38 黒炎の業火
魔人は今にも怒りで爆発しそうな表情でこちらを睨み続ける。
受け取る側からすれば、ここまで犯人ですと物語ってくれると、危機感より安心感があった。
何せ、こちらにも魔人に対して、憎しみの感情はあるのだから。
「しかし、見事な推理だ」
「いや、殿下も本調子なら気付けたことでしょ? それに私の場合、勇者の日記を読んでいたことも影響してますから」
勇者の日記に詳しくではなかったが、魔人についての記述がいくつか確認している。
その後に授業の一環として、魔人についてもちらほらと調べていた。
魔人は負の感情の元に性格が形成、人間に近い理性と知性を得る。
勿論、インフェルのような元から知性と理性を持つ魔物も存在はするが、本能的な魔物がそれらを身につけることは脅威だろう。
後、補足として魔力だけで成長するケースもあるという昔の文献があるとリュッカに聞いたが、定かではないとのこと。
例えそうだとしても、長い年月をかけてなるものだろうから、確認することもないとのこと。
「……ヒッ」
警戒を解かずに様子を窺っていると、口元が緩んだのを確認した。
「――ヒィイハはハハはハハはははハはハはハはハハははーーッ!!」
狂ったカラクリ人形のように笑い出すと、一通り発散し終えると、ガラリと怒りの感情に戻る。
「……ああああっ!! くそおおっ!!!!」
「その反応は合ってたかな?」
「ああ、そうだよっ!! そうさ、俺は魔人マンドラゴラさぁ!!」
血管が浮き出るほどに怒りに狂い、抑えきれない衝動に駆られる。
「完璧だったはずなのにっ!! どうして……」
「敗因を教えてあげようか?」
素早くぎっと睨みを効かす。
「お前は魔人だ、人間じゃない」
「当たり前だあ!! 俺は人間みたいに下等じゃねえ!!」
「その考えが敗因だと言ってるんだよ」
「何!?」
魔人は肉体の話からそう人間を評価しているのだろう。俺達も魔物の評価が知性の単調性から評価するように。
つまりは価値観の違いだろう。
「お前は人間の負の感情のみで形成された人格をしている。良心を知らないお前は非情かつ外道にはなれるが、狡猾さは人間に劣る」
どんな人間も道徳という常識を学ぶことはあるだろう。最終的にはどんな悪人とかになろうとも。
でもそれらも良心を知っているからこそ、どうすれば貶められるかを知っているということになる。
良心を知るのと、良心を持っているでは、人間、違いが出るように、良心を知る魔人と知らない魔人ではやる事もきっと違うことだろう。
「魔物としての人間を敵意する本能と負の感情だけでは、善意も悪意も知る人間には勝てないってことだよ。それだけ慎重な性格ならもっと知るべきだったね、人間のこと」
魔人の敗因は、人の姿になっただけで人間にはなりきれなかったということ。
だからこそ恐ろしくも感じた。悪意だけで塗り固められたこの魔人がもっと染まると手に負えるのかと。
「……なるほど、子供達だけを平気で攫えたり、殺したり、痛めつけたり出来るのもそれが要因だったか」
「はい。だから言ったんです――子供達が教えてくれたって……」
それを聞いた魔人は悔しそうな顔をしていたが、何か思い立ったのか、再び笑みを溢す。
「ヒッヒ。そうだよ……ヒッヒッヒッ……」
「どうしたの?」
「ヒィイハハハハッ!! そうさ、だからどうした!?」
開き直ったように、馬鹿にするような声を荒げて、指差す。
「確かに俺はマンドラゴラだ。だがよ、だがなぁ!? だからどうした!? マンドラゴラの弱点なんて火属性の魔法くらいだろうがあ!?」
ハイドラス達は表情を険しくする。
マンドラゴラは明確な弱点が存在しない。
吸血鬼のような光に弱いやらニンニクがどうとか、水辺の魔物のように陸地では、なんて話もない。
相当偏った環境でもない限り、望んだ状態で戦うことが出来るだろう。
「確かにそうだな……」
ハイドラスもリリアのメモに書かれていることを信じたいが、魔人の脅威は王族であるハイドラスも知るところではある。
魔人は能力の向上や人間と同じ姿になるだけでなく、肉体の強化もされていることから、倒すにしても難しい話だとわかっている。
