、そんなことよりも精霊達と改めて強い絆を感じられることが、そんな怒りや絶望などの阻害となる感情が表には出てこないよう。


 ――落ち着いた様子でゆっくりと構え直す。


 頭の中がスゥーっと風が吹き抜けるような感覚。フィンを握っている影響だろうか。


 不思議と不安な気持ちが抜けていくよう。ルインを握っている影響だろうか。


 こんなにも心強く自分を支えてくれる。その期待に応えたいと意志を強く心の真ん中に持つ。


(……余計なことはもう考えるな)


 痛みや苦しみ、この人に劣っていること、後先の見えない恐怖、迫りくる自分を染めにかかる絶望。その対策が考えられないなら、全て切り捨てろ。


 今はこの精霊達と共に立ち向かうこの強さと共に前へ、前だけを見る。


 戦う理由が今まで他人の為ということが殆どだったアルビオ。


 それが悪いことだとは思わないし、責任感や義務感が必要なことだとも理解している。だけど――これから強くなる為には自分の為に戦わなければならない。


 今はその理由が明確に、はっきりくっきりと目の前にある。


 この精霊達ともっと強くなりたい。そしてその強くなる為の障害が今、目の前に存在する。


 貪欲に強くなりたい。その欲に素直になりたい。


(今はそれだけでいい!!)


 不穏な気持ちは消え去った。覚悟を決めた表情で迎え撃つ。


 これ以上の言葉は不要だと、バザガジールも構えてみせる。


 ――少し距離の空いた静寂が流れる。


 バザガジールは――この張り詰めた静寂の緊張感、対峙する相手の瞳に宿る熱のこもった闘志、互いの全てをぶつけ合うと言わんばかりの闘争心、どれも自分を駆り立てるものばかり。


 だが、それはバザガジールにとってはあくまでスパイス。


 その全ての相手の意志を根こそぎ、奪い去ることも、そして奪い去られるのかもという刺激が堪らない。


 手加減をしているこの状態なら楽しめないとも思っていたが、クルシアと出逢い、教えてもらわなければ、このような高揚感にも浸ることなどなかっただろうと、内心――舌舐めずりを鳴らしている。


(ああぁ……素晴らしい。せいぜい失望させないで下さいね!!)


 強い殺気を感じたアルビオ。小さく息を吸って吐くと、


「行きますっ!!」


「わざわざ言わなく――」


 火蓋はアルビオから切って落とされた。


 アルビオは懐へ飛び込み、首を薙ぎ払うように黄緑の剣撃が疾る。


 だが、簡単に弾かれる……が、決してその剣と視線は離さない。すかさず光に満ちた左の剣撃。


 それも弾かれるが、もう臆する事は無い、自分に出来ることは攻め続けるだけだと剣を振るう。


 その真剣な瞳はもうバザガジールを怖がりもしなければ、怯むこともない……逃がさないと視線を一切逸らすこともなく、果敢に攻め挑む。


「ア、アルビオ……」


「凄いですよ、殿下。とんでもない速さですよ」


 上空から見ている一同は呆然とする。


 その上空の景色は、アルビオとバザガジールの街全体を巻き込んだ、超高速戦闘が繰り広げられている。


 激しく鳴り止まぬ鋼のような音、岩が崩れる倒壊音、圧力のこもった魔力の衝撃、力と力がぶつかり合うことで起きる風圧……荒々しく獣のような、しかしお互いを素直にぶつけ合うような誇りある戦いにも見える。


 その衝突し合う、闘争の閃光の中で、アルビオは――、


(――もっと速くっ!!)


 剣を振る速度は勿論、身体の動き、目線、思考、全ての神経を研ぎ澄まし、さらに先の一歩を。


(――もっと強くっ!!)


 フィンやルインから流れる魔力や筋力すらもコントロールして正確な力を……余分な力は消耗を生み、隙が生まれる。


(――もっと先へっ!!)


