16 武器探しは難航を極める?
商業区を歩く俺達とすれ違い、道行く人達はほんの少し足を止めてこちらを見る。
女性からは、可愛い子ねとか、綺麗とか褒め言葉が囁かれる中、男性からは見惚れている視線と後は羨んだり、妬んだりしている視線を感じる。
中には、
「貢がれてるってわかれよ」
――とか聞こえた。学生でまだガキなんだから、たかれるほどの金がないって思えよとも思ったが、酷い妬みである。
シドニエも周りの視線を理解しているようで、おどおどとした態度で隣を歩く。
こんな状況で隣を歩けるだけ立派だ。
俺なら少し距離を置いて、後ろからストーカーみたいについて行く感じになりそう。
そんな感じで目的地に到着。そこは以前、リュッカの剣を買いに来た場所だ。
ここへ向かいながら相談していたことだが、防具は今まで通り、学校からの支給品や制服で賄える為、武器を優先しようとのこと。
シドニエのことを考えると、おそらく武器はオーダーメイドになる可能性が高い。
それを考えると資金面も厳しい気がするが、とりあえずは聞いてみてからの話だ。
俺達は鋼臭い店へと入ると、ガタイの広い店長がレジで店番をしていた。
「いらっしゃい……ん? おお、あの時の銀髪の嬢ちゃんかい」
見覚えがあるぞと懐かしむように話す。
「覚えててくれたんですか?」
「そりゃな。お前さんみたいな綺麗な銀髪嬢ちゃんは、そうはいないからな」
わかっていたことだが、やはりこの銀髪は目立つようだ。こういう店で馴染む的な話なら、むしろアリな気もする。
だが店長はちょっと眉を曲げて、こちらを見る。
「だが、ウチに来る格好じゃねえわな。デートなら他所様でやってくれ」
シドニエはともかく、確かに俺の格好はこんな刃物や砥石を扱う場所に来る格好ではないだろう。
「私達はそういう関係ではないですから。それと……」
俺はシドニエに聞こえないように店長に近付くと、耳打ちしながら、窓の外を指差す。
「この格好は向こうの人達がちょっと……」
店長は窓の外を目線だけ動かして確認すると、何人かちらほらと物陰に隠れているのが見えた。
店長は察したのか、はーんと言いたげな表情。
理解してもらえたようで何より。
「まあとりあえずわかったよ。で? 用件は?」
「実は彼の武器について相談があって。精神型が扱う武器ってないかな?」
「だったら杖でも扱ってるところに行くんだな」
「そうじゃなくて、精神型でも近接戦ができる剣とか探しているの」
「おいおい……」
そのような相談事は受けたことがないのか、困ったように頭をぼりぼりとかく。
「取り扱ってないんですか?」
「ない訳じゃねぇ。だがお前さんらには手が届かねえと思うがな」
「それは何なの?」
「魔道具だよ」
失念していた。確かに魔道具、要するに魔剣とかなら精神型でも肉体型に引けを取らない戦いができるだろう。
店長は店の奥からいくつか持ってきた。
「まあウチで取り扱ってるのはこんなもんだ」
柄の部分に赤い魔石が埋め込まれた刀身も赤に輝く剣や緑色の魔石を組み込まれた黒々とした短剣、ゲームの中でしか見たことがないチャクラムなんて武器までお目にかけた。
「何だ、あるじゃないですか」
「金はあるのか?」
「一応、十万くらいなら……」
その金額を聞いて、呆れた様子で手を振る。
「そのくらいの端金じゃダメだ。最低でもそれの三倍はないとな」
「最低で三倍!?」
「当たり前だろ! これくらいが相場だ。何せ普通の武器と素材がそもそも違うんだ、値段だって張る。だがその値段に見合うだけの力は、ちゃんとあるぞ」
この魔道具達を見ると、質の良さそうなのは理解できる。
「それに例え買えたとしても、強力な分、扱いが難しい。精神型でも扱えるからって振れるもんでもねえよ……」
「確かに……」