しかも、魔人が口にした弱点も無効化しているのを目視している。
それを指摘される。
「そこの王子様も見てたろ? 俺が火の魔法を無効化していたところをよぉ」
今度はハイドラス達が、悔しそうに睨む。
「お前だって見ただろ、小娘。お前の黒い炎すら無効化できたんだ……どうやって殺すんだあ!? 言ってみろ!!」
動揺を誘うように、強気に脅しにかかるが、動じない。
この異世界に来てから、色んなところで度胸が試されてきた。
一人、本当の自分を誰も知らないこの世界で生き抜く孤独。それを埋めてくれたのは今の友人達の優しさ。
その友人が窮地に立たされ、自責の念に苛まれた恐怖。それを埋めてくれたのも友人達の勇気。
俺にはコイツにはない友人達との絆がある。友情なんて青臭いとか、思うかも知れない。
正直、中身が男だからまだ慣れないところもちらほらとはあるけど、性別なんて友人という関係の前には関係ないこと。
今回の事件だって、俺一人でわかったことじゃない。
みんなの協力があったからこそ、辿り着いた答え。
そのみんなが同じ気持ちであるならば、コイツに勝てないなんてことはない。
子供達の為にも、コイツは――、
「……一つ、聞いてもいいかな?」
「ああっ? 何だっ!!」
俺はすっと魔人に指を差す。
「服の端についてる、その黒いのは何かな?」
魔人は自分のボロ布のような服の左端を見ると、そこには小さく燃えた黒い炎があった。
この魔人が無効にした時、その勢い余って吹き飛んだ際、火の粉のように舞った炎が掠ったようだ。
その今にも消えてしまいそうな灯火を見て、ニタリと大きな笑みを浮かべた。
「あーあーっ!! なるほどね、怖いなあ!! 怖いなあ!!」
わざとらしい言葉を使い、馬鹿にするような口調で、その黒い炎が燃えている服の端を破いて、地面に叩きつけ、揉み消すように踏んで潰した。
「おい、オルヴェール……」
心配そうな声をかけられるが、俺は視線を逸らさず、その様子を見るだけ。
「……ざけんなよ。こんな沈下な炎で俺がぁ――?」
何か違和感を感じる。
揉み消したはずの足に熱さが宿っているよう。その踏んだ足を見ると、黒い炎が未だに燃えているのを確認した。
その光景と興奮した感情に支配されているせいか、冷静な判断が出来ず、動揺する。
「な、何だ? 何がどうなって……」
足をバタバタさせて、消そうと足掻く姿に追い討ちをかける。
「それは子供達の怨念の火だよ……」
勿論、比喩的な意味だ。この魔人の動揺を誘う言動だ。
「はは、何を馬鹿なっ!?」
「……言っただろ。お前を殺すって……!!」
俺はいよいよ感情を抑える必要がないと、怒りに身を任せるように、表情を激変する。
その鬼気迫る感情の変化に、思わず身を構える魔人。
「あんな無邪気な子供達を――」
コイツは魔物だ、良心の欠片もないコイツに容赦の必要などない。
「まだ甘え盛りな子供達を――」
どれだけ苦しかったか、寂しかったか、辛かったか、その心境も俺には側面しかわからない。
「将来に希望を持っていただろう子供達を――」
これからの成長を願う親達の悲痛な想いも、俺にはやはり側面しかわからない。
「――お前は何をしたっ!! 痛ぶっただろ? 苦しめただろ? 殺しただろうがぁ!!」
感情が高ぶり、男の口調が出てきたが、俺はもう止まらなかった。
「その黒い炎は、子供達の怒り、悲しみ、苦しみ、無念に散った命の高鳴りと知れ!! これがお前への報いだ!! ――バーストッ!!」
俺がその術を唱え叫ぶと、足元で燃えていた黒い炎が爆発を起こしたように燃え盛り、あっという間に魔人の全身を焼いた。
「――がああああああーーっ!?」
「――今だっ!!」
合図と確認したハイドラスは直ぐに指示通りにやれと、合図する。
指示を受けた魔術師達は配置につく。
四人の魔術師達は魔人を囲むように距離を取りつつ、その場につくと、
「――魔法障壁!!」
魔人を閉じ込めるように、四方と天井に透明な魔法障壁が展開される。
そして、オスティムが身の丈ほどの年季の入った杖で地面をひと叩きする。
