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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
4章 ラバ 〜死と業の宝玉と黄金の果実を求めし狂人
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17 商品開発会議

 

 正直、この店には来たくなかったと思いつつも、足はここへ向いた。


 あの金食い虫みたいな婆さんが店主をやっている魔道具屋さん。


 他に当てもないので入ることに。


「いらっしゃい……おや、あの時の銀髪の娘だねぇ」


 不敵な笑みでこちらを見るのは、以前アイシアに魔導書を買わせた婆さんだ。


 納得した上だから別に構わないはずなのだが、どこか胡散臭いんだよなぁ。


「おやおや、可愛いボーイフレンドが出来たのかい?」


 シドニエを見て、茶々を入れると、シドニエはふるふると激しく首を横に振って否定する。


「い、いえ、そんな関係では――」


「このやり取りはさっきやったよ。それよりもおばあちゃん」


 この婆さんとのやり取りは短い方がいい。話が膨らんで余計な物まで買わされては堪らない。


「つれないねぇ、何だい?」


「魔法樹って売ってる?」


「変わった物を欲しがるんだねぇ、待ってな」


 どうやら在庫があるようで、奥まで見に行った。


「あの、本当に木刀なんかで大丈夫なんですか?」


 当然の疑問だろう、だけどこの世界では魔力がある。シドニエの事情を考えると、このくらいの武器の調達なら丁度いいはずだ。


「まあ言いたいことはわかるけど、木って割と丈夫だし、さっき杖を棒術みたいに使えるって言ってたし、木刀でもいけるでしょ」


「そうですね。少ない資金の中からなら、これくらいが妥当でしょうか?」


「そうだね、将来的には普通の武器を検討すればいいけど、事情が事情だし、妥協点は必要だよ」


 実際、資金面でパラディオン・デュオまで間に合うかは微妙だし、間に合っても魔道具の扱いには多少の慣れと時間を要するだろうし、解決策としては無難なはずだ。


「待たせたねぇ、ほれ」


 婆さんはふよふよと浮かせながら持ってきた。さすがファンタジー。


 その魔法樹の材木はちょうど木刀にするには手頃なサイズの物だった。


「ありがとう、おばあちゃん。いくら?」


「タダでいいよ」


 自分の耳と目を疑い、パチクリと婆さんを見た。


「何だい、その目は」


 あんな口八丁手八丁で商売する婆さんがタダ。何か企んでいると考えたので、


「じゃ、結構です。行こ、シドニエ」


「えっ!? ちょっ!?」


「ちょっと待ちな! 小娘! ……さっきの話聞いたよ」


 どうやら材木を取りに行っている際にしていた会話を聞かれていたようだ。


「魔法樹を木刀にするらしいねぇ、上手くいくのかねぇ……」


 こちらの興味を煽るように話しかけてくる。この婆さんの常套手段だろう。


「どこぞの武器屋でヒントを得て、魔法樹を買いに来てくれたようだが……」


 げっ! 鋭い!?


