09 人の繋がり方
俺達はアルビオが特訓しているであろう、演習場へと向かった。
基本的に複数ある演習場は自由に使用が可能。デメリットは同じ演習場を利用しているペアに戦力がバレることくらいだろうか。
「でも、タナカさんとなんて、緊張するな」
「人見知りするタイプ?」
「そんなことはないけど、いきなりこんな凄い人達と話をするなんて思わなくて――」
「あれ? シド?」
演習場へ向かう途中でミルアとユニファーニと遭遇。親しげな物言いから尋ねる。
「ん? 知り合い?」
「んー……幼馴染だよ」
「そうなんだ」
ミルアは幼馴染が俺と一緒にいるところを見て、ふと察した。
「……そっか、シド君はリリアちゃんとだっけ?」
「うん、そうなんだ。今からタナカさんに会いに行くんだけど……」
「えっ? 何で?」
幼馴染なら知っているだろうし、事情を説明する――。
「そっかそっか。確かにアルビオ君なら、何か方法を知ってるかも……。ねえ、あたし達もついてっていいかな?」
「それはいいけど、二人もパートナーがいるんじゃないの?」
自由時間とはいえ、本来なら実戦授業の時間である。
テテュラ達でもあるまいしとも思ったが、そうなのだろうか。
「あたし達のパートナーは貴族でね。剣の稽古に時間かけたいからだってさ。要するには別行動、別にいいけど……」
要するには個々で実力をつけた後、夏季休暇中にでも合わせるのだろうか。
「そうなんだ」
「一緒に行動しろとは言われてないしね」
「まあ、確かに……」
ユニファーニは幼馴染だと証明するかのように、気軽にシドニエに近づき、肩を組む。
「まあ、でもシドの場合は仕方ないよねぇ〜、仕方ないよねぇ〜」
茶化すようにニヤニヤしながら、意味深に弄ってくる。
「な、何……?」
「いやぁ、騎士を目指すなんて言ったから、こんな……」
俺をちらっと、横目に見る。
「可愛い娘と一緒にデートが出来る訳だからねぇ」
「――っ!! デ、デートじゃないよ!!」
赤面しながら強く否定する。
「あっははは! 照れちゃって。可愛いっ!!」
こんな風に弄られてきたのかなぁと見せつけられた。
俺との接し方とは違うあたり、彼女達の言う通り、幼馴染なのだろう。
まあ俺達もこんな感じな気がするが、
「じゃあとりあえず一緒に行こうか」
一緒に行くと言ってしまえば、これ以上の茶化しようもないだろうし、シドニエには気がないというのも伝わるだろう。
気軽にそう言うと、思ってた通りの反応をする二人。
「そ、そうだね……」
ちょっと残念そうなシドニエ。
「本当に気がないみたいだね」
男として見られていないんだねと同情するユニファーニ。
「はは……」
それを見て、苦笑いを浮かべるミルア。
アルビオが使っている演習場へと向かった。
その演習場には、ちょっと女の子達の人だかりができていた。演習場の中の人物を見学しているようだ。
だが、中には他校の制服も混じっている。女子のみならず男子まで。
何事かと人混みをかき分け演習場に入る。
「おお……」
水のように透き通り、太陽の光が反射して煌めくような、乙女の姿があった。
その乙女は一人の魔法使いを見守るような優しい眼差しを向けている。
その側にはアルビオの姿があった。
シドニエ達も、その麗しい姿に見惚れている中、俺は構わず声をかける。
「おーい、アルビオ」
俺がちょっと遠くから呼びかけると、気付いたようで、こちらを見る。
「あれ? リリアさん」
アルビオに近付く俺を見て、シドニエ達も周りを気にしながらも後に続く。
「どうかしたんですか?」
「用事があって来たんだけど、何してるの?」
「ああ、彼女の魔力回路の調整ですかね?」
上手く言い表せないようで、屈んで何かに集中している彼女を見ながら少し言い淀む。
淡いピンクの髪色がフードから隠れ出ている。かなり小柄な女の子のようだ。
おそらくはアルビオのパートナーだろう。俺、他のパートナーとか聞いてなかった。
その彼女は気配を感じたのか、ふと顔を上げる。
「……」
「……?」
パチクリと透き通るような菫色の瞳でこちらをジッと見ると……。
「――ひゃああああーーっ!? オルヴェールさん!?」
「おおっ!! おおっ!?」
急に大きな声で驚かれたので、こちらも変な驚き方になった。
「えっ!? 何? えっ? えっ?」
落ち着かない様子で驚き続ける。
俺、そんなに有名人かな?
