19 一方で潜んでいた者達は
――物陰から、とある店で話し込むリリア達を見ているアイシア一行。
特にあの双子が話に入ってからは、動く様子もないことから、ユーカはつまらないとばかりに駄々をこね始めた。
「つまんなーい! つまんない! つまんない! つまんないーっ!!」
「あのユーカ先輩、一応潜んでるのでお静かに……」
「あのねリュッカちゃん! いいの? お友達があんなつまんない展開でいいの!?」
「そんな……どうと言われましても……」
思っていたデートの展開とは違って、八つ当たりを始める。
「あの娘はその辺、疎そうだから初々しいデートが見られると思ったのに、何なのこれ!」
「まあ確かに華はありませんわね」
「そうね」
「うん」
一応気になってついてきたフェルサ、テテュラ、ナタルが淡々と返事をする。
「でもリリィらしい感じだけどね」
「らしさなんて要らないのっ!! もう付き合ってらんない、帰る」
「じゃ私も〜」
ユーカは期待外れと、ぷりぷりと怒りながら帰っていく。タールニアナもその後ろをついて帰るようだ。
「まあこんなことだろうとは思いましたが……」
「……ある程度は期待してたくせに……」
図星を突かれたナタルは、ビクンと反応する。
「な、なんの事です? フェルサさん」
「簡単な話よね、恋に恋する乙女ってところかしら」
「――ちょっ!? テテュラさんまで!?」
珍しい二人がナタルを弄る。
中々微笑ましい光景にリュッカとアイシアも笑みが溢れる。
そんな風に身を潜めながら話をしていると、
「貴女達、何してるのよ」
そう話しかけた少女は、明らかに違和感のある行動をしている知人に話しかけた。
「あれ? サニラ?」
声をかけられたので、屈んでいたリュッカとアイシアは見上げるように見ると、見覚えのある人がちょっと引いた感じの表情をしている。
フェルサはさらっと名前を呼んだ。
「えっと……お久しぶりです」
「サニラちゃんだぁ! 元気してた?」
「してたけど、貴女達みたいに不審な行動はしてないわよ」
彼女達の今現在の状況から指摘すると、リュッカは素早く立ち上がり否定する。
「いや、これはその……」
「ちょっと彼女の様子を見てたのよ」
焦って考えがまとまらないリュッカのフォローを、テテュラは指差して示す。
その指差す方向をサニラは見ると、これまた見覚えのある知人を見て、事情を察した。
「なるほどね。なに? あの娘、男でもできたの?」
「いや、パラディオン・デュオのペアの子で……」
「はーん……」
「それは良かったぁ」
両手に紙袋を抱えて、遅れてバークは現れた。
「ちょっと、遅いじゃない」
「遅いじゃない、じゃねえよ! 持てよ、少しは……」
「荷物持ちでしょ、あんたは」
こちらの関係も相変わらずなようで、苦笑いを浮かべたリュッカ。
「先輩達、この二人を見た方が盛り上がるんじゃない?」
「そうかも」
ユーカ先輩達の期待する展開がお望みなら、明らかにデートしてますみたいなこちらの二人を見てた方が良いのではとテテュラは言う。
「ていうか、ごめんなさい。そっちの二人は初対面よね。私はサニラ、こっちの馬鹿はバカよ」
「おい! ……バークだ。フェルサが冒険者だった時、同じパーティにいたもんだ」
「そうですか、私はナタル。こちらはテテュラさんです」
自己紹介に預かるとテテュラは軽く頭を下げる。
「それでお二人は買い出しですか?」
「まあね。ここのところ魔物退治で忙しいから、減る物は減るのよ」
「ねぇ、リュッカ。この二人は冒険者なのよね?」
「うん、そうだね。それがどうかした?」
「アイシアのポチの鱗とかギルドに持ちかけやすくなるんじゃないかしら」
「あ、そうだね」
「何の話よ?」
学生だけでギルドへ向かい、買い取りをしてもらうと、人によっては舐められたり、正当な取り引きをしなかったりする可能性がある。
何せ学生が龍の鱗を買い取ってもらうのだ、買い取る側からしても、安く仕入れられるチャンスと捉える可能性は大いにある。
だが彼女らならフェルサとの関係もあってか、印象も悪くないし、魔物退治に忙しいと聞いたテテュラはある程度、腕の立つ冒険者と思っての発言だ。
「実はね、……シア」
リュッカはアイシアにポチの鱗とかが入っている袋を見せるように言うと、アイシアは腰に下げている袋を外して、中身を広げて見せた。
「これって、龍の鱗!?」
「しかもめっちゃあるじゃねえか!?」
「一応これでも一部なんだけどね」
「これで一部なの? はー……どうしたの、これ?」
「とりあえずこの場を離れない? ちょっと積もる話になるでしょ」
いくら向こうは話に集中しているとはいえ、見つかって何とも言えない状況になる訳にもいかない。
「そうね……」
「何でちょっと残念そうなの?」
「う、うるさいわね!!」
