表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
4章 ラバ 〜死と業の宝玉と黄金の果実を求めし狂人
243/487

25 アリミア失踪事件と説得劇

 

 俺達はもうすぐ日が暮れる中、ランプや魔石の幻想的な灯のギルドへと足を運んでいた。


 昼間とは違い、武装している冒険者達が多く、物々しい雰囲気を感じた。


 そんな中、俺達は見知った顔を探すが、フェルサの探し方がおかしい。


「何やってるの? フェルサ」


「匂いを嗅いでる」


 鼻先をすんすんと動かして探しているよう。


 一応、遠巻きから見たら気にならない程度の動きだが、わかっているとどうかと思ってしまう。


 そして見つけたようで、こっちと一声かけると、フェルサは迷わずその場所へと向かう。


 フェルサの後をついていくと、そこにはちょっと疲れた様子のサニラの姿があった。


「サニラ!」


「ん? フェルサ? それに貴女達まで。どうしたのよ?」


「サニラさん! お願いします! 何か知っていることを教えて下さい!」


「えっ!? ちょっと? 何々?」


 事情も説明することもなく、詰め寄るナタルに動揺せざるを得ない。


「まあ落ち着いて、委員長」


「お嬢様が申し訳ありません」


「何なのよ、まったく……」


 詰め寄られた際に乱れた服を整える。


「で、何なの?」


「実は彼女の妹さんが行方不明になってるってことで何か情報がないかなって思って……」


 追い詰められているような表情をしているナタルを見て、只事ではないことはわかるものの、


「……なるほど、でも悪いけど話せないわよ。殿下の方から情報の口外は避けるよう指示されてるの」


 事が事だけに混乱を避ける為、制限したのだろうか。


「事情はわからないでもないけど、貴女達が動いてどうにかなる問題でもないのよ」


 サニラの言うことは尤もだ。


 こうやって冒険者や殿下率いる騎士達が解決に乗り出しているのに、下手な真似はできない。


 だけど今のナタルを放っておくこともまたできない。


「お願い! 今頼れるのはサニラだけなんだよ」


「お願い! サニラちゃん!」


「ダメなものはダメよ」


 (かたく)なに拒否するサニラ。


「サニラさんの仰っていることもわかっています。だけど、居てもたってもいられないのです。お願いします!」


 懸命な説得をするナタルに情が移ってきたのか、サニラは仕方ないとため息を漏らす。


「……わかったけど、誰にも言っちゃダメよ」


「――っ! ありがとうございます」


 サニラは知る限りの失踪事件の内容を話す。


 事件が明るみに出て、王都に持ち上がったのは三日ほど前、アリミアという港町での大規模失踪事件が起きたことがきっかけである。


 実際、アリミアでの大規模失踪が起きていたのは一週間前とのこと。


 ある一部の居住区の子供達が一斉に行方を(くら)ませた。


 起きた当初、アリミア町長ナタルの父親の対応はアリミアにいる騎士団、ギルド支部と連携し、周辺の調査と捜索を行った。


 失踪した人数が二十を超えていた為、港町ということもあり、西大陸の奴隷商やそれと裏取引を行う拐い屋のグループ的犯行と判断し、徹底的に調べたのだが、犯人や子供達どころか犯行の痕跡すらなかったという。


