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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
4章 ラバ 〜死と業の宝玉と黄金の果実を求めし狂人
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12 変異種との戦闘

 

 ソフィスとユーディルペアは他のペアと同様、自分達の力量の確認を行っていた。


「まあこんなもんだろう、どうです? ソフィスさん」


「そうですね。ユーディルさんの魔法も素晴らしいです」


 ソフィスは元々妬むより、尊重が先に出るタイプの人間のようで、リュッカ同様あまり人を疑ったりはしないよう。


 とはいえ、アーミュみたいな明らかな悪意を向けられれば、彼女があのようなことをしてしまうのは仕方がないとも捉えられるだろうか。


 そんな尊敬に似た褒め方をされると、ユーディルも満更ではない様子。


「いやぁ、これぐらいしっかりできないとソフィスさんに申し訳ないからね。敵の前に出て戦ってくれてる訳だし……」


「時間も沢山あります。課題を見つけて、じっくり検討して大会に臨みましょう」


「お、おう」


 真面目に、でもどこか危なっかしさが見え隠れする彼女に思うことがある表情。


(リリアちゃんやアイシアちゃんには劣るが、この()も。いや、でも確かこの()は貴族だったような……)


 まあ考えていることは良いか悪いかの定かは置いておくとして、順調な関係を築く土台を建て始めた――その時だった。


「ブフォ……」


 森の木々の中から鼻息を鳴らし、その緑色の巨大が二人の前に現れる。


「――っ!」

「――なっ!?」


 二人は気付かなかった。


 何故こんな巨大な猪がこんな近くまでいて気付かなかったのか。


 理由は至極単純、木を隠すなら森の中の如く、この猪は身体の大きさこそ、グレートボアと同じほどだが、身体の色がまるで違う。


 まるで苔のような土混じりの緑色をしている。さらには身体からつたのような茎も生えている。


 正に一目瞭然だ。


 だが、この鬱蒼とする森の中から気付かれずに出てくるには充分な色合いと言えるだろう。


 二人は一目で理解する。


 こんな魔物は見たことがない、変異種だと。


「――ソフィスさんっ!!」


 咄嗟に声を上げたのはユーディルの方。動揺し、固まる彼女に喝を入れる。


「は、はい」


「あれは変異種だよね」


「お、おそらく……」


 グレートボアとそっくりの色違い。しかし、その見た目の生態は勿論だが、滲み出ている雰囲気もどこか凶々しい。


 見た目はどこかのファンタジーゲームにでも出てきそうな聖獣だが、荒い鼻息、どこか焦点の合わない目線、グレートボアとは違う異質な生態が、彼らに恐怖心と共に緊張感を飛躍させる。ふ


「誰かに報せに行った方が――」


「来るぞっ!!」


 相談をさせる暇を与えてはくれなかった。


「ブオオォォーーっ!!」


 その緑の巨獣は轟音のような叫び声と共に突進してくる。


 ソフィスは前へ出るが、


「――駄目だ!! 躱せ!!」


 その変異種は身体を定め突進している訳ではない。大きく身体を揺さぶりながらの突進。


 力の重心が定まらない突進攻撃に対し、前衛姿勢の行動はもはや自殺行為に等しい。


 ユーディルの叫びは届かず、


「――きゃああっ!!」


 その大きく振る鼻頭に当たり、強く吹き飛ばされる。


 その無残に宙に浮いた彼女を見たユーディルは、驚愕の表情を浮かべる。


 もう少し早く判断出来ればこんなことにはとか、男の俺が前に出て時間を稼ぐべきではなかったのか、肉体型である彼女をすぐに走らせて、報せに行かせるべきだったのではないか、そんなことを走馬灯のように流れた。


「――ぐうぅっ!」


 宙に軽く飛ばされたソフィスは受け身も取れず、強く地面に叩きつけられる。


 そんな山なりに宙に浮いた彼女を目で追っていたユーディルは、叩きつけられた際に声を上げた彼女に駆け寄ろうとするが、


「ブフォッ! ブオオォォッ!!」


 彼女を吹き飛ばしたその勢いのまま、ユーディルに突っ込んでくる。


「――うわああーーっ!!」


 ユーディルはもはや叫び、身を守る為に腕で防御する咄嗟的な行動しか取れなかった。


 後ろには吹き飛ばされたソフィスもいるが、そんな判断を素早くできる訳もなく、強く目を瞑った。


「……」


 ドスーンっ!!