「――サイレント・フィールド!!」
魔人を囲んでいる障壁を包むように、何やら空間が揺れているように見えた。
だが、魔法の発動がされている影響か、カースド・フレイムに焼かれ苦しむ、魔人の叫び声がプツンと消える。
声なく苦しむ姿はさながら滑稽に映るが、容赦しない。
「インフェル、ありがと。後は引っ込んでて」
「ここからではありませんか?」
不満そうに尋ねてくるが、真剣な表情で言い聞かせる。
「この魔人は私が殺す……そう言ったよね?」
ここは異世界で、魔物が蔓延る世界だってことは理解している。
だからあんな悲劇が起きることもわかっていた……わかっていても悲しみもするし、悔しくも思う。
だからこそ、この世界に生き残った者として、死んでいった人達の無念を晴らす。
それが例えエゴであっても、戻って来ないとわかっていても、なし得なければいけないケジメだと思うから。
魔物であるインフェルには理解し難いものと思っていたのだが、
「……かしこまりました。御武運を……」
そう答えるとあっさりいなくなった。
さっきの魔人への説教をわかってくれたのか、定かではないが、好意と受け止め、感謝する。
「おい、いいのか? インフェルを引っ込めても……」
「構いません。というかいたらゴリゴリ魔力が無くなっていくんで。このクソ野郎を焼くのにどれだけ魔力を使うか、わかりませんから……例の物は?」
手紙に書いた物の用意を尋ねると、一人の騎士が大きなバックを担いで持ってきた。
「ああ、ありったけのマジックポーションだ」
手紙に書いて頼んだものは、防御特化型の魔術師と闇の魔術師、そしてありったけのマジックポーションだ。
作戦としては、魔人を囲むように防御結界を張り、闇の魔術師による音遮断の魔法を使ってのマンドラゴラの特性封じ。
そして、魔人は耐久性が非常に高いことから、長期戦を見込んでの、魔法を使い続ける為の回復薬としてマジックポーションを用意させたのだ。
例え火に弱いと言っても、一撃でやられるほど甘くはない。
「しかし、どうしてお前なら倒せると? 奴は植物種の魔物だ。魔人になったなら尚の事――」
「マンドラゴラは植物種ではないですよ」
「何?」
「リュッカやジードさん達に確認しましたけど、妖精種だそうですよ。見た目からよく勘違いされるそうで……」
マンドラゴラは人間の叫び声と似たような声を上げるのは、その断末魔のような叫びが乗り移ったことだと仮設を立てた人がいるらしい。
実際は若干違ったのだが、似たような形で生まれたと発表されている。
その事を証明したのが、植物の身体でありながら、植物種にはあるはずの超成長能力や超再生能力がないことだ。
植物種の魔物の一番脅威的なところは、その能力。
トラップ型の魔物にはあまり無いが、マンイーターのような魔物には、能力の上下はあるものの、備わっているのがほとんど。
だが、火には非常に弱かったり、腐敗系の魔法術に致命的だったりとあるが、魔人になれば脅威となると学者が発表している。
そのことから植物種の魔人だった場合、その燃えた部分を切り離して再生されれば手もつけられないと考えたが、マンドラゴラは違うという。
これらのことから魔人マンドラゴラは、自分の正体を隠さざるを得なかった。
マンドラゴラ自身は妖精種でも、身体は植物なのだ、食らえばひとたまりも無い。
魔人になってもそれは同じことと考えたのだろう。
だから俺のカースド・フレイムなら、消えない炎なら、魔人を焼き尽くせると考えたのだ。
「なるほど、それで後は閉じ込めて焼き尽くしてしまえばいいと……」
「そういうことです」
マンドラゴラは激しく抵抗するように叫び声をあげる仕草を見せながら魔法障壁を殴る。
「――ぐうっ!! なんて威力だっ」
「気を抜くな!!」
「皆さん、ここからが正念場です!! この魔人が焼き尽くせるまで、多分時間がかかります。その間どうか……」
魔人という存在は実力も未知数なところがある為、真正面からの戦いを避ける為の今回の作戦。