 恐れるな、怖がるな、劣っているとわかっているなら、ぶつかっていけ。勇気を出して踏み込まなければ、欲しいものには届かない。


「――もっとっ! もっとだあっ!!」


 力強い意志をひしひしと感じるバザガジールは、笑みが溢れ出すように止まらない。


「――ハハハハハハハハハハハハーーっ!!!! 素晴らしいっ!! 素晴らしいですよぉっ!!」


 物凄い勢いで鋭さを増していくアルビオの成長を、まるで全身で浴びるかのように喜ぶ殺人鬼。


 この激しい戦闘の中でも全力で楽しみ、自分の欲望を満たしていくと褒めちぎる。


「こんなにも、こんなにもぉ! 楽しめるだなんてっ! この感覚……久しぶりですよぉっ!!」


 浴びるようにその衝突を楽しむバザガジール。この闘争から学び吸収し、精霊達と共に強くなろうと誓ったアルビオ。


 両者の戦う意味がぶつかり合い、旋律を奏でる。


「――あぁああああーーーーっ!!!!」

「――ハハハハハハーーーーっ!!!!」


 数分間の激しいぶつかり合いの末に――、


「――があっ!?」


 アルビオが強く弾き出される。


 だが、渇いたコンクリートを引きずるようなザラついた音を鳴らしながら、精霊の剣を突き立てて、後ずさる勢いを殺す。


「はあ、はあ、はあ……」


 まだ闘志は消えない。剣を指して構えを取る。


 その一方でバザガジールは、笑みが止まらない。久しぶりの望んだ感覚の余韻に浸りながら、称賛する。


「くくくっ、いやぁ……素晴らしい、最高です! 最初の噂とはまるで別人ですねぇ! ははっ! 一度は失望もしましたが……」


 大人気なく、その刺激に酔いしれ、つらつらと褒め称えると、


「今日はここまでとしましょうか?」


「!?」


「何……!?」


「終わった……のでしょうか?」


 アルビオはまだ油断は出来ないと、剣を納める様子を見せない。


「そんなに警戒せずとも大丈夫ですよ。貴方は黄金の果実の種。せっかく芽吹いたのです、しっかり()れるまではじっくり育てますよ。それに……」


 楽しげに辛抱たまらない視線で舌舐めずりをする。


「これ以上やると、我慢が効かなくなりそうですから……」


 先程までの(おぞま)しい殺気も激しい嵐のような闘志も止んでいる。


「くそっ! ここまでかっ!」


「いいのではありませんか? 正直、全身が痛いです」


 こんな感覚は初めてとルインは痛みに苦しむ。


「あれだけやって、かすり傷かよ……」


 そのフィンの呟きが(しゃく)に触ったのか、少し不機嫌に話す。


「かすり傷とは舐めたことを。貴方達との実力差を思い知らせる為にも、そこには注意を払っていましたよ」


 あれだけ理性を失うほど興奮していても、経験則からかすり傷一つ負わない自信はあったような口ぶり。


 実際、育てるというほどだ、師匠と呼ぶにはアレだが、育てる側としては大きな障害として立ちはだかりたいようだ。


 それを聞いたアルビオは、初めてこの男の前で嬉しそうに口元を緩めて微笑む。


「なら、左頬……触ってみればわかりますよ」


 不快に思いながらも、言われた通りに触ってみると、


「……!」


 ぬるりとした肌触りがする。その左手を見ると、紅く擦れた血が滲んでいた。


 相当驚いたのか、狐のような細目が開く。


「……フ、フフ――」


(……いつだ? いつ付いた? 私が気付かなかった?)


「ふはっ、ヒヒっ、ハは――」


(油断はしていなかった。楽しくはあったが、確実にもらわないように振る舞っていたはずだが……)


