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問おう! 貴方ならこの状況、歓喜しますか? 絶望しますか?  作者: Teko
4章 ラバ 〜死と業の宝玉と黄金の果実を求めし狂人
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11 実力検証

 

 ――その翌日、課題を炙り出す為、リュッカ、ロバックペアとソフィス、ユーディルペアと今日も一人のアイシアを連れて、タイオニア大森林の入り口付近での実戦。


 魔物との実戦を行うことで、お互いの戦い方を生で確認を行う。


 その方が感覚が掴めるというもの。


 騎士科に関しては、俺達、魔法科以上に魔物との実戦をこなしているだろうが、魔法使いとの連携はたまにしかやらない。


 お互いを意識し合い、連携を取るというのはそう簡単にできるものではない。


 何事においても確認工程は大切ということだ。


 特に俺に関してはシドニエが精神型の前衛ということもあって、課題はやるまでもなく山積みだが、実戦からもおそらくはボロボロと課題がこぼれ落ちてくるに違いない。


 出すものは出してしまおうということだ。


「今日はよろしくね、リリアちゃん」


「こちらこそよろしく、ソフィス」


 ソフィスとはあの事件以来、仲良くしている。特にリュッカとの仲がいい。


 というのも、迷宮(ダンジョン)の対応策での自分との差を痛感して落ち込むどころか、尊敬の念を抱いている。


 フェルサとはまた違い、自分に近しい実力の持ち主の友人というのは、リュッカにとっても良いことのようだ。


「ところでリリィ、フェルサちゃんとテテュラちゃんは?」


「フェルサはどこか用事だって。テテュラはパス」


「確かにテテュラちゃん、部屋で勉強するって言ってたね」


 同室のリュッカが複雑な笑みを浮かべる。


 本来と違うことをしてはいるが、別に悪いことをしている訳ではないので、何とも言えない様子を見せる。


 そんな女子達で和気藹々(わきあいあい)としている中、男子達は遠巻きに見ては話をしている。


「まさかあのリリアちゃんとアイシアちゃんに会えるなんて。俺、ソフィスさんとペアで良かった」


「はは……僕もまたこうしてオルヴェールさんと一緒になるなんて思わなかったよ」


 ユーディルはシドニエを指差して、羨ましそうに妬む。


「しかしお前もやるよな。精神型なのに騎士科に行って、あんな美少女とペアだぜ。よく考えたな」


「あ、いえ、僕はそんなつもりじゃ……」


「まあ確かに、彼女がいないってのも寂しいからな。貴族みたいに婚約者(フィアンセ)がいる訳でもないし。……ロバックもそう思うだろ?」


 シドニエは小さな声だったせいか、否定の声は届かず、ユーディルは薔薇色の学校生活が望ましいと訴える。


「まあそうだけど、僕にはまだ――」


「甘ーーーーいっ!! 甘いね!」


 こちらに響くほどの声で叫ぶ。俺達はふと見るが、楽しそうに話しているのを見る限り、問題が起きた訳ではないと、談笑に戻った。


「お前ら二人共、これはチャンスだ」


「チャンス……?」


「そうだよ。今こうやって一緒に行動してるんだ、お互いが知ろうと思うことで距離が少しずつ縮む……親密な関係を築くには持ってこいのイベントだろうがっ!!」


 ユーディルはどうやらお偉いさんへのアピールや学校行事の意欲より、可愛い()ちゃんとお付き合いできるかもということを優先している人間らしい。


 実に素直な性格である。


 それを聞いた二人は女子達のグループを見ると、少し頬を赤らめた。


「まあ……ちょっとは期待してるけど……」


「ない! ないですよ!」


「俺はこのチャンスをモノにするぜっ!」


 雑談しながら歩き、目的の場所へ到着。


「ねぇ、この辺にしようか?」


 俺がちょっと距離の空いた男子達に呼びかける。


 すると、ユーディルは赤面し、背筋を伸ばしてピキっと固まった状態で片言の返事をする。


「オ、オウ、イインジャナイデショウカ?」


「どしたの?」


「はは……どうしたんだろうね」


 この時のロバックとシドニエはおそらく同じ考えを持ったことだろう。


(口だけだなぁ、これは付き合うとか無理だね)