 どこをどう聞いたらそう解釈できたのかわからないが図星を突かれる。


「使い道が違うなら、無駄な買い物になるがねぇ」


「あのさ、オルヴェールさん。話聞かない?」


「……」


 黙って立ち聞く俺を、あの婆さんはしたり顔で見ていることだろう。


「金のなる話ならこのばあば、力になるよぉ。詳しく話な」


「……婆さんは魔法樹で木刀が作れない理由を知ってるの?」


 くるりと振り向き様に尋ねると、食いついたねという表情をするが、少しそっぽを向いて、


「さてね」


 と答えた。


 あくまでこちらの情報を提示しないと協力してくれないようだ。


 このばあば、タダでは転ばない。


「……わかったよ、話すよ。魔法樹を買うのはおばあちゃんの話を聞いてからね」


「ああ、それで構わないよ」


 俺は渋々、この婆さんに事情を説明した――。


 それを聞いたこのばあば、ばっさりと結論を言い放つ。


「魔道具を買いな。いいのを見繕ってやるよ」


「予算がないって聞いてた?」


「聞いちゃいたが、ウチはツケもきくよ」


 魔法樹で木刀を作れないことを知っているようで、店で商品を買わせたいようだ。


「こっちの事情を話したんだ、今度はそっちが情報を出す番だよね、おばあちゃん?」


「何のことだい?」


「おばあちゃん?」


 ずいっと圧をかけるように言い寄る。


 弱みを握って買うもん買わせるつもりか、この婆さんの思惑通りという訳にもいかない。


「わかった、わかったよ。話すが、とりあえずあんた達が作ってもらおうとした場所で詳しく話そう。その方がいいだろ?」


「全く、往生際の悪い……」


 俺達は先程の武器屋へと戻る。


 ちなみにさっきから跡をつけているみんなも一緒にだ。


「げっ! タバナ婆さん……」


「げっとは何だい、というかあんたんとこかい」


 どうやらお知り合いのようで、同じ商業区だし取り扱ってる物は違えど、似たり寄ったりの部分もあるだろう。


「じゃあおばあちゃん、話を聞かせてもらおうか?」


「あいよ」


 ――魔道具屋さんの婆さんの話はこうだ。


 魔法樹で木刀を作ろうという試みはあったらしい。といっても規模は小さいが。


 考えとしては理解ができるものだった。


 この王都ハーメルトの周りには、タルメリア大森林やザルメキアの森といった、魔法樹が豊富にある場所が多く健在している。


 保護活動も行われており、安定した確保ができることから、魔法樹から得られる恵もリーズナブルな値段で確保できる。


 なのでそれを試みようと考えた商人達は、下手に高い魔道具よりもコストが安くすむ、魔法樹の木刀を入り口にできないかと考えたようだ。


 それなら肉体型の人には通常の木刀よりも丈夫な物として、精神型の人には新たな可能性の幅を広げてもらう為と。


 だがそんな簡単な話ではなかったという。


 本来、魔法樹という物は、通常の物よりも自然に魔力を宿しやすく、馴染みやすいことから、魔法の杖や弓などに用いられる。


 だが木刀のように打撃型の武器、要するには近接用の武器にするには、その魔法樹の特性上、問題があった。


 精神型がその木刀を振って、武器のように使った際、クレームが相次いだのだ。


 魔力の浸透率が良すぎた影響から、魔法樹の木刀は変形や変質を起こしたのだ。


 この話だけを聞けば、魔法樹で作られた武器は変質するように聞こえるが、例えば()の部分が魔法樹で作られた物も存在するが、そのようなクレームは出ていない。


 何故か。魔石や刀身がその魔力の浸透率に抑止力をかけているからである。


 魔法樹も丈夫さや魔石等の組み合わせの相乗効果を見込んで使われることが多い。


 そういう用途として使う分には支障は見受けられない。その魔石や刀身などの部分の効果に魔力が集中する為、魔法樹の部分には影響が出ない。


 だが木刀は名の通り、魔法樹のみを使用する。魔力の浸透率はもはや言うまでもないだろう。


 だが過度な変形、変質を生む訳ではないが、微妙な変化から感覚が鈍るなんてことは珍しい話でもない。


 まして商品として開発しようというのだ、信用問題を疎かにはできない。


 だからといって魔石を組み込んだり、付与魔法を施したりすると、コスト低減という名目が崩れる。


 正に本末転倒である。


 杖が大丈夫なのに、どうして木刀がという声もあったが、それらはそもそも使い方自体が違う為、魔力の流れそのものが違う影響から違いが出るそうだ。


 例えるなら、同じ肉体労働でも違う筋肉を使うと痛み方や場所が違うのと同じことだという。


 総合して結論から言うと、精神型が扱うぶんには変形、変質を起こし、肉体型が使うとそう変化もあまりない為、断念したとのこと。


「ほえ〜……」


「何だい、そのマヌケな声は」


 たかが木刀一本作るのに、これだけの課題が出てくるとは思わなかったと驚きを隠せない。


「あんたの考えは悪くないよ。精神型に前衛をさせるなら魔道具が当たり前だが、安く済ませようと、精神型に馴染みがある魔法樹を使う発想までは良かったよ。だがねぇ……」


「魔法樹を使って木刀を作っても、この坊主が馴染む物にはならない訳だな」


「う〜ん、いい手だと思ったんだけどなぁ」


「諦めてウチの商品を買わないかい?」


「おばあちゃん、さっきは金の成る話だったら乗るって言わなかった?」


「成るようなアイデアを出しな、話はそれからさ」


 要するには魔力の浸透率が良すぎるのが問題なんだ。


 その課題をクリアするには、魔石や別の素材、付与魔法を施せばいいが、さっきこの婆さんが言った通り、本末転倒だ。


 とはいえ、普通の木刀や武器じゃ、そもそも精神型のシドニエが近接戦での活用ができない。


 ていうかそれができるなら、ロングソードで事足りる話だ。


 俺達がそう頭を悩ませていると、


「お姉様、何やら面白いお話をしておられますよ」


「そのようですね、弟よ。興味が唆られるお話ですね」


 店のレジ前で固まって会話をしている俺達の後ろから声が聞こえた。


 振り向くとそこには髪色以外は瓜二つの双子がいた。


 服装は勇者校とは違うが、学生服のように見える。髪型はまるっとした艶のある髪、カールした前髪が右わけと左わけで違うようだ。


 二人共、顔が丸く、目元はパチクリとしている。まつ毛が長い方がお姉様と呼ばれていた方だろうか、両方ともズボンなので、髪色がもし一緒なら見分けがつかない。


「やや、掘り出し物があるかと思い足を運びましたが、まさかこのような掘り出し物が出てくるとは想定外ですね、お姉様」


「そうですね、弟よ。まさか噂に名高いオルヴェール嬢にお会いできるとは感慨の至り……」


 ルイスとはまた違う、真っピンクの頭を深々と下げた。弟の方はこちらの国ではよく見かける茶髪のように見えるが、姉に寄せているのか若干桃色っぽく見える。


 ていうか、弟よって……呼び方。


「さて……」


 深々と下げた頭をばっと素早く上げる。


「先程のお話、我々にもお教え願いたい。きっとお力になれると思いますよ」


 この双子と思しき二人は表情があまり出ないのか、口元だけが少々緩んだだけの笑顔を、揃って見せた。

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