無理に乗ってもらって悪いと話すも、魔術師達は何を言っていると気は抜かずとも笑みを零す。
「いや、ここまで魔人を追い詰めてくれたんだ。ここからは大人の我々も頑張る時だ」
「ああ、君は気にせず、この魔人を倒してくれ!」
「そうだとも。奴の音波攻撃は私が無効化しよう」
励ましの言葉をくれた。
「おい、お前」
マジックポーションを背に持つ彼が、ピンと背筋を伸ばして、ハイドラスの言葉を聞く。
「オルディーンに言って、何人か騎士を連れてこい。ここは死守する! 急げ!」
「はっ!」
魔人を睨みながら、オスティムに尋ねる。
「魔人に私達の声って聞こえてますか?」
サイレント・フィールドはその空間内の音を遮断するというもの。こちらからかける声も無効化される為、おそらくは聞こえないはずだ。
「言いたいことがあるようだな。なら念話で伝えればいい」
俺の発言から汲み取ってくれたのか、ナイス提案を提供してくれた。
「なるほど! それなら……」
そして俺は物申す。
『魔人、聞こえているな?』
「――!?」
俺の言葉が頭に走ったのか、魔法障壁に張り付くと血走った目で睨みつける。
「――!! ――!!」
何か喋っているようだが、表情から言いたいことは伝わってくる。
どうせ暴言だ、気にする必要などないと無視して念話を続ける。
『ここからが勝負だ。お前の耐久性が勝つか、俺の炎がお前を焼き尽くすか……』
念話の中だからか、興奮が冷めやまないのか、男言葉が消えない。
『懺悔の時間だっ!! 人の死と業を呑み続けて育った丈夫な身体を、身を焼きながら怨みな!!』
魔人は憎々しいと俺を凝視する。
『灰になるまで付き合ってやるよっ!! 魔人……マンドラゴラぁ!!』
***
一方でこちらでも動きがあった。
プラントウッドの周りが激しく動き回る。魔人がやられている影響か、それともプラントウッド自身がやられているせいか、魔物達は、激しく魔術師達と抗争を繰り広げる。
「押せ押せ押せ押せ押せ押せぇーーっ!!」
ガイツは、気合だあ!! と言わんばかりに声を張る。正直、部下達からすれば、魔法で攻撃してくれという気持ちが強い。
というのもプラントウッドの上部を集中攻撃することに成功している。後は押し切るだけの状況だが、魔物達が抵抗を続けている。
プラントウッドも上と下でと対応に追われるように抵抗する。
上空を飛ぶ敵には果実の魔物と枝木の槍を、下で群がる敵には木の根で反撃するも、魔人のバックアップがないのもあってか、物量で押され始めている。
「この木の根、邪魔」
フェルサは波打つように荒ぶる木の根の隙間をかい潜り、
「んっ!!」
プラントウッドに体重をかけて蹴り込むが、びくともしない。
「デカすぎるよ……コイツ」
後ろへ飛んで戻っていくと、すれ違いにハセンが跳躍して棍で渾身の一撃を叩き込む。
「――だなっ!!」
ゴォンと鈍い音が鳴るが、倒れる手応えはまだない。
「おい! てめぇら!」
「――はい!」
冒険者の魔術師達がフェルサとハセンが攻撃した箇所を集中攻撃。
「もっと気合入れろ!!」
上と下とで奮闘する中、アルビオは魔術師団と奮闘する中、プラントウッドの中にあるであろう魔石を精霊の力を使い、把握に努める。
「やっぱり中心にあるみてぇだな……」
フィンは幹の部分の中心点あたりにあるという。まあ心臓部だろうから、当然だろうが。
「問題は……」
あれだけの質量から魔石を取り出すという選択肢は捨て、破壊することを前提に考える。
あれ程の質量を持つ大樹の内部を貫くほどの威力で攻撃することが至難の業である。
例え倒せたとして、魔石の場所を把握したところを突いたとしても外樹皮は簡単に剥がれるだろうが、内樹皮は大樹の支柱故、貫くのは困難と思われる。
するとアイナが迫り来る魔物に雷魔法を放つ。
「――紫電の雷よ、落ちよ! ――サンダー・ボルト!!」
雨雲があるせいか、物々しい雰囲気で暗雲が揺れると一瞬、稲光が視界を遮り、ドオォーーンという激しい一発音が響くと、辺りにいた魔物を一網打尽にする。
どうやら天気が味方したようだ……悪天候というのも悪くないと、焼け焦げた匂いと共に魔物達が落ちていくのを確認する。
