10 魔力回路
「じゃあエルギットさんの魔力回路を調整をして、魔法を使えるようにしてたんだ」
「ルイスでいいよ」
「じゃあ私もリリアでいいよ」
何だか女の子っぽいやり取りをする俺。
先程思っていたことを一部撤回、染まってきたわ、やっぱり。
演習場にある休憩室でお互いの事情を話し合うことにする。
「彼女は光属性持ちなんですけど、どうにも魔法自体が使えないようで……」
そういえば、一人だけ光属性がいるなんて噂があったな。
魔法が使えていなかったから目撃しておらず、あくまで噂程度止まりなったのだろう。
「そうなんだ……」
「……みたいなんだよねぇ。初期魔法すら使えなくて、先生にも相談したんだけど、難しいらしくて……」
彼女はこちらに気を使ってか、明るく話す。
「でも光属性の人がいるなんて。殿下だけかと思ってたけど……」
「彼女の場合は身体と魔力回路の作りのバランスが悪かったみたいでね。メルリアを使って、先ずは魔力の流れを見つつ、集中力を養っていたんだ」
何でもルイスのようなケースは光属性や闇属性の、特に精神型にはよくある話らしい。
強力な属性の魔力を保有できる代償と言ってもいいかもしれない。
だからアルビオがルイスにとった方法は、身体は変えようがない為、魔力回路に魔力を循環させて、問題点を把握し、魔力を流す量や質などで魔力回路を身体に合わせて調整するという。
例えるなら水路を作る感じと思って貰えれば、わかりやすいかもしれない。
水をしっかりと流せるように調整するということだ。
「だから、水の精霊だったんだ」
「それで皆さんはどうしたんですか?」
「うーんとね、実は……」
アルビオも授業中にある程度、耳にしているだろうし、シドニエについて説明した。
「やっぱりその問題ですよね」
「はい……」
「知ってたんだ」
「そうだね。でもそればっかりは精霊の力でも無理だよ」
「そうなんだ」
「そもそも体内魔力の問題だからね、肉体型と精神型の魔力回路の作りも違うし、もう感覚の問題なんだよ」
――そもそもの話をされた。
肉体型と精神型の魔力回路の使い方が違う。
肉体型の場合は、魔力を全身に行き渡るようになる回路。
精神型の場合は、全身にある回路を魔力が通過し、体内魔力に集約すること。
身体の構造が性別や人種などで違うように、そもそも体内魔力の種類も似てはいるが、別モノなのである。
それを無理やり変えるのには、やはり代償が必要である。
最悪、魔力回路を弄るのは、魔法が使えなくなるまであるという。
「――詳しいね」
「まあ殿下と勉強してたら、まあね」
教育してくれた先生が雑談程度に話してくれたそう。
「つまりウィルクの場合、その回路を無理やり肉体型っぽい使い方をしたせいで、魔法の発動が困難になったってこと?」
「そうらしいね。治癒魔法の習得も本来より数倍時間をかけたとか聞いてるよ」
そりゃあ説明書にない使い方をすれば、エラーも起こすって訳ね。
それを聞いたシドニエ達は、落ち込んだ表情で沈黙する。
「で、でも精神型でも最低限の近接戦闘、肉体強化は出来るんだし、それにもしかしたら目覚めていない何かがあるかも……」
その様子を見たアルビオはあたふたしながら、ちょっと適当なフォローをした。
「目覚めていない何かって……」
「アルビオさん……」
「いや、実際そういう人もいるらしいよ。肉体型なのに魔法が使える人、精神型なのに肉体型と同じくらいの戦闘ができる人」
俺はアルビオの戦闘を思い出す。
「……それ自分じゃない?」
「ま、まあそうなんだけど、そうじゃなくて……」
「そもそもアルビオさんは肉体型? 精神型?」
その質問にアルビオはどう言えばいいかわからず、頭を悩ます。
「えっと、殿下達に言われたのが、アンノウンだって話です」
「不明……」
「はい。どちらでもあって、どちらでもない。そんな曖昧な感じだそうで……」
ユニファーニが自分の髪をわしわしさせる。
「ああーーっ!! 難しい話は止めよう! とにかく、シドには近接戦は無理ってことだよね?」
「まあそうですね。お力になれず申し訳ない」
「い、いえ! タナカさんが謝ることじゃありません。僕が無茶なことを言っているのが悪いんです」
シドニエのこの諦めきれないような表情を見るに、色々試してはいるのだろう。だが、成果を見なかった、すがる希望もない。
「諦めた方がいいんじゃない?」
「ユファ……」
ユニファーニはポツリと簡単にその言葉を口にした。それを言っちゃダメとポツリとミルアも呟く。
いつから幼馴染かは知らないが、あの様子を見るに長い付き合いなのだろう。
きっと夢を語る彼も見ていた筈だ。その彼の瞳はきっと夢に焦がれ輝いていたものではなかったのだろうか。
俺は特に夢を持たずに生きてきたから、一朝一夕にシドニエの気持ちをわかるとは言えない。
でも、憧れはそんな簡単に捨てられるものではないのではないかと考える。
例え、諦めることが簡単であっても……、
「僕、もっと色々探してみます」
「シド、リリアちゃんに――」
「迷惑じゃないよ」
ユニファーニの言葉を予想して返す。
こんな世界に来たんだ、主人公になろうと足掻く少年、そんな物語は向こうでごまんと見てきた。
だが、体感することなんてないだろう。
親切心もある、でも好奇心の方が強いだろうか、彼がどう変わっていくのか、寄り添える立場だからこそ見てみたい。
「だって、パートナーだから……」
まだ一日目だけど、これから数ヶ月、大会が終わっても友人という関係は続くと思うから頑張りたい。
俺自身も何かに努力したり、考えたりすることがあまりなかった。こんなどこにでもいる男子高校生から、ちょっとでも変われるなら。
ニコッと微笑むと、ユニファーニが何やらシドニエに耳打ちする。
「これ、ワンチャンあるかも」
「――えっ!?」
俺はシドニエが驚いた反応を不思議そうに見ていると、シドニエは赤面していく。
「どしたの?」
「へっ!? あ、ううんっ!! な、にゃんでもないっ!!」
あ……また噛んだ。
「その噛み癖なんとかならないの」
「まったくだよ」
噛み癖を知っている二人は楽しそうにそう話す。
その光景を見た俺は、
「焦る気持ちもわかるよ」
自分が至らないばかりに迷惑をかけ続けることは怖い。
「けどさ、こんなに一緒にいてくれる人達がいるんだ、じっくり考えよう」
こんなにも色んな意見を言ってくれる人達が周りに溢れているのだから、幸せなことだ。
「私自身――目指せっ! 予選突破とか、打倒っ! 貴族校とか、取るぞっ! 優勝っ! ……なんて考えてないしさ。それとも目指してる?」
そう聞かれると、シドニエはちょっと困ったように、でも嬉しそうに笑顔で答えた。
「いえ、僕も特には……」
「だったら少しずつ課題をクリアしてこ、ね」
「はい!」
シドニエは少しスッキリした表情を見せた。