「アハ、アハはは――」


 まるで過呼吸を起こしたかのように、小刻みに楽しげに、しかし今までで一番不気味に笑っている。


 そして――、


「――アっハハハハハハハハハハハハハハハハハハハーーっ!!!! アハ、イヒっハハハハハハっ!! ハハハハハハハハハハハハッ!!!!」


 周りを一切気にすることなく、狂ったように高笑いする。


 その様子に、何が楽しいのかわからず、ポカンと唖然とさせられる。


「お、おい。アイツどうしちまったんだ?」


「わかりませんが……油断はなりません」


「そうだね……」


 気を許すことのないようにと、その笑っている殺人鬼を見ると――目の前に掴みかかる手の平があった。


「――!!!!」


 一切の気配もなく、あの距離から一瞬で近寄ったにも関わらず、風一つ起こさずに目の前にいる殺人鬼に戦慄する。


 アルビオは素早く距離を取ると、激しく呼吸する。


「はあ、はあ、はあ……」


 今までにない恐怖とじっとりとした気持ち悪い汗が背中を湿らせる。


 今の一撃……この殺人鬼が攻撃を止めていなければ、知らぬ間に死んでいた。


 その殺人鬼バザガジールは、興奮を抑えるように左手で右腕を強く握る。


「ああああっ……落ち着け、落ち着くんだぁ、私ぃ……ヒ、ヒヒ……」


 嘲笑する。楽しそうに、落ち着かない吐き出そうな衝動を抑えるように。


「ははっ! ああ……こんなことしないでくれよぉ――」


 美味しそうだと目元が大きく緩む。


味見(ころ)したくなるだろぉ?」


 その殺人鬼の悪辣(あくらつ)な笑みを見て、かつてない命の危機を直に感じた。


 もう言葉も出ず、身体も完全に畏縮し動かない。


 バザガジールは必死に悶絶しながらも、やっと落ち着いてきたのか、呼吸を整えると、紳士的な話し方に戻る。


「これは失礼致しました。驚かせてしまいましたね。フフ……」


 精霊達もこの異常な男を前に言葉が出ない。


「まさか、ここまでやるとはねえ!! 私の期待に応えるどころか、超えてくるなんて……ヒヒ、はははっ――おっと……」


 また思い出すと襲いそうだと、笑うのをやめた。


「どうでしょう? この敬意を評して、貴方のことをアルビオと呼んでも宜しいでしょうか?」


 今まで末裔殿と呼んでいたバザガジールは、気に入ったのか、名前で呼んでいいかと、フレンドリーに尋ねてくるが、アルビオは返答どころではない。


 もはや自分の理解の域を超えた恐怖の対象に身を竦めてしまっている。


 無言でいると、肯定されたと判断したのか、嬉しそうに名を呼ぶ。


「ではアルビオと呼ばせて頂きますね。今日は素敵な一日をありがとう! アルビオ。次会うのは暫く先になるとは思いますが、また私を楽しませて下さいね」


 上機嫌な笑顔で、次に会う約束を交わす。


「それでは――」


 懐から水色の蛍光色の魔石を取り出すと、何やら忘れていたとアルビオに伝言をお願いする。


「すみません。この魔石なのですが……」


 そう言って見せたのは魔人マンドラゴラの魔石。


「確か、リリア・オルヴェールでしたか? 倒したのは彼女ですよね? その彼女にお伝え下さい。魔人の魔石は私が回収しますね、と……」


 これも返事どころではないアルビオ。再び無言で答える。


「それではまた、お会い致しましょう。ご機嫌よう」


 満足げな表情で、水色の魔石を片手で軽く砕くとバザガジールは瞬時に姿を消した。


 どうやら転移石だったようで、どっしりとのしかかるようなプレッシャーがスッと消えていった。


「――っはああっ!!」


 張り詰めていた糸が、ブツンっと切れたようで、殺していた息を吐き捨てる。


「はあ、はあ、はあ……」


 アルビオはよく生き残ったものだと、我に帰る。


 (おご)っていたのは自分だ、どこかであの殺人鬼の殺さないと言っていたことに甘えていたんだと、気付かされる。


 少しでもあの殺人鬼の気が変われば、(くび)り殺されることなど、容易だっただろうに。


 完全に胸を借りる戦いであったと思い知る。


 すると、精霊達が元の姿に帰ると、顕現(けんげん)している二人の姿も薄くなっていく。


「お、おい! 今気を失――」


 友の叫びが聞こえたが、景色は床へと落ち、身体はとっくに限界を越えていたと知る。


 意識は待ったなしだと、プッツリと消えた――。

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