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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
4章 ラバ 〜死と業の宝玉と黄金の果実を求めし狂人
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20 人形の国

 

 この世界は四つの大陸に分けられている。


 北、南、東、西大陸に分かれている。彼女達が過ごしている王都ハーメルトは東大陸にある一国。


 東大陸はどの大陸よりも一番大きく、安定した気候、自然も豊かで、ハーメルトを中心にいくつかの国々も他種族の受け付けをしており、治安も良い。


 他の大陸からの移住者もこぞってくるほどに、安定した大陸である。


 北大陸はその逆で一番小さく、西大陸の北側にポツンとある大陸。


 国も数えられるほどしかなく、人もあまり住みついていない。


 というのも極寒の地ということで、常に吹雪に見舞われているが、その分、地下には膨大な魔石が豊富にあることから、それで財政を営む国がほとんどである。


 南大陸は、東と西の間にある海域の南にある大陸。


 南大陸は昔は亜人種の国としての歴史がある大陸だったのだが、人間が進行してからというもの、大陸内での内戦が行われるようなところである。


 実際、人間の国と亜人種の国とで現在は冷戦状態であるが、いつ均衡が崩れてもおかしくないとされている。


 そして――、


「西大陸は別名、闇殺しの大陸と呼ばれているわ。闇の魔術師による事件の歴史が酷く、闇属性持ちを嫌悪する国が多いの」


 リュッカとアイシアは何時ぞや、ザーディアスが言っていた、忌み子と呼ばれているところがあるという話を思い出す。


「実際、五星教と呼ばれる組織も存在していて、闇属性持ちの根絶を掲げているわ」


「ああ、噂くらいになら聞いたことがあるわね」


「でもどうして、そんなに闇属性持ちを嫌うの?」


 サニラは呆れたように、両手を腰に当てて説教する。


「あのね、人の話聞いてた? 闇の魔術師による事件があったって言ってたでしょ? それにめちゃくちゃ有名な話があったでしょうが!!」


 怒られたアイシアは、きょとんとした顔で首を傾げると、冗談でしょと顔を引きつらせながら、アイシアを指差してリュッカ達に尋ねた。


「もしかして知らないの……?」


「えっとシア? さすがに歴史の授業にもあった話だよ」


 アイシアは腕を組み、悩むがピンとこないようで、


「忘れた」


「知らねぇ、そんな事件あったか?」


 このアイシアとバークの反応に頭を痛めたのか、ツッコむ気力をなくす。


「ごめんなさい、テテュラさん。……このバカ二人に説明してもらえるかしら?」


「わかったわ」


 くすっと笑うとテテュラは話を続ける。


「西大陸で一番有名な事件は、人形の国と呼ばれた事件よ」


「人形の国?」


「……ええ――」


 西大陸で闇属性持ちが嫌悪される最悪の事件、それが人形の国。


 ナジルスタという国がその事件の被害国となり、その事件をきっかけに、人形の国、奴隷国、不審死の国など、(おぞま)しい肩書きで呼ばれる国となる。


 事件が起こる前のこの国は至ってどこにでもある治安の良い国だった。


 だがある時、一人の闇の魔術師がこの国を訪れ、簡単な話、乗っ取ったのである。


 その闇の魔術師は天才とされる魔術師で、その膨大な魔力、その土地の地脈を流れる魔力をも使った実験を行ったのだ。


 それはこの国の至るところに術式をバレないように書き込み、この国を包むように魔法陣を生成するというものだ。


 この魔術師の好奇心のままに、どれだけの人間を操ることができるのかという、非人道的な衝動の元、行われた。


 そして成功してしまい、この国の住人は全てこの魔術師の意のままに操られてしまったという事件。


 闇属性持ちの中でも、希少な精神汚染、操作の能力に特化していたこの魔術師は、この国の住人を使ってどこまで出来るのかという実験を始めることとなる。


 身体の操作は勿論、命令、人格の変更、常識の改変、肉体的疲労の無視など、もはや常人の沙汰ではできないような精神汚染、操作をした……だけでなく、それらの人体実験をされた住人達を労働させて、私腹すら肥やしていたという。


 その為、操られているのはあくまで、精神のみで肉体的限界がきた住人は、まるで巻いたゼンマイでも止まったかのように急に止まったかと思うと、倒れて亡くなっていくという、不審死も相次いだ。