貴族達は英才教育を受けたりして、この辺はクリアしてるだろう。
実際、カルディナやハーディス、ウィルクが扱っている武器を思い返してみると、小さくだが魔石が埋め込まれていたように思える。
装飾かと思ったが、多分魔石だろう。
だがシドニエは平民出身で、剣の素振り程度しか出来ない。そんな奴に扱いの難しい武器を渡すのは、赤子に包丁を持たせるようなものだろう。
「一応、こんなのもあるが……」
出したのは刀身が薄い剣。
「何? そのぺらっぺらは……」
「曲芸用のやつだな。軽くて切れ味がいいから、空中で何か切るみたいな芸でやってた奴がいる。ただ……脆い」
一応シドニエは手に取ってみる。手首をスナップできるほど軽い様子。
「軽いですね。僕にも扱えそうですが……」
「まあ魔物退治には使えないわな」
こんな武器を使おうものなら、大道芸人にでもなれと笑われるだろう。
「オーダーメイドは?」
「するならやっぱり魔道具になるだろうな。ここにあるヤツよりも値が張るだろうな。それに兄ちゃんに使えつつ、魔道具じゃないオーダーメイドの物って言ったら、もっと張るんじゃねえか?」
店長が親切心を込めて諦めろと言ってくる。
確かに全部店長の言う通りだ、解決策が見当たらない。
「何かいい手はないかな……?」
「ごめんね、僕の我がままのせいで……」
「男が女の足引っ張ってんじゃねえよ。杖とか魔導書なら精神型でも問題ねえだろ? 大人しく魔法使い目指しな。肉体型の奴らより恵まれてんだからよ」
シドニエは何度も聞いたような感じだ、少しだが落ち込んだ様子、言われ慣れている反応だ。
「あれ? 逆はどうなの?」
そういえば肉体型が精神型のような魔法を使いたいって聞かないと思った。
「いるにはいるぞ。だが、そっちの場合はデメリットが酷い。魔法を使えるようにする訳だからな……」
呪いとか魔力回路の欠落とかだろうか、とりあえずろくでもないことになりそうなのは、目に浮かぶよう。
「とりあえず諦めてくんな。杖とかにしときな、棒術とかも近接戦だろ?」
「……」
言われてみればと、ちょっとポカンとした表情をした、そしてある一つのことを思い出した。
「ねえ、杖ってさ、魔法樹から作られるんだよね?」
「おう。そうだが……」
「売ってる?」
「いや、取り扱ってねえな」
「どこでなら取り扱ってる?」
「あの、さっきから何を……?」
「木刀だよ、木刀」
店長とシドニエは驚いた顔をする。
「おいおい、木刀ってこれか?」
店長は雑に置いてある木刀を無造作に持って言う。
「それはあくまで普通の木から作られた木刀でしょ? それでも魔力を込めればある程度威力は出るだろうが、せいぜいでしょ?」
「まあ……」
「でも、魔法樹で作った木刀なんてある?」
店長は記憶を辿るように考え込むが、
「聞いたことねえな。杖を作るくらいしか、考えがなかったからな。先人達も……」
多分、作った人はいるだろうが、出回ってないだけだろう。試してみる価値はある。
「魔法樹があったら作れる?」
「まあ、魔法樹って言っても木だからな。変に硬くなきゃ、やれるぜ。魔法使い御用足しの所にあるだろうさ」
「持ち込みなら安くしてくれるよね?」
「まあ……」
「上手く商品として価値がありそうなら、情報料としてもっとまけてくれるよね?」
ずずいっと言い寄る。
「お、おう……」
思わずオッケーの返事をしてしまう店長。
「言質取ったからね」
「あっ……!」
しまったとばかりの反応をするが、遅い。俺はすぐ様店の扉前まで移動する。
「ほら、シドニエ行くよ。魔法樹の調達だ!」
「あ、はい!」
「あっ! ちょっと待て、嬢ちゃん……」
シドニエと共にさらっと店を後にした。
「やれやれ……」
若者の行動力に関心と、無鉄砲さに呆れる店長だった。