 そこで手に負えないと判断した町長は、つい最近になって王都に助けを求めたのだ。


 その後、王都の騎士団、王宮魔術団、ギルドが調べたところ、ザラメキア、タイオニアの周辺の村や町、集落でも被害があることが判明。


 この周辺地域はアリミアほどではないにしろ、子供達が姿を消している――。


「……とんでもないことになってますね」


「ええ、調べたところ被害者は総勢約百名ほどと言われてるわ」


「――なっ!?」


 はっきり言って洒落にならないほどの人数に疑わざるを得なかった。


 正直、言葉にならなかった。


「これだけの人数の子供達を(さら)っているにも関わらず、その尻尾が掴めていないの。おかしな話だわ」


 今のところ犯人の目星や痕跡がないと言われたことに落胆した様子を隠せないナタルは、力なく表情を落とす。


「で、でもあの殿下ならすぐに犯人も見つけてくれるよ! だってリュッカのことだって簡単に見つけてくれたんだから」


 アイシアはナタルを励ますように、安心してと呼びかけるが、サニラがそれを否定する。


「それも難しいわね」


「えっ? 何で?」


 するとサニラは耳を貸してとジェスチャーで合図すると、みんなはサニラの側へ。


「これだけは絶対喋っちゃダメよ……姫殿下も誘拐されてるわ」


「――えっ!? 姫――むぐぅっ!?」


「アイシア!! しーーっ!!」


 大きな声で驚き、叫びかけたアイシアを俺とサニラで慌てて塞いだ。


「それは本当ですか……?」


 サニラはアイシアの口を塞いだまま、


「ええ、こちらでも最優先で探せって言われてるわ。妹が(さら)われたんでしょ? 気が気でないのは貴女ならわかるでしょ?」


 質問してきたナタルに質問で返した。


 それに対し、絶望したような表情で無言で俯き応えた。


「殿下だって、本調子で捜索なんてできてないわよ」


「そ、そんな……」


「だから私達が再調査の為、手掛かりになりそうなものを探しに行くのよ。私達は明朝、アリミアに向かうわ」


「そ、それは本当ですの!?」


「……ついて行きたいって顔ね」


 サニラは事件の概要を話す際、ナタルがアリミア市長の娘だと知ったからこその発言。


「お願いします!!」


「お嬢様!!」


「――貴女達!! 何をしているのですか!?」


 危機迫る会話をしていたせいか、周りの注意が散漫になっていた。


 不意に後ろから怒鳴られた声に驚く。


 振り向くと、怒りの表情で私達を睨むマーディと後ろには学園長がいた。


「マーディ先生!? 学園長!? 何で?」


「――何故ではありません!! 貴女達こそこんなところで何をしているのですかと訊いているのです!!」


「まあまあまあ、マーディ先生、落ち着いて――」


「落ち着いてなどいられますか!! 今がどのような状況かご存知でしょう!!」


 叱られる言われもない学園長まで怒鳴られた。


 その気迫に学園長もたじたじ、怯えている。


「えっと実は――」


 俺達は今までの経緯をマーディ達に説明した。


「……なるほどのぉ」


 学園長は納得したような表情で、立派な白髭を触りながら納得した。


 マーディの不機嫌そうな表情は、事情を説明しても変わらない。


「お願いします!! 学園長先生。この方達と同行する許可を下さい」


 ナタルは決死の思いで訴えて、深く頭を下げてお願いする。


 すると意外な方から返事があった。


「良いのではないですか? 学園長先生」


「おや、わしはてっきり反対するかと思ったぞ」


 俺達も反対意見が出るものと思っていたが、予想外の返答に驚く。


「事情が事情です。ナタルさんも今の状態では学業にも身が入らないでしょう」


「ふむ。そうじゃのぉ、学園長として許可する」


「ありがとうございます!」


 勝手に話が進んでいることに困惑するサニラを置き去りに同行が認められた。


「良かったね、委員長! よし、みんなで調査するぞぉ――」


「貴女達は許可していませんよ」


「……お?」


 意気込んだアイシアを一掃するマーディ。


「えっ? だって許可するって……」


「それは彼女だけです。彼女は妹さんが被害に遭われているから許可したのです。貴女達には関係のない話です」


 マーディは冷たく俺達を(あし)らう。


 関係ないと言われて、さすがにちょっとカチンとくるところがある。


「私達は委員長の友達です。関係ない訳――」


「そんなことはこうして集まっているのを見ればわかります。ですが被害者の気持ちが簡単にわかるものではないでしょう。安易な優しさが人を傷つけることだってあるのです」


「そ、それは……」


「マーディ先生……」


 人目もあるので、あまり言いすぎるなと諭す学園長だが、マーディにも先生としての責任があると、俺達を説得する。


「……関係ないは言いすぎたとも思いますが、我々教師は生徒の安全が最優先とされるのです。今もこうしてギルドへ赴いたのも、例の事件について聞いて、貴女達の安全を確保する為です。貴女方のご両親からお預かりした皆さんを責任を持って守り、教育するのが我々の仕事です。ナタルさんはそちらのお嬢さん――」