ユーカほどではないが、ある程度期待はしていたらしく、ナタルは残念そうだ。
一同はテテュラの提案に乗り、その場を後にし、買い出しの荷物を置きにギルドへ向かうことに。
賑わう城下町の商業区を彼女達はお散歩でも楽しむかのような足取りで進む。
バークは彼女達に合わせるのが大変なよう。荷物を抱えている以上、早めに行きたいが、サニラにまたドヤされると、速度を合わせたり、誤って先に行き過ぎたと思うと立ち止まったりと大変な様子だ。
だがそんなバークの苦悩も虚しく、彼女達は構わずお喋りをしながら歩いている。
「――なるほど、そういえばフェルサが話しているのを聞いてたけど、本当に赤龍と契約してるのね」
「そうだよ。可愛いんだぁ。お目目がパッチリしててさ――」
「あっ、そういうのはいいわ」
召喚魔自慢を拒否されて、凹むアイシア。
「まあ確かに私達が一緒の方が売りに出すのにはいいわよね。わかったわ、立ち会ってあげる」
「ありがとう」
一応選択肢として、被服店や武器や防具を扱うお店などに直接売り込むことも検討したが、ハードルが高いと考えた。
「それにしてもサニラさん。フェルサさんから聞いていたというのは?」
「たまにこの娘、ギルドに顔を出すのよ。その時にね。だから色々聞いてるわ、貴女のこともね」
ビシッとリュッカを指差す。
「わ、私?」
「そうよ……。何でも貴族に迷宮に突き落とされたそうじゃない!! その腐れ貴族、私の地属性魔法で埋めてやろうかしら」
「や、やめて下さい! 私はこの通り大丈夫でしたから」
「後はリリアが悪魔と契約したとか、マーディって先生が鬼とか……」
「フェルサちゃん……」
「だって……」
フェルサはそっぽを向く。
どうやら愚痴を聞いてもらいに、ギルドに足繁く通っていたらしい。
リュッカ達より第三者であるサニラの方が愚痴を聞いてもらうには都合が良いだろう。
「でもフェルサさんがそんなにお話する相手だなんて……。私も同じ寮にいますが、仲良く喋っているのは、リュッカさん達くらいですよ」
「死線をくぐり抜けた仲だからね」
「死線って……」
サニラ達は冒険者だった時に、リュッカ達は迷宮でのことを言っているのだろうが、皆苦笑い。
「まあフェルサと仲良くしてくれているようで、聞いてて安心してるからいいけど……」
「うん! 仲良くしてまーす」
サニラはサニラで学校での様子を話すフェルサを見ているのは安心できるようで、今のアイシアやリュッカ達を見て、今一度安心した表情をして見せた。
「あんた達もフェルサと仲良くしてくれてんだろ?ありがとな」
「ええ」
綺麗な顔立ちに、サニラとは違う女性らしさを感じてか、返事をしたテテュラを見て、頬を染めて照れた。
「――何照れてんのよ!!」
思いっきりバークの足を踏みつける。
「――いっでぇ!!」
「このやり取りも久しぶりだね」
「あはは……そうだね」
「相変わらずだね」
このツンデレのやり取りを懐かしんで見ていると、話題を逸らすように、テテュラのことを尋ねる。
「貴女、この国の人間じゃないわよね?」
「ええ、そうね」
「へえ〜、どこから来たの?」
少し表情を曇らせると、相変わらずの冷静な口調で言う。
「西よ」
「西って、西大陸の?」
「ええ、そうよ」
ちょっと地雷踏んじゃったみたいな表情をするサニラ。
だがその表情の意図を理解できないバークとアイシアは不思議そうな表情で尋ねる。
「どうしたの? サニラちゃん」
「変な顔してさ……」
「はあ!? あんた達、馬鹿じゃないの!?」
サニラは二人にツッコんだ後、申し訳なさそうに焦りながらテテュラの方へ振り向く。
「えっと、ごめんなさい。まさか西大陸の人だとは……」
その様子を見て軽く、くすりと笑う。
「大丈夫よ。そんな顔しなくてもいいわ」
「はは……もう! リュッカ達は知ってたんなら言いなさいよ!」
「えっと、私もテテュラちゃんのことは聞いてなくて……」
「そうね、まさか西大陸の出身だったとは……」
リュッカとナタルも驚いたように話す。フェルサもこくこくと頷く。
「……貴女達、彼女と友達じゃないの?」
「友達だけど、テテュラちゃん、自分のことあんまり話してくれないから……」
少し残念そうに話すアイシアに思うことがあるのか、テテュラはちょっと顔を伏せる。
「で? 結局、西出身だからなんだよ?」
「あんたねぇ! デリカシーってのを覚えなさい!!」
「――あでぇっ!! やめろ! バカ!!」
二人が痴話喧嘩みたいなのを始めると、それを止める口実か、テテュラが口を開く。
「まあいいじゃない。わからないなら教えてあげるわ」
「えっ!? いや、いいわよ――」
「うん。教えて!!」
「ちょっと!!」
止めるサニラに、興味を示すアイシア。
アイシア達からすれば、自分のことを話してくれるテテュラは、嬉しいのだろう。
ギルドへの道行きがてら話を始めた。