「さすがだな! アイナ!」
それを見たアルビオは、今の雷の閃光の如く閃いた。
「あったよ! フィン。魔石まで貫く方法がっ!」
「本当かよっ!」
「ガイツさん、まだ倒せませんよね?」
嫌味に聞こえたのか、ちょっと不機嫌な口調で返す。
「ああっ! そうだよ」
「僕はちょっと準備があるので離れます。出来れば準備ができた段階で倒して頂ければ……」
そう言うと、アルビオは離れていく。
「あっ、おい。ったく何なんだよ」
「彼には彼の考えがあるということです、信じましょう。我々のすべきことは押し倒すこと、行きますよ」
アイナがこう言うのも、プラントウッドからの反撃が弱まりつつある。
おそらく果実の魔物の召喚や木の枝を伸ばしすぎて魔力を使い続けてきたツケがここにきたようだ。
この隙を逃すまいと、ガイツや今まで周りの魔物達を排除していた風の魔術師団達も押し倒すのに加勢する。
アルビオは大樹が倒れる場所を想定して、位置の確認を取る。
「フィン、ライトニング・エンチャント」
「雷を纏うのか?」
風属性は雷の魔法が使えるので、フィンも勿論、可能だが、本人は風の方が好みとのこと。
だが、どうするつもりだ、と言いながら、頼んだことをしてくれる。
紫電の走る音が宙を飛び交い、纏いながら、アルビオは説明する。
「あのプラントウッドが倒れていく瞬間を狙って、雷のように、魔石の場所を突き刺します」
倒れる勢いと雷の勢いを利用し、その魔石まで貫こうという考えだ。
「だからフィンは、下のギルドの人達に倒れかけたら素早く避難するよう伝えて」
「それはいいが、上手くいくのか?」
アルビオは切っ先をプラントウッドに向けて、雷を刀身へと集中する。
すると、雷が刃にのるように、長く尖っていく。
「上手くいく、いかないじゃなくて、やらなきゃいけないんだ」
自分で踏み出した一歩だから、やるって決めたことだから、逃げないと決めたから。
彼は唱えるように自分を鼓舞する。それを見たフィンもこれ以上は何も言うまいと、冒険者達の元へ黙って向かった。
そして、そのやるべき事への時間は訪れる。
「――たーおーれーろーっ!!」
大きな爆発と共にプラントウッドは後ろ、タイオニアの方へとバランスを崩した。
そこをすかさず、
「――今だあぁっ!!」
アルビオは空を蹴ると、濃縮された雷の束がまっ白な光を放ちながら、速度を上げてプラントウッドへと突貫する。
「てめぇらっ!! 撤退だぁ!!」
フィンの呼びかけと彗星のようにプラントウッドに向かうアルビオを確認し、冒険者は素早く避難する。
アルビオの向かう斜線上には魔術師達もいたが、狙いは上の方ではなかったので、当たりはしなかったのだが、あまりの速度に物凄い風圧を下から受けた。
「――ぶあっ!? な、何だ!?」
「今のは……」
雷を纏うアルビオはあまりに速く、自分でも距離感が掴めていない。
魔術師達も呆けているうちに、ドオォーーンと再び一発音が響くと、アルビオは剣を突き刺し、着地する。
「――くぁあっ、はあっ!! 速度を考えてなかった」
危うく悲惨な衝突事故になりかけたと一瞬肝を冷やす。刀身が雷で伸びていてよかったと思う。
だが、その甲斐あってか、プラントウッドはさっきよりも勢いを増して倒れていく。
雷の刃も貫通しているようだが、念の為。
「これで……終わりだぁっ!!」
雷の刃を分解し、魔石があるであろう内部を電気が走る。
そしてプラントウッドが地面へと倒れ込み、その衝撃で地面は揺れ、激しく風が吹き荒れ、その衝撃で辺りの木々や魔物達も吹き飛ぶ。
冒険者達は魔法障壁で、迫り来るその衝撃を防いでいた。
そして治まるや否か、状況を確認しにいくと、先程までうねうねと動いていた根っこはピクリとも動かず、抵抗する為に召喚していたであろう果実の魔物も枯れ果てていく。
それを見た一同は歓喜に湧き、プラントウッドの上でへたり込むアルビオも、ほっと安堵の表情を浮かべる。
「……良かった……止められた」
すると――向こうの方で大きな、赤く天に昇るような炎柱が見えた。