「落ち着いて下さい、エルギットさん。リリアさん、驚かれてますから……」
落ち着いたテンポで深呼吸すると、失礼しましたと小柄な身体を丸めてお辞儀をした。
「ごめんなさいオルヴェールさん、見苦しいところを見せちゃって……」
「いや、別に大丈夫だけど……」
「初めまして。私の名前はルイス・エルギットって言います。よろしくっ!」
ニコッと白いフードの中から、明るい表情が窺える。
「やっぱりルイスちゃんか」
「ルイスちゃんがアルビオ君の?」
「パートナーですっ!」
むふっとドヤ顔。何故に?
リリアより小柄なこととショートのピンク髪のせいか、可愛いらしく見える。
「随分と可愛いらしいパートナーだね、アルビオ」
「はは……そうだね」
アルビオの性格上、この元気そうな性格の彼女に引っ張られそうな感じだが、アルビオと組んでいるということは、魔法科としての成績が最下位ということになる。
ミルア達が知っているということは、俺とは別のクラスということだろう。
「それにしてもさすがアルビオさんですね。オルヴェールさんと仲良しなようで……」
「まあ色々あったからね」
まあ一緒に迷宮へ行き、友人を救出した仲だからね……そりゃあ仲良くもなるよ。
「でもオルヴェールさんに会えるなんて光栄です」
「私、そんなに有名人?」
「そりゃあもうっ!!」
ルイスはその小さな身体から大きく腕を広げて、俺が有名なのをアピール。
「まあ双属性で……」
「闇属性持ちの……」
「この歳で最上級魔法が使えて、勇者が封印した悪魔を召喚……」
「ダンジョンマスターの討伐に貢献して……」
「挙句、絶世の美少女っ!!」
俺以外の面々が目立つ要因を一つずつ挙げた。
「あ、あはは……」
「有名人だという自覚持った方がいいですよ」
そう言われてみれば、殿下にも言われたような気がする。
しかし、その自覚は慢心を生みそうでなんとも。
それに俺はまだ、リリアの身体を借り入れているという感覚、薄れつつあるものの、まだある感じだ。
自分が自分でないが為にそう思ってしまうのか、それともまだ割り切れていないのか。
ここへは強制的に来たのだ、未練はたらたらある。
アルビオの実家を見た影響も少なからずあるのだ。
向こうの転生モノの主人公達は、どうしてあんなにも簡単に割り切れるのだろうか。
勿論、創造した物語だから、面白くする為にとはわかる。だがしかし、たかが二ヶ月ちょっとで割り切れるものだろうか。
住めば都ということわざがある通り、俺もこの世界へ来て、良いことばかりではなかったが、友人にも恵まれて歩めている。
このまま流されれば、きっとこんな複雑な気持ちも消えていくのだろうか。
「……うん、気をつけるよ」
その気持ちを軽く引っ掛けたまま、表情には出さずに答えた。
「アルビオ様」
澄み切った綺麗な声で呼びかける声が聞こえた。
「彼女の特訓というのは良いのですか?」
ふと声がした方を見上げる。
宙に浮いた、おそらくは精霊と思しき乙女が話しかけてくる。
「ああ、ごめんメルリア。少し休憩にしようと思うから……」
「わかりました。では……」
メルリアというその乙女は、すうっと消えていった。
「あの今のは?」
「僕が契約している水の精霊だよ。名前はメルリア」
ここにきて、二体目の精霊をお目にかけた。