 その影響からか、誰もこの闇の魔術師の存在も知らずわからずで、対処もできず、周りの国々からは気味悪がられたり、どんな重労働も笑顔で行うことから、利用する国などあったこともあって、この闇の魔術師が生きている内に裁かれることはなかった。


 だが、この国の悪夢はまだこの時点でも序章に過ぎず、この闇の魔術師が死んでからが地獄となったのだ。


 この闇の魔術師も、闇の魔術によって寿命を伸ばしていたとはいえ、限界に到達、誰にも看取られずに生き絶えたという。


 そしてこの闇の魔術師が絶命した時、術式が解除……つまり洗脳が解けたのである。


 とはいえ、洗脳されていた際の生活が当たり前と思っていた住人達は、他の国から見れば、もはや奴隷と呼ぶにふさわしい生活を過ごしたが、さすがに馬鹿ではなかったらしく、割に合わない仕事を回す他国に不当だと訴え始めたのだ。


 だが、他国からすればそれが当たり前だったので勿論、揉め事に発展、さらには内戦とまでなったのだが、奴隷のような重労働をし続けてきた住人達は体力的にも、知識的にも劣っている訳で、あっさりと敗北。


 そこから数十年以上、奴隷国として不当な生活を余儀なくされた。


 だがそれから時代が進むにつれて、ナジルスタの歴史を紐解こうと学者達により不審死をきっかけに調べたところ、その闇の魔術師の仕業と行き着き、事件の真相が明るみとなったのだ。


 それを知ったナジルスタの住人達がどう思ったかは言うまでもないだろう。


 怒りに狂い、憎悪に染まり、悲しみに暮れたであろう。その矛先は闇属性持ちへと向いた。


 ナジルスタではその事件の真相を知るや、闇属性持ちの抹殺、闇属性持ちの根絶を目指す、五星教を立ち上げたり、闇属性持ち対策の術式の考案など、まるで今までの鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように改革を進め、今では帝国と呼ばれるほどに成長を遂げた。


 今でもその信仰心は健在で、他国では恩恵の儀と言われる属性を知る儀式も、この国付近ではこの日を処刑日と呼んでいる。


 実際この国では恩恵の儀は処刑台の広場で行われ、闇属性持ちと判断された子供を即処刑にするという、何とも残酷な日とされている。


「――というのが一連の事件よ」


 テテュラは顔色一つ変えずに淡々とこの残酷な事件を語った。


 それとは対象的にフェルサを除く一同は真っ青な顔色をしている。


「……私が知ってたのはその人形使い(ドールマスター)が操ってたってくらいで、その後の話なんて全然知らなかった」


「そ、そうだね。私達も授業でもそれくらいしか習わなかったよ」


「それもそうよ。人形の国が自国の恥をわざわざ晒す理由はないわ。とはいえ人形の国とか言われてる時点で意味もない気がするけど……」


 テテュラはそう言うと鼻で笑った。


「でもさ、テテュラさんってその西大陸の出身でしょ? リリアは闇属性持ちなんだし、怖いとかないの?」


 そのサニラの質問を聞いて、リュッカとアイシアは不安そうにテテュラを見るが、テテュラは軽く口元を緩める。


「この国は色んな人種が来るのでしょう? それぐらい何ともないわ。それに西出身者がみんな闇属性持ちに恐怖している訳ではないわ。でなきゃ私はここにいないわ」


 サニラは言われてみればと納得した表情を見せる。


 リュッカ達はそれを聞いて安堵する。


 確かにこの国ならず、東大陸には西からの移住者もいるし、ギルドもある。


 いちいちそんな恨み辛みがあっては生活なんてままならない。


 それに人間の価値観なんて、住めば都、朱に交われば赤くなるという言葉があるのだ、それぞれであろう。


「私も確かにナジルスタ帝国の近隣国出身だけど、昔の話だと割り切ってるわ。でも、ギスギスした国ではあったから移住してきたのよ」


「そっか……大変だったんだね」


 アイシアが慰めるように抱き着こうとすると、


「それはいいわ」


「がーん!!」


 拒否された。


「それにほら、着いたから」


 そんな話を長々としていたせいか、ギルドへと到着した。

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