 ちらっとサニラを目線で見ると、サニラはマーディの気迫にビクッと反応した。


「――ギルドの方が守って下さり、実家へと帰るという形ですから、許可するのです。そちらのギルドの方のお仕事の妨げになる訳にもいかないのです。ですから許可できません」


「……私は――」


「元冒険者だからと許可できません」


 (がん)として許可を出す気配がないマーディ。


 俺達もさすがにマーディの言うことに納得せざるを得なかった。


 ナタルの力になってあげたい。だけど気持ちだけではどうにもならないということを痛感させられた。


 俺達には家族がいる。俺に至っては自分の両親じゃないからこそ、迷惑ましてや最悪なことがあるなんてことは、あってはならない。


 リリアには魔法の才能も悪魔を召喚することもできる。しかしそれもこの状況では無意味と化す。


 こんなにも自分の無力さに打ちひしがられたことがあっただろうか。


 すると、


「彼女達の同行を許可して頂けないでしょうか?」


 優しい口ぶりで話に割って入るのは、ジードだった。


「あっ、ジードさん」


「遅れてすまないね。話が中々終わらなくてね」


 このピリついた空気に耐えかねるサニラは思わず、ジードの隣に移動する。


「貴方は確か……」


「ええ、フェルサの件については感謝しております。そして、フェルサが大変お世話になっているようで……」


 マーディは記憶を辿るように、ジードの顔を見ると、思い出してもらおうとジードが催促してからの社交辞令。


 うーん……これが大人だろうか。


「いえ、こちらこそ。元気が有り余っているようで、中々教育しがいのある生徒で……」


 こちらも負けずに社交辞令。だが、目が笑っていない。


「それで何故、彼女達の許可を? ましてやフェルサさんを冒険者の道から外した貴方が……」


 それを聞いてフェルサは耳をピクンと動かし、ジードを見ると、ジードは無言で首を横に振った。


「私は別にフェルサに冒険者を辞めてもらったつもりはありません。彼女には人生の選択肢を増やす意味で学校に通わせようと考えたからです。彼女がもし、また冒険者をやりたいと望むなら私達は受け入れるつもりです」


 ジードはフェルサの境遇からマーディの説得を試みる。


 フェルサの頭をポンと手を置き、優しく撫で始めた。


「彼女は自分の種族の獣人種からはぐれ、孤独となり、やっとの思いで着いた本国では精神型というだけで追放されました。居場所も選択肢もなかったのです。彼女には孤独を受け入れ、孤独を生きるしかないのだと……」


 フェルサは少し哀愁を漂わせる表情へと変わる。


 きっと色んな辛い思いをしてきたのだろう。


「だから私達は手を差し伸べ、彼女にもっと色んな可能性を見て欲しくて、貴女方の学園へとお邪魔させて頂いたのです」


「その話は彼女達を許可する話とは関係ありませんよ」


 ちょっといい話もマーディのプライドを折ることはできないよう。


「ええ、仰る通りです。ですが言いたいことは伝わりやすくはなったはずです」


 フェルサを撫でる手を止める。


「彼女達の優しさや向上心、心の強さを尊重し、育むのも教師の役目ではありませんか? フェルサにはそれを学んで欲しいと私は切に願いました。彼女はそのあたりが希薄ですから……」