 無言で目を逸らしていた。


「よし! それじゃあ特訓を開始しよう。ここなら単体の魔物くらいしかいないし、持ってこいだよね」


「でもリリィ、何でここ? 森に入って特訓した方が良くない?」


「それもそうだけど、パラディオン・デュオは二対二の対人戦。森での戦い方とは異なるからね。より実戦に近い形の方がいいと思って……」


 男子陣はおお〜と感心する。


「なるほど、それにこれは特訓だから、実力を見るにも最適ってことですか?」


「うん。そうだね」


「よし! それなら始めよう。……と言っても私は見学だけど……」


 アイシアは一人だけしょんぼりとする。今日も殿下はご用事とのこと。


 とはいえ一人でいるのも、テテュラみたいに勉強しているのも嫌ということでここにいる。


 ――各々、ちょっと距離を離しつつ、魔物と対峙する。


 この付近で見かけるのはグレートボア。簡単に言ってしまえば巨大猪だ。


 向こうでは、あれの四分の一サイズの奴でも襲われたなんてニュースをよく耳にしたものだ。


 だが、異世界ではそれがない。剣と魔法の世界は伊達ではないのだろう。


 その巨大猪を前にシドニエは果敢に剣を構えるが、その足は少々震えている。


 その表情を見る辺り、恐怖に身を(すく)めている様子ではないようだ。


「シドニエ、貴方の実力を見せて。フォローはするから」


「は、はい!」


 声も特に恐怖を感じるような声ではない。何故震えているのか、違和感が残る。


 そんなことをお構いなしにグレートボアは交戦の意思を確認したのか、荒く鼻息を鳴らし、


「ブオオッ!!」


 興奮している。


 突進してきた。


「来るよ! (かわ)して!」


 シドニエはグレートボアから視線を外すことはない。(かわ)すタイミングを見極めているようだ。


 悪くない対応にちょっと驚く。


 シドニエは騎士科の最下位と聞いている。恐怖心もあまりなく、この判断能力は最下位のものとは思えない。


 俺はその様子を見て――なるほど、見極めとかは全然悪くないのかな? 問題は精神型による魔力の練りの足りなさからくる攻撃力かな。


 シドニエは剣を斜め下に下ろしながら、目を逸らさずに躱そうとするが、その動きが遅い。


 相手の動きに目を配りながらの回避はいいが、瞬発力がない。


 シドニエも焦っている表情をしている。


 このままでは動きが間に合わず、突進を受けることになると判断した。


「くっ! ――シャドー・エッジ!」


「ピギィーーッ!?」


 黒い影がグレートボアの腹を貫通。グレートボアはすぐに息絶えた。


 シドニエは剣をそのまま地面に着けると、はあと残念そうなため息をついた。


「大丈夫?」


「ああ……はい、大丈夫です。すみません」


「ちょっと貸して」


 俺はすぐ様、原因と思われる剣をよこすように言う。


 シドニエはそれに応じて渡してくる。


 その剣を握ると、やはりズッシリと身体を持っていかれるような重さを感じた。


 何時ぞやの好奇心のままに剣を手に取ったあの感覚と同じだ。


「ねぇ、武器が合ってないんじゃない?」


 俺はシドニエにそう指摘する。シドニエは剣を振るのがやっとと言っていたのを思い出す。


 シドニエ自身の頭の中ではおそらく、こう動けば回避できて、斬り込めるという考えはあったと思う。


 だが、今の動きを見る辺り、その考えに身体がついていってないようだ。


 自分の身を守る、自分の為に戦う武器が枷になっているようでは、話にならない。


「でも、これが一般的だって……」


 見る限り、リュッカやソフィスが使っているような片手剣ロングソード。


 おそらく店の店員は、剣を買いに来る新入生さんだ、ある程度は扱えていることを前提に薦めたはずだ。


 だがシドニエは精神型である。肉体型が使う一般的な片手剣が合う訳がない。


 そこの説明をしなかったシドニエが悪い。


 俺は呆れるようなため息をつく。


「ちゃんとその薦めてくれた店員か友人かに、事情を説明した?」


「あっ!」


「……あのね、自分に合う物じゃないとダメだよ」


 正直、この辺は人のことは言えないのだが、向こうにいた頃は基本母親任せだったし、こちらに来てからは勝手がわからないと店員任せにしてるし、たまに生理的に受け付けられない物も薦められるが。


 あっ、服の話ですよ。


 だが武器に関してはもっと慎重に選ぶべきとも考えるのだが、噛み癖やちょっと雰囲気的にもぼーっとしているシドニエはその辺、抜けていたのだろうか。


 とりあえず武器が合わないのであれば、これ以上は危険と判断できる。


 早めに気付いて良かった。


「今日はとりあえず他の人達の実戦を見よ。装備に関しては今度の休みの日にでも見に行こう」


「えっ!? あ、は、はひ……」


 シドニエは一気に顔を真っ赤にして噛んで返事をした。


 俺は何を緊張したのかわからず、不思議そうにしたが、後に気付くことになる。


「――うわああーーっ!!」


 何やら唯ならぬ叫び声が聞こえた。


 俺とシドニエはその叫び声の方を向くと、グレートボアほどの大きさの山なりの身体があった。


 だが、その身体はグレートボアのような赤黒い毛の色はしておらず、まるで草原のような毛並みと色合いをした姿が遠く見えた。

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