 大きなものがぶつかった音がした。


 ソフィスのやられた衝撃を見て、覚悟していたユーディルだったが、痛みがこない。


 ゆっくりと目を開けると、


「ブフォッ! ブフォッ!」


 変異種が滑っていて、足元がおぼつかない姿があった。どうやら先程の音は変異種が転んだ音だったようだ。


「大丈夫ですか!?」


「間に合って――ソフィスちゃん!?」


 駆けつけたのはリュッカとロバックとアイシア。リリア達より近くにいたようだ。


 リュッカとアイシアはソフィスの元へ、ロバックは少し身体を震わせながらも、変異種の前で杖を構える。


「お前、どうやって……?」


「この魔物の足元を水浸しにして、滑りやすくしただけです! 構えて!」


「――ロバックさんはこちらで治療を! その魔物の対処は私達が……」


 適材適所と言わんばかりにリュッカは素早く対応する。


 ロバックも自分が治癒魔法を使えることから、リュッカの対応に乗って、リュッカ達と交代する。


 変異種もすぐに起き上がった。興奮した様子で身体を揺さぶっている。


「リュッカ、この子……」


「変異種だね、ユーディルさん!」


「は、はい!」


「アイシアと一緒に援護をお願いします。前衛は私が……」


 この作戦にさっきの二の舞いになるのではないかと、頭に過る。


「――いや、あいつはまずいって……」


「わかってます、でも逃がしてくれそうにはありません」


 リュッカは変異種であるということに返事をした。


 狙いの定まらない突進をしてくることはわかっていない。


 だが伝える時間もなく、変異種は突進を始める。


 その大きく首や身体を揺らして無造作な突進をしてくる姿を見たリュッカ。


「ソフィスちゃんのところには行かせちゃダメ! 二人共、後ろに下がりつつ、分かれて距離を!!」


「うん!」


「わ、わかった」


 リュッカは変異種を誘導しつつ、距離を取る。


 その隙にロバックとソフィスは戦闘区域外へ、ユーディルとアイシアは距離を取りつつ、変異種に攻撃できる範囲で構える。


「――くっ!!」


 紙一重で変異種の突進を躱したリュッカ。


 変異種は強く木に衝突するも、すぐに態勢を立て直し、こちらを見た。


 かなり興奮した瞳でこちらを見る。その木も生々しく折れる音を鳴らして倒れる。


 その迫力にユーディルは息を呑んだ。


 普段の魔物も十分な注意をして戦ってはいるものの、やはり人間とは慣れるもので、この区域内にいる魔物ならと軽く見ていた節もあった。


 だが今はどうだ。グレートボアと変わらない大きさの魔物。やっている行動もグレートボアと変わらない筈なのに、変異種というだけで、こんなにも力が違う。


 圧倒的な存在感をユーディルは感じ取っていた。


 だがユーディルはもう一つ、そんな場にいるにも関わらず、恐れもせず、果敢に睨みを利かせるリュッカやアイシアに驚いた。


 彼女達は女の子なのに、どうしてこんなにも勇敢に戦えるのか、彼女達の表情を見て、自分が情け無く感じた。


「アイシア! この変異種はおそらく地属性だけど、植物種のはず。上級呪文――」


「――エクスプロードっ!!」


 変異種の目頭に一瞬、火花が散る。


 すると――。


 ズドドドーーンッ!!!!


 ――激しい爆音と共に、変異種を巻き込むように強い爆発が起きる。


「きゃああああっ!!」


「うおおっ!!」


 その強い爆発から起きる爆風に晒されながらも身を守りつつ踏み止まるリュッカ達。


 その爆発は一瞬で変異種を黒焦げにした。


 リュッカ達はその惨状に呆けていると、


「おーい、大丈夫?」


「大丈夫ですか!?」


 遅れてきたリリアとシドニエの姿があった。


「リリアちゃん……」


 俺達はみんなの元へ駆け寄る。


「みんな無事?」


「今のはリリィが……?」


「うん。見覚えのない魔物が見えたから……」


 俺達はその叫び声を聞いて近づいた時、既にソフィスが倒れていたのを見た。


 助けに駆け寄ろうとしたシドニエを止めて、火属性の上級魔法で仕留めようとした時、リュッカ達が助けに入ったので、タイミングを見計らい呪文を詠唱、撃ったのだ。


「それよりソフィスは大丈夫?」


「大丈夫ですよ。今は気を失っていますが……」


「そっか、良かったぁ」


 アイシアは安心したのか、腰を抜かしたように地面に座り込む。


「美味しいところ、貰っちゃってごめんね」


「ううん、大丈夫だよ。それよりリリアちゃん」


「うん?」


 俺達は焦げ付いた変異種に近付く。反応もせず、ピクリとも動かない辺り、どうやらちゃんとやられてくれたようだ。


「これ変異種だよね」


「多分。グレートボアのかな?」


「ぼ、僕、変異種なんて初めて見ました」


「そうなんだ。私達は迷宮(ダンジョン)でちらほら見かけたから、珍しい実感なかったよ」


「それにしても何で変異種がこんなところに?確か騎士さんとか冒険者さんとかが、討伐してたって話だよね?」


 ここ最近、魔物の大量発生や変異種の出没などを小耳に挟んではいた。


 だがこの付近の危険な魔物の討伐は済んだと聞いていたのだが、だからここで特訓しようと考えた訳で。


「とりあえずソフィスの事が心配だから戻ろうか」


 リュッカに魔石の回収と変異種の身体の一部の採集をしてもらい、俺達はその場を後にした。


「どうかした? ユーディルさん?」


「いや……」


 ロバックは落ち込んでいる様子のユーディルを気にかけた。きっと何も出来なかったことを悔やんでいるように見えたのだ。


 ロバックの思う通り、ユーディルは自分の何も出来なかったこともそうだが、あわよくばなんて甘い考えをしていた自分に――背負っているソフィスを見て――情けなさを感じていた。


 自分にできるのが彼女を背負うだけだなんてと。

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