 フェルサを優しい眼差しで微笑む。


「そんな彼女がここにいるのは、そんな希薄だった心の部分が成長したのだと私は嬉しく思っているのです。感謝しています」


 ジードは感謝を示すように、頭を下げてお礼を言う。


「貴女の言い分もご理解できます。今回の事件はとても危険を極めるものです。しかし彼女達の強く育つその気持ちも汲み取って頂きたい。その気持ちはきっと不安を抱える彼女の希望にもなり得るものと思います」


 どうやらジードは途中からだろうが、話を聞いていた様子。ナタルとは初対面のはずなのに、彼女を示すように言った。


「彼女の不安を少しでも緩和する為にも、彼女達の助けたいと望む、優しい気持ちを大切にする為にもどうかお願い致します」


 正直、この精神論がこの堅物マーディにどこまで聞くのか不安だったが、そのマーディの表情は先程のような険しい表情をしていない。


「マーディ先生、彼の言うことも正しいですぞ」


「学園長先生!?」


「我々が教育をするのは何も勉強だけではない。心を育むことこそ、一番大切ではないのかね?」


 学園長にまで説得をされ始めた。


「ですが、それでも――」


「勿論、彼女達は私達が責任をもってお守り致します」


 マーディが言おうとしたことを予測して答えた。


 だがマーディはまだ納得のいかないよう、なので学園長が提案をする。


「ではこういうのはどうじゃろう。社会科見学というのは……」


「社会科見学?」


 一同ポカンとするが、気にも留めず学園長は続ける。


「そのような名目があるないでは、大分違うからのぉ。彼女達は社会科見学……つまりは学校の授業の一環として、冒険者の仕事を見学をするのじゃ」


「――なっ!? そんな屁理屈――」


「屁理屈で結構。わしはジード君の意見に賛同じゃ。ナタル君も友人と一緒の方が安心するというものじゃろう」


 学園長は振り向き、俺達に尋ねる。


「お主達の社会科見学を許可する条件は、彼らの言うことをちゃんと聞くこと。緊急時でない限り、無理は禁物。後は一番大事なことじゃ……」


 すうーと人差し指を立てて真剣な眼差しで言う。


「無事に戻ってくることじゃ。これらを守れるのなら許可しよう」


「学園長先生!?」


「……マーディ先生、彼女達を信じてあげましょう」


 学園長やジードの説得にマーディはついに、


「わかりました。許可しましょう」


 折れてくれた。


 俺達は深々とジードと学園長にお礼を言う。


「ありがとうございます!!」


「これこれ、マーディ先生に言いなさい。彼女の意見を曲げるのじゃ。ちゃんとするのじゃぞ」


「マーディ先生、ありがとうございます!!」


 するとマーディは、ふんと不機嫌そうにそっぽを向く。


「好きになさい。ただ、無事に帰ってくるのですよ。いいですね!!」


「――はい!!」


 俺達はしっかりと芯の通った返事をすると、本来の目的を果たすべく、マーディは去っていった。


「しっかりのぉ」


 その後を学園長も追って行った。


「はぁ〜……凄い迫力だったわね、あの先生」


 息が詰まったようになっていたサニラは、緊張が解けたのか、息を一気に吐き出す。


「はは……そうだね」


 説得していたジードも安堵した様子を見せる。


 そこへフェルサがジードの袖をくいくいと引っ張る。


「ん?」


「……ありがと、ジード」


 さっきのことが嬉しかったようで、珍しく頬を染めて礼を言うフェルサ。


「どうしたのよ、フェルサ」


 茶化すように言うサニラに、ふいっと顔を逸らす。


「……煩い」


「それじゃあ、えっと……」


「ナタルと言います。よろしくお願いします」


 俺達は面識があるが、ナタルはジードとは初対面だ、お世話になると丁寧に挨拶。


「ナタルさんだね、よろしく。では私達は明日、アリミアに調査へと向かう。君達は明日迎えに行くよ。それでいいかな?」


「はい」


「ジードと申されましたか、何卒宜しくお願い致します」


 レイゼンも深々とお辞儀する。


 こうして俺達はアリミア失踪事件の解明に望む為、その現場となるアリミアへと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